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HAPPY END BRAVER?

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───こいつ、友達いねーな、絶対。



運よく誰にも襲われる事無く、ホグワーツ魔法魔術学校で朝を迎えて。
乃亜からの二度目の放送を聞いた俺は、そう思った。
今回も一度聞いただけで根性がねじ曲がってるのが分かる放送だった。
あんまり言いたくはないけど、こんな奴に命を握られているのだと思うと泣けてくる。


嫌な予感が当たっちまった。


思い浮かぶのは夜が明ける前に出会った女の子。
絶対にこんなゲーム壊して帰るんだって笑ってた女の子。
俺にあっけなく負けて、ククリと同じくらいの小さい肩を震わせていた女の子。
そして、ついさっき乃亜に死んだ人間として呼ばれた女の子。
条河麻耶の名前を思い出しながら、俺はマヤが得意げに握っていた剣を見て呟いた。
見つけたのは、偶然だった。
ホグワーツに着いてすぐ、入り口の辺りにそれは突き刺さっていて。
その柄に付いた血を見てまさか、と思ったそのすぐ後の事だった。
乃亜の放送から、マヤの死を伝えられたのは。


「…かわいい子だったな」


しょーじき、マヤと過ごした時間はほんとに少しで。
俺があの子について知ってることは殆ど無いけど。
それでも、こんな場所で死んでいい子じゃなかった。
それだけは確かだ。
あの時、ホグワーツに行くことを優先しないで。
俺達も一緒に居たら、マヤは死なずに済んだのかな。
雄二の奴は無事なのかな。
マヤを殺したの、クロじゃねーだろうな……
色んな考え…大体ろくでもないのが、頭の中で浮かんでは消えた。


「ま……ククリやジュジュが此処にいないのは唯一いい話か」


後ろ向きになっててもしょうがない。
溜息を吐きながら、乃亜の奴が用意した情報の中で唯一良い情報に考えを移す。
放送の後見た名簿に、ククリやジュジュ、トマの名前は無かった。
あと、当たり前だけどキタキタ親父も。
つまり、この島に知り合いは連れてこられてないってこと。
それは間違いなくいい話だった。
おじゃる丸も、知り合いはいないらしい。
水銀燈の奴は雪華綺晶という欲しがりで、性悪な末っ子が来ていると言ってた。
何でも話では姉妹の物なら何でも欲しがる壊れたジャンクってことらしいけど。
ぶっちゃけ、水銀燈の姉妹ならそう悪い奴じゃなさそうなんだよな。
取り合えず、姉妹喧嘩に巻き込まれたくないので、妹なら仲良くしとけよと言っといた。
水銀燈は生返事で「あの末妹が此処にいるなら…」だとか、「めぐは今……」だとかチャンスと焦りが混ざった様な顔で暫く考えこんでしまった。


「この学校も無駄に広いしなぁ……案内も無しじゃ
クロの身体何とかしてやる方法見つけるのは一体いつになる事やら」
『もう放っとけよ、何なら俺がそのクロって奴叩き切って───』
「お前は黙っときなさいね」
『チッ』


隙あらば他の参加者を斬りたくて仕方ないアヌビスを一言で黙らせる。
こいつもこいつで名簿を覗いてから何か考え込んでいる様子だった。
まぁどうせろくでもない事なんだろうが。

ともあれ、乃亜のいうマーダーってのに襲われる事が無かったのは良かったけど。
代わりに収穫も何一つなかった。
グチグチ我儘を言い続けるおじゃるを宥めすかして、やっと辿り着いたホグワーツ。
でもそこは学校と言うより最早でっかい城だった。魔王城って言っても信じるぞ。
道案内の看板もろくに無く、闇雲に歩き回っても都合よくクロの問題が解決するような話はなーんも転がってなくて。
当然、この殺し合いをどうにかする方法も見当もつかない状態で今に至る。
収穫があったとすれば────


「なぁ中島、お前は知り合いいた?」
「うん、僕の知り合いは磯野カツオって男子だよ。
見た目は普通なんだけど、すっごく悪い奴で。とてもじゃないけど信用できない」


ナカジマっていう奴に出会った事くらいか。
眼鏡をかけてトマに負けず劣らずモブっぽいナカジマは、殺し合いには乗ってないって話だった。
ただ、俺達に出会うまでに相当危ない奴らに出会ったらしい。
二人組で殺し合いに乗ってるらしい永沢って奴に、鬼舞辻無惨って人食い鬼の怪物。
水銀燈は人形だしどんな人選だよ、乃亜はどういう基準で参加者を選びやがったんだ?
俺にはさっぱり分からないし、ナカジマに振ってみても肩を竦めるだけだった。
まぁ今はそんなことどーでもいいか……
取り合えずナカジマはこれからどうするか。
それを尋ねようと思って、俺はナカジマの方に向き直ろうとした。



丁度、振り返ったその時に。
鞄から何かを取り出そうとするナカジマの姿と。
その背後で竹刀を振り被る、おじゃる丸の姿が見えた。





「おじゃっ」



彼奴がナカジマに竹刀で突っつくと同時に。
ぽんっと音が鳴って。
ナカジマの姿が豚へと変わる。
一体全体何が起きてるのか分からなかったが、緊急事態ってことは分かった。
豚ジマの足元に、あいつのランドセルとクソでかい鉄の塊みたいな剣が転がったからだ。
剣とナカジマの変貌に呆気にとられる俺に、水銀燈が叫んだ。


「ニケ!逃げなさい!!」


何から逃げるのか、って聞く必要はなかった。
豚に変わったナカジマの目は、一目見てヤバいって分かったからだ。
殺す。彼奴の目から感じ取れるのは、その一言だった。



───ったくよォ!やってくれるぜっ!



