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ダンゲロスSS上海
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ダンゲロスSS上海

ガチャってナンボの就職だ!!!(上)

最終更新:

dangerousss_shanghai

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前回までのあらすじ


第一話 合体は少年少女の夢
 アマゾンに迷い込んだ明日歩達。
 同じく迷い込んだ者達と協力し、襲い来る敵を倒したぞ。
 最後にアマゾンが上海の一部と合体したぞ。現在、上海ではアマゾンの民族が普通に暮らしているぞ!


第二話 Live a lieブリュリュ!!!
 監獄に閉じ込められた明日歩達。
 獄中仲間とバンド『UNKO』を結成して、襲い来る看守を倒したぞ。
 今回出てくる槌唄塔也と槌唄七歌は、明日歩や和夫と知り合いだぞ! 塔也と七歌はこのストーリー中に結婚したぞ。

採用している他SS

 ほぼないぞ!
 果成いっぽの一話と二話は先に読むと少し笑える展開がある。それぐらいだ!
 他のキャラ設定とプロローグを借りたオリジナルキャラクターみたいになっているぞ! 特にクラム・ハードシェルの作者。ごめん。
 すべてのPCが活躍するわけではないぞ! ごめんね!

主な登場人物


茶山 明日歩(ちゃやま あすほ)
 別名キュアアースホール。
 うんこ属性の魔法少女。高校一年生。
 必殺技『プープダイナマイト』はステッキから大容量のうんこで相手を倒すぞ!。

「私、魔幇の幹部になる!」

斉藤 和夫(さいとう かずお)
 明日歩の護衛対象。姉を探しに上海までやってきた。
 中学二年生。

「やめてください、明日歩さん」

斎藤 あやめ
 和夫の姉。現在行方不明。どうやら魔法少女らしい。手掛かりは和夫の持っている写真のみ。

槌唄 塔也(つちうた とうや)
 上海でトラブルバスターズ槌歌という解決屋を営んでいた。今は無職。
 能力は痛みの塔(ペインタワー)。ブロックを生成する。基本一辺1mだが、大きさは自由に変更可。建造物ならほぼ何でも出来る。
 第二話で上海伝説のロックバンド『UNKO』のボーカルを担当した。彼の美声はどんな人も足を止める。
 第二話でアフロ頭となっているが、これは間違いだぞ。ごめん。今回からはちゃんと天然パーマになっているぞ。

「俺は塔也だ。よろしく。七歌は小言が多いんだ。許してくれ」

槌唄 七歌(つちうた ななか)
 塔也の妻。上海でトラブルバスターズ槌歌を切り盛りしている。
 能力は深く昏き森(ダーケストフォレスト)はなんでもできる能力。
 小言が多い。

「小言が多いって何? そんなんだから無職になるんでしょ。私だってね毎日毎日――――」(省略)

クラム・ハードシェル
 大昔に仕えていた貴婦人を探している亡霊騎士。男。今は無職。
 鎧に中身はない。剣を使う。鎧の中に貴婦人からもらった小さなダイヤをまだ大切に持っている。

「シュコォォォ……。ソレガシ、貴婦人を探している」

女陰黄泉(ヨニ・ヨニ)
 キョンシー。記憶を失っているため、今は無職。
 見た目は20歳。顔色が酷く悪い。額にお札。死体なので臭い。腕を曲げることができる。
 能力は律令(Rule)。言ったことが何でも現実になる。すぐ「それは違うよ!」と言われると現実にならない。論破弱者。

「私は臭くない!」
「それは違うよ!」

大戦持A子(タイセンジエーコ)
 大戦持一族の落ちこぼれ。19歳。今は無職。
 ボサボサのロングの黒髪。青いジャージを好む。

「わ、わたし頑張れない……」

果成 いっぽ(ハテナシ イッポ)
 ヒーローにあこがれる少女。表面的には無職。
 いつも全力。ズビシィ! 目指すヒーローも実は無職。

「食べる!」

ギャラハッド・ソネット
 暴食男。24歳男性。ウェーブのかかった茶髪と褐色の肌。太ってない。今は無職。
 能力はファイヤーボイス。食べたカロリーを使って炎を吐く。カレーばかり食べる。

「もぐもぐ……知ってる? ダイヤって本当はないんだってさ、もぐもぐ」


アナルカナリ・タカ
 魔幇幹部候補者の採用担当。男。
 兼、アナル部門の幹部。幹部としては下っ端だが、エリート。三十歳。
 能力は『アナル』をかなり『鷹』にする。その間排泄ができない。しかし物を食べなくていい体を持つ。

「近くにいてほしくないものの排除、それが私の仕事であり、夢ですので」

おしりかじり虫
 魔幇幹部候補者の採用担当。魔幇の幹部。
 アナルカナリ・タカの上司。虫だが、仕事がデキる。

「悪いねタカくん。いろいろ押し付けちゃって」

うんこ
 魔幇幹部候補者の採用担当。女性。
 足を生やしたうんこ。ただし、思い人と結ばれないとうんこの泡となって消えてしまう。一応、まだ時間はある。
 SS内ではマーメイドうんこと呼ばれる。お嬢様口調。事務が得意。

「私、自分の仕事が水の泡になる。これが一番嫌ですの」



1,この世で最も硬い石。


 上海の都市部中心にある大きなビル。魔幇本拠地から少し離れた場所。
 巨大なガラス張りの自動扉をくぐり抜けるスーツ姿の男がいた。

 彼はアナルカナリ・タカ。
 『アナル』をかなり『鷹』にする能力を持つ。彼のアナルは既に鷹になっているため、排泄ができない。その影響なのか、物を食べなくても良い体なので問題はない。

 彼は身だしなみには気を遣う方だ。
 キッチリと髪を固めて、服装には金をかける。特にズボンはオーダーメイド。鷹が苦しくないように穴を開けているのだ。魔幇幹部下っ端はよく尻を使うから欠かせない。
 ネクタイは空色。解放的な気分であるからだ。周りから見れば、三十代前半のエリートに見えるだろう。

 実のところ、最近彼の懐事情は寂しい。
 魔幇幹部となってから給与は上がったが、ダイヤの偽情報を流すためにかなりお金を使ったからだ。

 大理石の床をお気に入りの靴でカツカツ踏み抜き、警備員に軽く労いを入れる。

「お勤めご苦労様」

「いえ、タカさんも朝早いですね」

 現在は7時前。彼のように出勤している人物は少ない。9時になるとこの場所は人通りが激しくなる。

 警備員はタカに世間話を続ける。

「タカさん今日はなんだか嬉しそうですね。何かいいことでもありましたか?」

「そう見えますか。……実はかねてから進めていた計画がやっと実るところでしてね」

「そうですか。それはよかった」

 警備員はアナルカナリ・タカがこのビルで何をしているのか知らない。
 優秀で、何かしらの重要ポストに就いているのだろうと思っている。

 もしアナルカナリ・タカがやっていることを知れば、恐怖し、軽蔑するだろう。

 警察あるいは解決屋に、通報、依頼をして、処分してもらおうとするだろう。だから内容については話さない。目的は賞賛されるべきものだが、その方法は決していいものとは言えない。

 警備員自身、弁えているので深くは聞かない。
 同じ会社に勤めている以上、彼らエリートがもたらす恩恵の受益者と思っているからだ。
 エリートが稼いでくれたら、警備員である自分の賞与が上がるかもしれない。
 だから邪魔になることはしない。そういう姿勢をこの社会は評価するのだ。

 アナルカナリ・タカは会員証を機械のセンサーにかざして中に入る。

 そのまま進み、三つあるエレベーターの前に立つ。
 ボタンを押す。
 周囲には誰もいない。今日は運がいい。

 扉が開く。
 中に入って一度扉を閉める。
 そしてエレベーターの階層を示すボタンに、287727と順序通り押していく。
 2007年7月27日。おしりかじり虫のシングルリリース日を少しもじった暗証番号だ。

 するとエレベーターは下がっていく。
 B1やB2など地下に行くためのボタンはない。この特殊な操作をしなければ、地下に行くことはできないのだ。一般人が間違って押したときのために、エレベーターの防犯カメラに顔認証が付いている。
 この地下の存在は警備員ですら知らない。魔幇でも知っている人はごくわずか。

 地下の扉が開く。
 中は更衣室だ。滅菌室に入るためには、服装は変えなくてはならない。
 防護服に着替えて、酸素ボンベを持つ。会員証をかざして奥の部屋へと入る。
 腕を広げて風を受ける。研究に入るため必要な処理。ここはバイオセーフティレベル最大の施設なのだ。

 ここでは鉱物(・・)を調べる研究をしている。
 偏光顕微鏡、電子顕微鏡、X線回折装置、蛍光X線分析装置。実験台にドラフトチャンバー。薬品棚。廃液処理システム。緊急シャワーもある。

 電気がついていた。そのことにアナルカナリ・タカは口端が吊りあがる。
 今日という日を待ち望んでいるのは彼だけではないのだ。

「いらっしゃっていたのですか。おしりかじり虫さん」

「またそんな他人行儀な呼び方。かじりと呼んでくれ。いつも言ってるじゃないか」

 実験台の机にいる生物。おしりかじり虫。
 1000mlビーカーと同じ程度の大きさの虫は、子供受けしそうな顔でアナルカナリ・タカに笑いかける。

 虫用防護服のガラス越し。会話もすべて無線で行われている。

「そういうわけにはいきませんよ」

 この虫は魔幇幹部である。
 アナルカナリ・タカと同じ幹部でも地位はこの虫の方が上だ。こんな姿をしているにも関わらず、人を操るのに長けている。
 あるいは、こんな姿をしているから人を動かすことに長けたのか。
 どちらにしろアナルカナリ・タカには及びもつかないほど優秀だ。その手腕は尊敬に値する。

 その証拠に、ダイヤの情報を流して争奪戦を仕掛けたのもこの虫である。
 主な実行犯はアナルカナリ・タカであるが、間近で見ている彼にはわかる。この虫の功績が最も大きい。
 更に争奪戦により減った魔幇幹部を補充するための採用担当という役割も、この虫がいつの間にか勝ち取った。

 完全なるマッチポンプ。
 魔幇の幹部を間接的に減らしたこの虫は、その空席に自分の息の掛かった幹部を入れようとしているのだ。
 一つ間違えればボスへの裏切りにも見える行動。アナルカナリ・タカから見れば非常に高いリスクを被っている。綱渡りの状態を笑いながら維持しているのだ。明日、暗殺されても不思議ではない。けれど明日も笑いながら平然と生きているのだろう。
 明日を信頼と人脈で勝ち取っている。それがおしりかじり虫。魔幇を食い荒らす寄生虫。

「……遂に今日だね。タカくん」

 おしりかじり虫は神妙な面持ちでアナルカナリ・タカに語り掛ける。

「ええ、鉱物(・・)の調子はどうですか?」

 様子をみるために、複数あるモニターの一つを見る。


 鉱物標本No.505 魔法少女、斎藤あやめ。


 この研究室の目的は願望器の生成だ。

 十字架に手を打ち付けられ、膝を地について項垂れいる女の形をした鉱物。
 この鉱物の周辺では、持ち込んだはずのない土が撒かれ、床からは雑草が生えている。水溜りもある。
 雨漏りはしていない、このような厳重な部屋でするはずがない。

 十字架のすぐ後ろに大きめの木が生えて、今も成長している。
 通常の木に比べれば遥かに成長が早い。すぐに目に見える成長はしないが、一日後には違いが分かるほど成長するのだ。

 植物だけではない。動物も何処からかやってきている。
 カメムシ、蜘蛛、イモリ、トンボ、カエル、カナヘビ、亀、そして馬。
 まるで自然がこの地下で生まれているようだった。

「徐々に変化していってるよ。切り出した鉱物(・・)も同時にね」

 魔幇の技術を結集して切り出した鉱物も同じく変化している。
 サンプルとして採取した鉱物は構造が変化し続ける生物のような、不思議なものだった。未発見の生命体と呼んでも過言ではない。

 この変化性質のため炭素年代測定がうまくいかなかった。最低100年以上前からある物質だということは掴んだが、それ以上のことはわからない。 

「馬は初めて見ますね……」

 密閉された空間で何故自然が生まれているのか。
 あの鉱物が原因だというのはわかっているが、何度録画を確認したところで原因がわからない。一秒ごとに撮影しているにも関わらず、いつの間にか雑草は生えているし、動物はいつの間にかそこにいる。
 前触れなどない。特殊ガラス越しに目視してもわからない。気が付いたらそこにいるのだ。

 アナルカナリ・タカはその異様さに神秘と畏怖を感じる。
 私達は一体何に手を出そうとしているのか。
 もしかしたら、人類が触れてはいけないものに手を出そうとしているのではないか。そんな思いが頭を過るが、過去の自分を思い出して決意を新たにする。

「そうだね。動物は……馬以外の共通点ならわかっていたんだが」

「そうなのですか?」

「水回りによくいる生物なのさ。田んぼ近くに生息するんだろうね。あれらは」

 言われてみればその通りだ。カメムシ、蜘蛛、イモリ、トンボ、カエル、カナヘビ、亀。どれも田んぼにいる生物達。

「よくご存知ですね」

「なに、少しかじっただけだよ。知識は何事も、かじってナンボの商売さ」

 かじってナンボの商売か。寄生虫だものな。
 そして、それに従う自分も同類かと彼はネクタイを締め直す。

 この虫はその姿で一体どうやって知識を得ているのだろう。
 本を開くのだって一苦労のはずだ。スマホの画面ですら反応するのか怪しい。
 人間社会のほとんどの物は、人間が使うことを想定されて作られている。
 虫が暮らすにはあまりにも不便だ。

「しかし、田んぼにいる生物というところまではわかる。重要なのはそれが齎す意味だ。何故田んぼなのだ。水属性の魔法少女なのか?」

「……何属性なのか。まだ判明していません」

 アナルカナリ・タカはPCを操作して複数のモニターを起動させる。様々な角度からの映像だ。
 鉱物は角度で見える色が違う。
 正面モニターからは桃色に見え、左側面モニターからは水色、右側面モニターからは緑色だ。他の角度モニターもすべて違う色で出力されている。 

「代替コアは、正常に作動しているようですね」

「タカくんの優秀な仕事の成果さ」

「いえ……」

 胸に嵌められた一部だけは色の変化をしない。
 我らの研究室が総力を挙げて開発した装置が嵌められているのだ。

「鍵はどうなっている?」

「劉炎嵐から白髪黒羽に渡ったという情報を入手しました」

「そうか。このまま上海内で暴れまわっていて欲しいものだな」

 清王朝のダイヤと呼ばれているものは、斎藤あやめのエーテル体を構成するパーツの一部だ。
 魔法少女の間では「コア」と呼ばれているらしい。

 私達はこれを抜き取り、専用の装置に代替した。
 それが胸の装置だ。
 斎藤あやめ自身ですら扱えなかった魔法少女の能力を最大限に引き出して、意のままに操る。

「ええ、遂にここまで来たのですから」

 この計画を達成するための条件が複雑だった。
 1,鉱物からダイヤが一定距離離れてしまえば、鉱物は消滅する。
 2,ダイヤの所有者は能力を使用して、高い感情の高ぶりを一定期間のスパンで起こさなければ、鉱物は消滅する。
 3,ダイヤは一度所有者となった者を二度と所有者として認めない。

 特に2番が厄介だった。
 これは魔法少女が高い感情の高ぶりにより変身するものだからだと推察できる。感情の揺れ動きがなければ変身状態ではなくなるのだろう。
 このような条件を経て、ようやく達成できる野望。

「明日、この世からうんこを消滅させる」

「はい。計画の大きな前進となりますね」

 うんこの消滅。
 本当の目的は、その先。


 ――――社会に必要であるとわかっているが、自分の近くにいてほしくないものの排除。


 これがアナルカナリ・タカとおしりかじり虫の野望だった。

 アナルカナリ・タカにとっては、過去の自分の救済。
 人を救うこと、社会のためになるのだと信じているのだ。




「しかし、何故馬なのだ……?」

「……わかりかねます」

 アナルカナリ・タカとおしりかじり虫は首をかしげる。
 それを知ってか知らずか、馬は高く、大きくいなないた。周囲の自然と相まって気高さのようなものが感じられた。

「ウマーッ!」

「何故馬がウマと鳴くのかねタカくん。犬がイヌー!と叫ぶようなものかね」

「……わかりかねます」

2,ガチャってナンボの商売だ


 明日歩と和夫は上海にある屋外レストランで食事を取っていた。

 現在、上海ではダイヤ争奪戦が佳境に入り、魔幇のボスはなんやかんやで倒されようとしているが、それは明日歩や和夫達にはあまり関係のないことであった。

 せいぜい街の治安が悪くなっている程度である。主にアマゾンと合体した上海部分と、UNKOによる熱狂が未だに覚めない場所の治安低下が著しい。つまり治安悪化の原因は大体明日歩達のせいである。

