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ダンゲロスSS上海
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ダンゲロスSS上海

願い叶える宝石は欠けたままではままならぬ

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dangerousss_shanghai

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そもそもの始まりは、トラブルバスターズ槌歌、上海支所での人身売買案件の後処理中だった。

「おかしい……。一人足りないわね」

俺の幼馴染にして相棒、倉森七歌がタブレットを操作しながら呟く。

「確定申告の処理してないやつでも居たか?」
「違う違う、この前の人身売買団体の案件あったでしょ」
「あぁ、あのなんとかっつーとこの。魔人まで使って人攫いとか悪どかったな」
「そうそう、で、名簿と比較して一人足りないのよね」

うちではこの手の仕事を終えたあと帰還処理も行うのだが……

「この、浅村育美って子ね。どうも、私達の襲撃前に逃げ出してたみたい」
「マジかよ。道理で首領が『今日は厄日だ』みたいな悪態をついてたわけだ」

魔都、上海。混沌渦巻く魔人都市。仕事のネタに困ることがないのと魔人の存在に寛容なことから支部を置いた……というかねじ込んだが。

「多分そう遠くまで逃げてないとは思うんだけど。見ない髪色で目立つし」
「確かに、ピンク髪なんて現実じゃそうそう見かけないもんな」

書類の中の写真を指で弾く。薄汚れてもはっきりわかる特徴的な髪。

「ウチの奴らに依頼出しとくか。上海は子供一人でうろついていい場所じゃない」

トラブルバスターズ槌歌。俺達が起てた解決屋互助組織。
解決屋の依頼の取りまとめ、マフィアへのナシつけ、仕事の過程で行き場をなくした者たちの一時的雇用などを行なっている。

「まっかせて。ちゃちゃっと依頼書作るから」

部屋に響くキーボードのタイプ音。こういう事務作業の得意な七歌には本当に助けられている。
しばらくするとプリンターから捜索願い届が吐き出されていく。

「オッケー、入力完了。他にすることはないかな?」
「今ん所は無いはずだ。ありがとうな、七歌」
「どういたしましてっと。ちょっとお昼買ってくるわね」
「いってらっしゃい」

いつもと変わらぬ日々と思っていた。その時までは。


「ん、七歌から連絡?」

スマホが震えて俺を呼び出す。

『どうした? 財布でも忘れたか?』
『育美ちゃんを見つけて保護したわ』
『唐突だな。でもグッジョブじゃんか』

彼女の目敏さにもだいぶ助けられている。説得もうまく行ったのだろう。

『で、一つ問題があって』
『?』

聞き返そうとすると通話越しに聞こえる銃声。

『彼女を誘拐しようとしてた連中に追っかけられてる。へるぷみー』
『何がへるぷみーだよ! すぐ行く!』

あぁ、もう。彼女の能力は強力だが、ちゃんと考えて言葉を紡ぐ必要があり、今のような緊急事態で使うには向かない。
あと、なるべく隠匿しておきたいというのもある。

押っ取り刀でハンマーを握り、外へ飛び出す。
自分の足元に痛みの塔(ペイン・タワー)のブロックを生成する。あっと言う間に屋上へ。
屋上伝いに探したほうが早いし、往来に邪魔されることもない。

「えぇい、どこだどこだ」

スマホの位置情報を元に、ブロックを足場に屋上や屋根を伝って一直線に向かう。
程なく、子供を背負った七歌を追っかける男たち三人を上から捉える。銃声も聞こえる。マズい。

「脚だ! 脚を狙え!」
「きゃっ!!」

めくら滅法放たれた銃弾の一つが七歌の脚に当たり、地面に突っ伏す。背中には桜色の髪の少女、写真で見た育美の特徴と一致する。
間一髪、この距離なら能力が間に合う。
七歌をこっちの高さまでブロックで持ち上げ、隣の屋上へ回収。彼女たちを捕まえようとした奴にどデカいブロックを一個落とす。
ぎゅぶるっ、と声がここまで届く。まず一人。他の二人が上がってくる前に七歌の様子を見る。

