コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

次回「城之内死す」デュエルスタンバイ!

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
地球を訪れる前。まだ殺し屋だった頃。
幾度となく依頼人達から向けられてきた、下卑た視線だった。
自分を兵器としてしか見ていない、他人を利用する事しか頭にない者の目。
友を得て、妹を得て、愛しい人を得てからは久しく向けられる事のなかった視線。
それは金色の闇と言う少女にとって嫌悪の対象だったが、今はどうでも良かった。



「よいな?ヤミとやら。お前の役目は一つじゃ。この妾とモクバを護衛すること。
そうすれば、お前がマーダーをやっていた頃の悪行から庇ってやろう。妾に任せるがいい」
「………はい」



光を失った瞳で、ヤミはドロテアの言葉に応じる。
凶行のツケは完膚なきまでの敗北と言う形で支払わされた。
更に親友の死、想い人の言葉を自分で裏切った事の自覚、親友の亡骸の愚弄。
立て続けに起こった惨事に、金色の闇と言う少女の精神は最早限界を迎えていた。
それ故に彼女が選んだ選択肢は、



「はい……私は貴方の、兵器です」



自死を止めた相手への服従と言う、思考の放棄だった。
もう、何も考えない。ただ言われた事だけをこなす兵器となろう。
そうすれば、美柑が死に、あの人が決して来てくれないと言う現実を直視せずにすむから。
自分は悪人に利用されただけの、被害者でいられるから。
もう、辛い事は何も考えずにすむのだから。
疲弊しきり、己の生すら投げ出そうとした彼女は、そう言う結論をしてしまった。



(あぁ…でもそれは)



あのグレーテルと言う少女と共に行くのと、何が違うのだろうか。
いや、自分を利用する駒や兵器としてしか自分を見ていない目の前のドロテアよりも。
彼女に身を委ねていれば、きっと備えた技巧の全てを駆使し自分を慰撫してくれただろう。
来てはくれないだろう結城リトのために貞操を守り、友になれると言った彼女を拒絶して。
その結果自分に殺しをさせる事を躊躇わぬドロテアに従うというのだから笑えない。
未だ我が身が可愛いのかと、自分に対する自己嫌悪は募っていくばかりだった。
今の自分が、汚らわしいものに思えて仕方がない。吐き気すら覚える。
いっそ今度グレーテルに会った時、彼女が自分を制圧する事に成功したなら。
その時はこんな身体くれてやり、存分にえっちぃ事をさせてやるのもいいかもしれない。
そんな、自暴自棄の極みと言える考えが脳裏を過るほどに。金色の闇は、末期だった。



「じゃが一つ言っておくことがある。モクバの奴の身柄は出来る限り守って欲しいが…
いう事は聞く必要はない。いざと言う時指揮系統が二つあるのは致命傷になりかねん。
これまで犯してきた自分の過ちを拭いたいのなら─────妾に従え、よいな?」



自分の精神状態を、目ざとく嗅ぎ付けたのだろう。
出会った当初の呼びかけと違い、ドロテアから向けられる言葉は既に命令形で。
経験からヤミにはこの後に続く言葉は凡その察しがついた。
そして、その予想通りの“アメ”を、ドロテアは差し出す。



「無論、妾もタダで護衛させるなど考えてはおらん。働きに見合った報酬が必要じゃ。
もし、妾とヤミ、お前が生きてここを脱出できたなら──ミカンを、生き返らせてやる。
これでも妾は凄腕の錬金術師でな、それにここには妾にも未知の技術が溢れておる。
それを駆使すれば、死者の蘇生をもきっと叶う。叶えて見せようではないか!!」




力強くヤミに訴えるドロテアに対し。
それを聞いたヤミの心中は、僅かほども揺れていなかった。
無論、内容だけなら瞳に光を取り戻してもおかしくない言葉ではあったが。
ヤミはずっと、語るドロテアの眼差しを目にしており、それで分かってしまったのだ。
ドロテアの二人で生きてここを脱出できれば美柑を生き返らせるという言葉に偽りはない。
けれど同時に、その未来が来るとは、彼女はこれっぽっちも信じてはいない。
何故なら彼女はヤミを、孫悟飯の様な相手に使い潰すつもりだから。
どうせ履行されることは無い空手形故に、彼女は大風呂敷を広げているのだ。
無邪気にドロテアの言葉を信じられれば良かったと、ヤミは心中で呟く。



「………分かりました。感謝します」



あぁ、どうせ美柑を助けるために戦うのなら。
いっそ殺し合いに乗ってしまおうか。
グレーテルの元へと戻り友として蕩ける様な快楽を与えられながら、一緒に優勝を目指す。
堕落は、知恵の実の様にヤミにとって甘美なものに思えた。
もう一度友になろうと誘惑を受ければ、今度は拒めないだろう。そう考える程に。



「───うむ!お前と会えて、危険を押して美柑の亡骸を弔った甲斐があったわい。
では、モクバの元へと戻るぞ、余り話し込んでいると疑われるし、悟飯やメリュジーヌがいつ来るかも分からぬからの」
「……はい」




それでも一応、美柑の遺体を弔ってもらった義理がある。
それを果たすまでは、ドロテアの護衛を勤めてもいいだろう。
どうせ、もう。どうでもいいのだから、全部。
その考えだけを胸に、ヤミはドロテアの話を受け入れた。






腕が立つだけでなく、移動でも使える手駒が手に入ったモノじゃ。
ヤミにモクバと共に抱えられ、遠ざかっていくKCを見ながらドロテアはほくそ笑む。
だが気は抜けない。取り合えず海馬コーポレーションから離れる事には成功したが。
悟飯や、メリュジーヌに狙われている状況は依然変わっていない。
圧倒的な力を誇るマーダー達に対抗するには、やはり他の対主催に寄生する他ないだろう。
相当に腕の立つヤミの助力を得たと言っても、彼女は以前より相当に劣化している。
彼女とドロテア自身の力だけを頼りに、殺し合いを渡っていけるとはとても思えなかった。
だから、一先ず敵がいないと思われる場所に降りて協議しなければならないだろう。
抱えられながら、ドロテアはその旨をモクバへと伝えた。



「………あ、あぁ」



モクバの返答に、出会った頃の覇気はなく。
ダメじゃなコイツ、もう使えんわ。
言葉にしないまでもそう考えながら、ドロテアは鼻を鳴らす。
出会った頃のモクバであれば、自分とヤミが席を外した際に、何を話していたのか、と。
意気軒高とそう尋ねただろうに、今のモクバは辛気臭く表情を曇らせるだけだ。
いくら首輪に対する知識があったとて、これでは最早用をなさないだろう。
KCでメスガキを一人縊り殺した事を負い目に感じているのだろうが、実に馬鹿馬鹿しい。
いつまでも引きずっていて、女々しい限りである。
コイツの変わりに首輪を解析している者がいないか、ドロテアは願わずにはいられない。
そうすれば、ドミノに引き換えられると言うのに。




「よし、ヤミ!適当に安全そうな場所で降ろすんじゃ!
一旦これからの事を協議せねばならんからのう────!」



とは言え今はまだモクバの代わりのアテも無い以上、簡単に切り捨てるわけにもいかない。
それにこの小僧の青臭さは一応、他の甘い対主催集団に取り入るのに役に立ちそうだ。
彼が敵意のない事をアピールしつつすり寄れば、お人好し共は無下にはできない筈だから。
尤も自身の能力の高さだけで、自分はフリーレンにだって取り入る自信があるが。
そんな純度100%の自己保身を胸に、ドロテアは地上に降りたとうとして────




「────その前に、私とお話ちまちょぉおおおおねぇええええええええ!!!!」




そこを狙われた。
ミサイルもかくやの速度で飛来してきたのは、ドロテアの見知った顔。
そして、今最も会いたくなかった顔の一人だった。
狂笑を浮かべたシャルティア・ブラッドフォールンが、勢いのままに突撃槍を振るう。
金色の闇は咄嗟に変身させた髪を伸ばすが、その量が余りにも不足だった。
飛行中、更にドロテア達を抱えた状況で、シャルティアを止めるに足る迎撃を放つ。
それは賢者の石で何とかエネルギーを補填している今のヤミにとって、不可能に等しく。
それ故に、髪の防御壁は紙の盾の様にあっけなく破られて。
衝撃を三人が襲い、成すすべなく墜落した。