無我夢中で、手の中のアヌビスを引き抜く。
おじゃるを背負ってなかったのは、不幸中の幸いだか。
でもそれを喜ぶ暇も無い。
俺が突っ込んできたナカジマに吹っ飛ばされたのは、そのすぐ後の事だったからだ。








おじゃる丸がその時こぶたのしないを魔神王に使用したのは、偶然だった。
彼が魔神王の眼中にない、空気中の塵同然の認識を受けていなければ。
乃亜の気まぐれによってこぶたのしないの強制力が、異様な強化を施されていなければ。
先ず起こりえない状況が、ここに展開されていた。
おじゃる丸が子豚の竹刀の被検体魔神王を選んだ理由は、特にない。
ただ、時に子供は侮っていもいい、舐めてもいい相手を見分けるのは非常に嗅覚が効く。
中島の如何にも冴えない風体を見て、まぁこいつなら手頃だろう。
そんな悪戯盛りの子供らしい考えで犯行に及び。
その結果、「豚マン」を生むこととなったのだった。



乃亜から通達された二回目の放送は、魔神王にも俄かに衝撃を与える者だった。
あのまま戦っていれば自分が勝負を制していたのは無論のこと。
しかして曲がりなりにも自分と殺し合いが成立していた、吸血鬼(ナイトウォーカー)。
不死王アーカードの名前が死者として告げられた。
それは詰まるところ自分に迫る不死性を誇るアーカードが討伐された、という事であり。
あの吸血鬼を殺し切る参加者がこの地にいるという事であった。
アーカードの存在に最早興味はない。
自分と雌雄を決する前に不様に討たれた敗残者でしかないのだから。
だがあの不死性と実力を誇ったアーカードを殺しうる手段や参加者が此処にいるなら警戒しない理由はない。
アーカード以降であった参加者は鬼舞辻無惨を除き、自分にとって取るに足らない相手ばかりだったが、これからもそうとは限らない。
そう認識を検めた矢先、彼が出会ったのがニケと言う名の“勇者”だった。



────この男。



絶対に、間違いなく、確信を以て言える。弱い、と。
智謀という視点から見ても秀でているとは思えない。
むしろ頭の中に馬糞でも詰まっていいそうな手合いだ。
この男に自分が遅れを取る事など絶対にない。断言してもいい。
にも拘らず……魂が、一度、違和感にも似た警鐘を鳴らした。
魔王と勇者の邂逅は、魔王にのみほんの僅かな影響を与えていたのだ。
その影響が、魔神王に敵を探る時間を与えた。
どうせその気になれば即座に三人纏めて殺せる相手なのだ。
ニケは勿論のこと、水銀燈という人形型の魔法像(ゴーレム)も問題にならない。
おじゃる丸とかいう子供など蛆虫に等しい。考慮にも値しない。
であれば、情報を幾らか引き出してから殺害しても遅くはない。
そう考え、僅かな交流に臨んだ。
中島の記憶から得た情報を用いれば人間の子供のフリをする事など造作もない。
リィーナ姫を騙り、国全てを欺いた経験すら、自身にはあるのだから。



────殺すか。



慎重策を取り探ってみたが、やはり邪神に等しい力を有する魔神王が危惧するものは何も見られなかった。
見た通りの凡愚。であれば殺すことに微塵の躊躇もない。
そう結論付けながらドラゴン殺しをデイパックから引き抜こうとして───
背後から豚にしようと密かに迫る、おじゃる丸の竹刀を見逃した。
取るに足らない、と評していても。
その実無意識のうちに魔王は、勇者の挙動を注視してしまっていたのかもしれなかった。








『ニケや……起きなさい……ニケや……』
『今、貴方にゴイスーなデンジャーが迫っているの……ニケ……』


聞き覚えのある声に、目を醒ます。
声のした方に顔を向けてみれば、そこにいたのはやっぱり知った顔だった。
知りすぎた顔だった。
羽の生えた親父、お袋が目の前でふよふよと漂ってた。
というか、親父たちがいるって事は、俺は死んじまったのか?


『勝手に殺すな。死ぬとすればお前だけだ』


それが実の息子にかける言葉か?
まぁ親父たちが何故かいるのは、何時もの事(グルグルげきじょー)だし、
聞いてもどうせまともな答えが返って来るとは思えない。
でも、親父たちの言う通り、今俺達がピンチだって言うのは分かる。
だから、そーゆーピンチを跳ねのけられる何か都合のいい力俺持ってないの?
二人に対して出たのは、そんな言葉だった。


『そんなものは……ない!』



だよね。知ってた。



『ニケ、前にも言った通り……お前は凡!人!なんだ!!!』
『そうよニケ!貴方は頑張ってるけどまごう事無き凡人!
そんな貴方にピンチの時覚醒する都合のいい力なんて存在しないわ!!』
『『おぉ凡人勇者ニ~ケ~~!!!』』



この人達、息子褒めるセンス致命的に無いな。


『だが安心しろニケ…時代はお前に追いついている』


親父が無駄に自信満々に意味不明な事を言う。
二人がわけ分かんねーのは何時ものことだけど、今はそんな場合じゃないってのに。
露骨に不満そうな顔をしてやるが、二人は気にせずそのまま話を続ける。


『ニケ、今の勇者にはね、“”チート“”と言う物があるの。
今迄定職に就いた事のないダメダメな子でも、世界を救える英雄になれる!』
『そうだ!昨今のトレンドはチートだ!!ニケ!!
神様から与えられた力で問題をスパッと解決でモテモテ!これぞ現代の勇者!!』


………!!
すげェ……!それって最高じゃん。修行とかもしなくていいんだろ?
というか、してる暇なんてないし。
正に俺向き、この二人も偶には役に立つ情報を教えてくれるなぁ。
で、そんな都合のいい神様とやらにはどうやったら会えんの?



『それはな、死ぬことだ』
『死んで転生したらそういう神様からお呼びがかかるわよ、きっと』



───却下。やっぱこの二人ダメだ。
死んでから能力くれてどーすんだよ!
生きてる時に助けて欲しいんだよ俺は!!