 そんな中、明日歩はスマホに熱中していた。ソシャゲのイベント周回をしているのだ。
 凄まじい速度で指を動かしている。スマホゲームのRTA走者がいるのだとしたら、きっとこんな感じなのだろうなと和夫は思う。
 屋外のレストランで食事を待つ間ソシャゲをやるのは、なるほど現代っ子らしい仕草である。前回の老人のような語り口とは大違いだ。

「どうして置いて行かれるの。毎シーズン欠かさず上位ランキングをキープしていたというのに。もう500位……四桁位に……あぁ、私を置いて行かないで」

「まぁ、最近忙しかったですからね」

 明日歩は監獄にいたので、彼女自身のスマホに触れることはできなかった。唯一あの時でも触れることができたシニョ~のスマホには『うんデレ』が入っていないらしい。

 『うんデレ』。『うんこディレクション』とはうんこのアイドルを育てるソシャゲである。
 アクティブユーザー数は一万二千。その数字が大きいのか、少ないのか、和夫にはよくわからない。

 登場人物はすべてうんこ。登場うんこ物である。便器界隈では有名らしい。便器界隈って何。オフ会が臭そうな界隈である。最低限風呂に入って欲しい。

「仕方ない。ここは禁断の手を使うわ」

「ま、まさか」

「課金よ。課金して限定キャラ、うんこブリブリズナーちゃんを引けばこの戦況はひっくり返るわ」

 明日歩は現在高校一年生である。そんな彼女が課金をするというのは、確かに一大事だ。
 彼女の無償石は既にない。一度、有償石をつぎ込んでしまえば、もうそこからはズルズルとガチャ沼に引きずり込まれてしまう。

「絶対にやめた方がいいですよ」

 和夫は中学二年生のため、スマホを持っていない。親が許さないからだ。

 それでもよく聞くのは、友達間での噂。
 その中でも特に酷いのは大学生の兄が今年ソシャゲに100万円つぎ込んでしまったという話。ブリテンの女王にグランドオーダーしてしまうのだ。
 生活費も溶かしてしまったため、周りの人に頼んで食事を恵んでもらっているらしい。

 なんという恐ろしい世界なのだろうかと和夫は顔を青くする。
 人には超えてはならない一線がある。それをこの社会はあの手この手で曖昧にしてくるのだ。

「このゲーム、天井がないから何処までもつぎ込んでいけるのよ」

「本当に絶対やめた方がいいですよ!?」

「私達は自由なのよ。天井がないなら何処までだって飛んでいける。さぁ無限の彼方へ!」

「自由には責任がつきものですって!」

「シニョ~!」

「はいプ!」

 明日歩はシニョ~呼んだ。
 ガチャ代を経費で落とすためだ。この世は経費を使えるものが勝者なのである。youtuberがそう言っていたので間違いない。

「やるわよ……! うおおおおおおっ!」

 和夫の静止も聞かず、次々とガチャを回していく。
 十連、二十連、三十連、四十連、五十連。狙うは限定SSRのうんこブリブリズナー。

 画面を流れていくのはこれでもかと派手な演出の後に出てきたゴミ達。RとSRのうんこ達だ。
 もちろんRやSRにも価値はある。労力をかけて作られている。
 しかし僕達若者はそれを見るたび、残念な気持ちになるのだ。
 紅白歌合戦で派手な演出の後に出てきたのが全く知らない演歌歌手だったときと同じである。若者にはその価値が理解できないのだ。

「それって同じプ?」

 シニョ~は首を傾げる。
 そういえば和夫は経費の出所を知らない。
 経費っていくらまで使えるのだろうか。

「おおおおおっっ!」

「あの、お客様。周りのご迷惑になるので大声を出すのはおやめください」

「うおおおおおおおお!!!」

 明日歩はまだまだ回していく。店員の静止も聞かず回していく。
 六十連。七十連。八十連。九十連。百連。それでも限定SSRうんこブリブリズナーは出てこない。

 燃え上がるような闘志。高速で回していく右手から遂に火が付いた。
 それは瞬く間に全身へと燃え広がり、彼女の服、魔法少女のドレスを燃やしたのである!

「お……お客様ァ!」

「明日歩さん何やってんのォォ!」

 明日歩の服は灰となった。
 しかし現役女子高生の裸が露わとなることはなかった。
 彼女の前には『見せられないよ!』というホワイトボードを掲げて、笑顔で明日歩の体を隠す謎の小僧が現れたのである。

「ええええっ!? これ何ィィ!? どうツッコめばいいのォォ!?」

 いきなり起こった現象に和夫はついていけない。
 きっと彼女は自由なのだ。だから彼女を何処までも飛んでいける。自分を着飾ることなんてしなくていい。そういうことなのだ。

「ママー、あれなに?」

「あれが漢の生き様よ。しかと見届けなさい」

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 明日歩は止まらない。通りすがりの親子にヤバい奴認定されてもガチャを回していく。
 まともな母親なら「見ちゃダメよ」と言って欲しい。

 百十連、百二十連、百三十連、百四十連、百五十連。
 一体どれだけのお金を溶かしたのだろう。和夫は予想される金額の膨大さに体が震えあがる。

 百六十連。その時だった。明らかにこれまでとは違う演出が現れた。

「おおっ、これは当たりなんじゃないですか!?」

 和夫は期待を寄せる。
 ここまでくると和夫も乗り気だった。
 真剣な明日歩を見ているとなんだか応援したくなるのだ。是非とも引き当てて欲しい。でも服は着て欲しい。

 画面演出はどんどん派手になっていく。パチンコのようにピカピカと発色が高速で移り変わる。大きくなっていくBGMとSE。
 そして画面がばちゅん、とすべて消えた。

「おおっ、襲来演出だわ!」

 明日歩が上気した顔で期待の声を上げる。
 和夫も何が始まるのだろうと期待した。

 画面に映るのは真っ赤な警告文。

『WARNING!!! うんこ襲来!!!』

 けたたましいサイレンがスマホから響き渡る。
 画面は切り替わり、宇宙の映像になった。
 うんこだ。
 巨大な隕石のように、巨大うんこが襲来しているのだ。爆音のBGM。地球最大規模の危機が迫っていた。

「アイドルを育てるゲームでしたよねこれ」

 和夫の疑問には誰も答えない。
 演出は大袈裟に、派手にするものだからこういうのもありなのかもしれない。

 再び画面が切り替わり、画面内の観測者が声を上げる。
 何か複雑な機械とモニターでそれを読み取ったようだ。

「パターン、ブラウン! うんこです!」

 いやうんこしか出てこないんだから、全部ブラウンでしょうよ。
 何のパターンなんだそれは。さっきうんこ襲来って書いてあったじゃん。
 重要な報告をしているように見えて情報量ゼロじゃないか。和夫はツッコミたくなったが飲み込んだ。

 美うんこ指揮官がそれを聞き、隊員に緊急発進を指示していた。

「僕が出ます!」

 学生服を着た主人公っぽいうんこがコックピットに乗っている。体と動きは少しナヨナヨしているが、何か大きな覚悟を決めた表情だった。うんこの表情って何だと思うが、なんとなくわかるのだ。

 ここまでの演出でかなり凝っていると和夫は理解した。安い映像ではない。ぱっと見でかなり作り込まれているのが、いち中学生にもわかった。作画もそうだが、動きのひとつひとつがカッコイイのだ。
 なるほど便器界隈で有名になるのも頷ける。

「あ、あれは……」

 先ほど明日歩を注意した店員が空を仰いでいる。
 少し気になったが、和夫は無視して引き続きスマホの演出画面を見る。明日歩さんの体も気になるが、見せられないよ!小僧のおかげでどの角度からもみることができない。

 画面には見覚えのある光景が映っている。
 上海だ。
 上海が映っている。映っているのはちょうど明日歩と和夫がいる場所。
 そうかこれは上海を題材にしているソシャゲなのかと和夫は思った。

 その考えは甘かった。浅かった。
 明日歩の行動をもっと警戒しておくべきだったと和夫は後悔する。

「え、うわ、なんですか!?」

 地面が揺れ始める。
 テーブルがガタガタと揺れる。
 隣の店員は倒れた。立っていられない様子だった。

 道路が跳ね橋のようにぱっくりと二つに割れて、上がっていく。
 ソシャゲの画面も同じように道路を二つに割っていた。
 この画面は現実のものだったのだ。よく見てみれば、見せられないよ!小僧がしっかりと映っていた。

「なんでガチャ演出が現実に反映されるのぉ!?」

 地面が傾き始めて、椅子に座ることができなくなった和夫。
 この上海に来て鍛えられた和夫は焦ってはいるものの、冷静さを失わない。すぐに行動できたのは、様々な意味不明現象に苛まれてきたからである。

 和夫は足がすくんだ店員を立ち上がらせる。

「逃げますよ明日歩さん!」

「うおおおおおおおお!!!」

 明日歩は食い入るようにガチャ演出を見入っている。
 画面ばかりではなく、現実を見てほしいと和夫は切実に思う。
 いや、画面が現実になっているのだから画面を注視するべきなのか。訳が分からなくなってきたので、深く考えることをやめた。

「シニョ~さんからも何か言ってください!」

「ププププププププゥゥゥ!」

「こっちも食い入るように画面見てる!?」

 一人と一匹は完全にガチャ演出の虜となっていた。
 パチンコに人々がハマってしまうのがギャンブル性のみならず、この演出も一因らしい。
 煌びやかに光り続ける演出に、のめり込んでいる。
 ソシャゲのガチャとはどうしてこんなにも人を惹きつけるのか。恐ろしい。和夫はスマホを貰っても絶対にソシャゲは始めないと心に誓った。

 しかし今はそんなこと、どうだっていいのだ。

「早く逃げますよ!」

 傾きは徐々に大きくなっている。
 このままでは取り返しのつかないことになる。

 和夫は坂の下を見る。人々は避難を始めていた。明日歩を注意した先程の店員も逃げ始める。
 あとはこの魔法少女だけだ。
 肩を揺らしても画面に夢中なまま。この揺れにも気づいていないようだから、単純に揺らしてもダメだとは思っていた。

「失礼しますよ、明日歩さん!」

 べちべちべちと往復ビンタ。顔に赤みを作る。
 初めてまともに明日歩の体に触ったが、普通の人は少し違う。肌の感触になんだか違和感があるのだ。
 そういえば魔法少女は契約すると、通常の体からエーテル体に変換されると前に明日歩が言っていた。この見せられないよ!小僧もエーテル体のせいなのか。いや、多分、R指定のせいだ。

 明日歩のツインテールの片方を取り、髪の毛先を鼻の中に入れる。
 くしゃみを誘発すれば、画面から目が離れると思ったのだ。
 しかし、効果はない。

「これでもダメなのか……!」

 和夫はかぶりを振る。
 体が特殊だからって潰れていい理由にはならない。傷ついて良い理由にはならない。明日歩だって同じ人間なのだから。あと年上とはいえ女の子なのだから。

「……普通に目を隠せばいいんじゃないかプ?」

 いつの間にか我に返っていたシニョ~の言葉は、当然のように和夫へ届かない。
 和夫はこの時冷静さを失っていた。成長したとはいえ、まだまだ未熟な男である。

 明日歩は変わらず食い入るように画面を見ている。

「ああっ! 一体何が襲来するの。この隕石はなんだっていうの!?」

「うんこに決まっとるだろうがーッ!」

「ぶーっ!」

 和夫は明日歩の顔面にドロップキックをかました。
 瞬足の靴底が、彼女の頬を潰す。

「さっき傷ついて良い理由にはならないって思ってたプよね? どうして蹴ってるプ?」

 シニョ~の言葉は当然のように和夫の耳に入らない。
 素早い両足蹴りを放つことができたのは、間違いなくコーナーで差をつけたおかげだ。それと上海で鍛えられたおかげである。

 和夫は初めて明日歩と会った日を思い出していた。
 あの時も出会いはドロップキックだった。
 今度は僕がドロップキックをする番になってしまったこと、心苦しく思う。
 でも人助けってそんな簡単なことじゃないから、仕方がない。ヒーローが遅れてしまったら死ぬだけなのだ。特にこの上海では。
 和夫は自分に言い訳して罪悪感を霧散させた。

「明日歩さん、逃げますよ!」

「え、何が起こっているの?」

「よかった。ようやく気づいたんですね!」

 ドロップキックにより、椅子から倒れた明日歩は我に返った。和夫はそれを見て、大きく安堵した。
 しかしもう遅かった。

 辺りの物は傾斜に耐えられず、滑り落ち始める。
 先程、和夫と明日歩が座っていたテーブルと椅子も、滑り落ちていった。

「ああっ、もう先払いした後だったのに」

「今、そんな心配してる場合じゃありませんよね?」

 レストランで注文した料理が届く前に和夫達は席から離れてしまった。というか席がなくなってしまった。
 これでは料理は食べられない。和夫だって麻婆豆腐が食べたかった。どちらにしろ、裸になった時点で店から追い出されていただろうなとも思う。

 横を見ると店が傾いていた。物理的に傾いていたのである。
 中ではテーブルのみならず料理道具までぐちゃぐちゃになっているだろう。
 これではご飯を食べるどころではない。文句なしの閉店だ。

 和夫は近くのガードレールに捕まる。
 三本の横パイプで構成される白いガードレールだ。頑丈で捕まりやすい。

 明日歩は近くの電柱に捕まった。
 和夫とは少し距離が離れている。魔法少女である明日歩の身体能力なら、和夫が手を差し伸べればなんとか跳べる距離だ。
 がこんと明日歩の捕まっている電柱が傾く。もう長くは持たない。

「明日歩さん、跳んでください!」

「えぇ~♡ 怖い~♡ 助けてぇ~♡」

「ふざけてる場合じゃないでしょオォ!」

「3、2、1」

 ふざけていた明日歩はすぐに真面目な顔に切り替わり、カウントダウンを始めた。
 どうやら今の状況を鑑みて、さすがにこれ以上ふざけるのは命にかかわると考えたようだ。
 和夫は珍しく素直になってくれた明日歩に対して安堵した。そして切り替わりの早さに感嘆した。

 あとはカウントダウンと同時にタイミングを合わせるだけだ。

「0、0、0、ゼロ~!」

「タイミングどこだよォォ!!」

 明日歩が跳んだのは4回目のゼロだった。なんてわかりにくいカウントダウンなんだ。

 その瞬間。
 和夫のポケットから写真が一枚はらりと離れた。
 和夫の姉、斎藤あやめの写真である。

 この写真は上海に来て唯一と言っていいほど大切な手掛かりだ。これがなければ情報収集の効率は格段に下がる。
 和夫の目的はダイヤではない。
 最初から姉である斎藤あやめを探しに来ただけだ。そのためにこの混沌で暴力の飛び交う上海までやってきた。何の能力もない中学二年生が単身で海外までやってきたのだ。
 それほどまでに和夫は姉を大切に思っている。この想いだけは誰にも負けることはない。和夫がここまでやってきたのはこの想いがあるからだ。この想いだけが和夫を奮い立たせている。ガードレールにしがみつかせている。

 今、差し伸べられる手は一つ。

 写真か。明日歩か。

 和夫は選ばなければならなかった。

「明日歩さんの馬鹿あああああ!」

 明日歩の手を取って引き寄せる。片手で抱きしめた。強く、強く抱きしめた。明日歩の柔肌とか、そんなことを感じる余裕はなかった。
 相変わらずうんこ臭い。近くにいて欲しくない。便器界隈所属は臭い。お風呂に入って欲しい。
 明日歩は昨日もお風呂に入っていた。服もない。うんこの魔法少女だから臭いのだ。もうどうしようもない。

 ひらりひらりと写真が風で飛ばされていく。もう何をしても届かない距離になってしまった。
 シニョ~は宙を浮いているが、飛ぶ速度が遅いし明日歩から一定距離以上離れることができない。