「大丈夫か?」
「痛た……ちょっとしくじっちゃった」
「遅れて悪かった」

脚に穿たれた弾痕を診る。思ったよりは大したことはなさそうだが……。

「とりあえず布で縛って。で、その子が例の……」
「はい、浅村育美です……」

育美と名乗る少女は体を震わせ、七歌に抱きつきながら返事をする。

「追手片付けてくるから、そのへんで隠れててくれ」
「えぇ。んーと……」

七歌が言葉を紡ぐ。

「われらのすがた ひとにみえざる」

すぅっ、と七歌の姿が抱きついていた育美ごと見えなくなる。
これが彼女の魔人能力、深く昏き森(ダーケストフォレスト)
彼女とその周囲にあり得ない事を起こすが、それを意識している必要があるので、鉄火場では使い所が難しい。

「じゃ、ちゃちゃっと片付けますか」

非常階段から足早に駆け上る音が響いてくる。ご苦労なことである。

「はい、五階まではるばるおつかれさん。こいつは褒美だ」

駆け上って来たチンピラの目の前にブロックを出し、後ろからハンマーで殴りつける。

「うぎょゎっ!?」

結果、チンピラはふっ飛ばされ、階下の柵に叩きつけられることに。

「あと一人、銃を持ってるやつが……っ!?」

眼前を弾が通過する。飛んできた方を振り向けば向こうの建物の屋上に指差す相手。

「テメェ、槌歌の所長か?」
「そうだが、手を出したらただじゃすまんと周囲のマフィアに伝わってると思ったんだがな」
「ハ! 所属してなけりゃ関係ねぇし、アイツが手に入れば一発逆転だ!」

次の射撃が飛ぶ前にブロックを出して陰に隠れる。そんなに丈夫ではないが遮蔽物にはなる。

「それにお前を潰せば名が上がると言うもんよ。俺の銃を撃ちまくれ(フィンガー・ガン)の前に倒れるがいい!」

バスバスと箱に銃弾が突き刺さる音がする。数発ごとにリロードでもしているのか、時たま射撃音が途切れる。
間断なく撃ち続けられるならともかくそれならば、手はある。

「俺の魔人能力に、弾切れはないぞ!」
「だが、リロードは必要なようだな」

射撃の隙を突き、相手を視認する。痛みの塔(ペイン・タワー)の対象に取るにはそれで十分。
相手が撃つより速く、ブロック五つぶん、5mの高さへかち上げる。

「ひっ、なんだ!?」

いきなり縦軸5mも位置が変われば、如何なプロといえども、狙いを定め直す必要がある。
そのままブロックを消し、床にしたたか打ち付ける。
魔人といえども重力に逆らえるほどの能力か、よほどの防御力を持っていなければ引力には逆らい難い。

「いっちょ上がり、っと」

手早く向こうの建物に渡り、弾を撃ってきた魔人を捕縛する。これで三人。
先に倒した二人も回収し、ふん縛って所員に連絡して後処理を任せる。
……はてさて、小物が暴れるのはよくあることだが、一つ気にかかることがある。

『アイツが手に入れば』

育美のことだとは思うが、彼女に何が?
気にはなるが、まずは七歌の怪我だ。

「塔也~!」
階段を降りて来た七歌が俺に飛びついてくる。元気なものである。
……? 待てよ、脚に怪我を負ってたはずでは?

「七歌、脚は大丈夫なのか?」
「ん、なんか治った」
「は? んな馬鹿な」

魔人だからといって負傷がすぐ治ることは、その手の魔人能力を持っていない限りはあり得ない。
七歌の能力ではそこまでの無茶はできない。
だが、実際脚を見せてもらうともうどこにも痕がない。

「あの……」

おずおずと桜色の髪の少女が手を挙げる。

「それ、私の能力だと、思います……」


とりあえず、落ち着いて話をするために俺達は事務所に戻った。

「しかし、抱きついてる相手を癒やす能力か……ホント、ありがとうな」
「いえ……七歌さんが助けてくれたので私にも、何か出来ればと……」

彼女の能力、泪をみるひと(ティア・ゲイザー)は抱きついてる相手を癒す能力なんだとか。
確かにずっと抱きつきっぱなしだった気がする。

「ところで、何故身柄を狙われてたんだ?」
「そういえば『これでダイヤの補修ができる』とかなんとか言ってました」
「無機物も直せるのか?」
「バラバラになってなければ……例えば、このソファを……」

