バキッ。
何かが折れる音が響いて。
私、フランドール・スカーレットは、あちゃー、と思う。またやっちゃった。
目の前の画面と手の中のハンドルというらしい輪っかを交互に見つめて言う。
何かが折れる音が響いて。
私、フランドール・スカーレットは、あちゃー、と思う。またやっちゃった。
目の前の画面と手の中のハンドルというらしい輪っかを交互に見つめて言う。
「梨沙、マリーン、しお。ゲームが壊れたわ」
「最下位になりそうだったからアンタ壊したんでしょうが!」
「最下位になりそうだったからアンタ壊したんでしょうが!」
隣に座る梨沙が叫んだ。意外と鋭い。
いや違う。わざとじゃなかった。ただちょっとゲームに熱が入っただけだもん。
最下位になりそうだったからじゃない。熱い勝負だったからついつい肩に力が入って。
それでちょっと加減ができなくて、吸血鬼の腕力が出ちゃったの。
むしろ私をこんなに熱くしたマリーンと、梨沙と、しおにも責任はあると思う。
いや違う。わざとじゃなかった。ただちょっとゲームに熱が入っただけだもん。
最下位になりそうだったからじゃない。熱い勝負だったからついつい肩に力が入って。
それでちょっと加減ができなくて、吸血鬼の腕力が出ちゃったの。
むしろ私をこんなに熱くしたマリーンと、梨沙と、しおにも責任はあると思う。
「フランさん、ズルはだめだと思うな」
しおの言葉から全力でそっぽを向いて、手の中のハンドルを放り投げる。
仕方ないじゃない。こんな遊び、今迄した事無かったんだもの。
そんな相槌を打ちながら、改めて辺りを見回す。
梨沙と、しおと、ネモの分身のマリーン。
そして私は、デパートにあったゲームセンターにいた。
仕方ないじゃない。こんな遊び、今迄した事無かったんだもの。
そんな相槌を打ちながら、改めて辺りを見回す。
梨沙と、しおと、ネモの分身のマリーン。
そして私は、デパートにあったゲームセンターにいた。
襲撃を受けない限り、この場を動くのは放送を聞いてからだ。
悟空との合流を目指しているネモは、おつかいの終わった私達にそう言った。
シカマルや龍亞、ブラックって青いのや、無惨って奴とこれからの事をすり合わせたり、
他に作業もあったり、悟空と合図を送り合うのは放送の30分後らしいから……
それが終わるまでは、このデパートから動くつもりは無いという話だった。
まぁ私はジャックを壊すという事以外何かしたい事も、会いたい知り合いもない。
シカマル達も、折角掴んだ脱出の手がかりと早々に別れるつもりは無いみたいだった。
無惨やブラックも残るつもりみたいで、結局8人のまま、デパートに留まっている。
集めた物品の確認や諸々の作業はシカマル達がやる事になったから、私達は手持無沙汰で。
そんな時に見つけたのがこのゲームセンターだった。
悟空との合流を目指しているネモは、おつかいの終わった私達にそう言った。
シカマルや龍亞、ブラックって青いのや、無惨って奴とこれからの事をすり合わせたり、
他に作業もあったり、悟空と合図を送り合うのは放送の30分後らしいから……
それが終わるまでは、このデパートから動くつもりは無いという話だった。
まぁ私はジャックを壊すという事以外何かしたい事も、会いたい知り合いもない。
シカマル達も、折角掴んだ脱出の手がかりと早々に別れるつもりは無いみたいだった。
無惨やブラックも残るつもりみたいで、結局8人のまま、デパートに留まっている。
集めた物品の確認や諸々の作業はシカマル達がやる事になったから、私達は手持無沙汰で。
そんな時に見つけたのがこのゲームセンターだった。
『息抜きも必要だと思うんだよね!ボク!!』
『アンタ、本当にあの白いのの分身なの』
『アンタ、本当にあの白いのの分身なの』
遊ぶことが決まった時、マリーンと梨沙はそんなやりとりをしていた。
こんな事してていいのかしらという思いは、梨沙はおろか私にもあったけど。
マリーンが言うには、本体のネモは私達がここでこうして遊ぶのは賛成らしい。
あまり気を張ってばかりだと、逆にいざと言う時に保たない。
身体だけじゃなくて、気持ちも休ませておく事は意外に重要なんだそう。
そんな訳で、私は495年の吸血鬼生の中で初めて“ゲーセン“で遊ぶことにした。
こんな事してていいのかしらという思いは、梨沙はおろか私にもあったけど。
マリーンが言うには、本体のネモは私達がここでこうして遊ぶのは賛成らしい。
あまり気を張ってばかりだと、逆にいざと言う時に保たない。
身体だけじゃなくて、気持ちも休ませておく事は意外に重要なんだそう。
そんな訳で、私は495年の吸血鬼生の中で初めて“ゲーセン“で遊ぶことにした。
「梨沙、ゲームが壊れてるわ」
「どんな力でやったらそうなるのよ……」
「どんな力でやったらそうなるのよ……」
まず選んだのは格闘ゲーム…格ゲーだった。
私に似た吸血鬼のキャラを選んで梨沙に相手をしてもらった。
梨沙も普段格ゲーはやらないらしく、同じ初心者でそれなりに勝負は盛り上がったと思う。
でも、なんか気が付いたら私の操作してた筐体から生えたスティックが飛んで、
隣でニコニコしながら眺めてたマリーンの顔に突き刺さってた。
マリーンは泣いた。
私に似た吸血鬼のキャラを選んで梨沙に相手をしてもらった。
梨沙も普段格ゲーはやらないらしく、同じ初心者でそれなりに勝負は盛り上がったと思う。
でも、なんか気が付いたら私の操作してた筐体から生えたスティックが飛んで、
隣でニコニコしながら眺めてたマリーンの顔に突き刺さってた。
マリーンは泣いた。
「梨沙、ゲームが壊れてるわ」
「アンタわざとやってない?」
「アンタわざとやってない?」
次に選んだのはエアホッケー。
手に持ったスマッシャーという円盤型の板を使って、同じく丸いプレートを撃ち合う。
相手のゴールに丸いプレートを打ち出して入れたら勝ちという訳だ。簡単だった。
また梨沙が相手をしてくれたけど、このゲームは割とやったことがあるのか、強かった。でも私も弾幕ごっこで鍛えた腕がある。そう簡単に負けはしない。
で、気が付いたら本気で梨沙のエリアにプレートを撃ち込んで。
レッスンで鍛えた(と梨沙は言ってた)反射神経で梨沙は台の下に危うく躱したけど。
台の縁をジャンプ台みたいに飛び出して、半ば割れながら自由になったプレートはしおを庇ったマリーンの鳩尾に突き刺さった。
マリーンは泣いた。
手に持ったスマッシャーという円盤型の板を使って、同じく丸いプレートを撃ち合う。
相手のゴールに丸いプレートを打ち出して入れたら勝ちという訳だ。簡単だった。
また梨沙が相手をしてくれたけど、このゲームは割とやったことがあるのか、強かった。でも私も弾幕ごっこで鍛えた腕がある。そう簡単に負けはしない。
で、気が付いたら本気で梨沙のエリアにプレートを撃ち込んで。
レッスンで鍛えた(と梨沙は言ってた)反射神経で梨沙は台の下に危うく躱したけど。
台の縁をジャンプ台みたいに飛び出して、半ば割れながら自由になったプレートはしおを庇ったマリーンの鳩尾に突き刺さった。
マリーンは泣いた。
「梨沙、ゲームが壊れ…ブフッ…てるわ」
「絶対わざとよね?今ちょっと笑ったわよね?」
「絶対わざとよね?今ちょっと笑ったわよね?」
その次に選んだのはモグラ叩き。
台に開けられた穴からぴょこぴょこ顔を出すモグラを叩いていくゲームだ。
最初の内は良かった。でもどんどん出てくるスピードが上がって……
ふんっ、力んだ一発をモグラに叩き込んでから、モグラはもう出てこなかった。
ついでにすっぽ抜けたピコピコ音が鳴るハンマーが驚いて開いていたマリーンの口の中に華麗なストライクを決めていた。
マリーンは泣いた。
台に開けられた穴からぴょこぴょこ顔を出すモグラを叩いていくゲームだ。
最初の内は良かった。でもどんどん出てくるスピードが上がって……
ふんっ、力んだ一発をモグラに叩き込んでから、モグラはもう出てこなかった。
ついでにすっぽ抜けたピコピコ音が鳴るハンマーが驚いて開いていたマリーンの口の中に華麗なストライクを決めていた。
マリーンは泣いた。
「すご……アンタ見た目によらず力持ちなのね………」
「ふふーん!こーみえて僕達魚雷運び毎日してる海の男だもんね!
サーヴァントのレベルじゃないけど…それでも意外と力持ちなのサ!」
「ふふーん!こーみえて僕達魚雷運び毎日してる海の男だもんね!
