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ダンゲロスSS上海
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ダンゲロスSS上海

ママーマカロニの決闘

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 型落ちのパソコンで配信された双喜の自己紹介動画は、ダイヤモンドを求める数多の人々の行動に影響を与えた。その中でも強い、そして他とは違う反応を見せたのが、ギャラハッド・ソネットだった。

「何がダブル・ハピネス・キャンペーンだよ…!」

 本人が投稿したカクカク自己紹介動画と、チンチンマンから送られた大乱闘動画を見終わった彼は、歯ぎしりしながら頭を抱え込んだ。

 清王朝に仕えた宦官を先祖にもつ彼は、清王朝のダイヤモンドについて何度も親から聞かされていた。

『清王朝のダイヤモンドは実在しない。それは、国家に反逆を企む者達を誘導する幻想に過ぎない』

 この教えこそがギャラハッドにとっての真実であり、現在上海で行われているダイヤモンド争奪戦を終わらせる事こそが彼の背負った責任だった。彼は責任を果たす為に、彼なりの計画を進めていた。

 で、先程のダブル・ハピネス・キャンペーンで彼の計画は完全に崩れてしまった。

「あーもー!あいつが存在する限り、絶対誰も止まらない。この街のマフィアよりも、ダイヤに惹かれて集まった奴らよりも、まずあいつから消さないと。つーか、勝てる気がしないっ!でも、アレ止めるのも多分私の責任なんだよね。知らんけど」

 ギャラハッドが家族から聞かされていた情報の中には、ダイヤモンド以外のお宝の話もあった。そう、双喜と名乗るあのホムンクルスの事もだ。

「ご先祖様のやらかしを解決するんなら、あいつも何とかしなきゃだけど、どこに居るのやら」
「今貴方の後ろに居るのぉ」
「ゑゑ!?」

 突然背後から声がして背中を叩かれる。振り返るとあの動画と同じ特徴を持ち、動画よりも鮮明な少女が笑顔で立っていた。

「こんちゃ!君、ダイヤも私も嫌ってるんだねっ!それって、この上海ではとってもレアな欲望!どんな経緯で君がそうなったかお話しよっ!」
「ファイアー!」

 対話を求める双喜に対し、ギャラハッドが口から出したのはカレーのカロリーから生成した炎だった。攻撃と同時に、火炎放射の反動で飛翔して窓から飛び出す。だが、双喜は火傷一つ負うこと無く、真っ直ぐに飛び立って彼に追い付いた。

「なっ、何で(平気なの?)何で(まだ何もしてない私を狙いに?)何で(その変態機動どうなっとんじゃい!)」
「ぜーんぶまとめてお答えしましょう!私のパゥワーの源はこの上海の人々の欲望!そしてそれ故、欲望の色とか味とかから相手の狙いが私には分かっちゃう!更にいうと、私はその慾望の流れを追尾して泳ぐが如く移動出来ちゃいます!どーだ!」

 双喜能力全説明!これは舐めプではない、エンタメだとばかりに胸を張って自分に可能な事を大体伝えた。

「まっ、よーするにこの双喜ちゃんは、毎ターン『加速』『閃き』『気合』が発動してると思ってね!」
「何故にスパロボ!?」
「はい、つーかまーえた」

 ギャラハッドは口から炎を吐き続け必死で逃げたが、逃げたいというのもまた慾望。双喜はその慾望の流れをロックオンして簡単にギャラハッドに辿り着き、両手で頭を掴んだ。

「あ、私死んだわ」

 このまま怪力で頭を握り潰されて死ぬ。そう思った。だが、双喜が次に取った行動は、ギャラハッドへのトドメでは無かった。

「スゥ~、ぷっはー!この酸っぱさがたまらなーい!っぱ、レアモノの直吸いは効く〜」

 双喜はギャラハッドの頭を掴んだままつむじの辺りに顔を近付け、頭皮の匂いを鼻から思いっきり吸い込んでいた。その様子は完全にジャンキーのそれだった。

「私を欲しくない、ダイヤも欲しくないとするその禁欲と言う名の慾望!そこからしか得られない栄養素が確かにある!スハースハークンカクンカ!」
「ファイアー!ファイアー!」

 頭を掴まれた状態のギャラハッドはゼロ距離で火を吐き続けるが、双喜の衣服がホカホカ湯気が出るだけだった。

「無駄でーす!」
「何でぇ!?」
「中国の文化財って、革命の度に燃やされますよね?清王朝生まれの私が完全な姿で残ってるのがアンサー!ママが燃えない身体に作ってくれたおかげ!…ママ?」

