コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

死嵐注意報

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
目を醒まして早々、藤木茂と言う少年を襲ったのは絶望だった。




「ど…どうしよう、どうしよう……まだ一人も殺せてないよ………」



唇をこれでもかと青くして、震えながらうわ言をぶつぶつと呟く。
不味い。もう少しでシュライバーとの約束の時間が来てしまう。
それなのに自分はまだ一人も殺せていない。
シュライバーとの約束を違えれば、永沢君は助けてもらえない。
それどころか、自分まで殺されてしまう。
嫌だ。殺されたくない。死にたくない。何で僕がこんな目に。
ネモが悪いんだ。あいつが邪魔をするから…!殺してやりたい。
あぁでも今は僕の命が危ないんだ。どうすればどうすればどうすれば────


ぐるぐると思考の堂々巡りに陥る藤木に、たった一人声を掛ける者がいた。
彼の隣に佇む少年──鬼舞辻無惨。正体を魔神王と言う怪物は、諭すように藤木に告げる。
まだ諦めるには早い。放送を過ぎても、約束した人物と出会う前に首輪を集めればよい。
そう言い聞かせるように魔神王は語ったが、藤木にとってそれは安全圏からの無責任な物言いに思えてならなかった。


(そうだ…もとはと言えば無惨君が僕を口車に乗せたからじゃないか……)


あの時無惨の言葉に乗らなければ、きっと上手く行った。
もっとネモ達を信用させた上で不意打ちし、首輪は集まっていただろう。
なのに、それなのに。藤木の中で八つ当たりめいた黒い炎が灯る。


(無惨君を殺して首輪を奪えば………)


それで一つ、まだまだ厳しいモノの、足しにはなるだろう。
無惨の言葉の通り、放送後でもシュライバーに見つかりさえしなければ何とかなる。
今の流れが変わる可能性は、十分あるように藤木には思えた。
バチリと、彼の掌で雷の火花が散り。行くぞ、と心の中で言い聞かせる。
それを皮切りに────恐怖が、訪れた。



「私を殺しますか?」



実ににこやかに、無惨は藤木にそう尋ねた。
図星だったために一瞬言葉に詰まる物の、そうだと返事を返そうとする。
そして───体中が寒く、震えている事に気が付いた。


「う、うわあああぁああああぁああッ!!」


絶叫。
ちらりと視線を下に向けてみれば、感じた寒気は精神的な物だけではなかった。
一瞬にして、瞬きの間に、彼の下半身は凍結していたからだ。
何か閉じ込められているように、体を雷に変えて脱出する事も出来ない。


「どうしたんですか。死にたくないのでしょう?」


だったら、頑張らないと。
引き絞られた無惨の口の端は、耳元まで届きそうな程裂けていて。
彼が一歩踏み出すごとに、ぱきぱきと世界が凍り付いていく。
化け物。目の前の少年に対して、藤木が思うのはその一言だった。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い───
誰か助けて。ウルトラマン、仮面ライダー、神様仏様お釈迦様、悟空……
あらゆるヒーローや神仏に祈りをささげたが、誰一人として来る気配は無かった。
勝てる相手ではなかった。なのに自分はどうして殺そうなんて考えたのだろう。
シュライバーや無惨の様な絶対的な強者を前にして、やるべき事なんて決まっているのに。




「お、お願い……何でも言う事聞くから…もう逆らわないから……許して……殺さないで」



命乞い。
絶対的な捕食者を前に、藤木ができる事などそれくらいの物だった。
そして、結果的に命乞いは功を奏した。
無惨は先ほどまでの笑みから子供らしい微笑に表情を変え、藤木の耳元で優しく囁く。
落ち着いて、氷の内部に展開して貴方を閉じ込めていた魔力はもう解きましたから。
後は、雷に変わるだけで大丈夫、と
指示の通り雷に身体を変化させると、電熱であっさり氷の戒めは溶け墜ちた。
だが藤木の心は晴れない。ただ無力感だけが彼の胸中に渦巻き、項垂れる。
そんな彼の心の闇に付け込む様に、悪魔は誑かす。