『あぁッ!ま、待てニケ!!どうしてもと言うなら同行者の支給品を確認するんだ!』
『そうよニケ、凡人でも諦めちゃだめよ!!』


びっくりするくらい役に立たない。
何しに出てきたんだこの二人は。
呆れている間に、夢から醒める様な感覚が体を突き抜けてくる。


『……っ!そろそろ時間らしいな。生き抜けよニケ!ククリちゃんも待ってる!』
『そうよニケ!どれだけ弱っちくても、だらしなくても、ギャグキャラでも、
それでも、貴方は勇者なんだから!!』



ったく。
分かってるよ、そんなこと。
次に会う時は、もっとマシな話をしてくれよ。父さん、母さん。
それじゃ、行ってきます。






ギィン、と鉄がぶつかり合う音で俺は目を醒ました。
次に意識するのは、剣を握ってる感覚と、額から感じる熱。
勿論めちゃくちゃ痛い。触ってみると血が滲んでいた。
痛みに泣きそうになってる俺に、今握ってる剣のアヌビス神が話しかけてくる。


『げッ、目を醒ましやがったか、クソガキ
そのままくたばってりゃ良かったのに』
「おう、お前のお陰で無事今迄死に損なったみたいだわ、サンキュー」


どうやらあらかじめ試してた細工が上手く行ったらしい。
契約の時、俺はわざとアヌビスが体を動かすこと自体にルールを決めなかった。
そうしなくても乃亜の制限のお陰で無理やり乗っ取られる心配はないし。
上手く使えば、さっきみたいな俺の意識が飛んでる時でも戦えるからだ。
何せこいつは、魔法の契約書のお陰で俺に協力しないといけないからな。
だから俺が殺されそうになったら、自動的に体を動かして防御せざる得ない、という訳だ。
何ならアヌビスが倒してくれてれば楽だったけど、まぁ甘くないよな。


「目を醒ましたのねぇ、三分くらい気を失ってたわよ貴方」


声のした方を目だけ動かして見れば、水銀燈がシリアスな雰囲気を出しながら、でも余裕は失わずに浮かんでいた。
勿論それには訳があったみたいだけど。


「あの豚さん、貴方とおじゃる君にご執心みたいねぇ。
どっちか殺されてる内にお暇しようと思ってたけど…ワンちゃんが中々粘って驚いたわぁ」
『フン!当たり前だ。このアヌビス様が豚なんぞにやられるかァ~~!!』


おじゃるは分かるけど、何で俺なんだよ。俺いきなりぶっ飛ばされたんだけど。
アヌビスは無駄に威勢はいいけど、お前俺の身体で人斬ろうとしてたの忘れてないからな。
キタキタ親父がマシに思えるオンボロ・パーティだった。


「それでねぇ、提案なんだけど……どうかしらぁ。
おじゃる丸君を煮るなり焼くなり好きにどうぞって差し出して、見逃して貰うのは」


とんでもない提案をしながら、ちらりと目線を動かす水銀燈。
釣られて其方を見てみれば、「お、おじゃ…」と不安そうに呟きながら元凶が此方を見ていた。
うん、名案だ。確かに俺もそれもアリかなーと思ってる。


「大丈夫だ、心配すんなって」
「ニ、ニケ……」


ガチで見捨てられると思っていたのか、それとも俺の血を見てビビったのか。
おじゃる丸は言葉を失ってるみたいだった。
普段からそれくらいの奥ゆかしさがあれば可愛げもあるもんだけどなぁ。
そう思いながら、俺はおじゃる丸に心配するなって言ってやった。
なぁに、ナカジマだってさっきまで普通に話してたんだ。話の通じない相手じゃない。
ここは勇者ニケの必殺技、華麗なDOGEZAで場を収めてやろう───、
そう思って、向かい合っていたナカジマの方を見る。


(あ、これ許してくれなさそう………)


今は目を醒ました俺を警戒しているのか、それとも豚の身体に慣れないのか、襲ってはこなかったけど。
もう目が、全身がぶっ殺す、そう言っているみたいだった。
よっぽど頭に来たらしい。ただ豚に変えられただけなのに……
いややっぱ殺されても文句言えないなこれ!
…って、うわぁあああああっ!?


「お前ーっ!いきなり何しやがる!!死んだらどーする!!」
『殺す気でやってるから当たり前だろ、バカか?』


猛スピードで突っ込んできたナカジマの体当たりが掠って、ごろごろと転がる。
咄嗟にアヌビスで受けたけど、とんでもない速さと力だ。
しかもこれ、多分慣れてない豚の身体でこの威力。
本来のナカジマの力で殴る蹴るされたらと思うとぞっとする。


「おっ!落ち着けよ!怒る気持ちも分かるけどさ!中々イカしてると思うよ、その姿!」


何とか宥めすかそうとしてもナカジマの奴は話を聞かない。
彼奴の蹄の攻撃を何とか躱して横に飛びのくと、さっきまで立っていた場所にでっかいクレーターができた。
あんなもん喰らったらグチャグチャのミンチになって夕方のスーパーでタイムセールにされちまう!




「無駄よ、多分豚にされたのを怒ってる訳じゃないもの」


俺が躱すのを見越してたのか、水銀燈が即座に切り込んで、クレーターの中央に立つナカジマにその手の剣を振るった。
その剣には見覚えがあった、マヤの持っていた剣だ。
水銀燈が振るのと同時に、雷が飛び出して、ナカジマを襲う。
それを見たナカジマは無表情のまま、後ろに十メートルは跳んで雷を躱す。
そして、また俺達と睨み合う形となる。


「銀ちゃんよ、どういう事だよ。じゃあ何でナカジマの奴は俺達襲ってんだよ」
「誰よ銀ちゃん。簡単よぉ、あいつは元々殺し合いに乗ってたって事。
それどころか、人間ですらなかったみたいねぇ」


マジか。
全然気づかなかった。


「私もさっきまで確証は持てなかったけどね。
だからできる事ならやり過ごしたかったけど……やってくれるわぁ、本当に」


やってくれたってのは、ほぼ間違いなくおじゃるの事だろう。
見捨てる気はないにせよ、やってくれたってのは本当にその通りだな。
全く、事あるごとに何かやらかさないといられないのかあいつは。
そんな事を考えている間にも、ナカジマは俺達を殺そうと迫って来る。


「マジで落ち着けって!あんなガキの言う事聞いて殺し合いとかどーかしてるって!!
あぁ言う奴は『だれにでもああ言う年ごろがあるもんね』とか、
『五年後位に思い出して枕に顔埋めて呻いてそうだね』とか聞き流すもんだろ!!」


俺の必死の説得にも耳を貸さず、豚ジマが突っ込んでくる。
さっきまで四足歩行だったのが今では二足歩行だ、進化してやがる……!
だけど俺もさっき不意をうたれた時とは違う。
アヌビスが体を動かしてくれているお陰で、ナカジマの速さにもついていける!