サーヴァントのレベルじゃないけど…それでも意外と力持ちなのサ!」
その次に選んだのは、パンチングマシーン。
まずマリーンがやってみて、最高記録を出していた。
「確かな賞賛の視線を感じるよ…!」と鼻が伸びて、とっても楽しそう。
なので次は、私がやる事にした。
梨沙は何かを感じ取ったのか、しおを抱えて退避してた。
詳細は省くけど、この後マリーンは泣いた。
まずマリーンがやってみて、最高記録を出していた。
「確かな賞賛の視線を感じるよ…!」と鼻が伸びて、とっても楽しそう。
なので次は、私がやる事にした。
梨沙は何かを感じ取ったのか、しおを抱えて退避してた。
詳細は省くけど、この後マリーンは泣いた。
そして、次に選んだのが、幻想郷ではまずお目にかかれない車で競争をするゲームだった。
これは今迄のゲームと違って、私達4人でできるみたいだった。
だから4人でやって、意外と楽しかった。そう……うん、楽しかった。
弾幕ごっこや、普段やってる私の“遊び”以外にも楽しいことがあるんだって、そう思えた。
結果はマリーンが一位で私が最下位だったけど、不思議と心は弾んでいた。
これは今迄のゲームと違って、私達4人でできるみたいだった。
だから4人でやって、意外と楽しかった。そう……うん、楽しかった。
弾幕ごっこや、普段やってる私の“遊び”以外にも楽しいことがあるんだって、そう思えた。
結果はマリーンが一位で私が最下位だったけど、不思議と心は弾んでいた。
「もーいいわ!何度目よこの流れ!!」
でも流石に梨沙に怒られたから、お開きにして一旦解散。
またマリーンが呼びかけるまで各々別れて、好きにゲーセンの中を回る。
幻想郷でも、こういうの作れないかしら。お姉様におねだりしてみようかな。
ひょっとしたら、一大ブームを起こせるかも。
そんな事を考えつつ、何故か名残惜しさを感じて、備え付けの椅子に腰かける。
人気が無くて、薄暗くて、でも煌びやかな空間は、私が今迄いた事のない空間だった。
それを独り眺めているとしみじみ思う。楽しかったなって。
多分、皆で遊んだから楽しかったんだ。
またマリーンが呼びかけるまで各々別れて、好きにゲーセンの中を回る。
幻想郷でも、こういうの作れないかしら。お姉様におねだりしてみようかな。
ひょっとしたら、一大ブームを起こせるかも。
そんな事を考えつつ、何故か名残惜しさを感じて、備え付けの椅子に腰かける。
人気が無くて、薄暗くて、でも煌びやかな空間は、私が今迄いた事のない空間だった。
それを独り眺めているとしみじみ思う。楽しかったなって。
多分、皆で遊んだから楽しかったんだ。
「………随分ご機嫌じゃない、フラン」
余韻に浸ってたところに話しかけてきたのは、梨沙だった。
このゲーセン、リズムゲームないとかありえないわ。なんてぼやきながら私の隣に座る。
そんな彼女に、私は何となく呼びかけた。
何?という顔で梨沙は私を見てきて、私は少し焦った。
何を話すか決めていない状態で、何となく梨沙の名前が口に出てしまったからだ。
やば、何かしゃべらないと。そんな焦りから、梨沙にとっては唐突な質問をしちゃった。
このゲーセン、リズムゲームないとかありえないわ。なんてぼやきながら私の隣に座る。
そんな彼女に、私は何となく呼びかけた。
何?という顔で梨沙は私を見てきて、私は少し焦った。
何を話すか決めていない状態で、何となく梨沙の名前が口に出てしまったからだ。
やば、何かしゃべらないと。そんな焦りから、梨沙にとっては唐突な質問をしちゃった。
「梨沙はさ………怖い?」
「それ、少し前にもう答えたでしょ」
「いや……今の状況の話じゃなくて………」
「それ、少し前にもう答えたでしょ」
「いや……今の状況の話じゃなくて………」
怪訝そうな顔で、梨沙が私の顔を見てくる。
何が言いたいの、そう言いたげな顔だった。
そんな彼女に、私は私がどんな存在であるのかを伝える。
私は吸血鬼で、人を食べる妖怪なんだって事を。
どうして、そんな事を伝えようと思ったのかは分からない。
何となく一緒にいて、これからも一緒に居そうだったから。
後で知って怖がられても面倒だと無意識に思ったのかもしれない。
何が言いたいの、そう言いたげな顔だった。
そんな彼女に、私は私がどんな存在であるのかを伝える。
私は吸血鬼で、人を食べる妖怪なんだって事を。
どうして、そんな事を伝えようと思ったのかは分からない。
何となく一緒にいて、これからも一緒に居そうだったから。
後で知って怖がられても面倒だと無意識に思ったのかもしれない。
「………少なくとも、アンタに関して言えば、まぁ、そんなに。
舐めてるとかじゃないけど、何ていうか、色々麻痺しちゃったのよね」
「私から逃げたいとか、遠ざけたいとか思わないの?
普通の人間は、そう言うモノだって本に書いてあったけど」
「逃げて、この島から出られるならそうするけどね……
そう言う話に当てはまるのは、ブラックの方かしら
少なくともアンタは、一緒にゲームできるくらい話通じるし」
舐めてるとかじゃないけど、何ていうか、色々麻痺しちゃったのよね」
「私から逃げたいとか、遠ざけたいとか思わないの?
普通の人間は、そう言うモノだって本に書いてあったけど」
「逃げて、この島から出られるならそうするけどね……
そう言う話に当てはまるのは、ブラックの方かしら
少なくともアンタは、一緒にゲームできるくらい話通じるし」
前かがみになって、膝に肘を立て、顔を手で支えて。
梨沙は前を向いたまま、答えを返してくる。
梨沙は前を向いたまま、答えを返してくる。
「乃亜のせいでどんどん世界は狭まっていくのに、逃げても仕方ないじゃない。
怯えて、震えて、泣き叫んで……それで結局殺される。そんなのは嫌。サイテーだわ」
怯えて、震えて、泣き叫んで……それで結局殺される。そんなのは嫌。サイテーだわ」
そう言う梨沙の声は。
淡々としていたけど、力の籠った声だった。
彼女の弱くて脆い人としてのほんのーは多分、ずうっと怖いって訴えてるのに。
それを、自分の気持ちで捻じ伏せてるんだ、この子。
淡々としていたけど、力の籠った声だった。
彼女の弱くて脆い人としてのほんのーは多分、ずうっと怖いって訴えてるのに。
それを、自分の気持ちで捻じ伏せてるんだ、この子。
「弱くて、実際私が決められる事なんて殆ど無いとしても。
せめて自分が一緒にいる相手とか、これからどうするかとかはさ。
怖い事に流されるんじゃなくて…考えた上で、私の意志で決めたいじゃない」
せめて自分が一緒にいる相手とか、これからどうするかとかはさ。
怖い事に流されるんじゃなくて…考えた上で、私の意志で決めたいじゃない」
だから、さ。
梨沙はそこで言葉を区切って、透明な水筒?に口をつけて。
ごくごくごくと喉を鳴らしてから、ハッキリと私に告げた。
梨沙はそこで言葉を区切って、透明な水筒?に口をつけて。
ごくごくごくと喉を鳴らしてから、ハッキリと私に告げた。
「生き残れる確率が少しでも上がる相手とは一緒に居たいし、
一緒にいる必要がある相手とは、仲良くしたい。勿論アンタともね」
「………っ!」
一緒にいる必要がある相手とは、仲良くしたい。勿論アンタともね」
「………っ!」
返答を聞いて、此方に向けて笑いかける梨沙の顔を見て息が詰まった。
そんな私に、梨沙は持っていた透明な水筒を私のほっぺにそっと当てて。
「飲む?」と持ち掛けてきた。
返事の代わりにそっと私は彼女が手渡してきた水筒を受け取って、中身を見つめる。
中の液体は、血のように赤かった。
そんな私に、梨沙は持っていた透明な水筒を私のほっぺにそっと当てて。
「飲む?」と持ち掛けてきた。
返事の代わりにそっと私は彼女が手渡してきた水筒を受け取って、中身を見つめる。
中の液体は、血のように赤かった。
「驚いた、人間も血を飲むのね」
「血じゃないわよ。飲んでみなさい」
「血じゃないわよ。飲んでみなさい」
促された通り、私は透明な水筒(ペットボトルというらしい)の中の液体を呷る。
すると、飲んだことのない味が口の中に広がった。
悪くない味だった。
すると、飲んだことのない味が口の中に広がった。
悪くない味だった。
「…美味しい」
「アセロラジュース、疲れた時に飲むと美味しいの。口に合ったみたいで良かったわ」
「アセロラジュース、疲れた時に飲むと美味しいの。口に合ったみたいで良かったわ」
炭酸系はアイドルには御法度だからねーとか何とか言いつつ、はにかんでくる梨沙。
その笑顔を見て思う。きっと今の梨沙の言葉は本心からの言葉なんだろうなってこと。
打算もあるだろうけど、それでも仲良くしたいと、この子は言ったんだ。
その笑顔を見て思う。きっと今の梨沙の言葉は本心からの言葉なんだろうなってこと。
打算もあるだろうけど、それでも仲良くしたいと、この子は言ったんだ。
───ぉ……ぐぉ……フ、ランちゃん………
あぁ、でも。それはダメ。
ダメだよ、梨沙。
ダメだよ、梨沙。
「…………ダメじゃない、梨沙」