「許せませんか?」
「……許せ、ない?」
「えぇ、折角上手く行きそうだった襲撃を邪魔した。あの船乗りが」
「船乗り……ネモ………」


いけすかない少年の顔を思い出し、藤木の心に黒い焔が燃え盛った。
そうだ。あいつさえ邪魔しなければ全部上手く行っていた。
自分はシュライバーに脅されている被害者なのに。優しくしなければならないのに。
それなのにネモは対峙した時、此方を見下げ果てた目で見つめていた。
自分は友の為に……永沢の為に戦っているのに。
綺麗ごとを抜かすなら、友達の為に必死で戦っている自分に命を差し出すのが筋だろう。
なのに邪魔をして、彼奴さえ、余計な事をしなければ。


「あいつさえ……いなかったら………!」


ドス黒い逆恨みの炎は一瞬で燃え広がり、藤木少年の心を黒く染め上げた。
ネモの顔を何度も引き裂いて、踏み躙る昏い妄想に頭の中を浸す。
そんな彼の様子を見て、ほくそ笑みながら魔神王は告げた。
ならば復讐を果たしに行きましょう、と。



「うん、も…勿論さ、ふふふ………」



圧倒的な恐怖。それから来る攻撃性。そしてネモへの復讐心。
これだけ揃えば、藤木の良心など紙細工も同然だった。
黒い炎にあっという間に焼き尽くされ、灰となって何処かに散っていく。
後に残るのは、臆病で子供らしい身勝手さの道化が一人。
創り上げた作品を前にして、魔神王は幾度目かの愉悦の笑みを零した。
そして、周囲に微かに霧の魔力の残滓が漂う方向へ視線を向け、愚者の扇動を行う。


「では、参りましょう」


何処に行けばいいかは、霧が案内してくれるでしょうから。
鬼舞辻無惨が決して浮かべぬであろう、爽やかな微笑と共に。
次なる凶事を予感させる言葉を、魔神王は口にした。
言っている事の意味は分からないが、藤木も心の底から信頼した様子で笑い返し。
そして、先を歩く魔神王についていく。親を追いかけるひな鳥のように。
絶死の海岸線に向かうレミングのように。
その行いが今度こそ引き返せぬ泥沼に沈むやもとは、考えもしないで。




……結局の所、藤木茂は奴隷だった。
常に誰かの思惑に影響を受け、動かされる奴隷だった。
それも自分が奴隷である自覚さえ殆どない、生粋の奴隷だった。
だが例え彼は自分が奴隷であることに気づいても、何もしないし、できないだろう。
自分の意志で歩く自由は、誰も自身の行動が正しいと保証してくれない恐怖と表裏一体
翻って奴隷でいることは楽だ。深く自分の行動について考えなくてよい。
自分の行動が正しくないのではないのかと言う疑念とは無縁でいられるし。
何か不都合が起きれば他人のせいにすることが出来る。被害者でいる事は楽なのだ。
だから藤木茂はこれからも、誰かの被害者であり、自身を持たぬ奴隷であり続ける。



【D-4/一日目/昼】

【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:気絶、ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、自己嫌悪、ネモに対する憎悪
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、拡声器(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)、賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:何とかシュライバーとまた会うまでに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる。無惨君(魔神王)についていく。
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う。
3:無惨(魔神王)君と梨沙ちゃんを殺しに行く。
4:僕は──神・フジキングなんだ。
5:梨沙ちゃんよりも弱そうな女の子にすら勝てないのか……
※ゴロゴロの実を食べました。
※藤木が拡声器を使ったのは、C-3です。


【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(極大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:いいだろう。誘いに乗ってやろう。
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:藤木を利用して人間どもと殺し合わせる。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。




