コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

我らは、姿なき故にそれを畏れ

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イリヤスフィール・フォン・アインツベルンによって、吹き飛ばされた先。
I-5の海岸線にて、冷たい海水に身を浸しながら、漂う。
仰向けの体勢で嫌になるほど青い空を仰ぎ、孫悟飯は小さく息を吐いた。
最後の、相打ち気味に受けた攻撃のせいで、致命傷では無いだろうが、体中が痛む。
疲れてもいるし、休まなければヤミとの初戦の二の舞になるだろう。


「どうして……僕は………」


分からなかった。
どうしてイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよりもずっと強かった自分が。
彼女よりずっと大きな気を放っていた筈の自分がこうして吹き飛ばされ、漂っているのか。
そして、それ以上に。何故自分は……あの少女を。
卑怯者で狡猾なマーダーである筈の少女が放った光を、眩く思ったのか。


「……でも、もう終わった話か」


イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは死んだ。
自分のかめはめ波で消し飛んだ。それは間違いない。
だからもう、もう一度彼女に会って確かめる事は出来ない。
ざぁん、と言う音を耳が捉える。体ももう、波間に揺れてはいなかった。
どうやら潮の動きで自動的に浜辺へと打ち上げられたらしい。
孫悟飯は寝そべったまま、これからどうしようかと考えた。
がり、と首に指を添え、一掻きしながら独り言ちる。


「少し休んで…取り逃がした奴らを殺さないと………!」


方針に変更はない。
最後にドラゴンボールで全てを救うために、全員を殺す。
今回取り逃がした奴らはもう逃げてしまっただろうから、優先的に殺す。
絶対に逃がさないし、他の参加者も父以外の者は全員殺す。
父になら、全てを託せられる。病気で自分が斃れても、後を託すことができる。
自分がやるべきことは、父が通る道の大掃除だ。彼は既にそう決めていた。
でも、それには辛い選択をしなければならなかった。



「お父さん、すみません……今は、お父さんに会えません」



父は、自分の選択を許さないだろう。止めようとするだろう。
本当は、ずっと会いたかったけれど。全てをかなぐり捨てて会いに行きたかったけれど。
それでも、今は会う事が出来ない。これだけは、自分がやらなければならない仕事だから。
のび太を殺してしまった自分が為さなければならない使命だから。
この島に未だいる屑共を根絶やしにするまでは、会うことはできない。
でなければ、自分は自分の犯した失敗をどう取り返せばいいのか分からない。
だけれど、今父に会って自分がやろうとしている事を否定されてしまったら。
もう何もかも分からなくなって、自分が父を───殺してしまうかもしれない。
そうだ、お父さんにだって、僕のやろうとしている事は止めさせない。
でもできる事ならお父さんは殺したくはない。だから会えない。
がり、がり。また指を首に添えて。矛盾し、破綻した結論を、孫悟飯は導いた。



───私は諦めない。のび太さんが、最後まで悟飯君を助ける事を諦めなかったように。



もう一度、自分を救おうとしていた少女の事を想起する。
押しただけであっさり死んだのび太と違い、最後まで自分に食らいついてきた少女。
自分を助けるのを諦めないと宣言した少女。彼女も……もういない。
美柑も、のび太も、イリヤもいない。
自分を救おうと言う者も。自分が守らなければいけなかった者ももういない。
今の孫悟飯は自由だ。どこまでも自由に、自分の為に力を振るう事ができる。
けれど、今の彼は動かなかった。動けなかった。疲れたからだ。
肉体のダメージもある。次の殺戮に向かうまで、眠りはせず。しかし瞼を閉じて呟く。




「僕…頑張りますから…ちゃんと全員殺しますから…………」



だから、今だけこうして瞼を閉じる事を許して欲しい。
そう願いながら閉じた瞼の裏に映るのは、どこまでも空虚な闇だけだった。
陽の光も月の光も届かない。



───真っ暗な闇の中で。残響の様にカナカナと、ひぐらしが鳴く声が聞こえた気がした。



【一日目/日中/G-8 海岸線】

【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:ダメージ(中)、自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、
雛見沢症候群L4(限界ギリギリ)、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、全員への嫌悪感と猜疑心(絶大)、首に痒み(中)、絶望
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0~1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:全員殺して、その後ドラゴンボールで蘇らせる。
0:全員殺す。敵も味方も善も悪もない。
1:お父さんには...会いたくないな。
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群の影響により、明確に好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑っています。




────12時間使用。

北条沙都子がぱちり、とスイッチを入れられた家電の様に目覚める。
体を起こすと、そこは先ほどまでいた死地ではなく。
どこか、知らない民家の一室にいつの間にかいたらしい。
折れた左腕に痛みもなかった。
目をぐしぐしと擦って、本格的に意識を覚醒させようとした所で、声を掛けられる。


「起きたかい」


声を掛けられた方を見てみれば、朝に別れた同盟相手──メリュジーヌが佇んでいた。
沙都子は最初、メリュジーヌが自分を此処に避難させたのかと思ったが。
尋ねてみると彼女は首を横に振るい、無言で沙都子の傍らを指さした。
促されるまま視線を動かすと、カオスが沙都子の傍らで瞼を閉じていた。


「相当無理をしたみたいだからね。一時的に機能停止して自己修復をするらしい
再会した時は大変だった、沙都子お姉ちゃんを助けてって、彼女はしきりに言ってたよ」
「そう…ですか」


メリュジーヌに返事を返しながらも、沙都子は驚きを隠せなかった。
この天使の少女が、自分を発狂した孫悟飯から逃がすことに成功したのか。
この地で出会った、いずれ殺しあうであろう自分の為に。
沙都子は仄かに複雑な感情を抱きながら、隣で修復を行うカオスを撫でる。


「それで?まだ生かしているという事は、
私はまだメリュジーヌさんにとって利用価値があるという事でよろしいんですの?」


カオスを撫でたまま、メリュジーヌの方を見る事無く問いかける。
その内容は彼女が今の自分をどう捉えているかの確認だ。
何故なら、沙都子は現状メリュジーヌに切られても何ら不思議ではないと考えている。
それほどまでの失態。それほどまでの失敗を彼女は犯したのだから。



「全く、あの中で一番有利だったはずなのに、
蓋を開けてみれば一番の貧乏くじだなんて。欲をかくものでは御座いませんわね」



肩を竦めて、自嘲する様に沙都子は自らの失敗をそう評した。
悟飯の症候群進行には何とか成功したが。成果はそれだけ。
ドロテア達の排除と悟飯への扇動は殆ど失敗したと見て良いだろう。
イリヤ達がどうなったかは分からないが、美柑の暴露もある。
彼女等が生き残っていたとしても、再び潜り込み隠れ蓑にできるかは望み薄か。
シカマル達が逆側のエリアで自分の悪評を広めているのを考慮すれば。
ほぼエリアの全域で北条沙都子は警戒すべきという悪評が広まり切るのは時間の問題。
ならばメリュジーヌが沙都子に対し、利用価値はないと判断してもおかしくはなかった。


「そうだね…カオスがこれを回収して無ければ切っていたかも」


そう言って、メリュジーヌは目覚まし時計のような代物を取り出して見せる。
カオスがあの場にいた参加者の一人から回収した物らしい。
メリュジーヌの話によると、重傷を負っていた自分の治療を行ったのもこの道具だそうだ。
策は劣悪な結果に終わったが、まだ悪運は尽きてはない。
沙都子がそう思ったのと、道具をくるくると手の中で弄びながらメリュジーヌが沙都子に尋ねたのはほぼ同時だった。


「で?沙都子、そろそろ君の小賢しい動きも厳しくなってきた様だけど……
ここからはどう動くつもりか、聞かせてもらおうかな」



明確に、場の雰囲気が変わった。
沙都子はメリュジーヌの方へ視線を動かし、彼女の眼差しを検める。
彼女の瞳は、冷たく、昏く……そして此方を探る様な感情が見て取れた。
この問いかけの返答が、彼女の意向に叶う物でなければ。
自分の首は、一分後には泣き別れになっているであろうという確信を抱く。
そう、メリュジーヌは測っているのだ、未だ自分に利用価値があるか。
沙都子は少し考えを纏めるから一分ほど時間が欲しいと返事をした後。
60秒に渡り目まぐるしく頭脳を回転させ、返答を返した。


「そうですわね。これからの行動方針としては二つ。
まず一つ目は悟空さん、悟飯さんと戦ったリーゼロッテという女との接触。
もう一つは、カルデア側のエリア少し離れた場所で罠を張り、他の参加者を狩りましょう」
「そのリーゼロッテと言う女と会うのは孫悟空との戦いに向けて、と言うのは分かる。
だが、ここで無差別に参加者を襲えばこれまでの君の小賢しい策が無駄にならない?」
「もう固執していてもどの道無駄になっている頃合いですわよ。
それなら、他の参加者を狩ってドミノの殺害数上位を目指した方が有意義ですわ」