 その時、双喜の脳内に生じた、『存在する記憶』。





【過去・清王朝崩壊前日】

「ありもしない財宝を餌にして、革命を企む者を炙り出す。上手くいくと思ったのにねえ」

 清王朝にはあらゆる願いを叶える力を持ったダイヤモンドがあると噂を流した張本人、ソネはぼやきながら夜逃げの準備をしていた。

「よし、必要な分は持ったわ。宝物庫に火を放つから退避しなさい」
「ソネよぉ、例のホムンクルス燃やしてしまうのか?勿体ねえ」
「あれは失敗作だからいいの。連れて行っても邪魔だし、革命派に渡すのも嫌。だから燃やすの。ダイヤモンドの真実と共に」

 ソネが宝物庫を出て投げキッスをすると、ハート型の炎が油に引火してあらゆる財宝と書物が燃え始めた。

「…思ったより火の回りが遅いわねえ。あんたも手伝いなさい」
「はいよ。項羽と劉邦ー!」

 ビ〜ム。

 宝物庫の番人も火付けに協力し、無事に(?)燃え広がった。

 だが、これだけ念入りに焼いてもホムンクルスだけは燃えずに残った。炎使いのソネが開発に関わってた影響か、それとも不老不死を目標に作られたからかは不明だがホムンクルスには欲望エネルギー化システムとは別にものごっつい耐火性能が備わっていた。

 そしてこの時、清王朝を打倒しダイヤモンドを手にしようとする革命派の欲望とソネのなりふり構わず生きたいという生存欲求を受けて、ホムンクルスは短時間だけ起動状態になっていた。身体が全く動かせないので外見上の変化は無かったが、生みの親に捨てられ燃やそれた事実は記録として残されたのだった。




【現代・隠れ家近くの路地】
「ママー!よくも置き去りにコノヤロー!よくも火炙りコノヤロー!」
「いや、知らんけど!」

 製造者の子孫の欲望をダイレクトに吸引した事で、双喜は人生最初の記憶を完全に思い出していた。そして、怒りに任せてギャラハッドの頭をぶん回して壁に叩きつけた。

「ゑゑ!?」

 ズガーン!

【ギャラハッド・ソネット、壁尻状態となり戦闘不能】

「んあー!私を捨てたママの事を思い出して、うっかりママのそっくりさんを殺してしまったぁー!欲望が勿体ない!」
「イキテマス」
「良かった!レア欲望生きてたー!あ、そうだ!お話に来たんでした!『ユーは何しに上海へ』って聞きたかったけど、まずはお名前からお願いします!」
「てかアンタ、私が誰か分からず襲撃したの!?」
「お名前!お名前!これ重要確認事項なので!」
「ギャラハッド、えーと、…ソネットだけど」

 嫌な予感がしつつも、逆らうと殺されかねないと思ったギャラハッドは正直にフルネームを言った。それを聞いた途端、双喜は子供の様に笑いながらギャラハッドの尻で太鼓の達人を始めた。

「ちょ、何してんの!」
「この見た目!この苗字!そして先程の能力と欲望の匂い!ほぼ確定!改めて聞きましょう!ユーは何しに上海に?」
「私のご先祖が清王朝のダイヤモンド関係者で、今上海を混乱させてる元凶とも言えるから、責任取って事態を解決しに」
「確定演出ー!!」

 双喜の両目がパトランプの様に光ってキュインキュインと鳴り響いた。

「えー、つまりその、ギャラハッド君でしたっけ?君のご先祖は清王朝の宦官ソネ道士で間違い無い?」
「アッハイ。だから、アンタの事も多少は知ってるよ」
「やっぱそうでしたか!ならば、これぞ運命の出会いってやーつてすね?通学中の交差点でパンをくわえたシリアルキラーに出会う的な!あーっはっはっは!」

