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空を渡る船
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帰ってきたギルドマスター
海上魔術都市アズールステラから戻った一行が、交易中央都市ターブルロンドへ到着したのは午後だった。
大通りを抜け、団ノ子のギルドハウスが見えてくる。
建物の横へ増築された飛行船ドック。
まだ外板のない長い船体骨格。
その周囲を歩き回る職人たち。
見慣れた場所へ帰ってきたはずなのに、アズールステラへ出発した時より工事が進んでいた。
「ただいま」
みたらしっぽが扉を開く。
最初に反応したのは、会議室で地図を見ていたチョコチップだった。
「先輩!」
椅子から立ち上がり、すぐに入口まで来る。
「おかえりなさい。無事だったんですね」
「ただいま、チョコ。少し遭難したけど、全員戻ってきたよ」
「少しではありませんよね……?」
心配そうに全身を確かめたあと、怪我が残っていないことへ安心したように笑った。
その後ろから、マリーシュトレン、フィリスフィナンシェ、フェタシェールも姿を見せる。
三人ともギルドハウスへ来るのは初めてではない。
けれど、みたらしっぽへ直接話したいことがあるため、帰還を待っていた。
「みた、おかえり」
フェタシェールが先に声をかける。
「ただいま。三人も来てたんだ」
「待ってたの」
フィナンシェが言った。
シュトレンも、少し緊張した様子で頷く。
みたらしっぽは三人の表情を見たあと、すぐに理由へ気づいた。
「ギルドの話?」
「うん」
フェタシェールは、曖昧にせず答えた。
「三人でFoFを遊ぶのも楽しい。でも、ここに来た時に帰る場所みたいに感じたから。団ノ子へ入りたい」
シュトレンも続く。
「私も。チョコちゃんたちと一緒に遊びたいし、もっと魔法のことを知りたい」
「私も入りたい」
フィナンシェは弓を背中から外し、会議室の壁へ立てかけた。
「まだみんなみたいには戦えないけど、少しずつ強くなりたいから」
三人の言葉を聞き終えたみたらしっぽは、長いテーブルの方へ歩いた。
「座って話そう」
チョコチップも三人の隣へ座る。
みたらしっぽはギルド管理画面を開いたが、すぐには加入申請を出さなかった。
「団ノ子へ入ったからといって、毎日ログインしないといけないわけじゃない。レイドへ必ず参加してもらうつもりもないよ」
三人の前へ、現在のギルド予定を表示する。
新大陸の探索。
飛行船建造。
通常のダンジョン攻略。
その先には、まだ内容の伏せられた超高難易度レイドもある。
「三人だけで遊びたい日も、そのままKirscheで遊んでいい。ほかの人とパーティーを組んでもいい。ただ、ギルドで一緒に何かを始めた時には、できる範囲で声をかけ合ってほしい」
「それでいいの?」
シュトレンが尋ねる。
「うん。遊び方までギルドが決めるものではないから」
みたらしっぽは、ようやく三人へ加入申請を送った。
「僕は、三人に入ってほしいと思ってた。始めたばかりの時に急いで誘わなかったのは、自分たちが何をしたいかを見つけてからの方がいいと思ったから」
フェタシェールの前へ、承認画面が開く。
続いてシュトレン。
フィナンシェ。
三人が順番に手を触れた。
<マリーシュトレンがギルド『団ノ子』へ加入しました>
<フィリスフィナンシェがギルド『団ノ子』へ加入しました>
<フェタシェールがギルド『団ノ子』へ加入しました>
三人の名前の下へ、団ノ子の紋章が表示される。
チョコチップは、その表示を見つめていた。
「レンちゃん、フィーちゃん、フェタ先輩」
表情が、はっきりと明るくなる。
「これからは、ギルドでも一緒ですね」
「うん」
シュトレンも嬉しそうに答えた。
フィナンシェは自分の名前表示を何度か確認する。
フェタシェールは会議室を見回した。
昨日までも入れる場所だった。
けれど。
今日からは、自分たちの拠点でもある。
「歓迎の料理を用意したいところだけど」
みたらしっぽは調理場の方を見た。
「ティオは?」
「二階です」
エスプレッソが答えた。
「寝てる」
「やっぱり?」
一行が二階へ上がる。
休憩室の窓際。
午後の日差しが差し込むソファーで、ティオは料理資料を胸へ乗せたまま眠っていた。
以前とほとんど同じ姿だった。
シュガーシロップは、ちょうど外から戻ってきたところらしく、肩へ大きな素材箱を担いでいる。
「まだ寝てるのか」
箱を床へ置き、ティオの肩を軽く叩く。
「起きろ。みたらしっぽたちが戻ったぞ」
「ん~……」
ティオがゆっくり目を開く。
「おかえり~」
「ただいま」
みたらしっぽが答える。
「それと、三人が団ノ子へ入ったよ」
ティオはシュトレンたちを見る。
眠そうな表情のまま、両手を小さく上げた。
「おめでとう~。あとで何か作るね~」
そのまま目を閉じそうになる。
シュガーシロップが、もう一度肩を叩いた。
「あとでじゃなく、今から飛行船も作るぞ」
「飛行船~……?」
ティオはしばらく考えた。
やがて、ゆっくり身体を起こす。
「じゃあ、ごはんがいるね~」
完全に目が覚めたとは言い難い。
それでもソファーから立ち上がり、調理場へ向かって歩き始めた。
シュガーシロップは素材箱を再び担ぐ。
「西側の採掘場で、補強用の金属を取ってきた。足りるかはスフレに見てもらう」
「助かる」
みたらしっぽは、帰ってきたばかりの仲間と、新しく入った三人を見る。
止まっていたギルドハウスの時間が、また一度に動き始めた。
大通りを抜け、団ノ子のギルドハウスが見えてくる。
建物の横へ増築された飛行船ドック。
まだ外板のない長い船体骨格。
その周囲を歩き回る職人たち。
見慣れた場所へ帰ってきたはずなのに、アズールステラへ出発した時より工事が進んでいた。
「ただいま」
みたらしっぽが扉を開く。
最初に反応したのは、会議室で地図を見ていたチョコチップだった。
「先輩!」
椅子から立ち上がり、すぐに入口まで来る。
「おかえりなさい。無事だったんですね」
「ただいま、チョコ。少し遭難したけど、全員戻ってきたよ」
「少しではありませんよね……?」
心配そうに全身を確かめたあと、怪我が残っていないことへ安心したように笑った。
その後ろから、マリーシュトレン、フィリスフィナンシェ、フェタシェールも姿を見せる。
三人ともギルドハウスへ来るのは初めてではない。
けれど、みたらしっぽへ直接話したいことがあるため、帰還を待っていた。
「みた、おかえり」
フェタシェールが先に声をかける。
「ただいま。三人も来てたんだ」
「待ってたの」
フィナンシェが言った。
シュトレンも、少し緊張した様子で頷く。
みたらしっぽは三人の表情を見たあと、すぐに理由へ気づいた。
「ギルドの話?」
「うん」
フェタシェールは、曖昧にせず答えた。
「三人でFoFを遊ぶのも楽しい。でも、ここに来た時に帰る場所みたいに感じたから。団ノ子へ入りたい」
シュトレンも続く。
「私も。チョコちゃんたちと一緒に遊びたいし、もっと魔法のことを知りたい」
「私も入りたい」
フィナンシェは弓を背中から外し、会議室の壁へ立てかけた。
「まだみんなみたいには戦えないけど、少しずつ強くなりたいから」
三人の言葉を聞き終えたみたらしっぽは、長いテーブルの方へ歩いた。
「座って話そう」
チョコチップも三人の隣へ座る。
みたらしっぽはギルド管理画面を開いたが、すぐには加入申請を出さなかった。
「団ノ子へ入ったからといって、毎日ログインしないといけないわけじゃない。レイドへ必ず参加してもらうつもりもないよ」
三人の前へ、現在のギルド予定を表示する。
新大陸の探索。
飛行船建造。
通常のダンジョン攻略。
その先には、まだ内容の伏せられた超高難易度レイドもある。
「三人だけで遊びたい日も、そのままKirscheで遊んでいい。ほかの人とパーティーを組んでもいい。ただ、ギルドで一緒に何かを始めた時には、できる範囲で声をかけ合ってほしい」
「それでいいの?」
シュトレンが尋ねる。
「うん。遊び方までギルドが決めるものではないから」
みたらしっぽは、ようやく三人へ加入申請を送った。
「僕は、三人に入ってほしいと思ってた。始めたばかりの時に急いで誘わなかったのは、自分たちが何をしたいかを見つけてからの方がいいと思ったから」
フェタシェールの前へ、承認画面が開く。
続いてシュトレン。
フィナンシェ。
三人が順番に手を触れた。
<マリーシュトレンがギルド『団ノ子』へ加入しました>
<フィリスフィナンシェがギルド『団ノ子』へ加入しました>
<フェタシェールがギルド『団ノ子』へ加入しました>
三人の名前の下へ、団ノ子の紋章が表示される。
チョコチップは、その表示を見つめていた。
「レンちゃん、フィーちゃん、フェタ先輩」
表情が、はっきりと明るくなる。
「これからは、ギルドでも一緒ですね」
「うん」
シュトレンも嬉しそうに答えた。
フィナンシェは自分の名前表示を何度か確認する。
フェタシェールは会議室を見回した。
昨日までも入れる場所だった。
けれど。
今日からは、自分たちの拠点でもある。
「歓迎の料理を用意したいところだけど」
みたらしっぽは調理場の方を見た。
「ティオは?」
「二階です」
エスプレッソが答えた。
「寝てる」
「やっぱり?」
一行が二階へ上がる。
休憩室の窓際。
午後の日差しが差し込むソファーで、ティオは料理資料を胸へ乗せたまま眠っていた。
以前とほとんど同じ姿だった。
シュガーシロップは、ちょうど外から戻ってきたところらしく、肩へ大きな素材箱を担いでいる。
「まだ寝てるのか」
箱を床へ置き、ティオの肩を軽く叩く。
「起きろ。みたらしっぽたちが戻ったぞ」
「ん~……」
ティオがゆっくり目を開く。
「おかえり~」
「ただいま」
みたらしっぽが答える。
「それと、三人が団ノ子へ入ったよ」
ティオはシュトレンたちを見る。
眠そうな表情のまま、両手を小さく上げた。
「おめでとう~。あとで何か作るね~」
そのまま目を閉じそうになる。
シュガーシロップが、もう一度肩を叩いた。
「あとでじゃなく、今から飛行船も作るぞ」
「飛行船~……?」
ティオはしばらく考えた。
やがて、ゆっくり身体を起こす。
「じゃあ、ごはんがいるね~」
完全に目が覚めたとは言い難い。
それでもソファーから立ち上がり、調理場へ向かって歩き始めた。
シュガーシロップは素材箱を再び担ぐ。
「西側の採掘場で、補強用の金属を取ってきた。足りるかはスフレに見てもらう」
「助かる」
みたらしっぽは、帰ってきたばかりの仲間と、新しく入った三人を見る。
止まっていたギルドハウスの時間が、また一度に動き始めた。
大きすぎる実験台
ドックへ入ったマドレーヌは、改めて飛行船の船体を見上げていた。
アズールステラで見た模型とは比べものにならない。
船首から船尾まで、何十歩もある。
左右へ張り出す推進翼の骨組み。
船底には、何基もの浮揚魔石。
中央には、古代機関庫の設計をもとに作られた大陸間航行機関が組み込まれている。
「研究室で使っていた模型とは、本当に別物だね」
「小さくしても、構造は同じだと思ってた」
スフレが操作台を開く。
「でも、大きくなるほど前と後ろで反応がずれる。船体自体も少し曲がるから、同じ出力を入れても同じ高さにはならない」
ロウガンは船体下部の安全架台を確認していた。
エイルは仮設操縦席へ入り、浮揚魔石の表示を一つずつ開く。
マドレーヌは新しい巻物を床へ広げた。
最初に行うのは、船が水平に浮いている状態を術式へ記録すること。
ただし。
まだ一度も、完全な水平状態で浮いたことはない。
まず機械制御だけで船体を持ち上げる。
少しずつ出力を調整する。
その一瞬を、マドレーヌがクラス外魔術へ記録する。
「浮揚出力、一段目」
スフレが操作する。
魔力炉の奥で、低い音が始まった。
浮揚魔石が前部から順番に光る。
船体骨格を固定していた索が少しずつ張り、巨大な船が組立架から離れた。
数センチ。
十センチ。
まだ大きく傾いている。
「前が高い!」
エイルが操縦席から声を上げる。
「後部二番、出力を上げてくれ!」
「上げる」
スフレが調整する。
船尾が持ち上がる。
今度は左側が下がった。
ロウガンが船体下へ入り、固定索の負荷を確認する。
「左の中央へ力が集まっている。これ以上は架台が持たない」
みたらしっぽは、全体の表示を見ながら指示を出した。
「一度下ろそう。今の出力差を記録して、次は最初から補正を入れる」
初日は。
水平状態を作るところまで届かなかった。
二日目。
浮揚魔石ごとの初期出力を変える。
船体は前日よりまっすぐ上がった。
それでも。
最後の数センチで船尾が遅れ、固定架へ触れた。
三日目。
スフレが機械側へ補正を追加した。
エイルが操縦席で左右の出力を手動調整する。
マドレーヌが、巻物へ船体の状態を書き込み続ける。
「あと少し」
船体が、初めて水平へ近づいた。
前後差、零・三。
左右差、零・二。
完全ではない。
けれど。
マドレーヌの術式が登録可能と判断する範囲へ入った。
「今、記録する!」
巻物の文字が一斉に光る。
細い術式の線が船体全体へ伸び、浮揚魔石を一つずつ結んでいった。
船体が淡い青色の膜へ包まれる。
表示が出る。
<基準状態の登録を確認>
<姿勢補正術式を開始>
前部の浮揚魔石が僅かに出力を落とす。
後部が上がる。
船体の傾きが、ゆっくりと消えていく。
「水平になった」
スフレが、何度も表示を見直す。
エイルも操縦席から船首と翼端を確認した。
「本当に揃ってる」
ドックへ集まっていた者たちの間から、拍手が起きた。
だが。
実験は、まだ終わっていなかった。
次は荷重試験。
船へ人と物が乗った状態でも、登録された水平を保てるかを確かめる。
みたらしっぽたちが、船体の中央へ用意された仮設甲板へ乗る。
最初は中央。
次に前部。
そして左側へ移動する。
全員が左へ寄った瞬間。
術式が強く光った。
右側の浮揚魔石が、一斉に出力を上げる。
「待って!」
マドレーヌが声を上げる。
船体が右へ傾く。
人の移動によって下がった左側を戻そうとして、術式が補正した。
けれど。
人が中央へ戻り始めたあとも補正が続いている。
船体が反対へ振れた。
固定索が激しく張る。
さらに術式が左側へ補正をかける。
巨大な船体が、振り子のように左右へ揺れ始めた。
「全員、船を降りて!」
みたらしっぽが叫ぶ。
エイルが緊急停止レバーを引く。
スフレも機関の出力を落とした。
だが、術式だけが基準状態へ戻そうと動き続けている。
「解除できない!」
マドレーヌが巻物へ手を置く。
記録された水平状態へ戻ることを優先し、解除命令が遅れていた。
ロウガンとシュガーシロップが安全架台を支える。
船底が右の支柱へ衝突した。
金属が大きく歪む。
次の揺れで、左後部の浮揚魔石へ亀裂が入った。
「術式、切るよ!」
マドレーヌが巻物の中央を破る。
青い線が一斉に消える。
船体が架台へ落ちた。
重い衝撃がドック全体へ広がる。
静けさが戻った時。
水平に浮いていたはずの船は、片側の支柱へ傾いていた。
浮揚魔石が一基破損。
安全架台も二本曲がっている。
誰も負傷していない。
それでも。
成功したと思った直後の失敗は重かった。
マドレーヌは破れた巻物を見つめた。
「私の術式が、船を壊しかけた」
スフレも、亀裂の入った浮揚魔石へ触れる。
「機械側も止められなかった」
「今日はここまでにしよう」
みたらしっぽが言った。
「壊れた場所を直す。原因を整理してから、次の実験をする」
「でも、今なら――」
スフレが振り返る。
「今のまま続けたら、次は安全架台では止まらない」
みたらしっぽの声は穏やかだった。
「完成させるために、今日全部を壊す必要はないよ」
スフレは船体を見上げたあと、ゆっくり頷いた。
アズールステラで見た模型とは比べものにならない。
船首から船尾まで、何十歩もある。
左右へ張り出す推進翼の骨組み。
船底には、何基もの浮揚魔石。
中央には、古代機関庫の設計をもとに作られた大陸間航行機関が組み込まれている。
「研究室で使っていた模型とは、本当に別物だね」
「小さくしても、構造は同じだと思ってた」
スフレが操作台を開く。
「でも、大きくなるほど前と後ろで反応がずれる。船体自体も少し曲がるから、同じ出力を入れても同じ高さにはならない」
ロウガンは船体下部の安全架台を確認していた。
エイルは仮設操縦席へ入り、浮揚魔石の表示を一つずつ開く。
マドレーヌは新しい巻物を床へ広げた。
最初に行うのは、船が水平に浮いている状態を術式へ記録すること。
ただし。
まだ一度も、完全な水平状態で浮いたことはない。
まず機械制御だけで船体を持ち上げる。
少しずつ出力を調整する。
その一瞬を、マドレーヌがクラス外魔術へ記録する。
「浮揚出力、一段目」
スフレが操作する。
魔力炉の奥で、低い音が始まった。
浮揚魔石が前部から順番に光る。
船体骨格を固定していた索が少しずつ張り、巨大な船が組立架から離れた。
数センチ。
十センチ。
まだ大きく傾いている。
「前が高い!」
エイルが操縦席から声を上げる。
「後部二番、出力を上げてくれ!」
「上げる」
スフレが調整する。
船尾が持ち上がる。
今度は左側が下がった。
ロウガンが船体下へ入り、固定索の負荷を確認する。
「左の中央へ力が集まっている。これ以上は架台が持たない」
みたらしっぽは、全体の表示を見ながら指示を出した。
「一度下ろそう。今の出力差を記録して、次は最初から補正を入れる」
初日は。
水平状態を作るところまで届かなかった。
二日目。
浮揚魔石ごとの初期出力を変える。
船体は前日よりまっすぐ上がった。
それでも。
最後の数センチで船尾が遅れ、固定架へ触れた。
三日目。
スフレが機械側へ補正を追加した。
エイルが操縦席で左右の出力を手動調整する。
マドレーヌが、巻物へ船体の状態を書き込み続ける。
「あと少し」
船体が、初めて水平へ近づいた。
前後差、零・三。
左右差、零・二。
完全ではない。
けれど。
マドレーヌの術式が登録可能と判断する範囲へ入った。
「今、記録する!」
巻物の文字が一斉に光る。
細い術式の線が船体全体へ伸び、浮揚魔石を一つずつ結んでいった。
船体が淡い青色の膜へ包まれる。
表示が出る。
<基準状態の登録を確認>
<姿勢補正術式を開始>
前部の浮揚魔石が僅かに出力を落とす。
後部が上がる。
船体の傾きが、ゆっくりと消えていく。
「水平になった」
スフレが、何度も表示を見直す。
エイルも操縦席から船首と翼端を確認した。
「本当に揃ってる」
ドックへ集まっていた者たちの間から、拍手が起きた。
だが。
実験は、まだ終わっていなかった。
次は荷重試験。
船へ人と物が乗った状態でも、登録された水平を保てるかを確かめる。
みたらしっぽたちが、船体の中央へ用意された仮設甲板へ乗る。
最初は中央。
次に前部。
そして左側へ移動する。
全員が左へ寄った瞬間。
術式が強く光った。
右側の浮揚魔石が、一斉に出力を上げる。
「待って!」
マドレーヌが声を上げる。
船体が右へ傾く。
人の移動によって下がった左側を戻そうとして、術式が補正した。
けれど。
人が中央へ戻り始めたあとも補正が続いている。
船体が反対へ振れた。
固定索が激しく張る。
さらに術式が左側へ補正をかける。
巨大な船体が、振り子のように左右へ揺れ始めた。
「全員、船を降りて!」
みたらしっぽが叫ぶ。
エイルが緊急停止レバーを引く。
スフレも機関の出力を落とした。
だが、術式だけが基準状態へ戻そうと動き続けている。
「解除できない!」
マドレーヌが巻物へ手を置く。
記録された水平状態へ戻ることを優先し、解除命令が遅れていた。
ロウガンとシュガーシロップが安全架台を支える。
船底が右の支柱へ衝突した。
金属が大きく歪む。
次の揺れで、左後部の浮揚魔石へ亀裂が入った。
「術式、切るよ!」
マドレーヌが巻物の中央を破る。
青い線が一斉に消える。
船体が架台へ落ちた。
重い衝撃がドック全体へ広がる。
静けさが戻った時。
水平に浮いていたはずの船は、片側の支柱へ傾いていた。
浮揚魔石が一基破損。
安全架台も二本曲がっている。
誰も負傷していない。
それでも。
成功したと思った直後の失敗は重かった。
マドレーヌは破れた巻物を見つめた。
「私の術式が、船を壊しかけた」
スフレも、亀裂の入った浮揚魔石へ触れる。
「機械側も止められなかった」
「今日はここまでにしよう」
みたらしっぽが言った。
「壊れた場所を直す。原因を整理してから、次の実験をする」
「でも、今なら――」
スフレが振り返る。
「今のまま続けたら、次は安全架台では止まらない」
みたらしっぽの声は穏やかだった。
「完成させるために、今日全部を壊す必要はないよ」
スフレは船体を見上げたあと、ゆっくり頷いた。
一つでは足りない正解
その夜。
会議室の長いテーブルは、飛行船の記録と魔術書で埋まっていた。
マドレーヌは破れた巻物を広げ直し、補正が止まらなかった原因を探している。
スフレは浮揚魔石の出力記録。
エイルは乗員が移動した時の船体の角度。
ロウガンは安全架台へ加わった衝撃。
みたらしっぽは、それらを時間順へ並べていた。
少し離れたところで、シュトレンがマドレーヌの巻物を読んでいる。
加入したばかりの三人にも、すぐに危険な作業を任せることはできない。
それでもシュトレンは、クラス外魔術そのものに強い興味を持っていた。
「この術式」
シュトレンが一行を指した。
「基準状態が、一つしかありません」
「うん」
マドレーヌが答える。
「船が水平な状態を一つ記録して、ずれたら戻すようにしてる」
「でも、人が左へ移動した時には、浮揚魔石の出力が変わっていても水平ですよね」
マドレーヌの手が止まる。
シュトレンは、船体図の上へ別の数値を書いた。
乗員が中央にいる状態。
左側へ寄った状態。
前部へ荷物を積んだ状態。
すべて、出力配分は違う。
それでも船体が水平なら、どれも正しい状態になる。
「一つの正解へ戻そうとするから、移動が終わったあとも補正が残ったのかもしれません」
「基準状態を一つではなく、複数持たせる……?」
マドレーヌは新しい画面を開いた。
外見切替術式でも、猫耳だけ。
瞳だけ。
両方。
複数の登録状態を持っている。
その中から、発動条件に合う状態を選んでいる。
「船の重さと位置に合わせて、基準を切り替えればいい」
マドレーヌの声が、少しずつ明るくなる。
「完全に同じ状態がなくても、近い二つから補間できるかもしれない」
「補間?」
「登録状態の間を作るの。左へ人が動いたら、中央状態から左荷重状態へ少しずつ移す」
シュトレンも術式へ新しい線を書き加える。
二人の会話は、次第に周囲の音が聞こえなくなるほど深くなっていった。
夜が更けても。
翌朝になっても。
二人は何度も巻物を書き直した。
マドレーヌが外見切替術式の構造を説明する。
シュトレンが、通常魔術との違いを尋ねる。
時には、猫耳の登録状態を例として呼び出す。
「耳だけなら、この記述を使うの」
マドレーヌの髪の上へ、桃色の猫耳が現れる。
シュトレンは術式と実物を見比べた。
「耳が動くところまで登録されているんですね」
「動かないと飾りみたいになるから」
マドレーヌは別の巻物を取り出した。
「シュトレンちゃんも試してみる?」
「私が?」
短い詠唱を教わり、シュトレンが慎重に再現する。
一度目は、片側の耳しか現れなかった。
二度目。
今度は左右揃った猫耳が、白い髪の上へ現れる。
マドレーヌが嬉しそうに笑った。
「できた」
シュトレンも、近くの鏡へ映る自分を見て笑う。
研究の合間。
二人で食事を取る時間も増えた。
マドレーヌはシュトレンの魔導書を見せてもらい、シュトレンはクラス外魔術の巻物を読む。
気づけば。
マドレーヌはチョコチップが呼ぶのと同じように、シュトレンを「レンちゃん」と呼ぶようになっていた。
シュトレンも。
最初よりずっと気軽に、マドレーヌへ質問を投げられるようになっていた。
会議室の長いテーブルは、飛行船の記録と魔術書で埋まっていた。
マドレーヌは破れた巻物を広げ直し、補正が止まらなかった原因を探している。
スフレは浮揚魔石の出力記録。
エイルは乗員が移動した時の船体の角度。
ロウガンは安全架台へ加わった衝撃。
みたらしっぽは、それらを時間順へ並べていた。
少し離れたところで、シュトレンがマドレーヌの巻物を読んでいる。
加入したばかりの三人にも、すぐに危険な作業を任せることはできない。
それでもシュトレンは、クラス外魔術そのものに強い興味を持っていた。
「この術式」
シュトレンが一行を指した。
「基準状態が、一つしかありません」
「うん」
マドレーヌが答える。
「船が水平な状態を一つ記録して、ずれたら戻すようにしてる」
「でも、人が左へ移動した時には、浮揚魔石の出力が変わっていても水平ですよね」
マドレーヌの手が止まる。
シュトレンは、船体図の上へ別の数値を書いた。
乗員が中央にいる状態。
左側へ寄った状態。
前部へ荷物を積んだ状態。
すべて、出力配分は違う。
それでも船体が水平なら、どれも正しい状態になる。
「一つの正解へ戻そうとするから、移動が終わったあとも補正が残ったのかもしれません」
「基準状態を一つではなく、複数持たせる……?」
マドレーヌは新しい画面を開いた。
外見切替術式でも、猫耳だけ。
瞳だけ。
両方。
複数の登録状態を持っている。
その中から、発動条件に合う状態を選んでいる。
「船の重さと位置に合わせて、基準を切り替えればいい」
マドレーヌの声が、少しずつ明るくなる。
「完全に同じ状態がなくても、近い二つから補間できるかもしれない」
「補間?」
「登録状態の間を作るの。左へ人が動いたら、中央状態から左荷重状態へ少しずつ移す」
シュトレンも術式へ新しい線を書き加える。
二人の会話は、次第に周囲の音が聞こえなくなるほど深くなっていった。
夜が更けても。
翌朝になっても。
二人は何度も巻物を書き直した。
マドレーヌが外見切替術式の構造を説明する。
シュトレンが、通常魔術との違いを尋ねる。
時には、猫耳の登録状態を例として呼び出す。
「耳だけなら、この記述を使うの」
マドレーヌの髪の上へ、桃色の猫耳が現れる。
シュトレンは術式と実物を見比べた。
「耳が動くところまで登録されているんですね」
「動かないと飾りみたいになるから」
マドレーヌは別の巻物を取り出した。
「シュトレンちゃんも試してみる?」
「私が?」
短い詠唱を教わり、シュトレンが慎重に再現する。
一度目は、片側の耳しか現れなかった。
二度目。
今度は左右揃った猫耳が、白い髪の上へ現れる。
マドレーヌが嬉しそうに笑った。
「できた」
シュトレンも、近くの鏡へ映る自分を見て笑う。
研究の合間。
二人で食事を取る時間も増えた。
マドレーヌはシュトレンの魔導書を見せてもらい、シュトレンはクラス外魔術の巻物を読む。
気づけば。
マドレーヌはチョコチップが呼ぶのと同じように、シュトレンを「レンちゃん」と呼ぶようになっていた。
シュトレンも。
最初よりずっと気軽に、マドレーヌへ質問を投げられるようになっていた。
進みすぎる補正
壊れた浮揚魔石と安全架台を修理し。
二度目の大型実験が始まった。
今度の術式には、複数の基準状態が登録されている。
中央荷重。
前部荷重。
後部荷重。
左右。
乗員が船上を移動すれば、魔術が近い状態を選び、ゆっくり補正を切り替える。
最初の試験は成功した。
人が左へ動く。
船体が僅かに傾く。
魔術が反応する。
今度は急激に右へ戻さない。
数秒かけ、船体を水平へ近づける。
「追いついてる」
エイルが操縦席から言う。
甲板上の者たちが、今度は右へ移動する。
補正も自然についてくる。
拍手は、まだ起きなかった。
前回のことを、全員覚えている。
みたらしっぽは、次の試験を指示する。
「左右へ続けて移動する。補正が切り替わる速さを見る」
乗員が左。
すぐに中央。
続けて右へ動く。
魔術が追う。
一度目は問題ない。
二度目。
右側の浮揚魔石が僅かに強く光った。
三度目。
前部と後部で、選択された基準状態がずれた。
船首は左荷重状態。
船尾は右荷重状態。
同じ船体の中で、別の補正が始まる。
「前と後ろが違う状態を選んでる!」
マドレーヌが巻物へ手を伸ばす。
船体が捻れた。
金属骨格から、低い悲鳴のような音が響く。
一方を戻そうとする魔術と。
反対を戻そうとする魔術。
補正が互いを誤差として判断し、さらに強くなっていく。
「止めるぞ!」
エイルが緊急停止を入れる。
今度はマドレーヌも、すぐに一斉解除術式を発動した。
青い線が消える。
船体は落ちなかった。
機械側の浮揚制御だけが残り、ゆっくり架台へ戻る。
大きな破損はない。
それでも。
中央骨格が僅かに捻れ、一部の魔力導線が外れていた。
「また失敗……」
マドレーヌは巻物を閉じる。
スフレも、船体へ残った歪みを見上げた。
数日をかけて作った術式。
数日をかけて直した船体。
前回とは別の理由で、また空へ出られない。
工房には。
使えなくなった巻物と部品が増えていった。
三度目の試験では、補正の切替を遅くした。
船体の捻れはなくなった。
代わりに、風へ反応するまでが遅すぎた。
四度目は、前後の基準を共有した。
今度は船首を上げる操縦まで、魔術が傾きとして打ち消した。
「曲がれねえ」
エイルが制御桿を倒す。
船首が僅かに動く。
すぐに魔術が水平へ戻す。
「姿勢は最高に安定してる。安定しすぎて、操縦まで拒んでやがる」
五度目。
操縦入力だけを補正から除外する。
だが。
外から受けた風と、操縦による傾きを術式が完全には区別できない。
飛行船は浮く。
水平にもなる。
それでも。
自由には飛べない。
日が変わる。
また変わる。
マドレーヌは研究室へ戻らず、団ノ子の客室で過ごしていた。
スフレも工房へ入り続ける。
ロウガンとエイルは、毎日のように船体と操縦室を調整する。
みたらしっぽは試験の合間を長く取り、誰かが休まずに作業へ戻ろうとすれば止めた。
「今日の記録を見ないまま次を試しても、同じ失敗をするよ」
全員が完成を急いでいる。
けれど。
急ぐほど、船は空から遠ざかるようにも感じられた。
二度目の大型実験が始まった。
今度の術式には、複数の基準状態が登録されている。
中央荷重。
前部荷重。
後部荷重。
左右。
乗員が船上を移動すれば、魔術が近い状態を選び、ゆっくり補正を切り替える。
最初の試験は成功した。
人が左へ動く。
船体が僅かに傾く。
魔術が反応する。
今度は急激に右へ戻さない。
数秒かけ、船体を水平へ近づける。
「追いついてる」
エイルが操縦席から言う。
甲板上の者たちが、今度は右へ移動する。
補正も自然についてくる。
拍手は、まだ起きなかった。
前回のことを、全員覚えている。
みたらしっぽは、次の試験を指示する。
「左右へ続けて移動する。補正が切り替わる速さを見る」
乗員が左。
すぐに中央。
続けて右へ動く。
魔術が追う。
一度目は問題ない。
二度目。
右側の浮揚魔石が僅かに強く光った。
三度目。
前部と後部で、選択された基準状態がずれた。
船首は左荷重状態。
船尾は右荷重状態。
同じ船体の中で、別の補正が始まる。
「前と後ろが違う状態を選んでる!」
マドレーヌが巻物へ手を伸ばす。
船体が捻れた。
金属骨格から、低い悲鳴のような音が響く。
一方を戻そうとする魔術と。
反対を戻そうとする魔術。
補正が互いを誤差として判断し、さらに強くなっていく。
「止めるぞ!」
エイルが緊急停止を入れる。
今度はマドレーヌも、すぐに一斉解除術式を発動した。
青い線が消える。
船体は落ちなかった。
機械側の浮揚制御だけが残り、ゆっくり架台へ戻る。
大きな破損はない。
それでも。
中央骨格が僅かに捻れ、一部の魔力導線が外れていた。
「また失敗……」
マドレーヌは巻物を閉じる。
スフレも、船体へ残った歪みを見上げた。
数日をかけて作った術式。
数日をかけて直した船体。
前回とは別の理由で、また空へ出られない。
工房には。
使えなくなった巻物と部品が増えていった。
三度目の試験では、補正の切替を遅くした。
船体の捻れはなくなった。
代わりに、風へ反応するまでが遅すぎた。
四度目は、前後の基準を共有した。
今度は船首を上げる操縦まで、魔術が傾きとして打ち消した。
「曲がれねえ」
エイルが制御桿を倒す。
船首が僅かに動く。
すぐに魔術が水平へ戻す。
「姿勢は最高に安定してる。安定しすぎて、操縦まで拒んでやがる」
五度目。
操縦入力だけを補正から除外する。
だが。
外から受けた風と、操縦による傾きを術式が完全には区別できない。
飛行船は浮く。
水平にもなる。
それでも。
自由には飛べない。
日が変わる。
また変わる。
マドレーヌは研究室へ戻らず、団ノ子の客室で過ごしていた。
スフレも工房へ入り続ける。
ロウガンとエイルは、毎日のように船体と操縦室を調整する。
みたらしっぽは試験の合間を長く取り、誰かが休まずに作業へ戻ろうとすれば止めた。
「今日の記録を見ないまま次を試しても、同じ失敗をするよ」
全員が完成を急いでいる。
けれど。
急ぐほど、船は空から遠ざかるようにも感じられた。
固く止めすぎないこと
ある日の昼。
ドックの端に設けられた休憩場所で、ティオが大きな鍋を見ていた。
建造へ加わる者が増えたため、食事も大量に必要になっている。
ティオは朝からスープを作っていたが。
配膳を終えると、窓から差し込む日差しの下で再び眠りかけていた。
隣では、スフレが新しい補正装置の図面を見つめている。
「また固めるの~?」
ティオが、目を閉じたまま尋ねた。
「船体が揺れないようにしないといけないから」
「でも、揺れないように固くすると、全部一緒に揺れるよ~」
スフレが顔を上げる。
ティオは、鍋を吊り下げている小さな枠を指した。
鍋は三本の鎖で支えられている。
人が机へ触れても。
鍋だけは少し遅れて揺れ、すぐに中央へ戻る。
「船で料理する時は、鍋を台へ固く置かないんだよ~」
ティオは眠そうな声のまま続ける。
「少し動けるようにしておくと、船が揺れても中身がこぼれにくいの~」
スフレは鍋を見た。
船体の揺れを。
魔術ですべて打ち消そうとしていた。
小さな振動まで補正する。
乗員の移動まで補正する。
そのため、魔術が必要以上に船体へ干渉していた。
「全部を水平へ戻さなくてもいい……」
スフレは図面を引き寄せる。
「少しの揺れは、機械側で逃がす」
ロウガンとシュガーシロップを呼ぶ。
浮揚魔石を船体へ直接固定せず、可動する枠の中へ収める。
通常の揺れでは枠が動き。
船体へ伝わる前に衝撃を減らす。
一定以上の傾きが出た時だけ、マドレーヌの術式が姿勢を戻す。
「魔術へ、全部の仕事をさせない」
ロウガンが構造図を見る。
「小さい力は機械で受ける。大きく崩れた時だけ術式へ渡す」
シュガーシロップは、可動枠へ使う素材を持ち上げた。
先日持ち帰った補強金属。
弾力のある魔獣素材。
摩擦を減らす軸受。
「組めそうだな」
その日の午後から。
三人は浮揚魔石の固定構造を作り直した。
シュガーシロップが強い衝撃を与える。
可動枠が動く。
船体へ届く力をロウガンが測る。
スフレが軸の位置を変える。
また試す。
何度も繰り返す。
夕方。
ティオは作業台の近くで、また眠っていた。
みたらしっぽが毛布を掛ける。
「起きてるよ~」
「うん。知ってる」
目は閉じたままだった。
それでも。
彼の何気ない一言から、行き詰まっていた飛行船の構造が変わり始めていた。
ドックの端に設けられた休憩場所で、ティオが大きな鍋を見ていた。
建造へ加わる者が増えたため、食事も大量に必要になっている。
ティオは朝からスープを作っていたが。
配膳を終えると、窓から差し込む日差しの下で再び眠りかけていた。
隣では、スフレが新しい補正装置の図面を見つめている。
「また固めるの~?」
ティオが、目を閉じたまま尋ねた。
「船体が揺れないようにしないといけないから」
「でも、揺れないように固くすると、全部一緒に揺れるよ~」
スフレが顔を上げる。
ティオは、鍋を吊り下げている小さな枠を指した。
鍋は三本の鎖で支えられている。
人が机へ触れても。
鍋だけは少し遅れて揺れ、すぐに中央へ戻る。
「船で料理する時は、鍋を台へ固く置かないんだよ~」
ティオは眠そうな声のまま続ける。
「少し動けるようにしておくと、船が揺れても中身がこぼれにくいの~」
スフレは鍋を見た。
船体の揺れを。
魔術ですべて打ち消そうとしていた。
小さな振動まで補正する。
乗員の移動まで補正する。
そのため、魔術が必要以上に船体へ干渉していた。
「全部を水平へ戻さなくてもいい……」
スフレは図面を引き寄せる。
「少しの揺れは、機械側で逃がす」
ロウガンとシュガーシロップを呼ぶ。
浮揚魔石を船体へ直接固定せず、可動する枠の中へ収める。
通常の揺れでは枠が動き。
船体へ伝わる前に衝撃を減らす。
一定以上の傾きが出た時だけ、マドレーヌの術式が姿勢を戻す。
「魔術へ、全部の仕事をさせない」
ロウガンが構造図を見る。
「小さい力は機械で受ける。大きく崩れた時だけ術式へ渡す」
シュガーシロップは、可動枠へ使う素材を持ち上げた。
先日持ち帰った補強金属。
弾力のある魔獣素材。
摩擦を減らす軸受。
「組めそうだな」
その日の午後から。
三人は浮揚魔石の固定構造を作り直した。
シュガーシロップが強い衝撃を与える。
可動枠が動く。
船体へ届く力をロウガンが測る。
スフレが軸の位置を変える。
また試す。
何度も繰り返す。
夕方。
ティオは作業台の近くで、また眠っていた。
みたらしっぽが毛布を掛ける。
「起きてるよ~」
「うん。知ってる」
目は閉じたままだった。
それでも。
彼の何気ない一言から、行き詰まっていた飛行船の構造が変わり始めていた。
一緒に作る人
飛行船の開発が続く間。
新しく入った三人も、少しずつ作業へ加わっていた。
危険な浮揚試験へは近づかない。
それでも。
巻物へ魔術文字を写す。
小型模型で出力差を測る。
部品番号を照合する。
材料を町の工房へ受け取りに行く。
できることはいくつもあった。
その中でも。
シュトレンは、ほとんど毎日マドレーヌの近くにいた。
二人で作った複数基準の術式。
失敗した記録。
新しい可動枠に合わせた補正範囲。
巻物は何度も書き直されている。
「ここ」
シュトレンが詠唱文を指した。
「操縦入力を受けた時だけ、基準状態そのものを動かせませんか?」
「補正から除外するのではなく?」
「はい。船首を上げた時に、魔術が元の水平へ戻すのではなく、新しい角度を基準として受け入れるんです」
マドレーヌは、エイルの操縦記録を開いた。
制御桿。
船首角度。
旋回方向。
操縦者が意図して変えた状態を、新しい目標として術式へ渡す。
外からの風や荷重による傾きだけを、誤差として補正する。
「これなら、魔術が操縦を邪魔しないかもしれない」
「試してみたいです」
「うん。レンちゃん、一緒に書こう」
二人は新しい巻物を開いた。
気づけば。
アズールステラから持ってきた研究資料だけではなく。
シュトレンの魔導書。
団ノ子の試験記録。
スフレの機械図面。
エイルの操縦記録。
いくつもの分野が、一つの術式へ重なっていた。
夜。
作業を終えた二人は、ギルドハウスの窓際へ並んで座った。
ドックには、まだ作業灯がついている。
「完成したら」
シュトレンが尋ねる。
「マドレーヌさんは、アズールステラへ戻るんですか?」
「研究室は向こうにあるからね」
マドレーヌは、すぐには続きを言わなかった。
ターブルロンドへ来た時。
実物の飛行船で研究できれば、それでよいと思っていた。
成功したら。
記録を持ち帰り、次の研究へ進むつもりだった。
けれど。
今では。
飛行船だけを見ているわけではない。
工房で機械を作るスフレ。
操縦席へ座るエイル。
船体を支えるロウガン。
毎日、作業へ加わる団ノ子のメンバー。
その中には、隣で巻物を書いているシュトレンもいる。
「戻っても、また来ると思う」
マドレーヌが答える。
「この船が飛んだあとも、改良する魔術はたくさんあるから」
「それならよかった」
シュトレンは小さく笑った。
マドレーヌも、ドックへ視線を戻す。
少しして。
みたらしっぽが二人のところへ来た。
手には、ギルド管理画面が開かれている。
「マドレーヌさん」
「何?」
「飛行船が完成したあとも、一緒に作らない?」
マドレーヌが画面を見る。
<ギルド『団ノ子』への加入招待>
「研究協力者としてではなく?」
「もう、研究を持ってきただけの人ではないから」
みたらしっぽはドックを見た。
「飛行船の魔術を一番知っているのはマドレーヌさんだし、この先も必要になる。それに、僕たちはもう一緒に何度も失敗してる」
マドレーヌは、一瞬だけ目を丸くした。
やがて。
楽しそうに笑う。
「失敗まで加入理由にするんだ」
「成功だけ一緒にするより、ずっと仲間らしいと思う」
シュトレンも、加入画面を嬉しそうに見ていた。
マドレーヌは承認へ手を触れる。
<セシールマドレーヌがギルド『団ノ子』へ加入しました>
名前の下へ、団ノ子の紋章が表示される。
マドレーヌは、その印をしばらく見た。
「これで、研究室へ戻っても団ノ子なんだね」
「はい」
シュトレンが答える。
「これからも一緒です」
「うん」
マドレーヌは、巻物を抱えて立ち上がった。
「じゃあ、団ノ子へ入って最初の仕事は、あの船を飛ばすことだね」
新しく入った三人も、少しずつ作業へ加わっていた。
危険な浮揚試験へは近づかない。
それでも。
巻物へ魔術文字を写す。
小型模型で出力差を測る。
部品番号を照合する。
材料を町の工房へ受け取りに行く。
できることはいくつもあった。
その中でも。
シュトレンは、ほとんど毎日マドレーヌの近くにいた。
二人で作った複数基準の術式。
失敗した記録。
新しい可動枠に合わせた補正範囲。
巻物は何度も書き直されている。
「ここ」
シュトレンが詠唱文を指した。
「操縦入力を受けた時だけ、基準状態そのものを動かせませんか?」
「補正から除外するのではなく?」
「はい。船首を上げた時に、魔術が元の水平へ戻すのではなく、新しい角度を基準として受け入れるんです」
マドレーヌは、エイルの操縦記録を開いた。
制御桿。
船首角度。
旋回方向。
操縦者が意図して変えた状態を、新しい目標として術式へ渡す。
外からの風や荷重による傾きだけを、誤差として補正する。
「これなら、魔術が操縦を邪魔しないかもしれない」
「試してみたいです」
「うん。レンちゃん、一緒に書こう」
二人は新しい巻物を開いた。
気づけば。
アズールステラから持ってきた研究資料だけではなく。
シュトレンの魔導書。
団ノ子の試験記録。
スフレの機械図面。
エイルの操縦記録。
いくつもの分野が、一つの術式へ重なっていた。
夜。
作業を終えた二人は、ギルドハウスの窓際へ並んで座った。
ドックには、まだ作業灯がついている。
「完成したら」
シュトレンが尋ねる。
「マドレーヌさんは、アズールステラへ戻るんですか?」
「研究室は向こうにあるからね」
マドレーヌは、すぐには続きを言わなかった。
ターブルロンドへ来た時。
実物の飛行船で研究できれば、それでよいと思っていた。
成功したら。
記録を持ち帰り、次の研究へ進むつもりだった。
けれど。
今では。
飛行船だけを見ているわけではない。
工房で機械を作るスフレ。
操縦席へ座るエイル。
船体を支えるロウガン。
毎日、作業へ加わる団ノ子のメンバー。
その中には、隣で巻物を書いているシュトレンもいる。
「戻っても、また来ると思う」
マドレーヌが答える。
「この船が飛んだあとも、改良する魔術はたくさんあるから」
「それならよかった」
シュトレンは小さく笑った。
マドレーヌも、ドックへ視線を戻す。
少しして。
みたらしっぽが二人のところへ来た。
手には、ギルド管理画面が開かれている。
「マドレーヌさん」
「何?」
「飛行船が完成したあとも、一緒に作らない?」
マドレーヌが画面を見る。
<ギルド『団ノ子』への加入招待>
「研究協力者としてではなく?」
「もう、研究を持ってきただけの人ではないから」
みたらしっぽはドックを見た。
「飛行船の魔術を一番知っているのはマドレーヌさんだし、この先も必要になる。それに、僕たちはもう一緒に何度も失敗してる」
マドレーヌは、一瞬だけ目を丸くした。
やがて。
楽しそうに笑う。
「失敗まで加入理由にするんだ」
「成功だけ一緒にするより、ずっと仲間らしいと思う」
シュトレンも、加入画面を嬉しそうに見ていた。
マドレーヌは承認へ手を触れる。
<セシールマドレーヌがギルド『団ノ子』へ加入しました>
名前の下へ、団ノ子の紋章が表示される。
マドレーヌは、その印をしばらく見た。
「これで、研究室へ戻っても団ノ子なんだね」
「はい」
シュトレンが答える。
「これからも一緒です」
「うん」
マドレーヌは、巻物を抱えて立ち上がった。
「じゃあ、団ノ子へ入って最初の仕事は、あの船を飛ばすことだね」
最後の巻物
新しい可動枠。
複数の基準状態。
操縦入力を目標状態として受け取る術式。
三つを組み合わせた、最後の大型実験が始まった。
船体を固定する索は、以前より多い。
一斉解除術式も、機関と操縦席の両方から発動できる。
みたらしっぽは、ドックの全員へ確認を取った。
「船体周囲、退避完了」
「安全架台、固定完了」
「機関、いつでも動かせる」
スフレが操作台へ立つ。
マドレーヌとシュトレンは、船体中央に設置された巨大な巻物の前。
エイルは操縦席。
ロウガンとシュガーシロップは、船体下部の可動枠を確認している。
ドックの外には。
作業へ関わったギルドメンバーたちが集まっていた。
ティオも、今日は眠っていない。
大きな鍋を持ったまま、試験機を見上げている。
「始めよう」
みたらしっぽが言った。
浮揚機関へ魔力が流れる。
一基目。
二基目。
前部。
中央。
後部。
左右の浮揚魔石が、順番に青白く光った。
船体が組立架から離れる。
可動枠が僅かに揺れ、出力差を受け流す。
今までのような、急な傾きはない。
「術式を起動するよ」
マドレーヌとシュトレンが、同時に詠唱を始めた。
クラススキルの補助はない。
記録された言葉。
呼吸。
魔力の流れ。
二人の声が揃う。
巨大な巻物から青い線が伸び、船体全体を包んだ。
<多点姿勢同調術式を確認>
<基準状態を登録>
<姿勢補正開始>
船体がゆっくり水平になる。
乗員が中央から左へ移動する。
可動枠が先に動く。
小さな傾きは、その中で消える。
残った誤差だけを、魔術が補正する。
船体は大きく揺れなかった。
「右へ移動」
次の試験。
問題ない。
前部へ荷物を移す。
船首が少し下がる。
術式が前部荷重状態へ移行し、ゆっくり水平へ戻した。
「操縦試験へ入るぞ」
エイルが制御桿を握る。
船首を上げる。
操縦入力が術式へ送られる。
今までなら、水平へ戻されていた動き。
今度は。
魔術が新しい角度を基準として受け入れた。
船首が上がったまま、船体は左右だけを水平に保つ。
「動く」
エイルの声が操縦室から届く。
「ちゃんと俺の入力へついてくる」
右へ旋回。
左へ戻す。
機体は固定索の範囲内で、ゆっくり方向を変えた。
前後の術式も同じ状態を共有している。
捻れない。
揺れない。
マドレーヌは巻物の表示を追っている。
「補正遅延、零・四秒」
「許容範囲だ」
エイルが答える。
スフレは出力を一段上げた。
飛行船が、ドックの中央でさらに高く浮かび上がる。
床から、人の背丈を越える。
固定索が伸びきる。
そこで止まった。
誰も声を上げなかった。
表示を確認する。
機関温度。
浮揚魔石。
船体応力。
魔術遅延。
すべて許容範囲内。
十秒。
二十秒。
一分。
飛行船は、同じ場所へ浮かび続けている。
「成功……?」
マドレーヌが、小さく呟く。
「まだ降ろすまで」
スフレは慎重に出力を下げる。
船体が下降する。
可動枠が着地の衝撃を吸収する。
船体骨格が、組立架へ静かに戻った。
機関停止。
魔術解除。
どこからも異音はしない。
少しの沈黙のあと。
エクレアの声がドックへ響いた。
「やった!」
それをきっかけに、歓声と拍手が一斉に広がった。
スフレは操作台へ両手を置いたまま、船体を見上げている。
マドレーヌはシュトレンと顔を見合わせた。
二人とも、笑っていた。
みたらしっぽは。
何度も失敗した試験記録を閉じた。
「次は」
浮かんだ船体と、開閉屋根を見上げる。
「索を外して飛ばそう」
複数の基準状態。
操縦入力を目標状態として受け取る術式。
三つを組み合わせた、最後の大型実験が始まった。
船体を固定する索は、以前より多い。
一斉解除術式も、機関と操縦席の両方から発動できる。
みたらしっぽは、ドックの全員へ確認を取った。
「船体周囲、退避完了」
「安全架台、固定完了」
「機関、いつでも動かせる」
スフレが操作台へ立つ。
マドレーヌとシュトレンは、船体中央に設置された巨大な巻物の前。
エイルは操縦席。
ロウガンとシュガーシロップは、船体下部の可動枠を確認している。
ドックの外には。
作業へ関わったギルドメンバーたちが集まっていた。
ティオも、今日は眠っていない。
大きな鍋を持ったまま、試験機を見上げている。
「始めよう」
みたらしっぽが言った。
浮揚機関へ魔力が流れる。
一基目。
二基目。
前部。
中央。
後部。
左右の浮揚魔石が、順番に青白く光った。
船体が組立架から離れる。
可動枠が僅かに揺れ、出力差を受け流す。
今までのような、急な傾きはない。
「術式を起動するよ」
マドレーヌとシュトレンが、同時に詠唱を始めた。
クラススキルの補助はない。
記録された言葉。
呼吸。
魔力の流れ。
二人の声が揃う。
巨大な巻物から青い線が伸び、船体全体を包んだ。
<多点姿勢同調術式を確認>
<基準状態を登録>
<姿勢補正開始>
船体がゆっくり水平になる。
乗員が中央から左へ移動する。
可動枠が先に動く。
小さな傾きは、その中で消える。
残った誤差だけを、魔術が補正する。
船体は大きく揺れなかった。
「右へ移動」
次の試験。
問題ない。
前部へ荷物を移す。
船首が少し下がる。
術式が前部荷重状態へ移行し、ゆっくり水平へ戻した。
「操縦試験へ入るぞ」
エイルが制御桿を握る。
船首を上げる。
操縦入力が術式へ送られる。
今までなら、水平へ戻されていた動き。
今度は。
魔術が新しい角度を基準として受け入れた。
船首が上がったまま、船体は左右だけを水平に保つ。
「動く」
エイルの声が操縦室から届く。
「ちゃんと俺の入力へついてくる」
右へ旋回。
左へ戻す。
機体は固定索の範囲内で、ゆっくり方向を変えた。
前後の術式も同じ状態を共有している。
捻れない。
揺れない。
マドレーヌは巻物の表示を追っている。
「補正遅延、零・四秒」
「許容範囲だ」
エイルが答える。
スフレは出力を一段上げた。
飛行船が、ドックの中央でさらに高く浮かび上がる。
床から、人の背丈を越える。
固定索が伸びきる。
そこで止まった。
誰も声を上げなかった。
表示を確認する。
機関温度。
浮揚魔石。
船体応力。
魔術遅延。
すべて許容範囲内。
十秒。
二十秒。
一分。
飛行船は、同じ場所へ浮かび続けている。
「成功……?」
マドレーヌが、小さく呟く。
「まだ降ろすまで」
スフレは慎重に出力を下げる。
船体が下降する。
可動枠が着地の衝撃を吸収する。
船体骨格が、組立架へ静かに戻った。
機関停止。
魔術解除。
どこからも異音はしない。
少しの沈黙のあと。
エクレアの声がドックへ響いた。
「やった!」
それをきっかけに、歓声と拍手が一斉に広がった。
スフレは操作台へ両手を置いたまま、船体を見上げている。
マドレーヌはシュトレンと顔を見合わせた。
二人とも、笑っていた。
みたらしっぽは。
何度も失敗した試験記録を閉じた。
「次は」
浮かんだ船体と、開閉屋根を見上げる。
「索を外して飛ばそう」
船になるまで
飛行船は浮いた。
けれど。
その時点では、まだ完成ではなかった。
外板。
甲板。
操縦室。
居住区。
貨物室。
推進翼。
着陸装置。
大陸を越えるための魔力炉。
長期間の航行へ耐える設備。
残っている作業は多い。
それでも。
飛ぶ仕組みが完成したことで、建造は以前より速く進み始めた。
必要な素材を集めるため、団ノ子のパーティーが各地へ向かう。
戻ってきた者から、加工と組み立てへ加わる。
新しく加入した三人も。
安全な範囲の素材採取や、小型部品の組み立てを担当した。
フィナンシェは高所の固定具へ細い綱を通す。
フェタシェールは作業中の足場を支え、落下する部材から周囲を守る。
シュトレンはマドレーヌとともに、船体の各所へ補助術式を書き込んだ。
外板が一枚ずつ取りつけられる。
船体は、骨だけの姿から大きな船へ変わっていった。
深い紺色を基調とした外装。
金属の縁。
船体の側面を走る、青白い魔力導線。
船首には、風を左右へ分ける細長い装甲。
左右には大きな推進翼。
上部には、風を直接感じられる広いデッキが設けられた。
操縦席には、エイルが必要とした窓。
通常停止と緊急停止のレバー。
機関室と直接話せる伝声管。
船尾には、大陸間航行機関が収められる。
食堂と調理場も作られた。
ティオは完成前から、どの鍋をどこへ置くか決めていた。
「揺れてもこぼれにくい台にするよ~」
以前スフレへ見せた吊り下げ式の鍋台が、船の調理場へ正式に組み込まれる。
シュガーシロップは、最後の強度試験へ何度も加わった。
船体骨格。
甲板。
推進翼の接続部。
想定を超える力をかけても、すぐに壊れないことを確かめる。
ガトーショコラは専用スコープを使い、船体の左右へ生じる僅かなずれを見つける。
みたらしっぽは、日ごとに増える工程をまとめた。
完成予定日は。
何度も後ろへずれた。
部材の納品が遅れる。
術式を刻んだ外板に不具合が見つかる。
推進翼の一部を作り直す。
魔力炉の冷却が足りない。
そのたびに。
今日飛ばす予定だった船が、またドックへ残る。
誰かが疲れる。
誰かが落ち込む。
それでも。
翌日には、また工房の音が始まった。
完成へ近づくほど。
一つの不具合が、船全体へ影響するようになる。
最後の数日が。
一番長く感じられた。
そして。
建造開始から何週間も経った、ある夜。
スフレが、最後の部品を機関へ取りつけた。
小さな固定具。
外から見れば、どこが変わったのかわからない。
けれど。
その部品を締めたことで。
未完了だった工程表示が、一つだけ残らず消えた。
<建造工程:100%>
ドックの中。
巨大な飛行船が、静かに組立架へ乗っている。
みたらしっぽは、全員が集まるまで完了操作を押さなかった。
工房。
調理場。
町。
素材採取。
それぞれの場所へいたメンバーが、少しずつドックへ集まってくる。
最後に。
ティオが調理場から大きな皿を抱えて現れた。
「お祝いの準備もできたよ~」
全員が揃う。
みたらしっぽは、飛行船を見上げた。
「完成させよう」
画面へ手を触れる。
<プレイヤーメイド大型飛行船の建造を確認しました>
<所有ギルド:団ノ子>
<航行区分:大陸間航行船>
<船名:未登録>
<建造完了>
ドックへ、大きな光が広がった。
船体の側面へ、団ノ子の紋章が刻まれる。
ようやく。
設計図の中にしかなかった飛行船が。
一隻の船として、FoFの世界へ認識された。
けれど。
その時点では、まだ完成ではなかった。
外板。
甲板。
操縦室。
居住区。
貨物室。
推進翼。
着陸装置。
大陸を越えるための魔力炉。
長期間の航行へ耐える設備。
残っている作業は多い。
それでも。
飛ぶ仕組みが完成したことで、建造は以前より速く進み始めた。
必要な素材を集めるため、団ノ子のパーティーが各地へ向かう。
戻ってきた者から、加工と組み立てへ加わる。
新しく加入した三人も。
安全な範囲の素材採取や、小型部品の組み立てを担当した。
フィナンシェは高所の固定具へ細い綱を通す。
フェタシェールは作業中の足場を支え、落下する部材から周囲を守る。
シュトレンはマドレーヌとともに、船体の各所へ補助術式を書き込んだ。
外板が一枚ずつ取りつけられる。
船体は、骨だけの姿から大きな船へ変わっていった。
深い紺色を基調とした外装。
金属の縁。
船体の側面を走る、青白い魔力導線。
船首には、風を左右へ分ける細長い装甲。
左右には大きな推進翼。
上部には、風を直接感じられる広いデッキが設けられた。
操縦席には、エイルが必要とした窓。
通常停止と緊急停止のレバー。
機関室と直接話せる伝声管。
船尾には、大陸間航行機関が収められる。
食堂と調理場も作られた。
ティオは完成前から、どの鍋をどこへ置くか決めていた。
「揺れてもこぼれにくい台にするよ~」
以前スフレへ見せた吊り下げ式の鍋台が、船の調理場へ正式に組み込まれる。
シュガーシロップは、最後の強度試験へ何度も加わった。
船体骨格。
甲板。
推進翼の接続部。
想定を超える力をかけても、すぐに壊れないことを確かめる。
ガトーショコラは専用スコープを使い、船体の左右へ生じる僅かなずれを見つける。
みたらしっぽは、日ごとに増える工程をまとめた。
完成予定日は。
何度も後ろへずれた。
部材の納品が遅れる。
術式を刻んだ外板に不具合が見つかる。
推進翼の一部を作り直す。
魔力炉の冷却が足りない。
そのたびに。
今日飛ばす予定だった船が、またドックへ残る。
誰かが疲れる。
誰かが落ち込む。
それでも。
翌日には、また工房の音が始まった。
完成へ近づくほど。
一つの不具合が、船全体へ影響するようになる。
最後の数日が。
一番長く感じられた。
そして。
建造開始から何週間も経った、ある夜。
スフレが、最後の部品を機関へ取りつけた。
小さな固定具。
外から見れば、どこが変わったのかわからない。
けれど。
その部品を締めたことで。
未完了だった工程表示が、一つだけ残らず消えた。
<建造工程:100%>
ドックの中。
巨大な飛行船が、静かに組立架へ乗っている。
みたらしっぽは、全員が集まるまで完了操作を押さなかった。
工房。
調理場。
町。
素材採取。
それぞれの場所へいたメンバーが、少しずつドックへ集まってくる。
最後に。
ティオが調理場から大きな皿を抱えて現れた。
「お祝いの準備もできたよ~」
全員が揃う。
みたらしっぽは、飛行船を見上げた。
「完成させよう」
画面へ手を触れる。
<プレイヤーメイド大型飛行船の建造を確認しました>
<所有ギルド:団ノ子>
<航行区分:大陸間航行船>
<船名:未登録>
<建造完了>
ドックへ、大きな光が広がった。
船体の側面へ、団ノ子の紋章が刻まれる。
ようやく。
設計図の中にしかなかった飛行船が。
一隻の船として、FoFの世界へ認識された。
初めて空へ
翌朝。
交易中央都市ターブルロンドには、飛行船の初飛行を見ようと多くの人が集まっていた。
ギルドハウスへつながる大きな開閉屋根。
その周囲の通り。
円卓協議会の塔。
近隣ギルドの拠点。
どこからも、団ノ子のドックが見える。
初飛行は、ターブルロンド周辺を一周して戻る短い航路。
大陸を越えるのは、その先だった。
エイルが操縦席へ座る。
スフレは機関室。
マドレーヌとシュトレンは、姿勢同調術式の制御台。
ロウガンは船体構造の表示を確認する。
シュガーシロップは緊急時の固定装置へつく。
みたらしっぽは操縦室の後ろで、全体の状態を見ていた。
チョコチップも、その隣にいる。
ほかのメンバーは甲板や船内へ分かれた。
ティオは、既に食堂の窓際で少し眠そうにしている。
「まだ飛んでないよ」
シュガーシロップが声をかける。
「起きてるよ~」
ティオは目を開け、窓の外へ顔を向けた。
ドックの天井が開く。
朝の空が、船体の上へ広がった。
風が入り。
甲板の旗と、団ノ子の紋章が揺れる。
みたらしっぽは全員の状態を確認した。
「機関」
『問題ない』
スフレの声。
「術式」
『基準状態、登録済み』
マドレーヌが答える。
「船体」
「異常なし」
ロウガン。
「操縦」
エイルは制御桿へ手を置いた。
「いつでも行ける」
みたらしっぽは、ドックの正面を見る。
「浮揚開始」
機関が動く。
低い音。
船底の浮揚魔石が、青白く光った。
巨大な船体が、組立架から離れていく。
一メートル。
二メートル。
ドックの床が遠ざかる。
可動枠が小さな揺れを吸収する。
姿勢同調術式が、残った傾きだけを補正する。
飛行船は、開いた屋根の高さまで上がった。
外から入った横風が、船体を押す。
左へ僅かに傾く。
魔術が反応する。
急激には戻さない。
船体は緩やかに水平へ戻った。
「安定してる」
エイルは前方を見る。
「ドックを出るぞ」
推進機関へ魔力が流れる。
左右の翼が展開する。
船体が、ゆっくり前へ動いた。
ギルドハウスの壁。
ドックの入口。
係留塔。
エイルは進入時とは逆の順序で、一つずつ越えていく。
最後の船尾がドックから離れた。
飛行船の下に。
交易中央都市ターブルロンドの大通りが広がる。
地上から歓声が上がった。
甲板にいたエクレアが、手すりへ駆け寄る。
「飛んでる!」
都市の建物が、少しずつ小さくなる。
円卓協議会の塔。
TRustDiamonDの本部。
団ノ子のギルドハウス。
自分たちが歩いていた通り。
すべてが下へ広がっている。
フィナンシェとフェタシェールも、甲板から町を見下ろしていた。
シュトレンは一度術式の表示を確認したあと、マドレーヌと一緒に窓の外を見る。
「本当に飛びましたね」
「うん」
マドレーヌの猫耳が、嬉しさを示すように立っていた。
今日は外見切替術式で、自分から生やしている。
「これなら、アズールステラでも自慢できる」
飛行船は都市の上空を抜ける。
その先には。
未開拓の谷。
黒い森。
遠く連なる山脈。
以前は地上から見上げるだけだった場所が、同じ高さへ近づいてくる。
エイルが制御桿を右へ倒した。
操縦入力が魔術へ送られる。
船体がゆっくり右へ傾く。
魔術は邪魔をしない。
新しい角度を基準として受け入れ、不要な揺れだけを消していく。
大きな飛行船が、ターブルロンドの周囲を旋回した。
「曲がった」
スフレは機関室の表示を見ながら、小さく言った。
何度試しても。
魔術に水平へ戻されていた旋回。
今は。
操縦どおりに船が動いている。
みたらしっぽは、操縦室から広がる空を見る。
四人でFoFを始めた頃。
次の町へ行くだけでも遠かった。
今は。
ギルド全員で作った船に乗り。
大陸を上から見ている。
「先輩」
隣で、チョコチップが呼ぶ。
「はい?」
「飛行船、完成しましたね」
声には、抑えきれない喜びがあった。
「うん」
みたらしっぽは、船内にいる仲間たちを思う。
作った人。
守った人。
材料を運んだ人。
失敗した巻物を何度も書き直した人。
寝ながら揺れを逃がす方法を教えた人。
完成前に加わり、すぐに一緒に作り始めた人。
「みんなで完成させた」
飛行船は、ターブルロンドへ戻り始める。
最後の試験。
着陸。
エイルはドックへ続く軌道を正面に捉えた。
風は北西。
以前。
彼が最初に指摘した方向から吹いている。
「補助索を出してくれ」
船尾側の索が、ドック上部の塔へ射出される。
固定。
先に船尾を引き、横風へ流される動きを抑える。
船首が軌道へ合う。
速度を落とす。
ドックの入口。
係留塔。
壁。
すべてを越える。
飛行船は組立架の真上へ戻った。
スフレが浮揚出力を下げる。
マドレーヌとシュトレンが、着陸状態へ基準を切り替える。
可動枠が衝撃を吸収する。
船体が。
静かに組立架へ降りた。
機関停止。
術式解除。
異常なし。
エイルは操縦桿から手を離し、大きく息を吐いた。
「帰ってきたぞ」
数秒後。
船内とドックの外から、歓声が上がった。
みたらしっぽは、操縦室の完了表示へ手を触れる。
<初回航行試験:成功>
<離陸・旋回・着陸を確認>
<大陸間航行条件を解放しました>
飛行船は。
浮いただけではない。
飛び。
曲がり。
自分たちのギルドハウスへ帰ってきた。
スフレが機関室から出てくる。
マドレーヌとシュトレンも制御室を離れる。
ロウガン。
シュガーシロップ。
エイル。
作業へ関わった全員が、甲板へ集まった。
みたらしっぽは、完成した船の上からドックと町を見る。
「飛行船の名前は、まだ決めてない」
甲板から、いくつもの声が返ってくる。
候補はすぐに増え始めた。
けれど。
今日は決めなくてもよかった。
空へ出られること。
大陸を越えられる船が、ここにあること。
それだけで十分だった。
ドックの壁には、新しい記録が刻まれている。
<ギルド『団ノ子』>
<プレイヤーメイド大陸間飛行船 完成>
<船名:未登録>
船は、まだ一度しか飛んでいない。
本当の長距離航行も。
空の魔物との戦いも。
新しい大陸への着陸も、これからだった。
それでも。
何度も失敗し。
壊れた部品と巻物を積み重ねた先で。
団ノ子はついに。
自分たちの力で、空へ続く道を作り上げていた。
交易中央都市ターブルロンドには、飛行船の初飛行を見ようと多くの人が集まっていた。
ギルドハウスへつながる大きな開閉屋根。
その周囲の通り。
円卓協議会の塔。
近隣ギルドの拠点。
どこからも、団ノ子のドックが見える。
初飛行は、ターブルロンド周辺を一周して戻る短い航路。
大陸を越えるのは、その先だった。
エイルが操縦席へ座る。
スフレは機関室。
マドレーヌとシュトレンは、姿勢同調術式の制御台。
ロウガンは船体構造の表示を確認する。
シュガーシロップは緊急時の固定装置へつく。
みたらしっぽは操縦室の後ろで、全体の状態を見ていた。
チョコチップも、その隣にいる。
ほかのメンバーは甲板や船内へ分かれた。
ティオは、既に食堂の窓際で少し眠そうにしている。
「まだ飛んでないよ」
シュガーシロップが声をかける。
「起きてるよ~」
ティオは目を開け、窓の外へ顔を向けた。
ドックの天井が開く。
朝の空が、船体の上へ広がった。
風が入り。
甲板の旗と、団ノ子の紋章が揺れる。
みたらしっぽは全員の状態を確認した。
「機関」
『問題ない』
スフレの声。
「術式」
『基準状態、登録済み』
マドレーヌが答える。
「船体」
「異常なし」
ロウガン。
「操縦」
エイルは制御桿へ手を置いた。
「いつでも行ける」
みたらしっぽは、ドックの正面を見る。
「浮揚開始」
機関が動く。
低い音。
船底の浮揚魔石が、青白く光った。
巨大な船体が、組立架から離れていく。
一メートル。
二メートル。
ドックの床が遠ざかる。
可動枠が小さな揺れを吸収する。
姿勢同調術式が、残った傾きだけを補正する。
飛行船は、開いた屋根の高さまで上がった。
外から入った横風が、船体を押す。
左へ僅かに傾く。
魔術が反応する。
急激には戻さない。
船体は緩やかに水平へ戻った。
「安定してる」
エイルは前方を見る。
「ドックを出るぞ」
推進機関へ魔力が流れる。
左右の翼が展開する。
船体が、ゆっくり前へ動いた。
ギルドハウスの壁。
ドックの入口。
係留塔。
エイルは進入時とは逆の順序で、一つずつ越えていく。
最後の船尾がドックから離れた。
飛行船の下に。
交易中央都市ターブルロンドの大通りが広がる。
地上から歓声が上がった。
甲板にいたエクレアが、手すりへ駆け寄る。
「飛んでる!」
都市の建物が、少しずつ小さくなる。
円卓協議会の塔。
TRustDiamonDの本部。
団ノ子のギルドハウス。
自分たちが歩いていた通り。
すべてが下へ広がっている。
フィナンシェとフェタシェールも、甲板から町を見下ろしていた。
シュトレンは一度術式の表示を確認したあと、マドレーヌと一緒に窓の外を見る。
「本当に飛びましたね」
「うん」
マドレーヌの猫耳が、嬉しさを示すように立っていた。
今日は外見切替術式で、自分から生やしている。
「これなら、アズールステラでも自慢できる」
飛行船は都市の上空を抜ける。
その先には。
未開拓の谷。
黒い森。
遠く連なる山脈。
以前は地上から見上げるだけだった場所が、同じ高さへ近づいてくる。
エイルが制御桿を右へ倒した。
操縦入力が魔術へ送られる。
船体がゆっくり右へ傾く。
魔術は邪魔をしない。
新しい角度を基準として受け入れ、不要な揺れだけを消していく。
大きな飛行船が、ターブルロンドの周囲を旋回した。
「曲がった」
スフレは機関室の表示を見ながら、小さく言った。
何度試しても。
魔術に水平へ戻されていた旋回。
今は。
操縦どおりに船が動いている。
みたらしっぽは、操縦室から広がる空を見る。
四人でFoFを始めた頃。
次の町へ行くだけでも遠かった。
今は。
ギルド全員で作った船に乗り。
大陸を上から見ている。
「先輩」
隣で、チョコチップが呼ぶ。
「はい?」
「飛行船、完成しましたね」
声には、抑えきれない喜びがあった。
「うん」
みたらしっぽは、船内にいる仲間たちを思う。
作った人。
守った人。
材料を運んだ人。
失敗した巻物を何度も書き直した人。
寝ながら揺れを逃がす方法を教えた人。
完成前に加わり、すぐに一緒に作り始めた人。
「みんなで完成させた」
飛行船は、ターブルロンドへ戻り始める。
最後の試験。
着陸。
エイルはドックへ続く軌道を正面に捉えた。
風は北西。
以前。
彼が最初に指摘した方向から吹いている。
「補助索を出してくれ」
船尾側の索が、ドック上部の塔へ射出される。
固定。
先に船尾を引き、横風へ流される動きを抑える。
船首が軌道へ合う。
速度を落とす。
ドックの入口。
係留塔。
壁。
すべてを越える。
飛行船は組立架の真上へ戻った。
スフレが浮揚出力を下げる。
マドレーヌとシュトレンが、着陸状態へ基準を切り替える。
可動枠が衝撃を吸収する。
船体が。
静かに組立架へ降りた。
機関停止。
術式解除。
異常なし。
エイルは操縦桿から手を離し、大きく息を吐いた。
「帰ってきたぞ」
数秒後。
船内とドックの外から、歓声が上がった。
みたらしっぽは、操縦室の完了表示へ手を触れる。
<初回航行試験:成功>
<離陸・旋回・着陸を確認>
<大陸間航行条件を解放しました>
飛行船は。
浮いただけではない。
飛び。
曲がり。
自分たちのギルドハウスへ帰ってきた。
スフレが機関室から出てくる。
マドレーヌとシュトレンも制御室を離れる。
ロウガン。
シュガーシロップ。
エイル。
作業へ関わった全員が、甲板へ集まった。
みたらしっぽは、完成した船の上からドックと町を見る。
「飛行船の名前は、まだ決めてない」
甲板から、いくつもの声が返ってくる。
候補はすぐに増え始めた。
けれど。
今日は決めなくてもよかった。
空へ出られること。
大陸を越えられる船が、ここにあること。
それだけで十分だった。
ドックの壁には、新しい記録が刻まれている。
<ギルド『団ノ子』>
<プレイヤーメイド大陸間飛行船 完成>
<船名:未登録>
船は、まだ一度しか飛んでいない。
本当の長距離航行も。
空の魔物との戦いも。
新しい大陸への着陸も、これからだった。
それでも。
何度も失敗し。
壊れた部品と巻物を積み重ねた先で。
団ノ子はついに。
自分たちの力で、空へ続く道を作り上げていた。