だんのこまち@wiki
TRustDiamonD式訓練開始
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dannocomachi
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全員で行く、別々のダンジョン
TRustDiamonDとの合同訓練を一週間後に控えた朝。
団ノ子の会議室には、これまでで最も多くの椅子が並べられていた。
王都から運んできた長いテーブルだけでは足りず、壁際や窓辺にも席が増やされている。つい最近まで空いていた場所には、エリシア、フェン、レオン、カイト、イグナが座っていた。
飛行船の操縦席から戻ったエイル。
巻物を抱えたセシールマドレーヌ。
小さな部品を手にしたままのスフレ。
調理場から来たティオは、まだ少し眠そうに窓辺へもたれている。
ギルドの人数が増えたことは、名前の一覧を見なくてもわかった。
誰かが話せば、別の場所から声が返る。
武器を壁際へ預ける音も、以前よりずっと多い。
みたらしっぽは、テーブルの中央へ四枚の地図を広げた。
「合同訓練へ行く前に、今日は団ノ子だけで中規模ダンジョンを回ろうと思う」
エクレアがすぐに地図へ身を乗り出した。
「みんなで一つじゃなくて?」
「四つに分かれる」
みたらしっぽは、四枚の地図を少し離して置いた。
「普段よく一緒にいる相手とは、なるべく別のパーティーにした。僕も一つのダンジョンにしか行けないから、ほかの三つはその場にいる人たちだけで判断してもらう」
チョコチップの視線が、みたらしっぽから地図へ移る。
二人の名前は、同じ欄にはなかった。
「先輩とは別ですね」
「うん。今日は別々に行ってみよう」
チョコチップは、ほんの少しだけ緊張した表情を見せた。
それでも、すぐに自分のパーティーへ書かれた名前を読み直す。
「わかりました」
今回の組み合わせは、本番のレイド編成ではない。
次の訓練では、また別の相手と組む。
人数も均等ではなく、四つ目のパーティーだけは五人だった。
目的は攻略速度を競うことでも、最も強いパーティーを決めることでもない。
知らない動きへ、どう合わせるか。
いつも指示を出してくれる者がいない時に、自分たちで決められるか。
誰かが間違えた時、その場で立て直せるか。
それを確かめるための一日だった。
第一班は、みたらしっぽ、フェタシェール、マリーシュトレン、ガトーショコラ、エリシア、イグナ。
第二班は、つきみ、チョコチップ、スフレ、レオン、フェン、チロル。
第三班は、ロウガン、エクレア、フィリスフィナンシェ、ルカ、セシールマドレーヌ、ティオ。
第四班は、シュガーシロップ、フォンダン・アイリス、エスプレッソ、エイル、カイト。
シュガーシロップは自分たちの欄を見た。
「こっちだけ五人か」
「じゃあ、予備の薬とロープは俺が持つよ」
カイトは壁際に置かれていた共用鞄を持ち上げ、肩へ掛けた。
「人数が一人少ない分、足りないところへ俺が走ればいいだろ。前でも後ろでも、声をかけてくれれば回るよ」
「一人で二人分働こうとしなくていいのよ」
アイリスが言う。
「わかってるって」
カイトは気軽に笑った。
「無茶はしない。誰かが困った時に、手が空いてる俺が動くってだけ」
「そう言いながら、気になる道を見つけたら先へ行きそうだけどな」
エイルが横から言う。
「その時は、ちゃんと一声かけるよ。戻ってこられなかったら格好つかないしな」
「言ったことは覚えておくわ」
アイリスの視線を受けても、カイトは笑ったまま共用鞄の中身を確かめていた。
薬。
補助具。
予備の魔力灯。
ほかの班より一人少ないことを、不安そうにする者はいない。
カイトが自然に引き受けた荷物の分だけ、ほかの四人は少し身軽になっていた。
テーブルの端では、エリシアが四つの鞄へ薬を分けていた。
解毒薬。
緩やかに魔力を戻す薬。
強い衝撃を受けた時に使う回復薬。
専任の回復役がいないパーティーにも、必要な分が行き渡るよう数を揃えている。
「赤い紐が回復薬、青が魔力、白が状態異常用です。使う前に表示を確認してください」
ティオが青い紐の瓶を光へ透かした。
「こっちは甘くなった~?」
「前よりは飲みやすくしました。でも、今ここで味見はしないでください」
「しないよ~」
返事をしながら、ティオは名残惜しそうに瓶を鞄へ戻した。
みたらしっぽは全員を見回した。
「夕方になっても攻略できていなければ、一度帰ってきていい。全滅するまで続ける必要はないよ」
「全員が帰ってきたら、今日のことを話そう。うまくできたことだけじゃなくて、困ったこともそのまま持ち帰ってきてほしい」
四つのパーティーは、ほとんど同じ時刻にギルドハウスを出た。
それぞれ別の門を抜け。
別の街道へ向かう。
同じ日に。
同じ目的で。
団ノ子は初めて、四つの異なる攻略へ分かれていった。
団ノ子の会議室には、これまでで最も多くの椅子が並べられていた。
王都から運んできた長いテーブルだけでは足りず、壁際や窓辺にも席が増やされている。つい最近まで空いていた場所には、エリシア、フェン、レオン、カイト、イグナが座っていた。
飛行船の操縦席から戻ったエイル。
巻物を抱えたセシールマドレーヌ。
小さな部品を手にしたままのスフレ。
調理場から来たティオは、まだ少し眠そうに窓辺へもたれている。
ギルドの人数が増えたことは、名前の一覧を見なくてもわかった。
誰かが話せば、別の場所から声が返る。
武器を壁際へ預ける音も、以前よりずっと多い。
みたらしっぽは、テーブルの中央へ四枚の地図を広げた。
「合同訓練へ行く前に、今日は団ノ子だけで中規模ダンジョンを回ろうと思う」
エクレアがすぐに地図へ身を乗り出した。
「みんなで一つじゃなくて?」
「四つに分かれる」
みたらしっぽは、四枚の地図を少し離して置いた。
「普段よく一緒にいる相手とは、なるべく別のパーティーにした。僕も一つのダンジョンにしか行けないから、ほかの三つはその場にいる人たちだけで判断してもらう」
チョコチップの視線が、みたらしっぽから地図へ移る。
二人の名前は、同じ欄にはなかった。
「先輩とは別ですね」
「うん。今日は別々に行ってみよう」
チョコチップは、ほんの少しだけ緊張した表情を見せた。
それでも、すぐに自分のパーティーへ書かれた名前を読み直す。
「わかりました」
今回の組み合わせは、本番のレイド編成ではない。
次の訓練では、また別の相手と組む。
人数も均等ではなく、四つ目のパーティーだけは五人だった。
目的は攻略速度を競うことでも、最も強いパーティーを決めることでもない。
知らない動きへ、どう合わせるか。
いつも指示を出してくれる者がいない時に、自分たちで決められるか。
誰かが間違えた時、その場で立て直せるか。
それを確かめるための一日だった。
第一班は、みたらしっぽ、フェタシェール、マリーシュトレン、ガトーショコラ、エリシア、イグナ。
第二班は、つきみ、チョコチップ、スフレ、レオン、フェン、チロル。
第三班は、ロウガン、エクレア、フィリスフィナンシェ、ルカ、セシールマドレーヌ、ティオ。
第四班は、シュガーシロップ、フォンダン・アイリス、エスプレッソ、エイル、カイト。
シュガーシロップは自分たちの欄を見た。
「こっちだけ五人か」
「じゃあ、予備の薬とロープは俺が持つよ」
カイトは壁際に置かれていた共用鞄を持ち上げ、肩へ掛けた。
「人数が一人少ない分、足りないところへ俺が走ればいいだろ。前でも後ろでも、声をかけてくれれば回るよ」
「一人で二人分働こうとしなくていいのよ」
アイリスが言う。
「わかってるって」
カイトは気軽に笑った。
「無茶はしない。誰かが困った時に、手が空いてる俺が動くってだけ」
「そう言いながら、気になる道を見つけたら先へ行きそうだけどな」
エイルが横から言う。
「その時は、ちゃんと一声かけるよ。戻ってこられなかったら格好つかないしな」
「言ったことは覚えておくわ」
アイリスの視線を受けても、カイトは笑ったまま共用鞄の中身を確かめていた。
薬。
補助具。
予備の魔力灯。
ほかの班より一人少ないことを、不安そうにする者はいない。
カイトが自然に引き受けた荷物の分だけ、ほかの四人は少し身軽になっていた。
テーブルの端では、エリシアが四つの鞄へ薬を分けていた。
解毒薬。
緩やかに魔力を戻す薬。
強い衝撃を受けた時に使う回復薬。
専任の回復役がいないパーティーにも、必要な分が行き渡るよう数を揃えている。
「赤い紐が回復薬、青が魔力、白が状態異常用です。使う前に表示を確認してください」
ティオが青い紐の瓶を光へ透かした。
「こっちは甘くなった~?」
「前よりは飲みやすくしました。でも、今ここで味見はしないでください」
「しないよ~」
返事をしながら、ティオは名残惜しそうに瓶を鞄へ戻した。
みたらしっぽは全員を見回した。
「夕方になっても攻略できていなければ、一度帰ってきていい。全滅するまで続ける必要はないよ」
「全員が帰ってきたら、今日のことを話そう。うまくできたことだけじゃなくて、困ったこともそのまま持ち帰ってきてほしい」
四つのパーティーは、ほとんど同じ時刻にギルドハウスを出た。
それぞれ別の門を抜け。
別の街道へ向かう。
同じ日に。
同じ目的で。
団ノ子は初めて、四つの異なる攻略へ分かれていった。
第一班 逆巻き水門跡
前に立つ人が決めること
みたらしっぽたちが向かった《逆巻き水門跡》は、ターブルロンド東部の湿地帯に残る古い水利施設だった。
山から流れてくる水を複数の集落へ分配するために造られたものだが、現在は三つの水門がすべて閉じ、内部へ水が溜まり続けている。
最深部にある主水門を開けば攻略完了。
ただし、水位は時間とともに上昇する。
通路の一部は水へ沈み、敵を倒すだけでは先へ進めない。
入口で、みたらしっぽはフェタシェールの隣へ立った。
「前はフェタに任せる」
フェタシェールが顔を向ける。
「私に?」
「盾を持って先頭を歩く人が、一番早く見えるものもあるから。危ないと思ったら止めて。進めると思ったら進んでいい」
「みたは?」
「横にはいる。でも、今日は僕が先に全部決めないようにする」
それは信頼と言われるより、ずっと緊張する頼み方だった。
フェタシェールは小型盾の固定を確かめた。
「わかった。やってみる」
水門跡へ入ると、石造りの通路へ冷たい水が流れ込んでいた。
最初は足首ほど。
少し進めば、膝近くまで深くなる。
前方の暗がりから、水草をまとった獣型の魔物が現れた。
フェタシェールが盾で突進を止める。
その横からイグナがハンマーを振り抜き、二体をまとめて壁際へ追いやった。
「奥にもいる」
ガトーショコラの銃声が響く。
天井近くの梁に張りついていた魔物が、飛び降りる前に撃ち落とされた。
シュトレンは魔導書を開き、水面へ青白い術式を広げる。
魔物の足元だけが薄く凍りつき、動きが鈍った。
みたらしっぽは凍った場所へ踏み込み、残った一体を斬る。
エリシアは六人の状態を見ながら、毒や衰弱がないことを確かめていた。
最初の広間を抜けたところで、大きな鉄門が道を塞いでいた。
表面には錆が浮き、中央の鎖は半分ほど切れかけている。
イグナはハンマーを持ち上げた。
「これなら壊せそうだ」
「待って」
最初に止めたのはガトーショコラだった。
銃の専用スコープを上へ向ける。
鉄門の真上。
暗い天井へ、巨大な石の重りが吊られている。
「門を壊すと、重りが落ちる。後ろの水路も開くみたい」
フェタシェールは鉄門の周囲を見た。
右側には細い整備路。
左側には、胸の高さまで水が溜まった通路がある。
どちらも安全とは言い切れない。
みたらしっぽは何も言わず、フェタシェールの判断を待った。
視線を感じたフェタシェールは、地図と水位を見比べた。
「右へ行こう」
「狭いぞ」
イグナが整備路を見る。
「だから、イグナさんは一番後ろ。前で敵を押し返せなくても、後ろから来た時には止められるでしょう?」
イグナは少し考え、ハンマーを肩へ戻した。
「わかった」
通路は一人ずつしか通れなかった。
フェタシェールが先頭。
その後ろにみたらしっぽ、シュトレン、エリシア、ガトーショコラ。
最後尾をイグナが守る。
途中で後方から小型の魔物が入り込んだが、イグナは狭い通路で大きく振り回さず、ハンマーの柄と肩を使って押し止めた。
前方では、フェタシェールが盾で魔物を受ける。
みたらしっぽが横を通れないため、シュトレンが肩越しに魔法を撃った。
いつもの広い場所とは違う。
それでも、六人は前後へ詰まりながら、少しずつ進んだ。
整備路の先には、鉄門を持ち上げる巻き上げ機が残されていた。
ガトーショコラが小さな留め具を撃ち抜き。
イグナが重い回転軸を動かす。
鉄門は壊されることなく、ゆっくりと持ち上がった。
「最初に叩かなくてよかった」
イグナが落ちてこなかった重りを見上げる。
フェタシェールは、ようやく少し息を吐いた。
「私も、壊した方が早いと思ってた」
「止まって考えたから、こっちへ来られた」
みたらしっぽはそれだけ言い、開いた門の先へ進んだ。
山から流れてくる水を複数の集落へ分配するために造られたものだが、現在は三つの水門がすべて閉じ、内部へ水が溜まり続けている。
最深部にある主水門を開けば攻略完了。
ただし、水位は時間とともに上昇する。
通路の一部は水へ沈み、敵を倒すだけでは先へ進めない。
入口で、みたらしっぽはフェタシェールの隣へ立った。
「前はフェタに任せる」
フェタシェールが顔を向ける。
「私に?」
「盾を持って先頭を歩く人が、一番早く見えるものもあるから。危ないと思ったら止めて。進めると思ったら進んでいい」
「みたは?」
「横にはいる。でも、今日は僕が先に全部決めないようにする」
それは信頼と言われるより、ずっと緊張する頼み方だった。
フェタシェールは小型盾の固定を確かめた。
「わかった。やってみる」
水門跡へ入ると、石造りの通路へ冷たい水が流れ込んでいた。
最初は足首ほど。
少し進めば、膝近くまで深くなる。
前方の暗がりから、水草をまとった獣型の魔物が現れた。
フェタシェールが盾で突進を止める。
その横からイグナがハンマーを振り抜き、二体をまとめて壁際へ追いやった。
「奥にもいる」
ガトーショコラの銃声が響く。
天井近くの梁に張りついていた魔物が、飛び降りる前に撃ち落とされた。
シュトレンは魔導書を開き、水面へ青白い術式を広げる。
魔物の足元だけが薄く凍りつき、動きが鈍った。
みたらしっぽは凍った場所へ踏み込み、残った一体を斬る。
エリシアは六人の状態を見ながら、毒や衰弱がないことを確かめていた。
最初の広間を抜けたところで、大きな鉄門が道を塞いでいた。
表面には錆が浮き、中央の鎖は半分ほど切れかけている。
イグナはハンマーを持ち上げた。
「これなら壊せそうだ」
「待って」
最初に止めたのはガトーショコラだった。
銃の専用スコープを上へ向ける。
鉄門の真上。
暗い天井へ、巨大な石の重りが吊られている。
「門を壊すと、重りが落ちる。後ろの水路も開くみたい」
フェタシェールは鉄門の周囲を見た。
右側には細い整備路。
左側には、胸の高さまで水が溜まった通路がある。
どちらも安全とは言い切れない。
みたらしっぽは何も言わず、フェタシェールの判断を待った。
視線を感じたフェタシェールは、地図と水位を見比べた。
「右へ行こう」
「狭いぞ」
イグナが整備路を見る。
「だから、イグナさんは一番後ろ。前で敵を押し返せなくても、後ろから来た時には止められるでしょう?」
イグナは少し考え、ハンマーを肩へ戻した。
「わかった」
通路は一人ずつしか通れなかった。
フェタシェールが先頭。
その後ろにみたらしっぽ、シュトレン、エリシア、ガトーショコラ。
最後尾をイグナが守る。
途中で後方から小型の魔物が入り込んだが、イグナは狭い通路で大きく振り回さず、ハンマーの柄と肩を使って押し止めた。
前方では、フェタシェールが盾で魔物を受ける。
みたらしっぽが横を通れないため、シュトレンが肩越しに魔法を撃った。
いつもの広い場所とは違う。
それでも、六人は前後へ詰まりながら、少しずつ進んだ。
整備路の先には、鉄門を持ち上げる巻き上げ機が残されていた。
ガトーショコラが小さな留め具を撃ち抜き。
イグナが重い回転軸を動かす。
鉄門は壊されることなく、ゆっくりと持ち上がった。
「最初に叩かなくてよかった」
イグナが落ちてこなかった重りを見上げる。
フェタシェールは、ようやく少し息を吐いた。
「私も、壊した方が早いと思ってた」
「止まって考えたから、こっちへ来られた」
みたらしっぽはそれだけ言い、開いた門の先へ進んだ。
逆潮の門番
最深部には、巨大な円形水槽があった。
中央へ主水門の操作輪。
その周囲を、渦を巻く水が取り囲んでいる。
操作輪へ近づいた瞬間、水面が大きく盛り上がった。
現れたのは、鉄の装甲をまとった巨大な両生類型の魔物だった。
前脚には鎖。
背中には壊れた水門の一部が甲羅のように張りついている。
《逆潮の門番グラグロス》
咆哮とともに、部屋の水位が一気に上がった。
足場が三つへ分かれ、六人の間を激しい水流が横切る。
みたらしっぽとフェタシェールは中央。
シュトレンとエリシアは左。
ガトーショコラとイグナは右へ取り残された。
「フェタ先輩!」
シュトレンの声は聞こえるが、水音が大きい。
グラグロスが中央の足場へ前脚を振り下ろす。
フェタシェールは盾で受けたものの、足元の水に押され、後ろへ滑った。
みたらしっぽが横から鎖を斬る。
だが、切れた鎖は水中へ沈む前に魔力で繋がり直した。
右側では、イグナが水門の支柱へしがみついている。
「こっちから中央へ行けねえ!」
ガトーショコラはスコープ越しに部屋全体を見ていた。
「上に鎖が三本ある。水門とつながってる」
左側では、シュトレンが冷気を水面へ向ける。
一部を凍らせようとするが、流れが速く、すぐに割れてしまう。
エリシアは鞄から青緑色の薬を取り出した。
「レンさん。これを水へ」
「凍らせる薬?」
「水を少しだけ重くします。流れが遅くなれば、魔法が残るかもしれません」
薬が水へ落ちる。
流れの表面へ薄い膜が広がり、勢いが少し弱まった。
シュトレンがもう一度詠唱する。
今度は氷が割れず、左の足場から中央へ細い道が伸びた。
みたらしっぽはフェタシェールを見る。
「どうする?」
答えを求める声だった。
指示を出す声ではない。
フェタシェールは、三つの足場と操作輪を見た。
「ショコラさん。上の鎖を一本ずつ撃てますか?」
「撃てる」
「イグナさんは、落ちた鎖の固定具を壊してください。レンちゃんは氷を中央まで。エリシアさんは、そのままレンちゃんをお願いします」
それから、みたらしっぽへ向き直る。
「みたは私と、正面を止めて」
「わかった」
フェタシェールが盾を構える。
みたらしっぽは、その隣へ並んだ。
銃声。
上の鎖が一本切れ、右側の足場へ固定具が落ちる。
イグナのハンマーが叩きつけられた。
二本目。
三本目。
鎖が切れるたび、水位が少しずつ下がっていく。
グラグロスが中央へ突進した。
フェタシェールは真正面から止めず、盾を斜めへ向ける。
巨体がわずかに流れたところへ、みたらしっぽが踏み込んだ。
背中の水門装甲へ剣を入れる。
左から伸びた氷の道を、シュトレンとエリシアが渡ってくる。
最後の固定具がイグナの一撃で砕けた。
水流が止まる。
シュトレンの魔法がグラグロスの前脚を凍らせ、ガトーショコラの弾丸が装甲の継ぎ目を撃ち抜いた。
イグナが亀裂へハンマーを叩き込む。
大きく開いた装甲の内側へ、みたらしっぽとフェタシェールの剣が同時に入った。
グラグロスの身体が崩れ、水面へ光の粒子が広がっていく。
水門の操作輪が青く輝いた。
六人で回す。
重い石門が持ち上がり、溜まっていた水が本来の水路へ流れ始めた。
外へ出た時。
フェタシェールの装備は、まだ水を滴らせていた。
「みたが何も言わないから、途中でかなり焦った」
「言ったら、僕の攻略になるでしょう」
「少しくらい言ってくれてもよかったのに」
そう言いながらも、フェタシェールの表情には達成感があった。
ガトーショコラが銃の水気を払いながら言う。
「最後は、ちゃんと全員の位置を見てたよ」
イグナも頷いた。
「最初の門も、止めてくれて助かった」
フェタシェールは少し照れたように盾を背中へ戻した。
「帰ったら、先に着替えたい」
第一班は、全身を濡らしながらターブルロンドへの道を戻り始めた。
中央へ主水門の操作輪。
その周囲を、渦を巻く水が取り囲んでいる。
操作輪へ近づいた瞬間、水面が大きく盛り上がった。
現れたのは、鉄の装甲をまとった巨大な両生類型の魔物だった。
前脚には鎖。
背中には壊れた水門の一部が甲羅のように張りついている。
《逆潮の門番グラグロス》
咆哮とともに、部屋の水位が一気に上がった。
足場が三つへ分かれ、六人の間を激しい水流が横切る。
みたらしっぽとフェタシェールは中央。
シュトレンとエリシアは左。
ガトーショコラとイグナは右へ取り残された。
「フェタ先輩!」
シュトレンの声は聞こえるが、水音が大きい。
グラグロスが中央の足場へ前脚を振り下ろす。
フェタシェールは盾で受けたものの、足元の水に押され、後ろへ滑った。
みたらしっぽが横から鎖を斬る。
だが、切れた鎖は水中へ沈む前に魔力で繋がり直した。
右側では、イグナが水門の支柱へしがみついている。
「こっちから中央へ行けねえ!」
ガトーショコラはスコープ越しに部屋全体を見ていた。
「上に鎖が三本ある。水門とつながってる」
左側では、シュトレンが冷気を水面へ向ける。
一部を凍らせようとするが、流れが速く、すぐに割れてしまう。
エリシアは鞄から青緑色の薬を取り出した。
「レンさん。これを水へ」
「凍らせる薬?」
「水を少しだけ重くします。流れが遅くなれば、魔法が残るかもしれません」
薬が水へ落ちる。
流れの表面へ薄い膜が広がり、勢いが少し弱まった。
シュトレンがもう一度詠唱する。
今度は氷が割れず、左の足場から中央へ細い道が伸びた。
みたらしっぽはフェタシェールを見る。
「どうする?」
答えを求める声だった。
指示を出す声ではない。
フェタシェールは、三つの足場と操作輪を見た。
「ショコラさん。上の鎖を一本ずつ撃てますか?」
「撃てる」
「イグナさんは、落ちた鎖の固定具を壊してください。レンちゃんは氷を中央まで。エリシアさんは、そのままレンちゃんをお願いします」
それから、みたらしっぽへ向き直る。
「みたは私と、正面を止めて」
「わかった」
フェタシェールが盾を構える。
みたらしっぽは、その隣へ並んだ。
銃声。
上の鎖が一本切れ、右側の足場へ固定具が落ちる。
イグナのハンマーが叩きつけられた。
二本目。
三本目。
鎖が切れるたび、水位が少しずつ下がっていく。
グラグロスが中央へ突進した。
フェタシェールは真正面から止めず、盾を斜めへ向ける。
巨体がわずかに流れたところへ、みたらしっぽが踏み込んだ。
背中の水門装甲へ剣を入れる。
左から伸びた氷の道を、シュトレンとエリシアが渡ってくる。
最後の固定具がイグナの一撃で砕けた。
水流が止まる。
シュトレンの魔法がグラグロスの前脚を凍らせ、ガトーショコラの弾丸が装甲の継ぎ目を撃ち抜いた。
イグナが亀裂へハンマーを叩き込む。
大きく開いた装甲の内側へ、みたらしっぽとフェタシェールの剣が同時に入った。
グラグロスの身体が崩れ、水面へ光の粒子が広がっていく。
水門の操作輪が青く輝いた。
六人で回す。
重い石門が持ち上がり、溜まっていた水が本来の水路へ流れ始めた。
外へ出た時。
フェタシェールの装備は、まだ水を滴らせていた。
「みたが何も言わないから、途中でかなり焦った」
「言ったら、僕の攻略になるでしょう」
「少しくらい言ってくれてもよかったのに」
そう言いながらも、フェタシェールの表情には達成感があった。
ガトーショコラが銃の水気を払いながら言う。
「最後は、ちゃんと全員の位置を見てたよ」
イグナも頷いた。
「最初の門も、止めてくれて助かった」
フェタシェールは少し照れたように盾を背中へ戻した。
「帰ったら、先に着替えたい」
第一班は、全身を濡らしながらターブルロンドへの道を戻り始めた。
第二班 鳴鉄の吊坑
先輩のいない場所で
《鳴鉄の吊坑》は、崖の内部へ縦に掘られた古い鉱山だった。
通路と通路は、細い吊橋で結ばれている。
坑道の至るところには大小さまざまな鐘が吊られ、強い音を出すと魔物が集まってくる仕組みになっていた。
誰が作ったものなのかはわからない。
現在は、鉱山の最深部へ残された鉱石輸送機を停止させる依頼が出ている。
入口で、つきみはチョコチップへ地図を渡した。
「今日はチョコが進行を決めて」
チョコチップが、つきみと地図を交互に見る。
「私がですか?」
「盾を持っている人が、全部決める必要はないから」
つきみはいつもどおり静かだった。
「前は私が止める。周りを見て、どこへ進むか決めるのはチョコに任せたい」
みたらしっぽは別のダンジョンにいる。
連絡を取ることもできるが、危険でない限り相談しない約束になっていた。
チョコチップは地図を受け取った。
「わかりました」
最初の吊橋を渡る前。
フェンが足元へしゃがみ込んだ。
橋の板へ、細い金属線が何本も通されている。
「中央を歩くと、下の鐘が鳴ります」
チロルが橋の下を覗いた。
暗い縦穴の途中へ、いくつもの鐘が吊られている。
「撃って切る?」
「線だけ切ると、重りが落ちて全部鳴ると思います」
フェンは線の繋がる先を追った。
橋の端。
錆びた小さな巻き取り機。
スフレが機械を開き、歯車を手で押さえる。
「これを固定している間なら、線を外せる」
「では、私が周囲を見ます」
チョコチップが刀へ手を置く。
チロルが狙いを定め、線の接続部だけを二発で撃ち抜いた。
橋の下の鐘は揺れない。
六人は一人ずつ吊橋を渡った。
その先の坑道では、スフレが楽器を構えようとして手を止めた。
音を出せば、鐘へ響く可能性がある。
「いつもの演奏は使えないね」
「小さい音でも支援はできますか?」
レオンが尋ねる。
「効果は少し弱くなるけど」
スフレは弦の振動を抑える金具を取りつけた。
音というより、足元へ伝わる細かな鼓動。
六人の身体だけへ届く、静かな演奏へ切り替える。
「これなら大丈夫」
進むほど、坑道は複雑になった。
上から魔物が降り。
吊橋の下からも羽音が迫る。
つきみが正面を止める。
レオンはその横で盾を構え、魔法剣を一度だけ使って敵を押し返した。
続けて二度目を使おうとしたところで、チョコチップの声が届く。
「レオンさん、右をお願いします。正面はつきみさんが止めています」
レオンは炎を消し、右から回ろうとした敵へ通常の剣を向けた。
チロルの銃弾が、その肩口を捉える。
レオンが最後の一撃を入れた。
MP表示は、まだ十分に残っている。
「今の使い分けで大丈夫です」
チョコチップはそう伝え、次の敵へ向き直った。
先輩の姿はない。
それでも。
目の前には、言葉を待っている仲間がいる。
次第に、チョコチップの声は最初より自然に出るようになっていた。
通路と通路は、細い吊橋で結ばれている。
坑道の至るところには大小さまざまな鐘が吊られ、強い音を出すと魔物が集まってくる仕組みになっていた。
誰が作ったものなのかはわからない。
現在は、鉱山の最深部へ残された鉱石輸送機を停止させる依頼が出ている。
入口で、つきみはチョコチップへ地図を渡した。
「今日はチョコが進行を決めて」
チョコチップが、つきみと地図を交互に見る。
「私がですか?」
「盾を持っている人が、全部決める必要はないから」
つきみはいつもどおり静かだった。
「前は私が止める。周りを見て、どこへ進むか決めるのはチョコに任せたい」
みたらしっぽは別のダンジョンにいる。
連絡を取ることもできるが、危険でない限り相談しない約束になっていた。
チョコチップは地図を受け取った。
「わかりました」
最初の吊橋を渡る前。
フェンが足元へしゃがみ込んだ。
橋の板へ、細い金属線が何本も通されている。
「中央を歩くと、下の鐘が鳴ります」
チロルが橋の下を覗いた。
暗い縦穴の途中へ、いくつもの鐘が吊られている。
「撃って切る?」
「線だけ切ると、重りが落ちて全部鳴ると思います」
フェンは線の繋がる先を追った。
橋の端。
錆びた小さな巻き取り機。
スフレが機械を開き、歯車を手で押さえる。
「これを固定している間なら、線を外せる」
「では、私が周囲を見ます」
チョコチップが刀へ手を置く。
チロルが狙いを定め、線の接続部だけを二発で撃ち抜いた。
橋の下の鐘は揺れない。
六人は一人ずつ吊橋を渡った。
その先の坑道では、スフレが楽器を構えようとして手を止めた。
音を出せば、鐘へ響く可能性がある。
「いつもの演奏は使えないね」
「小さい音でも支援はできますか?」
レオンが尋ねる。
「効果は少し弱くなるけど」
スフレは弦の振動を抑える金具を取りつけた。
音というより、足元へ伝わる細かな鼓動。
六人の身体だけへ届く、静かな演奏へ切り替える。
「これなら大丈夫」
進むほど、坑道は複雑になった。
上から魔物が降り。
吊橋の下からも羽音が迫る。
つきみが正面を止める。
レオンはその横で盾を構え、魔法剣を一度だけ使って敵を押し返した。
続けて二度目を使おうとしたところで、チョコチップの声が届く。
「レオンさん、右をお願いします。正面はつきみさんが止めています」
レオンは炎を消し、右から回ろうとした敵へ通常の剣を向けた。
チロルの銃弾が、その肩口を捉える。
レオンが最後の一撃を入れた。
MP表示は、まだ十分に残っている。
「今の使い分けで大丈夫です」
チョコチップはそう伝え、次の敵へ向き直った。
先輩の姿はない。
それでも。
目の前には、言葉を待っている仲間がいる。
次第に、チョコチップの声は最初より自然に出るようになっていた。
鐘の鳴る順番
最深部の前には、巨大な縦穴があった。
中央へ吊り下げられた円形の足場。
その周囲を、六つの大鐘が取り囲んでいる。
足場へ乗ると、下から大型機兵がせり上がってきた。
両腕には槌。
背中には鐘を鳴らすための金属棒。
《轟鐘機兵ベルガノン》
ベルガノンが槌を振るたび、周囲の大鐘が一つずつ鳴る。
一つ目の鐘は衝撃波。
二つ目は足場の傾斜。
三つ目は頭上から落ちる金属片。
六つすべてが鳴れば、足場そのものが縦穴の底へ落ちるらしい。
フェンは鐘の表面に刻まれた傷を見た。
「鳴る順番があります。右奥、左手前、正面――」
ベルガノンが向きを変える。
次の鐘へ金属棒を振り上げた。
「チロルさん、右奥の鐘を!」
チョコチップが声を上げる。
チロルの二丁銃が、鐘を支える留め具を撃つ。
鐘は鳴る前に傾き、金属棒が空を切った。
つきみがベルガノンの正面へ入る。
巨大な槌を受け止め、足場の中央から動かさない。
レオンは背後へ回ろうとする小型機兵を盾で止めた。
スフレは鐘の間隔を聞きながら、演奏の拍を合わせる。
敵の音を消すことはできない。
ならば。
鳴る直前に防御を高め。
衝撃のあとに動きを速める。
鐘の音と、スフレの静かな旋律が交互に重なった。
三つ目の鐘が鳴る。
上から金属片が降り注ぐ。
チョコチップは足場の端へ走り、フェンの前へ落ちる破片を刀で弾いた。
「次は左です!」
フェンが叫ぶ。
チョコチップは全員の位置を見た。
つきみは中央。
レオンは右。
チロルは離れた足場。
スフレとフェンは後方。
「つきみさん、そのまま中央をお願いします。レオンさんは小型を止めてください。チロルさん、次の鐘を。スフレさん、合図をお願いします」
スフレの弦が一度だけ強く鳴った。
その拍へ合わせ、チロルが発砲する。
鐘の留め具が砕ける。
ベルガノンが鐘を失った方へ身体を傾けた。
チョコチップはその隙を逃さなかった。
足場を駆け。
機兵の腕を踏み台にする。
背中の金属棒へ刀を振り下ろした。
接続部が切断され、大きな棒が縦穴へ落ちていく。
ベルガノンは最後の槌を振り上げた。
つきみが盾で受け止める。
レオンが横から魔法剣を入れた。
残していた魔力が、刃へ赤い光を走らせる。
チロルの銃弾。
フェンの罠。
スフレの支援。
チョコチップの刀が機兵の胸部を斬り開いた。
ベルガノンは動きを止め、残っていた鐘も静かになった。
地上へ戻る昇降機が起動する。
上昇する足場の上で、チョコチップはようやく深く息を吐いた。
「少し、怖かったです」
つきみが隣へ立つ。
「どの辺が?」
「間違ったことを言って、皆さんを危険な場所へ動かしたらと思っていました」
「全部を当てる必要はないよ」
つきみは短く答えた。
「違ったら、その時に直せばいい。今日はちゃんと周りを見てた」
チロルも銃を収めながら頷いた。
「声、聞きやすかったよ」
チョコチップは少し照れたように笑った。
「ありがとうございます」
第二班は、四つの中で最も早くダンジョンを出た。
だが。
誰か一人が強かったから早かったのではない。
六人の音と動きが。
最後には、一つの拍へ揃っていた。
中央へ吊り下げられた円形の足場。
その周囲を、六つの大鐘が取り囲んでいる。
足場へ乗ると、下から大型機兵がせり上がってきた。
両腕には槌。
背中には鐘を鳴らすための金属棒。
《轟鐘機兵ベルガノン》
ベルガノンが槌を振るたび、周囲の大鐘が一つずつ鳴る。
一つ目の鐘は衝撃波。
二つ目は足場の傾斜。
三つ目は頭上から落ちる金属片。
六つすべてが鳴れば、足場そのものが縦穴の底へ落ちるらしい。
フェンは鐘の表面に刻まれた傷を見た。
「鳴る順番があります。右奥、左手前、正面――」
ベルガノンが向きを変える。
次の鐘へ金属棒を振り上げた。
「チロルさん、右奥の鐘を!」
チョコチップが声を上げる。
チロルの二丁銃が、鐘を支える留め具を撃つ。
鐘は鳴る前に傾き、金属棒が空を切った。
つきみがベルガノンの正面へ入る。
巨大な槌を受け止め、足場の中央から動かさない。
レオンは背後へ回ろうとする小型機兵を盾で止めた。
スフレは鐘の間隔を聞きながら、演奏の拍を合わせる。
敵の音を消すことはできない。
ならば。
鳴る直前に防御を高め。
衝撃のあとに動きを速める。
鐘の音と、スフレの静かな旋律が交互に重なった。
三つ目の鐘が鳴る。
上から金属片が降り注ぐ。
チョコチップは足場の端へ走り、フェンの前へ落ちる破片を刀で弾いた。
「次は左です!」
フェンが叫ぶ。
チョコチップは全員の位置を見た。
つきみは中央。
レオンは右。
チロルは離れた足場。
スフレとフェンは後方。
「つきみさん、そのまま中央をお願いします。レオンさんは小型を止めてください。チロルさん、次の鐘を。スフレさん、合図をお願いします」
スフレの弦が一度だけ強く鳴った。
その拍へ合わせ、チロルが発砲する。
鐘の留め具が砕ける。
ベルガノンが鐘を失った方へ身体を傾けた。
チョコチップはその隙を逃さなかった。
足場を駆け。
機兵の腕を踏み台にする。
背中の金属棒へ刀を振り下ろした。
接続部が切断され、大きな棒が縦穴へ落ちていく。
ベルガノンは最後の槌を振り上げた。
つきみが盾で受け止める。
レオンが横から魔法剣を入れた。
残していた魔力が、刃へ赤い光を走らせる。
チロルの銃弾。
フェンの罠。
スフレの支援。
チョコチップの刀が機兵の胸部を斬り開いた。
ベルガノンは動きを止め、残っていた鐘も静かになった。
地上へ戻る昇降機が起動する。
上昇する足場の上で、チョコチップはようやく深く息を吐いた。
「少し、怖かったです」
つきみが隣へ立つ。
「どの辺が?」
「間違ったことを言って、皆さんを危険な場所へ動かしたらと思っていました」
「全部を当てる必要はないよ」
つきみは短く答えた。
「違ったら、その時に直せばいい。今日はちゃんと周りを見てた」
チロルも銃を収めながら頷いた。
「声、聞きやすかったよ」
チョコチップは少し照れたように笑った。
「ありがとうございます」
第二班は、四つの中で最も早くダンジョンを出た。
だが。
誰か一人が強かったから早かったのではない。
六人の音と動きが。
最後には、一つの拍へ揃っていた。
第三班 浮石機関塔
床が壁になる場所
《浮石機関塔》は、岩山の中腹へ突き出すように建てられた古代施設だった。
塔の内部では重力の向きが一定ではない。
制御装置が動くたび、床だった場所が壁になり、天井が新しい足場へ変わる。
塔の上部にある主機関を停止させることが、今回の目的だった。
入口でロウガンが全員を見た。
「足場が動く時は、俺が合図する。それまでは先へ飛ばないでくれ」
エクレアがすぐに返事をする。
「わかった!」
勢いのよい返事を聞いたフィナンシェは、少しだけエクレアを見る。
「本当に待てる?」
「待てるよ!」
最初の広間には、空中へ浮かぶ石の足場が並んでいた。
正面の装置へ触れると、塔全体が低く鳴る。
足場が回転を始めた。
「まだ動くな」
ロウガンが大盾を床へ固定する。
セシールマドレーヌは《フォース》の力場を広げ、六人の身体が横へ流されないよう支えた。
ティオは壁へ移っていく荷物を見ながら、のんびりと呟く。
「壁が床になるねぇ」
ルカの翼ある召喚獣が先へ飛び、新しい重力の向きでも通れる道を探す。
回転が止まる。
「今だ」
六人が次の足場へ移る。
フィナンシェは、遠くにある青い制御石を見つけた。
弓を構え、細い隙間を通して矢を放つ。
命中。
浮いていた足場が一つ、こちらへ近づいてきた。
「フィーちゃん、すごい!」
エクレアが、その足場へ飛び乗ろうとする。
だが。
制御石の光はまだ消えていない。
足場は止まる直前に、もう一度大きく傾いた。
「エクレア!」
ロウガンの声。
エクレアの足元が外れる。
その瞬間、左手のカイザーブレードがバックラーへ変形した。
落下してきた小さな石を弾き。
セシールの力場が、身体を空中で受け止める。
ルカの召喚獣が腕へ掴まり、元の足場まで引き戻した。
エクレアは着地し、すぐに全員の顔を見る。
「ごめん。止まったと思った」
「次は光が消えてからだ」
ロウガンの声は強くなかった。
「うん。次は待つ」
今度の返事は、少し落ち着いていた。
塔の中には、重力へ合わせて形を変える機兵がいた。
壁を走る小型機兵。
天井から落ちてくる装甲獣。
ルカは甲冑獣を前へ出し、ロウガンの盾とは別の方向を塞ぐ。
ティオの魔法が機兵の進路へ炎の帯を引き、まとまって近づけないようにする。
セシールの力場が、飛び散る部品を空中で止める。
フィナンシェは制御石だけでなく、機兵の小さな関節も正確に射抜いた。
少しずつ。
塔の動きに合わせる感覚が、六人の中へ揃っていった。
塔の内部では重力の向きが一定ではない。
制御装置が動くたび、床だった場所が壁になり、天井が新しい足場へ変わる。
塔の上部にある主機関を停止させることが、今回の目的だった。
入口でロウガンが全員を見た。
「足場が動く時は、俺が合図する。それまでは先へ飛ばないでくれ」
エクレアがすぐに返事をする。
「わかった!」
勢いのよい返事を聞いたフィナンシェは、少しだけエクレアを見る。
「本当に待てる?」
「待てるよ!」
最初の広間には、空中へ浮かぶ石の足場が並んでいた。
正面の装置へ触れると、塔全体が低く鳴る。
足場が回転を始めた。
「まだ動くな」
ロウガンが大盾を床へ固定する。
セシールマドレーヌは《フォース》の力場を広げ、六人の身体が横へ流されないよう支えた。
ティオは壁へ移っていく荷物を見ながら、のんびりと呟く。
「壁が床になるねぇ」
ルカの翼ある召喚獣が先へ飛び、新しい重力の向きでも通れる道を探す。
回転が止まる。
「今だ」
六人が次の足場へ移る。
フィナンシェは、遠くにある青い制御石を見つけた。
弓を構え、細い隙間を通して矢を放つ。
命中。
浮いていた足場が一つ、こちらへ近づいてきた。
「フィーちゃん、すごい!」
エクレアが、その足場へ飛び乗ろうとする。
だが。
制御石の光はまだ消えていない。
足場は止まる直前に、もう一度大きく傾いた。
「エクレア!」
ロウガンの声。
エクレアの足元が外れる。
その瞬間、左手のカイザーブレードがバックラーへ変形した。
落下してきた小さな石を弾き。
セシールの力場が、身体を空中で受け止める。
ルカの召喚獣が腕へ掴まり、元の足場まで引き戻した。
エクレアは着地し、すぐに全員の顔を見る。
「ごめん。止まったと思った」
「次は光が消えてからだ」
ロウガンの声は強くなかった。
「うん。次は待つ」
今度の返事は、少し落ち着いていた。
塔の中には、重力へ合わせて形を変える機兵がいた。
壁を走る小型機兵。
天井から落ちてくる装甲獣。
ルカは甲冑獣を前へ出し、ロウガンの盾とは別の方向を塞ぐ。
ティオの魔法が機兵の進路へ炎の帯を引き、まとまって近づけないようにする。
セシールの力場が、飛び散る部品を空中で止める。
フィナンシェは制御石だけでなく、機兵の小さな関節も正確に射抜いた。
少しずつ。
塔の動きに合わせる感覚が、六人の中へ揃っていった。
偏重機兵オルバース
最上階には、塔全体の重力を制御する巨大な球体機関が浮いていた。
その前へ立つのは、四本の腕を持つ大型機兵。
《偏重機兵オルバース》
戦闘が始まると同時に、床が九十度回転した。
全員の身体が横へ流される。
ロウガンは大盾を石の継ぎ目へ差し込み、自分を固定した。
セシールがその位置を基準に力場を張る。
六人は壁へ叩きつけられず、新しい床へ足をつけた。
オルバースの腕が、別々の方向から伸びてくる。
エクレアは今度こそロウガンの合図を待った。
「左が空く。そこから行け」
「うん!」
二本の剣を抜き、機兵の懐へ入る。
右手の連撃。
左手の刃。
大きな腕が振り下ろされると、左剣をバックラーへ変え、軌道だけを外へ流した。
受けた直後には剣へ戻し、そのまま関節へ斬り込む。
フィナンシェは、機兵の背後で回転する三つの重力核を狙っていた。
一つ目は速い。
二つ目は装甲へ隠れる。
三つ目だけが、オルバースの腕を振る瞬間に止まる。
「次の攻撃で、一番下が止まるよ!」
ロウガンが正面を受ける。
機兵の身体が前へ傾いた。
フィナンシェの矢が、停止した核へ命中する。
一つ目が砕けた。
重力が再び変わる。
今度は天井が床になる。
ティオが浮かび上がった機関部へ炎を送り、凍りついていた歯車を動かした。
「こっちは温めたよ~」
歯車が回り、重力変換の速度がわずかに遅くなる。
ルカの翼ある召喚獣が二つ目の核へ飛びかかる。
装甲を開かせ。
甲冑獣がオルバースの脚を押さえた。
セシールは、自分が飛行船へ使っている姿勢制御の考え方を、小さな力場へ応用した。
床が動いても。
六人の足元だけは、数秒間同じ向きを保つ。
「今なら動ける!」
エクレアが機兵の身体を駆け上がる。
フィナンシェの矢が二つ目の核を割る。
残った最後の核へ、ルカの召喚獣とエクレアの剣が同時に届いた。
オルバースの重力制御が止まる。
巨大な身体が、本来の床へ落ちた。
ロウガンが盾で正面を押さえる。
開いた胸部へ、六人の攻撃が重なった。
塔の振動が収まる。
窓の外へ、夕日に照らされたターブルロンドの方角が見えた。
攻略を終えたあと。
エクレアは、最初に落ちかけた足場を見た。
「次はちゃんと待てたよ」
「最後はな」
ロウガンが答える。
「最初も待つつもりだったんだけどなあ」
「つもりではなく、止まることが大事だ」
エクレアは少しだけ頬を膨らませたが。
すぐに笑った。
「でも楽しかった! 床がひっくり返るダンジョン、また来たい!」
「次は普通の床がいいなぁ」
ティオは、重力が戻った床へ安心したように座っていた。
第三班は、持ち帰った機関部品と、少し変わった向きの地図を抱えて塔を下りていった。
その前へ立つのは、四本の腕を持つ大型機兵。
《偏重機兵オルバース》
戦闘が始まると同時に、床が九十度回転した。
全員の身体が横へ流される。
ロウガンは大盾を石の継ぎ目へ差し込み、自分を固定した。
セシールがその位置を基準に力場を張る。
六人は壁へ叩きつけられず、新しい床へ足をつけた。
オルバースの腕が、別々の方向から伸びてくる。
エクレアは今度こそロウガンの合図を待った。
「左が空く。そこから行け」
「うん!」
二本の剣を抜き、機兵の懐へ入る。
右手の連撃。
左手の刃。
大きな腕が振り下ろされると、左剣をバックラーへ変え、軌道だけを外へ流した。
受けた直後には剣へ戻し、そのまま関節へ斬り込む。
フィナンシェは、機兵の背後で回転する三つの重力核を狙っていた。
一つ目は速い。
二つ目は装甲へ隠れる。
三つ目だけが、オルバースの腕を振る瞬間に止まる。
「次の攻撃で、一番下が止まるよ!」
ロウガンが正面を受ける。
機兵の身体が前へ傾いた。
フィナンシェの矢が、停止した核へ命中する。
一つ目が砕けた。
重力が再び変わる。
今度は天井が床になる。
ティオが浮かび上がった機関部へ炎を送り、凍りついていた歯車を動かした。
「こっちは温めたよ~」
歯車が回り、重力変換の速度がわずかに遅くなる。
ルカの翼ある召喚獣が二つ目の核へ飛びかかる。
装甲を開かせ。
甲冑獣がオルバースの脚を押さえた。
セシールは、自分が飛行船へ使っている姿勢制御の考え方を、小さな力場へ応用した。
床が動いても。
六人の足元だけは、数秒間同じ向きを保つ。
「今なら動ける!」
エクレアが機兵の身体を駆け上がる。
フィナンシェの矢が二つ目の核を割る。
残った最後の核へ、ルカの召喚獣とエクレアの剣が同時に届いた。
オルバースの重力制御が止まる。
巨大な身体が、本来の床へ落ちた。
ロウガンが盾で正面を押さえる。
開いた胸部へ、六人の攻撃が重なった。
塔の振動が収まる。
窓の外へ、夕日に照らされたターブルロンドの方角が見えた。
攻略を終えたあと。
エクレアは、最初に落ちかけた足場を見た。
「次はちゃんと待てたよ」
「最後はな」
ロウガンが答える。
「最初も待つつもりだったんだけどなあ」
「つもりではなく、止まることが大事だ」
エクレアは少しだけ頬を膨らませたが。
すぐに笑った。
「でも楽しかった! 床がひっくり返るダンジョン、また来たい!」
「次は普通の床がいいなぁ」
ティオは、重力が戻った床へ安心したように座っていた。
第三班は、持ち帰った機関部品と、少し変わった向きの地図を抱えて塔を下りていった。
第四班 白霧の樹廟
声の届かない霧
第四班が向かった《白霧の樹廟》は、古い墓所と森が一体になったダンジョンだった。
入口を越えた瞬間、周囲の景色が白い霧へ覆われる。
地図表示は近くしか機能せず、少し離れただけでパーティー通信にも雑音が混じった。
「五人しかいない分、さっさと終わらせて帰ろう」
シュガーシロップが大剣を背負い直す。
「そういうことを言うと、帰りが遅くなるのよ」
アイリスが霧の奥を見た。
エスプレッソは入口の石柱へ白墨で短い印を残した。
帰り道を見失わないよう、曲がり角や分岐でも同じ印を残していく。
エイルは空気の匂いを確かめるように顔を上げた。
「右は水。左は湿った木の匂いだな」
「奥で何か動いてる」
カイトが獣耳を前へ向ける。
「でも、距離まではわからない」
シュガーシロップが先頭。
アイリスが中央。
エスプレッソは最後尾に近い位置から、白墨の印と後方の気配を確認する。
エイルとカイトは左右の霧へ注意を向けながら進んだ。
白い霧から小型獣が現れる。
シュガーシロップが正面から押し返した。
その横を抜けようとした後続へ、エスプレッソの大鎌が地面すれすれを走る。
湾曲した刃が魔物の前脚を絡め取り、突進の勢いを利用して外側へ投げた。
さらに一体がアイリスへ回ろうとする。
カイトが間へ入り、拳で頭部の向きを逸らした。
「こっちは俺が見る。回復は前へ頼むよ」
追ってきた魔物を蹴り返し、シュガーシロップが大剣を振れる場所へ送り込む。
エスプレッソも大鎌を返し、倒れた二体を長い間合いからまとめて薙ぎ払った。
五人は互いの姿が見える距離を保ちながら、樹廟の中央へ進んでいった。
問題が起きたのは、古い石門を越えた直後だった。
霧が急激に濃くなる。
数歩先にいた仲間の背中さえ、白の中へ消えた。
「全員、止まれ!」
シュガーシロップの声。
返事が近くから一つ。
遠くから二つ。
方向まではわからない。
次の瞬間。
地面から白い根が伸び、通路を大きく二つへ分けた。
シュガーシロップとアイリス。
エスプレッソ、エイル、カイト。
五人は二組へ切り離された。
シュガーシロップが根へ大剣を叩き込む。
表面は砕けるが、奥から新しい根が伸び、すぐに塞がってしまう。
「力任せでは無理ね」
根の反対側では、エスプレッソが大鎌の柄で根を一つずつ叩いていた。
詰まった音。
空洞へ響く音。
内部の構造を確かめながら、刃を差し込めそうな隙間を探している。
エイルが耳を澄ませた。
遠くから、石へ金属を当てる音が三度。
少し間を置き。
もう一度、三度。
「向こうからの合図だ」
エイルが同じ間隔で根を叩き返す。
カイトは周囲の壁を見上げた。
木の根と石の間に、人が一人ぎりぎり通れそうな隙間がある。
「上へ抜けられそうだ」
エスプレッソも隙間を見る。
「狭い」
「俺なら行ける」
カイトは共用鞄を下ろし、エイルへ渡した。
エスプレッソは鞄から登攀用の細いロープを出し、カイトの腰へしっかり結びつけた。
「戻る場所を見失わないように」
「助かる。向こうへ着いたら二回引くよ」
「切れそうなら止まって」
「わかった。じゃあ、ちょっと行ってくる」
カイトは壁を蹴り、細い隙間へ身体を滑り込ませる。
ロープが少しずつ霧の中へ伸びていく。
やがて。
二度、はっきりと引かれた。
向こう側へ着いた合図だった。
シュガーシロップとアイリスへ合流したカイトは、根の下へ埋まった青い核を見つけた。
「核は下だ! こっちから少し持ち上げる!」
カイトが位置を知らせる。
反対側では、エスプレッソが示された場所へ大鎌の先を差し込んだ。
湾曲した内刃が、根の奥にある硬い部分へ掛かる。
「ここ」
エスプレッソが短く告げる。
エイルも横から根を押さえた。
向こう側では、シュガーシロップが大剣を地面へ差し込み、青い核ごと持ち上げるように斬る。
エスプレッソが大鎌を強く引いた。
両側から根が裂ける。
露出した核へ、エイルとカイトの攻撃が重なった。
青い光が砕ける。
白い根は力を失い、霧の中へ沈んでいった。
五人が再び揃う。
カイトは腰のロープを解き、エスプレッソへ返した。
「助かった。これがなかったら、戻る方向がわからなくなってたよ」
「使えたならよかった」
エスプレッソはロープを共用鞄へ戻し、大鎌を肩へ担ぎ直した。
入口を越えた瞬間、周囲の景色が白い霧へ覆われる。
地図表示は近くしか機能せず、少し離れただけでパーティー通信にも雑音が混じった。
「五人しかいない分、さっさと終わらせて帰ろう」
シュガーシロップが大剣を背負い直す。
「そういうことを言うと、帰りが遅くなるのよ」
アイリスが霧の奥を見た。
エスプレッソは入口の石柱へ白墨で短い印を残した。
帰り道を見失わないよう、曲がり角や分岐でも同じ印を残していく。
エイルは空気の匂いを確かめるように顔を上げた。
「右は水。左は湿った木の匂いだな」
「奥で何か動いてる」
カイトが獣耳を前へ向ける。
「でも、距離まではわからない」
シュガーシロップが先頭。
アイリスが中央。
エスプレッソは最後尾に近い位置から、白墨の印と後方の気配を確認する。
エイルとカイトは左右の霧へ注意を向けながら進んだ。
白い霧から小型獣が現れる。
シュガーシロップが正面から押し返した。
その横を抜けようとした後続へ、エスプレッソの大鎌が地面すれすれを走る。
湾曲した刃が魔物の前脚を絡め取り、突進の勢いを利用して外側へ投げた。
さらに一体がアイリスへ回ろうとする。
カイトが間へ入り、拳で頭部の向きを逸らした。
「こっちは俺が見る。回復は前へ頼むよ」
追ってきた魔物を蹴り返し、シュガーシロップが大剣を振れる場所へ送り込む。
エスプレッソも大鎌を返し、倒れた二体を長い間合いからまとめて薙ぎ払った。
五人は互いの姿が見える距離を保ちながら、樹廟の中央へ進んでいった。
問題が起きたのは、古い石門を越えた直後だった。
霧が急激に濃くなる。
数歩先にいた仲間の背中さえ、白の中へ消えた。
「全員、止まれ!」
シュガーシロップの声。
返事が近くから一つ。
遠くから二つ。
方向まではわからない。
次の瞬間。
地面から白い根が伸び、通路を大きく二つへ分けた。
シュガーシロップとアイリス。
エスプレッソ、エイル、カイト。
五人は二組へ切り離された。
シュガーシロップが根へ大剣を叩き込む。
表面は砕けるが、奥から新しい根が伸び、すぐに塞がってしまう。
「力任せでは無理ね」
根の反対側では、エスプレッソが大鎌の柄で根を一つずつ叩いていた。
詰まった音。
空洞へ響く音。
内部の構造を確かめながら、刃を差し込めそうな隙間を探している。
エイルが耳を澄ませた。
遠くから、石へ金属を当てる音が三度。
少し間を置き。
もう一度、三度。
「向こうからの合図だ」
エイルが同じ間隔で根を叩き返す。
カイトは周囲の壁を見上げた。
木の根と石の間に、人が一人ぎりぎり通れそうな隙間がある。
「上へ抜けられそうだ」
エスプレッソも隙間を見る。
「狭い」
「俺なら行ける」
カイトは共用鞄を下ろし、エイルへ渡した。
エスプレッソは鞄から登攀用の細いロープを出し、カイトの腰へしっかり結びつけた。
「戻る場所を見失わないように」
「助かる。向こうへ着いたら二回引くよ」
「切れそうなら止まって」
「わかった。じゃあ、ちょっと行ってくる」
カイトは壁を蹴り、細い隙間へ身体を滑り込ませる。
ロープが少しずつ霧の中へ伸びていく。
やがて。
二度、はっきりと引かれた。
向こう側へ着いた合図だった。
シュガーシロップとアイリスへ合流したカイトは、根の下へ埋まった青い核を見つけた。
「核は下だ! こっちから少し持ち上げる!」
カイトが位置を知らせる。
反対側では、エスプレッソが示された場所へ大鎌の先を差し込んだ。
湾曲した内刃が、根の奥にある硬い部分へ掛かる。
「ここ」
エスプレッソが短く告げる。
エイルも横から根を押さえた。
向こう側では、シュガーシロップが大剣を地面へ差し込み、青い核ごと持ち上げるように斬る。
エスプレッソが大鎌を強く引いた。
両側から根が裂ける。
露出した核へ、エイルとカイトの攻撃が重なった。
青い光が砕ける。
白い根は力を失い、霧の中へ沈んでいった。
五人が再び揃う。
カイトは腰のロープを解き、エスプレッソへ返した。
「助かった。これがなかったら、戻る方向がわからなくなってたよ」
「使えたならよかった」
エスプレッソはロープを共用鞄へ戻し、大鎌を肩へ担ぎ直した。
霧喰いの樹獣
樹廟の最奥。
石棺が並ぶ広場には、一本の巨大な白樹が立っていた。
枝の間から角を持つ獣の顔が現れる。
幹が割れ。
四本の脚が地面へ下りた。
《霧喰いの樹獣ムルヴァ》
咆哮とともに、広場全体へ濃い霧が満ちる。
ムルヴァの姿が三つへ増えた。
どれも同じ大きさ。
同じ動き。
攻撃を当てても、二体は霧へ溶けて形を作り直す。
「本物はどれだ?」
シュガーシロップが大剣を構える。
エスプレッソは大鎌を低く構え、霧の中で三体の間合いを見比べる。
見た目も足音も、ほとんど変わらない。
エイルが目を閉じた。
湿った石。
古い木。
土。
その中に、一つだけ濃い樹脂の匂いがある。
「右奥だ!」
エイルが声を上げる。
「右奥だけ、木の匂いが強い!」
三体のムルヴァが同時に動き出す。
カイトが真っ先に右奥へ走り、拳を叩き込む。
今度は霧へ消えない。
硬い幹の感触が返ってきた。
「当たりだ!」
本体がカイトへ前脚を振り下ろす。
その間へ、エスプレッソの大鎌が横から滑り込んだ。
湾曲した刃を前脚へ掛け、踏み込みの方向へ強く引く。
巨体を倒すほどの力はない。
それでも、振り下ろされる爪の軌道が外れ、カイトの横を通り過ぎた。
エスプレッソは刃を外し、そのまま本体の脇へ回る。
大鎌が円を描く。
根元へ伸びていた白い蔓がまとめて断ち切られ、幹の内側が僅かに露出した。
分身二体はカイトが外周へ引きつける。
エイルは匂いを追い、本体が位置を変えるたびに声を飛ばす。
「左! 次は正面へ来る!」
シュガーシロップが大剣の向きを変える。
本体の角を受け流し、肩を幹へ押しつけた。
アイリスの回復光が背中へ届く。
カイトが分身同士を衝突させ、霧の形を崩す。
「やるなら今だ!」
シュガーシロップが本体を押さえる。
エスプレッソが大鎌の長い柄を回し、露出した幹へ連続で刃を走らせた。
一撃。
二撃。
三撃。
《首狩師》の連撃が重なるたび、白樹へ深い亀裂が広がっていく。
カイトとエイルの拳。
アイリスの攻撃魔法。
最後に、シュガーシロップの大剣が振り下ろされた。
白樹が大きく裂ける。
霧の分身が一斉に消え、広場へ静けさが戻った。
石棺が並ぶ広場には、一本の巨大な白樹が立っていた。
枝の間から角を持つ獣の顔が現れる。
幹が割れ。
四本の脚が地面へ下りた。
《霧喰いの樹獣ムルヴァ》
咆哮とともに、広場全体へ濃い霧が満ちる。
ムルヴァの姿が三つへ増えた。
どれも同じ大きさ。
同じ動き。
攻撃を当てても、二体は霧へ溶けて形を作り直す。
「本物はどれだ?」
シュガーシロップが大剣を構える。
エスプレッソは大鎌を低く構え、霧の中で三体の間合いを見比べる。
見た目も足音も、ほとんど変わらない。
エイルが目を閉じた。
湿った石。
古い木。
土。
その中に、一つだけ濃い樹脂の匂いがある。
「右奥だ!」
エイルが声を上げる。
「右奥だけ、木の匂いが強い!」
三体のムルヴァが同時に動き出す。
カイトが真っ先に右奥へ走り、拳を叩き込む。
今度は霧へ消えない。
硬い幹の感触が返ってきた。
「当たりだ!」
本体がカイトへ前脚を振り下ろす。
その間へ、エスプレッソの大鎌が横から滑り込んだ。
湾曲した刃を前脚へ掛け、踏み込みの方向へ強く引く。
巨体を倒すほどの力はない。
それでも、振り下ろされる爪の軌道が外れ、カイトの横を通り過ぎた。
エスプレッソは刃を外し、そのまま本体の脇へ回る。
大鎌が円を描く。
根元へ伸びていた白い蔓がまとめて断ち切られ、幹の内側が僅かに露出した。
分身二体はカイトが外周へ引きつける。
エイルは匂いを追い、本体が位置を変えるたびに声を飛ばす。
「左! 次は正面へ来る!」
シュガーシロップが大剣の向きを変える。
本体の角を受け流し、肩を幹へ押しつけた。
アイリスの回復光が背中へ届く。
カイトが分身同士を衝突させ、霧の形を崩す。
「やるなら今だ!」
シュガーシロップが本体を押さえる。
エスプレッソが大鎌の長い柄を回し、露出した幹へ連続で刃を走らせた。
一撃。
二撃。
三撃。
《首狩師》の連撃が重なるたび、白樹へ深い亀裂が広がっていく。
カイトとエイルの拳。
アイリスの攻撃魔法。
最後に、シュガーシロップの大剣が振り下ろされた。
白樹が大きく裂ける。
霧の分身が一斉に消え、広場へ静けさが戻った。
長いテーブルへ帰って
第二班が最初に戻り。
少し遅れて第三班。
水に濡れた第一班が、そのあとへ続いた。
窓の外がすっかり暗くなった頃、第四班もようやくギルドハウスの扉を開いた。
「おかえりなさい」
チョコチップが立ち上がる。
シュガーシロップは装備へついた白い葉を払いながら答えた。
「ただいま。そっちは早かったな」
「少しだけです」
会議室には、四つのダンジョンから持ち帰ったものが並んでいた。
水門の錆びた固定具。
吊坑の鐘片。
機関塔の重力核。
樹廟の白い枝。
全員が揃うと、ティオが調理場へ消え、温かい料理を運んできた。
濡れた者。
煤で汚れた者。
霧の匂いをまとった者。
朝は同じ場所から出発したのに、帰ってきた姿はそれぞれ違っている。
食事が少し落ち着いたところで、みたらしっぽは四つの地図をテーブルへ広げた。
「今日は、攻略できたかどうかだけを聞くつもりはない」
全員の顔を見る。
「一番困ったことと、誰かに助けられたことを話してほしい」
第一班では、フェタシェールが少し迷ったあと、最初の鉄門のことを話した。
イグナが壊そうとしたことではない。
自分も同じ判断をしかけたこと。
ガトーショコラが重りへ気づき。
全員で別の道を選べたこと。
「最後は、フェタが決めた」
みたらしっぽが言う。
「僕はほとんど言ってない」
「本当に、もう少し言ってほしかった」
フェタシェールはそう返したが、声は少し嬉しそうだった。
第二班では、チョコチップが鐘の順番を見失いかけたことを話した。
フェンが傷を読み。
チロルが鐘を止め。
スフレが音の間隔を揃えたことで、指示を続けられた。
「私一人で見つけたことは、ほとんどありませんでした」
「だから指示になったんじゃない?」
つきみが言う。
「みんなが見つけたものを、次の動きへ繋げてたから」
チョコチップは、その言葉を静かに受け取った。
第三班からは、エクレアが最初に手を上げた。
「私は、足場が止まる前に飛びました」
全員の視線が集まる。
「でも、次はちゃんと待った!」
「最初の話が大事なんだ」
ロウガンが言う。
会議室へ笑いが広がった。
エクレアは少し照れながらも、セシールとルカに助けられたことを隠さず話した。
フィナンシェも、遠くの制御石を狙う役が自分に向いていたことを知ったと続ける。
第四班は、声が届かなくなった時のことを話した。
黒糸。
石を叩く音。
匂い。
一人が持っているものだけでは、霧の中で合流できなかった。
「言葉が届かないなら、別の方法を決めておく必要があるわね」
アイリスが言う。
「グリーデン洞窟にも、通信できない場所があるかもしれないもの」
四つの攻略は。
それぞれ違う失敗と、違う答えを持ち帰ってきた。
みたらしっぽは、朝に作ったパーティー表を開いた。
「次も同じ組み合わせにはしない」
「せっかく慣れてきたのに?」
エクレアが尋ねる。
「慣れた相手と組めることがわかったから、今度はまた別の人と組む」
みたらしっぽは全員へ向けて続けた。
「今日の四つは、どのパーティーが強かったかを決めるためのものじゃない。組み合わせが変わると、見えるものも困ることも変わる。それを今のうちに何度も経験したい」
壁には、グリーデン峠の大きな地図が掛かっている。
まだ出発日はない。
洞窟の奥も。
剣龍の戦場も。
ほとんど白いままだった。
その地図の下へ。
今日攻略した四つのダンジョンの記録が並べられた。
一つずつは、南部の峠とは関係のない場所だ。
それでも。
前へ立つこと。
指示を出すこと。
待つこと。
離れても戻ること。
そのすべてが、いつか山の向こうで必要になる。
みたらしっぽは、TRustDiamonDから届いていた合同訓練の予定を開いた。
「次は、僕たちをよく知らない人たちにも見てもらおう」
団ノ子の中だけでは。
互いの癖を知っているから補えてしまうこともある。
TRustDiamonDとの訓練では。
今日よりも簡単には通じないだろう。
長いテーブルの周りには、疲れた表情と、それ以上の期待があった。
グリーデン峠は、まだ遠い。
だからこそ。
団ノ子は急いで山へ向かわず。
まず、自分たちの中にある距離を、一つずつ歩き始めていた。
少し遅れて第三班。
水に濡れた第一班が、そのあとへ続いた。
窓の外がすっかり暗くなった頃、第四班もようやくギルドハウスの扉を開いた。
「おかえりなさい」
チョコチップが立ち上がる。
シュガーシロップは装備へついた白い葉を払いながら答えた。
「ただいま。そっちは早かったな」
「少しだけです」
会議室には、四つのダンジョンから持ち帰ったものが並んでいた。
水門の錆びた固定具。
吊坑の鐘片。
機関塔の重力核。
樹廟の白い枝。
全員が揃うと、ティオが調理場へ消え、温かい料理を運んできた。
濡れた者。
煤で汚れた者。
霧の匂いをまとった者。
朝は同じ場所から出発したのに、帰ってきた姿はそれぞれ違っている。
食事が少し落ち着いたところで、みたらしっぽは四つの地図をテーブルへ広げた。
「今日は、攻略できたかどうかだけを聞くつもりはない」
全員の顔を見る。
「一番困ったことと、誰かに助けられたことを話してほしい」
第一班では、フェタシェールが少し迷ったあと、最初の鉄門のことを話した。
イグナが壊そうとしたことではない。
自分も同じ判断をしかけたこと。
ガトーショコラが重りへ気づき。
全員で別の道を選べたこと。
「最後は、フェタが決めた」
みたらしっぽが言う。
「僕はほとんど言ってない」
「本当に、もう少し言ってほしかった」
フェタシェールはそう返したが、声は少し嬉しそうだった。
第二班では、チョコチップが鐘の順番を見失いかけたことを話した。
フェンが傷を読み。
チロルが鐘を止め。
スフレが音の間隔を揃えたことで、指示を続けられた。
「私一人で見つけたことは、ほとんどありませんでした」
「だから指示になったんじゃない?」
つきみが言う。
「みんなが見つけたものを、次の動きへ繋げてたから」
チョコチップは、その言葉を静かに受け取った。
第三班からは、エクレアが最初に手を上げた。
「私は、足場が止まる前に飛びました」
全員の視線が集まる。
「でも、次はちゃんと待った!」
「最初の話が大事なんだ」
ロウガンが言う。
会議室へ笑いが広がった。
エクレアは少し照れながらも、セシールとルカに助けられたことを隠さず話した。
フィナンシェも、遠くの制御石を狙う役が自分に向いていたことを知ったと続ける。
第四班は、声が届かなくなった時のことを話した。
黒糸。
石を叩く音。
匂い。
一人が持っているものだけでは、霧の中で合流できなかった。
「言葉が届かないなら、別の方法を決めておく必要があるわね」
アイリスが言う。
「グリーデン洞窟にも、通信できない場所があるかもしれないもの」
四つの攻略は。
それぞれ違う失敗と、違う答えを持ち帰ってきた。
みたらしっぽは、朝に作ったパーティー表を開いた。
「次も同じ組み合わせにはしない」
「せっかく慣れてきたのに?」
エクレアが尋ねる。
「慣れた相手と組めることがわかったから、今度はまた別の人と組む」
みたらしっぽは全員へ向けて続けた。
「今日の四つは、どのパーティーが強かったかを決めるためのものじゃない。組み合わせが変わると、見えるものも困ることも変わる。それを今のうちに何度も経験したい」
壁には、グリーデン峠の大きな地図が掛かっている。
まだ出発日はない。
洞窟の奥も。
剣龍の戦場も。
ほとんど白いままだった。
その地図の下へ。
今日攻略した四つのダンジョンの記録が並べられた。
一つずつは、南部の峠とは関係のない場所だ。
それでも。
前へ立つこと。
指示を出すこと。
待つこと。
離れても戻ること。
そのすべてが、いつか山の向こうで必要になる。
みたらしっぽは、TRustDiamonDから届いていた合同訓練の予定を開いた。
「次は、僕たちをよく知らない人たちにも見てもらおう」
団ノ子の中だけでは。
互いの癖を知っているから補えてしまうこともある。
TRustDiamonDとの訓練では。
今日よりも簡単には通じないだろう。
長いテーブルの周りには、疲れた表情と、それ以上の期待があった。
グリーデン峠は、まだ遠い。
だからこそ。
団ノ子は急いで山へ向かわず。
まず、自分たちの中にある距離を、一つずつ歩き始めていた。