 和夫は遠く飛ばされていく写真を見送った。いつまでも見送った。

 明日歩はそんな彼を、腕の中で、じっと見つめていた。
 頬が赤くなっていたのは、きっと――――和夫にビンタとドロップキックをされたせいだった。



「それで明日歩さん、ガチャ結果はどうだったんですか」

N(ノーマル)だったわ」

「なんであの演出でレア度Rより低いのォォ!?」


3,詰まらないもの


 明日歩と和夫はファミレス内で食事をしていた。先ほどの店では食べられなかったため、とにかく大盛りである。

「あのなあ、確かに安めの店に入ったけどな。もうちょい手ごころがあってもいいんじゃないか?」

 塔也は自身の天然パーマをわしゃわしゃと搔いていた。

「がつがつ」

 お金を出してくれたのは槌唄塔也(つちうたとうや)である。トラブルバスターズ槌歌の創業者であり、元社長。
 彼は前回この上海で明日歩と共に今や伝説となったバンドを結成していた。バンド名は『UNKO』。よって塔也と明日歩と和夫は顔馴染みである。

 塔也はボーカル。明日歩はボイスパーカッション。和夫は観客側でツッコミ役をしていた。

 そんな彼の言葉が明日歩と和夫の耳に入ることはない。食べ盛り育ち盛りの二人をそんな手ごころなどというチンケな言葉で止められるわけがない。

 もちろん塔也も本気で止めようとはしていない。
 しかし、あまりにも早い消費速度に自分の財布を気にせずにはいられなかった。

「いやぁ、もぐもぐ……ありがとうございます。助けてもらったのに、もぐ食事まで」

 あの後、二人は塔也の能力痛みの塔(ペインタワー)によって救助された。床や壁に一辺1mほどの立方体ブロックを発生させる能力は、取り残された人を救出するのにこれ以上ないぐらい最適だった。

 ガチャ演出によって出現した隕石は無事に破壊された。
 明日歩と和夫がいた場所は、隕石を破壊する兵器が埋められているカタパルトだったようだ。

 なんとも迷惑な話である。迷惑な話で済まして良いのか和夫にはわからないが、それは上海に住む大人が何とかする話である。

 決して明日歩のせいではない。決して。ガチャ演出が現実になるのは夢の話なのである。

 明日歩は現在、きちんと服を着ている。どうやら魔法少女の服装というのは、すぐ換装できるものらしい。見せられないよ!小僧も今はいない。

「食べながら礼を言うのは行儀悪いぞ。どっちかにしろ?」

 塔也が和夫に食事を奢ってもメリットは何もない。好意だけでお金を出してくれているのだ。感謝しなければならない。

「もぐもぐ」

「食べる方を優先するのかよ。いいけど。全然いいけど。食って大きくなれ」

 塔也は呆れ顔半分、笑い半分といった様子で二人を見守る。

 根本的に良い人なのだろうと和夫は思う。
 だからこそ何かお返しをと考えるが、目の前の肉と穀物に思考が流されていく。なんて美味しい店なのか。隣の明日歩のうんこ臭が気にならないぐらいの旨さだ。空腹のスパイスも効いていた。

「あの、お礼と言ってはなんですが……」

 明日歩は懐から包みを取り出す。

 和夫より三つ年上の明日歩は、やはり和夫と違って社会での立ち回りを知っている。ご厚意には行為で返すものだ。

 高校一年生は、伊達ではない。それとも魔法少女をやっているとそういうことが身につくのだろうか。
 どちらにしろ、こういう部分は尊敬しなくてはならない。

「え、いいのに。わかった、貰おうかな」

 包みを開けると、弁当箱だった。

 それを見ていた和夫は感嘆した。
 確かに女子高生の手作り弁当は価値があると聞いたことがある。
 お金持ちが食べる高級食材にキャビア、トリュフ、フカヒレがあり、一定の人気もあるが、実際のところ一番食べたいのは女子高生の手作り弁当なのだ。ティッカトックでそう言ってた。
 さすが明日歩さん。渡す物も申し分ない。

 貰った当人である塔也の反応は、苦笑しながらどう反応していいのかわからない様子だった。明らかに困惑していた。

「いやこれ貰ってもいいやつなのか……? それに、これがあるなら最初から俺が奢る意味って……」

 塔也は弁当を持っているのなら、それを食べろよと言いかけたが、飲み込んだ。
 奢ると言い出したのは塔也からである。
 弁当の消費期限を考えると昼過ぎの今食べた方がいい。夕方になってしまえば食べられなくなる。
 完全に残飯処理だ。いや、手をつけていないのだから正確にはまだ残飯ではないのだけど。

 当然だが、塔也にとって女子高生の手作り弁当はあまり価値がない。
 毎日彼の妻、七歌の愛妻弁当を食べているからだ。

「ここで弁当食べるのはあまり行儀の良いことじゃないが……。もう充分お金は払ってるし多少融通は聞くか。じゃあ、いただきます」

 弁当箱を開ける。

 中身はカレーだった。カレーライスである。茶色と白色。

「うっ……!」

 塔也を襲ったのは臭い。酷い臭いだ。うんこ臭。

「こ、これは……?」

 塔也は思わず疑問を漏らす。
 もう答えははっきりしていた。
 けれど受け入れがたい現実に、明日歩へ疑問を呈さずにはいられなかった。

「はい。うんこ味のうんこです」

「せめてカレーの単語が入っていて欲しかった」

 塔也は肩を落とす。
 この際、うんこ味のカレーでもカレー味のうんこでもよかった。
 うんこ味のうんこってそれただのうんこだよ。
 貰うと言ってしまった手前、突き返すのも躊躇われる。
 弁当箱にカレー。持ち運ぶのだから揺れたらカレーがこぼれてしまうだろう。しかし一切こぼれていなかった。
 もう全部こぼれてなくなってしまえば、どれだけよかったか。

「すみません、詰まらないもので」

「詰まるものだとは思うよ?」

「下痢便当は詰まるんですけど、これはまだ詰まらないものなんです」

 塔也は、下痢便当とは何だろうかと聞きたかったが、この便当と別のものが出てくる可能性があったので聞くのをやめた。

「う、うーん……」

 塔也は食べるのを躊躇っていると、一人の少女が席にやってきた。

 彼女の名前は果成いっぽ。
 臭いに釣られてやってきた。

『あいつがくるぞ、あいつがくるぞ。

 ピンチになればやってくる。
 どこからともなくやってくる。

 覚悟しろ、覚悟しろ。

 うんこがやってくる。

 腹を鳴らして、やってくる。

 ――――魔人アースホ第一話『三日出なかった翌日』より』

◆【カレー(curry)とは:意味・読み方・使い方】◆
◆【意味・対訳:うんこ】◆



 いきなり席にやってきた少女、果成いっぽは大きな声で叫んだ。
 安っぽいアニメの服を着ておもちゃようなアクセサリーやベルトを着けた少女だ。

「13倍!」

 ズビシィ!と音を立てて人差し指を向ける。その先は塔也の手元にある便当だ。

「え、これか? うんこ味のうんこだぞ?」

 このズビシィ!とは何の音なのだろうかと塔也は発言しながら疑問に思った。しかしそれが判明することは今後一切ない。

「食べる!」

 塔也の手元から便当をひったくり、そのまま塔也の隣で勢いよく食べ始めた。

 箸の使い方が全然なっていない。
 二本を一緒くたに握っており、太めの一本箸となっている。典型的な子供がよくやる箸持ち方だ。

 塔也はスプーンを渡すが、いっぽは構わずカレーに箸を突っ込む。

 食べるのに夢中だった和夫はそんな少女を見て、食事を一時中断。親はどこなのかと軽く店内を見渡した。

 家族連れはいるけれど、子供を探している様子はない。
 なんとなく、この少女は独りでここに来たのだと直感する。

 よく見ればこの少女の服はヨレヨレで汚い。アニメキャラのプリントが汚れているので、妙に目立つ。

 ライダーベルトなどのおもちゃも複数身に着けているが、どれも脂がギトギトだ。
 何日も着替えていない様子。

 代謝の高い子供が同じ服を着続けると汚れるし、すぐにダメになる。
 今は便当のうんこ臭がきつすぎてこの服の臭いは気にならないが、あまり今の状態で放置して良いことはないだろう。

 和夫は塔也と目を合わす。
 どうやらこの少女も魔人能力を持つようだと和夫は理解した。

 それよりも大丈夫なのかと問いたくなるのは、便当のうんこだ。
 当然ながら人はうんこを食べてはいけない。

 明日歩がいっぽを見て、満足そうに頷く。

「安心して、それは食べていいうんこだから」

「カレー! ガツガツ」

 いっぽは安心させる明日歩の声を聞いているのか聞いていないのかよくわからないが、とにかく便当を食べ続けた。

 箸の持ち方が間違っているので、塔也が優しく教えたりしたが、いっぽは全然身につかなかった。

 箸の持ち方になど興味がない様子だ。
 もうスプーンで食べればいいのにと和夫は思うが、箸で食べていた。あまり掬えていない。

「あ、こんなところにいた!」

 その声を聞いて、和夫はこの少女のお母さんがやってきたのかと思った。
 でも違った。
 現れたのは倉森七歌(くらもりななか)。塔也の妻だ。護衛対象である浅村育美(あさむらはぐみ)も連れている。
 きっちりとしたスーツ姿でいかにもキャリアウーマンのような見た目である。育美ちゃんと合わせて忙しく働く母みたいな印象を和夫に思わせた。

 前回、メカ妊娠願望マンのライブバトル(?)にて塔也とプロポーズをし、見事結ばれたのだ。

 どうやら七歌に見つかったのは、果成いっぽではなく塔也のようだ。

「げっ、七歌」

「げっ、って何よ。あら明日歩ちゃんに和夫君こんにちは。塔也、また対価もなしに人助けしてるの? 災害だったから迅速な対応をするのは別にいいけど、トラブルバスターズ槌歌通さないと収入にならないのわかってるよね。今回の件、部外者が無収入で救助したってことになってるけど、本来政府から復興支援金や援助金という形で給付されるものだったのよ?」

「はい……はい……」

 いきなりマシンガンのように繰り出される七歌の小言。塔也はどうやら七歌の尻に敷かれているらしいと、和夫にもすぐにわかった。

「え、塔也さん。トラブルバスターズ槌歌に戻ってないんですか?」

 和夫の記憶には七歌と塔也の護衛対象である育美と、仲良く帰った記憶があるのだ。

「ああ、一度出たのになんだか戻りづらくってな……」

 居心地悪そうに塔也はポリポリと頬をかく。
 そういうものなのだろうか。その気持ちは和夫にはあまり理解できない。

「いつでも待ってると言ってるのに、こんな感じで街をフラフラしてるのよ。明日歩ちゃんからも何か言ってあげて」

「コマネチ」

「ほら、明日歩ちゃんもコマネチって言ってるでしょ。ちゃんと能力はあるんだからしっかり働いて収入を稼いで欲しいわ。収入は信頼。この混沌とした上海で信用を勝ち取るには安定感がなければだめだわ。確実に、忠実に、依頼をこなしていくのよ。そうすれば口コミで広がってもっと大きめの依頼がやってくるわ。あなたのような人材は絶対に有効活用しないといけないと思うわけ。それに私の夫になったのだから、男らしいところを見せてほしいわ。私も周りへ自慢できる妻になりたいわ。この間、家の近くにごみ処理施設が作られるというのを聞いて『嫌ねえ』とお隣の奥さんと世間話してたら『そういえば旦那さんは何をしていらっしゃる方なんですか』と聞かれてとっても答えにくかったのよ。思わず能力でお隣さんの記憶改変しちゃったわ」

 和夫は、コマネチってどんな意味だっけと思わずにいられなかったが、七歌は七歌で責める材料が欲しかっただけのようだ。
 内容など完全にどうでもいいといった様子で、塔也をマシンガン小言で責め続けていた。
 お隣さんの記憶改変だけはやめてあげて欲しい。そこまでくると、大()だと思う。

 七歌の能力は深く昏き森(ダークフォレスト)。いろいろ条件はあるが、自分の半径10mにおいて道理を歪める能力だ。実質なんでもできる能力である。

「わかった、わかった。言う通りにする。大丈夫」

 和夫には、塔也が母の小言を聞くお父さんのように見えた。
 和夫の両親もこんな感じだった。国が違えど、夫婦の関係はあまり変わらないのかもしれない。いや亭主関白という言葉もあるし、千差万別か。

「そう、じゃあこれお願い」

 七歌が待ってましたと言わんばかりの顔をして、鞄の中から取り出したのは求人情報だった。
 魔幇の幹部候補生の募集だ。
 七歌は得意げに叫ぶ。

「ニートの塔也にやって欲しいのは、就職よ!」

4,クラム・ハードシェル。住所不定無職。自称騎士


 中身のない亡霊の騎士は当てもなく上海の街を歩いていた。

 クラム・ハードシェルは幻覚である。
 存在そのものが幻であり、実際には存在しない。

 クラム・ハードシェルは騎士である。
 しかしそれを認める者はいない。

 彼の鎧は音を立て歩き、触れることができ、攻撃もできる。
 それでもクラム・ハードシェルは自身を幻覚だと思っている。自身が狂っているのだと自覚している。
 それは自身の立場が曖昧であるからだ。
 自分が今どこに立っているのか、わからないのだ。
 どうにかして立場を見つけなければならない。そうしなければ、彼は狂い続ける。


 ――それは突然やってきた。
 天啓のようだった。


 風に飛ばされてきた二枚の紙が彼のバイザーに付く。

 彼に目はない。亡霊の騎士はやはり人間の知覚のそれとは違う。そのため彼の視界を遮ることはないが、何の気もなく手に取った。

 一枚の写真と一枚の募集用紙だった。

 写真には、奇妙なドレスの女と飲食店員が並んでコマネチをしている姿。

 募集用紙には、魔幇の幹部候補生の募集要項が書かれていた。

 ドレスの女を認識した瞬間、クラム・ハードシェルの中で何かが動いた。

 彼は幻覚だ。鎧の中には何もない。

 それなのに、動くのだ。これ以上なく反応している。

 この女性は一体何者か。

 貴婦人。

 確証はない。確信もない。
 本当に薄い望みだ。なんとも淡い期待である。自身の中に起こる反応は本当に小さかった。霞のようなものであった。一日が経てば後で思い出すことも不可能なほど。

 でも自覚した。知覚した。

 騎士、クラム・ハードシェルは無職である。
 雇い主がいないのである。
 ――――雇い主の幻覚を見るが、それは無職という重圧が生み出した幻覚なのである。

 可能性がここにある。
 ならば行かなければならない。

 魔幇の採用面接に。
 ソレガシには無限の可能性があるのだ。

5,人は選択を間違えた時、オギャりたくなる


 明日歩と和夫と塔也といっぽは大きなビルの一室に来ていた。
 このビルの一室は貸し部屋らしく、今日はこの階の部屋をすべて貸切って採用試験を行うのだ。ちなみにここは3階である。

 和夫は周囲を見る。
 様々な人がいる。
 和夫はこの上海を変人の巣窟だと思っているが、まさにその通りだった。

 スーツ姿の男がアナウンスを入れる。
 胸ポケットに櫛を入れた男だ。和夫の印象はおしゃれな人である。

「クラム・ハードシェル。ギャラハッド・ソネット。海圻。金剛シグリ。果成 いっぽ。大戦持A子。槌唄塔也。女陰黄泉。茶山明日歩。倒萩。路覇タッカー。カムパネルラ、ジョバンニ。斎藤和夫。今呼ばれた者達は誘導にしたがって、大広間へ移動してください」

 呼ばれた人たちは立ち上がり、ぞろぞろと歩き始める。和夫と明日歩、塔也、いっぽもそれに続く。


 ――――


 ファミレスでの七歌の話を要約すると、塔也に依頼したのは魔幇への潜入任務だ。
 今回の採用担当の調査である。

 魔幇の幹部達がこのダイヤ争奪戦により、数を減らしたため幹部候補生として募集を始めたのだ。

 和夫と塔也は、七歌の話を思い出す。

『ダイヤの情報を流したのは、今回の採用担当者の中にいるの。でもそれ以上の情報はわからないから、いろいろ聞き出して。最低限、名前ぐらいは聞き出したい。偽名ならそれでも十分。それと顔写真。最終面接まで行っていろいろ聞き出すのがベスト。でも絶対に採用されちゃだめ』

『どうしてだ? 採用されちゃった方が相手の信頼も得られていいだろ。ちょうど俺は無職だし』

 塔也の言葉に七歌は首を振る。

『私たちは魔幇の本拠地に入っちゃダメなのよ。レギュレーション違反だから』

『レギュレーション違反? 違反するとどうなるんだ?』

『世界が破滅します』

『『なんでぇ!?』』

 塔也と和夫は驚きに声を上げた。
 だっておかしいではないか。一般人が魔幇の本拠地に行った程度で何故世界が破滅するのか。

『私たちの創造主(作者)が、それ以上の上位存在(GK)に怒られるから……』

 急に次元の違う話をされて塔也と和夫は困惑したが、どうやらそういうことらしい。
 理解はできない。七歌は世界を自分の思い通りに改変する能力を持っている。だから時折こういう話をするのだ。多分、一般人とは視点が違うのだろう。世界の見方が違うのだ。それでも塔也は七歌の言うことを信じている。それは前回の監獄で本当のことを言い合って結ばれた経緯があるおかげだ。