何とか、ドロテアとモクバと言う少年を逃がすのには成功したらしい。
奇襲からの墜落を無傷で凌ぎながら、金色の闇はその事を認識した。
髪の一部を硬質化・自切させながらドロテア達を包んで野球ボールを作り。
墜落の最中に髪の大部分で掌を作って投げたのだ。恐らくは無事だろう。
とは言え最早……自分は彼らの面倒は見れそうにないが。
相対する煽情的な黒を基調としたコスチュームを纏う少女を見て、ヤミは諦観と共にそう考えた。



「中々やるでありすんねぇ、落下の最中私を妨害しつつ、仲間を逃がすとは……」



粘ついた視線。粘ついた声。
此方を品定めする様に、黒衣の少女はニヤニヤと笑みを浮かべてヤミを見る。
自分は目の前の絶対に負けないと言う確信と、嗜虐心を隠しもしない笑み。
凍てついた心でも、不快感は感じるのだなと言う知りたくなかった事実を。
ヤミはこの日初めて思い知らされる事となった。



「うんうん!顔も頗る良いでありんすし……決めんした!
ぬしはこのシャルティア・ブラッドフォールンが血を吸い、下僕にしてやりんしょう」



輝くような笑顔と共に、シャルティアは悍ましい話を口にする。
まるで地球の伝承に伝わる吸血鬼な印象をヤミは覚えたが、抱いたイメージは正しい。
彼女はナザリックの階層守護者である真祖(オリジン)の吸血鬼なのだから。
そして、その怪物が今、見目麗しいヤミの姿を見て狙いを定めた。
自分が血を吸い、眷属にして夜伽の相手を勤めさせるに相応しい雌だと。




「私は……貴方が嫌いです」



息巻くシャルティアに対しヤミの返答は、拒絶。
ただ殺されるなら兎も角、血を吸われて奴隷にされるなど御免だ。
その意志をはっきりと告げ、髪を変化させて臨戦態勢に移るが。
シャルティアはヤミの返答と身構える姿を前に、鼻で笑った。



「今は嫌でも──眷属になれば妾の事大好きになるから問題ないわよねぇ?」



ヤミの意志など関係ない。
血を吸って眷属にしてしまえば、彼女の意志など紙同然。
拒絶の意志など幾らでも捻じ曲げる事ができるのだから。
だから、拒む方法は一つ。シャルティアの撃破以外に選択肢は存在しない。
絶望すら伴う事実を突きつけつつ、シャルティアはランドセルよりスポイトランスを取り出した。



「ぬしの意志など、我が忠誠に比べれば藁の様に軽く脆いと教えてやりんしょう」



言葉と共に、シャルティアはその手の獲物を構える。
片手は無限の魔力供給を約束するカレイドステッキ。
もう片方の手には自身の忠誠の証であるスポイトランス。
それらは歴戦の殺し屋であるヤミにすら、“死”を想起させるに充分な脅威だった。



「さぁ、蹂躙の時間でありんす────ッ!」



捕食者の笑みを浮かべて、シャルティアが突撃槍を振り上げ跳躍する。
迫りくる脅威に対し、ヤミは髪の中に隠し持っていた賢者の石を駆動させる。
元々ガス欠を迎えていた所を賢者の石で何とか補填していた最悪の状況。
そんな矢先に目の前の突撃槍の女の様な怪物を相手取るなら、短期決戦しかない。
無論それがどれほど望みのない戦いなのかは理解していたけれど。
それでも、今の自分は兵器だ。兵器は勝ち目が無くとも戦場から逃げられはしない。
だから彼女は迫りくる破滅に身を委ね、戦う事を選ぶ。



「───自己評価よりは、無駄が見受けられますね」



目の前のシャルティアは強い。間違いなく強い。
宇宙にその名を馳せたヤミをして、太鼓判を押せるほどの強者なのは間違いなく。
だが、同時に彼女は感じ取った。シャルティアの戦いから微妙な違和感を。
繰り出される槍の威力は捉えられればまずヤミを一撃で殺しうる威力だ。
乃亜のハンデを受けてこの鋭さ、この迅速さは紛れもなく驚嘆に値する。
だが…反面、対人戦の経験に乏しいのではないかという雰囲気が、何故か感じ取れた。
通常此処までの強者からまず感じ取れる感覚ではない、それ故の違和感。
戦い慣れている、自分の戦法を確立しているのに、どこかその立ち回りは素人臭い。



───大方、強すぎたが故に相手を一撃で倒す戦いしかしてこなかった、という所ですか。



生まれながらの強者であったなら、駆け引きや立ち回りが素人臭くとも頷ける。
事実彼女は無造作に槍を振るうだけで大抵の相手を撃滅できる実力を有しているのだから。
ヤミはシャルティアに対し、そう言った評価を下した。
組み立てた仮説が正しいかどうかは分からないし、その是非はさして重要ではない。
今重要なのは、目の前の難敵には付け入るスキがあるという事、ただそれだけだ。
その結論を下しながら、ヤミは右手を桃色の刃にトランスさせ、突撃槍と打ち合う。




「くっ………!」



空間に火花が散り、ヤミの表情が歪む。
惑星兵器の出力を誇ったダークネスであった頃とは違う、完全に競り負けていた。
相手の動きに無駄はあるが、それが戦力差を覆せる程の物ではない事を一度の交錯で悟る。
やはり勝機は乏しい、どこまでも。
もし媚薬の効果が今だ身を苛んで居れば、戦いにすらならなかっただろう。



「無駄が何だって!?」



口の端を裂けそうになるほど釣り上げながら、シャルティアが追撃に迫る。
大口を叩いて早々口ほどにもない。それが彼女の抱くヤミに対する評価だ。
醜く損壊した死体は、シャルティアの趣味から微妙に外れてしまう。
だから、先ほどの一撃はなるべく麗しい容姿を保つために手を抜いていた。
それなのにヤミは一合受けただけでふらついている。何か偉そうなことを言っておいて。
シャルティアは不遜にヤミに対し嘲りの表情を浮かべた。腹の底から敵を見下した顔。
だが、それを許されるだけの実力を、殺意を、吸血姫は備えている。
その事実に従い、彼女は断頭の刃を残像すら残る速度で振り下ろした。
己の勝利を、確信して。



「────そのままの意味ですよ」
「なにっ!?」



突っ込んできたシャルティアの鳩尾に、カウンターを叩き込む様に。
アスファルトで構成された握りこぶしが大地より伸び、彼女に突き刺さっていた。
予期していなかった衝撃に痛痒はないものの驚き、数歩たたらを踏んで後退する。
アスファルトから生えた拳は、言うまでも無くヤミの仕業だ。
行ったのは、ダークネスの頃に行っていた無機物への変身の応用。
それを賢者の石の力に依ってノーモーションで疑似的に再現したのだ。
上手く行くかは分からなかったが、彼女は賭けに勝った。
これは賢者の石が錬金術と併用される本来の用途と近かった事に起因する。
当然、ヤミに知る由もない事であるが。
僅かに訪れた幸運を噛み締め、ヤミは決断を下す。勝負を決めに行く、と。



「くっ…!?この─────!」



シャルティアの四肢、関節部にヤミの毛髪が巻き付き固定(ロック)する。
どれほど筋力差があろうとも、関節部だけは脆く抑えられれば力を発揮できない。
ハナハナの実という悪魔の実を食べた女性が、屈強な数多の海賊や海兵を倒してきた様に。
ハンデの影響を受けた条件下、数秒ほどの猶予でこの拘束からの脱出は難しいだろう。
プライドの高いシャルティアの気性をして、そう判断をせざるえない見事な一手だった。
そして当然、ヤミがシャルティアの脱出を待つ義理はない。



「死んでください」



これで殺(と)る。零下の殺意を瞳に宿し、右手を変身によって変貌させる。
狙うは首の両断。一撃で勝負を決めるならそれを狙うのが最も確実だろう。
でなければ、乃亜は首輪を抑止として選んでいない。
その推察の元、全身のナノマシンと賢者の石の駆動率を引き上げ、桃色の太刀が像を結ぶ。
結城美柑はもういない。殺し屋に戻ったとしても、咎める者はもうこの島にいないのだ。
当然、プリンセス達も結城リトも来てはくれない。
だから、躊躇する理由はどこにもなく。金色の闇は標的の首筋を狙い────




────兵器なんかじゃないよ。



揺れる。
そして、その揺れは彼女にとって致命だった。




────《力場爆裂(フォース・エクスプロージョン)》




不可視の爆裂が、ヤミとヤミが伸ばした毛髪を襲った。
シャルティアにとって、四肢を拘束された程度では些事でしかないのだ。
何故なら彼女は戦闘力を追求したナザリック屈指のガチビルド。
魔法戦にも長けている彼女を本気で行動不能にすることを試みるのなら。
口腔に硬質化した大量の毛髪を窒息させる勢いで流し込み、魔法詠唱も封ずるべきだった。
しかし今となっては後の祭りだ。シャルティアは大部分が吹き飛んだ毛髪を引きちぎり。
そして嗜虐心を剥き出しにした酷薄な笑みを露わにしながら、ヤミへ突撃槍を振りかぶる。



(だが────遅い!!)