「───っ!わああああああっ!!!無理ぃいいいっ!!」



甘かった。
速さはアヌビスのお陰で互角かこっちの方が少し早くても、馬力が違い過ぎる。
多少早く打ち込んだ程度じゃ撃ち負ける。勝てる気がしねぇ。
かち合った衝撃で十メートル以上吹き飛ばされてようやく止まる。
水銀燈がすかさず電撃を放ってフォローしてくれるが、焼け石に水だ。


「おいアヌビス、お前ビームとか出せたりしないの?
できるなら何とかしてくれ。このままじゃ殺される」
『知らんな。俺にできるのは斬る事だけだ。ってかお前がパワー不足すぎるんだよ!!
まっ、お前がこのままくたばってくれれば、俺は晴れて自由の身って訳だ!ウケケーッ!』


こいつ、後で分解して粗大ごみに出してやる。
俺はそれを決意しながら、必死でナカジマに剣を振るう。
ロクでもない剣だが、今は手放すわけにはいかない。
アヌビスのお陰で俺が生きてるのは俺だって分かってるからだ。
もしアヌビスが無い状態でナカジマと出会っていたら、きっと戦いにすらならない。
そう、おじゃるの支給品のアヌビスが無ければ────


────どうしてもと言うなら、同行者の支給品を確認するんだ!!


そうだっ支給品!
ナカジマの奴は此処から穏便に事を収めくれなさそうだし、何とか撃退するしかない。
でも俺の支給品じゃこの状況をひっくり返せそうにないし、後はおじゃるを締め上げるしかない。
前にアヌビスを渡された時、あいつの視線が微妙に泳いでたのも忘れてない。



「水銀燈!おじゃるの奴締め上げてっ!何か持ってないか確認してくれっ!お願い!!
俺がっ!殺されるっ!前にっ!うおおおおおおおおッ!!
生まれも育ちもギャグ漫画の人間に無茶さすんじゃねーッ!!」



ヤバい。
二足歩行になってからナカジマの奴どんどん攻撃が早くなってる。
アヌビスもそれに合わせて早くなって、俺の身体じゃないみたいだ。
水銀燈も俺が殺されるのは旨くないと思っているのか、素直に頷いてくれた。
状況は依然俺にとてつもなく厳しくて嫌になるが、このまま粘るしかない。


「えぇいこうなりゃヤケだ。生姜焼きかトンカツに料理される覚悟でかかって───」


自分の気持ちを奮い立たせようと威勢のいいことを言おうとするけど、上手く行かない。
どんどんナカジマの姿が人間に戻っていってるからだ。中途半端豚になってるのは正直グロいしおっかない。
今からでも謝ったら許してくれないかな。
そう思いながら俺は必死にナカジマの攻撃を躱した。








「おじゃる丸くぅん、私が何を言いたいか分かるわね?」
「お、おじゃ……」


ニコニコと笑顔を浮かべる水銀燈と、対照的に戸惑いを浮かべたおじゃる丸。
ランドセルをかき抱いて、水銀燈から庇うようにおじゃるは姿勢を低くして言った。
水銀燈の言わんとしている事は分かる。自分にだって分かっているが、しかし……


「い、いかに銀ちゃんの頼みでも嫌でおじゃる。これはマロのものでおじゃる」
「そう、じゃあニケがこのまま死んでもいいって言うのね?」


水銀燈の態度は、冷淡だった。
いなす様だった先ほどまでの雰囲気とは違い、冷たい雰囲気を今の彼女は放っていた。
声を荒げてもいない、表情も眉根を寄せたりもしていない。
けれど今の彼女からはおじゃるは恐怖を感じた。


「元は貴方が蒔いた種よねぇ。
それを何とかするためにニケが命懸けで転げまわってるのよ?」
「し…しかし……マロは雅でかわゆいお子様で………」
「それが?今必死に戦ってるニケに何もしてあげないなら雅でも可愛くもないわ。
今はそういう時で、この島はそう言う場所なの。お馬鹿さんな貴方にも分かるでしょ?」


優し気な口調で、諭すように。
けれどその実反論を一切許さないといった様相で、水銀燈はおじゃる丸を詰める。
彼女からしてみれば、これ以上子供の駄駄に付き合っていられない。
平時ならニケや雄二たちの手前穏便に接する事もできた、だが今は瀬戸際だ。
ニケの利用価値はおじゃる丸よりは遥かに高く、天秤にかけるまでも無い。
これ以上駄駄をこねる様なら、殺してでもランドセルの支給品を回収する。
かつて薔薇乙女最凶を自称した彼女は、言葉にせずともその段階まで考えつつあった。



「う、うぅう……わ、分かったでおじゃる。
こ、これをニケに渡して着けさせてたも!!」



逼迫した事態である事は理解していたので、おじゃる丸も遂に折れた。
急いで自身の背負っているランドセルを降ろし、そこから一枚の仮面を取り出す。
そしてそれを水銀燈に手渡し、ニケに着けさせろと促し。
そのまま仮面を素早くひったくった水銀燈は、ニケに叫んだ。



「ニケ!使いなさい!!」








やばい、ホントに死ぬ。殺される。
豚になっても強いとか、もうこいつが優勝でいいだろ。
後の参加者は自由解散って事にしない?なぁ乃亜。


「がはっ、げほっ……あーっ!たく、帰りてー……」
『さっきから弱音ばっかりだなお前、そろそろ最期の言葉考えとくかァ?』
「るせー、ほっとけ。お前も無駄口ばかり叩いてないで少しは勇者様の武器の自覚持てよ」


アヌビスの軽口も今はムカついてる余裕がない。
全身土だらけの痣だらけだ。所々避けきれなくて血も滲んでいる。
アヌビスのお陰で何とか命を拾ってはいるが、それも限界が近い。
ナカジマの奴は未だに殺す気満々みたいだし、うーん、正に絶体絶命。


────ニケ、使いなさい!