『魔幇の本拠地で試験や面接をすることはないから、そこは大丈夫。でも採用されたら本当に連れていかれちゃうから、気を付けて』

 魔幇の面接官を調査する。
 でも絶対に採用されてはいけない。
 採用されたら魔幇本拠地へ入ることになり、そうなればレギュレーション違反となる。

 その話を聞いた明日歩の顔は、和夫にとって忘れられない顔となった。
 明日歩はがばっと立ち上がり、右手を掲げて宣言したのである。

『わかったわ。私、魔幇の幹部になる!』

『明日歩さん、話聞いてました?』

 和夫はこの採用試験に参加する気など、さらさらなかった。当然である。まだ中学生だし、斎藤あやめの捜索もやらなくてはならない。
 けれど明日歩がやる気になってしまったのである。
 一度こうなってしまえば、テコしなくても動きまくる。何度も止めたが結局この試験会場に来てしまったのだ。
 この魔法少女、魔幇の本拠地に行ったら世界が破滅するという話を聞いて、行く気になってしまったのだ。



 ――――



 ぞろぞろと部屋を移動する。
 まず最初に採用試験を行うのだが、その内容は明らかになっていない。

 和夫は前を歩く参加者達を見る。

 千差万別だ。
 少女もいれば青年もいる。中国人から日本人。額に札を張っている人や騎士の鎧までいる。すべて魔人能力者なのだろう。
 和夫は緊張していた。今からどんなことが始まるのか。
 きちんとそれに対応できるのか。

 明日歩に関していえば、あまり心配していない。
 何故ならうんこの魔法少女を企業が、あるいは組織が採用するとは思えないからだ。
 どう考えても採用しない。世界が破滅することは多分ない。そのはずだ。

 参加者は全員大広間に入った。

 参加者が全員入ってもまだ余裕がある広間だ。床にはねずみ色のカーペットが敷かれているだけの部屋。
 奥には『一番の扉』と『二番の扉』と大きく書かれた扉がそれぞれあった。

 スーツ姿の男が、手に持ったタブレットを見ながらアナウンスする。

「それでは試験の説明をします」

 試験の内容は簡単だった。
 『一番の扉』と『二番の扉』。この二つの扉から当たりの扉を選ぶだけだ。
 一人ずつ。ペアも許されているのでその時は二人ずつ。
 魔幇の幹部にはペアで活動する暗殺者もいたらしく、ペアでの行動も容認されているようだ。トリオからは要相談なのだそう。

「なお、ハズレの部屋に入ってしまった場合は、魔幇幹部との戦闘になります。この試験は扉の先にいる幹部の気配を察知するための試験でもあります」

 幹部との戦闘という部分を聞いて、多くの人がざわざわとしだす。

「当たりの方、あるいは幹部を倒した方は合格となり、最終面接へ進みます」

「は、ハズレを引いた場合はどうなるんでしょう……?」

 震える手を挙げて質問したのは大戦持A子だ。
 青いジャージを着ている若い女の人。明日歩よりは年上。髪はボサボサで、その格好で採用試験に来るんだと和夫は思った。
 ここには騎士もキョンシーのような人もいる。実力があれば姿形はあまり関係ないのだろう。

 見た目に関していえば和夫の隣にうんこの魔法少女がいるのだ。今更である。
 明日歩さん。うんこのピアスをしているのは本当にダサいと思うからやめたほうがいいと思うのだけど、何度指摘しても外さないのだ。まあ全裸よりはマシか。

「それはハズレたときのお楽しみです。基本的に扉の先で待っている幹部は倒せないので、失格だと思ってくれて結構です」

 お楽しみ。
 その言葉には妙にトゲがあった。
 塔也も感づいた様子で、嫌悪感を示す。魔幇のような組織が用意する『お楽しみ』が、本当に楽しいわけがない。
 明日歩からカレーですと渡されて信じる者が一体どれだけいるだろう。この世に一人もいない。言わずもがな。どう考えてもうんこだからだ。

「お楽しみ!?」

 和夫の隣で目をキラキラと輝かせている少女がいた。果成 いっぽだ。

「居たわ。ここに」

 和夫は思わず頭を悩ませた。
 うんこ味のうんこだと宣言して便当を渡されたのにも関わらず、それをカレーと思う少女は、わくわくしていた。

「どうしていっぽちゃんここにいるのかな……?」

 いっぽに目線を合わせ、勤めて優しく声を掛けた。
 そういえば塔也と共に入ってきたのだ。塔也は調査。和夫には明日歩という動機があるが、いっぽには何もない。考えなしについてきたのだ。

「一番の扉!」

 いっぽはズビシィ!と指を指して宣言し、堂々と扉へ向かっていく。

「まだ先に何があるかわからないから慎重になろう?」

 いっぽの肩を抑えて止めようとするが、失敗した。
 およそ子供が歩く力強さではなかったのだ。魔人能力か。そうとしか考えられない。能力のない和夫のような一般人ではその歩みを止められない。

 いっぽの歩みを止めたのは、鎧だった。クラム・ハードシェル。
 住所不定。無職。自称騎士。幻覚ばかり見ている中身のない男である。

「童よ。先達はソレガシに行かせてもらいたい」

 クラム・ハードシェルの声は随分としゃがれた声だった。ラジオの雑音のような声。

「おねーさん! ヒーローの後に続いて!!」

「姉ではない。私に胸はないからだ。だから姉ではない」

 クラム・ハードシェルの言葉に和夫はあんぐりと口を開けてしまった。

「姉キャラ巨乳過激派の人だ……!」

 和夫は内心で憤慨した。
 胸がない姉だって居ていいはずだ。
 どうして姉キャラは貧乳だとダメなのか。
 日本が誇る二大アイドルアニメ、アイドルマスターとラブライブには如月千早、矢澤にこ。という貧乳姉キャラが存在している。
 その萌えを無視して、一体なぜそんなことを言えるのか。

 確かに昨今では巨乳キャラばかりが注目される。それは目立つからだ。圧倒的に目立つのだ。巨乳というだけで存在感がある。そのために体のバランスが少しおかしなことになっているキャラもよくある。胸に対して腕が細すぎる。胸に対して肩幅が小さすぎる。もちろんそれはそれで魅力的だ。それが萌えない理由にはならない。立ち絵では違和感を感じることがあるだろう。でもCGではどうだ。そう、CGではとても映えるのだ。魅力的なのだ。わかっている。この和夫にも巨乳姉キャラへの理解はある。包容力があって、甘えられるということに魅力を感じるのだろう。端的に言えばオギャれる。知っているさ。僕だって数多くの弟になってきた。何度だってふともも枕で寝かせてもらった。

「な、なんの話をしているプ! 長いプ! せめて改行するプ……!」

 シニョ~の言葉は和夫に届かない。

 では姉キャラの貧乳はどうか。確かに目立たない。これは認めよう。認めざるを得ない。どう考えても巨乳の方が目立つ。この情報過多社会において目立つというのは重要な要素となるのは間違いない。しかし貧乳はまず立ち絵が魅力的になるのだ。シュッとしていて制服の可愛さもしっかりと伝わってくる。それに恥じらいがあるのだ。月並みな意見で申し訳ないが、男の子は巨乳の方が好きなんでしょ、私なんて。という罪悪感を持っているキャラが多い。その気持ちが非常にそそるのだ。これは譲れない大大大メリットだ。実は偽乳パッドしてましたと判明した日には、確定で夜が眠れなくなる。主人公とヒロインだけの秘密が出来上がってしまったなぁ。にちゃにちゃ。

 もちろん、貧乳にも欠点はある。どうしても語らなければならない欠点だ。それはどうしてもロリ枠に吸収されてしまうという点だ。貧乳というのは幼さや若さと非常に相性がいい。だからこそ姉キャラで貧乳なのは数が少ないのだ。どうしても貧乳は妹キャラに行きがちである。妹キャラも巨乳であることがほとんどだったりする。悲しいことにロリ枠というものが一昔前まではしっかりとあったのにも関わらず、昨今では巨乳のキャラばかりで揃えるのが主流になってしまった。これも時代の流れだ。五等分の花嫁も全部巨乳だ。わかっているさ、本当は、絶対的に巨乳の方が人気はある。

 ちなみに和夫の姉である斎藤あやめのスリーサイズは91/59/93。巨乳である。巨乳を越えた大巨乳。もちろん成長途中の胸だって愛した。だから貧乳にも理解があるのだ。

「姉のスリーサイズ把握している弟って、普通にキモいプ……」

 シニョ~のツッコミは和夫の耳に入らない。

 和夫はここまで考えて、言葉を絞り出した。
 本当に少ない言葉数だった。

「姉キャラの巨乳()……いいよね……」

 コンプライアンスの配慮ではない。他人の性癖への配慮でもない。
 和夫は本心から、どっちも良いと思うのだ。

 クラム・ハードシェルは和夫の方を向いた。鎧のバイザーがあるため視線はわからない。
 けれど、確実にこちらを向いていた。ゆっくりと頷く。まるで和夫の考えていることがわかっているかのような動きだった。

 クラム・ハードシェルはいっぽに語り掛ける。

「童よ。やはりソレガシが行く。ヒーローとは、遅れてくるものだろう。先に行って待っている」

「……それもそうか。では先に行くがよい!」

 いっぽはズビシィ!と一番の扉に指を指す。

 クラム・ハードシェルは籠手を巧みに動かして、ドアノブを掴む。
 扉を開けた。

 参加者全員が開けた扉から部屋の奥を覗く。
 部屋の奥にはもう一つの扉があった。

「ああ、カンニングはできませんよ。この手前の扉を閉めなければ、奥の扉を開くことはできません。視覚的に中がどうなっているのかを判別する方法はありません。クラム・ハードシェルさんは真っすぐ進んでください」

 対策は当然されていた。
 騎士は振り返ることもなく、剣を携えて、ガシャガシャと音を立てて扉の奥へ消えていった。

 扉が閉まってから数分後。あるいはもっと短かったかもしれない待機時間の後、男は告げた。

「では、次の方どうぞ」

 クラム・ハードシェルは正解の道を進んだのか。

 その場にいる誰もが思った。あの騎士は幹部と戦わなかったのだ。
 まるで何も音がしない。戦うなら最低限、音はするし、振動もここまでくるはずだ。あの鉄の鎧と剣であれば尚更。

 もしクラム・ハードシェルが幹部により、何もさせてもらえず一方的に戦いが終われば、静かなのも納得できる。
 しかし、そんなことがあり得るのだろうか。

「塔也さん、どう見ます?」

 和夫は塔也に意見を求める。
 解決屋として暴力を担当してきた彼の言葉は信用に値する。

「まず最初に、幹部とやらの気配はまったく感じ取れない。どちらの扉からもだ。相当気配を隠すのがうまいか、部屋に特殊な能力が掛けられているか。だったが……」

 塔也は続ける。

「あの騎士の気配が急に消えやがった。あれは多分部屋の方に能力が掛けられているんだと思うぜ。一瞬でやられたにしちゃ、消えるのが早すぎる。中身のない亡霊なら、尚更だな」

 生身の人間でも殺すには最低数秒の時間が掛かる。
 強力な武術家と戦ってもそれは変わらない。
 首を飛ばしても、肉体は生きている。その気配を消せるわけではない。もちろん、肉体を一瞬で消し飛ばす能力があればその限りではない。

 しかし今回は亡霊相手だ。どうやって殺すのか。たまたま除霊専門の陰陽師がいて、一瞬で気配を消し飛ばしたのか?
 まさか。その可能性はかなり低い。塔也の言う通り、部屋には気配を消す何らかの能力が仕掛けてあるのだろう。

 一番の扉が正解の道だとみて間違いない。そのはずだ。

「では、ヒーローが参るのであります!!」

 果成いっぽが元気よく一番の扉を開けて奥に消えていく。
 その変な口調は何かのヒーローを真似なのだろうか。

 誰もがそれを見守っていた。
 後に続くつもり満々で。
 参加者は皆、この試験はもうクリアしたも同然だと思っていた。

 しかし、それは間違いだった。

「ママーーー!!!」

 奥から叫び声が聞こえた。
 果成いっぽのものだ。

 ――――果成いっぽ 脱落――――


 一番の扉に視線が集まる。
 次いで試験官の男に全員の視線が集まった。これはどういうことなのか。その答えを要求した。

「ああ、言ってませんでしたね。誰かが一回通過すると、配置はランダムでどちらかに入れ替わります」

 スーツの男は重要なことをあっけらかんと言い放つ。

「まぁ気配を探る試験なので、どちらかランダムで入れ替わったとしても、問題ありませんよね」

 言い分は確かにそうである。向こうに正論がある。これは魔幇の試験だ。魔幇がルールを決める。それを伝えるか伝えないかも、魔幇側に委ねられている。
 しかし隣にいる塔也はそう思わなかったようだ。

「おい、それはお前のミスなんじゃねえのか」

 塔也は怒りの表情を露わにして、試験官の男に詰め寄る。

「いえ、ミスではありません。冒頭に申し上げたルールと条件は変わらないのですから、何ら問題ではありません」

「あぁ、確かにそうかもな! でもよぉ、子供があんな叫び声をあげてお前は平気だって言うのかよ!」

「……そうですね」

「お前、名前を言え!」

「言う必要がありません」

「俺が幹部になった暁にはお前を左遷させてやるからよぉ。名前を教えろや」

 塔也は男に至近距離で恫喝する。
 和夫は心の中でうまいと称賛した。
 これなら自然に名前を聞き出すことができる。

 男の意識が塔也を向いたときに、和夫は腕時計型の隠しカメラでさっと写真を撮った。時計を見るフリで写真を取れる優れものだ。

 塔也からは別にやらなくていいと言われたが、七歌に念には念をと渡されたものだ。

「……申し遅れました。私はアナルカナリ・タカと申します」

 試験官の男。アナルカナリ・タカは一歩下がって頭を下げた。

「ふん、覚えておくぜ。俺が幹部になったら、覚えておけよ」

「はい。心よりお祈り申し上げます」

 合格して欲しいのか、欲しくないのかどっちにも取れる言い方をアナルカナリ・タカはしていた。

 早くも最低限のミッションは達成した。
 あとは最終面接でアナルカナリ・タカと名乗った男の情報を引き出す。これがベストだ。

 塔也は和夫と明日歩のもとに戻ってくる。塔也はすました顔をしているが、内心、してやったりという気分だろう。

 そんな和夫達三人に近づく一人の男がいた。参加者の一人、ギャラハッド・ソネットだ。
 ウェーブのかかった茶髪と褐色の肌。和夫は利発的な印象を受けた。男は立ちながら何故かカレーを食べていた。大皿を器用に持ち、スプーンで今も口にカレーを運んでいる。

 ギャラハッド・ソネットは小声で和夫達に話しかける。

「もぐもぐ、なぁ、アンタらもダイヤ情報の、もぐもぐ、発信源を探しに来たのか?」

「……」

 和夫と塔也は目を見合わせた。
 これはどう対処したらいいのか。
 敵か味方か、わからないのだ。あとカレーくさい。

「おっと、いやすまねえ。もぐもぐ、俺の名前はギャラハッド・ソネット。もぐ、偽の情報、清王朝には凄い力を秘めたダイヤモンドがあると広めたのは俺の先祖なんだ。モグモグ」

 人好みのしそうな笑顔。そして深刻そうな顔をして、責任感があるとアピールしているかのような表情。
 そしてカレー。

「はぁ……その、食べるか喋るか、どっちかにしろと親に教わらなかったんですか……?」

「和夫くん、それ君が言うのかい?」

 塔也のツッコミを無視して和夫は考える。
 とてつもなく怪しいこの男をどうやって応対すればいいのか、迷っていた。

「もぐもぐ、本当は清王朝のダイヤなんてないんだ。でもその情報を利用して、誰かがダイヤに似た何かを流したっぽいんだ。もぐもぐ」

「ダイヤに似た何かっていうのは?」

 和夫はとりあえず向こうから情報を聞き出す分には、何も問題ないかと結論を出した。
 誰かという部分には、塔也の情報により見当がついている。誰が犯人か。それはこの魔幇の採用担当者だ。まだ正確にこの人と断定はできていないが、かなり絞れている。最終面接に会って情報を引き出せば、確定できるだろう。