不可視の衝撃波に襲われながらも、ヤミは体勢を保っていた。
右手を変身させた桃色の太刀もそのまま、反撃の余地はいまだ健在。
そしてシャルティアは今ミスを犯した。今、二人の距離はお互いの鼻筋が分かる近距離。
そんなショートレンジで、振りかぶった大振りの一撃は先手を譲るようなもの。
ヤミは腰と脚部に力を籠め、身体の捻りを加えて桃色の殺意を振り上げる。
振りかぶった体勢から振り下ろす体勢に移行する、その一瞬に食い込む。



殺(と)った。



横薙ぎに刃と化した腕を振るったその瞬間、切っ先の速度は音の速度を超え。
殺し屋としての天賦の才か、軌道も非の打ちどころはなく。
確実に、シャルティアの首を泣き別れにできる一撃だ。
その後のヤミの生存を度外視すれば、の話ではあるが。
恐らくこのままいけばヤミがシャルティアの首を飛ばした一秒後には。
既に振り下ろされた突撃槍の一撃に、金色の闇の肉体は砕かれる結末に終わるだろう。
だが、ヤミはそれでも構わないと思った。



(今更、ですね)



元々自死を選ぼうとしていた身。
自分が目の前のマーダーを非難できる立場にない事は理解しているが。
それでも対主催と見られる二人を助け、マーダー一人を道連れに死ぬと言うのは。
穢れた自分には過ぎた最期なのかもしれない。
彼女はふっと自嘲する様に笑いながら、そのまま切っ先を奔らせ。



────《石壁(ウォール・オブ・ストーン)》



そして、彼女の甘やかな幻想は打ち砕かれる。
シャルティアとヤミの間に割り込む様に石壁が現れ。
それをヤミの振るった刃は打ち砕く事に成功したが、その影響で切っ先の速度が落ち。
彼女の乾坤一擲の一刀は、シャルティアの片手の指で受け止められた。





「脆弱(よわ)いでありんすねぇ」



そのまま摘まんだ一刀を、自分の掌が切れる事も気にせずシャルティアは握り締め。
残ったスポイトランスを握っている手を振りかぶった。
実質腕を取られているヤミに、その一撃を躱す術はない。
腕を切り離そうと、すぐさま追撃を受け結果は同じだ。
金色の闇はこの瞬間、自らの生存と勝利を諦めた。



「ぬし、もう目が死んでいるでありんすよ。そんな有様で────」



シャルティアは既にヤミが抜け殻に等しい事を見抜いていた。
障害であっても、脅威ではない。この女は既に、脅威にはなりえないと。
そう下していた評価の通り、あっけなく、ごちゅりという肉を潰す音が響く。
ヤミの華奢な肉体が、横薙ぎに振るわれた突撃槍で薙ぎ払われた音だった。



「至高の御方への忠道を阻もうとは片腹痛い。身の程を知りなんし」



一撃で勝負は決まり、金色の闇は道路の片隅に横たわり沈黙する。
今の彼女にとって、シャルティア・ブラッドフォールンは難敵に過ぎた。
だからこれは当然の帰結。闇の敗北と言う当たり前の結末が紡がれただけだ。
完全に意識を喪失しており、しばらく目を醒ますことは無いだろう。
否、醒ましたとしても、きっともう彼女に立ち上がる気力はない。



「さっ、さっさとこの娘の血で栄養補給をして、次はあのクソ共の蹂躙としゃれこみんす」



とは言え、態々起きるまでシャルティアが放置しておく理由はない。
まして今の彼女はすぐさまモクバ達に追撃を行おうとしている時である。
モクバ達を襲っている間に逃げられるリスクを考慮すれば、どうするべきかは明らかだ。
合理的な思考の元、シャルティアはヤミの命を摘み取りにかかる。



「ふふっ!ぬしの血は美味しいでしょうし、楽しみねぇ?」



これで、先ず一人。シャルティアはほくそ笑んだ。
乃亜の新ルールもある以上、今はキルスコアを上げてドミノを稼がねばならない。
シュライバーや悟空の様なこの島きっての強者に勝利するには、それしかない。
逆に言えば乃亜の優遇さえ受ければ、あの二人さえ消せば。
優勝はかなり現実味を帯びてくると、シャルティアは推察していた。



(………そのためにはあのデパートに現れた支給品の力が必要でありんす)



ヤミ達と会敵する暫し前。二回目の放送が響いた直後に。
シャルティアは目撃していた、デパートの立つ方角に現れた巨神の姿を。
見つけられたのは本当に偶然だった。
シュライバーらに吹き飛ばされた先で、傷を癒す傍ら警戒の為索敵スキルを用いた結果。
たまたまデパートの方角を向いており、補足する事が出来たのだ。
奇妙な感覚だった、一度気づけばなぜ今まで気づかなかったのかと考える存在感だったが。
もし索敵スキルを使用していなければ、まず間違いなく気づいていなかっただろう。


とは言え、それ事態は不気味ではあるが今は放置しても問題ない。重要なのはその先だ。
巨神が現れた瞬間威容に目を奪われ、即座に看破・鑑定スキルを用い正体を探ったのだが。
その際鑑定スキルが反応を示し、巨神が支給品で呼び出された物だと知る事ができた。
それはつまり、乃亜からあの強大な力を与えられる可能性があるという事だ。
ゲームの貢献者への還元、そのために乃亜はドミノポイントを導入したのだろう。
その考えに思考が行きついた時、まず考えたのはあの強大な力が必要だという事であり。
それ故に参加者を沢山殺しドミノを稼ぐ、と言う結論だった。



「ここで三人纏めて殺せれば…トップ争いも見えてくるわよねぇ?」



あの二人組もまだそう遠くへは逃げていないだろう。
逃げられる前にヤミにトドメを刺し、すぐさま逃がされた二人を追撃する。
そうすれば、乃亜の言葉が確かならドミノの上位争いに食い込める可能性が高い。
ドミノ上位になれば、きっとあの巨神の力も手に入る。
巨神の力さえ手に入れば、孫悟空もシュライバーも臆する相手ではない。
心中で高らかに叫びながらシャルティアはスポイトランスを構え、とどめを刺そうとする。
だが、突撃槍がヤミの命を貫くよりも早く、その切っ先は止められてしまった。
シャルティアとヤミの間に目にも映らぬ速度で飛来した、一振りの剣によって。



「…どういうつもりでありんす、メリュジーヌ。まさか獲物を横取りにしに来たと?」



眼差しの先に立つ騎士の姿は、やはり麗しい。
だが後から駆けつけてきて、獲物と自分の間に割り込むのはいただけない。
これでは獲物を横取りしに生きたと受け取られても文句は言えないはずだ。
冷たく鋭い視線を向けたままシャルティアは自分の槍を受け止めた闖入者に尋ねる。
シャルティアの問いかけに対して、彼女の、メリュジーヌの応答は簡潔だった。



「違う。だが…その子は見逃して欲しくてね。シャルティア」
「あ゛?」



見逃せと言われた瞬間、シャルティアの額にビキリと青筋が浮かぶ。
だが、その直後に必死に彼女は己を律した。落ち着け、と。
メリュジーヌは、感情に任せて戦っていい領域の相手では断じてないのだから。
アインズ様が今ここにいれば、きっとそうおっしゃる筈だと重ねて諫め、何とか落ち着く。
もっとも、続くメリュジーヌの言葉がなければ辛抱強い方ではない彼女は直ぐに爆発していたやもしれないが。



「勿論タダでとは言わない。要求を飲むなら、此方も君の望む物を渡す」
「……………」



メリュジーヌの言葉に対し、シャルティアの返答は沈黙だった。
如何にも機嫌の悪そうな態度でメリュジーヌをじっと見て、そのまま十秒。
一触即発の睨み合いの後、彼女は不服そうに溜息を吐いて。