そう言って俺とナカジマの上空から水銀燈は一枚の仮面を投げ渡してくる。
どうやら、運にはまだ見放されちゃいないらしい。
その事を感じながら、俺はナカジマの方を見た。
予想通り、素直に受け取らせちゃくれないらしい。
だけど───俺にもまだ彼奴に見せてない力がまだあったりするんだよな。


「風の剣!!」


俺の勇者っぽい力、その名も光魔法キラキラ。
いつもは出るかどうかすら怪しいクッソテキトーな魔法だが、今回は空気を読んだらしい。
フカーフ状だった剣が形を変え、ハリケーンよりも大きな暴風を作り出す。



「───ッ!?」



仮面へと注目した隙を突かれて、ナカジマの奴もこれには驚いた様子で俺と風の剣を見る。
だが、今更ビビった所でもう遅い!
作り出した暴風を叩きつけて、背丈は俺とそう変わらない豚マンを吹っ飛ばす。
そして、風の向きを調節して絡め取った仮面は、すとんと俺の手に収まった。


「ニケ!それを着けてたも!」


遠くからおじゃるが声を張り上げて仮面を付けるように伝えてくる。
手に取った瞬間分かった。これは魔法のアイテムだってな。
しかも、そこら辺の防具屋で買える代物じゃない。これまでの冒険の経験が言ってた。
このままじゃ殺される以上、着けない道は俺にはなかった。
視界の端で、ナカジマがまた俺を殺そうと突っ込んでくるのが見える。
だが、関係ない。深く息を吐いて───そして、右目を覆うその仮面を、俺は装着した。


「────っおおおおおおおおお!!!!」


ドン!!と。
ここで初めて、俺はナカジマの攻撃を受けた。
俺の体中の骨をバラバラにしようと突き進んでくる蹄の付いた奴の腕を受け止めた。
しかも、それだけじゃない。そのまま俺は声を張り上げて、押し返す!!
アヌビスのスピードと仮面から貰えるパワーがあれば、普段の俺なら絶対に無理な芸当もできたのだ。
まさか押し返されると思っていなかったんだろう。
ナカジマはモロに俺の反撃を受けて、数十メートルはごろごろと転がっていく。
いける。これなら勝てる。そう思った。



「ははっ、すげー!!おじゃる丸、ありがとな!!」



さっきまでどん底だった状況に光が見えてきた。
これなら何とかなるかもしれない。
そう思って、俺に希望をくれたおじゃる丸に感謝の言葉を投げかける。


「───うむ、当然でおじゃる」


当然だとでも言うように胸を張るおじゃるの姿はムカついたけど、今は帳消しだ。
いやむしろ、これまでの事は水に流してやってもいいとすら思える。
なんせ、こんな凄い仮面をくれたんだから。
やっぱ時代はチートだよチート!!




「あぁ、それとの、ニケ。その仮面はアクルカといってのう」


ん?


「着けた者は塩の塊になるらしいので、気を付けてたも」



───それ。
─────俺、死ぬじゃん。



「お前マジでふざけんなあああああ!!どう気をつけろってんだああああああ!!!」



俺は、魂の叫びをあげた。
くそっ!!しかもこれ取れねぇ!!
何でこいつは強くても呪いの品みたいな支給品しか渡してこねーんだ!!


「だからマロは嫌だと言ったのでおじゃる。マロのせいではないのう」
「私はただ渡しただけよ。着けたのはニケ、貴方だわぁ」


こ、こいつら……!全力で責任を俺に押し付けに来てやがる。
俺に味方はいないのか。


「チクショーめ!!」


半ばヤケになりながら再びナカジマの攻撃を剣で受け止める。
微塵も納得がいかないけど、この仮面が無ければ俺は多分ナカジマに殺される。
つまり、どの道着けなきゃ死んでたのだ。それに、今の所俺の身体のどこかが塩になる気配はない。
なら多分恐らくきっとメイビー大丈夫だと、無理やり自分を納得させる。
塩になり切る前にこのゲームをぶっ壊す。俺に残された選択肢はそれしかなかった。
ダメだったらおじゃると水銀燈の枕元に化けて出てやる。
幸いこの仮面を身に着けたお陰で、ナカジマとも互角の勝負ができてる。
今はまだ仮面の力に馴染んでいないのに、だ。
このまま押し切ってやる!


「だぁああああああッ!!!」


ナカジマの蹴りを躱して、全力の峰撃ちを叩き込む。
そーとー痛いだろうけど我慢してもらうぜ!
おじゃる丸は後で一緒にシメよう!
そう思いながら、勝負を決めにかかる───


「───ふ」


振り下ろされる刀を前にして。
ナカジマは嗤った。
その顔はもう豚じゃな無くて、黒髪の女の子の姿で。


「他愛ない」


ナカジマがそう呟くのと、殆ど同時に。
次の瞬間、俺の身体は凍り付いていた。








「行くわよ、早く」
「し、しかしニケが……」
「それじゃあ残る?私はそれでもいいわよ。殺されるでしょうけど」


黒髪の少女が作り出した大氷壁。
それを目の当たりにした瞬間、水銀燈は勇者の敗北を悟った。
アレはもう、使えない。僅か数秒でそう判断を下し。
撤退を、おじゃる丸に告げた。
おじゃる丸は逡巡を見せるが、凍り付いたニケの姿を見て竦んでしまう。
俯いた状態で凍らされたニケの表情は見えない。
彼はニケを即座に見捨てない程度の情はあったけれど。
逆に言えば、助けに行こうとする程の勇気も無かった。


「早くしなさい、待てる時間はもうないわ」


ナカジマだった何かは、まだニケに注視しているけれど。
死んだのを確信すれば今度は此方を殺そうとしてくるだろう。
故に時間はもう残されていない。
ここでぐずる様であれば、置いていく。水銀燈はそう決めていた。
彼女はナカジマとの戦闘になった時点で、ニケかおじゃる丸何方かを犠牲にする。
最悪の場合を想定し、その算段を立てていた。
何しろ、彼女は二人だけなら助かるための手段を持っていたからだ。


「…………ぎ、銀ちゃぁ~~ん、置いて行かないでたも~~」
(チッ、結局それか)


暫しの間沈黙して考えるような素振りを見せた後、
結局水銀燈の足元に縋りつきめそめそと泣き出すおじゃる丸。
彼は、命懸けでニケを助けに行くという選択肢は選べなかった。
本当ならばこいつよりもニケの方に生き残って欲しかったが仕方ない。
逃げた先での囮位にはなるだろう。ニケへの僅かばかりの義理もある。
役立たずの足手纏いを連れて行くことを許容し、逃走への準備へと移ろうとする。



────逃げられると、思うか。



凍り付いたニケの氷像を背にして。
黒髪の少女が嘲る様に笑う。
それを皮切りとして、彼女の足元から凄まじいスピードで世界が凍てついていく。
豚になっていた時は使えなかったのか使わなかったのか分からないが。
この凍結性能を披露していない時点で、彼女は実力の半分も見せていなかったのだ。



