だんのこまち@wiki
前へ出る仲間たち
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少しずつ変わるギルドハウス
エリシアとフェンが団ノ子へ加わってから、ギルドハウスの中には新しい音が増えていた。
調理場の隣では、瓶の触れ合う小さな音がする。
エリシアが使い始めた部屋には、まだ大きな調合設備こそないものの、薬草を乾燥させる棚や、小型の魔石炉が置かれていた。ティオと二人で試しているらしい薬入りの保存食には、試作品ごとに番号が振られている。
会議室の一角では、紙をめくる音が絶えない。
フェンはエスプレッソから借りた古い記録と、自分で書いた地図を照らし合わせていた。罠の位置だけでなく、どうしてそこに仕掛けがあると考えたのかまで書き加えている。
その隣には、グリーデン峠と洞窟について集めた資料が少しずつ積み上がっていた。
洞窟の全容には程遠い。
正確な地図と呼べるものもない。
それでも、何も知らなかった頃よりは、山の向こうへ続く道が少しだけ見え始めていた。
募集を出してからも、みたらしっぽは届いた問い合わせを一度に処理しようとはしなかった。
一緒に遊べる日を決める。
話をする。
ダンジョンへ行く。
そのあとで、また会いたいと思えるかを確かめる。
エリシアとフェンを迎えた時と、同じやり方だった。
ある日の夕方。
みたらしっぽとチョコチップが会議室で次の見学予定を確認していると、ギルドハウスの扉が叩かれた。
現れたのは、銀色の短い髪をした青年だった。
片手には剣。
反対の腕には、小型の盾。
鎧の上からでも、魔力を通すための青い導線が見えている。
「募集を見て来ました。レオンです」
少し緊張しているようだったが、声ははっきりしていた。
「戦闘クラスは《マジックナイト》。前衛をしています」
みたらしっぽは、すぐに加入画面を開かず、長いテーブルへ案内した。
「団ノ子へ入りたいと思った理由を聞いてもいい?」
「剣龍の話にも興味があります。でも、一番気になったのは、峠へ向かう前から一緒に活動する人を探している、というところです」
レオンは自分の盾へ視線を落とした。
「誰かが攻撃されているのに、後ろで待っているのが苦手なんです。前に立てる場所があるなら、そこで役に立ちたいと思いました」
正義感が強い。
その言葉どおりなのだろう。
ただ、前へ出たい気持ちと、前衛として最後まで立ち続けられることは、同じではない。
みたらしっぽは数日後の予定を開いた。
「まず一度、一緒に行こう。少し山道に近い場所がある」
「お願いします」
レオンは迷わず頷いた。
調理場の隣では、瓶の触れ合う小さな音がする。
エリシアが使い始めた部屋には、まだ大きな調合設備こそないものの、薬草を乾燥させる棚や、小型の魔石炉が置かれていた。ティオと二人で試しているらしい薬入りの保存食には、試作品ごとに番号が振られている。
会議室の一角では、紙をめくる音が絶えない。
フェンはエスプレッソから借りた古い記録と、自分で書いた地図を照らし合わせていた。罠の位置だけでなく、どうしてそこに仕掛けがあると考えたのかまで書き加えている。
その隣には、グリーデン峠と洞窟について集めた資料が少しずつ積み上がっていた。
洞窟の全容には程遠い。
正確な地図と呼べるものもない。
それでも、何も知らなかった頃よりは、山の向こうへ続く道が少しだけ見え始めていた。
募集を出してからも、みたらしっぽは届いた問い合わせを一度に処理しようとはしなかった。
一緒に遊べる日を決める。
話をする。
ダンジョンへ行く。
そのあとで、また会いたいと思えるかを確かめる。
エリシアとフェンを迎えた時と、同じやり方だった。
ある日の夕方。
みたらしっぽとチョコチップが会議室で次の見学予定を確認していると、ギルドハウスの扉が叩かれた。
現れたのは、銀色の短い髪をした青年だった。
片手には剣。
反対の腕には、小型の盾。
鎧の上からでも、魔力を通すための青い導線が見えている。
「募集を見て来ました。レオンです」
少し緊張しているようだったが、声ははっきりしていた。
「戦闘クラスは《マジックナイト》。前衛をしています」
みたらしっぽは、すぐに加入画面を開かず、長いテーブルへ案内した。
「団ノ子へ入りたいと思った理由を聞いてもいい?」
「剣龍の話にも興味があります。でも、一番気になったのは、峠へ向かう前から一緒に活動する人を探している、というところです」
レオンは自分の盾へ視線を落とした。
「誰かが攻撃されているのに、後ろで待っているのが苦手なんです。前に立てる場所があるなら、そこで役に立ちたいと思いました」
正義感が強い。
その言葉どおりなのだろう。
ただ、前へ出たい気持ちと、前衛として最後まで立ち続けられることは、同じではない。
みたらしっぽは数日後の予定を開いた。
「まず一度、一緒に行こう。少し山道に近い場所がある」
「お願いします」
レオンは迷わず頷いた。
守るために残すもの
見学の日に選ばれたのは、ターブルロンド南方の《風折れの監視路》だった。
山岳地帯へ続く古い道の一つで、崩れた監視塔の調査と、そこへ向かう測量員の護衛を同時に行う依頼だ。
道は狭く、強い横風が吹く。
出現する魔物も一体ずつなら難しくないが、護衛対象を狙って複数方向から集まることがある。
みたらしっぽ、チョコチップ、アイリス、エリシア、そしてレオンの五人で、測量員を挟むように山道を進んだ。
最初の戦闘では、レオンの動きに迷いはなかった。
岩陰から魔物が飛び出した瞬間、盾を前へ出し、剣へ炎をまとわせる。
魔力を帯びた斬撃が一体目を押し返す。
続いて防護魔法を展開し、別の一体が測量員へ近づく前に進路を塞いだ。
判断は速い。
攻撃力も十分にある。
しかし、戦闘が終わった時には、レオンのMPが大きく減っていた。
アイリスがその表示を見た。
「今の敵に、魔法剣を三回と防護術を二回使ったの?」
「早く倒した方が、安全だと思ったので」
「敵は、まだ先にもいるわ」
責めるような声ではない。
それでも、言葉ははっきりしていた。
「全部を最初の戦闘で使ったら、最後に守る力が残らないでしょう」
レオンはMP表示を見直した。
「気をつけます」
返事は素直だった。
だが、わかることと、実際に動きを変えられることは別だ。
監視塔へ近づいた頃。
風にあおられた測量員の一人が、隊列から少し離れた。
その瞬間、崖の上から岩甲の獣が飛び降りてくる。
レオンは誰よりも早く走った。
測量員の前へ入り、盾で爪を受け止める。
衝撃に足を滑らせながらも、剣へ再び炎をまとわせた。
一撃。
二撃。
獣を押し返すため、さらに魔力を注ごうとする。
「レオン、そこで止めて!」
アイリスの声が届いた。
レオンは剣を振り上げた姿勢のまま、ほんの一瞬だけ迷った。
それでも、三度目の魔法剣は使わなかった。
代わりに盾を少し傾け、再び迫った爪を外へ流す。
みたらしっぽが側面へ入り、獣の注意を引く。
チョコチップの刀が前脚を斬り、エリシアの支援魔法がレオンの足元を包んだ。
「通常攻撃で十分です。今は倒すより、ここを離れさせましょう」
エリシアの言葉に、レオンは頷いた。
盾で押し返し、測量員が安全な場所へ戻る時間を作る。
魔法を使わなくても。
レオンは前に立ち続けられた。
その先。
監視塔の広場では、岩をまとった大型の獣が待っていた。
レオンのMPは、全快からは遠い。
それでも、使い切ってはいない。
大型獣が突進してくる。
レオンは盾で真正面から止めようとせず、みたらしっぽと動きを合わせて進路をずらした。
敵が塔の残骸へ肩をぶつけ、姿勢を崩す。
「今!」
チョコチップの声。
レオンは、その時まで残していた魔力を剣へ注いだ。
赤い光が刀身を覆う。
装甲の割れた部分へ、一度だけ深く斬り込む。
五人の攻撃が重なり、大型獣は岩の装甲を崩しながら倒れた。
依頼を終えたあと。
アイリスは、レオンの残ったMPを確認した。
「今度は残ったわね」
「はい」
レオンは少し息を整えた。
「助けに出たことは、間違っていましたか?」
アイリスは首を横へ振る。
「助けに出た判断は間違っていないわ。でも、あなたがそこで魔力を全部使い切って倒れたら、その次には誰も守れない」
山道の先へ目を向ける。
「前衛は、最初の危険だけ止めればいいわけではないの。最後まで立っていなさい」
レオンは、今度は先ほどより深く頷いた。
山岳地帯へ続く古い道の一つで、崩れた監視塔の調査と、そこへ向かう測量員の護衛を同時に行う依頼だ。
道は狭く、強い横風が吹く。
出現する魔物も一体ずつなら難しくないが、護衛対象を狙って複数方向から集まることがある。
みたらしっぽ、チョコチップ、アイリス、エリシア、そしてレオンの五人で、測量員を挟むように山道を進んだ。
最初の戦闘では、レオンの動きに迷いはなかった。
岩陰から魔物が飛び出した瞬間、盾を前へ出し、剣へ炎をまとわせる。
魔力を帯びた斬撃が一体目を押し返す。
続いて防護魔法を展開し、別の一体が測量員へ近づく前に進路を塞いだ。
判断は速い。
攻撃力も十分にある。
しかし、戦闘が終わった時には、レオンのMPが大きく減っていた。
アイリスがその表示を見た。
「今の敵に、魔法剣を三回と防護術を二回使ったの?」
「早く倒した方が、安全だと思ったので」
「敵は、まだ先にもいるわ」
責めるような声ではない。
それでも、言葉ははっきりしていた。
「全部を最初の戦闘で使ったら、最後に守る力が残らないでしょう」
レオンはMP表示を見直した。
「気をつけます」
返事は素直だった。
だが、わかることと、実際に動きを変えられることは別だ。
監視塔へ近づいた頃。
風にあおられた測量員の一人が、隊列から少し離れた。
その瞬間、崖の上から岩甲の獣が飛び降りてくる。
レオンは誰よりも早く走った。
測量員の前へ入り、盾で爪を受け止める。
衝撃に足を滑らせながらも、剣へ再び炎をまとわせた。
一撃。
二撃。
獣を押し返すため、さらに魔力を注ごうとする。
「レオン、そこで止めて!」
アイリスの声が届いた。
レオンは剣を振り上げた姿勢のまま、ほんの一瞬だけ迷った。
それでも、三度目の魔法剣は使わなかった。
代わりに盾を少し傾け、再び迫った爪を外へ流す。
みたらしっぽが側面へ入り、獣の注意を引く。
チョコチップの刀が前脚を斬り、エリシアの支援魔法がレオンの足元を包んだ。
「通常攻撃で十分です。今は倒すより、ここを離れさせましょう」
エリシアの言葉に、レオンは頷いた。
盾で押し返し、測量員が安全な場所へ戻る時間を作る。
魔法を使わなくても。
レオンは前に立ち続けられた。
その先。
監視塔の広場では、岩をまとった大型の獣が待っていた。
レオンのMPは、全快からは遠い。
それでも、使い切ってはいない。
大型獣が突進してくる。
レオンは盾で真正面から止めようとせず、みたらしっぽと動きを合わせて進路をずらした。
敵が塔の残骸へ肩をぶつけ、姿勢を崩す。
「今!」
チョコチップの声。
レオンは、その時まで残していた魔力を剣へ注いだ。
赤い光が刀身を覆う。
装甲の割れた部分へ、一度だけ深く斬り込む。
五人の攻撃が重なり、大型獣は岩の装甲を崩しながら倒れた。
依頼を終えたあと。
アイリスは、レオンの残ったMPを確認した。
「今度は残ったわね」
「はい」
レオンは少し息を整えた。
「助けに出たことは、間違っていましたか?」
アイリスは首を横へ振る。
「助けに出た判断は間違っていないわ。でも、あなたがそこで魔力を全部使い切って倒れたら、その次には誰も守れない」
山道の先へ目を向ける。
「前衛は、最初の危険だけ止めればいいわけではないの。最後まで立っていなさい」
レオンは、今度は先ほどより深く頷いた。
前衛として残ること
その日の帰りに、レオンが団ノ子へ入ることはなかった。
みたらしっぽも誘わなかった。
レオンは、その後も何度かギルドの訓練へ参加した。
小規模なダンジョン。
護衛依頼。
スフレが作った浮遊標的を使う移動訓練。
最初の頃は、仲間へ攻撃が向くたびに魔力を使っていた。
やがて、盾だけで止められる攻撃と、魔法を使うべき場面を分けるようになった。
エリシアが作った緩やかなMP回復薬を、残量がなくなってからではなく、早めに使う。
アイリスの声が飛ぶ前に、自分から一歩下がる。
回復したあとには、もう一度前へ戻る。
急に慎重な戦い方へ変わったわけではない。
危険を見れば、今でも誰より早く動く。
ただし。
戻ってこられるだけの余力を残すようになった。
三度目の活動を終えた夜。
レオンは長いテーブルの前で、みたらしっぽへ向き直った。
「ここで、もっと前衛として戦いたいです」
見学初日より、表情は落ち着いていた。
「守ろうとして失敗しても、何が駄目だったのか教えてもらえました。次に直せる場所があるなら、団ノ子で続けたいです」
みたらしっぽはギルドの招待を送った。
レオンが承認すると、その名前の下へ団ノ子の紋章が加わる。
アイリスは少し離れた場所から、その表示を見ていた。
「加入したからといって、MPが増えるわけではないわよ」
「はい。残量を見ます」
「本当に見なさいね」
まだ長い付き合いではない。
それでも。
二人の間に、これから何度も繰り返されそうなやり取りが、最初の一つだけ生まれていた。
みたらしっぽも誘わなかった。
レオンは、その後も何度かギルドの訓練へ参加した。
小規模なダンジョン。
護衛依頼。
スフレが作った浮遊標的を使う移動訓練。
最初の頃は、仲間へ攻撃が向くたびに魔力を使っていた。
やがて、盾だけで止められる攻撃と、魔法を使うべき場面を分けるようになった。
エリシアが作った緩やかなMP回復薬を、残量がなくなってからではなく、早めに使う。
アイリスの声が飛ぶ前に、自分から一歩下がる。
回復したあとには、もう一度前へ戻る。
急に慎重な戦い方へ変わったわけではない。
危険を見れば、今でも誰より早く動く。
ただし。
戻ってこられるだけの余力を残すようになった。
三度目の活動を終えた夜。
レオンは長いテーブルの前で、みたらしっぽへ向き直った。
「ここで、もっと前衛として戦いたいです」
見学初日より、表情は落ち着いていた。
「守ろうとして失敗しても、何が駄目だったのか教えてもらえました。次に直せる場所があるなら、団ノ子で続けたいです」
みたらしっぽはギルドの招待を送った。
レオンが承認すると、その名前の下へ団ノ子の紋章が加わる。
アイリスは少し離れた場所から、その表示を見ていた。
「加入したからといって、MPが増えるわけではないわよ」
「はい。残量を見ます」
「本当に見なさいね」
まだ長い付き合いではない。
それでも。
二人の間に、これから何度も繰り返されそうなやり取りが、最初の一つだけ生まれていた。
大規模戦闘を知るギルドへ
レオンが加入した数日後。
みたらしっぽとチョコチップは、ターブルロンドにあるTRustDiamonDの本部を訪れた。
大規模レイドを専門とするギルドの本部は、団ノ子のギルドハウスとは構造から違っていた。
広い会議室。
複数の部隊が同時に使える訓練場。
壁一面に並ぶ、過去のレイド記録。
一つのギルドというより、常に大部隊を動かすための施設に近い。
応接室には、オルフェオ・ディアマンテとレナート・トパーツィオが待っていた。
みたらしっぽは、剣龍の公開映像と、現在考えている訓練内容を二人へ見せた。
「団ノ子だけで、このレイドへ挑むつもりです」
オルフェオは映像を見たあと、みたらしっぽへ視線を戻した。
「攻略方法を求めているのですか?」
「いいえ」
みたらしっぽは首を横へ振った。
「剣龍の答えを教えてほしいわけではありません。団ノ子は、複数のパーティーで別々に動く経験が足りないんです」
戦場を分断された時。
別の場所で判断する時。
指示が届かない間も戦い続ける時。
自分たちだけで訓練を作れば、知っている動きだけで終わるかもしれない。
「TRustDiamonDの人たちに混ざってもらって、どこで団ノ子の動きが崩れるのか見てほしいです」
レナートが資料を読みながら尋ねた。
「参加人数は決まっていますか?」
「まだです。募集も続けていますし、最終的な人数もパーティーも、今は固定しません」
「なら、全員が揃うまで待つ必要はありませんね」
レナートは訓練場の予定を開いた。
「少人数から班を入れ替え、隊長役も交代させる方がよいでしょう。伝令、合流、撤退判断。人数が増えたら、同じ訓練を広げられます」
オルフェオも頷く。
「協力しましょう」
答えは簡潔だった。
「ただし、私たちが団ノ子のレイドへ参加するのではありません。団ノ子の皆さんが、自分たちで戦えるようになるための訓練です」
「そのつもりです」
「最初は混成部隊を作ります。TRustDiamonDの指示へ従うだけでは意味がありませんから、団ノ子側にも指揮を取ってもらいます」
みたらしっぽは、提示された訓練日程を確認した。
すぐに始まるわけではない。
互いの予定を合わせ。
訓練用のフィールドを準備し。
団ノ子側でも参加者を少しずつ増やしていく。
「ありがとうございます」
応接室を出たあと。
チョコチップは、受け取った訓練案を見ていた。
「先輩が隊長役になるとは限らないんですね」
「うん。僕がいない班でも動けないと、本番で分かれた時に困るから」
「では、私も指示を出す側になるかもしれませんか?」
「その練習もしてみよう」
チョコチップは少し緊張した表情を見せた。
それでも、予定を閉じることはなかった。
みたらしっぽとチョコチップは、ターブルロンドにあるTRustDiamonDの本部を訪れた。
大規模レイドを専門とするギルドの本部は、団ノ子のギルドハウスとは構造から違っていた。
広い会議室。
複数の部隊が同時に使える訓練場。
壁一面に並ぶ、過去のレイド記録。
一つのギルドというより、常に大部隊を動かすための施設に近い。
応接室には、オルフェオ・ディアマンテとレナート・トパーツィオが待っていた。
みたらしっぽは、剣龍の公開映像と、現在考えている訓練内容を二人へ見せた。
「団ノ子だけで、このレイドへ挑むつもりです」
オルフェオは映像を見たあと、みたらしっぽへ視線を戻した。
「攻略方法を求めているのですか?」
「いいえ」
みたらしっぽは首を横へ振った。
「剣龍の答えを教えてほしいわけではありません。団ノ子は、複数のパーティーで別々に動く経験が足りないんです」
戦場を分断された時。
別の場所で判断する時。
指示が届かない間も戦い続ける時。
自分たちだけで訓練を作れば、知っている動きだけで終わるかもしれない。
「TRustDiamonDの人たちに混ざってもらって、どこで団ノ子の動きが崩れるのか見てほしいです」
レナートが資料を読みながら尋ねた。
「参加人数は決まっていますか?」
「まだです。募集も続けていますし、最終的な人数もパーティーも、今は固定しません」
「なら、全員が揃うまで待つ必要はありませんね」
レナートは訓練場の予定を開いた。
「少人数から班を入れ替え、隊長役も交代させる方がよいでしょう。伝令、合流、撤退判断。人数が増えたら、同じ訓練を広げられます」
オルフェオも頷く。
「協力しましょう」
答えは簡潔だった。
「ただし、私たちが団ノ子のレイドへ参加するのではありません。団ノ子の皆さんが、自分たちで戦えるようになるための訓練です」
「そのつもりです」
「最初は混成部隊を作ります。TRustDiamonDの指示へ従うだけでは意味がありませんから、団ノ子側にも指揮を取ってもらいます」
みたらしっぽは、提示された訓練日程を確認した。
すぐに始まるわけではない。
互いの予定を合わせ。
訓練用のフィールドを準備し。
団ノ子側でも参加者を少しずつ増やしていく。
「ありがとうございます」
応接室を出たあと。
チョコチップは、受け取った訓練案を見ていた。
「先輩が隊長役になるとは限らないんですね」
「うん。僕がいない班でも動けないと、本番で分かれた時に困るから」
「では、私も指示を出す側になるかもしれませんか?」
「その練習もしてみよう」
チョコチップは少し緊張した表情を見せた。
それでも、予定を閉じることはなかった。
浮かぶ剣を見上げる人
TRustDiamonDとの合同訓練が決まった頃。
団ノ子の訓練場では、スフレが新しい浮遊標的を試していた。
細身の剣を模した機械が、魔石の力で空中へ浮いている。
まだ動きは単純で。
一定の距離へ近づいた者を追い、決められた地点まで来ると止まる。
その試験を、柵の外からじっと見ている男性プレイヤーがいた。
白い髪。
頭には大きな獣耳。
背後には、同じ色の尾が揺れている。
腰に武器はなく、両腕へ軽い手甲をつけていた。
みたらしっぽが近づくと、男性は浮遊剣から目を離した。
「すみません。勝手に見てました」
「募集を見て来た人?」
「はい。カイトです。《モンク》を使っています」
カイトは、再び浮遊剣を見上げた。
「あれ、近づいた人の動きを見て方向を変えてるんですか?」
「今は距離だけ」
スフレが答える。
「そのうち速度や進行方向も見るようにしたいけど」
「剣龍の攻撃を再現するため?」
「できる範囲だけね」
カイトの顔には、緊張よりも好奇心が表れていた。
装置へ近づきたいらしいが、勝手に柵を越えることはしない。
「気になると、近くで見たくなるんです。でも、触る前に聞いた方がいいってよく言われるので」
みたらしっぽは少し笑った。
「今日は正解だね。まだ急に落ちることがあるから」
「危なかった」
カイトは素直に一歩下がった。
応募の理由を尋ねると。
剣龍だけではなく、グリーデン洞窟や、まだ知らない南部の土地そのものに興味があると答えた。
「知らない仕掛けや道を見るのが好きです。自分一人だと、見つけた方へ行きすぎることもあるんですけど」
自覚はあるらしい。
「それなら、一緒に行ってみようか」
数日後の予定へ、新しい名前が仮登録された。
団ノ子の訓練場では、スフレが新しい浮遊標的を試していた。
細身の剣を模した機械が、魔石の力で空中へ浮いている。
まだ動きは単純で。
一定の距離へ近づいた者を追い、決められた地点まで来ると止まる。
その試験を、柵の外からじっと見ている男性プレイヤーがいた。
白い髪。
頭には大きな獣耳。
背後には、同じ色の尾が揺れている。
腰に武器はなく、両腕へ軽い手甲をつけていた。
みたらしっぽが近づくと、男性は浮遊剣から目を離した。
「すみません。勝手に見てました」
「募集を見て来た人?」
「はい。カイトです。《モンク》を使っています」
カイトは、再び浮遊剣を見上げた。
「あれ、近づいた人の動きを見て方向を変えてるんですか?」
「今は距離だけ」
スフレが答える。
「そのうち速度や進行方向も見るようにしたいけど」
「剣龍の攻撃を再現するため?」
「できる範囲だけね」
カイトの顔には、緊張よりも好奇心が表れていた。
装置へ近づきたいらしいが、勝手に柵を越えることはしない。
「気になると、近くで見たくなるんです。でも、触る前に聞いた方がいいってよく言われるので」
みたらしっぽは少し笑った。
「今日は正解だね。まだ急に落ちることがあるから」
「危なかった」
カイトは素直に一歩下がった。
応募の理由を尋ねると。
剣龍だけではなく、グリーデン洞窟や、まだ知らない南部の土地そのものに興味があると答えた。
「知らない仕掛けや道を見るのが好きです。自分一人だと、見つけた方へ行きすぎることもあるんですけど」
自覚はあるらしい。
「それなら、一緒に行ってみようか」
数日後の予定へ、新しい名前が仮登録された。
風の中を走る
カイトと向かったのは、山上に建つ《風輪の監視塔》だった。
塔の内部には、風を取り込む大きな導管があり、一定の時間ごとに床や通路へ強い風が吹き抜ける。
足場は狭い。
上層へ進むには、風が止まる短い間に移動し、複数の制御石を順番に操作しなければならない。
参加したのは、みたらしっぽ、チョコチップ、レオン、フェン、そしてカイト。
入口へ入って間もなく。
カイトは壁の奥で回る巨大な羽根へ視線を奪われた。
「ここから塔全体へ風を送ってるのかな」
そのまま一歩、床の円形模様へ近づく。
「待ってください」
フェンの声で、足が止まった。
床の模様から壁へ、細い溝が伸びている。
「踏むと風が出る仕掛けだと思います」
カイトは足を戻し、しゃがんで模様を見た。
「危なかった。ありがとう」
言い訳はしなかった。
フェンが安全な端を示すと、カイトは一度で通り方を覚えた。
塔を上るにつれ。
カイトの身軽さが目立ち始めた。
離れた足場へ跳び移る。
壁へ一度足をつき、さらに高い場所へ上がる。
拳と蹴りを使い、狭い足場でも身体の向きを素早く変える。
ただ先へ行くのではなく。
一度渡ったあとには、後ろの者が通れるように風の制御石を止めていた。
上層の広間では、翼を持つ機兵が複数現れた。
レオンが前へ出る。
魔法剣で一体を押し返し、盾で二体目を止める。
別の機兵が、地図を確認していたフェンへ向かった。
「フェン、右へ!」
カイトが機兵とフェンの間へ滑り込む。
拳を翼の根元へ当て、飛ぶ方向を変えた。
そのまま壁を蹴って追いつき、二撃目で床へ落とす。
レオンはフェンを守ろうと、さらに前へ進みかけた。
「レオン、戻る道はこっち!」
カイトは敵の横を走り抜けながら、空いた場所を指した。
レオンが一歩戻る。
チョコチップもそこへ入り、二人の間を抜けようとした機兵を斬った。
誰かへ細かく命令しているわけではない。
自分が動きながら。
ほかの者が動ける場所を見つけ、声を届けている。
最上階。
塔を暴走させていた大型機兵との戦いでは、四方にある制御石を同時に止める必要があった。
カイトは一番遠い制御石を引き受けた。
風が強くなる。
足場が揺れる。
それでも、風の向きを見て走る時間を変え、一気に塔の外周を駆けた。
最後の制御石へ拳を叩き込む。
暴風が止まり。
中央で戦っていたみたらしっぽたちの攻撃が、大型機兵へ届いた。
塔を出た時。
カイトは達成感よりも先に、フェンの地図を覗き込んでいた。
「途中に、行かなかった通路が一つあったよね」
「ありました。ただ、今日は制御塔を止める依頼なので、寄らない方が安全だと思いました」
「今度、調べに来てもいい?」
「別の仕掛けがあるかもしれません」
二人は、早くも次の探索を話し始めていた。
塔の内部には、風を取り込む大きな導管があり、一定の時間ごとに床や通路へ強い風が吹き抜ける。
足場は狭い。
上層へ進むには、風が止まる短い間に移動し、複数の制御石を順番に操作しなければならない。
参加したのは、みたらしっぽ、チョコチップ、レオン、フェン、そしてカイト。
入口へ入って間もなく。
カイトは壁の奥で回る巨大な羽根へ視線を奪われた。
「ここから塔全体へ風を送ってるのかな」
そのまま一歩、床の円形模様へ近づく。
「待ってください」
フェンの声で、足が止まった。
床の模様から壁へ、細い溝が伸びている。
「踏むと風が出る仕掛けだと思います」
カイトは足を戻し、しゃがんで模様を見た。
「危なかった。ありがとう」
言い訳はしなかった。
フェンが安全な端を示すと、カイトは一度で通り方を覚えた。
塔を上るにつれ。
カイトの身軽さが目立ち始めた。
離れた足場へ跳び移る。
壁へ一度足をつき、さらに高い場所へ上がる。
拳と蹴りを使い、狭い足場でも身体の向きを素早く変える。
ただ先へ行くのではなく。
一度渡ったあとには、後ろの者が通れるように風の制御石を止めていた。
上層の広間では、翼を持つ機兵が複数現れた。
レオンが前へ出る。
魔法剣で一体を押し返し、盾で二体目を止める。
別の機兵が、地図を確認していたフェンへ向かった。
「フェン、右へ!」
カイトが機兵とフェンの間へ滑り込む。
拳を翼の根元へ当て、飛ぶ方向を変えた。
そのまま壁を蹴って追いつき、二撃目で床へ落とす。
レオンはフェンを守ろうと、さらに前へ進みかけた。
「レオン、戻る道はこっち!」
カイトは敵の横を走り抜けながら、空いた場所を指した。
レオンが一歩戻る。
チョコチップもそこへ入り、二人の間を抜けようとした機兵を斬った。
誰かへ細かく命令しているわけではない。
自分が動きながら。
ほかの者が動ける場所を見つけ、声を届けている。
最上階。
塔を暴走させていた大型機兵との戦いでは、四方にある制御石を同時に止める必要があった。
カイトは一番遠い制御石を引き受けた。
風が強くなる。
足場が揺れる。
それでも、風の向きを見て走る時間を変え、一気に塔の外周を駆けた。
最後の制御石へ拳を叩き込む。
暴風が止まり。
中央で戦っていたみたらしっぽたちの攻撃が、大型機兵へ届いた。
塔を出た時。
カイトは達成感よりも先に、フェンの地図を覗き込んでいた。
「途中に、行かなかった通路が一つあったよね」
「ありました。ただ、今日は制御塔を止める依頼なので、寄らない方が安全だと思いました」
「今度、調べに来てもいい?」
「別の仕掛けがあるかもしれません」
二人は、早くも次の探索を話し始めていた。
誰かと見る方が面白い
カイトも、一度のダンジョンだけで加入したわけではなかった。
その後の一週間。
団ノ子の公開訓練へ何度か参加した。
浮遊剣を避ける練習。
普段組まないメンバーとの小規模攻略。
飛行船へ物資を運び込む作業へ、手が空いているからと加わる日もあった。
訓練へ初めて来た者が、装備の置き場を探していれば案内する。
レオンが前へ出すぎれば、戻れる道を先に空ける。
自分も仕掛けへ近づきすぎることはあるが、止められれば素直に足を戻した。
みたらしっぽは、ギルドハウスのデッキでカイトへ尋ねた。
「団ノ子で続けてみる?」
カイトは、ターブルロンドの町と、その先に広がる大陸を見た。
「はい」
答えたあと、少し笑う。
「一人でも知らない場所へ行けますけど、誰かが違うものを見つけてくれる方が面白かったです」
加入を承認すると、カイトの名前にも団ノ子の紋章が加わった。
新しい紋章を確認したあと。
カイトはすぐに会議室へ戻り、フェンが広げていた風輪の監視塔の地図へ顔を近づけた。
行かなかった通路の話は。
まだ終わっていなかったらしい。
その後の一週間。
団ノ子の公開訓練へ何度か参加した。
浮遊剣を避ける練習。
普段組まないメンバーとの小規模攻略。
飛行船へ物資を運び込む作業へ、手が空いているからと加わる日もあった。
訓練へ初めて来た者が、装備の置き場を探していれば案内する。
レオンが前へ出すぎれば、戻れる道を先に空ける。
自分も仕掛けへ近づきすぎることはあるが、止められれば素直に足を戻した。
みたらしっぽは、ギルドハウスのデッキでカイトへ尋ねた。
「団ノ子で続けてみる?」
カイトは、ターブルロンドの町と、その先に広がる大陸を見た。
「はい」
答えたあと、少し笑う。
「一人でも知らない場所へ行けますけど、誰かが違うものを見つけてくれる方が面白かったです」
加入を承認すると、カイトの名前にも団ノ子の紋章が加わった。
新しい紋章を確認したあと。
カイトはすぐに会議室へ戻り、フェンが広げていた風輪の監視塔の地図へ顔を近づけた。
行かなかった通路の話は。
まだ終わっていなかったらしい。
大きなハンマーを持つ見学者
さらに数日後。
団ノ子の訓練場では、浮遊剣の数が三本へ増えていた。
スフレが動作確認を行い、レオンとカイトが順番に軌道を避けている。
そこへ。
大きなハンマーを肩へ担いだプレイヤーが現れた。
鮮やかな赤い髪。
頭には獣耳。
戦闘クラスは《ウォーリアー》。
名前はイグナ。
しばらく浮遊剣を見たあと。
スフレへ尋ねた。
「これ、叩いていいやつか?」
「一番手前の一本だけなら」
「わかった」
イグナはハンマーを両手で握った。
浮遊剣が正面から飛んでくる。
一歩踏み込み。
大きく振る。
衝突音とともに、浮遊剣は訓練場の端まで飛んでいった。
安全用の網へ引っかかり、そこで停止する。
スフレは操作画面と、飛ばされた標的を見比べた。
「壊れてはいない。でも、次は少し抑えて」
「悪い。加減がずれた」
イグナは言われたとおり、すぐにハンマーを下ろした。
力を見せつけたいというより。
どの程度まで耐えられるか、自分の手で確かめたかったらしい。
「募集を見て来たんですか?」
チョコチップが尋ねた。
「ああ。でかい竜と戦うって書いてあった」
イグナは浮遊剣を網から外し、スフレのところまで運んでくる。
「細かい仕掛けは得意じゃない。でも、敵がたくさんいるなら、まとめて叩ける」
みたらしっぽは、イグナのハンマーを見る。
「まずは、叩く場所を選ぶ必要があるダンジョンへ行こうか」
「それでいい」
イグナはあっさり頷いた。
団ノ子の訓練場では、浮遊剣の数が三本へ増えていた。
スフレが動作確認を行い、レオンとカイトが順番に軌道を避けている。
そこへ。
大きなハンマーを肩へ担いだプレイヤーが現れた。
鮮やかな赤い髪。
頭には獣耳。
戦闘クラスは《ウォーリアー》。
名前はイグナ。
しばらく浮遊剣を見たあと。
スフレへ尋ねた。
「これ、叩いていいやつか?」
「一番手前の一本だけなら」
「わかった」
イグナはハンマーを両手で握った。
浮遊剣が正面から飛んでくる。
一歩踏み込み。
大きく振る。
衝突音とともに、浮遊剣は訓練場の端まで飛んでいった。
安全用の網へ引っかかり、そこで停止する。
スフレは操作画面と、飛ばされた標的を見比べた。
「壊れてはいない。でも、次は少し抑えて」
「悪い。加減がずれた」
イグナは言われたとおり、すぐにハンマーを下ろした。
力を見せつけたいというより。
どの程度まで耐えられるか、自分の手で確かめたかったらしい。
「募集を見て来たんですか?」
チョコチップが尋ねた。
「ああ。でかい竜と戦うって書いてあった」
イグナは浮遊剣を網から外し、スフレのところまで運んでくる。
「細かい仕掛けは得意じゃない。でも、敵がたくさんいるなら、まとめて叩ける」
みたらしっぽは、イグナのハンマーを見る。
「まずは、叩く場所を選ぶ必要があるダンジョンへ行こうか」
「それでいい」
イグナはあっさり頷いた。
崩れた採石場
イグナと最初に向かったのは、ターブルロンド北西の《灰積み採石場》だった。
長く使われていなかった坑道へ、資材回収に入った作業員が取り残されている。
坑道の一部が崩れ。
魔物が入り込み。
支柱を不用意に壊せば、さらに奥まで崩落する危険があった。
みたらしっぽ。
レオン。
カイト。
フェン。
エリシア。
そしてイグナ。
最近団ノ子へ加わった者たちと、これから加わるかもしれない一人が、初めて同じパーティーで動くことになった。
坑道へ入ると。
前方には、岩をまとった小型ゴーレムの群れがいた。
レオンが盾を構える。
イグナがハンマーを持ち上げる。
「正面、まとめていく」
「待ってください」
フェンが壁際の柱を指した。
ゴーレムのすぐ後ろにある柱は、天井から落ちる重さを支えている。
「その方向へ吹き飛ばすと、柱へ当たります」
イグナのハンマーが、振り上げた位置で止まった。
ほんの一瞬だった。
それでも、無理に振り切ることはしなかった。
「どっちならいい?」
フェンは坑道の左側を見る。
「左の壁は厚いです。そちらへ寄せられれば」
「わかった」
カイトがゴーレムの右側へ回り込み、拳で一体の向きを変える。
レオンも盾で中央の敵を押す。
敵が左へ集まったところへ。
イグナのハンマーが横から振り抜かれた。
三体のゴーレムがまとめて壁へ叩きつけられる。
柱は揺れない。
坑道も崩れなかった。
「今の場所なら大丈夫です」
フェンの声に。
イグナは満足そうに次の敵へ向き直った。
奥へ進むと、崩れた岩の向こうから作業員の声が聞こえた。
道を塞ぐ大岩。
その周囲には、細かな亀裂が走っている。
イグナはハンマーを構えたが、今度は自分からフェンを見た。
「どこを叩く?」
フェンは岩の形を調べた。
上部を壊せば、天井まで一緒に落ちる。
左下の亀裂だけを広げれば、中央の岩を手前へ崩せる。
「ここです。ただ、一度に全部は崩さないでください」
イグナは指定された一点へハンマーを当てた。
一撃目。
亀裂が広がる。
二撃目。
中央の岩だけが大きく割れた。
残った破片をレオンとみたらしっぽが退け、作業員のところまで道がつながる。
だが。
救助を始めた直後。
坑道の奥から、大型の鉱石獣と小型ゴーレムの群れが現れた。
レオンが作業員の前へ立つ。
「ここは通しません!」
盾へ魔力を流す。
それでも、以前のように攻撃魔法を連続で使うことはない。
最初の一体を受け止め。
通常の剣で足元を崩す。
カイトは戦場を走り、レオンの横へ集まろうとする小型ゴーレムを別方向へ引いた。
「イグナ、奥へまとめられる!」
「任せろ!」
カイトが走り抜けたあと。
狭い坑道へ敵が一列に集まる。
イグナがハンマーを振り上げた。
フェンが支柱を確認する。
「今の方向なら大丈夫です!」
一撃。
衝撃が坑道を走る。
鉱石獣と、その前にいた小型ゴーレムがまとめて押し返された。
レオンが作った隙間へ入り。
イグナは二撃目を叩き込む。
敵の装甲が砕ける。
みたらしっぽとカイトの攻撃が続き、最後はレオンの魔法剣が露出した核を断ち切った。
戦闘が終わる。
エリシアが順番に回復を行い、作業員の状態を確かめる。
イグナは、自分が最初に壊しかけた支柱へ目を向けた。
「止めてもらわなかったら、あれも一緒に倒してたな」
「次は、先に周りを見れば大丈夫です」
フェンが答える。
「自分で全部わからなくても、聞けばいいんだな」
イグナは素直に頷いた。
長く使われていなかった坑道へ、資材回収に入った作業員が取り残されている。
坑道の一部が崩れ。
魔物が入り込み。
支柱を不用意に壊せば、さらに奥まで崩落する危険があった。
みたらしっぽ。
レオン。
カイト。
フェン。
エリシア。
そしてイグナ。
最近団ノ子へ加わった者たちと、これから加わるかもしれない一人が、初めて同じパーティーで動くことになった。
坑道へ入ると。
前方には、岩をまとった小型ゴーレムの群れがいた。
レオンが盾を構える。
イグナがハンマーを持ち上げる。
「正面、まとめていく」
「待ってください」
フェンが壁際の柱を指した。
ゴーレムのすぐ後ろにある柱は、天井から落ちる重さを支えている。
「その方向へ吹き飛ばすと、柱へ当たります」
イグナのハンマーが、振り上げた位置で止まった。
ほんの一瞬だった。
それでも、無理に振り切ることはしなかった。
「どっちならいい?」
フェンは坑道の左側を見る。
「左の壁は厚いです。そちらへ寄せられれば」
「わかった」
カイトがゴーレムの右側へ回り込み、拳で一体の向きを変える。
レオンも盾で中央の敵を押す。
敵が左へ集まったところへ。
イグナのハンマーが横から振り抜かれた。
三体のゴーレムがまとめて壁へ叩きつけられる。
柱は揺れない。
坑道も崩れなかった。
「今の場所なら大丈夫です」
フェンの声に。
イグナは満足そうに次の敵へ向き直った。
奥へ進むと、崩れた岩の向こうから作業員の声が聞こえた。
道を塞ぐ大岩。
その周囲には、細かな亀裂が走っている。
イグナはハンマーを構えたが、今度は自分からフェンを見た。
「どこを叩く?」
フェンは岩の形を調べた。
上部を壊せば、天井まで一緒に落ちる。
左下の亀裂だけを広げれば、中央の岩を手前へ崩せる。
「ここです。ただ、一度に全部は崩さないでください」
イグナは指定された一点へハンマーを当てた。
一撃目。
亀裂が広がる。
二撃目。
中央の岩だけが大きく割れた。
残った破片をレオンとみたらしっぽが退け、作業員のところまで道がつながる。
だが。
救助を始めた直後。
坑道の奥から、大型の鉱石獣と小型ゴーレムの群れが現れた。
レオンが作業員の前へ立つ。
「ここは通しません!」
盾へ魔力を流す。
それでも、以前のように攻撃魔法を連続で使うことはない。
最初の一体を受け止め。
通常の剣で足元を崩す。
カイトは戦場を走り、レオンの横へ集まろうとする小型ゴーレムを別方向へ引いた。
「イグナ、奥へまとめられる!」
「任せろ!」
カイトが走り抜けたあと。
狭い坑道へ敵が一列に集まる。
イグナがハンマーを振り上げた。
フェンが支柱を確認する。
「今の方向なら大丈夫です!」
一撃。
衝撃が坑道を走る。
鉱石獣と、その前にいた小型ゴーレムがまとめて押し返された。
レオンが作った隙間へ入り。
イグナは二撃目を叩き込む。
敵の装甲が砕ける。
みたらしっぽとカイトの攻撃が続き、最後はレオンの魔法剣が露出した核を断ち切った。
戦闘が終わる。
エリシアが順番に回復を行い、作業員の状態を確かめる。
イグナは、自分が最初に壊しかけた支柱へ目を向けた。
「止めてもらわなかったら、あれも一緒に倒してたな」
「次は、先に周りを見れば大丈夫です」
フェンが答える。
「自分で全部わからなくても、聞けばいいんだな」
イグナは素直に頷いた。
叩く場所を教えてくれる仲間
イグナも、その日のうちには加入しなかった。
それから何度か。
団ノ子の訓練や採取依頼へ参加した。
細かな仕掛けを読むのは、やはり得意ではない。
それでも。
フェンが止めれば止まる。
カイトが敵を寄せる場所を示せば、そこへ一撃を入れる。
レオンが前で受け止めている間は、味方を巻き込まない位置まで待つ。
戦闘が終われば。
壊れた設備を運び。
重い素材を一人で持ち。
誰かが遅れていれば、戻ってくるまで先へ行かなかった。
ある日の訓練後。
みたらしっぽはイグナへ尋ねた。
「団ノ子で続けたい?」
イグナは少し考えた。
言葉を探すのは、戦う時より時間がかかるらしい。
「細かいことは、今もよくわからない」
正直に答える。
「でも、ここなら誰かが見つけてくれる。止めろって言われたら止まれるし、叩く場所を教えてくれたら、自分はそこを壊せる」
訓練場の方を見る。
「一人で好きに叩くより、みんなの道が開く方がいい」
みたらしっぽはギルドの招待を送った。
イグナが承認する。
団ノ子の紋章が、新しい名前の下へ加わった。
その日のうちに。
レオンはイグナへ模擬戦を頼み。
カイトは二人の間へ入り、スフレが浮遊剣の設定を終えるまで待つよう伝えていた。
「まだ動かしてないから、始めるのは少し待って」
レオンとイグナは、ほとんど同時に武器を下ろした。
知り合ってから、まだ長くはない。
それでも。
三人の間には、これから何度も同じ戦場へ立ちそうな空気が生まれ始めていた。
それから何度か。
団ノ子の訓練や採取依頼へ参加した。
細かな仕掛けを読むのは、やはり得意ではない。
それでも。
フェンが止めれば止まる。
カイトが敵を寄せる場所を示せば、そこへ一撃を入れる。
レオンが前で受け止めている間は、味方を巻き込まない位置まで待つ。
戦闘が終われば。
壊れた設備を運び。
重い素材を一人で持ち。
誰かが遅れていれば、戻ってくるまで先へ行かなかった。
ある日の訓練後。
みたらしっぽはイグナへ尋ねた。
「団ノ子で続けたい?」
イグナは少し考えた。
言葉を探すのは、戦う時より時間がかかるらしい。
「細かいことは、今もよくわからない」
正直に答える。
「でも、ここなら誰かが見つけてくれる。止めろって言われたら止まれるし、叩く場所を教えてくれたら、自分はそこを壊せる」
訓練場の方を見る。
「一人で好きに叩くより、みんなの道が開く方がいい」
みたらしっぽはギルドの招待を送った。
イグナが承認する。
団ノ子の紋章が、新しい名前の下へ加わった。
その日のうちに。
レオンはイグナへ模擬戦を頼み。
カイトは二人の間へ入り、スフレが浮遊剣の設定を終えるまで待つよう伝えていた。
「まだ動かしてないから、始めるのは少し待って」
レオンとイグナは、ほとんど同時に武器を下ろした。
知り合ってから、まだ長くはない。
それでも。
三人の間には、これから何度も同じ戦場へ立ちそうな空気が生まれ始めていた。
峠へ向かう前に
新しい仲間が加わるたび。
ギルドハウスの中にも、訓練の内容にも変化が増えていった。
エリシアは、グリーデン峠の寒さと洞窟の毒へ備えた薬を試している。
フェンは公開記録を集め、まだ不完全な洞窟図へ、確かな情報と推測を分けて書き込んでいる。
レオンは、前衛として魔力を残す練習を続ける。
カイトは浮遊剣の間を走りながら、離れた仲間へ声を届ける。
イグナは力を抑えることと、仲間が示した場所へ正確に攻撃を入れることを覚えていた。
飛行船も、少しずつ長距離航行へ向けて調整されている。
ただし。
南部へ出発する日は、まだ決められていない。
長いテーブルに広げられたグリーデン峠の地図にも、出発予定の印はなかった。
その代わり。
ターブルロンド周辺のダンジョン。
訓練場。
TRustDiamonDの本部。
近い場所へ、いくつもの予定が書き込まれている。
ある夜。
みたらしっぽのもとへ、レナートから連絡が届いた。
<第一回合同訓練の日程を確保しました>
<今回は少人数の混成班から開始します>
みたらしっぽは、予定をギルド全体へ共有した。
訓練場では、スフレの浮遊剣が一つずつ起動している。
レオンが盾を構え。
カイトが足場を確かめ。
イグナがハンマーを肩へ担いだ。
少し離れた場所では、次の加入希望者との予定も調整されている。
グリーデン峠は、まだ遠い。
剣龍へ挑む形も、今は決まっていない。
それでも。
山へ向かう前に必要な足音は。
以前より、確かに増えていた。
ギルドハウスの中にも、訓練の内容にも変化が増えていった。
エリシアは、グリーデン峠の寒さと洞窟の毒へ備えた薬を試している。
フェンは公開記録を集め、まだ不完全な洞窟図へ、確かな情報と推測を分けて書き込んでいる。
レオンは、前衛として魔力を残す練習を続ける。
カイトは浮遊剣の間を走りながら、離れた仲間へ声を届ける。
イグナは力を抑えることと、仲間が示した場所へ正確に攻撃を入れることを覚えていた。
飛行船も、少しずつ長距離航行へ向けて調整されている。
ただし。
南部へ出発する日は、まだ決められていない。
長いテーブルに広げられたグリーデン峠の地図にも、出発予定の印はなかった。
その代わり。
ターブルロンド周辺のダンジョン。
訓練場。
TRustDiamonDの本部。
近い場所へ、いくつもの予定が書き込まれている。
ある夜。
みたらしっぽのもとへ、レナートから連絡が届いた。
<第一回合同訓練の日程を確保しました>
<今回は少人数の混成班から開始します>
みたらしっぽは、予定をギルド全体へ共有した。
訓練場では、スフレの浮遊剣が一つずつ起動している。
レオンが盾を構え。
カイトが足場を確かめ。
イグナがハンマーを肩へ担いだ。
少し離れた場所では、次の加入希望者との予定も調整されている。
グリーデン峠は、まだ遠い。
剣龍へ挑む形も、今は決まっていない。
それでも。
山へ向かう前に必要な足音は。
以前より、確かに増えていた。