胸の奥から色んなものがこみあげてきて、止められない。
私は貰ったジュースを脇に置いて、梨沙にそっと抱き着く。
梨沙は困惑したような声を上げるけど、逃がしはしない。
この時、ある考えが浮かんだ。
しんちゃんみたいに傷つけてしまうのが怖いなら。
しんちゃんみたいに、壊れてしまうのを厭うなら。
それなら、壊れにくくすればいい。
少なくとも、私と同じくらいには。
そのための手段が、私にはあるのだから。
私は貰ったジュースを脇に置いて、梨沙にそっと抱き着く。
梨沙は困惑したような声を上げるけど、逃がしはしない。
この時、ある考えが浮かんだ。
しんちゃんみたいに傷つけてしまうのが怖いなら。
しんちゃんみたいに、壊れてしまうのを厭うなら。
それなら、壊れにくくすればいい。
少なくとも、私と同じくらいには。
そのための手段が、私にはあるのだから。
「吸血鬼(ヴァンパイア)に、そんなこと簡単に言ったら」
でないと、こうなっちゃうんだから。
囁いてから、梨沙の首筋にそっと口を添える。
後数ミリ牙を、柔らかな梨沙の肌に沈み込ませて血を啜れば、梨沙も私と同じ。
不死の血族に。吸血鬼にすることができる。
鳥が教えられなくても飛べるように、魚が泳げるように。
その方法を、私の身体は既に知っていた。
多分、ほんのーって奴で。
囁いてから、梨沙の首筋にそっと口を添える。
後数ミリ牙を、柔らかな梨沙の肌に沈み込ませて血を啜れば、梨沙も私と同じ。
不死の血族に。吸血鬼にすることができる。
鳥が教えられなくても飛べるように、魚が泳げるように。
その方法を、私の身体は既に知っていた。
多分、ほんのーって奴で。
「っ……ひ………っ」
今の自分の状況に頭が追い付いたのか、梨沙が怯えた様な声を上げる。
でも、逃げられない。私がしっかり彼女の背中に手を回して、捕まえているから。
人間の梨沙の力じゃ、吸血鬼の私から逃げられない。
でも、逃げられない。私がしっかり彼女の背中に手を回して、捕まえているから。
人間の梨沙の力じゃ、吸血鬼の私から逃げられない。
「……………」
そのまま、凍り付いた彼女の反応を待つ。
どうするかは余り決めていなかった。
だって、半分くらい反射的に、その場の気分でやった事だから。
だから梨沙の反応で決めよう、という事にした。
この怯えようだと怖がられるか、怒って拒絶されてしまうかもしれないけど。
そうなったらショックで、本当に血を吸って、吸い過ぎてゾンビにしちゃうかも。
あぁでも、そうなったらネモは怒るだろうか。
それは嫌だなとも思いつつ、でも、先に言ってきたのは梨沙の方でもある。
だから、仕方ないよね?
ぐるぐるぐるぐる考えが巡って。そうしている内に、梨沙は絞り出すような声を上げる。
どうするかは余り決めていなかった。
だって、半分くらい反射的に、その場の気分でやった事だから。
だから梨沙の反応で決めよう、という事にした。
この怯えようだと怖がられるか、怒って拒絶されてしまうかもしれないけど。
そうなったらショックで、本当に血を吸って、吸い過ぎてゾンビにしちゃうかも。
あぁでも、そうなったらネモは怒るだろうか。
それは嫌だなとも思いつつ、でも、先に言ってきたのは梨沙の方でもある。
だから、仕方ないよね?
ぐるぐるぐるぐる考えが巡って。そうしている内に、梨沙は絞り出すような声を上げる。
「……そうね、いよいよヤバい事になったら、アンタと同じになるのもアリかもね」
目を見開いた。
口を彼女の肩から外し、思わず梨沙の顔を見る。
酷い顔だった。真っ青だし、引き攣ってるし、目尻には涙が浮かんでいて。
今吐き出した言葉も、震えた声だった。
でも、それでも、的場梨沙は笑っていた。
笑って、私の瞳から目を逸らさないで、じっと私を見ていた。
口を彼女の肩から外し、思わず梨沙の顔を見る。
酷い顔だった。真っ青だし、引き攣ってるし、目尻には涙が浮かんでいて。
今吐き出した言葉も、震えた声だった。
でも、それでも、的場梨沙は笑っていた。
笑って、私の瞳から目を逸らさないで、じっと私を見ていた。
「……流石に驚いたわ。どうして?」
「いや。流石にアタシだって今すぐ吸血鬼にしてやるーって言われたら困るけど……
でも大けがしたりしていよいよピンチになったら、そうして貰う方がいいかなって」
「いや。流石にアタシだって今すぐ吸血鬼にしてやるーって言われたら困るけど……
でも大けがしたりしていよいよピンチになったら、そうして貰う方がいいかなって」
それに。
「仲良くしたいって言ったばかりなのに、すぐ掌返してたら示しがつかないじゃない。
どう取り繕おうと力のない私が、守ってくれるアンタ達に差し出せるお返しは誠意(これ)くらいだもの」
どう取り繕おうと力のない私が、守ってくれるアンタ達に差し出せるお返しは誠意(これ)くらいだもの」
だから、できれば、なるのはのっぴきならない事になってからがいいけど。
でも実際にそんな事になった時に、そう都合よく上手く行くかは分からないし。
それなら、今やってもらうのがある意味確実なのかもね。
それに、吸血鬼になるとかちょっとかっこいいし。
でも実際にそんな事になった時に、そう都合よく上手く行くかは分からないし。
それなら、今やってもらうのがある意味確実なのかもね。
それに、吸血鬼になるとかちょっとかっこいいし。
辿々しく、多分必死に怖いのに耐えながら、梨沙はきっちり最後まで私に伝えきり。
体は小刻みに震えたままで。それでも彼女は身じろぎをして、私に首筋を差し出した。
ぎゅっと瞼と唇を結んで、これから起こるあらゆることに耐えて見せると言う様に。
その様を見ていると、とてもいじましくて、健気で………
体は小刻みに震えたままで。それでも彼女は身じろぎをして、私に首筋を差し出した。
ぎゅっと瞼と唇を結んで、これから起こるあらゆることに耐えて見せると言う様に。
その様を見ていると、とてもいじましくて、健気で………
「──そう、貴方が乗り気なら焦る必要も無いか。ネモに怒られたくないし」
気づけば私は彼女の身体を離していた。
自由になった梨沙はまだぷるぷると震えが止まっていなくて。冷や汗も凄くて。
表情も、酷い顔だった。今までのはやせ我慢だって、言われなくても分かる位。
でも。私が梨沙と同じ立場になったら、私はこの子くらいやせ我慢ができただろうか。
そんな事を、考えた。
自由になった梨沙はまだぷるぷると震えが止まっていなくて。冷や汗も凄くて。
表情も、酷い顔だった。今までのはやせ我慢だって、言われなくても分かる位。
でも。私が梨沙と同じ立場になったら、私はこの子くらいやせ我慢ができただろうか。
そんな事を、考えた。
「ごめんね、梨沙。怖い思いをしたかしら」
「……グスッ、全くよ、血の気が引いたし、チビったらどーしてくれんの」
「チビっても今の梨沙は素敵だと思うな」
「そう言う問題じゃない。あぁ言うの、二度となしだから。次はネモ達に言いつけるから」
「うん、ごめんごめん。本当に悪かったわ」
「……グスッ、全くよ、血の気が引いたし、チビったらどーしてくれんの」
「チビっても今の梨沙は素敵だと思うな」
「そう言う問題じゃない。あぁ言うの、二度となしだから。次はネモ達に言いつけるから」
「うん、ごめんごめん。本当に悪かったわ」
鼻をすすって、べそをかいてる梨沙を慰めるように撫でる。
この子は、結局私から逃げようとはしなかった。
怖がっていても、最後まで自分の言葉を曲げようとしなかった。
弱くて儚い人間のくせに……たぶんこの子を一言で表現するなら、そう。
この子は、結局私から逃げようとはしなかった。
怖がっていても、最後まで自分の言葉を曲げようとしなかった。
弱くて儚い人間のくせに……たぶんこの子を一言で表現するなら、そう。
「梨沙、貴方って図太いのね」
「それ褒め言葉になってないわよ」
「それ褒め言葉になってないわよ」
ほら、そういう打てば響く所が。
くすりと笑って、立ち上がり。
後ろ手で手を結びながら、数歩前へと歩いて私は梨沙に伝えないといけない事を伝える。
くすりと笑って、立ち上がり。
後ろ手で手を結びながら、数歩前へと歩いて私は梨沙に伝えないといけない事を伝える。
「この後もしもの事があって、吸血鬼になっても………
ドラゴンボールっていう願いを叶える手段があるから、それで元の人に戻りなさい」
「アンタ、それって………」
ドラゴンボールっていう願いを叶える手段があるから、それで元の人に戻りなさい」
「アンタ、それって………」
梨沙が恐怖を堪えて見せてくれた誠意に対する、私なりの誠意。
幻想郷に来るよう誘っても、梨沙は頷かないだろうし。
逆に梨沙が幻想郷の外に誘っても、私も困る。
引きこもりの私には殺し合いが終わってからも梨沙の面倒は見れない。
ついでに言えば、総理大臣になって父親と結婚したい梨沙の目指す将来は意味不明だ。
元々この殺し合いが無ければ、しんちゃんも含めて一生会わなかった相手だもの。
これがきっとあるべき形で。人と妖怪のあるべき関係。