「───えぇ、逃げるわ。私はこんな場所でジャンクにはなってる暇はないの
それに、ふんぞり返る前に周りを見てみたらどうかしら?」



おじゃる丸の心胆を身体だけでなく心すら凍り付かせる少女の笑みですら。
黒薔薇を凍てつかせるには至らない。
嘲りを含んだ笑みに余裕を含ませた笑みで返して、誇り高く咲き誇る。
水銀燈の言葉を受けて、ナカジマは周囲を見渡した。
すると、あるべきものがない。自身のランドセルが無くなっていた。
バッ、と。視線を戻すと、人形型のゴーレムが二つ分のランドセルを背負っている。
そして、勝ち誇る様に笑みを浮かべると、ランドセルから取り出したエンブレムを掲げる。
それに伴い、彼女を中心として魔法陣が展開される。
その範囲には、おじゃる丸も含まれている。


「それじゃあ、さよなら────」


光が魔法陣から放出され、水銀燈たちを包み込まんとする。
水銀燈が使用した、支給品であるエンブレムの銘は帝具シャンバラ。
空間移動を可能とする帝具である。
長距離移動は六時間に1度。
それも、対象にできる相手は最大でも二人という制限が科されてはいたものの。
元より二人なので、今の彼女にとってはそれは問題ではない。
人外のマーダーに襲われてもなお、余裕の笑みを見せた自信の裏付けが此処にあった。
三十六計何とやら、ニケの尊い犠牲を無駄にするわけにはいかない。
おじゃる丸を連れ、そのまま離脱しようと────


「───は?」


目の前に、ナカジマが迫っていた。
馬鹿な、と瞠目する。
これまでのニケとの戦闘で戦闘速度についてはほぼ見切っていた。
百メートル近い距離を保てば、妨害を受けてもその前にシャンバラが発動する。
その目算だった。それなのに、早すぎる。
手加減していた?実力を出せていなかった?いや違う。
これはまるで、時が凍り付いた様な────



(いや、違う、そんな事を考えてる場合じゃ───あ)


ナカジマの拳が、振り下ろされる。
タッチの差で間に合わない。油断していたのは、水銀燈の方だった。
ジャンク。その一言が、水銀燈の意識を染め上げる。
その、刹那。



───光魔法、かっこいいポーズ!



朝を迎えてなお、二度目の旭日を此処に。
眩い光が、ナカジマの後方から迸った。



「───ニ、ケ」



先ほどまで、氷壁の中に閉じ込められていた筈のニケが。
ニッと笑って。空中に浮かび上がり。
ふざけたポージングで眩いばかりの光を放っていた。
これぞ、彼の誇る光魔法キラキラの秘奥。
魔なる者の動きの一切を封じ込める、光魔法かっこいいポーズであった。
がくりと膝を付き、ナカジマの動きを完全に封じ込めている。
勇者としての意向を示すその魔導は、ナカジマと名乗った少女に対して覿面の効果を示していた。
水銀燈に人間ではないと告げられた時からもしやと思っていたが、やはりか。
推察が当たり、不敵に笑うその笑みは同時に誇らしげで。
置き去りにしようとした水銀燈に対する恨みは感じ取れず。
その事実は、薔薇乙女の心の水面を俄かに波立たせた。
待て、そう思うモノのすでに遅く。
ニケが放つ光とは別の、シャンバラの光が既に彼女を包み込んでいたから。
そして、水銀燈たちの姿が掻き消える。
勇者と魔王をその場に残して。








転移した先で、少しの間水銀燈は天を仰ぎ。
複雑な感情がない交ぜになった様子で、思いを馳せていた。
そんな彼女の様子を、同じく転移したおじゃる丸は不安そうにのぞき込む。


「────全く」
「ぎ、銀ちゃん……?」


これまでとは違って、本当に見捨てられたのに。
それでも自分を笑って送り出して。
それだけじゃなくて、私の事を助けたつもりになって。
勝手に好きなようにやって、勝手に満足して。
ブサイク真紅じゃないんだから。
本当に、お馬鹿さん。


「私、貴方の事、嫌いだわ。ニケ」



【F-6/1日目/朝】

【水銀燈@ローゼンメイデン(原作)】
[状態]健康、めぐ救出への焦り
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3(魔神王の物も含む)、戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、
魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、ヤクルト@現実(本人は未確認)、しんのすけと右天の首輪
[思考・状況]基本方針:一刻も早くここから抜け出す。雪華綺晶を見つけて締め上げ、めぐの居場所を吐かせる。
0: 魔神王をやり過ごし、ニケと合流する。その間おじゃる丸が死のうとどうでも良い。
1:首輪を外して脱出する方法を探す。どうしても無理そうなら、優勝狙いに切り替える。
2:ハンデを背負わされるほどの、強力な別参加者を警戒。
3:契約できる人間を探す。(おじゃる丸は論外)
4:真紅が居たら、おじゃる丸を押し付ける。
5:ホグワーツにめぐを治す方法があればいいけど。
[備考]
※めぐを攫われ、巻かなかった世界に行って以降からの参戦です。
※原作出展なのでロリです。
※Nのフィールドの出入り、契約なしで人間からの力を奪う能力は制限されています。


【坂ノ上おじゃる丸@おじゃる丸】
[状態]健康、惨殺死体を見たトラウマ(大)、水銀燈に対する恐怖。
[装備]こぶたのしない
[道具]基本支給品
[思考・状況]基本方針:カズマの家に帰りたい
1:カズマや田ボを探す。
2:シャクを誰か持ってないか探す。
3:ニケは無事でおじゃろうか……
4:銀ちゃんはかわゆいのう……絶対持ち帰るでおじゃる。真紅ちゃんも会ってみたいのう。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。

※三人とも、クロとしおを危険人物と認識し、参加者が平行世界から呼ばれていると結論付けました。(おじゃる丸は話半分で聞いてます)










「ぶえっくしゅん!あー…風邪かな。ナカジマの息臭すぎてさっきまで調子悪かったんだよね」
『生きるか死ぬかの時に風邪の心配してる場合か?』
「死ぬつもりはさらさらないね。俺が死んだら全国1500万のファンはどうなるんだよ
まだとっておきがあるし、お前にはまだまだ付き合ってもらうからな」