「……いいでしょう、話を聞きんしょう」



がつん、と地を舐めるヤミの身体を足蹴にして、くぐもった呻きを上げさせながら。
シャルティアは、メリュジーヌの要求を受け入れた。









結論だけを先に述べてしまうならば。
モクバの死者の埋葬は、失策だった。
近辺には悟飯の暴走の煽りを受けず、回復に専念していたメリュジーヌが潜伏しており。
そしてそのメリュジーヌは、戦闘時以外悟飯が飛行できなくなっている事を聞いていた。
情報源は勿論、悟飯とつい二時間前まで仲良くしていた沙都子からである。
それ故に彼女は、日番谷から受けたダメージの回復の確認も兼ねKCに赴いたのだ。
周囲に弱った負け犬がいれば、ドミノ獲得のために狩る事を目的として。



(飛行機能は既に取り戻しているが……巡行速度は半分ほどかな)



日番谷から与えられたダメージにより、普段なら苛立ちを覚える程飛行速度は落ちている。
その状態でも満足に飛べない悟飯であれば撒ける自負はあるが、念には念を。
禁止エリアスレスレの高度を取りながら、メリュジーヌは周辺の哨戒を行い。
成果として見覚えのある人影二つ、発見するに至った。
既に事切れた遺体を埋葬しようとする、ドロテアとモクバの姿を。
やる必要も無い埋葬の為に、戦場跡に留まってくれていたお陰で見つける事ができたが。
その時点ではメリュジーヌは追撃を仕掛ける判断を見送った。
理由は直後に手練れと見られる金髪が現れた事が一つ。
何より、戦闘終了までにKC周辺に悟飯が戻ってくるリスクを懸念したからだ。
乱入を避けるために、メリュジーヌは暫し手を出さず、そのまま追跡する事を選んだ。
どうせ向こうからしてもKC周辺は死地。放って置けば勝手に離れてくれるのだから。



『──メリュジーヌさん?聞こえますか。今、カオスさんの自己修復が終わりました』



丁度その判断を下した時、沙都子からの通信を聞いた。
カオスの自己修復が終わったという一報を。
元々損傷はパンドラの起動により全快していた身。
消耗はしていたが、損傷がなければ自己修復機能を全て其方に向けられる分、回復は早い。
更に今の彼女は消耗など吹き飛ばす“存在理由”を得ている。



『メリュ子おねぇちゃん!今どこにいる?すぐ“マスター”とそっちに行くね!!』



輝くような笑顔が容易に想像できる弾んだ声で、カオスも通信に加わる。
それを聞いて、メリュジーヌはこの通信で伝わるのが声だけで良かったと、そう思った。
でなければ、沙都子の事をマスターと呼んだ彼女の顔を、直視できなかったかもしれない。
これでもう、自分が巻き込んだ天使は後戻りできない。カオスは沙都子を裏切れない。
エンジェロイドは、鳥籠(マスター)を愛する様に設計されて生まれた存在であるが故に。



────今更、惑うな。



カオスの事を沙都子に話した時点で、自分も立派に共犯者だ。
地獄へ向かうレールを舗装したのが沙都子なら、敷いたのは自分だ。
カオスが地獄へ向かう事を厭うなら、最初から見て見ぬふりをすればよかったのだ。
それを今更惑って、心ある竜のフリをするな。姉であろうとするな。
今のお前はオーロラの騎士であり、それ以外にとっての厄災なのだから。
その役目を果たせ。全てを利用しろ。役目以外の全ては、斬り捨てるべき余分でしかない。
彼女は己にそう言い聞かせ、冷徹に、非情に心を凍てつかせて。
優しく頼りになる姉を完璧に演じて、カオスの呼びかけに応答した。
元気になってよかった。標的を見つけたから、これから沙都子と一緒に来て欲しい、と。
無邪気にはしゃぎながら了承するカオスの返事は、とてもよくメリュジーヌの心を灼いた。









全身を鈍い痛みに苛まれながら、ドロテアが短いうめき声上げつつ意識を取り戻す。
墜落の衝撃から意識が覚醒すると共にがばりと起き上がり、周囲を見渡す。
すると傍らにまだ意識がはっきりしていない様子のモクバが横たわっていた。
手早く状態を確認するが、怪我をしている様子は見られない。
きっと辺りに散らばっているヤミの物と思わしき毛髪が守ってくれたお陰だろう。



「起きろ!起きるんじゃモクバッ!!呆けとる場合か!逃げるぞ!!」
「う、う~ん……?ド、ドロテア……?一体俺達、どうなって……」
「飛んでおった所を襲撃されたんじゃ!早くここから逃げんとヤミも逃げられんじゃろ!」
「………ッ!?……っ!わ、分かった………!」



まだ意識が僅かに混濁しているモクバの頬を強かに張って、状況を知らしめる。
既にドロテアはこの時ヤミの生存を諦めていたが、その事を決して口にはしない。
モクバがヤミを助けると言い出さない様、もっともらしい理由を述べて逃げる事を促す。
本当を言えば、ドロテアも拾って早々ヤミを手放したくはなかった。助けたかった。
だが、満身創痍の自分達がヤミを助けようと挑みかかっても死体が増えるだけ。
それ故に、ヤミもまた逃げ延びる事を期待して逃走を選ぶしか、選択肢はなく。



(何でこの島ではこうなるんじゃあ!毎度戦闘では役に立たんモクバのフォローをして…
強大な権力に寄生しぬくぬくと私欲を満たすのが妾の基本スタンスだというのにっ!)



ヤミを手放したくはなかった。
フリーレンなど強力な対主催の元へ身を寄せたかった。
その為なら、写影達を許すどころか媚びても良かった。
まだ精通も迎えているか怪しい小僧に媚びるのは屈辱だが、今の自分に比べればマシだ。
マーダー達に翻弄され、怯え、逃げ惑うなど惨め過ぎる。
それなのに、めぐり合わせは何処までも自分に優しくない。こんなの理不尽だ。



(……待て。あの槍を持った女はメリュジーヌと一緒にいた。
この襲撃は、本当にただのめぐり合わせ、か?)



ぞくり、と悪寒が走った。
ドロテアの脳裏に過った懸念は、半ば外れている。
少なくとも彼女等を最初に襲ったシャルティアの奇襲は、ほぼ偶然だ。
シャルティアが放送前に負った傷を癒し、ディオを探すべく飛び立った時間と。
ドロテア達がヤミを懐柔し、悟飯から逃げるべく飛んだ時間が不運にも重なった。
それだけの話なのだが、同時に全くの的外れという訳でも無かった。何故なら。
メリュジーヌ達に今も補足されているのではないかという一点においては。
ドロテア達にとって最悪な事に、正しかったのだから。



「─────やぁ、また会ったね」
「………………っ!?」



声が響くと同時に、息を呑む。
悟飯に次ぐ、今出会いたくない顔の第二位。
メリュジーヌが、ドロテア達の前に姿を現していた。
出会った時と全く変わらない、冷たい殺意を眼差しに籠めて。




「あ……ぁ……!」



モクバも既に意識をはっきりと覚醒させていたのか、恐怖を露わにした声を上げる。
完全に、メリュジーヌの放つ殺意に飲まれていた。
今の彼を頼ることはできない。瞬時に判断を下し、ドロテアは大声を張り上げ指示を出す。
メリュジーヌは優勝する事しか頭にない最悪の手合いだ。交渉の余地はない。
最早悟飯の存在は抑止として機能せず、手を組もうと提案しても跳ねのけられるのがオチ。
となれば、逃げる以外の選択肢はなかった。



「モクバ!死にたくなければ青眼のカードを渡せ!」
「……っ!くそっ…!あぁ、分かった────!」



ドロテアの大声に反射的に従い、モクバは青眼のカードをあっさりと手渡した。
どの道青眼自体は現状インターバルが明けていないためただのカードだ。
それならば、ドロテアの錬金術で別のカードを生んでもらった方が良いだろう。
その考えの元、ゆっくりと歩み寄って来るメリュジーヌを尻目にカードの譲渡が成され。
受け取った瞬間、迷うことなくドロテアは青眼のカードへ錬成陣を刻んだ。
素材となった青眼の攻撃力は0に、守備力も400まで低下してしまうが。
しかしそれを気にしている余裕はない、カードよりも人命こそ優先だ。
必死の表情で、ドロテアは最善のカードを現出させる。



「いけっ!ゴブリン突撃部隊!!」



武装したゴブリンの群れが現れ、ドロテア達を守る盾となる。
数では圧倒的に勝ったドロテア達だったが、安心はまるでできない。
数が頼みの雑兵達で、メリュジーヌを討ち取れるはずもないのだから。
ゴブリンたちが姿を現した時には、ドロテアは次なる行動に移っていた。
モクバの手を取り、前掛けにしたランドセルを残った手で漁りつつ、疾走を開始する。
ゴブリンたちが囮になっている間に、逃げ延びるのだ。