 ギャラハッドの尻でアルプス一万尺しながら、双喜は高らかに笑った。

「あ、あはは、あはは」

 ギャラハッドもつられる様に笑った。生殺与奪の権利を握られてる現状、一緒に笑うしか無かった。

「それでですねー、ギャラハッド君は良い慾望垂れ流してるけど、私が開催してるキャンペーンにはぶっちゃけ邪魔なんで、手足ぶち折り適当な地下室にコロコロしておこうと思ってたんだけど」
「発想が清王朝!」
「君がママの子孫だと分かったから、そんなつまらない処分はやめ!私と君との勝負は、もっと劇的に、もっと熱狂的に行うべき!」
「つ、つまり?」
「こんな人気のない所とかじゃなくて、上海の皆様の前で改めて語らいましょう!と言う訳で、明日!二人で外へお出かけしてお昼食べたらテケトーな場所で再戦でどうでしょう?」
「私に拒否権は…無いよね」
「それは了承したって事ですね?では、明日迎えに来ますので!あ、逃げても欲望で分かるから!とおっ!」

 取り敢えず余命が1日延びたギャラハッドだったが、先祖の罪がより深刻になった事と、勝てる気がしない相手にロックオンされてる事で全く気が休まらなかった。

 そして翌朝、双喜がギャラハッドの隠れ家を訪れたが彼はそこには居なかった。欲望を追跡すると、彼は最後に別れた場所に変わらず居た。

「ママ、じゃなくて、ギャラハッド君、ずっと壁尻してたの?」
「引っ張ってー、空腹と尿意が限界ー」
「カンチョー!」

 ブスッ。

「ほんげー!」

 スポーン!

「よし抜けた!善は急げ!人の命は短い!はよご飯食べてお話しましょう!」
「アンタは善じゃないし人でもないしでしょ。知らんけど」
「でも短命なのはほぼ間違い無いです!長く見積もっても、今月末!ダイヤ争奪戦が終わる時、人々が熱狂から冷めたその時、私が得られる慾望も無くなりそこが我が人生の終わり!」

 自分の余命が僅かな事を元気に宣告する双喜。それを聞かされたギャラハッドの顔は対照的に曇った。

「そーだよね。私がダイヤ争奪戦を終わらせたら、上海の市民の犠牲はなくなるけど、アンタみたいなダイヤ争奪戦と命が直結してる存在にとっては迷惑でしかないよね」
「そう思うのは当然!だから、お互いの慾望をぶつけ合い拳で解決しましょう!あ、これお返ししますね」

 双喜は袖からマジシャンの様に財布を取り出し、ギャラハッドに渡した。それはどー見てもギャラハッドの財布だった。

「おいコラ、何で私の財布をアンタが持ってんだよ」
「昨日ケツドラム中に抜き取りました!新しい撮影機材が欲しかったので!」
「人の物を取っちゃ駄目ってお母さんに習わなかったの?」
「今習った所」
「だから、私はママじゃねえって!」
「それなら、ギャラハッド君も私の事をアンタ呼び辞めて下さい。キキちゃんって呼んで」
「あ、うん。ごめんキキちゃん。って、何で私が謝る流れ!?もう、いいや。ゴハン行こ!」

 こうして、仲が良いのか悪いのか傍目には分からん状況で白ギャル(ホムンクルス)と黒ギャル(オカマ)はここから一番近い屋台街へと移動した。

「おじさーん、このマカロニドッグのカレー味、あるだけちょうだい」
「あいよっ、お嬢ちゃん可愛いから普通のも一個オマケしとくね」

 屋台街を一周したギャラハッドは、『ビリー・ザ・キッドたくさん世のマカロニドッグ』と書かれた看板の屋台を見つけ、そこで最期の晩餐(朝食兼昼食)を買い込んだ。買い物を終え、近くのベンチて一本ずつマカロニドッグを味わってると、双喜が話しかけてきた。

「ギャラハッド君、何であの店にしたの?」
「上海のど真ん中で敢えてアメリカを主張するのと、店主が偉人の子孫を名乗ってるとこが親近感あったから。アンタ…キキちゃんも食べる?」
「てはお言葉に甘えて一本貰っオロロロロロ」

 双喜はマカロニドッグを口に入れた途端、顔を真っ青にして盛大にリバースした。

「おっ、おーい!大丈夫?何かのアレルギー?」
「ゲホッゲホッ、大丈夫です。私アレルギーとか無いので。ただ、化学調味料がキツ過ぎて、むせてしまいまして」
「あー、そっち?」

 ビリーのマカロニドッグは、アメリカらしさたっぷりのケミカルな味付けだった。

「まー、美味しく食べれても殆ど栄養にはならないんですけどね」
「やっぱそうなんだ」
「他人の欲望パクパク以外のエネルギー摂取が出来たなら…って色々試しましたが、ちょっと無理みたいですね」
「それで延命出来てたら、私達共闘も可能だったのにね…。けど、しゃあない。やろーか、お互いの願いを通す為の勝負」