仲間が全て去った後で、その手の刀剣と軽口を叩き合い。
鼻水を垂らしながら勇者は黒髪の少女と対峙する。
言葉の通り、仮面を付けるまでは回避に専念していたのが知らず彼の命を救っていた。
ナカジマの放つ吐息や血液は、鉄すら溶かす猛毒の瘴気に他ならないからだ。
それが今は偽りの仮面(アクルカ)の力によって完全に無効化している。
ヤマト最強の豪将と名高いヴライに与えられていたその仮面は剛力と軍勢を一瞬で焼き払う業火を担い手にもたらす。
さらに仮面の本来の用途を考えれば、人間では本来生存不可能な瘴気の環境下でも生存を可能とする力すら備わっていたのだ。
瘴気を無効化し、高密度の熱線で以て氷壁を溶かし、仮面はニケの命を救った。



────この男、やはり……



ナカジマを名乗った黒髪の少女……真名を魔神王というその怪物は考える。
強さで言えば自分は愚か魔神将……いやさ上位魔神にすら及ばない。
依り代のリィーナ姫の兄であるナシェルの様な傑物ですらない。
だが…見ていると何故か魂が泡立つ。意識が引き寄せられる。
それは何故か、今迄ずっと思考を巡らせていた。


「ニケ……勇者ニケ、か」


タブレットに記載されていたその名前を舌の上で転がして。
漸く合点がいったようにくく、と笑う。


「あぁ、汝はここで我が滅ぼしておかねばならんらしい」
「俺、お前に何か恨み買うようなことしたかなぁ!?」


理不尽な殺害予告に半泣きで反論する勇者。
やはり締まらなかった。何処までも。
確かに恨みはない。畜生にされた屈辱はあるが、それは目の前の相手は関係が薄い。
だが、豚化の呪いが解除された時に真の姿に戻ってしまった。
真の姿を知られた以上、眼鏡の小僧と同じく生かしては置けない。
だが、それ以上に、魔神王は目の前の勇者を殺して見たくて仕方がなかった。
その感情に名前を付けるのなら、それはきっと本能だった。
魔王と勇者は、何時の時代も殺しあう運命だ。


「言っておくけど!こっちにはまだ切り札があるかんな!
思いとどまるなら今の内だぞ!ていうか思いとどまってくれ頼む!!」
「面白い、見せてみるがいい。汝のその矮小な力の全てを」


でなければ、我の前から生きて帰る事は叶わぬ。
泰然と、魔神王はそう宣言した。
ニケは泣きそうになった。
いよいよやるほかないらしい。一世一代の芝居を。
覚悟を(できる範囲で)固めて、アヌビスに小さく呟く。


「おいアヌビス。俺が許す。峰打ちじゃなくて、あいつ斬っていいぞ」
『あぁ?俺としちゃあもうお前がくたばった後、アイツの手の中で斬って斬って、
斬りまくるつもりだけどなァ~まぁ精々頑張れや!ギャハハハハハハ!!!!』


この野郎、絶対生き残ってやる。
生き残って、肥溜めに突っ込んでやる。ニケは強く強く決意した。
その怒りと怨念を糧に、恐怖を抑え込む。
そして、一度浅く息を吐いた後、魔神王に向かって吶喊した。


「はぁあああああああっ!!!」


走る最中、ぎゅっとアヌビスの柄を握り。
仮面に意識を集中させる。
呼び起こすのは冷たい氷に包まれて、意識が閉ざされる寸前の感覚。
氷を打ち破るために熱線を放った、その一瞬の感覚だった。
すると、彼の想いに応えるように。



「光魔法───火の剣!!!」






仮面から熱線が放出され、それを受けてニケが新たな光魔法キラキラの魔法名を呟く。
光魔法火の剣。厨房のおっさんこと火の王から授けられた光魔法の奥義が一つ。
その力を、アヌビス神に纏わせる。
『なっ、なんだぁっ!』と驚いていたが気にしない。
光魔法。仮面(アクルカ)。スタンドパワー。
三種の異能が合一を果し、そのまま最大速度で魔を執たんと迫る───!



───これは、



ドラゴン殺しもどさくさに紛れて水銀燈が回収していたため、今の魔神王は無手。
故に同じく刀で打ち合う事は出来ない。
無論、無手でも人間一人容易に殺害せしめる怪力を魔神王は誇るが。
だが、今回の相手はとてつもなく相性が悪かった。
一拍、二拍、三拍……数回の交錯の後、魔神王の手を灼熱が襲う。
それに気をやったほんの僅かな一瞬をアヌビス神のスタンド特性は見逃さない。
僅かな隙を縫うように、体勢の崩れた魔神王に切り込む。
そして、ザンッ!と。
勇者の一撃が魔王の右腕を切り落とした。
その結果に、さしもの魔神王も瞠目せざる得ない。だがしかし、



────それでも勝つのは、我以外はあり得ぬ。



己の体内に取り込んだデモンズエキスの力を解放。
隕石の様な巨大な氷塊を一瞬にして完成させる。
相対する勇者の表情が、驚愕に彩られる。
だが、魔神王はそれに対して一切の手心を加えない。
作り出した氷と同じ極寒の殺意を漲らせて、勇者の息の根を止めにかかる。


〈ハーゲルシュプルング〉


そう名付けられ、放たれた氷塊は寸分の狂いなく勇者へと放たれる。
殆ど十メートルも無い距離で放たれたのだ。
回避は不可能。そう計算し…そして、魔神王のその計算は正しかった。
阻むものは何もなく、ノミを大砲の砲弾で潰すように。
氷塊はニケの全身に向かって直撃し、遥か天空へと吹き飛ばしていった。



────死んだか?