確かに、沙都子の言う通りもう参加者の中に潜んで水面下で事を行うのは難しいだろう。
それはメリュジーヌもまた理解していたが、彼女の案には無視できない懸念点が一つある。
孫悟空の存在だ。あまり派手に動けば、彼が自分達を排除しに動くかもしれない。
指摘を行うと、沙都子はカルデアそのものに手を出さなければそれはまずないと答えた。


「悟空さんは暫くカルデアの守りで動けません。
彼が動くとしても……それは悟飯さんを止めに行く時でしょう」


孫悟空は基本的にカルデアの守りから動かないだろう。
それが最も乃亜の打倒につながる可能性が高いと、彼はそう考えている。
直接言葉を交わした沙都子だからこそ、確信を以てそう言えた。
自分達の話を聞きつけ、排除に動いている間にカルデアが襲撃を受け。
首輪を外せる算段を立てた仲間が死亡すれば、全てが水泡になってしまうからだ。
だから、他の場所でマーダーが猛威を振るっていても彼は動かないし、動けない。
どれだけ強いと言っても、身体は一つなのだから。
そして、更に自分達に構っている暇はないと思わせる撒餌は用意した。それこそが悟飯だ。
親子の情からも、物理的な実力から言っても。発狂した悟飯を完全に止められるのは彼だけ。
彼自身そう考えるだろうから、他のマーダーに構っている暇はますます無くなる。
彼との直接対決さえ回避出来れば、今迄出会った対主催はメリュジーヌにとってさして脅威ではない。


「ここからはメリュジーヌさんも私達と一緒に動いてもらいます。否とはいいませんわね」
「……分かってるさ、君が何をいいたいかは。構わないよ」


少し唇の先を尖らせながら、メリュジーヌは了承の意志を示す。
沙都子の言葉を否定できるほどの戦果を、メリュジーヌはあげられていない。
それにシュライバーや絶望王など危険人物にも油断ならない相手はいる。
それ故に、万全を期し此処から暫くカオスと連携して参加者を狩る。そう言う話で纏まった。


「余りカルデアに人材が集まっても面倒です。我々はその芽を摘み、機を伺います。
悟空さんが悟飯さんを止めに行った時も、近場にいれば動きやすいですから。
悟空さんを尾行して漁夫の利を得るも良し、カルデアを襲撃するも良しですわ」
「孫悟飯の方からカルデアに向かってくる可能性は?僕やカオスはともかく、
君が孫悟空と孫悟飯の戦いの巻き添えを食えば、間違いなく生きてはいられないだろう」
「勿論その可能性も無いとは言えませんが……そう高くはないと思います」


その言葉を聞いて、メリュジーヌは訝し気に眉を顰めた。
沙都子の話だと悟飯は悟空に会いたがっていたハズ。
もし他の参加者からカルデアに悟空がいる事を耳にすれば、向かうのではないか?
彼女の当然の思考を読んだかのように、沙都子は迅速に答え合わせを行う。


「悟飯さんが雛見沢症候群でトチ狂った時に、こういっていましたわ。
自分が全員を殺す、と。きっと、のび太さんの事に責任を感じたのでしょうね」



そして、悟飯の口から孫悟空の印象。
ドラゴンボールがどうとかは症候群の影響で出た妄言である事は想像に難くないが。
悟空への印象は、きっと信用に値するだろう。何しろ沙都子は本人に会ったのだから。
悟飯の話と、実際に会った悟空に対する印象に殆どずれはなかった。
即ち、孫悟空は弱者への虐殺を良しとする様な人格ではない。
勿論、カルデアで待ちの態勢を取ろうとしていた事から、ただ優しいだけの人物ではない。
しかし同時に、出会う参加者全員を殺そうと言う意見には到底賛同しないと沙都子は見た。


「私がいなくなった以上、悟飯さんにとって悟空さんは最後の心の支え。
だけれど自分は孤立し、悟空さんが決して肯定しないであろう行いに手を染めている。
最後の心の支えに否定されるのが分かり切っている時に、会いたいと思うでしょうか?」
「………成程ね」


確かに、説得力の感じる話であった。
それならば孫悟空の居場所が分かったとしても、悟飯が寄り付こうとしない可能性は高い。
結果、悟空は悟飯を止めるために、カルデアを離れざるを得ない。
自分達はそれまでカルデアを目指そうとする参加者を狩り、追い散らし。
新たな戦力をカルデアに寄せ付けず、悟飯へ生贄を提供するのが仕事という訳か。
納得のいく行動方針を提示され、合点がいったとメリュジーヌは鼻を鳴らした。


「問題は、悟飯さんが参加者を殺し過ぎてドミノ保有者上位に入ってしまう事ですが……」
「それについては問題ないよ、保険は手に入れた」
「……例の時計ですか、再使用可能になるまでのインターバルは?」
「六時間。ただしあと二回しか使えない。だからもう君に使うつもりは無いよ
さっき君に使ったのも使えるかの実験と、カオスが君を助けろと泣いてせがんだからだし」


沙都子は自分の怪我を治した事と目覚まし時計の形状から、時間を巻き戻す道具と見たが。
どうやら、その見立ては正しかったらしい。あと二回しか使えないのは痛いとはいえ。
悟飯が万が一殺害数トップになり、雛見沢症候群を治療されてしまった時の保険はできた。
そう考えつつ、沙都子は孫悟空以外の抹殺対象の名前をあげる。


「取り合えず、貴方の傷を癒すカードも御座いますし、カオスさんの回復を終えれば……
孫悟空さんの他に貴方が不覚を取った日番谷さんは消したい所ですわね」
「それについては同意見だね、彼は孫悟飯との戦いの傷が癒えるまでに墜としておきたい」
「今回はさぼっていたんですから、今度こそ貴方の強さを証明していただきたい物ですわ」
「無論だよ、君とカオスのお陰で大分休めたし、後三時間も休めば問題ない。
例の回復できるカードは再使用できる様になったらカオスに使うと良い」


凡そ方針が固まったので、軽く嫌味を言って話を纏める。
此方は死にかけたばかりだから、多少機嫌を損ねても言う権利はあるだろう。
そう思って口にしたやっかみは、予想通り悪びれもしないふてぶてしさに流されて。
釈然としない思いを感じつつ、眠る様に回復を行っているカオスを優しく撫でるのを再開。
メリュジーヌの視線を感じたが特に気にせず、沙都子は己の左腕の天使への労いを続ける。
すると、暫し時を置いてから思い出したようにメリュジーヌがもう一つ尋ねてきた。


「……ねぇ沙都子。君、孫悟飯の病気が悪化してから何故あんな行動を取った?
孫悟飯が狂った時点で、君の目的は達成されていた筈だ」
「それは、其方の方が悟飯さんの思考を誘導しやすいから………」
「本当にそれだけ?カオスから聞いた話だと、君の対応は途中から杜撰に過ぎる
孫悟飯の状態が誘導するには危険すぎる状態だったことは君も分かっていた筈だ
なのに何故危険を犯した?本当は……別の目的があったんじゃないか?」


詰問する様に問い詰められ、沙都子は眉を顰める。
剣呑な態度だが、単に此方の失態を責めている雰囲気ではない。
だが本当に戦略上必要だったから行っただけで。他意はない。
ではメリュジーヌが予想した自分の目的とは何か。何が言いたい?
そう尋ねると、一拍の間を置いてメリュジーヌはその問いを口にした。


「それじゃあ聞こう。君は、本当は……証明したかったんじゃないのか、何かを」



聞いてから十秒程は意味が分からなかった。
またメリュジーヌの感傷的な部分が変な推測を導いたのか。
失笑と共に、そんなことある訳はないと否定しようとして。
何か…引っかかるような感覚を覚えた。言語化しにくいが、ある種の心当たりを抱いた様な。
そんな態度を見せた沙都子を見て、メリュジーヌはやはりと言う顔で重ねて問いかける。



「沙都子、君は…………誰もが心の奥底は醜いと、確かめたかったんじゃないのか?」



勿論、戦略的な意味もあるだろう。しかしそれだけではなく。
圧倒的な立場から周囲を操り、扇動し、不和を煽って。
遊びの様に無邪気に眺めて楽しもうとしたのではないか。
やはりこいつ等は自分の仲間と違い取るに足りない、下らぬ相手だと蔑みたかったのでは。
その為に態々危険を犯して、悟飯の扇動に固執したのではないか。
メリュジーヌはそう見ていた。そして、本当にそうだった場合。
先ほどの場において最も醜い者、それは沙都子だと考え、口にしたかもしれない。