 しかしダイヤとされているものが何か、という部分は判明していない。
 そもそも和夫はダイヤを見たことがない。

 それと何故ダイヤを上海に渡したのかも。

「それが、魔法少女に関係あるものなんだってさ。もぐもぐ」

「え?」

 和夫はこの何も関係なさそうなこの男から、急に聞き馴染みのある単語が出てきたことに驚いた。

「もぐ、同じ魔法少女がダイヤを一目見ればすぐにわかるらしいよ。もぐもぐ。何だろうね?」

 和夫はここで明日歩の方を見たくて仕方がなかったが、耐えた。
 今、明日歩を見てしまえば、確実に魔法少女と関係があるとこのギャラハッド・ソネットに伝えてしまう。
 この男、何があるのかわからない。警戒しなくてはならない。

 でも間違いなく、このギャラハッド・ソネットは情報を持っている。
 和夫にとってはかなり欲しい情報だ。
 写真を失くしてしまったため、和夫は姉に関しての情報がかなり集めづらくなっていた。
 嫌々ついてきた場所だが、思っていた以上に収穫がありそうだ。

「次は、俺達が入る」

 部屋の奥では、次の人物が扉を開けようとしていた。
 金髪碧眼で十代前半の少年、カムパネルラ。
 日本人で20代~30代前後の女性、ジョバンニ。

 二人はどうやらペアのようだ。
 顔役は少年の方で、女性の方が彼の後ろを歩いている。
 どちらもスーツ姿で、他の参加者と見比べるとかなりまともに見える。

「ありゃ解決屋だな」

 塔也が見定めるように二人を見る。

「カムパネラとジョバンニ。上海では五年前ぐらいから活動してる解決屋だ。俺は初めて会ったな。あんなちっせえ少年なのか。和夫くんと変わらないんじゃないか?」

「ええ……」

「ありゃ二人ともかなりやるな。例えハズレを引いて幹部と当たっても、倒しちまうかもしれねえな」

「……世の中にはいろんな人がいるんですね」

 和夫と同じぐらいの少年が、五年前から解決屋をやっているという事実に、思わず眉をひそめる。

 この上海では子供のままでいられなかった人達が存在する。
 和夫は日本で育ってきた。
 安心安全な環境。のびのびと勉強できる空間。
 日本では成人式があり、そこで大人になる。
 それでいて問題もある。
 子供が自動的に大人になるのだ。
 子供は子供のまま大人になるらしい。
 変わるのは社会からの視線のみ。
 それなのに、当人は社会から認められている感覚にはならないと聞く。

 そんな日本では、あそこまで大人びた少年は見たことなかった。
 どちらで育った方が幸せなのか。

 和夫はそんな考えても仕方ないことを考えてしまった。

「二番の部屋に行く」

 少年カムパネラは宣言し、女性のジョバンニと二番の扉に入っていく。
 二番の扉を覗くと、一番の扉と同じだ。奥にもう一つ扉がある。視覚的な対策。

 カムパネラとジョバンニは扉を閉めた。

 絶叫が聞こえるまで一分も掛からなかった。

「ママーァァ!!」

「オギャーー!!」

 少年と女性の声だった。

 ――――カムパネラとジョバンニ 脱落――――


 参加者一同に動揺が走る。

 あの二人は上海でも五年ほど解決屋として活動してきた能力者だ。それがこうもあっさりと倒されたという事実。
 早い。あまりにも早い。カムパネラとジョバンニの実力を理解していた参加者ほど、この先に待ち構えているであろう幹部の強さ、恐ろしさに震えあがった。

「もぐもぐ……あー。やられちゃったか。もぐもぐ、一体あそこには何がいるんでしょうね。まぁ、オギャれて幸せだったのかもしれないですね。もぐもぐ」

 ギャラハッド・ソネットはカレーを食べながら世間話のように喋る。
 彼に動揺している様子はない。

「それってうんこかしら」

 明日歩がギャラハッド・ソネットに質問する。
 和夫は悪い予感がした。

「もぐもぐ。いやうんこじゃないよ。カレーだよ、もぐ。カレー食べてる時にうんこの話するのやめてよね。もぐもぐ」

「そうですよ明日歩さん、ギャラハッド・ソネットさんに失礼ですよ」

「絶対にうんこよ!」

 明日歩は叫んだ。
 和夫の悪い予感はどんどん膨らんでいく。

「違いますよ明日歩さん。カレーです。知ってますよねカレー」

「私は果成いっぽちゃんから教わったわ。カレーはうんこだって」

「いやあれはあの子が勝手に言ってただけですからね?」

「うんこを食べる。それはうんこ属性の魔法少女として、絶対に許せないソネットだわ」

「何そのソネット」

 ファミレスでいっぽちゃんに食べさせていたのはうんこは何だったのだろう。
 そしてこの瞬間、明日歩が魔法少女であることをバレないようにしていた和夫の努力は無駄になった。

「キャッシュバックは受け取り期限が切れると貰えないのよ……! 他会社と比べて多く払っている分だけ損。そのくせ貰う方法がかなり面倒くさいのよ……!」

「何の話をしているのォ!?」

 その話を聞いていたギャラハッド・ソネットが明るい顔を見せた。

「もぐもぐ、アンタ魔法少女だったのか。もぐ、なら確かにその姿。魔法少女っぽいもぐ。なら安心して伝えられるもぐ。ダイヤの正体は――――」

「必殺、プープダイナマイトォォ!!」

「もぐうううううううぅぅ!」

「貴重な情報源がああああっっっ!!!」

 大容量のうんこがギャラハッド・ソネットを襲う。
 アマゾンのときと同じように明日歩はまた情報源をうんこで潰してしまったのである。

「だ、だめだ。そんなのはだめだ……!」

 和夫は急いで大容量のうんこ山をかき分ける。
 ギャラハッド・ソネットをその中から引っ張り出した。

 何とかダイヤの正体を聞き出さなければ。
 彼の言い分によればダイヤは魔法少女に関係あるのだ。斎藤あやめの手掛かりである可能性が高い。

 和夫はギャラハッド・ソネットを抱き上げる。藁にも縋る思いだった。

「もぐ……もぐ……。カレーは……。うんこ……」

「違いますよ?」

 ギャラハッド・ソネットの体から力が抜けた。

 ――――ギャラハッド・ソネット 死亡―――― 
 死因。カレーがうんこと知らなかったため。


「そんな……」

 和夫はまたしても姉、斎藤あやめのから遠ざかってしまった事実に打ちひしがれていた。

「明日歩さん……どうしてこんなことを?」

「いや、和夫くん。ギャラハッド・ソネットの体をよく見ろ」

 塔也が和夫に視線を促す。
 うんこまみれのギャラハッド・ソネットの背中に『もーぱんだいすき』と書かれた刺青があった。

「どうやらギャラハッド・ソネットは魔幇側の人間だったようだな」

「明日歩さん……! ありがとうございます……!」

 和夫は明日歩へ久方ぶりに感謝の心が生まれた。
 あのままギャラハッド・ソネットの言うことを聞いていれば、和夫は騙されていた。
 情報を手に入れるつもりで、情報を漏らしてしまう可能性が大きかった。
 明日歩はそれを未然に防いでくれたのだ。

 功労者である明日歩はブツブツと別のことを考えているようだった。

「やっぱり割引で月額プランが安くなるのはダメね。最初から基本料金が安くないと。逆に違約金を負担しないものを選ぶべきだわ」

「何の話をしているんですか?」

「うんこ回線の話よ。きちんと吟味しないと月々の契約金も高くつくわ」

「毎回出してるあのうんこって、企業と契約して出してるものだったんだ……」

 和夫は魔法の世界に妙な生活感を垣間見た。

「ふむ……これは……」

「え?」

 和夫はその声に視線を向ける。しゃがれた声だった。ラジオの雑音のような声。
 ギャラハッド・ソネットの死体に触れる鎧の騎士。クラム・ハードシェルである。
 目にもとまらぬ素早い動きを見せる亡霊騎士は、いつの間にか姿を現していた。

「クラムさん……? 何故ここに?」

「次の試験が始まるまで時間があるのでな。様子を見に来たのだ。……死者が出たようだな。弔ってやらねば」

 クラム・ハードシェルは『もーぱんだいすき』と書かれた入れ墨の『もーぱん』の部分をマジックで塗りつぶした。
 その上に『巨乳姉』と書いた。
 『巨乳姉だいすき』となった。

「これで魔幇に操られた死者の魂も少しは安らぎを得るだろう」

「なんで巨乳姉ェ!? でも、ありがとうございます……」

 和夫はお礼の言葉を口にした。
 巨乳姉が嫌いな人はいない。人類は皆、死んだら巨乳姉のもとに帰るのだ。


 その後、明日歩が『巨乳姉』のところをマジックで塗りつぶして『うんこ』にしていた。
 『うんこだいすき』となって、明日歩は満足そうに笑う。
 それを見たクラム・ハードシェルが『うんこ』の部分を塗りつぶし、再び『巨乳姉』に直す。
 明日歩はムキになって『巨乳姉』を塗りつぶし、『うんこ』に直す。

 これの繰り返しだった。『うんこ』『巨乳姉』。『うんこだいすき』『巨乳姉だいすき』。
 やがてギャラハッド・ソネットの全身はマジックで塗りつぶされ、真っ黒になった。

「死者を弔う気があるの、この二人」

6,アース・ホール問題。ガチャりと新しい扉を開こう!


 「次の者。いないのか」

 アナルカナリ・タカは参加者内の潰し合いには何もコメントしなかった。
 確かにギャラハッド・ソネットは魔幇が送った人間だった。しかし証拠は刺青しかないのだ。その刺青も、もうマジックで全身塗りつぶされているせいで読めない。
 これを使ってアナルカナリ・タカを詰めたところで意味はない。
 我関せずを突き通すだろう。

「おれたちが次やるよ!」

 声を上げたのは金剛シグリ。海圻との二人組のようだ。
 金剛シグリ。和夫から見ると、元気ハツラツの大学生。図体だけ大きくて精神年齢が低そうな男性だ。見た目は大人であっても子供みたいな人はいるのだ。この上海で育った人ではないなと直感した。

 海圻は黒いホルターネックの上に赤いジャケット来ている。目立つ服装だ。面接官へ印象に残るような服装をしているのだろう。赤はどう考えても戦闘に向いていない。

 塔也が海圻を見つめる。

「あれもかなりやるな。海圻って奴。気配がかなり大きい。しかもあれは感知タイプだな」

「何故感知タイプとわかるんですか?」

「長く解決屋をやってるとわかるんだよ。なんとなくな。赤の服装も多分、能力関係の理由だ。注目されると感知が反応しやすくなるのかもな」

 塔也の感じる気配というものが、一般人の和夫にはわからない。
 見るだけでここまで相手のことを分析できるものなのか。
 経験に裏打ちされた感性なのだろう。さすがはプロの解決屋だ。

「それよりもソレガシが気になるのは、カムパネラとジョバンニだ。あの二人組はもういないようだが……」

 しゃがれた声でクラム・ハードシェルは和夫に問いかけた。

「ああ、あの二人ならもう脱落しましたよ」

「シュコォォォ……」

 ラジオの雑音のような音が騎士の鎧から悲しげに漏れる。
 きっとジョバンニに姉属性を感じていたから、脱落したのが悲しいのだろう。
 和夫は大いに共感した。

「一番の扉で」

 海圻が一番の扉を開け、それに金剛シグリが続く。

 感知タイプなら、この先にいる幹部の存在を感知できるだろう。
 彼らは試験を通過するだろうな。誰もがそう確信した。

 和夫はあの二人がどんな経緯でこの場に来たのかを知らない。
 魔幇へ就職に来たのか。それとも和夫達のような調査なのか。

「ママーァァ!!」

「ママァァーー!!」

 それを知る手段は、永久に無くなった。

 ――――海圻、金剛シグリ 脱落――――


「感知タイプの能力者でもダメなのか……」

 塔也は試験の難易度の高さに独りごちる。
 二分の一だというのに、脱落者が多い。
 現在、試験をパスしたのはクラム・ハードシェルのみ。
 果成いっぽ、カムパネラとジョバンニ、海圻と金剛シグリが脱落している。三グループも脱落しているのだ。あとギャラハッド・ソネットはそこで真っ黒になって死んでいるがこれは数えない。戦績は一勝三敗と、(いち)うんこ。

 残りは大戦持A子。女陰黄泉。倒萩。路覇タッカー、それと茶山明日歩、斎藤和夫、槌唄塔也である。

「あわわ……どんどん人が脱落していく……」

 部屋の隅っこで震えている。大戦持A子だ。
 青いジャージを着ている若い女。明日歩より年上。髪はボサボサ。
 19歳無職である彼女は安定を求めて魔幇の採用募集へ参加したのである。
 しかし、突破率の低い試験に腰が抜けていた。

「フレーッ、フレーッ、大戦持A子!」

 明日歩が突然叫び出した。
 いつの間にか学ランを着て、左腕には応援団長と書かれたワッペンが巻かれている。

「なぁ、和夫くん。明日歩ちゃんはあれ、何やってるんだ?」

「僕に聞かないでください」

 明日歩のやることは毎回訳が分からないのだ。予測不可能。この世のすべてが予測可能になったとしても、彼女のことだけはわかるまい。

「頑張れ頑張れ大戦持A子! 頑張れ頑張れ大戦持A子!」

「頑張れないよ……」

 大戦持A子は膝に顔を埋めた。
 どっちが正解かわからない。
 もしかしたら、あのアナルカナリ・タカがあのタブレットで参加者を選別しているかもしれないとすら思っていた。

 大戦持A子は見た目が悪いと自覚している。通過するわけがない。

「頑張れ頑張れ大戦持A子! 頑張れ頑張れ大戦持A子!」

 茶山明日歩は大戦持A子の耳元で叫ぶ。
 イラついた大戦持A子は明日歩に言い返した。

「頑張らない頑張らない大戦持A子! 頑張らない頑張らない大戦持A子!」

 大戦持A子は自分でも驚くほど大きな声を出していた。

 言い返された明日歩は考え込んだ。
 彼女を扉の奥へ進ませるにはどうすればいいのか。

 明日歩は二番の扉の隣に移動した。
 扉の前ではない。その少し横だ。白い壁を見つめている。

「では私がいきます。二番の扉」

 和夫と同じぐらいの歳の少女が手を挙げる。

 彼女は倒萩だ。
 カジュアルな服装と、シックな手袋。腰から尻尾が生えている。牛の尾だろうか。
 塔也の知識によると職業はネイルアートティストらしい。

「シュコォォォ……」

 クラム・ハードシェルはその姿にラジオの雑音のような音を鎧から漏らす。
 小さいながらもきちんと自立した姿勢を持つ倒萩に、姉属性を感じているのだ。気持ちは和夫にもわかる。でも巨乳ではないから、何処か控えめな反応だ。

 倒萩が扉の前に立つ。路覇タッカーとペアのようだ。

「必殺、プープダイナマイトォォ!!」

「な、何!?」

 倒萩の隣で明日歩はステッキからうんこを出す。大容量ではない。量が抑制されたうんこだ。
 壁にうんこで絵を描いた。扉の絵だった。
 一体何をしているのか。その場の誰もが疑問符を浮かべていた。

「さぁ、第三の扉。うんこの扉を作ったわ!」

「どういうことォォ!?」

 意味の分からない明日歩の発言。
 その状態で声を上げたのは倒萩だった。

「何を考えているのかわかりませんが、扉そのものに参加者が仕掛けを施されたらたまりません。ルール違反ではないのですか」

「いえ、ルール違反ではありません。扉に細工がされたと確認され次第、修正を施すことはあります。うんこで新たに扉を作るのは……その……想定外ですが……」

 アナルカナリ・タカは困惑しながらも宣言する。
 つまり扉に細工をしてもバレなければ問題ないのだ。
 今回明日歩が行ったのは、新しい扉を作ること。これは扉を細工することには繋がらない。

「ここでうんこの扉を開けます。宣言した扉を変更しますか?」

 明日歩は何故か自身の作ったうんこの扉を開けた。

「何をしてるの明日歩さん?」

 和夫には、何故うんこで壁に書いた絵であるはずの扉が開けられるのかもわからないし、その扉を開ける意味もわからない。

「なるほど、モンティ・ホール問題か。明日歩ちゃん考えたな」

 塔也は感心した。
 モンティ・ホール問題。三つの扉を使った確率論のジレンマだ。
 三つの扉のうち、当たりの扉が一つの状況で、
 プレイヤーがどの扉を開くか宣言した後、ハズレ扉を一つ開示するのだ。
 その後、選ぶプレイヤーは選ぶ扉を変える。
 すると1/3だった確率が、2/3に上がるのだ。