幻想郷に来るよう誘っても、梨沙は頷かないだろうし。
逆に梨沙が幻想郷の外に誘っても、私も困る。
引きこもりの私には殺し合いが終わってからも梨沙の面倒は見れない。
ついでに言えば、総理大臣になって父親と結婚したい梨沙の目指す将来は意味不明だ。
元々この殺し合いが無ければ、しんちゃんも含めて一生会わなかった相手だもの。
これがきっとあるべき形で。人と妖怪のあるべき関係。
「でもありがと。梨沙の仲良くしたいって言葉───」
だから。うん、きっと。これでいいんだと思う。
「嬉しかったわ、とっても」
そろそろ、マリーン達を探しましょ。
言いたい事は終わったし、話を切り替えて、歩いて行こうとする。
そんな私の背中に「ねぇ」と声がかけられた。
振り返って、声を掛けた張本人の方へと向き直る。
私の方はもうよかったけど、彼女は未だ話したいことがあったらしい。
言いたい事は終わったし、話を切り替えて、歩いて行こうとする。
そんな私の背中に「ねぇ」と声がかけられた。
振り返って、声を掛けた張本人の方へと向き直る。
私の方はもうよかったけど、彼女は未だ話したいことがあったらしい。
「何て言うか、ただ慈悲を願うなんて嫌だから言うんだけど……
これ、シカマルにも言ったんだけどさ……もし、生きて帰れたら───
その時は私の出るライブは顔パスで入れる様にするから、アンタも見に来なさいよ」
これ、シカマルにも言ったんだけどさ……もし、生きて帰れたら───
その時は私の出るライブは顔パスで入れる様にするから、アンタも見に来なさいよ」
その言葉に、私は少し首を傾げた。
「ライブって何?」
「そこから!?」
「そこから!?」
成程、説明によると、梨沙が歌や踊りを披露してくれるらしい。
余り興味は無いけど、でもこれが梨沙の用意できる、生きて帰れた時のお礼なんだろうな。
余り興味は無いけど、でもこれが梨沙の用意できる、生きて帰れた時のお礼なんだろうな。
「でもいいの?私、あんまりそう言うのに興味ないし…
ひょっとしたら寝ちゃったり、他の子のファンになるかも」
ひょっとしたら寝ちゃったり、他の子のファンになるかも」
少し意地の悪い言葉だったかもしれないと、言ってから思った。
だけど、梨沙は気にする様子は無く。むしろ「上等じゃない」と言ってのけて。
だけど、梨沙は気にする様子は無く。むしろ「上等じゃない」と言ってのけて。
「興味が無くても、他の子が気になっても、すぐ私の色のサイリウムに染めてあげる。
例え有馬かなが相手でも負けないくらい───アンタの推しの子になってやるんだから」
例え有馬かなが相手でも負けないくらい───アンタの推しの子になってやるんだから」
だから、アンタもシカマルと一緒にしっかり私を守んなさい。
梨沙は私の前で腕を組み、仁王立ちになって。堂々と宣言したのだった。
───何て言うか、まったく。
貴方やっぱり図太いわ、梨沙。
梨沙は私の前で腕を組み、仁王立ちになって。堂々と宣言したのだった。
───何て言うか、まったく。
貴方やっぱり図太いわ、梨沙。
▼△▼△▼△▼△
いやほんと、ヤバかった。
私は、アイドル的場梨沙は───緊張でかいた冷や汗をごしごしと拭いながらそう思った。
まさか仲良くしたいって言っただけで、危うく人間辞めさせられそうになるなんてね。
まぁ最終的に、上手く着地できた気はするけど。
しかし、吸血鬼、か。
私は、アイドル的場梨沙は───緊張でかいた冷や汗をごしごしと拭いながらそう思った。
まさか仲良くしたいって言っただけで、危うく人間辞めさせられそうになるなんてね。
まぁ最終的に、上手く着地できた気はするけど。
しかし、吸血鬼、か。
───ええ…輝かしいのは―――今だけ
………ッ!
ダメダメ。あのバカ沙都子の言ってたことともまた違うでしょ。
夜しか仕事できないのはアイドルとして致命的だし。
ずっと若いままだとそれはそれでテレビとか気味悪がられそうだし……。
何よりパパと結ばれるのを考えたら、やっぱり今なるのはパス。
もっとオトナの女性になってからの方が、パパもきっと喜ぶもの。
ダメダメ。あのバカ沙都子の言ってたことともまた違うでしょ。
夜しか仕事できないのはアイドルとして致命的だし。
ずっと若いままだとそれはそれでテレビとか気味悪がられそうだし……。
何よりパパと結ばれるのを考えたら、やっぱり今なるのはパス。
もっとオトナの女性になってからの方が、パパもきっと喜ぶもの。
「……ま、なると決まった訳じゃないしね」
そう口に出して、一旦この考えはお終い。
それよりも、私が人としてピンチだった時に他所に言ってたお目付け役を締め上げないと。
それよりも、私が人としてピンチだった時に他所に言ってたお目付け役を締め上げないと。
「で、アンタ達は今迄一体何をやってたのかしら」
「ク、クレーンゲーム………」
「ク、クレーンゲーム………」
バツが悪そうに答えるマリーンを睨みつける。
護衛役として私達の傍にいたのに、緩み過ぎでしょ。
そう言いたくて仕方なかったけど、フランが隣にいる手前余り責められない。
フランはネモに懐いてるみたいだし、ここで怒れば信用してないんだって思われそうだし。
実際ちょっと漏れそうになったくらいで、特に何かケガをした訳でも無い。
だから此処は飲み込むことにする。
護衛役として私達の傍にいたのに、緩み過ぎでしょ。
そう言いたくて仕方なかったけど、フランが隣にいる手前余り責められない。
フランはネモに懐いてるみたいだし、ここで怒れば信用してないんだって思われそうだし。
実際ちょっと漏れそうになったくらいで、特に何かケガをした訳でも無い。
だから此処は飲み込むことにする。
「うぅ~どうしてか景品が一個だけ残っててさ~
しおとボク、何が入ってるのか気になっちゃって、ついつい夢中に………」
「最後は、私が取ったんだよ」
しおとボク、何が入ってるのか気になっちゃって、ついつい夢中に………」
「最後は、私が取ったんだよ」
べそをかいて弁明するマリーンと、ちょっと得意げな様子のしお。
何て言うか二人ともそれぞれ別の方向で怒りにくくてずるいわね。
下手に怒ったらこっちが悪者になりそうな二人を見て、思わずため息が漏れる。
何て言うか二人ともそれぞれ別の方向で怒りにくくてずるいわね。
下手に怒ったらこっちが悪者になりそうな二人を見て、思わずため息が漏れる。
「ごめ~ん…!獲った景品は二人にあげるから許して~……」
そう言ってマリーンは手に入れた景品らしき袋にごそごそと手を入れて。
出てきたのは、見覚えのある腕章と、高そうな懐中時計だった。
その他にも何か船の模型だとか、岩塩のチョコだとか、眼鏡だとか、色々出てくる。
出てきたのは、見覚えのある腕章と、高そうな懐中時計だった。
その他にも何か船の模型だとか、岩塩のチョコだとか、眼鏡だとか、色々出てくる。
「ってこの腕章、アンタが付けてる奴と同じのじゃない」
「えへへ、そうなんだよね~、だからボクには必要なくてさ~
良かったら梨沙やフランも欲しいのがあったら貰って~」
「いや、貰ってもって言われてもねぇ………」
「いいからいいから!お詫びのしるしに……ね?」
「えへへ、そうなんだよね~、だからボクには必要なくてさ~
良かったら梨沙やフランも欲しいのがあったら貰って~」
「いや、貰ってもって言われてもねぇ………」
「いいからいいから!お詫びのしるしに……ね?」
突然あげるって言われても困るし、誤魔化されてる様に感じなくもない。
でもまぁ……いいか、別に怒ってる訳じゃないし。
くれるって言うなら、埋め合わせとして貰っておくことにする。
でもまぁ……いいか、別に怒ってる訳じゃないし。
くれるって言うなら、埋め合わせとして貰っておくことにする。
「じゃ、このチョコレート貰っとくわ」
「お、いいね~岩塩チョコ!疲れてる時に食べると美味しいよ~」
「お、いいね~岩塩チョコ!疲れてる時に食べると美味しいよ~」
何かスーパーの実演販売染みてるわね。
そんな事を考えながら受け取ったチョコは中々形が可愛いし、しかも手作りみたいだった。
何で食べ物がクレーンゲームの景品だったのかは良く分からないけど。
折角だし、今も必死に頭を働かせていそうなシカマルに差し入れしてみようかしら。
頭脳労働には糖分が必要って言うしね。
マリーンにそう提案しようとした時、隣でフランも声を上げる。
どうやら、この子も欲しいものが決まったらしい。
そんな事を考えながら受け取ったチョコは中々形が可愛いし、しかも手作りみたいだった。
何で食べ物がクレーンゲームの景品だったのかは良く分からないけど。
折角だし、今も必死に頭を働かせていそうなシカマルに差し入れしてみようかしら。
頭脳労働には糖分が必要って言うしね。
マリーンにそう提案しようとした時、隣でフランも声を上げる。
どうやら、この子も欲しいものが決まったらしい。
「………何それ、何でマリーンと同じ腕章?」
「だって、お揃いじゃない」
「ウソ!ペアルック希望なのフラン!?嬉し~い!