「カオス、丁度君たちのいる方角へ行った」



逃げ去っていくドロテア達の背中を見ても、メリュジーヌの表情に焦燥はない。
これはカオスに対する試練なのだから。
ただ通信機を通してドロテア達が逃げた方角を伝え、ゴブリンたちの殲滅に移る。
竜の炉心から生み出された魔力を放出し、躍りかかって来るゴブリンたちを撃ち抜く。
瞬く間に数を減らし、臆した表情を浮かべるゴブリンたちを前にメリュジーヌは呟いた。



「……さて、頼んだよカオス」








攻撃力0となった青眼のカードを見て、これでいいのかという思いが募る。
あのヤミという少女も後で合流すると言う様な口ぶりだったけれど。
考えて見れば落ち合う場所だとかをドロテアが口にした記憶がない。
本当に合流する気があるのか。このままドロテアの指示に従っていていいのか。
ぬかるみに沈み込んでいくが如く、疑念はモクバの思考と身体に纏わりついていく。
そんなモクバの様子を、余裕のなさから一切気に掛ける様子は無く。
ドロテアは紗寿叶から奪った支給品であるフラフープの様な輪を一つ取り出す。




「このいないいないフープ君は…自動的に人のいない場所を探し移動できるらしい。
一度使えば数分のインターバルが必要じゃが、重ねて使えば逃げ切れるはずじゃ」



ワープできる道具とはオーバーテクノロジーにも程があるがこの島には未知が溢れている。
今更驚きはしないし、圧倒的に機動力で勝る相手に対し腑に落ちる計画ではあった。
ただ一点、どうしても納得できないのは。



「ヤミって子はどうするんだ。合流するんだろ?
ワープで痕跡が残らないんじゃ追ってこれないし、落ち合う場所は決めてあるのか?」
「……無論じゃ。妾を疑っておるのか?」
「じゃあ何で自動で人がいない場所に行くなんて適当な道具を直ぐに使おうとするんだ。
もしそれで島の反対とか、合流ポイントとは真逆の場所に出たら────」
「心配するな、ちゃんと考えてある」
「じゃあその考えをちゃんと説明しろよ!」



不満が、噴きあがる。
モクバは察したのだ。また言いくるめられて、また煙に巻かれようとしていると。
だから食い下がる、ドロテアの言葉に反発し噛みつく。
このまま流されれば、また他人を見捨てる事になると、そう思ったから。
だからドロテアの腕を掴み、真実を話す様に訴える。
だが、その訴えはドロテアを苛立たせるだけだった。
一刻も早く逃げなければならないと言うのに。
既にキウルを見捨てて生き残った分際で、今更何を厭うのか。
ドロテア側からしても、モクバに対する不満は募っていた。



「今そんな事を言っとる場合か!いいからっさっさと────」
「お前がちゃんと話せば!話そうとすればいいだけだろ!信用できないんだよ!!」



モクバにとっても、ドロテアがヤミを見捨てるなら納得する努力をするつもりだった。
だが、永沢を殺した時の様に、死にかけていた少女にトドメを刺した時の様に。
ペテンを使って、嘘をついて、モクバを丸め込もうとしている。
今のままでは、またあの少女のようにこの女の犠牲になる者が出てくる。
消えてくれない彼女の最後の視線と声に突き動かされる様に、モクバは糾弾を行う。
俺は違うんだと、あの犠牲をまた生まない様に努力してるんだと、そう言いたかったから。
だが、彼の言葉がドロテアに届く事は、無かった。
いい加減我慢の限界だという様相のドロテアは、モクバの襟首を掴み上げて。



「───死にたくないなら、妾に口答えするでないわ」
「悪いのは……!お前だろうが……!ドロテア………!」
「やかましい、いい加減うんざりじゃ。とっとと行くぞ」
「お前……!やっぱりヤミを捨て石に───!」



話を途中で打ち切られて、首根っこを掴まれ、輪の中に諸共に引きずり込まれる。
この時モクバは確信した、やはりこいつ、ヤミという子を捨て石に使ったのだ。
カツオやキウル達の時からこれで都合三度目だ。黙っておくわけにはいかない。
断絶と決裂に対し、声を上げようとした時、違和感に気づく。
さっきまで背負っていたランドセルが無いのだ。そして、全身がスースーする。
視線を首から下に向けてみれば、あるべきものが無かった。
ドロテアも、自分も、輪をくぐった瞬間、全裸になっていた。



「な、何だこれ……ッ!?」
「どういう事じゃ乃亜ァ…ッ!?衣服はともかく、何故ランドセルまで持ち込めない!」




裸になった事に気づくと、モクバは股間を隠そうと両手で覆い。
対照的にドロテアは裸体を曝け出したままいないいないワープ君を手に恨み言を零す。
飛んだ欠陥品だ。服のみならずランドセルすら置き去りとは。
これでは本当に緊急時の時に命を拾う目的でしか使えないだろう。



「チッ!仕方ない、一旦ここで潜伏した後、機を伺って回収に行くしか───」



空間転移したのだ、これなら尾行されていたとしても追撃を受ける恐れは低い。
向こうの視点で言えば、突然自分達が消えた様にしか思えない筈。
今自分が立っている場所を見渡すと、狭苦しい民家の一室のようだ。
なるほどここなら、そうそう他の参加者は訪れないだろう。
その点については、説明書に偽りなしの評価を下しても良かった。



「ともあれほとぼりが冷めるまでは迂闊には動けんか。モクバ、この家においてある服を」



取ってこい、と言いかけた時だった。
モクバが言葉を返すよりも早く、ドロテアの本能が警鐘を鳴らす。
まさか、と考え民家の窓から周辺を睥睨し、現在地の確認を行った。
見える景色から、ワープした地点とそう離れてはいない場所に出たらしい。
だが、そう離れてはいなくとも不可能な筈だ。ワープした相手を即座に補足するなど。
現状の自分達は全裸、何かマーキングをされて居場所を割り出される恐れも無いはず。
それになのに、何故。



(いや…違う。もし、妾達そのものが目印になっているのだとしたら?)



数時間前にモクバの口から電子機器の説明は受けている。
その際に彼が語っていた、レーダーの話をドロテアは想起していた。
物体の放つ電波や体温などをキャッチし、位置を割り出す装置。
それによって探されていたのなら、短距離のワープでは逃げ切る事は難しいだろう。
索敵範囲から遠く逃れられていなければ、結局転移した先で補足されるのだから。
そして、自分達の体温は恐らく既に記録されている。
何故ならすでに、自分達は北条沙都子に出会っているのだから────!



「……不味いッ!モクバ……ッ!!」



どうすればいいのかは直ぐに浮かんでこない。
だが、電子技術に精通しているモクバであるなら、対抗手段も分かるかもしれない。
そう考えて、知識を仰ぐべくモクバの名を呼んだ、丁度同じタイミングで。



「みーつけた」



クスクスと、無邪気で、残酷な笑い声が響き。
それと共に、ドロテア達が潜伏していた一室の壁が吹き飛んだ。
ぽっかりと空いた風穴の中に立つ、修道服を纏った天使の少女。
北条沙都子がカオスと呼び侍らせていた少女の姿を、ドロテア達は認めた。



「お、お前等───北条沙都子っ!」




モクバがその名を呼んだことを皮切りに、状況は動き出す。
カオスは沙都子を大地に降ろし、翼を広げて急発進。
その速度は彼女を知るエンジェロイド達からすれば考えられぬ程低下した速度であったが。
ドロテア達にとっては到底逃げ切れぬ速度を記録していた。



「────か…………っ!?」



先ず狙われたのは最もこの場で弱いモクバだった。
いないいないフープ君のせいで無手の上に服すら着ていない完全な無防備。
そんな状態で、第二世代エンジェロイドの強襲をただの少年がどうにかできる筈もなく。
ドロテアが妨害しようとするが、それよりもなお速く。
カオスの掌底は、モクバの顎を撃ち抜いた。



「……………ッ!!!」



ぐりんッ!と白目を?き、どしゃりとフローリングの地面に崩れ落ちる。
抵抗の余地など一切なく、殺さぬ様に見事に手加減が加えられた一撃。
沙都子から与えられた、殺すなという命令をカオスは遂行した。
そして、次なる標的へと矛先が切り替わろうとした所で────気づく。