「え? いや、もともとうんこの扉は確定でハズレですよね? 確率なんて上がるわけないのでは?」

 和夫は冷静に指摘するも、その場は完全に明日歩への称賛に支配されていた。
 1/2という絶望的な状況を、2/3まで押し上げたのだ。これがどれほど素晴らしい発見であるか。

「なるほど、茶山明日歩。ありがとう。あなたの名前は覚えておくわ。私ネイルアーティストなの。今度ネイル付けたかったら教えて。女子高生なんだから興味あるでしょ。安くしてあげる。最終面接で会いましょう」

 倒萩は明日歩に名刺を渡し、固い握手を交わした。
 二人の友情の芽生えに和夫も涙をほろりと流す。
 拍手の中、倒萩は路覇タッカーと共に、一番の扉に宣言を変えて入っていった。

 一分後。

「ママァァーッ!!」

「ママーァァァ!!」

 ――――倒萩、路覇タッカー 脱落――――


 クラム・ハードシェルはしゃがれた声を鎧から出す。

「シュコォォォ……。姉が母親にオギャる。……悪くない。ソレガシ、新たな扉を開いてしまったようだ」

「(この騎士、正解の扉を開いたと思ったら、今度は性界の扉を開いていやがる)」

 塔也は口に出さなかった。大人だからである。

 一方、和夫も同じ扉を開いてしまっていた。
 普段お姉さんぶっている人が急に子供のような姿を見せる。そのギャップに萌えない人がいるだろうか。否。断じて否である。

「次の者」

 冷酷で無慈悲なアナウンスは部屋に響く。

「じゃあ、私」

 手を挙げたのは女陰黄泉だ。
 キョンシーだ。顔色が非常に悪く、額に札が貼られている。
 見た目は十代後半から二十代前半。腕は曲がるようだ。ヨニも珍しい。

「ではみんな。最終面接で会えると思うから、その時はどうぞよろしくね」

 女陰黄泉はこちらを向いて軽い礼をする。死んでいるせいなのか、目がイっていた。白目をむいていたのだ。
 恐ろしい。さすがは歴史の長い妖怪である。その怖さには貫禄すら感じる。

 和夫はなんとなくパターンを掴んでいた。

「(でもなんだかんだいって、ああいう済ましたような人がママ行きなんだよな……)」

 女陰黄泉は、和夫の予想とは大きく違う行動に出た。
 彼女は迷うことなくうんこの扉を開けて入っていったのである。

「ええええっ!?」

 絵であるはずのうんこの扉は、何故か本物の扉となり、女陰黄泉はそこを通り抜ける。

「なるほど、現実改変系の能力者か。七歌と一緒だな」

 塔也はこの参加者の中で一番危険だったのは彼女だと理解する。
 彼の妻である七歌はその存在のみで、マフィアの抗争を仲裁できる。誰も手を出すことができない核兵器のようなものだ。
 もちろん、なんでもありというのはそれでいて難しい能力でもあるのだ。一体何処まで能力が習熟しているのか。練度がはっきりモノを言う力でもある。
 それでも危険度は測り知れない。

 和夫は、なんだ明日歩さんと一緒かと軽く考えた。

「次の者」

 アナルカナリ・タカによるアナウンスが会場内に響く。

 どうやら女陰黄泉は試験をパスしたようだ。
 強力な相手が最終面接に残った。けれど和夫達はそもそも魔幇の幹部になってはいけないのである。何ら問題はない。

 この場には和夫、明日歩、塔也、試験をパスしたクラム・ハードシェル、隅っこで丸まっている大戦持A子しかいない。
 随分と人数が少なくなった。

「それじゃ、次は俺がいくわ」

 塔也が手を挙げて前に出た。

「気をつけてくださいね」

「わかってるって」

 和夫の心配をよそに塔也は軽い足取りで扉に向かう。
 ハズレの扉を開いた参加者がどうなったのか。それは誰にもわからない。
 数々の強者が散って行ったことを考えると、ハズレの扉にいる幹部はまさしく規格外の強さを持つ。

 それでも塔也の足取りは恐怖を悟らせない。
 生きていく覚悟と、積み重ねた人生経験が彼の足取りを軽くしているのだ。
 さすがはプロの解決屋だ。

「じゃあ、一番の扉に行こうかな」

「ここでうんこの扉を開きます。扉を変更しますか?」

 明日歩が笑顔でサポートする。確定したハズレ扉であるうんこの扉を開いたのだ。
 和夫には、これで確率が上がっているとは到底思えないのだが、どうやら上がっているらしい。

「変更するよ。二番の扉だ」

 もともとの確率は1/2。明日歩の協力がもし反映されているなら、2/3。
 どちらにしろ随分と高い確率だと塔也は思う。
 塔也はもっと小さな確率を抜けてきた男だ。これぐらいなんてことはない。

 塔也は扉を開けて中に入る。

 一分後。

「では次の者」

「よかった。塔也さん……!」

 通ったのだ。
 失敗時の叫び声が聞こえなかった。
 知り合いのそれも大人の母親を希求する声ほど、耳をふさぎたくなるものはない。
 安堵と共に次は自分の番なのだと察する。

 緊張が和夫を襲う。
 先ほどまで考えていなかった、あるいは考えることを拒否していた現実が遂に和夫の目の前に立ちふさがった。

 和夫は意を決してどちらの扉にするか選ぶ。

「一番の扉で……!」

「ここでうんこの扉を開きます。変更しますか?」

 和夫には、明日歩が何故称賛されたのか理解できなかった。
 けれど目の前に立つとわかる。
 この不安定さ。足元が揺らぐ感覚。一歩踏み出してしまえば、崩れてしまうんじゃないかと思えるのだ。
 明日歩はそれを彼女なりに緩和しようとしてくれる。

 確率なんてものは二の次だ。
 昔、占い師が一世を風靡した理由も、なんとなくわかる。
 頼りたくなるのだ。それがどれだけ背中を押してくれるものか。どれだけ人を救うのか。
 ここに立たないときっと理解できなかった。

「変更します。二番の扉へ!」

「私も行くわ。ペアだもの」

 明日歩は和夫の隣に立つ。

 和夫にとって、明日歩は今も近くにいてほしくない存在だ。臭いし。意味わからないし。
 けれど傍に居たらこんなにも心強い。
 一人ではない。ただそれだけなのに。
 人間というのは不思議だ。

 和夫は扉を開ける。
 一歩踏み出した。これが次に繋がると信じて。

7,みんながいる居場所


 膝を抱えてうずくまっている大戦持A子は、どれくらいの時が経ったのか、わからなくなっていた。

 大戦持A子は無職ニートである。
 アニメと漫画が好きな19歳。
 ものぐさだった、やる気なし、自信なし、意気地なし、自堕落な生活をしていた。
 エリート部族である家から勘当されて上海に来たのである。

 魔人覚醒をしたはいいものの、それで簡単に人が変われる訳もなく。
 せっかく警備の職にありつけたのに、寝坊。サボりをかまし、結果、ダイヤは盗まれてしまった。
 ダイヤをボスに渡してサボったのを許してもらうしかない。
 そう思い、あてもなく上海を彷徨っていた。

 結局ダイヤは取れそうもないので、魔幇の幹部募集に乗じて潜り込み、楽をしようと思ったのである。

 潜り込むのなら偽名ぐらい使えばいいのだが、大戦持A子は実力で黙らせれば問題ないかと軽く考えていた。

「どうしてこんなことに……」

 自分より明らかに実力ある者たちが、次々と散って行く光景に大戦持A子は震えあがっていた。

 どうしようもなく、動けないでいた。
 最後の参加者が扉を通ったのは、数時間前だ。

 長い間、彼女は大広間の隅っこで座っている。アナルカナリ・タカもいつの間にかいなくなった。

「こんなはずじゃなかったのに……」

 私は何がしたかったのだろう。
 少なくとも、ここで座りたいわけじゃなかった。
 でも私は今、ここで座っている。動けないでいる。

 ガチャりと一番の扉が開いた。(ガチャだけに)

 誰が入ってきたのかと大戦持A子は思った。
 その扉は出口だ。入口ではない。
 考えればすぐにわかることだった。

 幹部だ。
 数々の強者をなぎ倒してきた幹部。
 それがこの扉から現れたのである。

 大戦持A子は気乗りしないが、すぐに戦闘態勢を取った。
 どんな相手だろうと、死にたくはない。
 大戦持A子は生きていたくもないが、死ぬのはもっと嫌だから生きているのだ。

「タカシ!!! こんなところにいたの!?」

 その存在を大戦持A子が認めた瞬間に、思い出した。
 部族の師から、上海で絶対に遭遇してはいけない能力者の存在。

 『おっかあ』
 日本人の母親のような見た目をした人物。
 彼女と遭遇してしまえば、その特異な能力により問答無用で、おっかあの息子タカシとなってしまうのだ。
 一度タカシとなってしまった場合、抗うすべはない。その周辺の人物もタカシの友達となってしまうのだ。
 やがて、遍く全ての生命が還るべき場所、茨城県石岡市へと連れていかれる。

「タカシ、あんたこんなに友達いっぱいになっちゃって!」

 おっかあと共に出てきたのは選択を間違えた上海の強者達。
 それを見て大戦持A子――――タカシはとても安心した。

 一人ではない。ただそれだけなのに。こんなにも心強い。
 人間というのは不思議だ。

「家で鍋できてるから、一緒に帰りましょう」

「ママ……ママァァァーー!!」

 タカシはおっかあの胸に飛び込んだ。
 何故今まで気付かなかったのだろう。
 ここが帰るべき場所だったのだ。

8,最終面接


 和夫と明日歩が扉をくぐり抜けた先は、先ほどの大広間に似た部屋があるぐらいで、特筆すべきものは何もなかった。

 自分達が試験をパスしたのだと気づいたのは、一番奥の扉に『最終面接はこちらです』と書かれた紙が貼られていたためである。

 紙の誘導に従うと、大広間に入る時も通った廊下に出る。
 ここを通って、クラム・ハードシェルは大広間に戻ったのだろう。

「次の部屋にいきましょうか。明日歩さん」

「ええ。遂に魔幇の幹部になれるのね」

 絶対に無理だと思います。
 と和夫は言いかけたが、口にしなかった。

 うんこの魔法少女を雇うはずがない。
 特に彼女を雇えば制御できなくなる。目に見えている事実だ。魔幇ともあろう組織の採用担当がそんなミスはしないだろう。

 20PCのうち、人気投票も17位だし。しっかり嫌われている。まぁ大丈夫だろう。




 最終面接会場。大広間よりは狭い、中広間。
 和夫、明日歩、塔也、クラム・ハードシェル、女陰黄泉が、間を開けて座っていた。

 対面するのは面接担当者の四人。
 右から、アナルカナリ・タカ。おしりかじり虫。馬。うんこ。
 四人ではなく、一人と一匹と一頭と一うんこ。

 テーブル中央に座るおしりかじり虫が子供受けしそうな笑顔で、口火を切る。

「よろしくお願いします。私は採用担当部長のおしりかじり虫と申します。かじりと呼んでください。隣に座っているのはアナルカナリ・タカ。同じく採用担当です」

 おしりかじり虫に紹介されたアナルカナリ・タカは行儀よく礼をする。
 和夫はさっそく手を挙げた。

「ごめんなさい、どこからツッコめばいいですか?」

「こちらは同じく採用担当のうんこです」

「え、本当にこのまま進める気なの!?」

「うんこですわ。よろしくお願いいたしますわ」

 面接官側、足の生えたうんこは恭しく礼をする。
 その動きには気品がある。何処か令嬢のようで、魅惑で麗しきマーメイドのようなものを和夫に思い起こさせた。

「シュコォォォ……。まだ荒削りだが、あのうんこ。強力な姉の才能を感じるぞ」

「なんでうんこに姉属性を感じてるのぉ!?」

「ソレガシ、最初から丸くきれいな真珠より、いびつでも見方で輝きが違う真珠の方が好みなのだ……」

「言ってることはそれっぽいけど、相手はうんこですからね!?」

 もう姉だったらなんでもいいのだろうかこの騎士は。

 和夫の隣で座る明日歩は、疑いの目でうんこを見ていた。

「あのうんこ、どうして喋っているのかしら……?」

「今そこなの!? 今まで散々、便器とか鎧の騎士とか虫が喋っているのをスルーしてきてるのに!? というか、明日歩さん今までうんこの声が聞こえてましたよね?」

「うんこの……声? はて?」

「記憶飛びました?」

 もしかしてこの魔法少女、面接のときだけ猫被るつもりなのか。
 魔幇の幹部になりたいから、嘘で突き通そうとしているのだ。

「ウマーッ!」

 特に紹介されていない馬が、いきなり鳴きだす。
 びっくりして和夫は馬を見た。
 茶色の馬だ。美しい毛並みと皮膚の上からでもわかる筋肉美。手綱などはない。裸の状態の馬だ。

「シュコォォォ……。雌か。ソレガシ、胸囲(脅威)の感じぬ者に、あまり興味が湧かないのだ……」

「最強を求めるCルートPCみたいな言い方して、ただの巨乳好き!?」

 和夫はやっぱりこの騎士、人間じゃなくてもいいんだな。姉と巨乳であれば何でもいいんだなと改めて思った。

 和夫達とは別の扉から、新たに参加者が入ってきた。

「イィィー!」

 アマゾンの男であった。

 アマゾンの男は声を上げた。一番左の席に座る。
 新たに加わった参加者。一話で見たアマゾンに住む部族。明日歩がうんこまみれにしたアレだ。

「ちんこまる出しなんですけど……」 

 和夫は見たくないものを見た。
 相変わらず布面積が少ない珍妙な服装である。股関がまる出しで、股間の周りだけ少し布地がある。

 あのような民族衣装で来ていいものなのだろうか。
 郷に入っては郷に従え。きちんとスーツとまでは言わないけど、もっと相応しい格好があると和夫は思う。

 アマゾン男の叫びはアナルカナリ・タカの耳に入ったようだ。
 アナルカナリタカは険しい顔をしている。やはり面接でちんこまる出しはよくないのだろう。

「そうですか……。ならば私も」

 アナルカナリ・タカは現在着ている服、スーツをすべて脱ぎ捨てた。

「なんでぇぇぇぇ!?」

 露わになったアナルカナリ・タカの裸体。社会人にしてはかなり鍛えられている。股間もまる出しになっていた。
 ケツに挟んであった櫛を取り出して、髪をとかす。
 身だしなみの概念が能力で改変でもされたのか?