咄嗟に放った大技。それもこの島に訪れて初めて放った技だ。
生死の確認と言う観点は度外視していたため、これでは死んだかどうか分からない。
周囲を見渡して見れば、支給品は盗まれ、一人殺せたかどうかすら怪しい。
最も強かったはずの魔神王が、その実最も敗者となる結果に終わってしまったのかもしれなかった。


───いや、ともすれば……ク、ク。我を謀ったか。あの“勇者”は。


最後の交錯の際。
あの自称勇者の表情は、放たれた氷塊に対して驚愕こそしていたが。
そこに絶望の彩は無かった。むしろ狙い通りとすら考えて居そうな表情をしていた。
もし、逃走の為に魔神王の攻撃を利用したのだとしたら?
そうであれば、再び相まみえた時には借りを返さなければならない。
あの阿呆面を引き裂く時の感触は、得も言われぬものとなるだろう。
あぁ、そうだ。それがいい。
その瞬間を想像し、魔神王は仄かな恍惚を得た表情で、薄く笑った。



【D-3/1日目/朝】

【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:健康 、魔力消費(大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:ニケと覗き見をしていた者を殺す
1:アーカード…所詮雑魚だったか。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。

※真紅眼の黒龍は12時間使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。









ごっちん。









「よっしゃぁあああああっ!!!生き残ったぁあああああっ!!!」



クソデカい氷にぶっ飛ばされた先で。
俺は勝利の雄たけびを上げた。
本当にギリギリだった。今度こそ死ぬかと思った。
でも何とか作戦は上手く行ったと、俺はポケットに入れていたアイテムを取り出す。
花の形をしたその髪飾りは、リコの髪飾りってアイテムだった。
一度だけ使用者を攻撃から守ってくれるアイテムだ。しめて200G。
元は死んでいた女の子の支給品で、放送の前に埋葬した時、料金として貰っておいた。


『しかしまぁ、良く上手く行ったもんだな』


アヌビスが感心したような声を掛けてくる。
当然だ、俺自身上手く行くかスゲー不安な作戦だったんだから。
水銀燈からナカジマの奴が人間じゃないって聞かされて思いついた作戦だった。
まず、こっちが強い攻撃でナカジマを追い詰める。
追い詰めた後、ナカジマはより強い攻撃で反撃してくるだろう。
それにぶっ飛ばされるフリをして、リコの花飾りを使う。
そして、ダメージだけを抑えて、そのままぶっ飛ばされて逃げる。
もし、ナカジマの奴がそんな強い攻撃出してこなかったら負けだし。
その強い攻撃のダメージを花飾りで無効化できなかったらやっぱり負けな訳で。
余りにもガバガバで、俺自身八割くらいダメだろうなーと思っていたけど、上手く行った。


「……きっと、ククリが守ってくれたんだろうな」


俺を待ってるであろう、魔法使いの女の子。
俺を勇者様って呼ぶ、大切な子。
きっと俺は、ククリに守られてたんだと思う。
だから、作戦を成功させることができたんだ。
………なぁ、だからさ。



「ふーん、それで?」



そう言う事で感動的に終わらせておかない?



「それが、いきなり空を飛んでた私の方にぶっ飛んできた理由なの?」



氷にぶっ飛ばされた俺と空で正面衝突して。
頭にでっかいたんこぶを作って。
顔に青筋を浮かべて。
後でフランって名乗ったその女の子は、俺の前で仁王立ちでそう尋ねた。
因みに笑顔だった。


「いや、これは事故で……俺だって好きで君にぶつかった訳じゃ……」


だらだらだら、と汗を流して。俺は必死に弁明する。
だけど、うーん。聞き入れてはくれないみたいだ。
だって、指パキパキ鳴らしてるもんな。
少しの間を置いて、彼女は俺に判決を下した。


「うーん……わざとじゃないみたいだし………私も今は殺し合いに乗ってる訳じゃないし。
判決は……そうね、一発は一発にしておくわ!!」


握りこぶしを作って。
輝くような笑顔で、その女の子は俺にそう判決を下した。
因みに墜落直後も殴られかけて、その時クレーターを作ってるのを見た。
つまり殴られたら死ぬ。



ゆうしゃは にげだした!



「逃げると罪が重くなるよー?」


背後で響く、追いかけてくる女の子の声を聴いて。
俺はたまらず叫んだ。


「ククリー!ジュジュー!トマー!親父―!!助けてくれーッ!!!」






【C-4/1日目/朝】

【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇
[道具]:基本支給品、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's、丸太@彼岸島 48日後…、リコの花飾り×3@魔法陣グルグル、沙耶香のランダム支給品0~1、シャベル@現地調達、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:クロがまだ人殺してなきゃ良いけど。
1:とりあえず仲間を集める。でもククリとかジュジュとか…いないといいけど。
2:一旦、ホグワーツに寄る。その後、クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ……
4:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面が外れるかは後続の書き手にお任せします。

【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:精神疲労(小)、たんこぶ
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
0:桜田ジュンの家を起点にジャックの行先を考える。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
5:マサオもついでに探す。その前にニケをシメる。
6:乃亜の死者蘇生は割と信憑性あるかも。
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。



【次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!】
水銀燈に支給。
一定範囲の人間を予めマークした地点へと転送する。ただし、制限により消耗が激しく連続使用には向かない上、相性の良さが特別高くない限り一度に二人しか転送できない。
10メートル以内の短距離は通常通り使用できる。
長距離の場合制限が掛かり、一日に一度が限度で主催が予めマークした場所にランダムで飛ばされる。

【ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇】
おじゃる丸に支給。
ヤマトの帝によって製作され、偉大な功績を残した者に与えられる仮面。
仮面を与えられた者は「仮面の者(アクルトゥルカ)」と呼ばれる。
仮面を装着すると、身体能力や治癒力が向上する他、それぞれの仮面固有の特殊能力が行使できるようになる。
ヴライの仮面の場合固有能力は敵軍も一瞬で蒸発させる程の高熱火炎と、膂力の強化。
これによって仮面の元の持ち主であるヴライは、ヤマト最強の将として名を馳せた。
絶大な力を与える仮面だが、仮面の力をしようすればするほど魂魄が削られ、やがて肉体が塩の結晶となり死に至る。
また、仮面の能力を解放する事でウィツァルネミテアという怪獣形態へと変身可能になるが、本ロワでは調整により制限されている。
その代わり身体能力や治癒力の強化は通常の物よりも大きくなっている。

【リコの花の髪飾り@魔法陣グルグル】
元は沙耶香に支給。
身に付けていると装備者を一度だけ守ってくれる。
四つセットで支給されたが、眠らせられた沙耶香には身に付けられなかった。南無。





075:緋色の研究 投下順に読む 077:不平等な現実だけが、平等に与えられる
時系列順に読む
061:夜明け後 勇者ニケ 098:闇の胎動
水銀燈 096:命も無いのに、殺しあう
坂ノ上おじゃる丸
057:くじけないこころ 魔神王 081:悪鬼羅刹も手を叩く
075:緋色の研究 フランドール・スカーレット 098:闇の胎動
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