 ギャラハッドは食べ残しをカバンに詰め、他の荷物と一緒に盗まれない場所へ移す。その間に、双喜は最新式の撮影器具をベンチの前に設置していく。

「アー、アー、聞こえますか?聞こえてますかー?ダブル・ハピネス・キャンペーンの経過報告ですよー」
「えー、まずは謝罪から。前回の動画から間が空いてしまってすみませんでした。実は前回のラストに撮影に使ってた道具一式が襲撃でぶっ壊されまして」
「ですが、災い転じてなんとやら!こーして、よりよい撮影が出来る様になったのです!上海の皆様、双喜ちゃんは帰って来ました!解像度が上がって!」
(画面の前でダブルピースする少女。前回より明らかに画質が向上している)

「それで、あの後何があったかと言いますと、撮影器具をぶっ壊した狙撃者を追い詰めたら、そこから流れる様に連戦になりまして」
「全部で十人弱ぐらい来たんですけど、何とか全員撃退しました。私はまだ誰の手にも渡ってません!」
「そして、様々な勢力や個人を軽々の追い払ったからなのか、その後しばらくすると私を狙おうとする人物は現れなくなりました。他との戦いで消耗した所を狙う作戦に切り替えたのですかねー?」
「ただ待ってるのも暇なので、私は自分をマークしている人物を欲望の匂いを頼りに探す事にしました。そして、彼と出会ったのです!本日のスペシャルゲスト、ギャラハッド君カモーン!」
(画面の右側から日焼けしたギャルが現れて、カメラに向かって手を振る)

「やほー、今回のゲストのギャラハッド・ソネットでーす。名前で分かると思うけど男でーす。二十代半ばでーす」
「さて、私が何者で何でキキちゃんと一緒にいるか説明すんね。私のご先祖は清王朝のダイヤモンドを作った人なんだよね」
「そんで、今この地で清王朝のダイヤモンドの所有権を巡って、ひっでえ争いが続いてるじゃん?元凶の子孫として責任取ってこの争い終わらせたくてさー」
(爆速で伸びる視聴者数)

「てな訳で、私にはこいつがやってるダブル・ハピネス・キャンペーンが邪魔なんで潰しまーす」
「こちらとしても、ギャラハッド君のやろうとしてる事は全力で止めます!上海の欲望はまだまだ終わらせない!」
「ならやるっきゃないよね!んじゃ勝負!この私、ギャラハッドが勝ったら、キキちゃんは博物館に帰って騒動が終わるまで大人しくする事!」
「こちらが勝ったら、ギャラハッド君は今後もダブル・ハピネス・キャンペーンの撮影に協力する事!」
(屋台街の中央にある休憩所で構えを取る両者。安全を確保する為に店を畳んて近くの建物へ避難する店主達)

「それと、重大発表!この戦いが終わったら、清王朝のダイヤモンドがどんな物なのか教えるから、見とけよ見とけよー」
「以上、私とギャラハッド君による報告でしたー!引き続き視聴お願いしますね!」
(カメラを一旦止めて、これからの戦闘を映せる場所へ置き直す双喜)

「えーと、屋台の人達は全員安全なトコ移動してくれたかなー。私がカタギに被害出しちゃ、本末転倒だもんね」
「私としても、ダイヤとは関係無い人を巻き込むのはなるべく避けたいてすからね。アウトローな人達が元気に欲望発揮出来るのも、小さな幸せを守るパンピーあってこそですしお寿司」

 ダイヤ争奪戦参加者が痛い目見るのは自己責任だが、無関係の上海市民には出来るだけ手を出さない。その点については、二人の考えは一致していた。

「んじゃ行くよ。昨日見逃した事、後悔させてやるから」
「はい!欲望全開で頑張って下さい!」
「言われずとも!ファイアー!」

 ギャラハッドが口火を切る。満腹状態から放たれる炎は昨日よりも火力が高く、双喜の視界を瞬く間に包み込む。だが、熱による攻撃ては双喜は倒せない事は証明済。この炎は攻撃の為ではなく、目眩ましの為だった。