「北条、沙都子ォオオオオオオオッ!!!」



残っていた標的が、自分の鳥籠(マスター)を狙おうとしている事に。
恐ろしく判断力に長けた敵だ。この場で唯一勝機がある選択肢を一瞬で見出したのだから。
ブレインと見られる沙都子を抑えれば、少なくとも膠着状態を発生させられる。
沙都子を人質にすることが、生き残るための唯一の道。
ドロテアのその判断は、成功すれば最も生き残れる可能性が高い一手だっただろう。



「────カオスさん」



もっとも、成功したらの話であるが。
迫って来るドロテアを前にしても、沙都子に焦りはなかった。
ただ、微笑を浮かべたまま己が使いの名前を呼んで。
ドロテアの手が、沙都子の服の袖を掴む。怪力で以て押し倒そうとする。
単純に二人の力比べならば比べるべくもない、瞬時に沙都子は虜囚にされていただろう。
それよりも早く、ドロテアの横腹に拳が突き刺さり、彼女が吹き飛ばされていなければ。



「ぶっ────げあああああああっ!!!」



唾を噴き出して吹き飛ばされ、設置されていた食器棚の方へと倒れ込んでいくドロテア。
がしゃんがしゃんとガラスや皿が割れて砕ける音が響く中、カオスは止まらない。
その表情は先ほどまで浮かべていた酷薄な笑みではなく、怒りの籠った無表情。
そう、ドロテアは成功すれば唯一勝機のある選択肢を選んだけれど。
失敗した場合、尤も相手を苛烈にする選択肢を彼女は選択してしまっていたのだ。



「私の……私の鳥籠(マスター)を………傷つけようとした………!!」




吹き飛ばした事で、ドロテアの距離を主から離れさせることができた。
今なら、手に入れたばかりの力を容赦なく放つことができる。
そう悟ったカオスは迷いのない所作で、右手をドロテアの方へと向ける。
彼女の腕に現れた武装を目にして、ドロテアは目を見開いた。




「貴様…それはアドラメレク………ッ!!!」




雷神憤怒アドラメレク。
モクバが使っていた支給品だ。
いないいないフープ君を使った反動でおいて来てしまった物をカオスが鹵獲したのだ。
説明書もセットでランドセルにあったため、彼女は新たな兵装として迷いなく取り込んだ。
カオスの翼で粉微塵に砕かれ、取り込まれ、アポロンの残骸と合体させられ……
アドラメレクは新たな兵装として新生を果たしたのだ。その名は。




「とーる………!!」
「ま、待て、やめるんじゃ────!」




仲間になってやると提案する暇もなく。
カオスの右手から放たれた黒い稲妻は、容赦なくドロテアを貫いた。
かはっと黒い煙を吐いて、雷に打たれた錬金術師の身体が崩れ落ちる。
電圧を調整したのか致命傷ではない様子だったが、今なら沙都子でも勝てるであろう有様を晒していた。



「……殺してはいませんわね?」
「うんっ!大丈夫!マスターの…沙都子おねぇちゃんの命令はちゃんと守ったから!」



だってあの時と違って、天使の少女は一人ではない。
守るべき主が、大好きなおねぇちゃんがいるのだから。
迷いを抱き一人ぼっちだった数時間前の天使とは、既に別次元の存在と化して。
カオスは、己を敗走させた錬金術師を一蹴し、無邪気で朗らかな笑みを浮かべた。
そんな彼女の頭を沙都子は労うように撫で、次なる指示を告げる。



「さて、メリュジーヌさん達が来る前にモクバさん達に適当な服を着せましょうか。
これから色々お話を聞くにしても、粗末な物を見せられながらと言うのもなんですし」
「…………?うん!!」



そんな見た目だけなら微笑ましいやりとりを揺れる視界の中目にして。
くそ…と小さく吐き捨てながらモクバはどうしてこうなったと考える。
何処で間違えた?何がいけなかった?
ドロテアの指示に愚直に従ったことか?それとも、ヤミを見捨てた事か。
あるいは、あのドロテアに殺された女の子の支給品を使ったこと────



────けっきょく、あんたたちもおなじじゃない。



脳裏に彼女の遺した最後の言葉が蘇る。
それを思い出した瞬間、ははっと乾いた笑いが漏れた。
あぁそうか……それなら仕方ないな、と。自嘲する様に笑って。
彼女の呪いが自分に返ってきたことを肌で感じながら、モクバは成すすべなく意識を堕とした。









ほう…と感極まった吐息が漏れる。
視線の先にあるのは、深紅の鎧。探し求めていたもの。
至高の主から賜った、スポイトランスに並ぶ忠誠の証。
伝説級アイテム・真紅の全身鎧が、シャルティアの眼前に鎮座していた。



「遂にこの手に戻った…!ペペロンチーノ様より頂いた私の装備………!!」



ペペロンチーノから下賜され、乃亜に奪われた双翼たる装備と、再会を果たした。
万巻の思いを込めて頬をすり合わせ、再会の喜びを露にする。
自分の戦果であったヤミを手放したのも、この鎧の存在をメリュジーヌから聞いたが故だ。
なんでも、カオスという仲間の少女の支給品で存在を確認していたらしい。
この事を聞かされていなければ、今頃シャルティアはとっくにヤミを殺していただろう。


「後はこいつらを殺してドミノを稼げれば、私にとって最高のアガリになりんすが……」


ニヤニヤと上機嫌な様子で視線を下げ、今自分が腰かけている椅子を見る。
シャルティアの臀部の下には、二人の少女が折り重ねるように倒れていた。
ドロテアとヤミ、ぶちのめされたばかりの彼女らが未だに目を覚ます気配はない。


「それは約束を反故にするということ?シャルティア」
「そうは言っておりんせん、ただ納得のいく説明を求めたいというだけでありんす」
「それは、沙都子が戻ったら────」


沙都子の名前に、シャルティアは肩を竦める。
下等生物たる人間に、何故メリュジーヌは従っているのかさっぱり分からない。
あのにっくき孫悟飯を暴走させた手腕こそ評価の余地はあるが。
その途中で無様を晒し危うく死ぬところだったというではないか。
やはり下等生物は下等生物。利用するなら兎も角、協力などできようはずもない。
それなのに当のメリュジーヌは「だが、沙都子は君にできない事をした」の一点張り。
今敢えてメリュジーヌと対立する気はないのでそれ以上食い下がりはしないが。
頃合いを見て自分の方と組む様に勧誘するのを考えておく必要があるかもしれない。
シャルティアがそう考えたとき、二人が今いる部屋のドアがノックされる。



「支給品、回収してきましたわー」



がちゃりとドアが開かれ、金髪の子供が二人、部屋へと入ってくる。
こいつが北条沙都子かと、シャルティアは瞼を細め、品定めするようにじろじろと見る。
シャルティアとメリュジーヌがこの部屋を訪れた時には、彼女の姿は既になかった。
今しがた倒した獲物どもが置いてきたというランドセルの回収に行っていたからだ。
そのため、顔を合わせるのは今回がお互い初めてとなる。



「……ふん、頭の悪そうなガキでありんすねぇ」
「えぇ、実際学び舎では檻の中に入れられて勉強させられる程でしたわ」



ファースト・コンタクトから感じの悪いシャルティアの愚弄もどこ吹く風。
おほほほと上品に笑いながら、メリュジーヌの隣にランドセルを降ろす。
するとすぐに、沙都子やメリュジーヌより幼い修道服の少女が二人へ椅子を持ってきた。




「マスター!メリュ子おねぇちゃん!椅子!!」
「ありがとうございます。カオスさん。さ、私の膝に」
「…あぁ、ありがとう、カオス」



沙都子はカオスと呼ばれた少女に膝の上に来るよう促しながら用意された椅子に腰かけ。
メリュジーヌは無表情のまま、しかし優しくカオスの頭を撫でて彼女もまた椅子に座る。
最後にカオスは撫でられた後嬉しそうに笑ってから、ぴょんと沙都子の膝の上に収まった。
三人がこちらに向かい合うように座ったことで、どうやら話をする準備は整ったらしい。
そう判断して、シャルティアは口火を切る。