畑のレストランの栽培は、一言で言って上手く行った。
鰹節の一番だし。カツオブシチップス。おかかおにぎり。
ゼオンの望むオーダーを、22世紀の未来科学の産物は見事に答えてみせたのだ。
おかかおにぎりを一つ取り、あんぐりと口を開いて豪快に齧り付く。


「うん、美味い。美味いな………」
「おいしーね!」


ゼオンの傍らでハンバーグを手づかみで食べるジャックの顔も、笑顔そのものだった。
どうやら、魚介系だけでなく肉も完璧に再現しているらしい。
どういう原理で調理済みの状態で出されているのかは皆目見当もつかないが。


「いいなァ~……それ、俺も欲ち~ぃ」


舌鼓を打つ二人を、物欲しげに見つめる三人目。
ガムテは涎を垂らしながら、人差し指を口の端に当てて強請る。
だが、ゼオンは肩を竦めて、嘲笑うように言った。


「あぁ、俺の手足として働くなら下賜してやらんでもない。
………尤も、それはお前が使えるかどうか次第でもあるがな」


両者の利害は一致している。
同じく優勝を目指し、殺し合いに勝ち残る為に殺戮に興じるスタンスだ。
狡猾に、冷徹に、消耗を避けるために手を組むことも厭わない。
シュライバーの様な誰でも構わず噛みつく狂犬とは決定的に違う。
そう言う視点から言えば、お互い拒む理由は無いと言えた。
だがそれはあくまで組むに値する旨味を感じる事ができる相手に限る。
お互いに、足手纏いは必要ないのだ。
だから、ゼオンは欲していた。目の前の相手が組む値する実力を備える証明を。



「ん~~~使えるか、ねェ………」



ぽりぽりと、頭を掻いて。
ガムテは今しがた自分が言われたことを咀嚼する様に反芻する。
そのすぐ後、彼は「よしッ」と一言気合を入れて。


「ほんじゃあ……こういう余興(ボケ)はどーお?」


言葉を言い終わると同時に、ガムテの姿が掻き消えた。
目にも止まらぬ速度の更に先、目にも映らぬ速度で以てして。
ゼオンが座るカフェテリアのテーブルの周辺を、駆けまわっているのだ。
それに伴い、周囲にラップ音とよく似た、空気の爆ぜる音が絶え間なく奏でられる。
ゼオンの背筋に飛来する殺気。思わずその手の刀を握る力が強まり。
一際近い位置でラップ音が鳴り響くのに合わせ、彼は握り締めた鮫肌を振るった。

刀と言うよりも、生きた巨大な鮫を刀にして振るっている様な大刀。
ゼオンの背丈の優に3倍はある鉄塊染みた忍刀が、空間を疾る。
大気が震えた様に、周囲に突風が吹き抜け。
同時に不可解な現象が起きた。
一向に破壊音が訪れない。無音なのだ。
見る者がいれば確実に何かが起きた事は確信できる状況であるのに。
その異変を示す、音の一切が存在しなかったのだ。


「………成程な」



ゼオンからすれば、これで壊してしまっても構わなかった。
大刀がガムテの五体を粉砕しても、ただ期待外れの烙印を押してそれで終わっただろう。
だが、現実は彼の想像を超える光景を創り上げた。
躱された訳ではない。であれば地面やテーブルを抉った破壊音が響いていた事だろう。
受け止められていたのだ。刀剣と言うより戦槌と呼ぶ方が相応しいその大刀が。
ぴたりと、一本の刀の前に静止していた。
戦闘用の本意気で振るった刃ではない。だが音すら奏でる事無く受け止められるとは。
そう、正しく攻撃が断末魔の叫びすら上げる事無く“殺された”様な────


「俺が接近に気づかなかったのは……」
「あぁ、偶然(マグレ)じゃないよん☆」


戦えば勝利を収めるのは自分である。その認識は全く揺らがないが。
それでも恐るべき技巧だと、ゼオンは無表情の裏で驚嘆せざるを得なかった。
紛れもなく、身に着ける事に生涯を捧げやっと至れる領域の技巧(スキル)の持ち主。
評価を下す。目の前の道化は味方に加えるに相応しい実力者だと。
同時に、決して隙も見せられない、油断ならぬ相手でもある事も確信した。


「いいだろう。野放しでは単なる気狂いでも、王が飼えば歴とした賊だ。使ってやる」
「承諾(おけまる)。んじゃあ今後ともよろぴくゥ~!」
「うん、よろしくねー」


ゼオンは、ガムテとの結託を受け入れた。
ジャックも特に憚る事無く、あっさりと了承の意志を示し。
傍らのジャックの手を取って、ぶんぶん振りながらお道化るガムテ。
その様を見て、ゼオンはやはりこいつただの馬鹿なんじゃないかと言う思いに駆られた。
その二秒後に、彼がどっかとカフェのテーブルに腰掛けて。
そしていつの間にか手にしていた“おかかおにぎり”を口にするのを見るまでは。
反応できぬ速さに依る物ではない。手品のミスディレクションの様な手法を用いたのだ。
ゼオンのパートナーがいたらそう看破していたに違いない。
やはりただ見下せる相手ではない。ゼオンは改めて思い知らされる。
そんな彼に、おにぎりを半分ほど一口で口に入れ咀嚼しつつ、ガムテは尋ねる。


「で?折角友達(ダチ)になったちィ~?死亡遊戯(ゲーム)の相談ちたいなァ~、俺」


ごくりと咀嚼していたお握りを嚥下して、ニカッと不気味な笑みを浮かべるガムテ。
彼の視線はゼオンの紫電の瞳に向けられ、次いでデパートの方へと移動した。
目は口程に物を言うというがその言葉の通り、殺しの王子様の視線は雄弁だった。
当然、お前もデパートに複数の人の参加者(カモ)が集っているのは把握しているだろ?
そう彼の狂気を宿した瞳は語り、ゼオンに発言を促してくる。
標的(タゲ)が雁首を揃えている中、どうするね?と。


「ジャック」


ガムテが見据える中、ゼオンはもう一人の己の手足の名を呼んだ。
呼称にぴくりと反応したジャックはずぞぞぞと一緒に収穫したジュースを飲み干して。
そして、己の成果を報告する。


「うん、えっとー……あの大っきいたてものには多分、全部で八人くらいいたよ
つよそーなのはその中で四人くらい。一番こわいのは前にも見た青いふくの人かな。
ほら、少し前にゼオンがしょうぶした………」
「あいつか………他の参加者はどうなってる?」
「他の三人もサーヴァントくらい強いけど、一人一人ならゼオンが勝つよ」
「後は雑魚か?」
「うん。わたしたちのおやつ」


畑のレストランの実が収穫可能になるまでの時間で、ジャックは近辺に斥候に出ており。
デパートに他の参加者が集まっているのに気づいたのは、その成果だ。
こっそり潜入を行い、集まった者を一人一人観察。
全員の人数と戦力だけ確かめて、見事気取られる事無く帰還を果たした。
本当なら一人か二人殺しても良かったが、流石に単騎では一団と戦力差がありすぎる。
万が一のリスクを考え、手を出す事無く素早い撤収を彼女は選んだ。



「……気取られてはいないだろうな」
「うん、青いふくの人以外はだいじょうぶだと思う」


彼女の暗殺者としての能力を示す気配遮断のランクは最高位であるA+。
暗黒霧都の宝具を開帳せずとも、戦闘に入らなければまず気取られる恐れはない。
唯一、青いコートを纏った金髪の少年だけは迂闊に近づく事はできなかったが…
仲間に自分の存在を伝えている様子も無かったため、問題は無いだろう。
その旨をデパート内の人員、戦力を含めて彼女は余す所なく仮初の主に報告した。


「へぇ~一人で潜入(ソリッド)とかスゲ~じゃぁ~ン☆」
「えへへへ……そう、わたしたちすごい?」
「おぉ~よ!偉大(パネ)ェぜ、ジャックゥ~~~!!!」


隣で話を聞いていたガムテはジャックの手を取り、タンゴの如く軽やかにステップを踏み。
割れた子供達(グラス・チルドレン)に勧誘(ドラフト)したい位だと彼女を褒めた。
対するジャックも、目の前の相手が友好的である事を認識し、きゃっきゃと喜ぶ。
生まれそこなった幾万の水子であるジャックと。
ガムテが王として冠を被る殺し屋集団、割れた子供達は非常に近しい存在だ。
時代が違えば何方かが何方かの一員になっていたかもしれない位には。
彼等は子供としては共通して最底辺の、卑賤の徒であった。
だからこそ、短時間で打ち解けるのは必然だったのかもしれない。



「………………」



二人のやり取りを冷めた視線で見つめつつ、ゼオンは無言で考えを巡らせる。
考える事は即ち襲撃を行うかどうか。
現時点では、流石に三人だけで挑むにはリスクが高いと言わざるを得ない相手だ。
特に、極まった領域の念動力を扱う青コートの少年が目の上の瘤だった。
つい先程は漁夫の利を得る形でゼオンは勝利を収めたと言えるが。
相手の手勢が豊富な状況で、真っ向から挑むのは非常に危険を伴う。
欲をかいて、手痛い反撃を受けるのは望むところではなかった。
出来る事なら、青コートは此方に有利な状況に誘い込んだ上で挑みたい。
それ故に今回は敬遠する他は無いか……そう決断しようとした時だった。
もう一つ、ジャックからの報告が入ったのは。


「あぁ、あとねー……さっきゼオンがしょうぶした氷を使う子も、近くにいたよ」


その言葉は、ゼオンが下し駆けていた方針の風向きを大きく変えるモノだった。
「なにっ」と声を上げて、すぐさま詳細を話すように促す。
こくりと頷いてから、ジャックはデパートの屋上に上がった際に確認した氷使いの敵。
魔神王が近辺にうろついている事を語った。
姿形こそゼオンが交戦した時とは性別からして変わっていたが。
気取られない程度の距離まで接近し確認した所、魔力が既知の物である事に気づいたのだ。
冷気を纏った強大な龍種の魔力が、ごぼうの様な少年の傍らに佇む者から漏れ出ていた。
言うまでも無く、魔神王が取り込んでいたデモンズエキスが放つ魔力である。
それが無ければ恐らくジャックは氷使いの少女と、その少年が同一人物である事に気が付かなかっただろう。


「ぜったいその氷の子かは分かんないけど…たぶん、そうだと思う」


偶然にも助けられ、ゼオン達は魔神王が近くにいる事を知った。
あの青いコートの少年とも真っ向から渡り合うマーダーが近くにいる。
これは使えるな。ゼオンは鮫のような歯を剥き出しにして笑いジャックに尋ねる。


「ジャック、お前の霧を使えば、奴らをデパートの方へ誘導できるか?」
「さぁ?でも……うーん……たぶんできると思うよ。
その子があの大っきいたてものの所まで行ってくれるかはわかんないけど」
「十分だ、行かなかったその時は勝負を降りればいい。火中の栗は奴に拾わせる
あの青コートさえいなければ、朝方手に入れた支給品で分断できるだろう」