えへへ、それじゃあボクの直筆サインもつけちゃう!」
「だって、お揃いじゃない」
「ウソ!ペアルック希望なのフラン!?嬉し~い!
えへへ、それじゃあボクの直筆サインもつけちゃう!」
フランが腕章を選ぶと、マリーンは嬉しそうな声を上げて。
何処からともなく取り出したペンで、腕章に四号と文字を入れる。
だ、ダサい………
何処からともなく取り出したペンで、腕章に四号と文字を入れる。
だ、ダサい………
「ふふっ」
でも、当のフランはまんざらでもなさそうな表情で。
アタシならダサくて御免だけど、フランがいいならいいか。そう思えた。
しかし、本当に懐いてるのね……何だか微笑ましい。
と、そこで気になってもう一人…しおって子の方に顔を向ける。
彼女は何を貰ったのかと思って、確かめようと手を見てみた。
すると、しおの手にもチョコが入ったバスケットが握られていた。
パンの形をしたチョコレートを口に入れて、美味しそうに頬を抑えてる。
それを見ていると、くぅと私のお腹もお腹が空いたって訴えてきた。
アタシならダサくて御免だけど、フランがいいならいいか。そう思えた。
しかし、本当に懐いてるのね……何だか微笑ましい。
と、そこで気になってもう一人…しおって子の方に顔を向ける。
彼女は何を貰ったのかと思って、確かめようと手を見てみた。
すると、しおの手にもチョコが入ったバスケットが握られていた。
パンの形をしたチョコレートを口に入れて、美味しそうに頬を抑えてる。
それを見ていると、くぅと私のお腹もお腹が空いたって訴えてきた。
「梨沙、お腹空いた?」
私のお腹の音に、即座にマリーンが気づく。
泣き虫のくせに、こいつこういう所は嫌に敏感なのね。
お腹が鳴った恥ずかしさから違うって否定しようとしたけど、マリーンは先に。
泣き虫のくせに、こいつこういう所は嫌に敏感なのね。
お腹が鳴った恥ずかしさから違うって否定しようとしたけど、マリーンは先に。
「僕もお腹空いたんだよね~…
さっきベーカリーがご飯用意してくれた連絡が入って、味見して~ってさ。
だから遊ぶのはここまでにして、一緒に食べに行こう!」
さっきベーカリーがご飯用意してくれた連絡が入って、味見して~ってさ。
だから遊ぶのはここまでにして、一緒に食べに行こう!」
こう先に言われたら、違うともいかないとも言いにくい。
実際ここまで余りちゃんとしたご飯は食べれてないから、お腹は空いてる。
食べれるときに食べておかないといけないって学校の災害訓練でも習った。
フランとしおは基本的にネモの言う事に従うし、変に意地を張る場面でもない、か。
実際ここまで余りちゃんとしたご飯は食べれてないから、お腹は空いてる。
食べれるときに食べておかないといけないって学校の災害訓練でも習った。
フランとしおは基本的にネモの言う事に従うし、変に意地を張る場面でもない、か。
「…そうね、お腹空いたわ。そのベーカリーって子の所に案内してちょうだい」
「うん、行こ行こ~!!しゅっぱーつ!!」
「うん、行こ行こ~!!しゅっぱーつ!!」
テンションの無駄な高さを発揮しながら、マリーンはしおをおんぶして。
元気よくゲーセンを先に出て、手招きをする。
姿だけ見れば、龍亞や桃華以外の第三芸能課の子達の様に子供っぽい。
あの子を見ていると、自分が殺し合いなんて血生臭い催しに巻き込まれたのが嘘みたいだ。
元気よくゲーセンを先に出て、手招きをする。
姿だけ見れば、龍亞や桃華以外の第三芸能課の子達の様に子供っぽい。
あの子を見ていると、自分が殺し合いなんて血生臭い催しに巻き込まれたのが嘘みたいだ。
────桃華は無事かしら……。
第三芸能課の事を思い浮かべて、連想する様に桃華の顔が浮かんでくる。
この島にいるらしいたった一人の知り合い。あの生粋のお嬢様は無事なのかしら。
私みたいに、協力し合える人と会えたのかしら。
次の放送であの子の名前が呼ばれる未来を想像して、ぞくっと寒気が走る。
あの子だってここでは私と変わらない、ただの女の子だ。
絶対生きているとは言い切れない。でも、無事でいて欲しいと思う。
この島にいるらしいたった一人の知り合い。あの生粋のお嬢様は無事なのかしら。
私みたいに、協力し合える人と会えたのかしら。
次の放送であの子の名前が呼ばれる未来を想像して、ぞくっと寒気が走る。
あの子だってここでは私と変わらない、ただの女の子だ。
絶対生きているとは言い切れない。でも、無事でいて欲しいと思う。
「生きてなさいよ。アタシ……アンタの事は、仲間ってだけじゃなくて」
いつか勝ちたい好敵手(ライバル)だとも思ってるんだから。私は呟く。
ええそうだ。第三芸能課で活動し始めてから、多分私はずっと彼女の背中を追いかけてた。
あの子がテレビでバズれば焦ったし、追いつくために映画の役を取ろうと躍起になった。
今でもあの子の事は仲間として大切に思うのと同じくらい。
私は櫻井桃華に勝ちたいという思いは今でも思ってる。
そして、まだ勝負は始まったばかりだ。
だから。
ええそうだ。第三芸能課で活動し始めてから、多分私はずっと彼女の背中を追いかけてた。
あの子がテレビでバズれば焦ったし、追いつくために映画の役を取ろうと躍起になった。
今でもあの子の事は仲間として大切に思うのと同じくらい。
私は櫻井桃華に勝ちたいという思いは今でも思ってる。
そして、まだ勝負は始まったばかりだ。
だから。
───絶対に二人で生きて帰って、また二人で。
───いいえ。第三芸能課の皆も一緒に、駆けあがりましょう。
───いいえ。第三芸能課の皆も一緒に、駆けあがりましょう。
また乃亜の性格の悪い放送が鳴り響く、その少し前。
私はひょっとしたら受け入れにくいくらい残酷なその内容に備えて覚悟を固めながら。
たった独り、同じ場所に帰る事ができる女の子の、無事を祈った。
私はひょっとしたら受け入れにくいくらい残酷なその内容に備えて覚悟を固めながら。
たった独り、同じ場所に帰る事ができる女の子の、無事を祈った。
▼△▼△▼△▼△
拝啓、お姉様。
いかがお過ごしですか?私が──フランドール・スカーレットがいなくなったことに気づいていますか?
いかがお過ごしですか?私が──フランドール・スカーレットがいなくなったことに気づいていますか?