「何を言っているのですかメリュジーヌさん」


だが、沙都子の返答は図星を突かれた様子を一切見せず。
下らない冗談を聞かされた様な態度で、フッと笑みを零した。
その後、ハッキリした声色で自身の所感を述べた。



「誰もが心の奥底では醜いだなんて、確かめるまでもなく当然では御座いませんか」



沙都子の仲間、部活メンバー全員、元より大きな欠落を抱えている。
過去に、言動に、家庭環境に、人格に。
掛け替えのない仲間たちの中に、潔白な者は誰一人としていない。
誰もが醜い部分を持っていた。誰もが小さなきっかけで惨劇を起こし得た。
誰もがサイコロの1の目を出し得た。だからこそ、今更確かめる必要などない。
どんな賽子であっても賽子である以上、1の目は存在するのだから。
それを蔑んだところで滑稽なだけ、沙都子にとって人が醜いなど当たり前の話だった。
しかし、だからこそ。



「だからこそ。それを認めて美しくあろうとする事に人の価値がある」



誰もが醜いからこそ、それを認め、仲間と分かち合い、正しくあろうとする。
その果てに古手梨花と部活メンバーは奇跡を起こした。
自分が確かめたかったのだとしたら、きっと其方の方だと沙都子は述べた。


「実際の成果はさておき。その事においてはちゃんと確かめる事が出来ました。
やはりあの日の私達と梨花が成し遂げた事は、何事にも代えがたい奇跡だったと」


野比のび太が兆しを見せども、結局拒絶され死んだ所を見て。
やはりあの時の運命を打ち破った梨花の選択は奇跡だったのだと確信を得た。
何よりも眩くて、何よりも尊い、得難きモノ。
それを、あの日の梨花と自分は確かに築いていた。それなのに。
僅かな沈黙を経て。沙都子は今回の証明を経ても未だ理解できぬ不条理を、どこか寂し気に口ずさんだ。




「───でも…確かめられたからこそ、やっぱり分からない。何故、梨花は。
あの奇跡を起こした雛見沢を捨てて…外の世界など求めたのでしょう……?」





雛見沢の外の人間であっても。奇跡を起こすのは何大抵の事ではないと証明された。
だからこそ、ますます解せない。何故古手梨花は。雛見沢を捨てようとしたのか。
あれほど価値のある奇跡をみんなで作り上げたのに、何が不満なのか。
自分はもう何もいらないのに。あの楽しくて美しい記憶だけで十分なのに。
何故、外の世界など求めたのか、本気で沙都子には分からなかった。
カオスの方に俯き、言葉を紡ぐ彼女の背中は、今迄と違いとても小さく見えた。
まるで、年相応の少女の様だった。




「価値のある、美しい物だからだと思うよ」




返答を受けた最後の竜は静かに少女が身を預ける寝台へ腰をかけ。
無言で少女の背中にもたれ掛かり、お互いの背中を預ける体勢となった。
そして、沙都子が何のつもりか尋ねるよりも早く、己が思った言葉を口にした。
メリュジーヌは北条沙都子の事が嫌いだったけれど。
彼女の胸に抱く願いには、複雑な思慮を抱いていたから。



「美しい物、価値ある物って言うのは、生まれた場所から羽ばたかずにはいられない。
必ずいつか、もっと多くの者を魅せるために、外の世界へ飛び立とうとするモノだから…」



想起するのは46億年のどんな記憶より眩しかった、気まぐれな奇跡。
メリュジーヌが見た、地上で最も美しい者。輝ける星のかんばせ。
そう、尊きもの、美しきものとは、狭い世界では我慢ならないのだ。
最も近くにいる者が、どんなに一緒にいられる地で全てを終えようと願ったとしても。
それが、メリュジーヌが出した一つの答だった。



「───そう、ですか。そうかもしれませんわね」



メリュジーヌの方へは、振り返らず。カオスを慈しむようにただ撫で続けて。
否定はせず、しかし全てを肯定しない返答を、沙都子は返した。
実際の所、メリュジーヌの言葉が的を射ているのかは沙都子も断言はできない。
けれど、そう大きく的を外した言葉ではない事は沙都子も確信していた。
そして同時に、海馬乃亜が自分とメリュジーヌの初期位置を直ぐ傍に配置したその意図も。
何となくわかった気がしたけれど、やはり口には出さず、暫く背中合わせのまま。
出会う筈のなかった二人の種の違う少女は、同じ時を過ごす。
…その一刻はきっと。未来ではなく過去を求め続ける少女たちが。
一つの死線を超え、また新たな死線に身を投じるまでの、続く物語の始点。



【一日目/日中/C-7】

【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(大)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス大破、沙都子と刷り込み完了、カオスの素の姿、魂の消費(大)、空腹(緩和)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(使用不能)@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
7:首輪の事は、沙都子お姉ちゃんにも皆にも黙っておく、メリュ子お姉ちゃんの為に。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
聖遺物を取り込んでからの空腹は、聖遺物損傷によりストップしています。
中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
ニンフの遺した首輪の解析データは、カオスが見る事の出来ないようにプロテクトが張ってあります。
沙都子と刷り込み(インプリンティング)を行いました。


【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(大)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:一先ず、休養を取り、体勢を立て直す。悟飯さんとはもう会いたくない。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
12:メリュジーヌさん、別にお友達が出来たんでしょうか?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました

【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order(凍結、時間経過や魔力を流せば使えるかも)
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、デザートイーグル@Dies irae、
『治療の神ディアン・ケト』(三時間使用不可)@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)、逆時計(残り二回)@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:精々頑張るといい、沙都子。
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:カオス…すまない。
6:絶望王に対して……。
7:竜に戻る必要があるかもしれない。方法を探す。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。





「上手くいったわね!」


激戦地から一足先に抜け出すことに成功し。
ニコニコと天使の様な笑顔を浮かべながら、厄種の少女グレーテルは快哉を上げた。
その手には回収した美柑の首輪がくるくると回されている。
上機嫌の彼女とは対照的に、隣で見つめるクロエの視線は実に冷ややかなもので。
グレーテルが不思議そうに理由を尋ねると、クロエは青筋を立てながら叫んだ。



「アンタがめちゃくちゃやるから!私も死にかけたでしょうがっ!!」
「……?あぁ、お兄さんに狙われた時のこと?」



クロエの激昂を受けて、グレーテルは少し以前の記憶を手繰り寄せる。
即ち、“結城美柑を射殺した”時のことを。
そう、美柑を殺めた張本人は孫悟飯ではなく。北条沙都子でもなく。
透明マントを用い忍び寄ったグレーテルだった。彼女こそ、美柑殺害の下手人だったのだ。



「…でもあの時はクロがちゃんと助けてくれたじゃない。流石クロね!」
「流石クロね、じゃないっ!
アンタにひらりマントとシャンバラ渡してたお陰で、こっちまで吹き飛ぶ所だったわ!」



────さようなら、お姉さん。
そう嘯き、笑みと共に放たれた凶弾は、見事に一人の少女の命を奪った。
その代償として、彼女は孫悟飯に危機一髪の所まで追い詰められたわけだが。
数撃ちゃ当たるの思考と共に、孫悟飯が無差別にエネルギー弾を撃って来たからだ。
被弾コースだった初撃のエネルギー弾は一発ならひらりマントでいなせたものの。
あれでグレーテルの居場所が看破されたため、完全にジリ貧であった。
シャンバラをすぐさま起動状態にしたが、あのままでは間に合わなかっただろう。


─────投影・重装(トレース・フラクタル)……!


即座にクロが投影を行い。
彼女の弓兵としての能力、そして過程を無視し結果を導く願望器の機能の残滓を用いて。
弾いたエネルギー弾の軌道からグレーテルの居場所を割り出し、援護を行っていなければ。
彼女もまた、孫悟飯に間違いなく殺されていただろう。
…その結果、クロエも悟飯に標的として補足され、吹き飛ばされそうになり。
消費魔力が大きく、虎の子である転移魔術を使って回避するハメになったのだ。
それ故に、彼女はこうして怒りを表明しているという訳である。



「まぁまぁ。色々実験もできたしいいじゃない。
特にこのサンダーボルトってカードは便利だったわ。クロにあげる」
「あげるって……今使えないでしょこれ………」


海馬モクバの翻弄するエルフの剣士を破壊したのもまた、グレーテルだった。
水銀燈たちから奪った支給品の魔法カードによって、エルフの剣士を破壊したのだ。
面倒な特殊効果を持つモンスターも、このカードがある今脅威にはなりえないらしい。
だが、クロは釈然としなかった。
だって、グレーテルのやっている事は無駄にリスクを背負い込み過ぎる所業だ。
エルフの剣士を破壊したのも、結城美柑を射殺したのも。
孫悟飯という核弾頭の存在を考慮すれば、自殺願望でもあるのかと思う程だった。
……実際、あっても何も不思議ではない身の上ではあるが。