「……それで?私の邪魔をしてまでこの三人を生かす理由を教えてもらいんしょうか」
「三人と決まったわけではありませんわね、少なくとも二人ですわ」



言葉尻をとる沙都子の言葉に、シャルティアは俄かに苛立ちを覚えるが指摘はしない。
ただ下等生物と対等かのように会話を交わさなければならないというのはやはり不快だ。
自分の自制心が保っているうちに納得できる話をして貰いたいものだ。
心中でぼやきつつ、生き残らせる二人とはモクバというオスガキと後は誰だ?と尋ねる。
まず一人目にモクバを選んだ理由は明白だ。海馬乃亜に連なる少年だから。
情報や首輪を外すための心当たりもあるようだし、生き残らせるとしたらこいつだろう。
その推測の元放たれた問いかけだったが、沙都子は無言で首を横に振った。



「いいえ、生き残らせるのはこのドロテアという方と…この金髪の方ですわ」



シャルティアの予想に反し、沙都子に指名されたのはドロテアと金色の闇。
それを聞いた瞬間、シャルティアの眉間が訝し気に谷間を作った。
何故、モクバではなくこっちの二人の方なのか?すぐさま重ねて問いかける。
筋の通らぬ話であれば存分に詰めてやろうと、重圧を放ちながら。



「───当然、この方々は生かしておいた方が、我々にとって有益だからです」



常人であれば心胆を凍らせるであろうシャルティアの重圧を前に。
沙都子は尚も底を見せぬ涼しい顔を浮かべ、泰然とした態度で応じる。
そして、にっこりと穏やかな微笑を保ちながら彼女はシャルティアに向け口を開いた。
その瞳を紅く煌めかせた、魔女の眼光で見つめながら。








戦場で最も恐ろしいのは、有能な敵ではなく、無能な味方である。
沙都子がドロテア達の助命を試みた理由を述べるなら、その一言だった。
味方には必要ない。敵であってくれた方が、彼女は対主催に火種をもたらしてくる。
KCで初めて出会った時から、彼女はドロテアにそう言った評価を下していた。



「…このババアにそんな能力があると?私にはとても思えないでありんすねぇ」
「それでも、一度はメリュジーヌさんと貴方からこの二人は逃げ切ったのでしょう?」




沙都子の指摘に鼻を鳴らす。それについては言い返す余地が無かった。事実なのだから。
シャルティアが反論に窮したタイミングを見計らい、沙都子は話を続ける。
圧倒的に不利な状況下で、彼女は自分と舌戦を繰り広げたこと。
彼女等もまた、殺意に満ちた孫悟飯から生き残るだけの実力を有した物であること。
そして何より、この強者がひしめく島で今なお生きていること。
まるで商品を売り込むセールスマンの様に、沙都子はドロテア達を飾り立てた。
だが、多少の事実はあるとはいえ、そのどれもが事実ともなれば。
サイヤ人の親子に二度も煮え湯を飲まされたシャルティアは無視できない。



「仮にクソ共の能力がある程度高いとして……
だからこそ、他の対主催に結託されれば面倒ではありんせんか?」



そう、能力が高いと言っても、味方に引き込むのならば兎も角。
このまま黙って見逃すと言うのはいただけない。
それこそこの小賢しい頭脳が孫悟空などと結託されてしまえば面倒な事になる。
そう考えての指摘だったが、沙都子は首を横に振るって断言した。
少なくとも、彼女が他の対主催の方と本当の意味で信頼を築けることは無い、と。
当然すぐさまシャルティアは何故言い切れると問いを投げる。



「これでも私、百年ほどバリエーション豊かな惨劇を見てきまして。
それだけに自信があるんですわよ…人を見る目に関しては。
そして私が見るにこの方の性根は、ハッキリ言ってクズの部類に入りますわ」



ドロテアと言う女はまず間違いなく自分の保身しか頭にない手合いだ。
一般人では太刀打ちできない強さがあるが、強者を相手に戦況を覆せる実力はなく。
一時的に協調路線を歩んでも、追い詰められれば保身を優先し簡単に裏切る。
彼女に、対主催の善良な者達と真に信頼関係を構築する力はない。
だからこそ、対主催にヒビを入れ引っ?き回す役目として沙都子が目を付けたのだ。



「三四さんの様に誰かと真に心を通わせた事も無く、
カオスさんの生体検査の結果ではかなり若作りしているご様子でした。
つまり、今更染みついた生き方を変えられる程幼くもない………」



きっとこの方は、他の対主催の方が吐くような言葉は綺麗事だというでしょう。
現実を知らぬ子供の戯言だと。だから本質的に水と油、決して交わらない。
富竹さんと出会わなければ、三四さんもこうなっていたかもしれませんわね。
謡うように沙都子はドロテアへの人物評を語った。そして、話を結論へと進める。



「更にこの方は悟飯さんの血液を摂取している。つまり─────」
「雛見沢症候群とやらを患っている可能性があると?」
「然り、ですわ。メリュジーヌさんから話を聞いていましたか?
まぁそんな訳で、対主催の方の無能な味方…足並みを崩す役目として適任という訳です」



一通りの話を聞き、ふむ、とシャルティアは暫し沙都子の話を咀嚼する。
下等生物の浅知恵とは言え、一考の余地はある印象を抱いたからだ。
無論の事、沙都子が言う様な能力がドロテアにある事が前提にはなるが。
無能な味方のせいで瓦解する対主催の小僧共というのは、悪くない。
カルマ値堂々の-500を誇るシャルティアはそう思った。
だが、もう一人の取り巻きと見られる女まで生かす必要があるのかと新たな疑問が浮かぶ。



「いくら火つけ役と言っても、彼女一人では直ぐに鎮火されてしまうでしょう。
だから支給品は頂きますが、彼女に服従する“武器”は残してあげようと思いまして」




此方は実際に戦った貴方の方が良く分かるのでは?と尋ねられ事実その通りだった。
この髪を変化させる娘は、既に生ける死人だ。屍人(グール)と変わらない。
ならば使役している相手に付き従うだろう。それが例え、間違った相手でも。
例え使役者の未来を明るくする行いではないと分かっていたとしても、遂行するだろう。
それに自分と戦闘が成立する程度には実力も確かな物だ。
ドロテアが火つけ役だとするなら、ヤミはそれを燃え広げるガソリン役と言った所か。
概ね、話に納得は言った。しかしその上で。



「───気に入らないでありんすねぇ」



話に一理はあったが、それだけだ。快諾するには弱い。
ドスの聞いた声で、シャルティアは不服の感情を露わにする。
スポイトランスにはまだ手をかけないが、何時手をかけてもおかしくない。
そう思わせる威圧感を、彼女は放っていた。



「いいですわ、カオスさん。大丈夫。
………失礼ですが、何が不服なのかお伺いしても?」



剣呑な雰囲気を感じ取り、沙都子の膝の上のカオスが臨戦態勢に移ろうとするのを制止し。
傍らで腕を組み瞼を閉じて動かないメリュジーヌを一瞥した後、沙都子は問いかける。
不服の所在はどこにあるのかを。単に見逃すメリットが弱いというだけでは恐らくない。
そう見た彼女の推測は、正しい物だった。



「そうでありんすねぇ……一番気に入らないのはやはり、
低能そうな人間のガキが、フィクサーを気取っていると言う所でありんしょうか」



シャルティアの二人の主が所属していたギルド、アインズ・ウール・ゴウン。
このギルドは異形種である事が加入のための絶対条件だ。
それ故に悪属性が多く、人間種への蔑視感情も強い傾向にあり。
シャルティアも例に漏れず、人間への蔑視感情が非常に強いNPCとなっていた。
そう設計されて生まれたが故に、この島でもその生き方を簡単に変える事はできない。




───アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ。




少し前に与えられた至高の主からの命が、シャルティアの脳裏に残響の様に響く。
そうだ、ナザリックの者は、常に人間種に畏怖と服従の感情を与えなければならない。
協調などもっての外、下手をすれば、ナザリックの名を地に落とす事になるのだから。
敬愛するアインズ・ウール・ゴウンの名に泥を塗る事になるのだから。
彼女の人間への差別感情は最早矜持に等しい。それ故に、沙都子に反発の姿勢を見せた。
一触即発の雰囲気が、場を支配する。



「………では、この話は受けられないと?」



沙都子にとっても、シャルティアは目障りな存在だった。
シュライバーよりは話が通じるが、根本的に人間と言う種を見下している。
対等なギブアンドテイクな関係など、彼女には望めないだろう。
そして、そんなシャルティアとメリュジーヌが通じている可能性が高い。
沙都子にとって実に頭の痛い事実であり、正直な所、シャルティアには消えて貰いたい。
だが、メリュジーヌが組むに値すると判断した実力の持ち主だ。
戦うならカオスだけでは不安を感じるし、この局面で彼女を消耗させたくはない。
それ故に辛抱強く、下手に出て彼女は交渉に臨むつもりだった。
そのため、先ずはどの程度拒絶感情を抱かれているか確認しようとする。
だが、返って来たシャルティアの言葉は沙都子の予想とは違うものだった。