「ブイヨンスープとバター、ローリエを加えたご飯を炊いてから、
玉ねぎ、しいたけ、パプリカ、ズッキーニをオリーブオイルで炒めてー」
玉ねぎ、しいたけ、パプリカ、ズッキーニをオリーブオイルで炒めてー」
貴方の事だから、実の妹の事も忘れているかもしれませんね。
咲夜や美鈴やパチュリーの方が、ひょっとしたら早く気づくかも。
もしかしたら心配しているかもしれないので言っておくと、取り合えず私は生きています。
元気です。今のところは。
咲夜や美鈴やパチュリーの方が、ひょっとしたら早く気づくかも。
もしかしたら心配しているかもしれないので言っておくと、取り合えず私は生きています。
元気です。今のところは。
「岩塩プレートで焼いた鶏肉を加えて、白ワインとブイヨンとバターで煮てー
仕上げに煮えた野菜と鶏肉を、溶き卵に生クリームを加えたものでとじたら……」
仕上げに煮えた野菜と鶏肉を、溶き卵に生クリームを加えたものでとじたら……」
こう言ったら驚くでしょうけど、私は今朝ご飯を作って貰っています。
人間でいう夜食になるのかしら。勿論血だけじゃない。
ちゃんとした料理で、とっても美味しそうだから楽しみです。
レシピを聞いておくから、もし生きて帰れたら咲夜に作ってもらえるようにするね。
それでは。
人間でいう夜食になるのかしら。勿論血だけじゃない。
ちゃんとした料理で、とっても美味しそうだから楽しみです。
レシピを聞いておくから、もし生きて帰れたら咲夜に作ってもらえるようにするね。
それでは。
「炊きあがったバターライスに乗せてできあがり!
ふわふわ親子丼風オムライスでーす!熱いうちに食べてね~」
ふわふわ親子丼風オムライスでーす!熱いうちに食べてね~」
目の前に出された料理の匂いを嗅いで、ごくっと喉を鳴らす。
吸血鬼の私にとって人間の食べる料理は必要ない。血と違って栄養にはならないから。
でも、食べられない訳じゃないし、美味しそうなものは美味しそうなのだ。
ネモ・ベーカリーの出したオムライスを見て、私はそう思った。
吸血鬼の私にとって人間の食べる料理は必要ない。血と違って栄養にはならないから。
でも、食べられない訳じゃないし、美味しそうなものは美味しそうなのだ。
ネモ・ベーカリーの出したオムライスを見て、私はそう思った。
「こ…これお金取れるんじゃないかしら…あぁでも、カロリーが………」
隣に座る梨沙も、目の前のオムライスに釘付けになっていた。
けれど暫くカロリーがとか何とかブツブツいってスプーンを着けようとしない。
梨沙に合わせて待っているのも何なので、私は先に食べる事にする。
スプーンで黄色いお月様の様な卵とライスを掬って、一口。
けれど暫くカロリーがとか何とかブツブツいってスプーンを着けようとしない。
梨沙に合わせて待っているのも何なので、私は先に食べる事にする。
スプーンで黄色いお月様の様な卵とライスを掬って、一口。
「ゥンまああ~いっ!!」
口の中が蕩けるみたい。
咲夜がパチュリーや美鈴に作る料理をつまみ食いした時の味とも違っていた。
鶏肉は香ばしい上にしょっぱ過ぎず、卵の甘さとよく合う。
卵自体もフワフワのトロトロで、優しい舌ざわりだ。
更に卵と具が、またバターライスとよく合って……っ!
ベーカリーは咲夜に負けず劣らずのシェフだった。
思わず梨沙に食べないなら貰っていい?と尋ねてしまう。
咲夜がパチュリーや美鈴に作る料理をつまみ食いした時の味とも違っていた。
鶏肉は香ばしい上にしょっぱ過ぎず、卵の甘さとよく合う。
卵自体もフワフワのトロトロで、優しい舌ざわりだ。
更に卵と具が、またバターライスとよく合って……っ!
ベーカリーは咲夜に負けず劣らずのシェフだった。
思わず梨沙に食べないなら貰っていい?と尋ねてしまう。
「た、食べるに決まってるでしょ!!」
私から庇う様に皿を隠す梨沙。その勢いのまま一口パクリと口にする。
するとあっという間に止まらなくなって、強奪する機会は来そうにない。ちっ。
さっきまでカロリーがどうとか言ってた子とはとても思えないわね。
じゃあしおはどうだろうと思って目を向けてみれば、此方は素直に食べていて。
美味しいかと聞かれて「さとちゃんの作るオムライスの次位に美味しい」と答えていた。
そのさとちゃんはプロのシェフか何かなのかしら。羨ましいわ。
さとちゃんとやらに思いを馳せながら、それから私達はしばらく食事に夢中になった。
味見の筈だったけど、仕方ないよね。だって美味しいんだもん。
ムシャムシャガツガツグビグビゴクン
……………………。
……………。
………。
ぷはー。
ご馳走様。
するとあっという間に止まらなくなって、強奪する機会は来そうにない。ちっ。
さっきまでカロリーがどうとか言ってた子とはとても思えないわね。
じゃあしおはどうだろうと思って目を向けてみれば、此方は素直に食べていて。
美味しいかと聞かれて「さとちゃんの作るオムライスの次位に美味しい」と答えていた。
そのさとちゃんはプロのシェフか何かなのかしら。羨ましいわ。
さとちゃんとやらに思いを馳せながら、それから私達はしばらく食事に夢中になった。
味見の筈だったけど、仕方ないよね。だって美味しいんだもん。
ムシャムシャガツガツグビグビゴクン
……………………。
……………。
………。
ぷはー。
ご馳走様。
「ね、マリーン」
一皿をあっさりに空にしてから。
梨沙はシカマル達にも食べさせてくると、お盆に料理を乗せて、今いるレストランを出た。
ついて行こうかとも思ったけど、店を出て直ぐシカマルって子と出くわしたみたいで。
なら私も行く必要はないかと思い留まった。元々梨沙がずっと一緒に居たのは向こうだし。
丁度、マリーンに話したい事も会ったしね。
梨沙はシカマル達にも食べさせてくると、お盆に料理を乗せて、今いるレストランを出た。
ついて行こうかとも思ったけど、店を出て直ぐシカマルって子と出くわしたみたいで。
なら私も行く必要はないかと思い留まった。元々梨沙がずっと一緒に居たのは向こうだし。
丁度、マリーンに話したい事も会ったしね。
「何?フラン」
お腹一杯食べて眠くなったのか、うとうとするしおに肩を貸しながら。
向かいに座ったマリーンはくりくりした瞳を私に向けて、どうしたのか尋ねてくる。
そんな彼に何となく切り出しにくくて、上手く言葉が出てこない。
長年引きこもりをやってたせいか、こういう時とても困る。
どうでもいい相手なら、こんなに困らなくても済むのに………
向かいに座ったマリーンはくりくりした瞳を私に向けて、どうしたのか尋ねてくる。
そんな彼に何となく切り出しにくくて、上手く言葉が出てこない。
長年引きこもりをやってたせいか、こういう時とても困る。
どうでもいい相手なら、こんなに困らなくても済むのに………
「……いや~しかし。いい曲だよね~」
「え?」
「今この店に流れてる曲だよ。イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン。聞いた事無い?」
「え?」
「今この店に流れてる曲だよ。イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン。聞いた事無い?」
ふるふると首を横に振るう。
今いるお店に小さく流れてる音楽の事を言っているのだろうけど。
でも、私は食事と会話に気を取られてて、聞くほど意識を向けられてなかった。
そんな私にマリーンはしおを撫でながら「焦らなくていいよ」とだけ伝えてくる。
その目は本体のネモと同じ、静かな慈しさと思いやりがあった。
あぁ、この子もやっぱりネモなんだ。その事が、今ハッキリと分かって。
それが分かってからはすんなりと、今話したい事を口にすることができた。
今いるお店に小さく流れてる音楽の事を言っているのだろうけど。
でも、私は食事と会話に気を取られてて、聞くほど意識を向けられてなかった。
そんな私にマリーンはしおを撫でながら「焦らなくていいよ」とだけ伝えてくる。
その目は本体のネモと同じ、静かな慈しさと思いやりがあった。
あぁ、この子もやっぱりネモなんだ。その事が、今ハッキリと分かって。
それが分かってからはすんなりと、今話したい事を口にすることができた。
「梨沙のね、血を吸おうとしたの。私」
「……えぇ!?そりゃ大変だ。どうして?お腹が空いたから?
それとも、梨沙が何か君の気に障る事を言ったの?」
「……えぇ!?そりゃ大変だ。どうして?お腹が空いたから?