「……アンタ、本当にあんな危ない橋を渡る必要あったの?」



確認の為に尋ねると、グレーテルはうーん…と、人差し指を顎に添えて。
暫し考えた後、クロが望んでいるであろう答えをまず述べ始めた。
悪徳の街ロアナプラでも屈指の武闘派ホテル・モスクワに挑んだ悪童としての視点を。



「そうね……まず悟飯お兄さんに得点を独占されるのは面白くないし…
あのモクバってお兄さんの使うモンスターも倒せるかどうか試しておいた方がいいでしょ。
それに、多少失敗してもクロが助けてくれると思ってたのと………」



指折り数えて列挙するグレーテルを見て、調子いいわねこいつ。
そうクロは思わずにはいられなかった。確かに、一応結果は出したし。
利益が全くなかったかと言われれば、殆ど無傷でドミノも稼げた以上悪くはない。
だが、やはりあそこまで危険を犯した理由としては弱い気もする。
何となく釈然としない物を感じるクロだったが。直後にグレーテルは笑みを浮かべた。
無邪気な子供としての笑みではなく。ロアナプラを震撼させた殺人鬼の笑みで。



「でも、一番はそうしたかったからかしらね。本当は、他に理由はなぁんにもいらないの」
「………っ!」



そう言って白い歯を覗かせてにっこりと笑う灰色の少女を見て。
大分慣れてきたと思っていたクロに、ぞくりと怖気が走る。
この少女は本当に、美柑と呼ばれていた少女を殺した事に深い理由はないのだろう。
ただ何となくそうしたかったから、殺した。ただそれだけなのだろう。
グレーテルと言う少女は壊れているし、狂っている。
答えを聞いて確信を得ると共に、同時にこれ以上掘り下げても不毛だと判断する。
結果的に上手く行ったのだ、今回の狂騒についてはそれでいい。
何しろ今後に関わる彼女の奇行は、もう一つ存在している。
クロエは複雑な感情を抱きながら、ベッドに視線をやり尋ねた。



「……で、あのボロ雑巾を拾ってきたのも、やりたかったからってワケ?」
「そう!あの子とは仲良くなれそうだと思ってたけど…
そのままだとまた暴れられちゃうかもしれないじゃない?だから丁度良かったわ」



今クロエ達が拠点としている民家のベッドに眠る、金髪の少女。
放送前にクロエ達を襲った痴女──金色の闇が、二人を前に眠り姫と化していた。
孫悟飯に敗れた彼女を、こっそりシャンバラの単距離転移の連続使用で拉致してきたのだ。
彼女は現在、クロエが投影した聖骸布によって拘束されており、目を醒ます気配は無い。
元々蟲の息で、シャンバラを使わなければ移送している間に死んでいたであろう少女だ。
グレーテルは半死半生の彼女を連れてきて早々、貴重な回復アイテムの殆どを使い。
特に損傷の酷かった顔や左腕を治療し、ベッドに寝かせていた。



「……ま、傷を治したのはどうせ気まぐれなんでしょうけど…
あの子が目を醒ましたらどうするの?あの子をこっちに引き込むつもり?それとも殺す?」
「うーん、それはこの子次第かしら。仲良くなれたらそれでよし。
もしなれなかったら……クロももう分かるでしょ?リングを回すだけよ」
「……多分、この子が言っていた美柑って、アンタが殺した子のことよ」
「そうね。でもこの子がそれに気づいているとは限らない」



捕えた痴女が乗るか反るかは分からないが、何方にとってもグレーテルに不利益はない。
勝てばお友達がもう一人増え、負ければリングを回して命を増やすだけなのだから。
だからこれは彼女にとって突き詰めればどちらに転んでもいい話。
グレーテルにとって最も肝要なのはむしろそれより前。今は、その下準備に勤しむ。


「さっ、お姉さんが起きる前に下ごしらえを済ませてしまいましょう!クロも手伝って」
「下ごしらえって…何をするつもり?聖骸布で捕まえる以上の事は……」
「いいから、剣を出して構えて」
「………?」



よく分からないグレーテルの指示に、訝し気な顔を浮かべつつ、干将莫邪を投影する。
その間にグレーテルはランドセルからまた新しい支給品を取り出していた。
楕円形の持ち手部分から伸びる、尖った先端。丸い注射器の様に見受けられる何某かの器具。
グレーテルはそれを容赦なく───小康状態となっていた眠る少女に突き刺した。


「えいっ」
「………ぐ、ぅ……ぁっ………!」


脇腹を突きさされ、ヤミは苦し気な声をあげる。
彼女の痛苦に反応して、防衛機能の様に休眠状態だった彼女の金髪が蠢きだす。
どうやら、傷の治療で回復した際に彼女の髪を操る能力も回復していたらしい。
それ故に、主人に仇成す不心得者を排除せんと再起動しようとしていた。


「ちょ、ちょっと!」


グレーテルに殺到しようとする髪を、慌てて切り落とす。
髪の動きは依然戦った時よりもエネルギーが足りないのか、かなり鈍く。
更に本体が拘束され、意識が無い為今のクロエの敵ではなかった。
ひたすら伸びる髪を切り落としていると、直ぐに髪の動きは緩慢となり。
やがて停止して、ただの髪に戻ってしまった様だった。
それを確認してからグレーテルは突き刺していた注射器の様なものを引き抜き。
最後に傷口に残っていた最後の回復アイテムである粉を振りかけ、事を終えた。


「これでよし。これでこの子も私達と変わらないわ」
「……一応聞くけど、何をしたの?」
「このエネルギー吸収装置?でエネルギーを吸ったの。
怪我は治して、でも戦うための力は空っぽになって貰うために」


確かに、懐柔を試みるにあたってあの髪は邪魔だろうが。
それなら貴重な回復アイテムを全て使ってまで治す必要はあったのか。
途中で死なれては困るから、少しだけ治すと言うなら分からないでもないが…
そんな考えを浮かべながらグレーテルを見つめると、彼女はふるふると首を横に振って。




「ダメよ、折角これから彼女がしたがってたえっちぃ事を教えてあげるのに。
あの顔じゃ可哀そうで私が萎えちゃうし、痛みで集中できないかもしれないじゃない」




グレーテルのその言葉に、クロエも合点が行く。
薄々彼女の目的は予想がついていたけれど、やっぱりか。
下手をすれば此方の方が本命で、懐柔できるかどうかはどうでもいいのかもしれない。
クロエが考えているのを尻目に、グレーテルはまたランドセルから支給品を取り出して。


「何、その薬品?」
「んふふー……び・や・く♡」


グレーテルが取り出したソレは、ルーデウスの不能すら治療した媚薬であった。
バディルスの花で作られたその価格は、転移事件後アスラ金貨100枚に昇ったという。
その媚薬を一口こくりと飲み……グレーテルは眠るヤミの口に情け容赦なく唇を合わせた。
思い人へのささやかな義理立てなのか、眠りつつ口を閉じて抵抗しようとするものの。
文字通り命懸けで技巧を磨いてきたグレーテルにとってそんな防御は紙同然。
3秒で口をこじ開け、舌をねじ込み、口に含んだ媚薬を口移しで飲み込ませた。
ちゅっ。ちゅぷっ。ちゅぽっ、と。淫靡な水音が部屋の中に木霊する。
グレーテルはそのまま10秒はヤミの口内を蹂躙し、やがて唾液の橋を作りながら口を離す。



「さっ!これで準備は終わり。後はこのお姉さんの目が覚めるのを待つだけね!」
「アンタ、前にムードが大事とか言ってなかった?」
「うーん…確かにそうだけど、先にえっちぃ事してきたのはこのお姉さんだし。
なら、多少嫌がられてもお互い様よね。無理矢理スるのも慣れたものよ?」
「そんな嫌よ嫌よも好きのうちみたいな………」
「くすくす……クロ、顔が赤いわよ?もしかして妬いてる?混ざりたい?」
「……っ!はぁっ……!?い、いや……そ、そんなわけ…………」




じぃっと熱っぽく覗き込んでくるグレーテルの眼差し。
艶めかしく瞼を細めた彼女に見られると、これは、ダメだ、と即座に思う。
彼女の存在は、奈落へと続く穴だ。一度落ちれば、もう這い上がる事は出来ない。
あぁけれど───彼女に見つめられると堕落すら甘美なものに思えて。
拒絶できない、逡巡する。そんなクロエの腰をグレーテルは優しく抱き寄せ。



「ねぇクロ───本当に?」
「………っ……ぁ………」



天使の姿を借りた悪魔が、少女の耳元で囁く。
囀りを聞いた瞬間、クロエは己の理性が蕩けていくのを感じていた。
きっとここで身を任せれば。
彼女はその天使の様な美貌と、歴戦の娼婦にも勝る技巧で自分を慰撫してくれるだろう。
何しろ、命懸けで勝ち取った技能だ。毎日毎日暴力と死が蔓延する世界の中で。
幼いグレーテルが、死なないために身に着けた能力だ。その能力の高さに疑いはない。
クロエも普段は小悪魔的に振舞っているが、本物の悪魔を前にしては生娘に等しかった。