 和夫には今の状況が一切理解できない。
 郷に従うべきなのは間違いなくアマゾン男の方だ。
 何故意味もなく服を脱ぐのか。

「私も郷に従ったまでのこと」

「業の間違いでは?」

 思えば、面接官のおしりかじり虫、馬、うんこはすべて服を着ていない。
 これが郷だというのだろうか。魔幇、絶対に就職したくない。

「それではまず自己紹介からお願いいたします」

「え、本当に? 本当にこのまま面接進めちゃうの?」

 おしりかじり虫がアナウンスして参加者に自己紹介を促した。

 一番端にいるアマゾンの男がそれに従って自己紹介を始める。

「イイィー! イィオイピォイィィ! イィィィィーー!!」

「ウマーッ!」

「ほらもう全然収拾ついてないですよ。混沌状態じゃん。どうしてこれで面接進められると思ったの?」

 おしりかじり虫は深く頷いた。

「なるほど、よくわかりました」

「絶対何にもわかってないですよね?」

「それでは次の方」

 おしりかじり虫は和夫のツッコミを無視して次の自己紹介を促す。
 アマゾンの男の隣は女陰黄泉だ。

「はい。私の名前は女陰黄泉です。ヨニも奇妙な……今年で20歳です」

「イィィィィ! オイピピィ!! イィィィィ、アイィィイ!!」

「ウマーッ! ウマーッ!」

「能力は基本的に思いつくことはなんでもできます。趣味はこの額のお札を作ることです。記憶を失くしているので、取り戻せたらなと思ってます」

「イイイィイイィオオオ!! ピピアアィイィィ!!」

「ウマーッ、ウマーッ、ウマァァアァッァアアア!!」

「なるほど、よくわかりました」

「いやどう考えてもうるさすぎるでしょォォ!!」

 アナルカナリ・タカが和夫を指した。

「斎藤和夫さん。少しうるさいですよ」

「僕ですか!? えぇ……噓でしょ? す、すみません……」

 もっと注意すべき相手がいると思うのだが、何故注意しないのだろう。
 魔幇って、もしかしてアホ企業なのではないだろうか。
 和夫はアナルカナリ・タカの股間がぶるんと揺れるのを見て、げんなりした。

「それでは次の方」

 おしりかじり虫は次の自己紹介を促す。
 女陰黄泉の隣はクラム・ハードシェルだ。

「シュコォォォ……。ソレガシ、騎士である。歳はソレガシでもわからない、百年の無職を経て、雇い主を探している」

「ウマ……」

「イィ……」

 うるさかった馬とアマゾンの男は百年間無職ということに同情していた。
 これを採用できる企業はなかなかいない。圧倒的に職歴がないのだ。

 試されているのはクラム・ハードシェルではなく、魔幇の方かもしれない。ここで落としてしまえば、彼はまた上海を彷徨い続けるだろう。
 本当にそれでいいのか。試験をパスした能力のある住所不定無職自称騎士を社会に放っていいのか。
 おしりかじり虫は、自身の良心と信念が揺らぐ瞬間を感じていた。

「趣味は巨乳姉である。ソレガシ、こう見えても、巨乳姉すこすこだいすき侍なのだ」

「騎士でしたよね?」

 和夫は思わずツッコミを入れてしまう。この場には和夫以外ツッコミを担う人物がいないのだ。社会の人材不足は深刻であった。

「なるほど、よくわかりました」

 おしりかじり虫は同じように頷く。
 本当にわかっているのだろうか。

「では次の方」

 クラム・ハードシェルの隣は槌唄塔也だ。
 塔也の次は明日歩、その次は和夫の番だ。和夫は頭の中で言うことを考えておく。

「俺の名前は槌唄塔也。自己紹介の途中で悪いが、聞きたいことがあるんだ。ダイヤについて知らないか?」

「イィィィィ!! イオイイィイッィ!! ピイイオピィィ!!」

「ウマーッ! ウマーッ! ウマアアアアアア!!」

「ヨニーッ! ヨニヨニヨニ!! ヨニィィィ!!」

「なんかうるさいのが増えてるんですけど」

 女陰黄泉は叫んでいた。

「だって私、なんか影薄いし! 叫ぶしかないじゃない! 心が叫びたがってるんだ!」

 女陰黄泉は自身があまり印象に残っていないことを察している。
 このままでは採用されないとわかっているのだ。

「甘いわね。そんなことだから、採用されないのよ」

 明日歩は女陰黄泉に向かって冷静さを説いていた。
 いつの間にか眼鏡をかけており、クイッとフレームを持ち上げる。

「清く、正しく、誠実に。それが魔幇の企業理念だってこと。わかっているのかしら」

「そんな魔幇どこにもありませんよ明日歩さん。清さの欠片もありません。アナル部門とかあるし」

「なんですって……!? 魔幇にアナル部門!? なんて清清(きよきよ)しいのかしら」

「盲目が過ぎるよ!」

 清清しいなんて初めて聞いたよ。
 というか面接官の一人がアナルカナリ・タカな時点でわかっていたことだろと和夫は思う。

「茶山明日歩……人気投票17位のくせに、随分と殊勝な態度ヨニね」

「女陰黄泉。あなたはそんな私より低い順位じゃないの。19位って。プークスクス」

「なんですってぇヨニ!? あんたはうんこ臭いじゃないヨニ!」

「あなたこそ臭いわ。死臭がするもの。死体が喋っている」

ヨニィ(なにぃ)!?」

「嫌な煽り合いだなぁ……」

 最下位争いの煽り合いに和夫はげんなりしていた。
 女陰黄泉はキャラ付けのため、語尾をつけ始めてしまう。うまくいっていないのか、不自然な語尾だ。

「ダイヤ、ですか。連日ニュースでやっている、清王朝のダイヤですね」

 おしりかじり虫は二人の喧嘩を無視し、塔也の質問に答えながら、机の資料を見る。塔也の情報を確認しているのだろう。

「いや、やっぱ回りくどいことはヤメだ。ダイヤを流したのはあんたらってことはわかってる。別に個人を特定する必要はないしな。俺が聞きたいのは、何故流した? そもそもダイヤってのはなんだ?」

 塔也の詰め寄るような口調。
 おしりかじり虫はアナルカナリ・タカとアイコンタクトを取る。おしりかじり虫はこの質問が来ることを予想していたかのように、小さく頷く。

「話しましょう。計画はもう誰にも止められませんから」

「へぇ」

 塔也は警戒を強めた。油断を誘っているのだと思ったからだ。
 しかしおしりかじり虫の言っていることは嘘ではない。戦う気はないようだ。

「ではまず、ダイヤの正体についてです。これは端的に言えば――――」

「必殺、プープダイナマイトォォ!!」

「ぐああああああああっっっっ!!」

 うんこの大奔流がおしりかじり虫を襲う。おしりかじり虫は瞬く間にうんこの中へ埋もれてしまった。

「私は、大地に産み落とされた、ひとつなぎのうんこ。キュアアースホール!」

「自己紹介はまだ早いですってぇぇぇ!!」

 そういえばこの魔法少女は名乗りを上げる直前に、プープダイナマイトを放つ習性があったのを和夫はすっかり忘れていた。
 プロローグ以来、名乗りを挙げる機会がなかったからだ。

 おしりかじり虫はなんとかうんこから顔を出す。息も絶え絶えの状態だ。

「ぐふ……。そうか、あなたは魔法少女か。ならば話が早い、あなたたちを構成するエーテル体。一つだけ願いを叶えることができることは知ってるな……?」

「……何。一つだけだと!? どういうことだ!?」 

 叫んだのはアナルカナリ・タカだった。
 先ほどまでの冷酷そうな顔は崩れ、焦っている。

 彼は立ち上がり、うんこに塗れたおしりかじり虫の胸ぐらを掴む。

「タカさん……。愚かな人だ。自分が操られていることも知らず、本人は利用しているつもりなのだから」

「おい、どういうことだ。叶う願いは一つだけなのか! そんな資料何処にも……!」

「隠したに決まっているだろう。側近の君から隠すのは、骨が折れたがね……。ああ、私は虫だから骨は、ないのだが……げほっげほっ」

「ふざけるな、ふざけるなよ! 俺の夢はどうなる……!?」

「おしりかじり虫は実在する……。実在するんだ……みんな知らないだろうが、きちんと、ここに実在するんだ」

「……は? 何を言ってる!?」

 アナルカナリ・タカの叫びはもう、おしりかじり虫には聞こえていないようだった。

「天井が見える……。そうか、私はここまでなのか。この世からうんこが無くなって、安心しておしりをかじりたかった……。はは、うんこがない世界のために、尽くしたのに、うんこで死ぬのか。俺は……馬鹿だったな。でも……悪くは、な、ぃ……」

「おい、何、良い気になってるんだよ! 勝手に死ぬんじゃねえ!」

 アナルカナリ・タカはおしりかじり虫を揺らす。もう答えることはなかった。

「そんな……」

 彼はおしりかじり虫を離して、よろよろと椅子に体を預ける。

 目の焦点があっていなかった。天井を向いたまま、何処か遠くを見ていた。

 足が生えたマーメイドうんこは場を仕切り直す。

「はい。なるほど、よくわかりました。では次の方。斎藤和夫さん。自己紹介をお願いいたしますわ」

「やりづらいよ!!」

9,不採用


「早く自己紹介してくださいませんこと?」

 マーメイドうんこは和夫に自己紹介を促す。

「えぇ……。ゴホン。私の名前は斉藤和夫です」

「空気が読めてませんわ。不採用」

「なんで言わせたのォォ!?」

 和夫の言葉は当然のように聞き届けられない。和夫はそのまま魔幇の幹部への道を断たれた。

「あの、あれ放っておいていいんですか」

 和夫は魂が抜けたかのような顔をしているアナルカナリ・タカを心配した。
 この魔幇で何かをしていたのはわかるが、裸で憔悴し切った姿はとても見ていられるものではなかった。二重の意味で。せめて股間だけは隠してほしい。

 マーメイドうんこが答える。

「ええ。そのままで大丈夫ですわ。……どうせ計画の変更はできませんから。負けたと自覚しているので、あのようになっているだけです。その計画もあなた達に教えてあげる義理はありませんから。教えませんけれど」

「どうにか話してもらうわけにはいかないか? 何が起きるかだけでも知りたい」

 塔也はなんとか聞き出そうとする。
 彼の経験により裏打ちされた感性が、この計画は危険なものだと察知していた。
 彼の中で警鐘が鳴りやまない。なんとか聞き出して対策を講じなければ、かなりマズいことになる。
 しかし現在、情報を引き出せる材料がない。

「教えませんわ。万が一何か特殊な能力で計画を阻止されたら、私達がやってきたことすべて水の泡ですもの。このマーメイドうんこのようにね」

「……マーメイドうんこ……はて?」

「明日歩さんまだ猫被ってるつもりですか?」

「はーっはっはっは!」

 明日歩は高らかに笑い始めた。急だった。前触れなどなかった。

「このうんこがどうなっても良いっていうの?」

「明日歩さん……!?」

 いつの間にか覆面(銀行強盗がよく使うアレ)をかぶっていた明日歩は、手元にうんこを握り、そのうんこにまるで銃を突き立てるようにステッキを向けていた。

 その動作に一体何の意味が。
 よく見れば明日歩が持っているうんこにも足がついている。

 マーメイドうんこが驚いた。

「お、お母さん!? どうしてここに……!」

「マーメイドうんこの母親ァ!? なんでうんこに母親がいるのォォ!?」

 マーメイドうんこの母親は悲痛に叫ぶ。

「ごめんなさい。マーメイド。あなたに黙ってバイトしてたの」

「仕送りはしているじゃない!」

「お父さんが入院しちゃって、どうしてもお金が必要だったの。あなたに頼むのも気が引けて……。でもまさかこんな殺人を犯す闇バイトだったなんて……」

「殺人ってまさか……プープダイナマイトのことォォ!?」

 和夫は察する。
 殺したというのはおしりかじり虫のことだ。
 正確には殺虫である。
 プープダイナマイトだ。ステッキから噴射されたうんこの中にマーメイドうんこの母親がいたのだ。

「あなた達、魔幇が何を計画したのか。その全貌を今ここで吐かなければあなたの母親に、XをTwitterと言った瞬間、ぎっくり腰になる呪いをかけるわ」

「ひ……卑怯ですわ! キュアアースホール!」

「うーん、確かに、地味に嫌な呪いだなぁ……」

 特に高齢であればあるほど、その呪いは辛いだろうなと和夫は同情した。

 明日歩は握っているお母さんうんこに違和感を覚えた。

「シニョ~!」

「はいプ!」

 明日歩が呼ぶと宙にシニョ~が現れる。

「Twitter線検査を行うわ」

「それX線検査ってことですか?」

 明日歩はステッキをかざす。
 何も起きているようには見えない。一体何をしているのか。

 やがてステッキの根元から、一枚の写真が現像された。X線写真である。

「やはり……あなたのお母さん、腫瘍ができているわ!」

「なんでうんこに腫瘍があるのぉ!?」

「これから緊急手術に入るわ!!」

「えぇぇ!?」



 ~手術室の前~

「お母さん……」

 病院の廊下。ベンチで祈るように待つマーメイドうんこ。

「シュコォォォ……。母親を心配する姉。素晴らしい……」

「クラムさん、うんこに興奮するのだけは本当にやめた方がいいと思いますよ」

 扉の奥から、医者。もといキュアアースホールが出てくる。

 マーメイドうんこが立ち上がる。
 マスクをしているアースホールの表情からは成功か失敗か、読み取ることができない。震えて祈る手を放すことができなかった。

「手術は成功しました」

「よ、よかった……! 失敗したらどうなることかと……うぅ」

 マーメイドうんこは泣きながら崩れ落ちた。

「私、失敗しないので」

肛門満子(こうもんみちこ)ですか?」

 和夫は自分でも一体何を言っているんだろうと思った。

「それでは、計画を話してもらえますね……?」

「はい、喜んで話しますわ……!」

「この流れ、要りました? ボツにしませんか?」

10,俺はこんなだ。


 アナルカナリ・タカは走っていた。

 雨に打たれて走っていた。
 裸になって走っていた。
 おぼつかない足を必死に動かして走っていた。

 ――――社会に必要であるとわかっているが、自分の近くにいてほしくないものの排除。

 それが彼の夢であった。

 鉱物、斉藤あやめは願いを叶える。アナルカナリ・タカの能力を拡散するのだ。
 彼の能力を記録した代替コアが、24時に作動する予定だったのだ。

 しかしそれは一度だけ。
 全ての動物のアナルをタカに変え、この世からうんこを失くすのは、試運転のつもりだった。

 このままではこの世からうんこを失くすだけになってしまう。彼の夢は叶わない。

 彼は夢を叶えたかっただけなのだ。


 もう代替コアはどうやっても止められない。斎藤あやめは硬すぎるからだ。魔幇の英知を結集した掘削技術でも、5㎛しか削れなかった。魔人能力を使っても大抵は傷ひとつ付けられない。

 コアを取り出し、代替品を嵌めることができたのは、偶然だったのだ。原因不明。勝手にコアが取れたのだ。もう同じことを他の魔法少女で出来るとも思えない。

「ふざけるな、俺はこんなに努力をしているというのに、何故叶わない。俺の夢はそんなにも難しいものだったのか!? 人の幸せを願い、行動する。当たり前のことをやっているのに、何故敗れなければならないのだ!」

 想像力がないからだ。だからお前は負けるのだ。

 自分の問いに、自分が答える。自問自答。アナルカナリ・タカは何度もこれをやってきた。

「諦め切れるわけないだろ! 俺はここまでだ? 俺はこんなだ? 馬鹿言え!」

 アナルカナリ・タカは雨に打たれている。
 たった独りで走っている。

「こんなところで、諦められる性分ならな、ここまで来ていないんだよ。操られていたからといって、もう俺の夢は叶う見込みがないからといって、それがどうした。大馬鹿者めが! 諦める理由になんかならないんだよ!」

 それは本当にお前の夢か?
 他人が決めた夢ではないのか?

「俺は諦めなかったからここにいるんだ。馬鹿がッ! 何度諦めそうになったと思っている。他人の夢? 俺の夢? もはやそんなものはどうだっていいんだよ。俺は俺のために行動する。俺は諦めない。諦めないから俺なんだ! だから俺は負けない。絶対に負けるわけにはいかないんだよ!」

 走っているうちに光が見えた。そこに向かってアナルカナリ・タカは走る。

 目的の建物である。
 巨大なガラス張りの自動扉をくぐり抜けた。

「あぁ、タカさん。こんな夜遅くまで――えぇ!? 何故裸なんですか、身ぐるみ剥がされましたか!?」

 アナルカナリ・タカは警備員の言葉を無視。
 社員証は持ってきていない。警備システムを飛び越え、すぐにエレベーターへ乗り込む。

 向かうのは地下だ。扉を閉めて番号を入力。認証システムは顔で出来るから、問題ない。

 もう計画が止められないのはわかっていた。

 代替コアは起動する。
 けれど、諦めるわけにはいかなかった。

 地下に到着し、扉が開く。

 更衣室を走り抜け、緊急救出用ボタンを押して、中に入った。
 鉱物は更に奥。こちらも緊急救出用ボタンを押して扉を開けた。防護服もなしに入るのは初めてのことだった。

「これは……」

 中に入ると豊かな自然はもうなくなっていた。
 鉱物を搬入する前の、真っ白な部屋。

 中央の十字架は変わらずある。
 これに手を打ち付けられ、膝を地について項垂れいる女の形をした鉱物も、変わらずだ。


 その隣に、鹿がいた。


 中国の逸話に鹿を馬だと言い張る話があったなと思い出した。


 アナルカナリ・タカは鉱物の近くに寄る。
 しゃがみ込む。
 何をすればいいのかわからない。



 鹿はじっとアナルカナリ・タカを見ている。アナルカナリ・タカは、この鹿が何かを指示しているようにも思えた。



 アナルカナリタカは女を見た。女は項垂れている。



 アナルカナリ・タカは吸い寄せられるように、女の胸に顔を近づけた。



 女の乳首を噛む。



 鹿が歯を見せて大きく笑い、ぐるりと首を一回転させた。

11,巨人出現


 手術室の前にいた塔也、クラム・ハードシェル、女陰黄泉は一斉に反応した。

「な、なんだ!?」

「シュコォォォ……」

「ヨニィ!?」

 三人は外で巨大な気配が出現したことを察知したのである。

「どうしたんですか?」

 和夫は三人に問いかける。
 一般人である和夫は、気配を感じ取ることができない。
 ちなみに明日歩は手術衣で踊っていた。

 先程、母親の手術が成功して安堵していたマーメイドうんこも、三人を見る。
 何かとてつもないことが起こっている。それだけは理解した。

「今すぐ外に出るぞ!」

 塔也の鶴の一声で一行は外に出た。

 地面が大きく揺れる。
 塔也はよろめきながら病院を出ると男にぶつかった。

「おっと、すまねえ」

「うあ、あああっ!」

 男は謝りもせず、恐怖に駆られて逃げていた。

「わお……」

 男を無視して、まず塔也が最初に気づいたのは空だ。
 夜空は変貌していた。いくつもペンキをぶちまけたかのような色となっている。
 赤、青、緑、黄色など。サイケデリックのような、ぐにゃぐにゃで混沌とした空だ。

 塔也はその現象を作った原因をすぐに知ることとなる。

「おいおい、なんだあれは……!」

 上海の街に巨大な生物が立っていた。
 二足歩行の生物だ。
 馬のようなタテガミ。鹿のような角。鬼のような形相。豊満な胸。
 体は透けていて、人のように見える。両手が五本指で人の形を取っていた。子供の書いた絵のような指。

 今は立っているだけだが、歩けば建物に甚大な被害を齎すのは間違いなかった。

 ガシャンガシャンと音を立てて鎧の騎士が病院から出てくる。
 巨大な生物を認識したクラム・ハードシェルは、嘆息した。

「シュコォォォ……。あれは……」

 クラム・ハードシェルは自身の中にあるものが震えているのを自覚した。
 彼が長年探し求めていたものだと、直感で理解した。

「あそこまで大きな巨乳姉、見たことがない……」

「あれを巨乳姉と思うわけ!?」

 クラム・ハードシェルと共に病院から出てきた和夫がツッコミを入れる。
 確かに巨乳ではあるが、姉の要素は一体どこにあるというのだろう。和夫にはさっぱり理解できなかった。

「ふーん。まぁ私の能力の前では、でかい顔はさせないヨニ。あんな巨大な生物。存在しないヨニ!」

 同じく病院から出てきた女陰黄泉は、巨大生物を指して能力を発動する。
 なんでもありの現実改変能力。律令(Rule)。

 女陰黄泉の思いつく理屈は、あり得る。
 女陰黄泉の思いつかない理屈は、あり得ない。
 この時。「いや、存在する!」と言い返されたらキャンセルされるが、巨大な生物は彼女を見ていない。

 彼女は能力によって生物に存在しないと律令(Rule)した。
 これで存在が綺麗さっぱり消えるはずだった。

「あれ、なんで消えないヨニ……?」

 能力はかき消された。
 女陰黄泉は初めての現象に戸惑う。

「シュコォォォ……。どうやらヨニの能力より、上位の能力で存在を維持されているようだな」

「上位ってそんな馬鹿なヨニィ……!?」

 クラム・ハードシェルは冷静に分析する。

 能力には上下が存在する。相反する能力がぶつかり合ったとき、より優先される能力が存在するのだ。
 能力の強さの原因は多岐にわたる。ぶつかり合ってみないとわからない。

「そんな……もしかして、タカさんなの……?」

 マーメイドうんこが見上げていた。

「あれがアナルカナリ・タカだっていうのか?」

「塔也さん。私は、私達は、計画は変更できないものだと思っていました。でも、変更できたのでしょう。あんなことになるなんて」

 計画。
 その全貌を塔也達はまだ聞いていない。
 しかしこれを見ればすぐにわかる。これがどれだけ危険なものだったのか。

「塔也さん、あれみてください!」

 和夫は指を向けるのは戦闘機。
 中国における政府軍。人民解放軍の戦闘機だ。二機飛んでいる。
 透明な巨人にミサイルを数発放つ。
 着弾。しかし巨人には無傷だ。

 巨人は何もしない。
 何処からか鷹がやってきた。巨人のサイズに合わせた半透明の鷹だ。
 鷹は軽々と二機の戦闘機を撃ち落とした。

「ああいう戦闘機が勝つことって、見たことないわ」

「明日歩さん、珍しく僕と同じこと考えてますね」

「トゥンク……」

「うわやめてください」

 半透明な巨人の顔全体から、大きな丸いものが浮き上がる。
 首をゆっくりと回して、方向を定めた。

「あの方向は……確か上海内の軍事施設だな」

 正確には海軍基地。あの戦闘機もそこにある空母船から飛んできたものだろう。

 巨人の顔が発光した。
 ポンとワインからコルクが抜けるような間抜けな音。
 丸いものが跳んだ。それは海軍基地に着弾して。

 爆発。

 その後に来る風圧が一行を襲った。
 すぐに塔也が能力痛みの塔(ペインタワー)で壁を作ったが、周囲の建物の窓ガラスは割れ、看板は吹き飛び、車も浮いて塔也の作った壁にぶつかった。
 住民も何人か吹き飛んでいた。それも塔也が能力を巧みに使って止めた。

 風が止んで、塔也は能力を解除した。吹き飛ばされた車が半壊していた。

「シュコォォォ……。ソレガシ、20㎏しかないゆえ、吹き飛んでしまうかと思ったでござる」

「すこすこだいすき侍さんは、るろうにだった?」

「ははは。あー、でもありゃ、どうやって倒せばいいんだ?」

「皆様、お耳をお貸しください」

 その一言でマーメイドうんこに視線が集まる。

「食事をいたしませんか?」

12,計画の全貌


 手術の後、面接会場に戻った一行は食事をしていた。
 大きなテーブルに麻婆豆腐、餃子、チャーハン、ラーメン、小籠包などありとあらゆる中華料理がある。
 マーメイドうんこの母親が振る舞う料理にありついていた。

「さぁ、助けてもらったお礼だよ。たーんとお食べ!」

「手術後なのに、ありがとうございます。もぐもぐ。うんこの作る料理とか……もぐもぐ、意味わからなかったですけど、おいしいですこれ!」

「そうだろ。料理屋の妻だからね!」

「衛生法大丈夫かな……」

 和夫は上海の料理に舌鼓をうっていた。

「シュコォォォ……。ソレガシに肉体があればと今日ほど後悔したことはない……」

「私も死体だから食べられないヨニ」

 和夫と明日歩と塔也は食事にありついているが、クラム・ハードシェルと女陰黄泉は食べることができなかった。
 ちなみにマーメイドうんこも食事していた。何故?

「そういえばアマゾンの男と馬が何処にもいないですね。何処行ったんでしょう?」

「さぁな。知りたいことはいろいろあるからな。気にしてらんねえよ」

 塔也は食べながらマーメイドうんこから計画の全貌を聞き出す。
 それは衝撃的なものだった。

「この世からうんこを消し去る……!?」

「はい。その通りですわ」

 マーメイドうんこは計画の詳細を全員に説明する。
 おしりかじり虫の行った計画とその目的に、塔也は首を傾げた。

 塔也はどんな世界になるのかと考える。
 この時点で嫌な予感がヒリヒリしているのだが、聞かないわけにはいかない。

「なぁマーメイドうんこちゃん。それって、排泄はどうなるんだ?」

「アナルがかなり鷹になるので、排泄は必要なくなると思います。タカさんは食事を取ることがなかったので、この世から飢えが無くなります」

「飢えが無くなるって……。カロリーとか、エネルギーは摂取しなくて良いってことか?」

「法則や現実を捻じ曲げることができる。それが魔人能力です。それは塔也様もご存知なのでは?」

 塔也も数々の能力を見てきた。
 しかし世界から何かを消滅させるなど、聞いたこともなかった。

「斉藤あやめの能力増幅体、あるいは願望器というべきでしょうか。魔法少女のエーテル体を使って、おしりかじり虫はこの世からうんこを消し去ろうとしていたんです。タカさんの方は、それを足掛かりに大きなことをやろうとしていたようですが」

「え、今、斎藤あやめって言いました!?」

「あなた、斉藤和夫……もしかして、斎藤あやめの弟なんですの!?」

 それを聞いた和夫は思わず食事の手が止まる。
 探していた姉の居場所が判明したからだ。

「じゃ、じゃあ。今、姉ちゃんがいる場所は……!」

「はい。あの巨人の中。あるいはあの巨人そのものが斎藤あやめ、ということになりますわ」

 和夫は目を見開いた。
 驚きを隠せなかった。
 今まで探していた斎藤あやめは、魔幇の計画に使われていたのだ。

「いえ。あれは斎藤あやめ、ではないわ」

 明日歩は否定した。

「あれは、斎藤あやめのうんこよ」

「え、えぇ!? あのプロローグでも、一話でも、二話でも、言っていた与太話ですか?」

「与太だと思っていたの……!? 嬉しい!」

「酷い!じゃないんだ……」

「魔法少女にはコアというものがあるわ。それがあの巨人からは感じられないもの」

「え、明日歩さん何故まともに情報を提供しているんですか? 頭でも打ちました?」

「斉藤和夫、あなたキュアアースホールのこと、いつもどういう目で見ていらっしゃいますの……? 彼女は数行程度しかまともなことをおっしゃっていませんわ」

「数行でもまともなことを言ったら異常事態ですよ」

「うそ……」

「今、言ったことはすべてホントよ」

 マーメイドうんこは頭を抱えた。正確には、うんこなので頭も腕もないのだが、抱えていた。

「整理したいんだが、この世からうんこを失くすっていう計画はアナルカナリ・タカによって反故にされたんだよな?」

「はい。その通りですわ」

「じゃあ、あいつの目的は何なんだ?」

「――――社会に必要であるとわかっているが、自分の近くにいてほしくないものの排除。ですわ。巷ではNINBYと呼ばれているものですわね」

「オイオイそりゃ……」

 塔也は言いかけて、詰まった。
 公共の利益と個人の利益が対立する。
 誰だって自分の家の近くにごみ処理施設を作って欲しくはない。七歌もファミレスでそんなことを言っていた。

「社会に必要、されど疎ましいもの。これを社会に必要ではない状態にする。タカさんはそれが社会の発展に繋がると信じていたようですわ。……よく、私にもおっしゃってくれましたわ」

 その理想は、公共の利益と個人の利益の対立だけではない。
 今まで受けていた面接。
 これはまさしく、自分の近くにいてほしくないものの排除だからだ。
 そのことを塔也はもちろん、大多数の人間は受け入れている。決して異常な考えではない。

 人だけではない。
 身近なものの様々なことに当てはまる。不便を便利にする。仕事を効率化する。すべて必要だが疎ましいものの排除だ。

 塔也は自身の天然パーマをかきむしる。

「ま、待ってくれ……。範囲がでかすぎる……。すげえ便利になる世界ってことか? もし実現したら、この社会はどうなる?」

「それは私にもわかりませんわ。ですが確かなことが一つだけ」

 マーメイドうんこは意を決して言い放つ。もう既に覚悟が決まっているようだった。それも随分と前に。

「私のような生物は消えますわ」

 計画が反故にされる前は、『この世からうんこを失くす』という計画だった。
 マーメイドうんこは元々、自分が世界から消される覚悟でこの計画に参加していたのだ。

「ヨニィ……」

 女陰黄泉は自分も消されるだろうなと思った。
 理由は単純、臭いから。

「うんこぶりぶり~ぶりぶりざえもん~。ぶりぶりぽ~!ぶりぶりぽ~!」

「明日歩さん、自分は関係ないと思ってるんですか。真っ先に消されますよ」

「はて? ……うんこ?」

「また記憶飛びました?」

 和夫は明日歩も消されるだろうなと思った。
 理由は単純、臭いしうざいから。

「ちょっと待て。マーメイドうんこちゃんは、自分も母親もどうせ消えるとわかってるのに、脅迫に迷って、手術も頼んだのか?」

「……そうですわ。今日消えるとわかっていても、少しでも長生きしてほしいですから」

「うんこの鑑ね」

「うんこの鑑に求められるのは、きちんと流されることだけですよ。明日歩さん」

 塔也は天然パーマを更にかきむしる。

「あああっ! これ止めた方が……いいよな? スケールが大きくてわかんねえ」

「止めましょう」

 和夫は迷いなく言い切った。

「僕はアナルカナリ・タカの意見には賛同できません。姉ちゃんのこともありますし、なにより……」

 和夫はちらりとバレないように一瞬だけ明日歩を見た。

「この世界、楽しいですから」

「え、今、チラッと私のこと見たよね?」

「見てません」

「みたみたみた絶対みた! 魔法少女はミタ! 私目撃者〜! え〜そんなに私と一緒にいると楽しい〜? やだな〜! 嬉しい〜! お礼の必殺、プープダイナマイトォォ!!」

 和夫はうんこの大奔流を軽やかにかわした。わかっている攻撃ほどかわしやすいものはない。

 塔也はその言葉に天井を仰いだ。
 中学生がここまで断言するのだ。
 こんな世界も悪くないと思えてしまう。

「アナルカナリ・タカは無理やり現象を改変してる。代替コアは本来動かせないものだった。このまま静観しても、失敗する可能性だってある」

「いえ、あの人はやると思います。塔也さん。僕はあの顔に覚えがあります」

 アナルカナリ・タカは面接中、魂が抜けたような顔をした。
 和夫はその表情を見たことがある。
 夏。炎天下。サッカー部をたまたま応援に行ったときだ。

 サッカー部の部長が0-8で負けていたときの表情とよく似ていた。
 前半45分、後半45分で行われる試合。
 その試合に勝てば全国にいける重要な試合だった。
 それを前半の45分で8点差をつけられたのだ。

 休憩中の部長は、あのような顔だった。
 魂が抜けきった顔。
 サッカーは1点がとても大きい競技だ。
 誰から見ても敗北は明らか。
 当人達は観客より、肌でよくわかっている。その絶望感は大きかっただろう。

 スポーツというのは残酷だ。
 負けるとわかっていても後半の45分を行わなければならない。
 命懸けの戦いの方がまだマシだ。負ければすぐに死ねる。すぐに終われる。あるいはギブアップができる。
 このスポーツにギブアップはないのだ。

 でもその部長は後半45分。
 鬼のような形相となった。
 炎天下の中、叫び続けた。
 汗だくで走り続けた。

 何が彼をそこまで突き動かしたのかはわからない。
 でも、世の中にはこういう人がいるのだと和夫は驚いた。

 結果は負けだった。
 4点、取り返した。
 でも負けた。

「今、アナルカナリ・タカを止めないと、逆転勝ちされます」

 もし相手チームが油断したのなら、その試合は勝っていたのかもしれない。
 しかし相手チームも人間だ。
 その気迫に、油断などできるはずもない。

「……わかった。止めよう!」

 塔也は立ち上がった。
 自身の解決屋としてのプライドをかけて必ず止めると決めた。

「でも、あんな生物。どうやって止めるんだ……?」

 塔也が腕を組んで考え始めたそのとき。
 一人の男が部屋に入ってきた。

「イィィー! イィイイィー!」

 面接でも会ったアマゾンの男である。

「イィイ、イィオピーオピ!」

 アマゾンの男は右手を掲げる。
 何もないはずの手に、いつの間にかダイヤが現れた。
 桜色のダイヤだ。そう思ったら、黒。黄。緑。と色が変わる。

「ええぇ!? ダイヤ所持者おまえなのかよォォ!!」

 マーメイドうんこも和夫と同じく驚きを隠せないでいた。

「どういうことですの……? 現在のダイヤ所持者は白髪黒羽のはずですわ。もしかして、ダイヤが鍵ではなかったですの?」

「いや、清王朝のダイヤはそのままよ!」

「誰の声ですの……!?」

「必殺、ミルクダイナマイトォォ!!」

「ぐああああああああっ!」

「えええええ!? 明日歩さんがミルクだらけにいいい!!」

 アマゾンの男の手から白い液体が噴射される。明日歩はそれをもろに喰らい、白い液体に溺れる。
 和夫は白い液体がダイヤから噴射されたと思った。
 しかし、よく見るとダイヤは形を変えていた。8のような形。

「もしかして、あれは……ヌーブラ!?」

 塔也はその形を見て目を見開く。
 和夫はそれが何かわからない。

 ヌーブラは徐々に変形していく。やがてそれは人の姿となった。

「私は、母なる海が吹き出す、二輪の花! キュアニプル!」

 斎藤あやめ。和夫の姉、その人であった。
 ニプル。和夫はその意味を知っていた。

「乳首属性の魔法少女なのォォォォ!?!?」





「姉ちゃん。もしかして相手を倒してから名乗りを上げるの、魔法少女共通の挨拶なの?」

「お姉さんはね。死体にしか興味がないの」

「こわっ!? 登場直後にそういう冗談挟むの、皆が勘違いするからやめよう?」

「……誰が冗談だって?」

「え、え、え。姉ちゃん……?」

「……」

「……」

「う♡そ♡」

 うざ。
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