それとも、梨沙が何か君の気に障る事を言ったの?」
血を吸おうとした、そう聞いてもネモは怒らなかった。
ただ、どうして?とだけ尋ねて、じっと私を見てくる。
本当にただ、知りたいって思いだけを感じる眼差しだった。
だから私も、今度は口ごもらずに話をすることができた。
ただ、どうして?とだけ尋ねて、じっと私を見てくる。
本当にただ、知りたいって思いだけを感じる眼差しだった。
だから私も、今度は口ごもらずに話をすることができた。
「ううん、違うわ。むしろ逆。梨沙は私と仲良くしたいって言ってくれたの。
勿論あの子にとっては生き残るために言った事だと思うけど、でも……」
「でも、嬉しかったんだ」
「えぇ、でも前に同じことを言ってくれたしんちゃんは私の目の前で…私が壊しちゃった」
勿論あの子にとっては生き残るために言った事だと思うけど、でも……」
「でも、嬉しかったんだ」
「えぇ、でも前に同じことを言ってくれたしんちゃんは私の目の前で…私が壊しちゃった」
だから、今度は壊れにくくしようって思ったの。今度は、今度こそ守れるように。
俯きながら静かに、私は目の前のマリーンにそう告げたのだった。
顔は上げられなかった、今、マリーンがどんな顔をしているか目にするのが怖かったから。
独りなのを苦に思ったことは無い。495年間そうだったから。
もし苦しかったのなら、とっくに紅魔館を吹き飛ばして外に出ていたと思う。
その私が、目の前の男の子の信用を喪う事を怖がって、緊張している。
お姉様が見たら、お腹を抱えて笑うかもね。そんなとりとめもない事が頭に浮かんだ。
俯きながら静かに、私は目の前のマリーンにそう告げたのだった。
顔は上げられなかった、今、マリーンがどんな顔をしているか目にするのが怖かったから。
独りなのを苦に思ったことは無い。495年間そうだったから。
もし苦しかったのなら、とっくに紅魔館を吹き飛ばして外に出ていたと思う。
その私が、目の前の男の子の信用を喪う事を怖がって、緊張している。
お姉様が見たら、お腹を抱えて笑うかもね。そんなとりとめもない事が頭に浮かんだ。
「……フラン、一つ教えて。
────じゃあ君は、何で梨沙の血を吸わなかったの?」
────じゃあ君は、何で梨沙の血を吸わなかったの?」
聞こえてきた彼の声は、やっぱり怒っている物では無かった。
ただ、私に何らかの返事を返す前に、この事はハッキリさせておきたい。
ネモの想いが伝わって来る、そんな声だった。
何故か、と尋ねられて、私も何故だろうと振り返ってみる。
梨沙には慌てる必要がない、ネモに怒られたくないと答えた。
そう答えたけれど、多分それだけじゃなくて……
ただ、私に何らかの返事を返す前に、この事はハッキリさせておきたい。
ネモの想いが伝わって来る、そんな声だった。
何故か、と尋ねられて、私も何故だろうと振り返ってみる。
梨沙には慌てる必要がない、ネモに怒られたくないと答えた。
そう答えたけれど、多分それだけじゃなくて……
「梨沙は…私と仲良くしたいって言ってくれたから…
だから、無理やり血を吸うのは、何か嫌だなって思ったの」
だから、無理やり血を吸うのは、何か嫌だなって思ったの」
それが、私が用意できた答えだった。
マリーンはその答えに対して「そっか」とだけ答えて。
暫く、何かを考えてるみたいな素振りを見せた。
マリーンはその答えに対して「そっか」とだけ答えて。
暫く、何かを考えてるみたいな素振りを見せた。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
そのまま、私達はお互い何も言わず。
店の中は、しおの寝息と、相変わらず静かになり続ける音楽だけが響いていた。
十秒…三十秒…一分…二分。
それだけの時間が経って、やっぱり痺れを切らしたのは私の方だった。
「マリーン!」と声を張り上げて、マリーンが驚いた様に「ひゃいっ!?」と返事をする。
あ、と思う。突き動かされる様に名前を呼んだけど、どう話すかまだ決めていなかった。
梨沙の時と同じだ。またやっちゃった。
店の中は、しおの寝息と、相変わらず静かになり続ける音楽だけが響いていた。
十秒…三十秒…一分…二分。
それだけの時間が経って、やっぱり痺れを切らしたのは私の方だった。
「マリーン!」と声を張り上げて、マリーンが驚いた様に「ひゃいっ!?」と返事をする。
あ、と思う。突き動かされる様に名前を呼んだけど、どう話すかまだ決めていなかった。
梨沙の時と同じだ。またやっちゃった。
(ええい…ここまで来たらもう勢いで!)
もう後戻りはできないし、放送までの時間ももうほとんどない。
だから多分これがちゃんと聞ける最後の時間。
それを、これ以上無駄遣いするのは御免だった。
だから私は心を決めて、一度大きく息を吸ってからハッキリと聞こえる声で尋ねる。
今、一番彼に聞きたいことを。
だから多分これがちゃんと聞ける最後の時間。
それを、これ以上無駄遣いするのは御免だった。
だから私は心を決めて、一度大きく息を吸ってからハッキリと聞こえる声で尋ねる。
今、一番彼に聞きたいことを。
「マリーン……貴方はさ。吸血鬼(わたし)が人と一緒に歩めると思う?」
「え?う~ん……うん、思うかな~」
「え?う~ん……うん、思うかな~」
ほぇ?
びっくりするほど即答だった。
さっき何か考え込んでいたのとは真逆の素早い答えに惚けた声が思わず口から出ちゃう。
びっくりするほど即答だった。
さっき何か考え込んでいたのとは真逆の素早い答えに惚けた声が思わず口から出ちゃう。
「テッ!テキトーに答えないで!私マジで聞いてるんだから!」
「ボクもテキトーじゃなくてマジで応えてる。むしろどうして適当だって思うの?」
「だ、だって……」
「ボクもテキトーじゃなくてマジで応えてる。むしろどうして適当だって思うの?」
「だ、だって……」
私はお姉様みたいに人間と上手く接する事が出来ない。
独りでいるのは苦じゃないし。何かを壊すことは愉しい。友達以外の人間はどうでもいい。
今でもそう思ってるし、そう思う事を変えるのも難しい。
そしてそれは人間が恐れる在り方だって言う事は、私だって分かってる。
だから、そんな私が人と一緒に居る事は………
そう言いかけた時、マリーンは私の言葉を遮った。
独りでいるのは苦じゃないし。何かを壊すことは愉しい。友達以外の人間はどうでもいい。
今でもそう思ってるし、そう思う事を変えるのも難しい。
そしてそれは人間が恐れる在り方だって言う事は、私だって分かってる。
だから、そんな私が人と一緒に居る事は………
そう言いかけた時、マリーンは私の言葉を遮った。
「そうだね。確かにフランの側からも努力は必要だと思う」
彼は、私が挙げた私の問題を否定しなかった。
そんなことは無いと否定したりせず、課題は課題だって受け止めた上で。
それでも、ボクは君が人と歩めると思う。そう言った。
そんなことは無いと否定したりせず、課題は課題だって受け止めた上で。
それでも、ボクは君が人と歩めると思う。そう言った。
「フランはさ、梨沙の血を吸わなかったのは無理やりは嫌だったからって言ったけど……
それってつまり、梨沙の事を大切にしたいって気持ちがあったからだと思うんだ~」
それってつまり、梨沙の事を大切にしたいって気持ちがあったからだと思うんだ~」
だったら大丈夫。大丈夫だよ、フラン。
君が望んで、そのための努力をする限り、僕達は君の事を信じるから。
せめてこの殺し合いが終わって、君達を無事に家に帰すまではね。
そう私に告げるマリーンの表情を、その時初めて顔を上げて見られたかもしれない。
彼は、本当に嬉しそうに笑っていた。
君が望んで、そのための努力をする限り、僕達は君の事を信じるから。
せめてこの殺し合いが終わって、君達を無事に家に帰すまではね。
そう私に告げるマリーンの表情を、その時初めて顔を上げて見られたかもしれない。
彼は、本当に嬉しそうに笑っていた。
「……できるかしら。何せ私、これまで失敗ばかりだったから」
ニケも、コナンも、雄二も、マサオも、梨沙も。
誰も彼も失敗ばかりで、上手く行った試しが無かった。
多分、これからも失敗ばかりだとも思う。
誰も彼も失敗ばかりで、上手く行った試しが無かった。
多分、これからも失敗ばかりだとも思う。
「ま、大変だろうね~………………でもさ」
ほんの少しだけ、そんなことは無いって、君ならできるって言って欲しかったけど。
ネモ本体よりは根が軽そうなマリーンも、そうはいってくれなかった。
苦笑いしながら、多分これからも大変だっていうのを誤魔化しはしなかった。
ネモ本体よりは根が軽そうなマリーンも、そうはいってくれなかった。
苦笑いしながら、多分これからも大変だっていうのを誤魔化しはしなかった。
「───誰だって、簡単に手に入ったものは、簡単に手放せちゃうものだから」
「そうかな?……………そうかもね」
「そうかな?……………そうかもね」
多分ここまで誰かを大切にしようと思うようなったのは、しんちゃんの死が原因で。
もし今しんちゃんが生きてたら、今ぐらい大事にしようとは思えなかったと思う。
友達が壊れちゃったら悲しいって事さえ、私は知らなかったから。
誰でも守ろうとは今でも思えない、やっぱり私は、守ることは苦手。
でもせめて、そんな私でも仲良くしたいと言ってくれる子は、何とかしてあげたい。
その為の努力を、私を信じると言ったネモのためにしたい。それが今の私の偽らざる本心。
それを今、ハッキリと自分で確かめられた。
もし今しんちゃんが生きてたら、今ぐらい大事にしようとは思えなかったと思う。
友達が壊れちゃったら悲しいって事さえ、私は知らなかったから。
誰でも守ろうとは今でも思えない、やっぱり私は、守ることは苦手。
でもせめて、そんな私でも仲良くしたいと言ってくれる子は、何とかしてあげたい。
その為の努力を、私を信じると言ったネモのためにしたい。それが今の私の偽らざる本心。
それを今、ハッキリと自分で確かめられた。
「ふふ~本当に今流れてる曲みたいなこと、話してるわね~」
弾んだ声で、ネモ・ベーカリーがお盆に紅茶を乗せてやって来たのは、その時のこと。