「ねぇ、クロ………天国、行きたくないかしら…?」
「ぁ……………………は、ぃ……………」



ダメ押しの様に、尋ねられれば。
顔を真っ赤にして俯き、ぎゅっと胸の前で握りこぶしを作って、弱弱しく頷いてしまう。
そうだ。兄に再会するどころか、数時間後も生きて居られるか分からぬ身だ。
それなら、いっそ。思い出作りにいいのかもしれない。
無理やり自分を納得させて、流されようとしたその時。




───クロには、私達のこともっと知ってもらいたくなって。




グレーテルの瞳の奥に隠された虚無。連想する下卑た大人たちの嗤い顔。
少し前に見せつけられた悪夢の風景が、フラッシュバックを起こす。
かつて、一人の“ふつうのこども”を壊したであろう、人の悪性と獣性。
人間が醜いことなど、これを見せるだけで簡単に証明できる。
グレーテルの下半身に広がっていたモノは、そういう地獄だった。
人は人にこんなことができるのだと思い知らされた──普段、気づいていないだけで!
甘美だったはずの美酒が、一瞬にして硫酸へと変わったかのように。
クロエの喉元に、強烈な嘔吐感がせりあがる。



「────ぅ゛ぉ゛、ぇ゛ッ………!」



吐くな。私は…魔術師の家系に、聖杯戦争為に。殺し合いに勝つために生まれた存在だ。
それが、こんな、こんな程度で這いつくばってどうする。
グレーテルをドンッ!と押しのけ、口の前に手を当てて膝を付く。
酩酊にも似た、何処か浮ついた感覚は、とうにどこかに霧散してしまった。
何とか嘔吐する事だけは避けて、はぁはぁと荒い息を吐いて蹲る。




「ごめ………グレー、テ………」



必死で呼吸を整え、グレーテルに向き直る。
すると、彼女の表情は先ほどまでの狂った笑みではなく。
痛ましい程に寂しそうに笑う、少女の姿があった。
それを見て、途切れ途切れになりつつ謝罪するクロエに、彼女は優しく寄り添い。


「いいのよ、クロ。ついさっきの事なのに、私も色々上手く行って浮かれてたわ。ごめんね」


そう言いながら、クロエの桃色めいた白髪を、グレーテルは落ち着くまで撫で続けた。
そして、浅く荒かった彼女の吐息が正常に戻ってから、自分の身体を見下ろして。
ドレスに包まれた自分の身体につつ…と手を這わせ、独り言ちる。



「あの子にハレンチを教えてあげるのも、私は服を着たままの方がいいでしょうね。
それとも、“後ろから”シてあげるのがいいかしら。キスしながらできないのが残念だけど」



悲しい事、泣きたくなる事は快楽(えっちぃ)ことで忘れさせてあげるのが一番だから。
きっと地獄いたころの経験則から得た知識で彼女はそう言って。
クロエにベランダに出て、外の空気を吸ってくる様に促した。
こくこくと頷き、言われるままにクロエはふらふらと外へと向かう。



「クロも混ざりたくなったら途中参加してくれていいわ。ただ、無理はしないでね」



その言葉を聞いて、やはりこの少女は壊れているのだとクロエは思った。
人として大切なものを失ってしまっている。壊れてしまっている。
ヤミへの気遣いの言葉だって、そもそも彼女が結城美柑を奪った張本人だ。
それに思い至ったからこそ、ふらふらと頼りない足取りで。
グレーテルの言葉に一切答える事無く、ベランダへと向かった。




          ▼     ▼     ▼




取り合えず、周囲に脅威の気配は無い。
やさぐれきった目で警戒を行いながら、民家に置いてあったカートンの蓋を開けて。
細長い白の紙巻きたばこを取り出し、これまた民家にあったライターで火をつける。
ぼうっとその炎を見つめながら煙草に火をつけ、口に含んだ。



「げほっ!ごほっ!げぇっ!パ、パパったらよくこんなの吸えるわね………!」



イリヤの父である衛宮切嗣が、喫煙者である事はクロエも知っていた。
彼女の精神の深部でクロエもまた、父の事を見ていたから。
もっとも、イリヤが生まれてからは基本的に禁煙しているのか。
殆ど自宅で彼が煙草を吸っているのを、イリヤも自分も見た事が無いけれど。
それも納得だ。こんなまずい代物、何故大人は好き好んで吸おうとするのか分からない。
けれど折角火をつけたので、この一本を吸いきるまでは吸ってみる事にする。
もしかしたら、吸いきってみれば理由も分かるかもしれないし。
そう思いながら、少女は紫煙を燻らせた。




「……どうなるのかしら、あの子」



考えるのは、捕まえた金髪の痴女のこと。
懐柔されるか、それともそのまま殺されるか。
何となく、後者になりそうな予感を、クロエは感じていた。
と言うより、何が切欠で露見するか分からないのだから殺した方が後腐れ無い。
いや、懐柔を試みる前にグレーテルは調教を行う予定みたいだから、それ次第か。



「………ま、自業自得よね。精々グレーテルに気持ちよくしてもらいなさい」



強姦紛いの凶行とはいえ、先に襲ってきたのは向こうの方だ。
しかもそれだけでなく、命まで狙ってきたのだから。
何か思い人がいそうな事を言って、そう言う雰囲気を出してもいたけど。
いざ自分が弄ばれる側に回ったからと言って、自分には思い人がいるんですやめて下さい。
…なんて、虫のいい話だ、それ故にクロエに彼女を助けるつもりなど毛ほども湧かなかった。
肉体的な物に限ればグレーテルが、彼女が、彼が与える快楽は最上級の物なのは確かだし。
せめてグレーテルの地獄を、彼女が目にすることが無いよう祈るくらいはしてやってもいいが。



「あの子…無駄にえっちぃ事を神聖視してたみたいだしね」



多分本質としてはキャベツ畑やコウノトリを信じている生娘と変わらない。
そんな彼女に、あの地獄を見せつけるのは無修正のポルノを突き付けるのと同義だ。
あれを見たら、えっちぃ事が素晴らしい事なんて、きっともう言えなくなる。
自分でも、ずっと見ていたら性嫌悪症になりそうだと思ったのだから。
強姦魔紛いの痴女とは言え、流石に性交への憧れまで奪われるのは無慈悲だと思えた。
…余り考えて楽しい事ではないので、かぶりを振って思考を切り替える。



「…………イリヤは」



不意に、グレーテルを。彼女が越えてきた地獄を。
自分が魂を分けた片割れが見たら、どんな思いを抱くだろうと、その時ふと考えた。
考えて一瞬で、無理だ。あの逃げ腰の弱虫が対峙できる筈はないとふっと笑う。
考えるまでも無い事を考えたと自嘲気味に笑みを漏らして。
その直後に、絶対に勝てないであろう敵と対峙するイリヤの背中が浮かんだ。



「……馬鹿じゃないの。何で逃げないのよ。勝てる相手じゃないって分かるでしょ」



孫悟飯の瞳は、どこか共感(シンパシー)を抱く者だった。
現実に絶望して、けれど全てを投げ出す事も出来ず、殺すしかないという答えに至った瞳は。
きっと仲良くはできないけれど、それでもある種の同情を抱いてしまう少年だった。
そんな彼を救うためにイリヤは闘い、そして二人して光の中へと消えて行った。



「本当………馬鹿イリヤ」



分からない。
何故イリヤは、間違いなく自分よりずっと強い敵に立ち向かえたのか。
戦ったら殺される、それは分かっていただろうに、何故あの弱虫が。
案の定吹き飛ばされて、今は生死すら分からない。
そして、それ以上に自分は何故。何故あの時───イリヤを助けたのだろう。
自分は殺し合いに乗っていたのに。イリヤも殺すつもりだったのに、あの背中を見たら。
煙草の煙を眺めながら考えても、一向に答えは出なかった。




「……なんで、なんで私は────」
「いいんじゃないかしら、特に理由が無くたって」



呟きを聞いていたのか、それとも表情から思考を読んだのか。
ベランダに続く部屋の窓の前から、グレーテルが声を掛けてきた。
そして、ちょいちょいと煙草を指さす。一本欲しいらしい。


「……いいの?生きるためにはリングを回さないといけないんでしょ?」
「確かにそうね。でも…その次位に兄様や姉様を大事に思うのは…いいと思う」


乞われるままに煙草を一本渡して、ライターも手渡そうとする。
するとグレーテルはふるふると首を横に振った、必要ないと言わんばかりに。
火もなしにどうするのか、そう思っていると彼女はおもむろに顔を近づけて。
クロエが咥えていた煙草の火に、自分が咥えた煙草の先端を押し付けた。
その退廃的な景色を眺めて、小さく溜息を吐きながら。



「………そうね、例え生きてたら殺しあうとしても、今回だけは───」



同意の言葉を零すのと、ほぼ同時に。
ジジジ、と音を立てて重ね合わされた煙草の火が燃え移る。
───その煙はまるで寄り添うように罪を重ねる、二人の少女の姿の様だった。




【結城美柑@TOLOVEる ダークネス 死亡 グレーテル100ドミノ獲得】

【一日目/日中/F-5】

【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、ダークネス状態 、気絶、エネルギー枯渇
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す...そうするつもりだったのに...
0:私の、せいで……?
1:美柑………
2:クロエとグレーテルはどうしよう...?
3:孫悟飯は許さない。

[備考]
※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話~45話までの間
※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(中)、自暴自棄(極大)、 グレーテルに対する共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化。
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師、ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、
グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん、サンダーボルト@遊戯王デュエルモンスターズ、
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:私は…なんでイリヤを………
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。

[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
※悟飯たちからは距離を置いて身を隠しています。


【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック、透明マント@ハリーポッターシリーズ
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品0~2(リップ、アーカード、魔神王、水銀燈の物も含む)、
エボニー&アイボリー@Devil May Cry、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、
戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、 バスター・ブレイダー@遊戯王デュエルモンスターズ、
真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、エネルギー吸引器@ドラゴンボールZ、媚薬@無職転生~異世界行ったら本気出す~、ヤクルト@現実、
首輪×9(海兵、アーカード、ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天、美柑)
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:金髪のお嬢さんを調教してあげる。クロともできれば愉しみたいけど…
1:私たちは永遠に死なない、そうよね兄さま
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。三人殺せたけど、まだまだ遊びたいわ!
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
9:金髪の少女(闇)は私たちと同じ匂いがする
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血まみれでしたが着替えたので血は落ちました。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
※現状は透明マントで身を隠しているため、クロエ以外は存在を認識していません





頭が痛い。死んでしまいそうな程痛い。
きっと頭の骨がグズグズ。雨が降った次の日の土の様になっている。
このままでは、戦うどころか移動すらままならない。
朦朧とした意識の中、ドロテアはモクバと共に何とか落ち延びようとしていた。
このままでは不味い。そう考えつつも、打開案は浮かんでこない。
考えるための脳がグチャグチャなのだから、無理も無いが。
そんな時だった、真新しい血の匂いを感じ取ったのは。
視界を傾けてみれば少し脇の道に、海馬コーポレーションへと続く血痕が見て取れた。


「ドロテア……大丈夫か……?」


無垢な瞳で、純粋に此方を案じている様子のモクバに対し。
僅かな逡巡のあと、ドロテアは一つの指示を飛ばした。
と言っても、近場にある、当初の目的地を指定しただけだが。
この血の匂いと血痕が自分の求めている通りの者かは分からない。
行先にマーダーがいたら、今度こそ自分の悪運は尽きるだろう。
だが、ここで勝負をしなければ遅かれ早かれ待っているのは確実な死だ。
だから彼女は、賭けに出た。


「わ、分かった。あそこなら手当もできるぜぃ!それまで頑張れよドロテア!」


快活に、励ます様に声をあげるモクバだったが。
どれだけ息巻いた所で彼の肉体は小柄な少年。しかも重傷者を連れている。
その歩みはドロテアが苛立ちを覚える程遅々としたもので。
思っていたより使えん。彼女の中でモクバに対する不満が募っていく。
瀬戸際でなければ、そんな狭量な感想は抱かなかったのだろうが。
現状は極限状況であり、余裕は今の彼女に皆無だった。
ただ早く、迅速に目的の場所へ連れていけ……!
その苛立ちだけが、今の彼女の意識を繋ぎ止める細い糸だった。
…………………
………
……



「ドロテア!着いたぞ!」



モクバの叫びに、ハッと意識を覚醒させる。
どうやら、気を失っていたらしい。
頭から巡る痛烈な痛みに耐え、周囲を見渡す。
すると、モクバの言葉通り目的地に到達していた。
変な竜のオブジェが堂々と鎮座した、海馬コーポレーションのビルに。
逸る気持ちを抑え、モクバに急いで中に踏み入るよう指示を下す。



「戻ったか美柑……お、お前らは!?」



中に入って早々、見覚えのある獣に出迎えられる。
確か、子供たちからはケロべロスと呼ばれていたか。
モクバの扱うカードに描かれているモンスターとは違う、緩い姿。
ふよふよと浮遊する獣の傍らに、ドロテアのお目当ては横たわっていた。


「落ち着いてくれ!信用できないかもしれないけど俺たちに争うつもりはない!」


モクバが叫び、その声を耳にして獣の警戒が僅かに緩んだのが見て取れた。
いいぞモクバ、その調子じゃと、ドロテアは心の中でエールを送った。
やはりここぞというところでこの少年は肝が据わっている。役に立つ子供だ。
心中で掌を返しながら、モクバが更に敵意がないことを訴えるのを聞いてほくそ笑む。



「本当だ!こっちもけが人を抱えてるから、お前らに危害なんて加える余裕はない!
お前らもけが人がいるんだろ!?だったらこっちもそっちに協力したいだけなんだ!」
「う……わ、分かった!お前らのこと、信じるで!!」


交渉は成功した。
モクバの真摯かつ必死の訴えに、逡巡の意思を見せながらも。
ケロべロスは、疑惑を抱いていた二人組を受け入れる決断を下す。
モクバたちから横たわる少女へと視線を移し、此方に近づくことを許可する。
同行者が成した成果を受け、ドロテアは密かにモクバへの惜しみない感謝を送った。
自分だけなら、ケロべロスに信用されたか怪しい。モクバがいたから信用されたのだ。
甘く、青臭く、子供らしい夢想家の彼だったからこそ、信用を勝ち取れた。
あとは自分の仕事だ。モクバがやってくれたことは、決して無駄にはしない。
その思いとともに、ドロテアは頭痛を必死に耐えながら、ランドセルに手を忍ばせる。


「とにかく、ジュジュの奴を運ぶの手伝ってくれ!わい一人ではパワーが足りんのや!」


目の前の獣は少なくとも現状では、少女を運ぶことさえできない。
彼が不用意に口にしたその言葉を、ドロテアはそう解釈した。
であれば、心中にあったほんの僅かな懸念と躊躇は消え失せ、恐れるものは何もない。
ドロテアは決行を決め、手始めに残った力の半分を使って、モクバの動脈を締め上げた。
きゅっと声を上げて、モクバの意識がわずかな間落ちる。これで邪魔される心配は皆無だ。



「そ、それとな!美柑の奴は、悟飯は、イリヤ達はどうなったん────!」



横たわる少女から視線をモクバたちに移そうとするケロべロス。
そんな彼に対し、ドロテアは手を滑り込ませていたランドセルから魂砕きを引き抜き。
「え!?」と声を上げる障害になりうる獣へと───振り下ろした。
直後、何かが途切れる音が、静謐さが漂うエントランスに響いて。
ぼとっ、と。両断された獣の御首が、無味乾燥な音と共に転がった。


「ド、ドロテアッ!?」


放り出され、同じくエントランスの地面に叩きつけられた少年、モクバが声を上げる。
満身創痍の中のチョークだったため、完全にモクバの意識は落ちていなかったのだ。
だが、それだけ。まだ現実で起きようとしている事態に少年の思考が追い付いていない。
それ故に彼は魔女を止められない。ただ、その背中を見送ることしかできず。
その結果、一秒後────ドロテアは、横たわる少女に己の牙を突き立てた。





          ▼     ▼     ▼




死ねない。死にたくない。
ずっとずっと魔法少女になりたかった。
強くて、格好良くて、キラキラして。
フリフリの可愛いコスチュームを着て、どんな困難にも負けない魔法少女に。
でも、どれだけ憧れて夢中になっても、現実に気づくのに時間はかからなかった。
魔法少女はアニメの中だけの存在。それだけ願って、努力したところで。
私は魔法少女のいない、つまらない現実を生きていくしかないんだと、そう思った。

そう思ったからこそ、私はコスの世界で夢を叶えようと思った。
初めて魔法少女のコスをして、鏡の前に立ったあの日。
あの日の嬉しさは、私の人生が最も色付いた瞬間だったから。
無理をしてでも、全部作り物でも、私は私の夢を叶えたかったから。

そして、私はこの島に連れてこられて、本物の魔法少女に殺されかけた。
初めて目にした本物は、私に優しくはなかった。
憧れは恐怖へと変わって、その後に会った本物の魔法少女たちとも上手く話せなかった。
桜さんも、イリヤさんも。両方とも痛ましい顔をしながら、私に優しくしてくれたのに。
私は私の弱さから彼女たちを怯えて、疑って、遠ざけようとした。
乃亜にはどれだけ恨み言を言っても言い足りない。
私の夢を穢すために、最初の配置をああしたんだろう。
何もかも本当に最低最悪だ。きっと碌な死に方をしない。地獄に落ちるだろう。
どれだけかわいそうな事情があったとしても、私だけは乃亜を許さない。
私の夢を、私の憧れを、本物の魔法少女たちの運命を弄び嘲笑った少年を許すことはない。

…と言っても、もう私は助かりそうにないけれど。
お腹に穴が開いて、ケロべロスさんが必死にぎこちない手当をしてくれたけど。
もう多分致命傷って奴だと思う。私はきっと、この島で死ぬ。
もっと見たい作品や、したいコスはあったけど、この島で死ぬんだ。
それがどうしようもなく悔しくて、どうせ死ぬならせめてと思った。
せめて、桜さんに、イリヤさんに謝りたかった。疑ってごめんなさいって。
きっとあの子たちも怖くて、特にイリヤさんは私よりずっと耐えてたと思うのに。
私は、そんなイリヤさんに酷いことをしてしまったと思う。
だから償いをするだけの時間が欲しかった。私に何ができるかはわからないけれど。
それでも贖罪を行う為の奇跡をただ願い、意識を繋ぎ留めていた。
もう、目の前はだいぶん暗くなって、限界が近いけど。

そんな時だった。
霞掛かった視界に、魔法少女が現れたのは。
フリフリの服を着て、大人の人よりもずっと俊敏に私の方へかけてくる女の子。
あぁ、助けに来てくれたんだと思った。これで助かると、そう思った。
何せ本物の魔法少女が助けに来てくれたんだ。死んでいる場合じゃない。
そう思えた────顔のよく見えない彼女が、私の喉に食らいつくまで。

ばたばたばたばたッ!とまだこんなに力が残っていたんだと思う力で。
私の下半身が暴れる。ひょっとしたら脊髄の反射という奴なのかもしれない。
残っていた最後の命を振り絞って行った抵抗は、まるで無意味だった。
男の人を遥かに超える力で抑え込まれて、私の命が啜られていく。
視界の端に魔法少女だと思っていた女の子の顔が映る。
若く幼い女の子に見せているだけで、老婆のような肌をしているのが見えた。
あぁ、なんだ───魔法少女じゃなくて、魔女だったんだ。私は、魔女に騙されたんだ。
直後、ごきり、と何かが折れる音を聞く。ただでさえ失血で血を喪っていた私の首。
更に血を吸われた事で首に歯を立てる力に耐えきれなくて、首が折れた音だった。
そんな状態なのに視界はまだ見えて、カサカサのミイラのようになった私の肌が見える。
もうこんな身体じゃコスどころか鏡さえ見れないわね。他人事の様な考えが浮かんで。
夢と一緒に朽ち果てていく視界の先に、一人の男の子が映った。
その子には見覚えがあった。確か、モクバと言っていたか。
彼と目が合う。彼が、私が最後に見る最後の景色になるんだって、直感的に分かった。
だから、私は最後に彼にこう言った。



「け、っきょ……く、あ、んた……たち、も………おなじ、じゃない………っ!」



あぁ、でも。
私を殺すのが、魔法少女じゃなくてよかった。





          ▼     ▼     ▼





「かぁ~~~~~っ!生き返ったのじゃ!!」



首輪を回収し、カラカラのミイラになった死体の首を投げ捨ててドロテアは伸びをした。
キウルや悟飯程ではないが、処女の血だったらしい。滋養は高かった。
失血で大半の血を喪っていた事が悔やまれるが兎にも角にも助かった。
この少女が死に損なっていなければ、本当に危ない所だったのだ。
だが、孫悟飯や北条沙都子達がいつ襲ってくるか未だ予断を許さぬ状況だ。
本当なら海馬コーポ―レーションを調査したかったが、命あっての物種。
紗寿叶のランドセルを剥ぎ取りさっさと離れる様、モクバに促そうと振り返った。
しかしその瞬間、モクバは突進する様にドロテアの襟首を掴んで問い詰めた。



「お前……お前……何やってんだよッ!ドロテアッ!!!」
「何って…決まっとるじゃろ。もう助からぬ小娘を有効活用してやったまでよ。
お前にも分かるじゃろ、この小娘が致命傷を負っていた事ぐらい」
「でも……ッ!だからって、こんな、犠牲にする様なやり方……っ!!」



モクバでも見た瞬間分かっていた。紗寿叶と呼ばれたこの少女は、もう助からないと。
何しろ胴体に風穴が空いているのだ。小学生だって助からないと分かる話。
でも、だからってこんな食い物にする様なやり方はないだろうと彼は訴えるが。
彼の激情に対し、ドロテアの返答は冷淡極まる物だった。



「ではモクバ。お主は妾が死んでも良かったというか?」
「えっ……」
「妾もお主の不興を買うのが分かり切っているのに、こんな事はしたくなかった。
しかし……やらなければ妾が死んでいた。何しろ頭を割られていたんじゃぞ?」



ここまでドロテアの言う事は、ほぼすべてが真実。
唯一断言できないのは死んでいたかもしれないという話だが。
頭を割られている以上、失血や脳障害で死亡していた可能性も無いとは言えない。
そのため、嘘は言っていない。ドロテアは胸を張ってそう言える。



「失血で朦朧としていたし、ともすればお主に襲い掛かっていたかもしれぬ。
そんな状態でここまで耐えた妾は、褒められこそすれ責めるのはお門違いじゃ」
「でも……っ!じゃあなんであのモンスターと、女の子をっ!」
「あぁ言う可愛らしい見た目で襲ってくる帝具を知っておるのでな。念のためじゃよ。
もし妾が殆ど何も出来ぬ時に襲われれば、お主だって生きてはおれんじゃろうしな」



だから、半分はお主のためなんじゃよ、モクバ。
神妙な顔でドロテアがそう告げると、モクバも言い返せない。
そんな彼を納得させるべく、ドロテアは更に言葉を続ける。


「小娘を襲ったのも、さっき言った通りそのままでは助からんと思ったからじゃ。
どうせ助からんなら妾を助けた方が、この娘も満足のいく最期になったじゃろう」


モクバはドロテアの語る詭弁に対し、反論ができない。
ドロテアの言っている事は詭弁だが、一定の理を唱えている。
モクバが聡明だったからこそ、その事に気づいてしまった。
そんな彼に、ドロテアはよりもっともらしい理由を用意していく。
だから、仕方ないのだと思う様に誘導を行う。



「状態を見ればマーダーに襲われた様じゃ。このまま小娘を楽にしてやらねば…
ドミノは殺人者達に渡り、よりマーダーが有利となる。それは避けねばならんじゃろ?」
「………………」
「もし他の者の目があるなら妾もやめたかもしれんが、此処にいたのは小娘と獣だけ。
元より妾達の事を疑っていた連中じゃ。それが減って不都合はあるまい?」


モクバはやはり反論ができない。
感情的には幾らでも反論が可能だが。
合理性の側面で言えば、ドロテアの言葉の方が利にかなっている。
彼の経営に携わる物としての側面は、そう告げていたから。
押し黙る彼に対し、魔女はふっと顔をほころばせて。
敢えて、後々三下り半を突き付けられる前に勝負に出た。


「じゃが……もしお主が妾の事をどうしても許せんとなれば仕方あるまい。
ここで別れて、各々自由にやるのもやぶさかではない。勿論、お主次第じゃがな」
「……………っちょ、ま、待って……っ」
「悪いが、1分以内に決めてもらう。
いつメリュジーヌや孫悟飯が襲ってくるか分からんからな」


ペテン師の手口だった。
短い時間制限を付けた上で、相手に選ばせる。
すると誘導された答えでも、相手は自分で選んだ答えだと錯覚してしまうのだ。
だが、制限をかける理由がまだ付近にマーダー達がいるからと言われれば否とは言えない。
1分間、考えを重ねたうえで───モクバは合理的な判断を下した。



「……お前を切ったりはしない。ただ、今回の事を許すわけじゃないからな!
これからもお前のやる事には俺が目を光らせてる!永沢の事も後でちゃんと説明しろ!」
「分かった。ではもうここを発つぞ。さっさと孫悟飯やメリュジーヌ達から離れるんじゃ」



釘を刺すようなモクバの言葉も、全く気にする様子は無く。
ドロテアは一刻も早くこの地を後にするためそそくさと歩き始めていた。
何しろ、未だ状況は劣悪だ。戦力になりそうな者は軒並み孫悟飯に潰されたのだから。
結局、戦力は集まらず、海馬コーポーレーションも調べられない。
できることなら孫悟飯が相手でも負けぬ対主催を集めて再び訪れたいが……
果たしてあの怪物に対抗できる参加者が何人いる事やら。
戦力に対するアテもなく。首輪を外すための目途も立たない。
徐々に生存圏が狭まっていく様な、そんな閉塞感を魔女は感じていた。



「………………………………。」



慌てて彼女に追いつき、後ろに続きながら。振り払うように歩く。
沈黙するモクバが脳裏に思い浮かべるのは、目だった。視線だった。
今しがた、ドロテアに殺されたジュジュと呼ばれていた少女。
その最期が、目に焼き付いて離れない。彼女の言葉が耳に焼き付いて離れない。
ミイラとなりて死に行く少女の、ありったけの怨念と呪詛が、瞬きの毎に瞼に浮かぶ。
違う。俺のせいじゃない。俺はちゃんとドロテアを止めようとした。
それに、ドロテアの力は俺じゃ止められない。組み付いたってきっと無駄だった。
止められなかった代わりに、こうして償いとして……ドロテアを見張る事を選んだ。
だから、やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。
兄サマが羨ましかった。
兄サマなら、こんな時でも普段通り毅然としているだろうから。
でも、俺は………、
どうして、俺なんだ……
俺は、偶々最後に目が合っただけ………





───けっきょく、あんたたちもおなじじゃない。




めきり、と。
こころがきしむおと。

ゆめはのろいだと、だれかがいった。
ゆめといのちをふみにじられたしょうじょは、ふたりをのろった。
ひびがはしる。

【ケロベロス@カードキャプターさくら 死亡】
【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする 死亡 ドロテア100ドミノ獲得】

【一日目/日中/E-7 海馬コーポレーション内】

【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]悟飯への恐怖(大)、雛見沢症候群感染(レベル1~3の何れか)
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品×2、城ヶ崎姫子の首輪、永沢君男の首輪、紗寿叶の首輪。
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、
チョッパーの医療セット@ONE PIECE、飛梅@BLEACH、ランダム支給品×0~2(紗寿叶の物)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:さっさと逃げて、他の対主催の戦力を集める。
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は絶対に殺す。奴らのせいでこうなったんじゃ!!
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:悟飯の血...美味いが、もう吸血なんて考えられんわ
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。

【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:精神疲労(大)、疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢と紗寿叶が死んだという自責の念(大)、キウルを囮に使った罪悪感(絶大)、沙都子に対する怒り(大)
[装備]:青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:俺のせいじゃない……
1:悟飯から逃げる。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションは態勢を立て直してからまた訪れる。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
8:沙都子は絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
 その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
 無惨もそれを知っています。





……そして最後に残った“星”が、目覚める。



「………っ!こ、こは………?」
『お目覚めになりましたかイリヤ様……よかった………!』



身体に走る痛みが、ここがあの世ではないと少女に伝える。
終末の光に包まれた筈の自分が、何故生きているのか。
それは生還した本人であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンですら。
俄かには信じがたい“奇跡”だった。
呆然と横たわったまま、眼前で浮遊するサファイアに尋ねた。



『恐らくは、ヘラクレスの宝具である十二の試練(ゴッド・ハンド)の効果でしょう』



十二の試練。Cランク以下(本来はBランク)の神秘の攻撃を無効化、軽減する神の加護。
これだけでもかなり強力な護りではあるが、真価はそれを超える攻撃を受けた時にある。
護りを突破される規模の攻撃を受け、死亡した際に担い手を蘇生する。
その効果によって、イリヤは蘇生され、致死の光線から生還を果たしたのだ。
本来なら生きていたとしても動けない程の重傷を負っていた体も、攻撃の規模を考えれば破格と言えるほどダメージが少なかった。


『ですが…分散させてなお、あのエネルギー量を受けて生還できたのは………』
「うん……最後に、光線を逸らしてくれたのは………」


如何な十二の試練とは言え、受けられるダメージの許容量と言う物は存在し。
それを超えるダメージを受ければ、蘇生効果のストックを使い切り死亡してしまう。
射殺す百頭で大半の威力を削いだ後ですら、耐えきれたかは非常に怪しかった。
もし最後に、光線の威力をさらに削ぐ一射が飛来しなければ。
即ち、クロエ・フォン・アインツベルンの助力が無ければ。
イリヤは本当に、光の中に消えていた可能性が非常に高かったのだ。



「バーサーカーと、クロが守ってくれたんだね………」



排出されたクラスカードに視線を落として、ぽつりと呟く。
だが、まだ何も終わった訳では無い。イリヤはただ生き残っただけなのだから。
まだ助けないといけない人は残っている。直ぐにでも行動しなければ。
そう思って立ち上がろうとした少女の身体を、抗いがたい痛みが襲った。



「うっ……あああああああああ!!!!!」
『無茶はいけませんイリヤ様。ダメージは一度死亡した時に償却されていますが。
それでも疑似魔術回路を使用した反動は抜けてはいません。今は身を潜めて下さい』
「で…でも……悟飯君や…クロを止めないと……」
『バーサーカーとセイバーのカードが使用不可になった今では勝ち目はありません。
今は耐えて下さい。他の皆さまを信じ、耐えるべき時です、イリヤ様』



治癒速度を全力で上げており、二時間もあれば戦闘可能な状態まで引き戻して見せる。
そう強くサファイアに訴えられれば、イリヤも無下には出来ない。
此処で無茶をしてマーダーと遭遇すれば、バーサーカーが守ってくれた意味もなくなる。
苦渋の表情で、イリヤは決断を下した。




「分かった……急いで、サファイア…………!」
『勿論です。大丈夫です、イリヤ様。貴女さえ生きていれば、希望は繋がります』



そう答えつつも、ハッキリ言って見通しは真っ暗だと、サファイアは考えていた。
悟飯の発狂により、一時は十人近かった集団は崩壊。のび太と美柑は死んだ。
日番谷や紗寿叶との再会の目途も立たず、悟飯やクロエは未だマーダーだ。
今の状況は月の光さえ刺さない新月の夜、無明の荒野を進んでいるに等しい。
だが、それでも……それでもサファイアは信じていた。夜は夜明け前が最も暗い。
自分のマスターである美遊が、信じたこの少女さえ生きていれば、希望は消えていない。




───月の光すら届かない暗夜だとしても。それでも、星はまだ輝いている。




【一日目/日中/D-5】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、決意と覚悟
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、クラスカード『アサシン』、『バーサーカー』(二時間使用不能)、『セイバー』(二時間使用不能)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:悟飯君と、みんなを助ける。
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。
4:サファイアを守る。
5:みんなと協力する
6:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。

※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
※バーサーカー夢幻召喚時の十二の試練のストックは残り2つです。これは回復しません。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました。



【逆時計@ドラえもん】
逆にしか針が回らない時計。戻したい時間に回せば、何もかも前と同じ状態に戻る。
正し、戻し過ぎると生まれたばかりの生物は消えてしまう事態も発生する。
致命傷を負った参加者、死者に使用しても効果を発揮しない。
一回の使用で六時間の制限。また、三回使うとただの時計に戻る。


【エネルギー吸収装置@ドラゴンボールZ】
アーカードに支給。
魔人ブウ復活のための汚れていないエネルギーを吸引するための道具。形状はポットに似ており、先端を相手に突き刺すことにより、エネルギーが吸引・注入できる。
その容量は超サイヤ人2の悟飯のエネルギーを吸い取り切ってもまだ余裕があるほど
ちゃんと刺さっていないと吸引できないため、対象の身動きを完全に封じた上で数分は吸い取らなければならない。

【祝福の粉@ドラえもん】
ロキシーに支給。
使えば体力を回復できる粉。10個セットで支給された。
グレーテルは闇を治療するために全て使い切ってしまった。

【媚薬@無職転生 - 異世界行ったら本気だす -】
水銀燈に支給。
バティルスという花が原材料の、不能だったルディをも蘇らせた媚薬。
フィットア領転移事件以降は金貨百枚を超えて取引されるほど高騰している。

【サンダーボルト@遊戯王デュエルモンスターズ】
リップ=トリスタンに支給。
発動すると相手フィールドのモンスターを全て破壊する。
ただし効果を発揮するのはマジック&ウィザーズのモンスターカードのみ。
参加者や意志持ち支給品は対象にならない。
一度使うと六時間使用不能。






118:シークレットゲーム ー有耶無耶な儘廻る世界ー 投下順に読む 120:メチャメチャ哀しい時だって、ふいに何故か
時系列順に読む
118:シークレットゲーム ー有耶無耶な儘廻る世界ー 海馬モクバ 123:トモダチ
ドロテア
グレーテル
クロエ・フォン・アインツベルン
北条沙都子 126:次回「城之内死す」デュエルスタンバイ!
カオス
孫悟飯 131:きみの善意で壊れる前に
結城美柑 GAME OVER
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 120:メチャメチャ哀しい時だって、ふいに何故か
乾紗寿叶 GAME OVER
金色の闇 123:トモダチ
日番谷冬獅郎 124:新世界の神となる
メリュジーヌ 126:次回「城之内死す」デュエルスタンバイ!

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