「早とちりするんじゃありんせん。まだ断るとは言っていないでありんす。
オスガキの方は好きにしていいんでありんしょう?先ずはオスガキから話を聞き出して…
それから話を飲むかどうか決めるでありんす」
「………えぇ、モクバさんは三人の中で唯一危険ですから。
分かりましたわ。彼から話を聞きだしたら、後はどうするかは貴方にお任せします
彼等の支給品についても、欲しいものがあれば貴方にお譲り致しましょう」



モクバの事を、沙都子は一切侮っていない。
むしろ三人の中で、一番他の対主催と連携されれば危険だと見ている。
悟飯が暴走した際、即座にイリヤと同調したのが良い証拠だ。
ドロテアとヤミはともかく、彼だけは情報を聞き出した後消しておきたかった。
欲を言えば自分達がモクバを殺し、ドミノを獲得したかったが。
流石にそこまで欲張れば、シャルティアも黙ってはいないだろう。



「寝言をほざくな。此方が譲歩する以上、糞共の支給品は全て頂くのが筋でありんしょう」
「………分かりました、構いませんわ」



シャルティア側からしても、メリュジーヌの手前余り強硬な真似は出来ない。
もし味方になるとタカを括って敵に回られれば厄介どころの話ではないからだ。
それ故に不遜な態度、あくまで命令している姿勢で沙都子の話に応じた。
その事を汲み取ったのか、沙都子は無表情のままシャルティアの無茶な要求を承諾する。
支給品を手放すデメリットより、シャルティアに即敵対されるデメリットの方が数倍大きいためだ。



「だからその態度が………まぁいいでありんす。
今はオスガキから話を聞き出すことに集中するとしんしょう」
「感謝しますわ……カオスさん、その間索敵はしっかり行ってください。
特にシュライバーや悟飯さんが来ないかだけは気をつけておいてください」



その決定を聞いていたのは、沙都子だけではなかった。
シャルティアの尻の下に敷かれた錬金術師ドロテアもまた、意識を取り戻していた。
取り戻したタイミングはシャルティアが沙都子に気に入らないと告げた直後。
話の流れや漂う雰囲気から、自分とヤミは助かる可能性が高いのは見て取れたが。
それでもその話が本当になるかは怪しいと言わざるを得ない。
沙都子達がほんの少しの気まぐれを起こしただけで、命運は尽きるのだから。
だからこそ必死で考える。どうすればこの状況を切り抜けられるか、と。



(どうする…どうするんじゃ、妾……っ!!できればヤミと共に脱出して……!)



こんな所で終わる訳にはいかない。
こんな所で終わってたまるか。
最悪、モクバ達を犠牲にしたとしても。



────自分だけは、生き残って見せる。



ドロテアの眼差しは、尽きる事のない保身の炎に燃えていた。



【一日目/日中/G-5】

【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(大)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス大破、
沙都子と刷り込み完了、カオスの素の姿、魂の消費(大)、空腹(緩和)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(使用不能)@Dies Irae、雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
7:首輪の事は、沙都子お姉ちゃんにも皆にも黙っておく、メリュ子お姉ちゃんの為に。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
※アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
※ヘパイトス、クリュサオルは制限により一度の使用で12時間使用不可能です。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
※極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
※聖遺物を取り込んでからの空腹は、聖遺物損傷によりストップしています。
※中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
※ニンフの遺した首輪の解析データは、カオスが見る事の出来ないようにプロテクトが張ってあります。
※沙都子と刷り込み(インプリンティング)を行いました。
※雷神憤怒アドラメレクを取り込みました、黒い稲妻を放つことができます。

【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(大)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:モクバさんから情報を聞き出す。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。使えなくなればボロ雑巾の様に捨てる。
2:シャルティアさんにはさっさと消えて貰いたい
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
12:メリュジーヌさん、別にお友達が出来たんでしょうか?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました


【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order(凍結、時間経過や魔力を流せば使えるかも)
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、デザートイーグル@Dies irae、
『治療の神ディアン・ケト』(三時間使用不可)@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)、逆時計(残り二回)@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:モクバから情報を聞き出す。
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:沙都子はともかくその時までカオスは裏切りたくはない。
6:絶望王に対して……。
7:竜に戻る必要があるかもしれない。方法を探す。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。

【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(大)、ダメージ(大)(回復中)、MP消費(中)(回復中)
スキル使用不能、プリズマシャルティアに変身中。
[装備]:スポイトランス@オーバーロード、真紅の全身鎧@オーバーロード、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 、古代遺物『死亡遊戯』。
[道具]:基本支給品、青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、
ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ゴブリン突撃部隊@@遊戯王デュエルモンスターズ、
小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10、
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、
チョッパーの医療セット@ONE PIECE、飛梅@BLEACH、いないいないフープくん@ToLOVEるダークネス、ランダム支給品0~2(シャルティア、紗寿叶)、首輪×4(城ヶ崎姫子、永沢君男、紗寿叶、のび太)
[思考・状況]基本方針:優勝する
0:モクバから情報を聞き出す。ドロテア達を生かすかはその後。
1: ドミノを獲得し、悟空やシュライバーを殺せる力を獲得する。
2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺したい、が…自滅してくれるならそれはそれで愉快。
3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。
4:武装を取り戻したので、エルフ、イリヤ、悟飯、悟空、シュライバーに借りを返す。
5:メリュジーヌの容姿はかなりタイプ。沙都子はいけ好かないので正直殺したいが。
6:可能であれば眷属を作りたい。
[備考]
※アインズ戦直後からの参戦です。
※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。
※日番谷と情報交換しましたが、聞かされたのは交戦したシュライバーと美遊のことのみです。
※マジカルルビーと(強制的)に契約を交わしました。
※キウルのキョンシーが爆発四散したため、死亡遊戯は現在空です。


【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、エネルギー残り(小 賢者の石から補填可)、美柑の前で絶頂したショック(超々極大)、
敏感、全裸、自暴自棄(極大)、自己嫌悪(極大)、グレーテルに惹かれる想い、気絶
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師(髪の毛に隠し持っている)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:もう全部、どうでもいい。
0:ドロテアに服従する兵器として動く。そうすれば、余計な事を考えなくて済むから。
1:グレーテルともう一度会えば…拒み切れる自信はない。
2:やっぱり、来てはくれないんですね、結城リト。
※ダークネスが解除されました。戦闘力も下がっています。
※ダークネスには戻れません。


【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]悟飯への恐怖(大)、雛見沢症候群感染(レベル3)ダメージ(大)、掌に裂傷(大)
[装備]血液徴収アブゾディック
[道具]基本支給品×2
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:シャルティア達から生き残る。できればヤミと共に。
1:とりあえず適当な人間を殺しつつドミノと首輪も欲しいが、モクバは…理屈を捏ねれば言い包められるじゃろ。
2:写影と桃華は絶対に殺す。奴らのせいでこうなったんじゃ!! だが、ガッシュとフリーレンが守ってくれるのなら、許さんでもない。
3:モクバ、使い道あるか? 別の奴が解析を進めてなかろうか。乗り換えたいのじゃが。
4:悟飯の血...美味いが、もう吸血なんて考えられんわ。
5:透明になれる暗殺者を警戒じゃ。
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。

【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:精神疲労(極大)、疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢と紗寿叶が死んだという自責の念(大)、
キウルを囮に使った罪悪感(絶大)、沙都子に対する怒り(大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:どうすりゃ……いいんだよ………
1:助けてくれよ、兄サマ……
2:ドロテアと組んで、もう…どうにかなる話じゃないだろ……。
3:ドロテアと協力…出来るのか? 俺、抑えられるのか?
4:海馬コーポレーションは態勢を立て直してからまた訪れる。……行けるのかな…。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
8:沙都子は絶対に許さない。
9:俺は……あの娘の埋葬をドロテアにやらせて、卑怯だ……。
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
 その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
 無惨もそれを知っています。



125:世界で一番暑い夏 投下順に読む 127:遠くへ行け遠くへいけと僕の中で誰かが唄う
時系列順に読む
111:竜虎相討つ! シャルティア・ブラッドフォールン 128:迷子になった女の子
123:トモダチ 金色の闇
海馬モクバ
ドロテア
119:人は所詮、猿の紛い物、神は所詮、人の紛い物 北条沙都子
カオス
メリュジーヌ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー