だんのこまち@wiki
新たな大地へ
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海の向こうに現れた地図
王都ペル・ゼノン。
ギルド団ノ子のギルドハウス、その会議室に置かれた長いテーブルへ、見慣れない大陸の地図が広げられていた。
正確には、地図と呼べるほど多くの情報はない。
南側に確認された海岸線。
そこから内陸へ伸びているらしい、何本かの古い道。
大地を深く切り裂く谷。
霧の隙間から、わずかに見える山と森林。
そのほとんどは、白い未開拓表示に覆われている。
地図の上へ、大陸名だけが大きく浮かんでいた。
<未開拓フロンティア オブ アストラディール>
続けて、新しい告知が表示される。
<第一次アストラディール大規模開拓計画>
<戦闘・探索・測量・建設・生産・交易支援参加者募集>
<大陸中央部への進路を確保し、新たな交易拠点を設立してください>
「交易拠点って書いてあるけど」
ガトーショコラが地図の横へ表示された資材一覧を拡大した。
木材。
石材。
建設用の金属部品。
食料。
医薬品。
仮設住居。
倉庫や交易所に使う設備まで含まれている。
「この量だと、野営地を一つ作るだけでは終わらないね。最初から町を造るつもりみたい」
「町を造るところから参加できるの?」
エクレア・マルテールが、円形に表示された建設候補範囲を覗き込む。
「門とか、城壁も造るのかな」
「まだ、そこまでたどり着けるとも決まっていないわよ」
フォンダン・アイリスは、大陸を覆う白い霧へ目を向けた。
「上陸地点から中央部まで、まともな道があるかもわからないの。資材を運ぶだけでも大変でしょうね」
「谷が多い」
つきみが、地形の陰影を指でなぞる。
「一か所でも道が崩れたら、後ろの輸送隊まで全部止まりそう」
「先頭だけが進んでも意味はないな」
ロウガン・ローストが頷いた。
「前衛と輸送列を離しすぎない方がいい。狭い道なら、盾を並べる場所も考えないといけない」
テーブルの周囲には、第一章を通じて団ノ子へ集まったメンバーがいた。
みたらしっぽ。
シュガーシロップ。
ガトーショコラ。
スフレ。
四人で団ノ子を結成した頃からの仲間。
高難易度レイドで出会った、つきみとフォンダン・アイリス。
その後、アイリスに連れられて加入したエクレア・マルテール。
大型アップデートの頃に加わったロウガン・ロースト、ルカ、ティオ。
カフェの営業と両立しながら参加するチロル。
初心者だった頃から成長を続けてきたチョコチップ。
絶対零度ニブルヘイムを共に越え、正式に加入したエスプレッソ。
人数が増えた今も、最初の長いテーブルは変わらず会議室の中央に置かれていた。
スフレは地図を見る傍ら、テーブルの端で小さな装置を組み立てていた。
真鍮色の歯車。
細い針。
小さな魔石。
四本の脚を持つ、手のひらほどの機械だった。
「何を作ってるの?」
みたらしっぽが尋ねる。
「簡単な測量器」
スフレは歯車を一つ回した。
装置が細かな音を立てながら立ち上がり、テーブルの傾きに合わせて針を動かす。
「地面へ置くと、傾斜と振動を記録してくれるようにしてみたの。道を造る時に使えるかもしれない」
「自分で作ったの?」
チョコチップが装置へ顔を近づける。
「まだ試作品だけどね。歯車が少し引っかかるから、船の揺れには弱いかも」
スフレは装置の側面を開き、小さな工具で内部を調整した。
生産班を率いてきた彼女は、料理や道具作りだけでなく、最近では魔石と機械部品を組み合わせた自作品にも興味を持ち始めていた。
「現地で使えそうなら、もう少し大きいものも作ってみたいな」
「壊れないものにしてね」
アイリスが言う。
スフレは楽しそうに頷いた。
「そのために、まず持っていくの」
少し離れたところでは、ルカが魔道書を開いていた。
表示されているのは、荷物を背負うための召喚獣ではない。
前衛を支える甲冑獣。
空から敵を探す翼ある召喚体。
敵の動きを封じる術式を持つ獣。
いずれも戦闘を目的とした召喚獣だった。
「未知の敵が多いなら、近接型と索敵型を両方準備します」
「輸送隊の近くへ敵が出た時は?」
ロウガンが尋ねる。
「護衛用の召喚獣を残します。荷物を運ばせるのではなく、荷車へ近づくものを迎撃させます」
ルカは召喚構成を二つに分けた。
自分が前線へいる時の攻撃編成。
輸送列を守る時の防衛編成。
《召喚師》として、大部隊のどこで戦うかまで考えている。
ティオは地図の端へ、調理場の印をつけていた。
「新しい大陸なら、新しい食材もありそうだねぇ」
「食べられるか確認してから使ってよ」
シュガーシロップが言う。
「もちろん。最初に自分で味見するよぉ」
「それが一番心配なんだけど」
言いながらも、シュガーシロップは保存食の候補を一緒に確認していた。
チロルは店の予定表と遠征日程を並べている。
「ずっと店を離れるのは無理だけど、途中で戻る日を決めておけば参加できる」
「大陸中央まで、何日かかるかわからないよ」
みたらしっぽが言う。
「だから、戻る日までに進めるところまで。続きはまた合流する」
ガトーショコラは、地図の白い部分を見つめていた。
「私は行くよ。これだけ何も描かれていない地図を、自分たちで埋められる機会は少ないから」
その隣で、エスプレッソが短く言う。
「調べるものが多い」
それは彼女なりの参加表明だった。
エクレアは、すでに登録画面を開いている。
アイリスも、必要な回復用品を追加していた。
つきみは輸送護衛。
ロウガンは先行防衛。
シュガーシロップは前衛支援。
少しずつ、役割が決まっていく。
「先輩」
隣にいたチョコチップが、みたらしっぽを呼んだ。
「参加しますよね」
声は確認だった。
けれど、その瞳には期待が浮かんでいる。
まだ誰も歩いていない土地へ行きたい。
その先にあるものを、自分の目で見たい。
「もちろん」
みたらしっぽが答えると、チョコチップの表情が明るくなった。
「私も行きます」
「大部隊だから、戦う以外の時間も長いと思うよ」
「はい。それでも、一緒に行きたいです」
みたらしっぽは、集まったメンバーを見回した。
「前へ出る人も、輸送を守る人も、料理や道具を用意する人も必要になる。ずっと参加できなくてもいい。途中で戻っても、また合流できる」
一人ずつ、参加欄へ名前が加わっていく。
みたらしっぽ。
シュガーシロップ。
ガトーショコラ。
スフレ。
つきみ。
フォンダン・アイリス。
エクレア・マルテール。
ロウガン・ロースト。
ルカ。
ティオ。
チロル。
チョコチップ。
エスプレッソ。
<ギルド『団ノ子』>
<第一次アストラディール大規模開拓隊への参加が承認されました>
地図の南端へ、小さな団ノ子の紋章が表示された。
海の向こうに広がる白い大地へ。
団ノ子の名前が、初めて置かれた。
ギルド団ノ子のギルドハウス、その会議室に置かれた長いテーブルへ、見慣れない大陸の地図が広げられていた。
正確には、地図と呼べるほど多くの情報はない。
南側に確認された海岸線。
そこから内陸へ伸びているらしい、何本かの古い道。
大地を深く切り裂く谷。
霧の隙間から、わずかに見える山と森林。
そのほとんどは、白い未開拓表示に覆われている。
地図の上へ、大陸名だけが大きく浮かんでいた。
<未開拓フロンティア オブ アストラディール>
続けて、新しい告知が表示される。
<第一次アストラディール大規模開拓計画>
<戦闘・探索・測量・建設・生産・交易支援参加者募集>
<大陸中央部への進路を確保し、新たな交易拠点を設立してください>
「交易拠点って書いてあるけど」
ガトーショコラが地図の横へ表示された資材一覧を拡大した。
木材。
石材。
建設用の金属部品。
食料。
医薬品。
仮設住居。
倉庫や交易所に使う設備まで含まれている。
「この量だと、野営地を一つ作るだけでは終わらないね。最初から町を造るつもりみたい」
「町を造るところから参加できるの?」
エクレア・マルテールが、円形に表示された建設候補範囲を覗き込む。
「門とか、城壁も造るのかな」
「まだ、そこまでたどり着けるとも決まっていないわよ」
フォンダン・アイリスは、大陸を覆う白い霧へ目を向けた。
「上陸地点から中央部まで、まともな道があるかもわからないの。資材を運ぶだけでも大変でしょうね」
「谷が多い」
つきみが、地形の陰影を指でなぞる。
「一か所でも道が崩れたら、後ろの輸送隊まで全部止まりそう」
「先頭だけが進んでも意味はないな」
ロウガン・ローストが頷いた。
「前衛と輸送列を離しすぎない方がいい。狭い道なら、盾を並べる場所も考えないといけない」
テーブルの周囲には、第一章を通じて団ノ子へ集まったメンバーがいた。
みたらしっぽ。
シュガーシロップ。
ガトーショコラ。
スフレ。
四人で団ノ子を結成した頃からの仲間。
高難易度レイドで出会った、つきみとフォンダン・アイリス。
その後、アイリスに連れられて加入したエクレア・マルテール。
大型アップデートの頃に加わったロウガン・ロースト、ルカ、ティオ。
カフェの営業と両立しながら参加するチロル。
初心者だった頃から成長を続けてきたチョコチップ。
絶対零度ニブルヘイムを共に越え、正式に加入したエスプレッソ。
人数が増えた今も、最初の長いテーブルは変わらず会議室の中央に置かれていた。
スフレは地図を見る傍ら、テーブルの端で小さな装置を組み立てていた。
真鍮色の歯車。
細い針。
小さな魔石。
四本の脚を持つ、手のひらほどの機械だった。
「何を作ってるの?」
みたらしっぽが尋ねる。
「簡単な測量器」
スフレは歯車を一つ回した。
装置が細かな音を立てながら立ち上がり、テーブルの傾きに合わせて針を動かす。
「地面へ置くと、傾斜と振動を記録してくれるようにしてみたの。道を造る時に使えるかもしれない」
「自分で作ったの?」
チョコチップが装置へ顔を近づける。
「まだ試作品だけどね。歯車が少し引っかかるから、船の揺れには弱いかも」
スフレは装置の側面を開き、小さな工具で内部を調整した。
生産班を率いてきた彼女は、料理や道具作りだけでなく、最近では魔石と機械部品を組み合わせた自作品にも興味を持ち始めていた。
「現地で使えそうなら、もう少し大きいものも作ってみたいな」
「壊れないものにしてね」
アイリスが言う。
スフレは楽しそうに頷いた。
「そのために、まず持っていくの」
少し離れたところでは、ルカが魔道書を開いていた。
表示されているのは、荷物を背負うための召喚獣ではない。
前衛を支える甲冑獣。
空から敵を探す翼ある召喚体。
敵の動きを封じる術式を持つ獣。
いずれも戦闘を目的とした召喚獣だった。
「未知の敵が多いなら、近接型と索敵型を両方準備します」
「輸送隊の近くへ敵が出た時は?」
ロウガンが尋ねる。
「護衛用の召喚獣を残します。荷物を運ばせるのではなく、荷車へ近づくものを迎撃させます」
ルカは召喚構成を二つに分けた。
自分が前線へいる時の攻撃編成。
輸送列を守る時の防衛編成。
《召喚師》として、大部隊のどこで戦うかまで考えている。
ティオは地図の端へ、調理場の印をつけていた。
「新しい大陸なら、新しい食材もありそうだねぇ」
「食べられるか確認してから使ってよ」
シュガーシロップが言う。
「もちろん。最初に自分で味見するよぉ」
「それが一番心配なんだけど」
言いながらも、シュガーシロップは保存食の候補を一緒に確認していた。
チロルは店の予定表と遠征日程を並べている。
「ずっと店を離れるのは無理だけど、途中で戻る日を決めておけば参加できる」
「大陸中央まで、何日かかるかわからないよ」
みたらしっぽが言う。
「だから、戻る日までに進めるところまで。続きはまた合流する」
ガトーショコラは、地図の白い部分を見つめていた。
「私は行くよ。これだけ何も描かれていない地図を、自分たちで埋められる機会は少ないから」
その隣で、エスプレッソが短く言う。
「調べるものが多い」
それは彼女なりの参加表明だった。
エクレアは、すでに登録画面を開いている。
アイリスも、必要な回復用品を追加していた。
つきみは輸送護衛。
ロウガンは先行防衛。
シュガーシロップは前衛支援。
少しずつ、役割が決まっていく。
「先輩」
隣にいたチョコチップが、みたらしっぽを呼んだ。
「参加しますよね」
声は確認だった。
けれど、その瞳には期待が浮かんでいる。
まだ誰も歩いていない土地へ行きたい。
その先にあるものを、自分の目で見たい。
「もちろん」
みたらしっぽが答えると、チョコチップの表情が明るくなった。
「私も行きます」
「大部隊だから、戦う以外の時間も長いと思うよ」
「はい。それでも、一緒に行きたいです」
みたらしっぽは、集まったメンバーを見回した。
「前へ出る人も、輸送を守る人も、料理や道具を用意する人も必要になる。ずっと参加できなくてもいい。途中で戻っても、また合流できる」
一人ずつ、参加欄へ名前が加わっていく。
みたらしっぽ。
シュガーシロップ。
ガトーショコラ。
スフレ。
つきみ。
フォンダン・アイリス。
エクレア・マルテール。
ロウガン・ロースト。
ルカ。
ティオ。
チロル。
チョコチップ。
エスプレッソ。
<ギルド『団ノ子』>
<第一次アストラディール大規模開拓隊への参加が承認されました>
地図の南端へ、小さな団ノ子の紋章が表示された。
海の向こうに広がる白い大地へ。
団ノ子の名前が、初めて置かれた。
一軍四部隊
出発当日。
港町の外港は、これまで見たことのないほど多くの人と物資で埋め尽くされていた。
戦闘ギルド。
探索ギルド。
建設を専門とする集団。
木工師や鍛冶師。
料理人。
商人。
測量隊。
NPCの兵士と職人。
大きな梁や石材を積んだ荷車が、何列にも並んでいる。
沖には大型船が連なり、その周囲を護衛船が囲んでいた。
遠征というより、町を一つ解体して船へ積み込んでいるような光景だった。
団ノ子の物資は、二隻に分けて積まれる。
一方には食料、回復薬、予備装備。
もう一方には調理器具、生産道具、スフレの自作機械を含む建設補助品。
スフレは船へ積み込まれる箱の一つへ、小さな歯車式の札を取りつけた。
「箱が大きく傾いたら、音が鳴るようにしたの」
装置を軽く傾けると、内部の振り子が動き、小さな鈴が一度だけ鳴った。
「海へ落ちる前には教えてくれそう?」
エクレアが尋ねる。
「落ち始めてから鳴っても遅いから、その前に固定してね」
港の反対側には、TRustDiamonDの一軍が並んでいた。
FoF有数の大規模レイド専門ギルド。
一軍は四つの部隊に分けられ、それぞれが独立してパーティーを組みながら、必要に応じて一つの大部隊として動く。
先頭に立っているのは、ギルドマスターであり一番隊隊長のオルフェオ・ディアマンテだった。
青い髪。
巨大な盾。
《ガーディアン》。
「不壊の城塞」と呼ばれる、TRustDiamonD最大の盾役。
その隣には、一番隊副隊長のレナート・トパーツィオ。
《プリースト》でありながら、回復だけに留まらず、オルフェオの右腕として部隊全体へ指示を送っている。
「一番隊、乗船後は右舷前方へ。隊長間通信を優先し、全体通信が混線した場合も位置を変えないでください」
落ち着いた声に迷いはない。
エリオ・ガーネットは、柔らかな表情で装備を確認していた。
普段の物腰だけを見れば穏やかな青年だが、戦闘が始まれば一変する。
《首狩師》として、連撃を重ねるほど火力を上げていく好戦的な戦闘狂。
その近くで、エメラルド・コスタが海図を開いている。
《忍者》らしい機動力と鋭い観察眼を持ち、大規模レイドでは地図の作成を担当する。
「潮流が二本重なってる。船団が広がりすぎると、中央だけ先へ流される」
エメラルドが示した箇所へ、レナートが進行補正を書き加えた。
二番隊を率いるのは、ロレッタ・トルマリーナ。
可愛らしい姿から、FoF内ではアイドルのような人気を持つ《レイドクレリック》。
しかし、部隊の統率において甘さはない。
「二番隊、資材船との距離を一定に保ってください。回復班と護衛班を分けすぎないように」
トーキッシュ・ターコイズ。
アースト・アメジスタ。
フォルド・フローライト。
そのほかの隊員たちも、ロレッタの指示に合わせて静かに配置を変えていく。
柔らかな声で告げられた指示へ、誰一人遅れない。
三番隊の先頭には、ヘルガ・プレナイトがいた。
長い緑髪。
大きな両手用武器を、片手で扱う《スレイヤー》。
腕力に大きく振ったその戦闘スタイルは、同じ重量武器を使う者たちの間でも知られている。
「三番隊は接舷戦に備える。合図までは甲板を離れないこと」
ヘルガの視線が、副隊長のエドガルド・ブラッドへ向く。
直感と勢いに任せた前進を得意とする《ウォーリアー》だが、隊長であるヘルガの指示には逆らわない。
「了解」
いつもの威勢は残しながらも、短く返す。
三番隊の最年少、シェリル・タンザナイトは、装備と積み荷の隙間を確認していた。
《ハンター》として周囲を見る目は確かで、変わり者の多い三番隊の中では落ち着いた存在だった。
リンド・アクアマリンは、少し離れたところから海を眺めている。
冷静で達観した《ソーサラー》。
本来は移動戦闘を得意としないはずだが、エドガルドの前進へ合わせるため、転移や補助術を揃え、前衛に近い位置まで出る独特の戦い方をしていた。
四番隊を率いるティアナ・イオリスは、ほかの隊長ほど多くを話さなかった。
《フォース》による阻害魔法を得意とし、敵の進行や攻撃そのものを止める。
「四番隊、外周」
それだけで、詳細がまだ広く知られていない隊員たちが所定の位置へ移る。
団ノ子がまだ名前を覚えきれていない隊員も、各部隊の隊列へ自然に加わっていた。
設定や役割を大きく語る者はいない。
それでも、誰一人として一軍の動きを乱していなかった。
オルフェオが攻略大部隊の指揮官との話を終え、団ノ子の紋章へ気づいた。
「皆さんも参加するのですね」
「はい」
みたらしっぽが答える。
「永劫の凍土以来ですね」
「今回は、敵を倒すだけでは終わらない攻略になります」
オルフェオは港へ運ばれていく資材を見た。
「進路を守る者。地図を作る者。後方へ物資を届ける者。そのすべてが同じ攻略の一部です」
「団ノ子なりに、できることを探します」
「中央部で、また会いましょう」
オルフェオは、短く頷いて自分の部隊へ戻った。
出航を知らせる鐘が鳴る。
巨大な帆が一斉に開き、攻略船団が港を離れていった。
港町の外港は、これまで見たことのないほど多くの人と物資で埋め尽くされていた。
戦闘ギルド。
探索ギルド。
建設を専門とする集団。
木工師や鍛冶師。
料理人。
商人。
測量隊。
NPCの兵士と職人。
大きな梁や石材を積んだ荷車が、何列にも並んでいる。
沖には大型船が連なり、その周囲を護衛船が囲んでいた。
遠征というより、町を一つ解体して船へ積み込んでいるような光景だった。
団ノ子の物資は、二隻に分けて積まれる。
一方には食料、回復薬、予備装備。
もう一方には調理器具、生産道具、スフレの自作機械を含む建設補助品。
スフレは船へ積み込まれる箱の一つへ、小さな歯車式の札を取りつけた。
「箱が大きく傾いたら、音が鳴るようにしたの」
装置を軽く傾けると、内部の振り子が動き、小さな鈴が一度だけ鳴った。
「海へ落ちる前には教えてくれそう?」
エクレアが尋ねる。
「落ち始めてから鳴っても遅いから、その前に固定してね」
港の反対側には、TRustDiamonDの一軍が並んでいた。
FoF有数の大規模レイド専門ギルド。
一軍は四つの部隊に分けられ、それぞれが独立してパーティーを組みながら、必要に応じて一つの大部隊として動く。
先頭に立っているのは、ギルドマスターであり一番隊隊長のオルフェオ・ディアマンテだった。
青い髪。
巨大な盾。
《ガーディアン》。
「不壊の城塞」と呼ばれる、TRustDiamonD最大の盾役。
その隣には、一番隊副隊長のレナート・トパーツィオ。
《プリースト》でありながら、回復だけに留まらず、オルフェオの右腕として部隊全体へ指示を送っている。
「一番隊、乗船後は右舷前方へ。隊長間通信を優先し、全体通信が混線した場合も位置を変えないでください」
落ち着いた声に迷いはない。
エリオ・ガーネットは、柔らかな表情で装備を確認していた。
普段の物腰だけを見れば穏やかな青年だが、戦闘が始まれば一変する。
《首狩師》として、連撃を重ねるほど火力を上げていく好戦的な戦闘狂。
その近くで、エメラルド・コスタが海図を開いている。
《忍者》らしい機動力と鋭い観察眼を持ち、大規模レイドでは地図の作成を担当する。
「潮流が二本重なってる。船団が広がりすぎると、中央だけ先へ流される」
エメラルドが示した箇所へ、レナートが進行補正を書き加えた。
二番隊を率いるのは、ロレッタ・トルマリーナ。
可愛らしい姿から、FoF内ではアイドルのような人気を持つ《レイドクレリック》。
しかし、部隊の統率において甘さはない。
「二番隊、資材船との距離を一定に保ってください。回復班と護衛班を分けすぎないように」
トーキッシュ・ターコイズ。
アースト・アメジスタ。
フォルド・フローライト。
そのほかの隊員たちも、ロレッタの指示に合わせて静かに配置を変えていく。
柔らかな声で告げられた指示へ、誰一人遅れない。
三番隊の先頭には、ヘルガ・プレナイトがいた。
長い緑髪。
大きな両手用武器を、片手で扱う《スレイヤー》。
腕力に大きく振ったその戦闘スタイルは、同じ重量武器を使う者たちの間でも知られている。
「三番隊は接舷戦に備える。合図までは甲板を離れないこと」
ヘルガの視線が、副隊長のエドガルド・ブラッドへ向く。
直感と勢いに任せた前進を得意とする《ウォーリアー》だが、隊長であるヘルガの指示には逆らわない。
「了解」
いつもの威勢は残しながらも、短く返す。
三番隊の最年少、シェリル・タンザナイトは、装備と積み荷の隙間を確認していた。
《ハンター》として周囲を見る目は確かで、変わり者の多い三番隊の中では落ち着いた存在だった。
リンド・アクアマリンは、少し離れたところから海を眺めている。
冷静で達観した《ソーサラー》。
本来は移動戦闘を得意としないはずだが、エドガルドの前進へ合わせるため、転移や補助術を揃え、前衛に近い位置まで出る独特の戦い方をしていた。
四番隊を率いるティアナ・イオリスは、ほかの隊長ほど多くを話さなかった。
《フォース》による阻害魔法を得意とし、敵の進行や攻撃そのものを止める。
「四番隊、外周」
それだけで、詳細がまだ広く知られていない隊員たちが所定の位置へ移る。
団ノ子がまだ名前を覚えきれていない隊員も、各部隊の隊列へ自然に加わっていた。
設定や役割を大きく語る者はいない。
それでも、誰一人として一軍の動きを乱していなかった。
オルフェオが攻略大部隊の指揮官との話を終え、団ノ子の紋章へ気づいた。
「皆さんも参加するのですね」
「はい」
みたらしっぽが答える。
「永劫の凍土以来ですね」
「今回は、敵を倒すだけでは終わらない攻略になります」
オルフェオは港へ運ばれていく資材を見た。
「進路を守る者。地図を作る者。後方へ物資を届ける者。そのすべてが同じ攻略の一部です」
「団ノ子なりに、できることを探します」
「中央部で、また会いましょう」
オルフェオは、短く頷いて自分の部隊へ戻った。
出航を知らせる鐘が鳴る。
巨大な帆が一斉に開き、攻略船団が港を離れていった。
水平線の一発
航海は、最初の数時間こそ穏やかだった。
陸地は次第に遠ざかり、周囲には海と船団だけが残る。
スフレは甲板の端へ、自作の小さな風向計を固定していた。
真鍮の羽根が風を受けて回り、魔石の表示板へ風向きと揺れの周期を記録する。
「船の機構って、面白いね」
スフレは大型の巻き上げ機へ視線を向けた。
帆を動かす歯車。
綱へかかる張力を逃がす滑車。
手動と魔力補助を組み合わせた構造。
「今度、小さいものを作ってみたい」
それでも、スフレの頭の中では、見つけた仕組みがすぐ次の自作品へつながっていた。
船首では、ガトーショコラが長銃の照準器を覗いていた。
新大陸を探しているというより、海面と霧の境界を丹念に確認している。
近くではエメラルドが、航行中も海図へ情報を書き込んでいた。
「前方はまだ霧だけ」
エメラルドが言う。
「右舷の潮が少し速い。船団がわずかに東へ流れてる」
その報告が、レナートを通じて各船へ伝えられる。
船団全体が、緩やかに進路を修正した。
しばらくして。
ガトーショコラの銃口が、陸地のあるはずの正面ではなく、右前方へ向いた。
「船がいる」
見張り役より先に発した声だった。
エメラルドが海図を拡大する。
霧の向こう。
通常の視認距離を越えた場所に、小さな反応が複数現れている。
「黒い帆。正規船団の識別がない」
レナートが全船へ警告を送る。
<右舷前方、未登録船団>
<護衛船は輸送船との間へ>
遠くの霧から、三隻の高速船が姿を現した。
船首へ取りつけられた鋭い衝角。
海賊旗。
攻略大部隊の資材船を狙い、潮流へ乗って近づいている。
まだ魔法も砲撃も届かない距離だった。
「接近まで、あと三分」
エメラルドが相対速度を計算する。
ロレッタの二番隊が、資材船側へ位置を変える。
「二番隊、船体保護を優先。甲板へ上がってくるまでは深追いしないでください」
ヘルガは大きな武器を肩へ担ぎ、三番隊を接舷予定地点へ集めた。
エドガルドも前へ出るが、ヘルガの線を越えない。
ティアナは海上へ杖を向ける。
四番隊の隊員たちが、その背後へ術式を並べた。
オルフェオは船団中央の護衛船へ立ち、全体を見渡していた。
「隊列を維持。資材船を孤立させないでください」
海賊船の甲板へ、弓や魔法砲の準備が見える。
それでも、まだ遠い。
通常の攻撃補助表示には、射程外の警告が出ていた。
「距離は?」
ガトーショコラが尋ねる。
エメラルドが数値を送る。
「正面の船まで四千二百。右へ流されてる。向こうの指揮役は船尾楼」
その距離では、照準補助も発動しない。
スキルの有効範囲からも大きく外れている。
ガトーショコラは何も言わず、長銃を船縁へ固定した。
「ショコ姉?」
チョコチップが彼女の横顔を見る。
ガトーショコラは、遠くの海賊船だけを見ていた。
「風」
スフレが、自作の風向計を確認する。
「右から左へ。今、少し弱くなってる」
エメラルドが海図上へ、海賊船の予想進路を引いた。
「波の頂点へ乗るのは、八秒後」
ガトーショコラは呼吸を止めなかった。
船は揺れている。
標的の船も揺れている。
間には風と波がある。
弾丸が届くまでの間にも、互いの位置は変わる。
五秒。
六秒。
七秒。
海賊船が大きな波へ持ち上げられた。
ガトーショコラが引き金を引いた。
乾いた銃声が、広い海へ響いた。
弾丸は一度、視界から消えた。
数秒遅れて。
遠くの海賊船、その船尾楼にいた指揮役の頭上へ青い衝撃が走った。
海賊のアバターが光の粒子となって崩れる。
握られていた信号旗が、甲板へ落ちた。
旗の合図を失った三隻の進路が乱れる。
一隻が急に舵を切り、後ろの船とぶつかりかけた。
「命中」
エメラルドが、変化した進路を海図へ書き込む。
レナートも一瞬だけガトーショコラへ目を向けたが、すぐに次の指示へ移った。
「敵船の隊列が崩れました。中央船を基準に防御を継続してください」
「今の方を狙ったんですか?」
チョコチップが尋ねる。
「うん」
ガトーショコラは短く答え、次の弾丸を装填した。
その直後。
海賊船から放たれた砲弾が、長い弧を描いて船団へ飛んでくる。
ティアナが杖を上げた。
「止める」
青白い力場が海上へ立ち上がる。
砲弾が力場へ食い込み、急激に速度を失った。
海へ落下し、大きな水柱を上げる。
オルフェオの指示で護衛船が前へ出た。
一番隊。
二番隊。
三番隊。
四番隊。
それぞれが所定の位置を崩さず、近づいてくる海賊船へ攻撃を集中する。
指揮を失った海賊船は、接舷距離へ入る前に進路を変えた。
数発の砲撃を残し、霧の向こうへ退いていく。
オルフェオは追撃を命じなかった。
「目的は航路の確保です。船団から離れないでください」
攻略大部隊は、そのまま進路を維持した。
ガトーショコラの横では、スフレの風向計が変わらず真鍮の羽根を回していた。
エメラルドが海図を閉じる前に、狙撃地点と標的の位置へ細い線を引く。
「この距離を当てる人が、団ノ子にはいるんだね」
穏やかな声だったが、視線には確かな興味があった。
ガトーショコラは、霧の向こうへ長銃を向け直した。
「見えていたから」
その一発は、上陸する前から攻略大部隊の間へ広まった。
陸地は次第に遠ざかり、周囲には海と船団だけが残る。
スフレは甲板の端へ、自作の小さな風向計を固定していた。
真鍮の羽根が風を受けて回り、魔石の表示板へ風向きと揺れの周期を記録する。
「船の機構って、面白いね」
スフレは大型の巻き上げ機へ視線を向けた。
帆を動かす歯車。
綱へかかる張力を逃がす滑車。
手動と魔力補助を組み合わせた構造。
「今度、小さいものを作ってみたい」
それでも、スフレの頭の中では、見つけた仕組みがすぐ次の自作品へつながっていた。
船首では、ガトーショコラが長銃の照準器を覗いていた。
新大陸を探しているというより、海面と霧の境界を丹念に確認している。
近くではエメラルドが、航行中も海図へ情報を書き込んでいた。
「前方はまだ霧だけ」
エメラルドが言う。
「右舷の潮が少し速い。船団がわずかに東へ流れてる」
その報告が、レナートを通じて各船へ伝えられる。
船団全体が、緩やかに進路を修正した。
しばらくして。
ガトーショコラの銃口が、陸地のあるはずの正面ではなく、右前方へ向いた。
「船がいる」
見張り役より先に発した声だった。
エメラルドが海図を拡大する。
霧の向こう。
通常の視認距離を越えた場所に、小さな反応が複数現れている。
「黒い帆。正規船団の識別がない」
レナートが全船へ警告を送る。
<右舷前方、未登録船団>
<護衛船は輸送船との間へ>
遠くの霧から、三隻の高速船が姿を現した。
船首へ取りつけられた鋭い衝角。
海賊旗。
攻略大部隊の資材船を狙い、潮流へ乗って近づいている。
まだ魔法も砲撃も届かない距離だった。
「接近まで、あと三分」
エメラルドが相対速度を計算する。
ロレッタの二番隊が、資材船側へ位置を変える。
「二番隊、船体保護を優先。甲板へ上がってくるまでは深追いしないでください」
ヘルガは大きな武器を肩へ担ぎ、三番隊を接舷予定地点へ集めた。
エドガルドも前へ出るが、ヘルガの線を越えない。
ティアナは海上へ杖を向ける。
四番隊の隊員たちが、その背後へ術式を並べた。
オルフェオは船団中央の護衛船へ立ち、全体を見渡していた。
「隊列を維持。資材船を孤立させないでください」
海賊船の甲板へ、弓や魔法砲の準備が見える。
それでも、まだ遠い。
通常の攻撃補助表示には、射程外の警告が出ていた。
「距離は?」
ガトーショコラが尋ねる。
エメラルドが数値を送る。
「正面の船まで四千二百。右へ流されてる。向こうの指揮役は船尾楼」
その距離では、照準補助も発動しない。
スキルの有効範囲からも大きく外れている。
ガトーショコラは何も言わず、長銃を船縁へ固定した。
「ショコ姉?」
チョコチップが彼女の横顔を見る。
ガトーショコラは、遠くの海賊船だけを見ていた。
「風」
スフレが、自作の風向計を確認する。
「右から左へ。今、少し弱くなってる」
エメラルドが海図上へ、海賊船の予想進路を引いた。
「波の頂点へ乗るのは、八秒後」
ガトーショコラは呼吸を止めなかった。
船は揺れている。
標的の船も揺れている。
間には風と波がある。
弾丸が届くまでの間にも、互いの位置は変わる。
五秒。
六秒。
七秒。
海賊船が大きな波へ持ち上げられた。
ガトーショコラが引き金を引いた。
乾いた銃声が、広い海へ響いた。
弾丸は一度、視界から消えた。
数秒遅れて。
遠くの海賊船、その船尾楼にいた指揮役の頭上へ青い衝撃が走った。
海賊のアバターが光の粒子となって崩れる。
握られていた信号旗が、甲板へ落ちた。
旗の合図を失った三隻の進路が乱れる。
一隻が急に舵を切り、後ろの船とぶつかりかけた。
「命中」
エメラルドが、変化した進路を海図へ書き込む。
レナートも一瞬だけガトーショコラへ目を向けたが、すぐに次の指示へ移った。
「敵船の隊列が崩れました。中央船を基準に防御を継続してください」
「今の方を狙ったんですか?」
チョコチップが尋ねる。
「うん」
ガトーショコラは短く答え、次の弾丸を装填した。
その直後。
海賊船から放たれた砲弾が、長い弧を描いて船団へ飛んでくる。
ティアナが杖を上げた。
「止める」
青白い力場が海上へ立ち上がる。
砲弾が力場へ食い込み、急激に速度を失った。
海へ落下し、大きな水柱を上げる。
オルフェオの指示で護衛船が前へ出た。
一番隊。
二番隊。
三番隊。
四番隊。
それぞれが所定の位置を崩さず、近づいてくる海賊船へ攻撃を集中する。
指揮を失った海賊船は、接舷距離へ入る前に進路を変えた。
数発の砲撃を残し、霧の向こうへ退いていく。
オルフェオは追撃を命じなかった。
「目的は航路の確保です。船団から離れないでください」
攻略大部隊は、そのまま進路を維持した。
ガトーショコラの横では、スフレの風向計が変わらず真鍮の羽根を回していた。
エメラルドが海図を閉じる前に、狙撃地点と標的の位置へ細い線を引く。
「この距離を当てる人が、団ノ子にはいるんだね」
穏やかな声だったが、視線には確かな興味があった。
ガトーショコラは、霧の向こうへ長銃を向け直した。
「見えていたから」
その一発は、上陸する前から攻略大部隊の間へ広まった。
未開拓の岸
航海を続けて数時間。
前方の霧が少しずつ薄くなった。
最初に陸地を見つけたのは、海図を確認していたエメラルドだった。
ほとんど同時に、ガトーショコラも銃口を下ろす。
「見えた」
船の前方。
霧の向こうから、高い崖が姿を現した。
黒と灰色の岩。
崖の上へ広がる深い森。
その奥には、大地を切り裂くような谷と、遠く連なる山脈が見えている。
港はない。
町もない。
人の暮らす灯りもない。
<新大陸へ到達しました>
<未開拓フロンティア オブ アストラディール>
<大陸開拓率:0.4%>
船団のあちこちから歓声が上がった。
チョコチップは、しばらく前方を見つめていた。
「本当に、何もありませんね」
「うん」
みたらしっぽも、まだ白い地図と目の前の大地を見比べる。
安全な道も。
町も。
帰還拠点もない。
「ここから始めるんですね」
チョコチップの声には、不安だけでなく期待があった。
上陸地点には、先発隊が造った小さな桟橋と仮設柵しかなかった。
船から資材を下ろし、荷車へ積み替える。
攻略大部隊は、戦闘部隊、測量隊、道を整える作業隊、輸送列、後方護衛へ分けられた。
TRustDiamonDは四つの部隊を別々の位置へ配置する。
一番隊は先行部隊。
二番隊は輸送列の中央。
三番隊は側面警戒。
四番隊は後方と高所からの侵入阻止。
団ノ子は、第六輸送列の東側護衛を任された。
前方にはロウガンとシュガーシロップ。
つきみが荷車のすぐ横へつく。
みたらしっぽ、チョコチップ、エクレアが道の外側を動く。
後方にはアイリス、スフレ、ティオ。
ルカは防衛用の召喚陣を開き、甲冑をまとった獣型召喚体を荷車の外側へ配置した。
空には、小型の翼ある召喚獣が飛ぶ。
荷物を運ばせるためではない。
斜面や森から近づく敵を見つけ、接近する前に迎撃するためだった。
ガトーショコラとチロルは、遠距離から高所を確認する。
エスプレッソは隊列より先へ出ていた。
姿は見えない。
けれど、ギルドマップには彼女の位置だけが細く表示されている。
大部隊が歩き始める。
海岸から続く古い石道は、長い年月の間に土と草へ覆われていた。
荷車が通れない場所では、作業隊が地面を削る。
小さな谷へ木橋を架ける。
崩れた斜面へ杭を打つ。
その間、戦闘部隊が周囲を守る。
攻略大部隊が通った後には、新しい線が残っていった。
<南部上陸路・仮登録>
誰かが用意した道ではない。
今、歩いた場所が道になっている。
前方の霧が少しずつ薄くなった。
最初に陸地を見つけたのは、海図を確認していたエメラルドだった。
ほとんど同時に、ガトーショコラも銃口を下ろす。
「見えた」
船の前方。
霧の向こうから、高い崖が姿を現した。
黒と灰色の岩。
崖の上へ広がる深い森。
その奥には、大地を切り裂くような谷と、遠く連なる山脈が見えている。
港はない。
町もない。
人の暮らす灯りもない。
<新大陸へ到達しました>
<未開拓フロンティア オブ アストラディール>
<大陸開拓率:0.4%>
船団のあちこちから歓声が上がった。
チョコチップは、しばらく前方を見つめていた。
「本当に、何もありませんね」
「うん」
みたらしっぽも、まだ白い地図と目の前の大地を見比べる。
安全な道も。
町も。
帰還拠点もない。
「ここから始めるんですね」
チョコチップの声には、不安だけでなく期待があった。
上陸地点には、先発隊が造った小さな桟橋と仮設柵しかなかった。
船から資材を下ろし、荷車へ積み替える。
攻略大部隊は、戦闘部隊、測量隊、道を整える作業隊、輸送列、後方護衛へ分けられた。
TRustDiamonDは四つの部隊を別々の位置へ配置する。
一番隊は先行部隊。
二番隊は輸送列の中央。
三番隊は側面警戒。
四番隊は後方と高所からの侵入阻止。
団ノ子は、第六輸送列の東側護衛を任された。
前方にはロウガンとシュガーシロップ。
つきみが荷車のすぐ横へつく。
みたらしっぽ、チョコチップ、エクレアが道の外側を動く。
後方にはアイリス、スフレ、ティオ。
ルカは防衛用の召喚陣を開き、甲冑をまとった獣型召喚体を荷車の外側へ配置した。
空には、小型の翼ある召喚獣が飛ぶ。
荷物を運ばせるためではない。
斜面や森から近づく敵を見つけ、接近する前に迎撃するためだった。
ガトーショコラとチロルは、遠距離から高所を確認する。
エスプレッソは隊列より先へ出ていた。
姿は見えない。
けれど、ギルドマップには彼女の位置だけが細く表示されている。
大部隊が歩き始める。
海岸から続く古い石道は、長い年月の間に土と草へ覆われていた。
荷車が通れない場所では、作業隊が地面を削る。
小さな谷へ木橋を架ける。
崩れた斜面へ杭を打つ。
その間、戦闘部隊が周囲を守る。
攻略大部隊が通った後には、新しい線が残っていった。
<南部上陸路・仮登録>
誰かが用意した道ではない。
今、歩いた場所が道になっている。
谷に響く号令
内陸へ入るほど、地形は険しくなった。
道の片側は崖。
反対側は急な斜面。
谷底には、細い川が流れている。
輸送列は一列になり、前後へ長く伸びていた。
スフレは、自作した小型測量器を荷車の横へ歩かせていた。
歯車の脚が、石道の上を小さく動く。
針は地面の傾斜を記録していたが、突然、一定の間隔で震え始めた。
スフレが装置を拾い上げる。
「地面の振動が増えてる」
「前から?」
みたらしっぽが尋ねる。
「前だけじゃない。斜面の上と、道の下」
その直後。
空を飛んでいたルカの召喚獣が、鋭い鳴き声を上げた。
エスプレッソからも通信が届く。
「囲まれてる」
岩場の上へ、黒い影が並んだ。
狼に似た魔物。
ただし、背中には石のような甲殻があり、四肢は斜面へ食い込む長い爪を持っている。
前方。
側面。
後方。
輸送列を分断するように、数十体が斜面を滑り下りてきた。
「荷車を止めない!」
攻略大部隊の全体通信が響く。
一番隊の先頭で、オルフェオが巨大な盾を構えた。
正面から突進してきた大型個体が、盾へ激突する。
轟音。
オルフェオの足元から地面へ亀裂が走る。
それでも、不壊の城塞は一歩も退かなかった。
「一番隊、前進速度を維持」
レナートが回復術を重ねながら、後方へ指示を送る。
「エリオは右列。エメラルドは上段の敵を確認してください」
エリオは柔らかな笑みを消し、群れの中へ踏み込んだ。
一撃。
二撃。
三撃。
《首狩師》の連撃が途切れず重なり、敵の防御を削り取っていく。
戦闘が始まった瞬間から、彼の動きには歓喜に近い熱があった。
エメラルドは斜面を駆け上がりながら、新しく現れた敵の位置を地図へ刻む。
「北東の岩陰に六。さらに奥から来る」
その情報を受け、ロレッタが二番隊を動かした。
「トーキッシュは左を維持。アーストとフォルドは輸送列の間を空けないでください」
柔らかな姿と声。
しかし、第二隊の動きは一切乱れない。
ロレッタの広域回復が、長く伸びた輸送列へ同時に届く。
三番隊では、ヘルガが巨大な武器を片手で振り抜いた。
斜面から飛び込んできた大型個体が、空中で軌道を変え、そのまま地面へ叩きつけられる。
「エドガルド、前へ出すぎない」
「わかってる!」
返事をした直後には、エドガルドは倒れた敵の横へ踏み込んでいた。
直感に任せた勢いのよい斬撃。
それでも、ヘルガが作った戦線からは外れていない。
シェリルは後方から矢を放ち、三番隊へ迫る敵を確実に削っていく。
「右側、次の群れが来ます」
落ち着いた報告へ、リンドが短く頷いた。
ソーサラーである彼の足元へ、緑青色の術式が開く。
本来なら後衛に残るはずのクラスが、転移術で前線近くへ移動した。
「エドガルドの前へ出る速さに、普通に歩いていては追いつかない」
冷静な声のまま、敵の足元へ妨害魔法を重ねる。
第四隊のティアナは、谷の上から落下してきた岩と魔物を見上げた。
「そこで止める」
《フォース》の力場が、斜面の途中へ広がる。
敵も岩も、見えない壁へ押しつけられたように動きを失った。
四番隊の隊員たちが、その隙へ攻撃を集中する。
TRustDiamonDの四部隊は、離れた場所にいながら一つの軍のように動いていた。
団ノ子の前方では、ロウガンが大盾を構えた。
最初の魔物を受け止める。
「正面、止めた!」
その横から、シュガーシロップが大剣を振る。
一体目を押し返し、その後ろにいた二体までまとめて崩す。
つきみは荷車の斜面側へ剣を差し込み、短い魔法障壁を展開した。
「右側は少し抑える」
「チョコ、行ける?」
みたらしっぽが尋ねる。
「はい」
チョコチップが障壁の端から踏み込む。
狼型の魔物が振り下ろした爪を刀で流し、身体を回す。
一閃。
着地した魔物の胴へ、二撃目が入る。
別の影が、チョコチップの背後へ回った。
「チョコ、後ろ」
みたらしっぽの剣が、魔物の爪を受け止める。
チョコチップもすぐに振り返った。
二人の攻撃が重なり、魔物が光の粒子へ変わる。
「ありがとうございます、先輩」
「次が来る」
「はい」
エクレアは斜面の岩を蹴り、群れの中へ飛び込んだ。
一体へ斬撃を入れ、振り返った別の一体へ続けて攻撃を重ねる。
敵を倒しきることより、群れの視線を散らし、荷車へ集まる数を減らしていた。
銃声。
ガトーショコラの弾丸が、空中へ跳んだ魔物の頭部を撃ち抜く。
続けて、チロルの二丁銃が別の敵の脚と肩を捉えた。
前衛が間に合うまでの一瞬を作る。
ルカが魔道書を開いた。
荷車の横へ控えていた甲冑獣が地面を蹴り、斜面から飛び込んできた魔物へ体当たりする。
もう一つの召喚陣から、鎖をまとった獣型召喚体が現れた。
敵の足へ術式の鎖を巻きつけ、群れの前進を止める。
ルカ自身も召喚獣の後ろへ隠れず、次の術式を重ねていた。
ティオの魔法が、道の端へ細い炎の帯を作る。
魔物を焼き払うためではない。
一度に斜面から降りられる場所を狭めるためだった。
「こっちは通さないよぉ」
スフレの歌が、輸送列全体へ広がる。
足を軽くし、防御を高める旋律。
その傍らでは、測量器が敵の足音を拾い続けていた。
「下からも来る!」
スフレの警告と同時に、道の端が盛り上がる。
エスプレッソの黒い罠が先に展開され、地面から現れようとした魔物を拘束した。
「三体」
岩陰から現れたエスプレッソが告げる。
「今なら動ける」
アイリスの回復光が前衛へ届く。
ロウガン。
シュガーシロップ。
チョコチップ。
続いて、攻撃を受けた輸送NPC。
「前へ出るのは構わないけど、回復範囲からは消えないで」
アイリスの声を受け、エクレアも斜面から道へ戻った。
大部隊は止まらなかった。
敵を一体残らず追いかけるのではない。
荷車が通る道を開き、輸送列へ入り込む敵だけを確実に倒す。
前。
横。
後ろ。
誰かが見落とした場所へ、別の誰かが入る。
四人で始めた頃には、できなかった戦い方だった。
最後の大型個体が、ガトーショコラの銃弾を受けて崩れる。
谷へ、再び車輪と足音が戻った。
みたらしっぽはギルド一覧を確認した。
全員の表示がある。
一人も欠けていない。
「進もう」
隊列の前には、まだ白い地図が続いていた。
道の片側は崖。
反対側は急な斜面。
谷底には、細い川が流れている。
輸送列は一列になり、前後へ長く伸びていた。
スフレは、自作した小型測量器を荷車の横へ歩かせていた。
歯車の脚が、石道の上を小さく動く。
針は地面の傾斜を記録していたが、突然、一定の間隔で震え始めた。
スフレが装置を拾い上げる。
「地面の振動が増えてる」
「前から?」
みたらしっぽが尋ねる。
「前だけじゃない。斜面の上と、道の下」
その直後。
空を飛んでいたルカの召喚獣が、鋭い鳴き声を上げた。
エスプレッソからも通信が届く。
「囲まれてる」
岩場の上へ、黒い影が並んだ。
狼に似た魔物。
ただし、背中には石のような甲殻があり、四肢は斜面へ食い込む長い爪を持っている。
前方。
側面。
後方。
輸送列を分断するように、数十体が斜面を滑り下りてきた。
「荷車を止めない!」
攻略大部隊の全体通信が響く。
一番隊の先頭で、オルフェオが巨大な盾を構えた。
正面から突進してきた大型個体が、盾へ激突する。
轟音。
オルフェオの足元から地面へ亀裂が走る。
それでも、不壊の城塞は一歩も退かなかった。
「一番隊、前進速度を維持」
レナートが回復術を重ねながら、後方へ指示を送る。
「エリオは右列。エメラルドは上段の敵を確認してください」
エリオは柔らかな笑みを消し、群れの中へ踏み込んだ。
一撃。
二撃。
三撃。
《首狩師》の連撃が途切れず重なり、敵の防御を削り取っていく。
戦闘が始まった瞬間から、彼の動きには歓喜に近い熱があった。
エメラルドは斜面を駆け上がりながら、新しく現れた敵の位置を地図へ刻む。
「北東の岩陰に六。さらに奥から来る」
その情報を受け、ロレッタが二番隊を動かした。
「トーキッシュは左を維持。アーストとフォルドは輸送列の間を空けないでください」
柔らかな姿と声。
しかし、第二隊の動きは一切乱れない。
ロレッタの広域回復が、長く伸びた輸送列へ同時に届く。
三番隊では、ヘルガが巨大な武器を片手で振り抜いた。
斜面から飛び込んできた大型個体が、空中で軌道を変え、そのまま地面へ叩きつけられる。
「エドガルド、前へ出すぎない」
「わかってる!」
返事をした直後には、エドガルドは倒れた敵の横へ踏み込んでいた。
直感に任せた勢いのよい斬撃。
それでも、ヘルガが作った戦線からは外れていない。
シェリルは後方から矢を放ち、三番隊へ迫る敵を確実に削っていく。
「右側、次の群れが来ます」
落ち着いた報告へ、リンドが短く頷いた。
ソーサラーである彼の足元へ、緑青色の術式が開く。
本来なら後衛に残るはずのクラスが、転移術で前線近くへ移動した。
「エドガルドの前へ出る速さに、普通に歩いていては追いつかない」
冷静な声のまま、敵の足元へ妨害魔法を重ねる。
第四隊のティアナは、谷の上から落下してきた岩と魔物を見上げた。
「そこで止める」
《フォース》の力場が、斜面の途中へ広がる。
敵も岩も、見えない壁へ押しつけられたように動きを失った。
四番隊の隊員たちが、その隙へ攻撃を集中する。
TRustDiamonDの四部隊は、離れた場所にいながら一つの軍のように動いていた。
団ノ子の前方では、ロウガンが大盾を構えた。
最初の魔物を受け止める。
「正面、止めた!」
その横から、シュガーシロップが大剣を振る。
一体目を押し返し、その後ろにいた二体までまとめて崩す。
つきみは荷車の斜面側へ剣を差し込み、短い魔法障壁を展開した。
「右側は少し抑える」
「チョコ、行ける?」
みたらしっぽが尋ねる。
「はい」
チョコチップが障壁の端から踏み込む。
狼型の魔物が振り下ろした爪を刀で流し、身体を回す。
一閃。
着地した魔物の胴へ、二撃目が入る。
別の影が、チョコチップの背後へ回った。
「チョコ、後ろ」
みたらしっぽの剣が、魔物の爪を受け止める。
チョコチップもすぐに振り返った。
二人の攻撃が重なり、魔物が光の粒子へ変わる。
「ありがとうございます、先輩」
「次が来る」
「はい」
エクレアは斜面の岩を蹴り、群れの中へ飛び込んだ。
一体へ斬撃を入れ、振り返った別の一体へ続けて攻撃を重ねる。
敵を倒しきることより、群れの視線を散らし、荷車へ集まる数を減らしていた。
銃声。
ガトーショコラの弾丸が、空中へ跳んだ魔物の頭部を撃ち抜く。
続けて、チロルの二丁銃が別の敵の脚と肩を捉えた。
前衛が間に合うまでの一瞬を作る。
ルカが魔道書を開いた。
荷車の横へ控えていた甲冑獣が地面を蹴り、斜面から飛び込んできた魔物へ体当たりする。
もう一つの召喚陣から、鎖をまとった獣型召喚体が現れた。
敵の足へ術式の鎖を巻きつけ、群れの前進を止める。
ルカ自身も召喚獣の後ろへ隠れず、次の術式を重ねていた。
ティオの魔法が、道の端へ細い炎の帯を作る。
魔物を焼き払うためではない。
一度に斜面から降りられる場所を狭めるためだった。
「こっちは通さないよぉ」
スフレの歌が、輸送列全体へ広がる。
足を軽くし、防御を高める旋律。
その傍らでは、測量器が敵の足音を拾い続けていた。
「下からも来る!」
スフレの警告と同時に、道の端が盛り上がる。
エスプレッソの黒い罠が先に展開され、地面から現れようとした魔物を拘束した。
「三体」
岩陰から現れたエスプレッソが告げる。
「今なら動ける」
アイリスの回復光が前衛へ届く。
ロウガン。
シュガーシロップ。
チョコチップ。
続いて、攻撃を受けた輸送NPC。
「前へ出るのは構わないけど、回復範囲からは消えないで」
アイリスの声を受け、エクレアも斜面から道へ戻った。
大部隊は止まらなかった。
敵を一体残らず追いかけるのではない。
荷車が通る道を開き、輸送列へ入り込む敵だけを確実に倒す。
前。
横。
後ろ。
誰かが見落とした場所へ、別の誰かが入る。
四人で始めた頃には、できなかった戦い方だった。
最後の大型個体が、ガトーショコラの銃弾を受けて崩れる。
谷へ、再び車輪と足音が戻った。
みたらしっぽはギルド一覧を確認した。
全員の表示がある。
一人も欠けていない。
「進もう」
隊列の前には、まだ白い地図が続いていた。
道が集まる場所
大陸中央部へ到着するまで、何日もかかった。
崩れた橋を直す。
道を塞ぐ岩を取り除く。
安全な野営地を作る。
魔物の縄張りを避ける。
一度通った道が崩れ、別の経路を探し直す日もあった。
攻略大部隊が通過した場所には、少しずつ変化が残った。
仮設橋。
道標。
小さな見張り台。
隊商が休める柵。
地図を覆っていた白い霧も、少しずつ消えていく。
夜。
野営地では、団ノ子とTRustDiamonDの部隊が近い場所で休む日もあった。
スフレは焚き火の近くへ自作の測量器を置き、昼間に記録した傾斜と振動を確認している。
途中で拾った金属部品を使い、新しい脚をつけ直していた。
「前より、ちゃんと歩くようになった」
小さな機械は、地図の上を四歩進み、そこで止まった。
「五歩目が難しいね」
翌日には、また内部が少し変わっていた。
少し離れた場所では、エメラルドが大陸図を広げていた。
隣にはオルフェオ。
二人の手元には飲み物が置かれている。
現実でも知り合いだという二人は、大規模な攻略の前になると、こうして地図を挟んで作戦を立てることが多いらしい。
「北側は遠回りだけど、平坦だ」
エメラルドが道を示す。
「中央谷を抜ければ早い。ただし輸送列が一列になる」
オルフェオは、二本の道を見比べた。
「明日は中央谷を戦闘隊が先行。輸送隊は北へ回します」
レナートが、その決定を各隊長へ共有する。
みたらしっぽは、離れた場所からその様子を見ていた。
大規模レイドを専門にしてきたギルドは、戦闘が始まる前から動きが違う。
地図。
隊列。
役割。
誰がどこで止まり、誰が次へ進むのか。
すべてを、戦う前に揃えている。
やがて、先行探索隊から全体通信が届いた。
<大陸中央部に大規模な平坦地を発見>
<複数の古道が合流>
<水源および建設可能地を確認>
攻略大部隊は、長い坂を上った。
最後の岩場を越えた先で、急に視界が開ける。
大陸中央。
いくつもの谷に囲まれた、広い台地。
東西南北から伸びた古い石道が、一つの円形広場へ集まっていた。
中央には、大きな円卓にも見える古い石造りの基礎。
少し離れた場所には、浅い川が流れている。
南を見れば、攻略大部隊が歩いてきた谷。
東と西には山地へ続く道。
北には黒い森と、さらに高い山脈。
「ここなら」
ガトーショコラが古道を見渡す。
「どの方向へ開拓する時も、拠点にできる」
エメラルドも探索から戻ってきた。
「北と東へ道が続いてる。どちらも途中から未確認」
ロウガンは地面へ盾の先をつけ、地盤を確かめる。
「荷車の集積場所も取れるな」
つきみも川の方向を見た。
「水もある。町を作るなら、かなりいいと思う」
攻略大部隊の指揮官。
建設ギルド。
NPCの職人。
測量隊。
それぞれが台地の調査を始める。
夕方。
全参加者へ、新しいクエストが表示された。
<大陸中央拠点建設計画>
<古道合流地点を確保してください>
<防衛設備が完成するまで建設隊を護衛してください>
地面へ、これから作られる町の輪郭が表示された。
道路。
倉庫。
居住区。
市場。
門。
会議堂。
まだ何もない台地に、未来の町だけが淡く光っている。
崩れた橋を直す。
道を塞ぐ岩を取り除く。
安全な野営地を作る。
魔物の縄張りを避ける。
一度通った道が崩れ、別の経路を探し直す日もあった。
攻略大部隊が通過した場所には、少しずつ変化が残った。
仮設橋。
道標。
小さな見張り台。
隊商が休める柵。
地図を覆っていた白い霧も、少しずつ消えていく。
夜。
野営地では、団ノ子とTRustDiamonDの部隊が近い場所で休む日もあった。
スフレは焚き火の近くへ自作の測量器を置き、昼間に記録した傾斜と振動を確認している。
途中で拾った金属部品を使い、新しい脚をつけ直していた。
「前より、ちゃんと歩くようになった」
小さな機械は、地図の上を四歩進み、そこで止まった。
「五歩目が難しいね」
翌日には、また内部が少し変わっていた。
少し離れた場所では、エメラルドが大陸図を広げていた。
隣にはオルフェオ。
二人の手元には飲み物が置かれている。
現実でも知り合いだという二人は、大規模な攻略の前になると、こうして地図を挟んで作戦を立てることが多いらしい。
「北側は遠回りだけど、平坦だ」
エメラルドが道を示す。
「中央谷を抜ければ早い。ただし輸送列が一列になる」
オルフェオは、二本の道を見比べた。
「明日は中央谷を戦闘隊が先行。輸送隊は北へ回します」
レナートが、その決定を各隊長へ共有する。
みたらしっぽは、離れた場所からその様子を見ていた。
大規模レイドを専門にしてきたギルドは、戦闘が始まる前から動きが違う。
地図。
隊列。
役割。
誰がどこで止まり、誰が次へ進むのか。
すべてを、戦う前に揃えている。
やがて、先行探索隊から全体通信が届いた。
<大陸中央部に大規模な平坦地を発見>
<複数の古道が合流>
<水源および建設可能地を確認>
攻略大部隊は、長い坂を上った。
最後の岩場を越えた先で、急に視界が開ける。
大陸中央。
いくつもの谷に囲まれた、広い台地。
東西南北から伸びた古い石道が、一つの円形広場へ集まっていた。
中央には、大きな円卓にも見える古い石造りの基礎。
少し離れた場所には、浅い川が流れている。
南を見れば、攻略大部隊が歩いてきた谷。
東と西には山地へ続く道。
北には黒い森と、さらに高い山脈。
「ここなら」
ガトーショコラが古道を見渡す。
「どの方向へ開拓する時も、拠点にできる」
エメラルドも探索から戻ってきた。
「北と東へ道が続いてる。どちらも途中から未確認」
ロウガンは地面へ盾の先をつけ、地盤を確かめる。
「荷車の集積場所も取れるな」
つきみも川の方向を見た。
「水もある。町を作るなら、かなりいいと思う」
攻略大部隊の指揮官。
建設ギルド。
NPCの職人。
測量隊。
それぞれが台地の調査を始める。
夕方。
全参加者へ、新しいクエストが表示された。
<大陸中央拠点建設計画>
<古道合流地点を確保してください>
<防衛設備が完成するまで建設隊を護衛してください>
地面へ、これから作られる町の輪郭が表示された。
道路。
倉庫。
居住区。
市場。
門。
会議堂。
まだ何もない台地に、未来の町だけが淡く光っている。
四方の夜
日が沈む前に、台地の周囲へ大量の魔物反応が現れた。
攻略大部隊が長く留まることを察したらしい。
四本の古道。
北。
南。
東。
西。
すべての谷から、敵の咆哮が響いている。
北側は、オルフェオ率いる一番隊。
西側は、ロレッタの二番隊。
南側は、ヘルガの三番隊。
北東の高所と各方面への阻害支援を、ティアナの四番隊。
団ノ子は、東側の古道を任された。
「防衛設備が完成するまで、ここを通さない」
ロウガンが、道の中央へ盾を置いた。
シュガーシロップが左。
つきみが少し後ろ。
みたらしっぽ、チョコチップ、エクレアが、その間から前へ出る。
後方にはアイリス。
スフレ。
ティオ。
ルカ。
ガトーショコラとチロルは、左右の高所。
エスプレッソは暗くなり始めた古道の奥へ消えていた。
最初の群れが現れる。
ロウガンの盾へ、複数の魔物が同時にぶつかった。
シュガーシロップが左側の群れを押し返す。
つきみの障壁が、盾の上を越えようとする敵を止める。
みたらしっぽとチョコチップが開いた隙へ踏み込む。
エクレアが外側から敵の向きを崩す。
ルカの召喚陣が開く。
甲冑獣が前衛の横へ並び、盾を避けて回ろうとした魔物へ飛びかかった。
空の召喚獣は次の群れを見つけ、鋭い声で位置を知らせる。
スフレの歌が途切れず続く。
時折、足元の自作機械を確認し、地面を通じて近づく敵を早く知らせた。
ティオの魔法。
ガトーショコラとチロルの銃声。
アイリスの回復。
エスプレッソの罠。
団ノ子の後ろでは、建設隊が仮設柵を立てている。
見張り台の骨組みを作る。
資材置き場を囲う。
一度でも団ノ子が下がれば、建設途中の場所まで敵が入り込む。
北側では、オルフェオの盾が大型魔物の突進を受け止めていた。
敵の身体が盾を越えようとする。
それでも、オルフェオは戦線を動かさない。
レナートの正確な指示で、一番隊が左右から敵を削る。
エリオは連撃を途切れさせず、敵の中を進む。
エメラルドは戦いながら地図を更新し、新しく現れた進入口を共有していた。
西側。
ロレッタの声が部隊通信へ響く。
「二番隊、左列を半歩下げてください。回復範囲は変えません」
トーキッシュ、アースト、フォルドを含む隊員たちが、同時に位置を変える。
ロレッタの指示は少なくない。
それでも混乱はなかった。
南側。
ヘルガが大きな魔物の頭部へ武器を叩きつける。
両手用の武器を片手で振り回し、その巨体を地面へ沈めた。
エドガルドがすぐに懐へ入り、残った敵を切り崩す。
シェリルの矢が側面を守る。
リンドは前衛近くへ転移し、エドガルドの進行速度へ合わせて妨害術を放ち続けた。
高所では、ティアナのフォースが敵の増援を谷の途中へ縫い止めている。
「三十秒」
それだけを告げる。
四番隊の隊員たちは、その三十秒で倒しきれる敵へ攻撃を集中した。
一晩。
攻略大部隊は四方から押し寄せる敵を受け止め続けた。
東の空が薄く明るくなった頃。
最後の群れが谷へ退いていく。
台地を振り返る。
一晩前にはなかったものが、朝の光の中に並んでいた。
仮設の柵。
見張り台。
資材置き場。
調理場。
小さな倉庫。
<中央拠点建設地を確保しました>
<都市建設フェーズへ移行します>
円形広場の中央へ、最初の旗が立った。
攻略大部隊が長く留まることを察したらしい。
四本の古道。
北。
南。
東。
西。
すべての谷から、敵の咆哮が響いている。
北側は、オルフェオ率いる一番隊。
西側は、ロレッタの二番隊。
南側は、ヘルガの三番隊。
北東の高所と各方面への阻害支援を、ティアナの四番隊。
団ノ子は、東側の古道を任された。
「防衛設備が完成するまで、ここを通さない」
ロウガンが、道の中央へ盾を置いた。
シュガーシロップが左。
つきみが少し後ろ。
みたらしっぽ、チョコチップ、エクレアが、その間から前へ出る。
後方にはアイリス。
スフレ。
ティオ。
ルカ。
ガトーショコラとチロルは、左右の高所。
エスプレッソは暗くなり始めた古道の奥へ消えていた。
最初の群れが現れる。
ロウガンの盾へ、複数の魔物が同時にぶつかった。
シュガーシロップが左側の群れを押し返す。
つきみの障壁が、盾の上を越えようとする敵を止める。
みたらしっぽとチョコチップが開いた隙へ踏み込む。
エクレアが外側から敵の向きを崩す。
ルカの召喚陣が開く。
甲冑獣が前衛の横へ並び、盾を避けて回ろうとした魔物へ飛びかかった。
空の召喚獣は次の群れを見つけ、鋭い声で位置を知らせる。
スフレの歌が途切れず続く。
時折、足元の自作機械を確認し、地面を通じて近づく敵を早く知らせた。
ティオの魔法。
ガトーショコラとチロルの銃声。
アイリスの回復。
エスプレッソの罠。
団ノ子の後ろでは、建設隊が仮設柵を立てている。
見張り台の骨組みを作る。
資材置き場を囲う。
一度でも団ノ子が下がれば、建設途中の場所まで敵が入り込む。
北側では、オルフェオの盾が大型魔物の突進を受け止めていた。
敵の身体が盾を越えようとする。
それでも、オルフェオは戦線を動かさない。
レナートの正確な指示で、一番隊が左右から敵を削る。
エリオは連撃を途切れさせず、敵の中を進む。
エメラルドは戦いながら地図を更新し、新しく現れた進入口を共有していた。
西側。
ロレッタの声が部隊通信へ響く。
「二番隊、左列を半歩下げてください。回復範囲は変えません」
トーキッシュ、アースト、フォルドを含む隊員たちが、同時に位置を変える。
ロレッタの指示は少なくない。
それでも混乱はなかった。
南側。
ヘルガが大きな魔物の頭部へ武器を叩きつける。
両手用の武器を片手で振り回し、その巨体を地面へ沈めた。
エドガルドがすぐに懐へ入り、残った敵を切り崩す。
シェリルの矢が側面を守る。
リンドは前衛近くへ転移し、エドガルドの進行速度へ合わせて妨害術を放ち続けた。
高所では、ティアナのフォースが敵の増援を谷の途中へ縫い止めている。
「三十秒」
それだけを告げる。
四番隊の隊員たちは、その三十秒で倒しきれる敵へ攻撃を集中した。
一晩。
攻略大部隊は四方から押し寄せる敵を受け止め続けた。
東の空が薄く明るくなった頃。
最後の群れが谷へ退いていく。
台地を振り返る。
一晩前にはなかったものが、朝の光の中に並んでいた。
仮設の柵。
見張り台。
資材置き場。
調理場。
小さな倉庫。
<中央拠点建設地を確保しました>
<都市建設フェーズへ移行します>
円形広場の中央へ、最初の旗が立った。
町をつくる手
町は、建設開始の表示を押しただけでは完成しなかった。
木を切る。
石を運ぶ。
地面を固める。
道を広げる。
橋を架ける。
建物の骨組みを作る。
NPCの職人とプレイヤーの生産職が、何日もかけて形を作っていく。
団ノ子も、それぞれの得意な役割へ入った。
ガトーショコラとエスプレッソは、都市から伸びる古道の調査へ出た。
危険な場所。
崩れた橋。
水場。
資源。
二人が持ち帰った情報は、新しい交易路の設計へ使われる。
チロルもカフェへ戻らない日は調査へ加わり、二丁の銃で周囲を警戒した。
ロウガン、つきみ、シュガーシロップは、建設区画と輸送路の護衛。
みたらしっぽ、チョコチップ、エクレアは、何度も資材輸送隊を迎えに行った。
数日前に安全を確保した道でも、魔物の群れが戻っていることがある。
荷車が都市へ着くまで、戦闘は終わらない。
ルカは建設作業へ召喚獣を使役するのではなく、作業場の外周へ戦闘用の召喚陣を置いた。
空を巡る召喚獣が接近を知らせる。
甲冑獣が、作業員へ近づく魔物を迎撃する。
ルカ自身も召喚獣の位置を変えながら、建設隊を守った。
スフレは、歌による支援だけでなく、建設ギルドの作業場へよく顔を出すようになっていた。
船で見た巻き上げ機を参考に、小さな歯車式昇降機を作る。
最初は小さな石箱しか持ち上がらなかった。
部品を変え、滑車を増やし、魔石の出力を調整する。
数日後には、二人がかりで運んでいた建材を一人で持ち上げられるようになった。
「動いた」
スフレは、ゆっくり上がっていく石材を見上げた。
普段よりも少しだけ、声が弾んでいる。
「次は止める方を改良しないと」
降ろす時に機械が大きく揺れる。
完璧ではない。
それでも、自分で作った機械が本当に町の建設へ使われている。
作業の合間には、改良案を小さな図面へ書き込んでいた。
ティオとスフレは、仮設調理場も担当する。
新大陸で見つかった木の実。
香草。
肉。
建設作業へ向いた食事。
戦闘向けの支援料理。
一つずつ試していく。
アイリスは、魔物との戦闘だけでなく、建設作業で負傷したNPCや職人の回復にも追われていた。
「前線より、こっちの方が忙しい日もあるんだけど」
そう言いながらも、治療の手は止めない。
TRustDiamonDも、四部隊で都市建設を支えていた。
オルフェオとレナートは防衛線と建設順序を調整する。
エメラルドは古道を測量し、ターブルロンドから伸びる交易路の原型を地図へ残す。
夜になると、オルフェオと地図を挟み、飲み物を片手に翌日の経路を決めていた。
ロレッタの二番隊は、長く伸びる輸送列を整える。
ヘルガの三番隊は、建設地へ近づく大型魔物を討伐する。
ティアナの四番隊は、崩れやすい斜面や敵の通路をフォースで一時的に塞ぎ、作業時間を確保した。
数日後。
最初の正式な倉庫が完成した。
さらに数日後。
南門と、上陸地点へ続く広い道が開通した。
谷へ石橋が架かる。
NPCの商人がやって来る。
最初は布を張っただけの露店だった。
次に木造の店舗。
鍛冶屋。
宿屋。
素材店。
交易所。
建物が増えるほど、別の町や集落から人と荷物が集まってくる。
正式な審査を受けた品物を並べる商人。
まだ登録していない旅商人。
どこから仕入れたのかわからない品を売る怪しげな個人商店。
一流店の建設予定地の前で、胡散臭そうな商人が先に露店を開いていることもあった。
「昨日まで、ここは資材置き場でしたよね」
チョコチップが、にぎわい始めた通りを見る。
今日は食料品の店になっている。
店先ではNPCの親子が品物を選び、その横をプレイヤーの隊商が通り過ぎる。
「町って、完成してから人が来るわけではないんですね」
「人が来ながら、町になるんだと思う」
みたらしっぽが答えた。
毎日。
少しずつ景色が変わる。
道が増える。
店が増える。
知らないNPCの顔が増える。
FoFの世界が、自分たちの行動で変わっていく。
木を切る。
石を運ぶ。
地面を固める。
道を広げる。
橋を架ける。
建物の骨組みを作る。
NPCの職人とプレイヤーの生産職が、何日もかけて形を作っていく。
団ノ子も、それぞれの得意な役割へ入った。
ガトーショコラとエスプレッソは、都市から伸びる古道の調査へ出た。
危険な場所。
崩れた橋。
水場。
資源。
二人が持ち帰った情報は、新しい交易路の設計へ使われる。
チロルもカフェへ戻らない日は調査へ加わり、二丁の銃で周囲を警戒した。
ロウガン、つきみ、シュガーシロップは、建設区画と輸送路の護衛。
みたらしっぽ、チョコチップ、エクレアは、何度も資材輸送隊を迎えに行った。
数日前に安全を確保した道でも、魔物の群れが戻っていることがある。
荷車が都市へ着くまで、戦闘は終わらない。
ルカは建設作業へ召喚獣を使役するのではなく、作業場の外周へ戦闘用の召喚陣を置いた。
空を巡る召喚獣が接近を知らせる。
甲冑獣が、作業員へ近づく魔物を迎撃する。
ルカ自身も召喚獣の位置を変えながら、建設隊を守った。
スフレは、歌による支援だけでなく、建設ギルドの作業場へよく顔を出すようになっていた。
船で見た巻き上げ機を参考に、小さな歯車式昇降機を作る。
最初は小さな石箱しか持ち上がらなかった。
部品を変え、滑車を増やし、魔石の出力を調整する。
数日後には、二人がかりで運んでいた建材を一人で持ち上げられるようになった。
「動いた」
スフレは、ゆっくり上がっていく石材を見上げた。
普段よりも少しだけ、声が弾んでいる。
「次は止める方を改良しないと」
降ろす時に機械が大きく揺れる。
完璧ではない。
それでも、自分で作った機械が本当に町の建設へ使われている。
作業の合間には、改良案を小さな図面へ書き込んでいた。
ティオとスフレは、仮設調理場も担当する。
新大陸で見つかった木の実。
香草。
肉。
建設作業へ向いた食事。
戦闘向けの支援料理。
一つずつ試していく。
アイリスは、魔物との戦闘だけでなく、建設作業で負傷したNPCや職人の回復にも追われていた。
「前線より、こっちの方が忙しい日もあるんだけど」
そう言いながらも、治療の手は止めない。
TRustDiamonDも、四部隊で都市建設を支えていた。
オルフェオとレナートは防衛線と建設順序を調整する。
エメラルドは古道を測量し、ターブルロンドから伸びる交易路の原型を地図へ残す。
夜になると、オルフェオと地図を挟み、飲み物を片手に翌日の経路を決めていた。
ロレッタの二番隊は、長く伸びる輸送列を整える。
ヘルガの三番隊は、建設地へ近づく大型魔物を討伐する。
ティアナの四番隊は、崩れやすい斜面や敵の通路をフォースで一時的に塞ぎ、作業時間を確保した。
数日後。
最初の正式な倉庫が完成した。
さらに数日後。
南門と、上陸地点へ続く広い道が開通した。
谷へ石橋が架かる。
NPCの商人がやって来る。
最初は布を張っただけの露店だった。
次に木造の店舗。
鍛冶屋。
宿屋。
素材店。
交易所。
建物が増えるほど、別の町や集落から人と荷物が集まってくる。
正式な審査を受けた品物を並べる商人。
まだ登録していない旅商人。
どこから仕入れたのかわからない品を売る怪しげな個人商店。
一流店の建設予定地の前で、胡散臭そうな商人が先に露店を開いていることもあった。
「昨日まで、ここは資材置き場でしたよね」
チョコチップが、にぎわい始めた通りを見る。
今日は食料品の店になっている。
店先ではNPCの親子が品物を選び、その横をプレイヤーの隊商が通り過ぎる。
「町って、完成してから人が来るわけではないんですね」
「人が来ながら、町になるんだと思う」
みたらしっぽが答えた。
毎日。
少しずつ景色が変わる。
道が増える。
店が増える。
知らないNPCの顔が増える。
FoFの世界が、自分たちの行動で変わっていく。
交易中央都市ターブルロンド
円形広場には、大きな会議堂が建てられた。
中央へ置かれたのは、発見された古い石造りの基礎を利用した巨大な円卓。
主要都市を治める組織の代表者たちが、一つの場所へ集まり話し合うためのものだった。
都市名が決定する日。
広場には、多くのプレイヤーとNPCが集まった。
大陸の中央。
すべての主要な交易街道へつながる場所。
一流の店と、怪しげな個人商店が同じ通りへ並ぶ町。
円卓を中心に、異なる都市や組織がつながる場所。
<交易中央都市>
<ターブルロンド>
名前が表示された瞬間、広場全体から歓声が上がった。
<交易中央都市ターブルロンドが設立されました>
<円卓協議会が発足しました>
<交易者登録制度が開始されます>
<新規交易路が開放されます>
<大陸開拓率:12.6%>
交易者登録を済ませた商人の商品には、安全な審査済みを示す紋章がつけられる。
その代わり、取引には課税される。
登録店の並ぶ大通りから少し外れれば、無登録の露店や旅商人がバザーを開いている。
新しい町は、整然とした部分と雑然とした部分を同時に持っていた。
団ノ子の頭上にも、都市設立へ関わったことを示す貢献記録が表示される。
チョコチップは、新しく掲げられた都市旗を見上げた。
「私たちも、この町を作ったんですね」
「ほんの一部だけどね」
「それでもです」
運んだ資材。
守った道。
朝まで防衛した東の古道。
団ノ子がいなければ都市ができなかったとは言えない。
けれど。
この町のどこかには、団ノ子が動いた時間が残っている。
広場の反対側では、TRustDiamonDが新しい本部の候補地を確認していた。
一軍四部隊を収容できる広い敷地。
各交易路へ出やすい場所。
大規模レイドを専門にするギルドにとっても、ターブルロンドは理想的な拠点だった。
オルフェオが敷地の中央へ立っている。
レナートは施設配置を確認し、各部隊の必要区画を整理する。
ロレッタは二番隊の休息場所と回復設備を確認していた。
ヘルガは訓練場の広さを見ている。
ティアナは高所から町と街道を見渡し、短く頷いた。
ガトーショコラも、都市区画の物件一覧を開いていた。
一つの土地を表示し、みたらしっぽたちへ見せる。
「団ノ子も、ここへ移らない?」
中央へ置かれたのは、発見された古い石造りの基礎を利用した巨大な円卓。
主要都市を治める組織の代表者たちが、一つの場所へ集まり話し合うためのものだった。
都市名が決定する日。
広場には、多くのプレイヤーとNPCが集まった。
大陸の中央。
すべての主要な交易街道へつながる場所。
一流の店と、怪しげな個人商店が同じ通りへ並ぶ町。
円卓を中心に、異なる都市や組織がつながる場所。
<交易中央都市>
<ターブルロンド>
名前が表示された瞬間、広場全体から歓声が上がった。
<交易中央都市ターブルロンドが設立されました>
<円卓協議会が発足しました>
<交易者登録制度が開始されます>
<新規交易路が開放されます>
<大陸開拓率:12.6%>
交易者登録を済ませた商人の商品には、安全な審査済みを示す紋章がつけられる。
その代わり、取引には課税される。
登録店の並ぶ大通りから少し外れれば、無登録の露店や旅商人がバザーを開いている。
新しい町は、整然とした部分と雑然とした部分を同時に持っていた。
団ノ子の頭上にも、都市設立へ関わったことを示す貢献記録が表示される。
チョコチップは、新しく掲げられた都市旗を見上げた。
「私たちも、この町を作ったんですね」
「ほんの一部だけどね」
「それでもです」
運んだ資材。
守った道。
朝まで防衛した東の古道。
団ノ子がいなければ都市ができなかったとは言えない。
けれど。
この町のどこかには、団ノ子が動いた時間が残っている。
広場の反対側では、TRustDiamonDが新しい本部の候補地を確認していた。
一軍四部隊を収容できる広い敷地。
各交易路へ出やすい場所。
大規模レイドを専門にするギルドにとっても、ターブルロンドは理想的な拠点だった。
オルフェオが敷地の中央へ立っている。
レナートは施設配置を確認し、各部隊の必要区画を整理する。
ロレッタは二番隊の休息場所と回復設備を確認していた。
ヘルガは訓練場の広さを見ている。
ティアナは高所から町と街道を見渡し、短く頷いた。
ガトーショコラも、都市区画の物件一覧を開いていた。
一つの土地を表示し、みたらしっぽたちへ見せる。
「団ノ子も、ここへ移らない?」
新しい拠点
候補地は、中央広場から少し離れた大通り沿いにあった。
市場。
倉庫街。
北門へ続く道。
どこへも歩いて向かえる。
土地は、王都のギルドハウスより広かった。
正面には大通り。
建物の横には、資材を運び込める搬入口。
裏手には訓練場を作れる空間もある。
「ギルドハウスを、ここへ?」
エクレアが土地の中央へ立つ。
「ここを拠点にすれば、新大陸のどこへ行くにも便利になる」
ガトーショコラは都市と周辺地図を重ねた。
「南は港。東西と北には交易路。これから追加されるコンテンツも、たぶんこの周辺が起点になる」
「倉庫も広くできそう」
スフレは建設範囲を見ている。
「機械を組み立てる場所も作れるかも」
既に、作業場の一角へ自分の部品棚を置く姿を想像しているらしい。
ティオは調理場の候補位置を確認した。
「大きい窯も置けそうだねぇ」
ロウガンは裏手へ歩き、大盾を構えて壁予定位置との距離を測る。
「これだけあれば、訓練中に盾が壁へ当たることはない」
つきみも、町から伸びる道を見ている。
「拠点としては使いやすいと思う」
便利なのは、誰にでもわかった。
それでも、すぐに全員が賛成したわけではなかった。
王都のギルドハウス。
凍てつく城の攻略報酬を使って建てた、団ノ子の家。
絶対零度ニブルヘイムへ向けて、何度も作戦会議をした場所。
失敗した日にも戻り、攻略した夜には長く笑っていた場所。
チョコチップは新しい土地を見たまま、静かに言った。
「王都の家がなくなるのは、少し寂しいです」
「うん」
みたらしっぽも同じだった。
便利だから。
新しいから。
それだけで、簡単に離れられる場所ではない。
「今の家具や設備は、持ってこられる?」
みたらしっぽが尋ねる。
「持ってこられる」
ガトーショコラが答える。
「ただし、全部自分たちで移すことになるね」
家具は自動では転送されない。
固定された設備は、設置を担当した職人へ外してもらう。
大きな棚は分解する。
壊したくないものには保護材を巻く。
荷車へ積み。
王都から港へ運び。
船へ載せ。
ターブルロンドまで、もう一度運ぶ。
長い作業になる。
チョコチップは、新しい町の通りへ目を向けた。
団ノ子が守った道を、NPCの荷車が通っている。
自分たちが運んだ木材を使った店から、新しい客の声が聞こえる。
「中にあるものも、みんなで運べるんですよね」
「うん」
「長いテーブルも?」
「持ってこられる」
チョコチップは、みたらしっぽを見た。
「それなら、私はここへ移りたいです」
場所を捨てるのではない。
そこにあったものを、みんなで次の場所へ持っていく。
その言葉をきっかけに、一人ずつ意見を出した。
王都へ戻る時の経路。
チロルがカフェと往復する日程。
輸送費。
建設期間。
倉庫と訓練場の広さ。
最終的に、団ノ子はターブルロンドへの移転を決めた。
<ギルドハウス移転申請>
<移転先:交易中央都市ターブルロンド>
<建設期間中、王都拠点は利用可能です>
<家具および設備は自動転送されません>
エクレアが王都の荷物一覧を開いた。
表示を下へ動かす。
まだ続く。
さらに下。
「多いね……」
四人だった頃には、仮のテーブルしかなかった。
今は、一つの家へ収まりきらないほど物と仲間が増えている。
引っ越しもまた、一つの大きな攻略になりそうだった。
市場。
倉庫街。
北門へ続く道。
どこへも歩いて向かえる。
土地は、王都のギルドハウスより広かった。
正面には大通り。
建物の横には、資材を運び込める搬入口。
裏手には訓練場を作れる空間もある。
「ギルドハウスを、ここへ?」
エクレアが土地の中央へ立つ。
「ここを拠点にすれば、新大陸のどこへ行くにも便利になる」
ガトーショコラは都市と周辺地図を重ねた。
「南は港。東西と北には交易路。これから追加されるコンテンツも、たぶんこの周辺が起点になる」
「倉庫も広くできそう」
スフレは建設範囲を見ている。
「機械を組み立てる場所も作れるかも」
既に、作業場の一角へ自分の部品棚を置く姿を想像しているらしい。
ティオは調理場の候補位置を確認した。
「大きい窯も置けそうだねぇ」
ロウガンは裏手へ歩き、大盾を構えて壁予定位置との距離を測る。
「これだけあれば、訓練中に盾が壁へ当たることはない」
つきみも、町から伸びる道を見ている。
「拠点としては使いやすいと思う」
便利なのは、誰にでもわかった。
それでも、すぐに全員が賛成したわけではなかった。
王都のギルドハウス。
凍てつく城の攻略報酬を使って建てた、団ノ子の家。
絶対零度ニブルヘイムへ向けて、何度も作戦会議をした場所。
失敗した日にも戻り、攻略した夜には長く笑っていた場所。
チョコチップは新しい土地を見たまま、静かに言った。
「王都の家がなくなるのは、少し寂しいです」
「うん」
みたらしっぽも同じだった。
便利だから。
新しいから。
それだけで、簡単に離れられる場所ではない。
「今の家具や設備は、持ってこられる?」
みたらしっぽが尋ねる。
「持ってこられる」
ガトーショコラが答える。
「ただし、全部自分たちで移すことになるね」
家具は自動では転送されない。
固定された設備は、設置を担当した職人へ外してもらう。
大きな棚は分解する。
壊したくないものには保護材を巻く。
荷車へ積み。
王都から港へ運び。
船へ載せ。
ターブルロンドまで、もう一度運ぶ。
長い作業になる。
チョコチップは、新しい町の通りへ目を向けた。
団ノ子が守った道を、NPCの荷車が通っている。
自分たちが運んだ木材を使った店から、新しい客の声が聞こえる。
「中にあるものも、みんなで運べるんですよね」
「うん」
「長いテーブルも?」
「持ってこられる」
チョコチップは、みたらしっぽを見た。
「それなら、私はここへ移りたいです」
場所を捨てるのではない。
そこにあったものを、みんなで次の場所へ持っていく。
その言葉をきっかけに、一人ずつ意見を出した。
王都へ戻る時の経路。
チロルがカフェと往復する日程。
輸送費。
建設期間。
倉庫と訓練場の広さ。
最終的に、団ノ子はターブルロンドへの移転を決めた。
<ギルドハウス移転申請>
<移転先:交易中央都市ターブルロンド>
<建設期間中、王都拠点は利用可能です>
<家具および設備は自動転送されません>
エクレアが王都の荷物一覧を開いた。
表示を下へ動かす。
まだ続く。
さらに下。
「多いね……」
四人だった頃には、仮のテーブルしかなかった。
今は、一つの家へ収まりきらないほど物と仲間が増えている。
引っ越しもまた、一つの大きな攻略になりそうだった。
王都の家
新しいギルドハウスの建設には、数週間かかった。
その間、団ノ子は王都の家を少しずつ片づけていった。
大きな棚は木工師へ分解を依頼する。
固定された設備は工事ギルドへ外してもらう。
傷つけたくないものには、一つずつ保護材を巻く。
ガトーショコラの地図棚。
ティオの調理器具。
ルカが召喚術式の確認に使っていた魔法陣板。
ロウガンの訓練用盾。
チロルの銃整備台。
エクレアが何度も傷をつけた練習用の柱。
アイリスが回復薬を保管していた棚。
つきみが集めた攻略資料。
チョコチップが刀の手入れに使っていた小さな台。
エスプレッソの持ち物は多くない。
それでも、いつの間にか彼女の定位置になっていた窓際の椅子が一脚あった。
スフレの作業場には、歯車や魔石、自作機械の部品が増えていた。
測量器。
荷物の傾きを知らせる札。
建設現場で使った小型昇降機の試作品。
「これは、分解しないで運べる?」
スフレが昇降機の台を見ながら尋ねる。
職人は少し考えたあと、機構部分だけを外して別々に梱包した。
「新しい作業場で、また組み立てれば大丈夫」
スフレは部品へ自分で番号をつけていった。
中央の長いテーブルだけは、最後まで残された。
会議。
食事。
作戦。
雑談。
何度も全員が囲んだもの。
最終日の夜。
荷物のほとんどがなくなったギルドハウスへ、メンバーが集まった。
部屋は以前より広く見えた。
壁の地図も。
棚も。
椅子もない。
残っているのは、中央のテーブルと団ノ子の看板だけ。
みたらしっぽは、空になった部屋を見回した。
最初にこの家へ入った日のことを覚えている。
どの部屋を何へ使うかも決まっていなかった。
置いてある物も少なく、声を出せば少し響いた。
いつの間にか、誰かの声が聞こえることが当たり前になっていた。
「先輩」
チョコチップが隣へ来た。
「ここで、たくさんありましたね」
「うん」
絶対零度ニブルヘイム。
何度も失敗した作戦会議。
エスプレッソが正式に加入した夜。
装備の相談。
何でもない雑談。
全部、この家に残っている。
チョコチップは長いテーブルへ手を置いた。
「忘れませんよ」
静かな声だった。
「場所が変わっても」
みたらしっぽも同じテーブルへ触れた。
「持っていこう」
「はい」
翌日。
長いテーブルは職人たちによって分解された。
各部材へ番号がつけられ、傷がつかないよう丁寧に包まれる。
団ノ子の看板も外された。
最後の荷車へ積み込む。
王都の通りを、団ノ子の荷車が進んでいく。
ロウガンとシュガーシロップが前を歩く。
スフレは自作品の箱を確認し、ティオは調理器具を守る。
ルカは戦闘用の召喚獣を周囲へ出し、輸送中の護衛を続けた。
ガトーショコラとエスプレッソは、港までの道を先に確認する。
チロル。
つきみ。
アイリス。
エクレア。
チョコチップ。
全員が荷車と一緒に王都を出る。
みたらしっぽは最後に、空になったギルドハウスの扉を閉じた。
<旧ギルドハウスの返還処理を実行しますか?>
一度だけ中を振り返る。
何もない。
けれど、ここで過ごした時間までなくなるわけではない。
「行きましょう、先輩」
扉の外で、チョコチップが待っている。
その向こうには、団ノ子の仲間がいる。
みたらしっぽは返還を確定した。
<王都ペル・ゼノン拠点を返還しました>
扉から、団ノ子の表示が消える。
みたらしっぽは、新しい家へ向かう荷車を追いかけた。
その間、団ノ子は王都の家を少しずつ片づけていった。
大きな棚は木工師へ分解を依頼する。
固定された設備は工事ギルドへ外してもらう。
傷つけたくないものには、一つずつ保護材を巻く。
ガトーショコラの地図棚。
ティオの調理器具。
ルカが召喚術式の確認に使っていた魔法陣板。
ロウガンの訓練用盾。
チロルの銃整備台。
エクレアが何度も傷をつけた練習用の柱。
アイリスが回復薬を保管していた棚。
つきみが集めた攻略資料。
チョコチップが刀の手入れに使っていた小さな台。
エスプレッソの持ち物は多くない。
それでも、いつの間にか彼女の定位置になっていた窓際の椅子が一脚あった。
スフレの作業場には、歯車や魔石、自作機械の部品が増えていた。
測量器。
荷物の傾きを知らせる札。
建設現場で使った小型昇降機の試作品。
「これは、分解しないで運べる?」
スフレが昇降機の台を見ながら尋ねる。
職人は少し考えたあと、機構部分だけを外して別々に梱包した。
「新しい作業場で、また組み立てれば大丈夫」
スフレは部品へ自分で番号をつけていった。
中央の長いテーブルだけは、最後まで残された。
会議。
食事。
作戦。
雑談。
何度も全員が囲んだもの。
最終日の夜。
荷物のほとんどがなくなったギルドハウスへ、メンバーが集まった。
部屋は以前より広く見えた。
壁の地図も。
棚も。
椅子もない。
残っているのは、中央のテーブルと団ノ子の看板だけ。
みたらしっぽは、空になった部屋を見回した。
最初にこの家へ入った日のことを覚えている。
どの部屋を何へ使うかも決まっていなかった。
置いてある物も少なく、声を出せば少し響いた。
いつの間にか、誰かの声が聞こえることが当たり前になっていた。
「先輩」
チョコチップが隣へ来た。
「ここで、たくさんありましたね」
「うん」
絶対零度ニブルヘイム。
何度も失敗した作戦会議。
エスプレッソが正式に加入した夜。
装備の相談。
何でもない雑談。
全部、この家に残っている。
チョコチップは長いテーブルへ手を置いた。
「忘れませんよ」
静かな声だった。
「場所が変わっても」
みたらしっぽも同じテーブルへ触れた。
「持っていこう」
「はい」
翌日。
長いテーブルは職人たちによって分解された。
各部材へ番号がつけられ、傷がつかないよう丁寧に包まれる。
団ノ子の看板も外された。
最後の荷車へ積み込む。
王都の通りを、団ノ子の荷車が進んでいく。
ロウガンとシュガーシロップが前を歩く。
スフレは自作品の箱を確認し、ティオは調理器具を守る。
ルカは戦闘用の召喚獣を周囲へ出し、輸送中の護衛を続けた。
ガトーショコラとエスプレッソは、港までの道を先に確認する。
チロル。
つきみ。
アイリス。
エクレア。
チョコチップ。
全員が荷車と一緒に王都を出る。
みたらしっぽは最後に、空になったギルドハウスの扉を閉じた。
<旧ギルドハウスの返還処理を実行しますか?>
一度だけ中を振り返る。
何もない。
けれど、ここで過ごした時間までなくなるわけではない。
「行きましょう、先輩」
扉の外で、チョコチップが待っている。
その向こうには、団ノ子の仲間がいる。
みたらしっぽは返還を確定した。
<王都ペル・ゼノン拠点を返還しました>
扉から、団ノ子の表示が消える。
みたらしっぽは、新しい家へ向かう荷車を追いかけた。
新しいギルドハウス
ターブルロンドへ戻ると、建設途中だった頃とはまったく違う景色が広がっていた。
大きな都市門。
石造りの道。
各地から集まる荷車。
交易者登録の紋章を掲げた商店。
一流の装備店。
素材店。
料理店。
その間には、怪しげな個人商店や大荷物を背負った旅商人もいる。
中央には円卓協議会の会議堂。
大通りの一角には、TRustDiamonDの本部が完成していた。
四つの部隊が個別に訓練できる区画。
大型レイド用の会議室。
広い中庭。
その反対側の区画に、団ノ子の新しいギルドハウスが建っていた。
石造りの一階。
木材を使った二階。
大きな窓。
広い入口。
裏手には訓練場。
横には、倉庫へ直接荷物を運び込める搬入口がある。
中は、まだ空だった。
運んできた家具を一つずつ戻していく。
棚を組み立てる。
作業台を固定する。
調理場へ器具を設置する。
練習場へ柱と標的を運ぶ。
回復薬の棚を壁へつける。
スフレは、新しい作業場の隅へ自作機械の部品を並べた。
船で見た構造を参考にした昇降機。
測量器。
まだ名前のついていない、小さな歯車の装置。
王都の作業場よりも広い。
「今度は、組み立てたまま置ける」
嬉しそうに、工具箱を机へ置いた。
最後に、長いテーブルを会議室の中央へ運ぶ。
大きな天板を全員で持ち上げる。
少しずつ位置を合わせる。
ゆっくりと脚の上へ下ろす。
傷も。
色も。
王都にあった時と同じ。
入口には団ノ子の看板が掲げられた。
固定具を取りつける。
<ギルドハウス設備認証>
<所有ギルド:団ノ子>
<所在地:交易中央都市ターブルロンド>
<移転処理が完了しました>
通知が出た瞬間、自然に拍手が起こった。
エクレアが会議室の窓へ近づく。
「町が見える」
アイリスも少し遅れて隣へ立った。
「本当に移ったのね」
いつもより、少しだけ柔らかな表情だった。
ティオとスフレは新しい調理場を確認し、引っ越し祝いの準備を始める。
ルカは新しい召喚訓練区画へ立ち、召喚陣の広さを確かめていた。
チロルは窓から、カフェのある方角を見る。
「前より少し遠くなったけど、来る時の景色はよさそうだ」
ガトーショコラは、既に地図室へ新しい大陸図を広げていた。
エスプレッソも、その前に立っている。
白い場所。
未確認の道。
谷。
山。
黒い森。
都市ができても、大陸のほとんどはまだ開拓されていない。
夜。
新しい会議室へ団ノ子のメンバーが集まった。
引っ越し祝いの料理。
飲み物。
スフレの演奏。
窓の外には、交易中央都市ターブルロンドの明かりが広がっている。
遠くには円卓協議会の会議堂。
TRustDiamonDの本部。
夜になっても、大通りを荷車が行き交っている。
「少し前まで、何もなかったのに」
チョコチップが窓の近くで言った。
「もう、ずっと前からある町みたいです」
「いろんな人が同時に作ったからかな」
攻略隊。
職人。
商人。
NPC。
プレイヤー。
いくつもの道と、いくつもの目的が交わった場所。
団ノ子も、その中にいる。
チョコチップは新しいギルドハウスを見回した。
中央には、王都から運んできた長いテーブル。
その周りには、いつもの仲間がいる。
「ここも、すぐにいつもの場所になりますね」
「もうなってると思う」
みたらしっぽが答えると、チョコチップは小さく笑った。
「そうかもしれません」
場所が変わっても。
ここへ帰れば、団ノ子がいる。
大きな都市門。
石造りの道。
各地から集まる荷車。
交易者登録の紋章を掲げた商店。
一流の装備店。
素材店。
料理店。
その間には、怪しげな個人商店や大荷物を背負った旅商人もいる。
中央には円卓協議会の会議堂。
大通りの一角には、TRustDiamonDの本部が完成していた。
四つの部隊が個別に訓練できる区画。
大型レイド用の会議室。
広い中庭。
その反対側の区画に、団ノ子の新しいギルドハウスが建っていた。
石造りの一階。
木材を使った二階。
大きな窓。
広い入口。
裏手には訓練場。
横には、倉庫へ直接荷物を運び込める搬入口がある。
中は、まだ空だった。
運んできた家具を一つずつ戻していく。
棚を組み立てる。
作業台を固定する。
調理場へ器具を設置する。
練習場へ柱と標的を運ぶ。
回復薬の棚を壁へつける。
スフレは、新しい作業場の隅へ自作機械の部品を並べた。
船で見た構造を参考にした昇降機。
測量器。
まだ名前のついていない、小さな歯車の装置。
王都の作業場よりも広い。
「今度は、組み立てたまま置ける」
嬉しそうに、工具箱を机へ置いた。
最後に、長いテーブルを会議室の中央へ運ぶ。
大きな天板を全員で持ち上げる。
少しずつ位置を合わせる。
ゆっくりと脚の上へ下ろす。
傷も。
色も。
王都にあった時と同じ。
入口には団ノ子の看板が掲げられた。
固定具を取りつける。
<ギルドハウス設備認証>
<所有ギルド:団ノ子>
<所在地:交易中央都市ターブルロンド>
<移転処理が完了しました>
通知が出た瞬間、自然に拍手が起こった。
エクレアが会議室の窓へ近づく。
「町が見える」
アイリスも少し遅れて隣へ立った。
「本当に移ったのね」
いつもより、少しだけ柔らかな表情だった。
ティオとスフレは新しい調理場を確認し、引っ越し祝いの準備を始める。
ルカは新しい召喚訓練区画へ立ち、召喚陣の広さを確かめていた。
チロルは窓から、カフェのある方角を見る。
「前より少し遠くなったけど、来る時の景色はよさそうだ」
ガトーショコラは、既に地図室へ新しい大陸図を広げていた。
エスプレッソも、その前に立っている。
白い場所。
未確認の道。
谷。
山。
黒い森。
都市ができても、大陸のほとんどはまだ開拓されていない。
夜。
新しい会議室へ団ノ子のメンバーが集まった。
引っ越し祝いの料理。
飲み物。
スフレの演奏。
窓の外には、交易中央都市ターブルロンドの明かりが広がっている。
遠くには円卓協議会の会議堂。
TRustDiamonDの本部。
夜になっても、大通りを荷車が行き交っている。
「少し前まで、何もなかったのに」
チョコチップが窓の近くで言った。
「もう、ずっと前からある町みたいです」
「いろんな人が同時に作ったからかな」
攻略隊。
職人。
商人。
NPC。
プレイヤー。
いくつもの道と、いくつもの目的が交わった場所。
団ノ子も、その中にいる。
チョコチップは新しいギルドハウスを見回した。
中央には、王都から運んできた長いテーブル。
その周りには、いつもの仲間がいる。
「ここも、すぐにいつもの場所になりますね」
「もうなってると思う」
みたらしっぽが答えると、チョコチップは小さく笑った。
「そうかもしれません」
場所が変わっても。
ここへ帰れば、団ノ子がいる。
赤い紋章
引っ越し祝いが落ち着いた頃。
ガトーショコラが、会議室の大きな地図を更新した。
都市の周囲へ、新たに確認された地名が表示される。
<黒狼の神殿>
<サンダルフォン渓谷>
<黒龍の谷>
まだ入口と、大まかな位置しかわからない。
そのさらに奥。
霧の中には、複数のダンジョン候補地。
大型魔物の縄張り。
そして、一つの赤い紋章があった。
マルチパーティー向けコンテンツを示す印。
名称は、まだ表示されていない。
「都市を作って終わりではないみたいだね」
スフレが地図を見る。
「むしろ、ここからだと思う」
ガトーショコラが答える。
町ができたことで、各方面へ進めるようになった。
開拓が進むほど、新しいコンテンツが現れる。
既にほかのギルドも動き始めていた。
新ダンジョンの初回攻略。
大型魔物討伐。
交易路の発見。
画面の端へ、ギルド戦果の速報が流れていく。
TRustDiamonD。
WaldKingdom。
カントリーオールダー。
大規模ギルドの名前。
団ノ子の名も、都市建設の貢献者として表示されている。
ただし、戦闘実績ではない。
エクレアが、赤い紋章を見つめた。
「新しい拠点もできたし」
声には、いつもの勢いだけではないものがあった。
「次は、団ノ子の名前で大きいものを攻略したい」
シュガーシロップも頷く。
「大部隊の一部としてではなく、団ノ子だけで」
会議室の空気が、少し変わった。
チョコチップが地図から目を離し、みたらしっぽを見る。
「ギルドメンバーだけで、ですか」
その声には、不安よりも期待が強く混じっていた。
つきみは、赤い紋章と現在のメンバーを見比べている。
ロウガンも、すぐにできるとは言わなかった。
人数。
経験。
装備。
連携。
まだ足りないものはある。
絶対零度ニブルヘイムでは、何度も全滅した。
あの頃より、一人ずつ強くなった。
それでも、これまで以上の戦いへギルドだけで挑むなら、今のままでは足りないかもしれない。
訓練。
構成。
パーティー同士の連携。
準備しなければならないことは多い。
窓の向こう。
TRustDiamonDの本部では、四つの部隊が夜になっても訓練を続けていた。
一番隊。
二番隊。
三番隊。
四番隊。
個々の強さだけではない。
隊長。
副隊長。
隊員。
全員が役割を持ち、一つの大規模戦闘へ備えている。
みたらしっぽは、その光景を見たあと、団ノ子のメンバーへ視線を戻した。
「今日は、引っ越し祝いだから」
地図を一度閉じる。
「その話は、次にしよう」
誰も反対しなかった。
けれど。
赤い紋章を見ていた目は、簡単には離れなかった。
その夜。
全員が帰ったあと。
みたらしっぽは、一人で新しい会議室へ戻った。
窓の外には、ターブルロンドの夜景。
テーブルの上には、開拓途中のアストラディール。
ギルド情報を開く。
<団ノ子>
<所属人数>
<ギルド戦果>
<挑戦可能コンテンツ>
一覧の中に、超高難易度マルチパーティーレイドの項目があった。
名前は、まだ伏せられている。
参加条件だけが、赤い文字で並んでいた。
みたらしっぽは、団ノ子のメンバー一覧を開いた。
四人から始まった名前。
レイドで出会った仲間。
コロシアムから来た仲間。
大型アップデートで加わった仲間。
カフェで知り合った仲間。
助けた初心者。
最後のレイドを共に越えた探偵。
一人ずつ、同じ場所へ集まってきた。
この人数なら、挑めるかもしれない。
今のままでは、届かないかもしれない。
だから。
全員へ話す必要がある。
新しい大地に建てた、新しいギルドハウス。
次に、この長いテーブルを囲む理由は。
もう決まっていた。
ガトーショコラが、会議室の大きな地図を更新した。
都市の周囲へ、新たに確認された地名が表示される。
<黒狼の神殿>
<サンダルフォン渓谷>
<黒龍の谷>
まだ入口と、大まかな位置しかわからない。
そのさらに奥。
霧の中には、複数のダンジョン候補地。
大型魔物の縄張り。
そして、一つの赤い紋章があった。
マルチパーティー向けコンテンツを示す印。
名称は、まだ表示されていない。
「都市を作って終わりではないみたいだね」
スフレが地図を見る。
「むしろ、ここからだと思う」
ガトーショコラが答える。
町ができたことで、各方面へ進めるようになった。
開拓が進むほど、新しいコンテンツが現れる。
既にほかのギルドも動き始めていた。
新ダンジョンの初回攻略。
大型魔物討伐。
交易路の発見。
画面の端へ、ギルド戦果の速報が流れていく。
TRustDiamonD。
WaldKingdom。
カントリーオールダー。
大規模ギルドの名前。
団ノ子の名も、都市建設の貢献者として表示されている。
ただし、戦闘実績ではない。
エクレアが、赤い紋章を見つめた。
「新しい拠点もできたし」
声には、いつもの勢いだけではないものがあった。
「次は、団ノ子の名前で大きいものを攻略したい」
シュガーシロップも頷く。
「大部隊の一部としてではなく、団ノ子だけで」
会議室の空気が、少し変わった。
チョコチップが地図から目を離し、みたらしっぽを見る。
「ギルドメンバーだけで、ですか」
その声には、不安よりも期待が強く混じっていた。
つきみは、赤い紋章と現在のメンバーを見比べている。
ロウガンも、すぐにできるとは言わなかった。
人数。
経験。
装備。
連携。
まだ足りないものはある。
絶対零度ニブルヘイムでは、何度も全滅した。
あの頃より、一人ずつ強くなった。
それでも、これまで以上の戦いへギルドだけで挑むなら、今のままでは足りないかもしれない。
訓練。
構成。
パーティー同士の連携。
準備しなければならないことは多い。
窓の向こう。
TRustDiamonDの本部では、四つの部隊が夜になっても訓練を続けていた。
一番隊。
二番隊。
三番隊。
四番隊。
個々の強さだけではない。
隊長。
副隊長。
隊員。
全員が役割を持ち、一つの大規模戦闘へ備えている。
みたらしっぽは、その光景を見たあと、団ノ子のメンバーへ視線を戻した。
「今日は、引っ越し祝いだから」
地図を一度閉じる。
「その話は、次にしよう」
誰も反対しなかった。
けれど。
赤い紋章を見ていた目は、簡単には離れなかった。
その夜。
全員が帰ったあと。
みたらしっぽは、一人で新しい会議室へ戻った。
窓の外には、ターブルロンドの夜景。
テーブルの上には、開拓途中のアストラディール。
ギルド情報を開く。
<団ノ子>
<所属人数>
<ギルド戦果>
<挑戦可能コンテンツ>
一覧の中に、超高難易度マルチパーティーレイドの項目があった。
名前は、まだ伏せられている。
参加条件だけが、赤い文字で並んでいた。
みたらしっぽは、団ノ子のメンバー一覧を開いた。
四人から始まった名前。
レイドで出会った仲間。
コロシアムから来た仲間。
大型アップデートで加わった仲間。
カフェで知り合った仲間。
助けた初心者。
最後のレイドを共に越えた探偵。
一人ずつ、同じ場所へ集まってきた。
この人数なら、挑めるかもしれない。
今のままでは、届かないかもしれない。
だから。
全員へ話す必要がある。
新しい大地に建てた、新しいギルドハウス。
次に、この長いテーブルを囲む理由は。
もう決まっていた。