「ファイアータックル!」

 ギャラハッドは火炎放射の推進力を利用し、自らが生み出した炎の中を突っ切ってタックルを放った。だが、タックルは空を切る。炎の中に双喜は居なかった。

「炎を囮にして物理攻撃で攻めるのは正解!でもでもでも、それは私には届きません!」

 ギャラハッドがタックルをするよりも速く、双喜は彼の左側へと回り込んでいた。

「や、やばっ」
「どーん!」

 双喜は無邪気に攻撃を放つ。ギャラハッドは咄嗟に振り返り頭部をガードするが、双喜が放ったのはローキックだった。ローキックは綺麗に膝裏に入り、ギャラハッドはもんどり打って倒れる。

「あんぎゃー!キキちゃんズルい!『どーん!』はローキック放つ時の掛け声に聞こえないからっ!」
「あははははは!頭を守りたいって欲望ダダ漏れだったので、足を潰しました!」

 双喜の持つ欲望センサーは、敵意の察知による位置把握だけでなく、相手の欲望を知る事で次の一手を正確に予測する事も可能。凄腕の魔人五人以上と一晩戦闘して五体満足だった彼女にとって、ギャラハッドの攻撃を全てかわすのも、防御を崩すのも容易い事だった。

「あ゛ー!やっぱ無理!私一人じゃ勝てる訳ないっしょ!お家帰るー!」
「とか言っても、まだまだ貴方の欲望は色褪せてませんね?つまり、まだ勝ち目があると思ってる!さあさあさあ、見せて下さいよ!奥の手を!」
「アンタ、マジ性格悪いよ!」
「製造者に似たのかもですね!あははは!」
「調子に乗るのもそこまでにしてやる!奥の手見せろつてんなら、見せちゃる!チンチンマーン!助けてー!」

 ギャラハッドは大声で助けを求めた。彼の雇用主だったチンチンマンとはプロローグで契約満了しており繋がりは切れていたのだが、ダイヤモンドに次ぐ重要存在である双喜やダイヤモンドの真実を知る自分の事は絶対にマークし続けていると確信していた。だから、チンチンマンは仲間を率いてこの近くまで来ている。そう信じてヘルプを頼んだ。

「なるほど、増援ですか。いいですよ。欲望の追加大歓迎です!では私も…。リベンジマッチ受け付け中ー!今が多分最大チャンスー!知らんけどー!」

 双喜も負けじと大声で助けを呼ぶ。彼女が呼びかけたのは、これまでに彼女を襲撃した者達。一度は撃退された彼らだが、何人かは準備を整えてリベンジして来るはず。それを挑発して呼び込む算段だった。

「…来ねー」
「『ダブル・ハピネス・キャンペーンを知るものよ来たれ!1魔ペイも出して貰えなかった』って感じですね」

 近くに来ている予感はしたのだが、チンチン電車も上海卍リベンジャーズも来なかった。

「来いよー、見てるんだろー。ねーキキちゃん、欲望センサーで敵が来るの分かんない?」
「今サーチしてまーす」

 双喜は編み込んだ髪の毛を犬の尻尾の様にパタパタさせた後、首を傾げた。

「うーん、ここへ向かってる欲望は複数ありますが、屋台街の出入り口で途切れてますね。多分私達がもっとボロボロなったら来るんじゃないですか?」
「漁夫の利狙い?セコいなー。まー、私でもそうするけど。んじゃ、もうちょいタイマン続けるか」
「はーい」

 戦闘再開。ギャラハッドは屋台で買ったでっかい爆竹で翻弄したり、下着姿になって欲望の流れを乱したりしたが、順当に追い詰められていく。

「来ませんねー、増援。ギャラハッド君がいくらボロボロになっても来る気無いみたいですね」
「ハーハー、ゼーゼー、そ、そりゃ大本命のアンタがノーダメだからでしょ」
「それじゃ、私から迎えに行きます!なので、ギャラハッド君はここまで。お疲れ様でした!」

 ズガーン!