この瞬間、ゼオンの方針は確定した。
当初は捨て駒(ルサルカ)を使い、一人か二人でも削れれば儲けものと思っていたが……
青コートと潰し合わせる手駒がいるのなら、話は変わって来る。
三つ巴の混戦に持ち込めば、自由自在に霧を操れるジャックがいる此方が有利だ。
分断も撤退も、視界の効く自分達の思うがままなのだから。
分断方法についても、既に青コートの少年から手に入れた支給品で当てがある。
「ブラックホール」及び「ホワイトホール」と銘打たれた二枚のカード。
これ等とジャックの霧をうまく使えば、相手が一大集団でもさして怖くはない。
強者を各個撃破するか、或いはジャックの言う弱者を一網打尽にするか……
計算を巡らせるゼオンだったが、蚊帳の外のガムテは当然意図が分からず憤る。


「ちょっと男子ィ~俺だけ仲間外れで話進めてんじゃねーよ。殺っちゃうゾオラッ!」


ぷんぷんと腹を立てた様子のガムテに、平坦な声でゼオンは説明を行った。
放送後にジャックの能力の霧を出し、それで近場にいる腕利きのマーダーを誘導する、と。
件のマーダーとデパートの集団を潰し合わせ、頃合いを見て自分達が横合いからブン殴る。
意図的に乱戦の状況を作り出し、生まれる利益は此方で総浚い。
ファウード強奪を目論んだ時と同じ、慎重かつ狡猾な策だった。


「ふーん…了解(りょ)。けどよォ~、誘導するまでに察知(バレ)ねぇといいけどなァ」


話は大方飲み込めたが、問題も見受けられた。
突然霧何て出てきたら、デパートにいる連中も勘づくだろう。
その時点でデパートを引き払われたり、自分達の存在を看破し向かってくる恐れもある。
そうなれば面倒だが、その対策はあるかとガムテは躊躇なく尋ねた。
現時点では、とても命を預けるに足る作戦ではないと見受けられたからだ。
彼の懸念に、当然考えているとゼオンは即座に言葉を返す。


「ルサルカと言う雌猫を傀儡にしてある。
そいつをけしかけて、氷使いの女の誘導が成功するまで目くらましとして働いてもらう」


放送後、タイミングを見計らって傀儡にしてあるルサルカをデパートの連中に特攻させる。
この襲撃は成功しようとしまいと何方でもいい。元より期待はしていない。
引き付けている間にジャックの霧を展開し、氷使いのマーダーをおびき寄せるのが本命だ。
襲撃に成功し後戻りでき無くなれば、そのまま飼い続けてやってもいい。
逆に制圧されるか、氷使いのマーダーの誘導に失敗した時は容赦なく斬り捨てる。
バルギルドザケルガの出力を最大まで引き上げ、敵の廃人(おもに)に変えてくれよう。


「嘲笑(くさ)、また負けてたのかあの雑魚年増(かませババア)」


ゼオンの話から傀儡にされたルサルカと言う女は、自分が刺した女だという事に気づき。
ガムテはどんだけ負け続けるんだあの女と思わずにはいられなかった。同情はしないが。
ともあれ、話は理解した。理解した上で、それなら乗ってもいいとも思えた。
要するにこれは釣りだ。ジャックの異能(チート)を餌に、敵を釣り上げる試みだ。
となれば、後残る問題は───


「話は分かったけどさァ、ちゃんと釣れっかなァ?」
「奴が直接釣れなくても、青コートが動けばそれで問題はない。逆も然りだ」


一度交戦したから分かる。あの氷使いと青コートは顔を合わせれば戦わずにはいられない。
近しいが、決して相いれない存在だ。それが直ぐ傍に現れれば無視できるとは思えない。
加えてジャックの報告では、デパートにいる者でゼオンに迫る強者は青コートの少年のみ。
他にもライダーのサーヴァントや吸血種が二体いるものの。
ルサルカや非戦闘員も多くいる為、霧を出して分断すればさして脅威ではない。
氷使いの少女と青コートの少年がぶつかる様に誘導できれば、事は成ったも同然。
何故なら、青コートの戦法は影響範囲が大きすぎる。
乱戦になれば流れ弾で徒党を組んでいる相手が死にかねない。
それ故に、ひとたび戦闘が始めれば羊たちは自分から羊飼いから離れなければならなくなるのだ。



「後は横合いから殴りつけ総浚いする…可能ならあの青コートの首もいただく」
「キャホッ☆そう来なくっちゃなァ~!
放送(ホイッスル)が鳴ったら死亡遊戯(カチコミ)の時間だァ~www!!」


猿の様に手を叩き、ぴょんぴょん跳ね回るガムテ。
本来彼は殺し屋として殺しを行う舞台には拘る性質(タイプ)だ。
狡猾に、入念に、殺し屋として相手の事を探り上げた上で勝負に臨む。
だが忍者すら超える異能力(チート)跋扈するこの戦場では。
彼もまた、積極的な攻勢に出ざるを得ない。
彼は薬(ヤク)と天才的な殺しのセンスだけで、この殺し合いを渡っていける実力はある。
だがしかし、そこ止まりだ。優勝には決して届かない高い壁が彼の前に横たわる。
そう、あのウォルフガング・シュライバーの様な。


(けどよォ~それもこの世界を支配してる悪魔(ノア)次第だよなァ……)


どれだけシュライバーが強かろうと、首輪を嵌められている以上乃亜には勝てない。
この殺し合いを制するのは強者ではない。最も悪魔(ノア)を味方につけた者だ。
乃亜は何よりも血を、死亡遊戯(ゲーム)の完遂を望んでいる。
それ故に、あの子供の望み通りに踊れば、それだけ恩恵を受けられる可能性は上がる。
本来なら決して勝ちえぬ相手を下す魔法(チート)をも授けられるかもしれない。
この催しがシュライバーが主賓の虐殺でない限りは。
では、それを目指すにあたって乃亜が望む踊り方とは何か。


「勿☆論☆
殺す択一(タクイチ)よなァ~…」


殺す。優勝への道を阻む相手を悉く殺し尽くす。
ガムテが今まで歩んできた人生と何も変わらない。
だから彼は今後も殺す。例え金色の王と一時の共闘に興じようとも。
その共闘が彼の生きてきた手段を変える事は決して無い。
だから殺しの王子さまは何時もの通り、道化の振る舞いで凶行に及ぶ。
……それ以外の生き方を選ぶには、金色の出会いは余りにも遅かった。


「何人解体できるかな~」
「あぁ、ジャック。キックオフと同時に殺(ヤ)り放題(ホ)だぜ。競争するゥ?」
「うん!!」


ジャック、ガムテ共に士気は高い。
殺戮のプロである彼らは両者共に、分かっているからだ。
氷使いのマーダーの誘導さえ成功すれば、勝てる殺しだと。
そうでなければ、幾ら必要があると言っても安易に勝負の卓に着いたりしない。
彼らは戦闘を望む戦士ではなく、殺戮をこそ望む殺し屋(アサシン)なのだから。



「………フン」



ゼオンは殺す者同士馬が合うのか盛り上がる二人を、ゼオンは蔑みの視線で見つめた。
それも当然である、彼は王子であり、目指すのは次なる王の椅子だ。
古来より暗殺者とは王の障害を秘密裏に始末する低俗の存在。対等には成りえない。


「放送後に氷使いの魔物の誘導に成功次第襲撃に移るぞ、準備をしておけ」
「あの影を使う魔術師の子はどうする?」
「あの女は捨て駒だ。最初から当てにしていない。
目くらましの役目が終わり次第、術の効果を最大まで引き上げて精神を破壊する」


襲撃を成功させればまた扱いも考えるが、十中八九そうはならないだろう。
その判断から、既にゼオンはルサルカを切り捨てる決定を半ば下していた。
非情を超えて外道の領域に踏み込む判断だったが、異を唱える者はこの場に誰もいない。
ただどうせ使い捨ての道具なら役に立ってくれればいいな、と思う程度だ。
だがガムテは敢えてこの時、道化として王子に意見を行った。
ちっちっち、と人差し指を左右に振って、欠けた歯を覗かせながら彼はニカっと笑い、




「襲撃(カチコミ)についてはいいけどさァ、一個悪童(ワルガキ)として意見しちゃう」
「………何だ」
「言い方が赤点(ダメダメェ)。気合入れたきゃ言うもんだ。王子(プリンス)」


耳打ちを行い、ごにょごにょと意見を吹き込むガムテ。
それを聞いて、ゼオンは「貴様ら等と一緒にするな」そう反応したモノの、しかし。
少し考えた後、その手の大刀をびゅうと振るい。
ギザギザと鮫のような歯を獰猛に覗かせた笑みを形作り、宣言を発する。
王を目指す王子ではなく、一人の悪童(ワルガキ)として。
血と死を呼ぶ前触れとして。



────備えろ。時が満ちると共に、悪事(ワル)さをかますぞ。



何方が生存(いき)るか死滅(くたば)るか。
そんな時間が、再びやって来襲(く)る。




【E-2 /1日目/昼】

【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、ジャックと契約、魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、
「ブラックホール」&「ホワイトホール」のカード@遊戯王DM
ランダム支給品4~6(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
0:放送後に氷使いのマーダー(魔神王)を釣り、デパートの連中と潰し合わせる。
1:ジャックを上手く使って殺しまわる。
2:放送後、雌猫(ルサルカ)を餌に釣りをする。用済みになれば雷で精神崩壊させる。
3:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
4:ガムテは使い道がありそうなので使ってやる。ただ油断はしない。
5:ジャックの反逆には注意しておく。
6:ふざけたものを見せやがって……
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。

【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order】
[状態]健康、満腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、探偵バッジ×5@名探偵コナン、ランダム支給品1~2、マルフォイの心臓。
[思考・状況]基本方針:優勝して、おかーさんのお腹の中へ還る
1:お兄ちゃんと一緒に殺しまわる。
2:ん~まだおやつ食べたい……
3:つり、上手く行くかなぁ?
4:何人解体できるかな~♪
[備考]
現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。カルデア所属ではありません。
ゼオンと仮契約を結び魔力供給を受けています。
※『暗黒霧都(ザ・ミスト)』の効果は認識阻害を除いた副次的ダメージは一般人の子供であっても軽い頭痛、吐き気、眩暈程度に制限されています。
※デパートにいる人員を確認しました。


【輝村照(ガムテ)@忍者と極道
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×9@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ゼオンと組んでデパートの連中をブッ殺す。ゼオンもそのうち殺す。
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
5:じゃあな、ヘンゼル。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。


『ブラックホール&ホワイトホール@遊戯王デュエルモンスターズ』
絶望王にセットで支給。
『ブラックホール』
発動時にフィールドのモンスターを全て破壊する魔法カード。
効果はモンスターカードのみに適用され、参加者や意志持ち支給品には適用されない。
ただ乃亜の調整により本ロワでは参加者に適用される効果も存在し、このカードの発動時、
その場の参加者全員はブラックホールに飲み込まれ、会場のランダムの場所に転送される。
一度使用すれば12時間は使用不能となる。
『ホワイトホール』
相手が「ブラック・ホール」を発動した時に発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスターは、その「ブラック・ホール」の効果では破壊されない。
ブラックホールと同じく、本ロワでは参加者に適用される効果も存在する。
このカードを発動すると、ブラックホールの効果を受けた参加者一人一人の転送先を、
任意の場所に変更する事ができる。
一人を遠くに飛ばし、それ以外を纏めて同じ場所に転送するなどの応用も可能である。


113:It's Only a Paper Moon 投下順に読む 115:第2回放送
時系列順に読む
101:神を継ぐ男 藤木茂 121:INSANE
魔神王
110:ルサルカ・シュヴェーゲリンの受難 ゼオン・ベル
ジャック・ザ・リッパー
輝村照(ガムテ)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー