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はじめは些細なことだったのかもしれない。
アレが初めて俺らの前に現れたとき、俺が感じたのは恐怖? 畏怖? それとも羨望? よくわからない。
ただ、アレの中に、何か、ひどく暗い、暗黒を感じたのは確かだった。
惹きこまれるような闇、輝きのない、その淀んだ瞳に、俺らが希望を見出したのは、今思えば必然だったのかもしれない。

生徒会が団結し、着々と力をつけていく中で、俺ら番長グループは、未だに内部争いに終始している。
危機感はあった、しかし、だからといって、この無意味な争いを終わらせる、何かきっかけのようなものがなかった。


仲間たちの誰もが疲弊していた。しかし、その疲弊を表にだすことができなかった。出せるはずがなかった。

生徒会の権勢は今や絶対的となり、そんな弱音を吐いてしまえば、グループの存続そのものが危うくなると、みんな感じ、そしておびえていた。

俺らの居場所は、もはやこの学園にはなくなっていた。
疎外感から、みんないらだち、争いはさらに激しくなった。
内部で敵を作ることで、俺らは千切れかけた絆を、なんとか繋ぎ合わせていた。

そんな中で、俺らはアレを拾った。
闇に沈んだ瞳に、どこか寂しげな顔立ち。
じっと虚空を見つめて、ぶつぶつと何か呟くアレを、俺らは、何も知らずに拾い、連れて帰った。

善意から? 悪意から? よくわからない。
ただ、何か、胸の奥底で震えるように心が疼いた。
よくわからない。アレに関しては、俺らも未だに全てを理解しているわけではない。
偶然? 必然? 何かの巡り会わせなのか。
少なくとも、俺らはこのグループ存続の危機にとんでもない「宝物」を手にしたのは確かだった。

アレの目には、俺らがどう映っていたのか。
あの暗い瞳の向こうで、何を考えていたのか、それを思うと、俺は時折不安に刈られる。
だけど、少なくとも俺らは、アレを同等以上、大切な仲間の一人として扱った。


いや、もしかしたら、心のどこかで恐れていたのかもしれない。
今おれの中にある不安は、あのころにも感じた不安なのかもしれない。


事が起こったのは、俺らのチームが他のチームらの因縁を買い、ナワバリをやつら囲まれたときだった。
同じグループ同士でありながら、俺らは他のチームとは孤立していた。
その理由のひとつにアレの存在があるが、俺らがあの得体の知れない女を、囲っていたのが他のチームの目についたらしい。

死んだと思った。俺らのチームは5人、その内の一人は得体が知れない。
そんな中で、弱音を吐いた俺らに、アレは初めて口を開いた。

「助けてあげようか?」

それは悪魔の囁きだった。
従ってはいけないものだったのかもしれない。
だけど、あのときの俺らに、それを拒む余地などなかった。
アレはおもむろに、自分の手首をナイフで傷つけ、俺らの前に曝した。

「いいよ」

それ以上言葉は必要なかった。
不思議なことに、何をすべきか、俺らは知っていた。
ルビー色に滴る血を前にして、俺らは地べたにへばりつき、まるで犬のようにその血を啜った。

アレはそんな俺らを、いつものようにあの無表情で見下ろしていた。
最終更新:2009年03月26日 11:16