【ギャラハッド・ソネット、壁尻状態となり戦闘不能】

「取り敢えず決着!加減したけど、ギャラハッド君生きてるー?」
「イキテマス」
「ならオケー!敗者として約束は守って下さいね?私はちょっとあちら側の様子見てきますんで」

 壁尻になり動けなくなったギャラハッドを放置し、双喜は屋台街の出入り口へ向かった。

「わっ、何これ?」

 屋台街の出入り口、欲望が途絶えていたその場所には何人もの強そうな人達が横たわっている。全員死んではいないが意識も無い。何事かと歩み寄った途端、双喜は足裏に違和感を覚えた。

「あれ?今何が踏んだよ…う…な」

 他の気絶した人々と同じ様にその場に倒れ込む双喜。彼女が気絶して暫くすると、マカロニ屋台の店主ビリーが現れた。

「やっべー、ファミ魔の旦那に頼まれてた任務完全に忘れてた。だが、ターゲットが無力化され結果オーライ。さすが俺!」

 ビリーの正体はマフィアに雇われた用心棒。盗まれたダイヤモンドの奪還と邪魔者の排除を依頼された彼は、屋台の店主に扮してターゲットを待ち構えていたのだが、屋台の仕事に力を入れ過ぎて本業の事を今の今まですっかり忘れてしまっていたのだった。

 そう、ビリーは超が付く程のアホだった。だが、超アホの彼だからこそ最大の結果を得られたのだ。彼の能力は『マカロニっぽい物を踏んだ相手を気絶させる』というものなのだが、先程言った様に彼はついさっきまで任務を忘れて屋台のオヤジそのものになっていた。つまり、彼は自分が屋台を開く前に仕掛けていたマカロニ型マキビシの事も忘れてしまっていたのだ。

 双喜は相手の欲望を自動で感知し、先読みと高機動で回避する上に、周囲の欲望を吸収し防御もカッチカチだ。そんな無敵とも思える彼女の唯一の攻略法、それは防御力無視の罠を設置して、なおかつ本人がその事を忘れてしまう事だった。ビリーはそれが出来る唯一のアホ、双喜の天敵とも言えるアホだった。

「さてと、このお嬢ちゃんは生け捕りにしろって指示だったな。他の奴らが気絶から起きる前に帰るとするか」
「まーてー!」

 ズズズという地面を擦る音と共に、ビリーの前に現れたのは壁尻だった。ギャラハッドは口からの炎て周囲の接合部位を脆くして、自分が埋まってる部分の壁を剥がして壁尻のままここまで移動してきたのだ。

「マカロニ屋!その子は連れて行かせないよ!」
「さっき爆買いしてくれたお嬢ちゃんか。悪いが仕事なんでね。それに、君だってさっきまでこの子を倒して自由を奪おうとしてたんじゃないのか?」
「うっさい!私は、その子の命に責任を持たなきゃならないんだ!その子のママの代わりをしなきゃいけないんだ!だから、連れてくな!」
「ママ?…ああ、そういう自認って事か」

 ビリーの頭に大きなクエスチョンマークが浮かぶ。しかし、物事を深く考えない彼は、多様性の時代だからなと結論づけて本題へ戻った。

「やれやれ、お互い譲れないって訳だな。ならここは決闘で決めないか?勝った方がこのお嬢ちゃんを持ち帰る」
「それでいーよ。決闘の方法は?」
「俺はビリーだぜ?決闘と言えば当然西部劇方式よ」

 ビリーは壁尻の前まで歩いた後、背を向ける。上海の屋台街で西部劇の決闘が始まろうとしていた。

「お嬢ちゃん、西部劇の決闘は知っでるか?」
「お互い大声で一歩二歩とカウントしながら逆方向に歩き、五歩目で振り返って撃ち合うんだよね?知らんけど」
「それで合ってるぜ。じゃあ始めよう!ひとつ!」
「ひとつ!」

 二人が一歩踏み出し、1メートル弱の距離が開く。

「ふたつ!」
「ふたつ!」

 建物の中へ避難していた一般人達が窓から勝負を見守る。

「みっつ!」
「みっつ!」

 コロコロと転がる枯れ草。

「たくさん!」
「よっつ、ゑゑ!?」

 ビリーが盛大にフライングした。振り返るのが遅れたギャラハッドの背中に銃弾が撃ち込まれる。

「ず、ずるい」
「ん?今のが五歩目じゃなかったか?」
「アンタ…今までどーやって屋台経営してたの!?」
「ファミ魔ペイ電子決済対応の自動レジだ。お釣りの計算しなくて楽なんだなこれが。まあ、とにかく俺の勝ちだ。丸顔のお嬢ちゃんは貰ってくぜ」
「ま、まだ私負けてないから!」

 強がるギャラハッドだったが、気合だけで意識を保っているのは誰の目にも明らかだった。これまでの双喜との戦いのダメージもあり、 戦闘続行は不可能にしか見えなかった。

「諦めろ。お嬢ちゃんは口からの火炎放射が唯一の攻撃方法だろ?その怪我に加えて壁尻状態でどうやって俺に勝つと言うんだ?」
「勝つ手はあるよ。やりたく無かったけど」
「ハッタリだな。そんな奥の手があるなら、丸顔のお嬢ちゃんとの勝負で使ってるだろ」

 ビリーの推理は間違っていた。ギャラハッドの奥の手は、双喜との戦いでは使えなかったのだ。双喜はきっとこの奥の手を出しても回避されるだろうし、当たっても耐えられる可能性があった。それに、この奥の手はその性質上最終決戦まで取っておきたかった。

 そして何より、この技はあまりにも恥ずかしいから秘密にしておきたかった。

 だが、最早そんな事は言ってられない。使うしかない。

「ブリキュア・バスター!」
「何いいいいいー!」

 ギャラハッドの最終奥義、ブリキュア・バスター。それは、体内に溜め込んだ全カロリーを一度に発射する。ただし、それは口ではなく尻から出る。文字通りの最後っ屁だ。

「しくじったぜ…ぐふっ」

 双喜との戦闘を見て、ギャラハッドの尻側は安全地帯だと油断しきっていたビリーは、炎と悪臭が直撃してぶっ倒れた。

「ブ・リ・キュ・ア!ブリキュアブリキュアブリキュアブリキュアブリキュアマン!うぇーい!ぐはっ」

 ギャラハッドも勝利の雄叫びの後に力尽きて気絶した。ダメージと飢餓が限界だった。






「…ママ!ママ!起きて下さい!」

 尻をペシペシ叩かれ続け、ギャラハッドは目を覚ました。

「…ん。キキちゃんおっはー。あの後どーなったの?」
「乱入者と乱入しようとしてた人達は全員解決屋さんが連れてってました。ギャラハッド君が乱入者から私を守ってくれたんですよね?」
「結果的にそうなっただけだよ。んで、私達の勝敗はどう判定するの?」
「そこなんですよねー。私を気絶させたマカロニのおじさんをギャラハッド君が倒したから、判断が難しいです」
「んじゃ、引き分けにしない?私はもうキキちゃんを止めないけど、自分の命を放棄したり自分の強さを過信して無駄死にしたり、一般人を巻き込んだりしないと約束して」
「はーい!ママとの約束はなるべく守りながら、ダブル・ハピネス・キャンペーン継続しまーす!」
「だから、ママじゃないってば」

 双喜の事はこれで解決…とまでは行かなかったが、ギャラハッドが背負わねばならない重荷は多少は取り除かれた。

 これで、当初の目的に専念出来る。そう思ったギャラハッドは、双喜に持ってきて貰ったマカロニドッグを食べた後、撮影の準備を始めた。

「んっ、んんっ、あーあー。おけ。みんなー元気?私は色々あってズタボロの壁尻状態だけど、約束通り清王朝のダイヤモンドについて知っでる事を教えるねー」

 回復の為にドカ食い気絶したかったが、少しでも早くダイヤモンドの真実を段階的に伝えたかった彼は予定通り撮影を始めた。

「皆に聞きたいんだけど、清王朝のダイヤモンドってどんな見た目か知っでる?知らないよね?皆はそれを疑問に思うべきだったんだよ。何故なら…」
「ママ!ママ!こっち見て!」
「キキちゃん後にしてよ。今、上海の皆にダイヤモンドについて話してるトコなんだけど」
「そのダイヤモンドのニュース!さっきギャラハッド君の携帯にチンチンマンって解決屋さんから電話があって、盗まれたダイヤモンドの所有者と現在位置、それからダイヤモンドの外見が分かったって伝えてって!」
「ゑゑ!?」

 これだけ上海を混乱させている清王朝のダイヤモンド。その実体を誰も知らず、現状誰が持っているかも分からなかった。だからこそ、ギャラハッドは先祖の教えを正しいと思い、清王朝のダイヤモンドは存在しないと主張しようとしたのだ。だが、ダイヤモンドの実物が見つかってしまった。

「知らんけど!マジ知らんけど!一体全体、どーゆー事なの!?」

 清王朝のダイヤモンド、それに関する真実はギャラハッドが想像していたよりも複雑なものだった。ギャラハッドの先祖とマフィアのどちらが嘘つきなのか?見つかったダイヤモンドは本当に清王朝のダイヤモンドなのか?ギャラハッドが真実に到達するのはもう少し先の事となる。


【二戦目に続く】
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