そう言うと育美はソファの背もたれに覆いかぶさるように姿勢を変えた。
しばらくすると、そこそこ年季の入ったソファが時を遡るように、細かい傷などが補修されていく。

「とんでもない能力だな……」

感嘆することしきり。

「こう、べったりとくっつくことが条件なんであんまりやりたくはないんですが……

あ、でも恩人のあなたたちならオッケーです、と付け加える。
俺に対してやられると七歌がヤキモチ焼きそうだな、などと脳裏に浮かぶ。いやそんな事を考えている場合ではない。

「七歌、うちに集まった清王朝のダイヤに関する情報を調べてくれないか。特にダイヤの傷に関して」
「興味ないと言っときながら収集自体は怠らなかったの、こういうときのためだったのね」
「あと所員が自発的に首突っ込むのは止められないからな。ろくな事にならんぞ、という警告はするが」

カタカタ、と室内にキーボードを叩く音が響く。

「……確度は低いけど、これかしらね」
「なんかあったか?」

「清の金剛石、その真の姿取り戻す時、願い叶える玉と成す……という情報があるとの噂があるみたい」
「何か欠けてるとか? 」
「普通なら与太話、と切って捨てるところだけど世の中、『願望機』って物は時たま浮かび上がるのよね」

願望機。手にした者の願いを叶える物の総称、概念。
古今東西、幾度となく魔人たちはそれを求めて争ったという。

「つまり、そのために育美は狙われたと?」
「多分……それと一つ問題があって」
「問題?」

七歌の声に育美が振り向き、ソファに座り直す。

「今の情報が本当か嘘かはともかく、同様の情報がそこそこ広まってる。
 そしてこの手の魔人――治癒能力、それも物にも有効なのは割と少ない。少なくとも表にはあんま出ない印象」
「それの何が問題なんですか?」
「この先しばらく狙われるわ。下手すれば百年節(パーティー)が終わったあとも」

沈黙。

「……マズくね?」
「マズいわね」

育美の顔を見ると青ざめて体が震えている。

「あ、あの、迷惑ならすぐ去りますから……」

彼女は今にも泣きそうな声で絞り出すように言った。

「見捨てるわけ無いが?」
「まぁ貴方ならそう言うと思ったわ。私も賛成よ」

そもそもこういう路頭に迷った子を救うために起てたのがトラブルバスターズ槌歌(この事務所)だ。
見捨てたらそれこそ仁義に反する。

「あ、ありがとうございます……うぇぇぇん」
「よしよし。騒ぎが収まったら親元に帰してあげるからね」

感極まって泣き出した少女を抱き寄せて慰める七歌。

「親元の調べをつけて、送るための便を手配して……」
「護るために送り返すまではちゃんと護衛したほうがいいな」

育美のほうは、これ以上進展しようがなさそう。将来のための下準備をするにとどまるか。

「それで、ダイヤのほうはどうするの?」
「噂が嘘なら話は早い。ダイヤを献上して魔幇の首領に話をつければそれで終わり。向こうに約束を守る気があれば、だが」
「本当なら?」
「いっそ下剋上狙っちまうか。流石に魔幇の首領といえども普通の願い事でその椅子をよこせと言われて首を縦に振るはずはない」
「そこでダイヤの力というわけね」
「はてさて、どこまでが本当か。本当であって欲しくはないな。ろくでもない願いが叶ったらそれこそ大変なことになる」

どちらにせよ、一旦こちらで確保したほうが安全ではある。だが、狙う者も多いだろう。
当初は手を出さないほうが安全だと見ていたが、こうなっては仕方がない。

「噂が本当なら育美を狙ってくるはず。片っ端から叩き潰して情報を搾り取ってやろう」
「私はそれ以外のルートで調べてみるわ」
「あぁ、頼む」

どうにもこうにも、大変なことに巻き込まれてしまった。
だがこれが上海全土を巻き込む大騒乱になることは、今の俺達には知る由もなかったのであった……。
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