どういう意味?と尋ねてみると、彼女は私に流れているジャズの曲の意味を教えてくれた。
曰く、例え紙の月でも、作り物でも。
君が信じてくれるのなら、それはきっと本物になる……
今流れてるのは、そんな想いの力を綴った歌らしい。
どういう意味?と尋ねてみると、彼女は私に流れているジャズの曲の意味を教えてくれた。
曰く、例え紙の月でも、作り物でも。
君が信じてくれるのなら、それはきっと本物になる……
今流れてるのは、そんな想いの力を綴った歌らしい。
「フランちゃんはどう思う?信じてあげたら、紙の月も本物に見えるかしら!」
ニコニコと笑顔で食後の紅茶を置いて、私に尋ねてくる。
もう動かないといけない時間が近づいているため、紅茶は直ぐ飲み切れる量だった。
本当、気が利いているわね。そう考えながら私は返事を返そうとして、ある事に気が付く。
マリーンやベーカリーの背後の壁や、腰かけている椅子の表面上に。
この島に来てから極端に見えにくくなっている破壊の点が、くっきりと見えていた。
相変わらず人の物は見えないし、この調子だと支給品の点も見えないままだろうけど。
それでも、能力を取り戻しつつあることを、私は確認する。
もう動かないといけない時間が近づいているため、紅茶は直ぐ飲み切れる量だった。
本当、気が利いているわね。そう考えながら私は返事を返そうとして、ある事に気が付く。
マリーンやベーカリーの背後の壁や、腰かけている椅子の表面上に。
この島に来てから極端に見えにくくなっている破壊の点が、くっきりと見えていた。
相変わらず人の物は見えないし、この調子だと支給品の点も見えないままだろうけど。
それでも、能力を取り戻しつつあることを、私は確認する。
「……分かんない、でも」
何故、能力が復調しつつあるかは分からない。
ネモの血を吸ってから、体に力が満ちている影響かもしれないし。
それとも、ネモや梨沙からの言葉を聞いたからかもしれない。
でも、そんな事は、今はどうでも良かった。
だからまず、ベーカリーに分からないと答え、紅茶に口をつけて。
丁度いい感じに唇と喉を湿らせてから、問いかけに対する思いの丈を口にする。
ネモの血を吸ってから、体に力が満ちている影響かもしれないし。
それとも、ネモや梨沙からの言葉を聞いたからかもしれない。
でも、そんな事は、今はどうでも良かった。
だからまず、ベーカリーに分からないと答え、紅茶に口をつけて。
丁度いい感じに唇と喉を湿らせてから、問いかけに対する思いの丈を口にする。
「しんちゃんや、ネモや、梨沙がくれた想いと言葉があれば────」
私は、お姉様の様に運命を見通す力はない。
ただ、私の両眼はあらゆるものを壊す為だけにあるから。
あぁ、でも。それでも─────
ただ、私の両眼はあらゆるものを壊す為だけにあるから。
あぁ、でも。それでも─────
───見える気がしたの。
───例え偽物の月でも、本物みたいに。
───例え偽物の月でも、本物みたいに。
ねぇ、お姉様。
貴方はどう思う?
貴方はどう思う?
▼△▼△▼△▼△
「紙の月は、紙の月だよ」
微睡むフリをしながら、ネモさんと、フランさんの話を聞く。
フランさんは、紙の月でも本物みたいに思えるかもしれないって言ってたけど。
私は、紙の月は紙の月だと思うな。
どこまで行ってもさとちゃんみたいな本当のお月さまじゃないし。
これからも、本当のお月さまみたいに思えることは無いんだと思う。
私が最後に行きたい場所にはならない。私の欲しい奇跡(つき)は本物だけ。
どれだけ瓶に詰めて眺めても、やっぱり本物とは違うんだって見る度に思う。
それは多分変わることは無いし、さとちゃんの為に変えるつもりは無い。
フランさんは、紙の月でも本物みたいに思えるかもしれないって言ってたけど。
私は、紙の月は紙の月だと思うな。
どこまで行ってもさとちゃんみたいな本当のお月さまじゃないし。
これからも、本当のお月さまみたいに思えることは無いんだと思う。
私が最後に行きたい場所にはならない。私の欲しい奇跡(つき)は本物だけ。
どれだけ瓶に詰めて眺めても、やっぱり本物とは違うんだって見る度に思う。
それは多分変わることは無いし、さとちゃんの為に変えるつもりは無い。
「でも」
あぁ、だけど。でも。
ネモさんが作ってくれたごはん。美味しかったな。
外でするゲームも、面白かった。さとちゃんも、いて欲しかったな。
今度はさとちゃんと一緒に来れたらいいな。
乃亜君に叶えてもらう願いの先にある、明日(みらい)を思い浮かべながら。
もう一つだけ確かだって思えたことを、私はネモさん達に言う。
ネモさんが作ってくれたごはん。美味しかったな。
外でするゲームも、面白かった。さとちゃんも、いて欲しかったな。
今度はさとちゃんと一緒に来れたらいいな。
乃亜君に叶えてもらう願いの先にある、明日(みらい)を思い浮かべながら。
もう一つだけ確かだって思えたことを、私はネモさん達に言う。
「───綺麗だよね」
ネモさん達は目を丸くして、横になる私のことを見てくる。
だから私はまた眠るフリをした。
だから私はまた眠るフリをした。
…欠けて行くことも、まん丸になっていく事も無い。
ライトに照らされて光る、借り物の月でも。
手を伸ばしたら簡単に届いてしまう、追いかける必要のない月でも。
私の欲しい、ほんとうの月だと思う事ができなくても。
それでも、月は月なだけで……きっと綺麗なのは変わらないんだ。
ライトに照らされて光る、借り物の月でも。
手を伸ばしたら簡単に届いてしまう、追いかける必要のない月でも。
私の欲しい、ほんとうの月だと思う事ができなくても。
それでも、月は月なだけで……きっと綺麗なのは変わらないんだ。
───きっと、夜明けが来れば消えてしまうのは本物の月と変わらないけど。
───その時が来るのは遠ければいいな、そう思える位に。
───その時が来るのは遠ければいいな、そう思える位に。
【E-3 モチノキデパート/一日目/放送前】
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:ネモさんが乃亜君を倒すのを邪魔する。そうしないと、さとちゃんを助けられない。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:ネモさんが乃亜君を倒すのを邪魔する。そうしないと、さとちゃんを助けられない。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、
改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業、マリーンの腕章@Fate/Grand Order
[思考・状況]基本方針:対主催。
0:一旦ネモ達と同行して、ジャックが来るか暫く待つ。
1:ネモを信じる。私を信じてくれる彼を守りたい。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す。
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か。梨沙、怒ってないかしら。
5:藤木と偽無惨は殺す。
6: マサオもついでに探す
7:ニケの言ったことは、あまり深く考えないようにする。
8:ネモ、やっぱり消えるのね
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」の効果が強化されました。
参加者や支給品を除いた物の破壊の点が見えるようになっています。
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、
改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業、マリーンの腕章@Fate/Grand Order
[思考・状況]基本方針:対主催。
0:一旦ネモ達と同行して、ジャックが来るか暫く待つ。
1:ネモを信じる。私を信じてくれる彼を守りたい。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す。
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か。梨沙、怒ってないかしら。
5:藤木と偽無惨は殺す。
6: マサオもついでに探す
7:ニケの言ったことは、あまり深く考えないようにする。
8:ネモ、やっぱり消えるのね
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」の効果が強化されました。
参加者や支給品を除いた物の破壊の点が見えるようになっています。
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]健康、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)
[装備]シャベル@現地調達、ハーピィ・ガール@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
5:フランはちょっと怖い。でも…悪い子ではないと思う。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
[状態]健康、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)
[装備]シャベル@現地調達、ハーピィ・ガール@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
5:フランはちょっと怖い。でも…悪い子ではないと思う。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
112:狂気と惨劇の舞台へ | 投下順に読む | 114:死嵐注意報 |
時系列順に読む | ||
109:束の間の休息 | 神戸しお | 121:INSANE |
フランドール・スカーレット | ||
的場梨沙 |