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End Of All Hope

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End Of All Hope ◆eQMGd/VdJY



リゾートエリアといっても、全ての場所が綺麗で満たされているわけではない。
どれだけ汚れを排除した場所ですら、目立たぬ何処かに汚れはこびり付く。
この街では、この駅の裏路地がその役割を担っていた。そしてこの場に立つ影三つ。
このうち二つの影は、山から下りてきた支倉曜子衛宮士郎
二人はまず南端の駅周辺より、反時計回りにリゾートエリアを捜索しようと決めていた。
そんな所に現れた、この黒く大きな影を持つ九鬼耀鋼
と言っても、九鬼もまた駅で電車を逃し、周囲を探索せんと暗い道に足を踏み入れただけなのだ。
偶然にしては出会う場所が暗過ぎると、お互いに眉を顰めていた。
張り詰めた空気の中、三つの影の先端が重なると同時に、士郎は躊躇う事無く口を開いた。

「聞きたい事がある」

挨拶も何も無い。その必要性の無さを、士郎は場の空気で掴み取ったのだ。
目の前に立つ九鬼という男から漂う匂いが、この殺し合いに酷く馴染む。
そう。馴染むはずなのに、全くと言っていいほど殺気を感じられないのが恐ろしい。
このような男に悠々と挨拶などして、一体何になると言うのだろうか。
それでも、じわじわと咥内から失われていく水分を精一杯掻き集め、口をこじ開ける。

「……桜という女の子を、見なかったか」

絡みつく緊張感が更に水分を奪い去り、言葉が上手く繋がらない。
苗字である方の間桐が届かなかったかもしれないが、名前の方は通じただろう。
聞き届けた質問を堪能するように、九鬼は唇をゆっくりと震わせていく。

「佐倉? ああ。つい先程まで一緒にいたよ」
「ッ!」

九鬼が吐き出した答えに、士郎は無意識のうちに身体が前に傾く。
だが、隣にいた曜子が腕を伸ばし、それを押し留める。近付くのは危険だと。

「ところで俺からも質問があるのだが」

九鬼の瞳が、まるで自分の記憶の欠片に曜子を嵌め込もうとするように動く。

「二つ。と言っても、どちらも質問と呼ぶにはあまりにも滑稽なんだがね」

武器こそ構えないものの、二人は依然警戒する構えを見せている。
その様子を見ていた九鬼は、素知らぬ顔で立ち止まると、再び唇を揺らす。

「お前達のどちらか。或いは双方共に死んだことはあるか?」

空気を波打ちながら飛び込んできた言葉は、意味不明極まりないものだった。
人を殺した事があるか。と言う質問ならば解かるが、「死んだ事」というのは前提が間違えだ。
そう考える士郎とは正反対な様子で、曜子はジッと沈黙を続けていた。
しかもどこか、視線は睨むように九鬼の喉に目を走らせている。
一方九鬼も、突き刺すような視線に気付くも、あえて流すように受け流す。

「ああ。俺もそんな事ない。俺は死なないし死ねない」

投げ返された答えに、九鬼は得心いったと言う様子で顎に手を添える。

「まぁ、いいだろう。もう一つなんだが……支倉曜子と言う名前に聞き覚えはないか?」
「……」

問いかけではない。言葉の内容は確かに質問ではないが、これは違う。
九鬼は気付いているのだ。目の前の女が佐倉霧の告げていった危険人物だと。
そこまで解かっていてもなお、滑稽な質問を投げかけてきたのだ。
だが、この問い掛けに対する答え方によっては、面倒な事にもなる。
どの点に置いて、目の前の女が曜子本人だと気付いたかは知らないが、
ここで仮に曜子が名を偽れば、相手からの信用はまず得られないだろう。
しかし、九鬼の様子を見る限り、決して正直に名乗る事が正解とも思えない。
曜子は無表情の仮面を外さぬまま、抑揚ない声で答えを告げる。

「どこでその名前を?」
「先程会った学生がな、支倉曜子と黒須……何と言ったかな」
黒須太一
「ああそれだ。この二人が危険だと教えてくれたのだよ」

曜子は理解した。この島に来て出会った人間は士郎しかいない。
加えて、支倉曜子と黒須太一の共通点を知るものは限られている。
まして危険人物として二人の名を挙げる輩であれば尚更だ。
この噂で太一の危険性がグンと跳ね上がる。信じる信じないは別にしてもだ。
知識に収録した名簿から、吹聴していると思われる人物をリストアップ。

山辺美希に佐倉霧)

覚える価値の無い人間だと思っていたが、向こうはそうではないようだ。
まさか太一本人が自らこんな噂を流すとは思えない。
そうなると、可能性があるのはこの二人だけに絞られる。
どんな言葉で伝え回っているかは不明だが、曜子だと解かって問いかけるぐらいだ。
恐らくは、かなり詳細な情報が伝わっているのだろう。
どちらにせよ、一度知れ渡った情報は潰していかねばなるまい。

「まってくれ。もう一度聞くが、本当に桜を見たんだな」
「ああ」
「何処に向かったかは覚えているか?」
「生憎興味が無かったのでな。ひょっとしたらどこかで――」
「言うなッ!」

士郎が心のどこかで恐れている事に、九鬼はあえて触れた。
事実、今この瞬間にも桜が死んでしまっている可能性だってあるのだ。
焦る気持ちを落ち着けて、士郎は努めて冷静な口調で提案を持ちかける。

「俺達の同行者になるつもりはないか?」
「同行者とは面白い表現だな」

士郎は視線で曜子に確認をとり、了承を得た事で淡々と告げた。
九鬼を本能や快楽に従う殺人鬼では無いと判断したからだ。
だが、いつまで経っても九鬼は首を縦に振ろうとはしない。

「協力できないなら、ここから見逃してくれるだけでいい」

士郎にとっての最大限の譲歩。今ここで時間を潰す訳にはいかなのだ。
これで交渉決裂すれば、最悪この左腕の布を解かねばなるまい。

「では聞こう。見逃して、それからまた別の人間と出会った時、
 それが力なき人間であったり、力に溺れる人間であったならばどうする」

嘘や偽りは通じない。だが、言えば目の前の九鬼は敵となるだろう。
九鬼だけではない。確かめるように、一度だけ曜子に視線を落とす。

「その人間が……俺の大切な人を殺すかもしれないから……殺す」
「おかしいな。ならまず、ここで俺を殺すべきではないのか?」

交渉決裂。双方に流れる空気がゆっくりとひび割れて砕けていく。
曜子は即座に銃を構え、士郎は九鬼の挙動を確かめながら維斗の柄に手を添えて。
逃げられればそれに越した事はなかったのだが、それが出来ていれば最初からしてしていた。
双方ともに妥協する事すら不可能。そんな境界線を踏みしめながら、曜子は溜まった空気を吐き出す。

「聞かせて。殺し合いを容認するか」

士郎と違い、曜子は別に全員を殺す事を主に置いていない。
強いと思われる相手戦闘を回避できるのならば、なるべく避けておきたいのだ。
戦闘回避と逃走に対する時間稼ぎも兼ねて、曜子は質問を投げかけた。

「どうやら勘違いされているようだな」

発せられているのは殺気ではないのだが、強烈なくらい威圧感を覚えるのを感じる。

「俺は殺すつもりではいるが、そこに少し齟齬があるようだ。
 俺が容認しているのは、あくまで主催者に連なる者。それと――」

曜子は理解した。九鬼が絶対に殺すのは主催者。或いは主催者に連なる者。
そしてもう一つ、主催者の意図を知りながら、あえてそれに乗ろうとする者。

「殺し合いを容認するお前らを生かしておけば面倒になる。ならば、ここで殺さねばなるまい」

九鬼の言葉を聞き終わる前に、士郎と曜子は背を向けて走り出す。もとより戦うつもりの無い二人。
躊躇う事無く飛んで逃げる二人を、九鬼もまた路面を蹴り飛ばしながら追跡する。
暗く薄汚い裏路地で始まる鬼ごっこ。
後方を警戒しながら走る二人と、警戒しながら前方に向かうのでは、後者に利がある。
幾つかの曲がり角を越えたところで、士郎は鞘から抜刀し曜子は銃を後方に向けた。
やがて裏路地を通り抜ければ、少し広い路上に脱出できるだろう。
だが、このままでは出口に到達する前に足を掴まれる可能性が高い。
ならば、疲労が少ないうちに迎撃体勢に入るべしと思考を切り替えるべき。
同じような事を考え、戦闘体勢に移行しつつあった二人の眼前に、突然違う影が飛び出す。
先を進んでいた士郎は、飛び出してきたのが男だと知ると、躊躇う素振りを見せず刀を振り上げる。
そして一閃するように、容赦なく男の頭上目掛けて刀を振り下ろす。
が、男のほうも状況を理解していたようで、振り下ろされた刀を何かで強引に受け流した。
改めてみれば、その手には歪な金属の棒が握り締められている。
挨拶の代わりに、お互いの握る金属が擦り付ける様に鳴り合う。
このまま押し切ろうとした刹那、後方から飛んできた殺気を感じ、士郎は横に転がり飛ぶ。
一手遅れて、九鬼の伸ばした腕が士郎の残した空気を切断し喰い千切る。
この隙にと、すぐ隣にいた曜子が九鬼の顔目掛けトリガーを丁寧に引くが、今度は男の手刀がそれを阻む。

「なかなかいい動きだ。双七」
「ッ! まさか、先生!?」

双七と呼ばれた男は、九鬼が名を呼んだ事に驚いていた。
曜子と士郎を含め、目の前の三人を警戒する様子で、双七は何時でも動けるよう足を開く。

「貴方は誰ですか?」
「ん? 面白い質問をするな双七」
「俺の……俺の師と貴方は似ている。
 けれど、外見がまるで違う。それに、この名前を師に教えた覚えはない!」
「ふむ」

場合によっては敵になると、瞳から鋭い眼光を放つ双七。
が、対する九鬼はそんな事など気にも留めない様子で、拳をゆっくり回す。
会話の最中も、目の前の二人を警戒することを怠らない。

「双七。お前の疑問に答える前に、目の前の二人を片付けねばらない」
「はぐらかすつもりか!?」
「全く。どうしても俺が偽者だと思うなら……見届けるといいッ」

言葉より先に、鋭く風を巻き起こす腕が士郎と曜子を狙う。

「この拳。この腕。この一撃に嘘偽りがあるかどうかな」

狙われた二人はこれを回避するが、反撃をするまでには至れない。
一方、今の一撃を余す事無く見ていた双七は、力強く拳を握ると戦いの意思を見せる。
敵意は三人にではなく。曜子と士郎だけに。

「詳しい事は知りません。けどその技は、俺の目に焼きついてるあの背中と全く一緒だ。
 だから信じます。姿形はどうあれ、貴方の背中は、ずっと俺の追いかけてきた師匠のものだって!」
「それはつまり、俺は成長してないという事か?」
「あ、いえ、そういう意味じゃなくて」
「くくっ。弟子に成長してないと言われて黙ってはいられんな」

士郎と曜子を挟みながら、双七と九鬼は緊張感が抜けるような会話を続ける。
この殺し合いの場に置いて、同じ流派を持つ師弟は再会を喜ぶ。

「俺の教えを覚えているか? 殺す覚悟を。出来ていなければ黙ってみていろ」
「大丈夫です! 覚悟は……覚悟は出来ています」
「なかなかいい返事だ。まぁ、そう気負うな」

同じような構えのまま、九鬼と双七は間に挟んだ二人へと踏み込む。
戦うしかないと感じた二人もまた、それぞれ武器を握り締め大地を蹴り飛ばす。




数刻ほど前。
花畑に突風が巻き起こった瞬間、如月双七は目を覚ました。
一緒に寝ていたボタンも、目を覚まし双七の背中にぶらさがる。
こんな小さな動物でも、双七にとっては最初の仲間だ。
事実。その愛らしい姿によって、孤独から解き放たれたと言っていい。

「はは。くすぐったいよボタン」
「ぷひひ~♪」

靄のかかった思考が、巻き起こった風によって全てかき消されていく。
安らぎの時間は一時お預けだ。背筋を伸ばし、眠っていた筋肉を呼び戻す。

「あっちからかな?」
「ぷひ」
「行こう! ボタン」
「ぷひひ!」

柔らかい花々の匂いと混ざらない、硬く懐かしい匂い。
風の吹いた方へと、双七は駆けて行く。自分を煽った風の中に、懐かしい匂いを感じたのだ。
もちろん実際にそんな匂いがした訳ではないが、双七にはそう感じられた。
そして予想通り、風を辿った先にいた人物に、かつての師の姿をダブらせる。
向かった先で待ち受けていたのは、九鬼耀鋼に良く似た、けれども知らない他人。
誰なのかと確認しようとした矢先に、双七は状況を必死で把握する事態に迫られる。
なぜなら目の前の見知らぬ男。衛宮士郎は、双七を見るなり武器を振り上げてきたのだ。
急に襲い掛かってこられて、何も抵抗しない訳にはいかない。
路地に転がっていた鉄の棒に意識を集中させると、周囲にあった金属を接合していく。
金属の集まる力が弱い気がするが、恐らく気のせいだと文句を飲み込む。
そして完成した歪な鉄の棒を握り締めると、士郎の一撃を呼吸で受け流す。
殺すための反撃ではない。とにかく相手の気を削ごうとする反撃だった。

「なかなかいい動きだ。双七」
「ッ! まさか、先生!?」

目の前の人間から懐かしいものを感じる。
思い出の中と外見が違いすぎるが、どうしても重なって瞳に映ってしまう。
だがおかしい。今の自分の偽名をなぜ、九鬼が知っているのだろうか。
場合によっては三人相手にしつつ、何時でも逃げられるよう、足の位置を丁寧に動かす。
とにかく理由が知りたい。なぜ自分の名が知られているのかと。
だが、目の前の男は疑問に答える素振りを見せず、冷静に双七と同じ構えをとった。
寸分違わぬ。九鬼流の構えを。

「双七。お前の疑問に答える前に、目の前の二人を片付けねばらない」
「はぐらかすつもりか!?」
「全く。どうしても俺が偽者だと思うなら……見届けるといいッ」

腹に響く力強い声に、双七は一瞬だけ昔に戻ったかのような錯覚に陥る。
少年の身であった過去。あの道場で何度も聞いた師の動きの一つ一つを思い出す。
左目には、記憶の中から浮かび上がったかつての師の姿。
右目には、今目の前で二人の人間を相手に戦う男の姿。
この二つの姿が、ゆっくりと交差し重なり、そして一つになる。
重なった師の……九鬼耀鋼の背中は、双七の見上げてきた逞しい背中だった。

「詳しい事は知りません。けどその技は、俺の目に焼きついてるあの背中と全く一緒だ。
 だから信じます。姿形はどうあれ、貴方の背中は、ずっと俺の追いかけてきた師匠のものだって!」
「それはつまり、俺は成長してないという事か?」
「あ、いえ、そういう意味じゃなくて」
「くくっ。弟子に成長してないと言われて黙ってはいられんな」

理由は解からない。どうして姿がそうなったのか。どうして自分の偽名を知っているのか。
しかし、そんな理由など些細な事でしかない。
目の前の師は、変わらず自分の師で、それが双七には何よりも嬉しい事実だったのだ。
こんな殺し合いの中にいてもなお、双七が追いかけ続けた背中は、変わらずそこにあったのから。

「俺の教えを覚えているか? 殺す覚悟を。出来ていなければ黙ってみていろ」
「大丈夫です! 覚悟は……覚悟は出来ています」
「なかなかいい返事だ。まぁ、そう気負うな」

殺す覚悟は最初に出来ていた。と言っても、それはあくまで主催者を殺すという覚悟だ。
同じ参加者を殺せるかという覚悟ではなかった。だが、今はそんな事を言っている暇は無い。
どんな理由であるかは不明だが、目の前の士郎から伝わる熱い殺気は本物だ。
それに士郎が握る刀からもまた、雄たけびの様な輝きを放っている。
恐らく鍔迫り合いをすれば、ほぼ確実に双七が折れる。
ならば、一撃離脱で刀を叩き落し、肉弾戦に持ち込むしかない。
戦闘の手順を固めると、双七は握り締めた鉄の棒を士郎の腕目掛け薙ぎ払う。
が、それを先読みしたように、士郎は一直線に刀を振り下ろす。
つぎはぎだらけだった金属片が、今の一撃だけで辺りに飛び散る。

(ぅっ)

だが、双七が驚いたのはそんな事ではない。
飛び散った金属を再び手繰り寄せ、即座に反撃しようとした瞬間、強い眩暈が双七を襲った。
あまりに突然の苦しみに、双七は思わず胸を押さえながら距離を開ける。
一方、対峙していた士郎もまた、表し様の無い嘔吐感に襲われていた。
目の前の男の存在が気持ち悪い。そんな風に思うのは、生まれて初めての事だった。
鉄の心に身を宿しつつあるとは言え、士郎は正義の味方を目指していた。
そんな士郎が体験する、例え様の無い無機質で飲み込むことの出来ない感情。
二人は睨みあいを続けながら、無我夢中で武器を、拳を振るう。
その間、どちらも決して相手の姿を見ようとしなかった。
顔はおろか、姿を目視しただけでも強烈な吐き気と立ち眩みを浴びせられるのだ。
お遊戯としか言えないような攻防でも、二人は必死の形相で神経を削り続けていく。
擦り切れる刀の悲鳴を聞けば嘔吐感を。歪な武器が砕け散れば眩暈が。
二人の間に金属の削り粉が舞い散るたび、どちらも顔が青ざめていく。
それに気付いたのか、遠くで牽制し合っていた曜子が動きを見せる。
また同じように、双七の異変を察した九鬼もそれに合わせて飛ぶ。

「しっかりしろ双七!」
「っ!」

倒れそうな双七の傍に立ち、九鬼は腹に力を込め激を掛ける。
空気を振動させ伝わる音波が、双七の皮膚に吸収され意識をクリアにする。
一方、近付いて士郎の隣に立ったものの、曜子からは何も言葉をかけない。

「相性が悪いらしい。変わってくれ」

ただ淡々と士郎は己の要求を吐き出す。
その答えとして、曜子は士郎を退けて自分の身体を双七の眼前に出す。
仕切りなおしではあるが、どちらも片方がこうでは戦い辛い。
ならば牽引するまでと言わんばかりに、九鬼は双七に見せるようにゆっくりと構えをとる。
大きく息を吸い、深く深く響く体内のリズムを呼吸の中へと精密に刻む。

「どれだけ覚えているか稽古してやる。付いて来い双七!」
「はい!」

掛け声とともに、場の空気が個々での戦いでなく、二対二での戦いに切り替わる。
こうなると当然の様に、優勢なのは息の合う師弟の方だ。
士郎と曜子では、お互いの癖やタイミングを完璧に把握できていない。
そうこうしている内に、ジワジワとお互いの距離が狭まってく。
戦いの場は、いつの間にか別荘地帯へと移動していた。




不謹慎ながら、双七はこの戦いを素直に楽しいと感じていた。
思えば、この島に来て自分はのんびりし過ぎていたのかもしれない。
けれどそのお陰で、殺し合いを乗り越える覚悟も据え、ボタンとも出会えた。
なによりも、今こうして再び師に教えを請う事が出来るの喜び。
双七は、知らず知らずの内に心の炎を体中に着火させていく。
一度だけ九鬼と視線が交差する。「教えを覚えているか?」と言いたげな目だった。
教えは覚えている。一度たりとも、忘れた事はなかった。

(手は綺麗に)

攻防を重ね、四人の間合いが確実に狭まってく。
僅かに見せた九鬼の死角。その場所に自分を当てはめ、双七はお互いの死角をカバーする。
再開したばかりだというのに、師弟の息は完璧に同調していた。

(心は熱く)

士郎が双七の腕を斬り捨てんと刀を振るえば、九鬼がその刀を蹴り飛ばす。
曜子が九鬼の腹部目掛けてトリガーを引けば、双七が赤い糸を伸ばし弾丸の軌道を僅かにずらす。
立ち位置が幾度も入れ替わり、立ち替わり、同じ位置に定まる事が無い。

(頭は冷静に)

だが、予定調和であったかのように、四人の位置が固定されていく。
外側を九鬼と双七が、それに閉じ込められるように、曜子と士郎が。
反撃だと言わんばかりに、師弟が同じタイミングで腕を伸ばす。
これを跳躍して回避せんとする曜子と士郎を、師弟はまたも同時に挟む。
蒼い空の中、八つの瞳が斜め一直線に並ぶ。
気付いていた。曜子も士郎も挟まれている事には気付いていたのだ。
だが、五感や脳が緊急信号を送っても、死の予感が二人を宙に蹴り飛ばした。
重力に引き摺られる身体では、落下を避けられない。
ゆっくりと落ちていく二人へと、左右からそれぞれ牙の様な腕が急接近する。





           「――焔螺子ッ!」


                 「!!」
                 「ッ!」


                   「――焔螺子っ!」







地面に叩きつけられた曜子と士郎は、口から漏れる痛みを無視して立ち上がる。
曜子は空中で可能な限り回避行動を取ったが、士郎にそれは厳しかったようだ。
衣類越しでも、腹部が紫に腫れ上がっているのが確認できる
歪む景色を強制するため、両手で顔を叩きつけた。

「ぐっ……ぅ。二対二じゃ分が悪いみたいだな」
「再び個別に」
「それはいいが、どうやって引き離すんだ?」
「私はあちら。貴方は向こう。合流は駅で」

士郎の質問も、それに答えるのを聞かず、曜子は双七の間合いに近付きながら即座に離脱する。
釣られた双七が追撃しようとしたのを見計らい、士郎も逆方向へと走り出す。
九鬼相手では、貧乏くじを引かされた気もするが、気にしている余裕はない。

「双七!」
「大丈夫です! 先生はそっちを!」

どう言うからくりを使ったかは知らないが、上手く分断できたようだ。
あとは振り向かず走り続ける。このインターバルを使い切る前に、手を打たねばならない。

(どこかに逃げ込むか? いや、それじゃあ袋の鼠だ)

士郎がしなければならないのは、追いかけてくる九鬼を完全に振る切る事。
だが、相手との距離は離れるどころか、着実に詰められていく。
静かな別荘地帯の中で、二つの足音だけが響き渡る。
先程の戦闘で受けた痛みも、ここに来て容赦なく邪魔をし始める。
渦を巻きつつある景色を精神で踏みしめ、一軒の別荘へと飛び込む。
中に人影も灯りも無く、あるのは外から漏れる光だけだ。
西洋風の玄関を駆け抜け、小奇麗に片付いた洋間を通り過ぎる。
通り抜けて来た時にドアを開け放ってきたから、きっと誘われてくるはず。
敢えて誘い込んだ理由。それはこの危機を打開する方法を思いついたからだ。
走りながら手探りで支給品を取り出すと、急ぎ調理場へ走る。
士郎の手に握られているのは、リセに支給された火炎瓶。
調理場に辿り着いた士郎は、躊躇う事無くガスの元栓を開けていく。
数秒もするうちに、鼻を刺激する異臭が辺りに漂い始める。

(これなら……よし)

そして九鬼が調理場に顔を出すより前に、勝手口から飛び出す。
静かに身体を地面に貼り付け、手に持った火炎瓶を握り締める。
出来るだけ引き付けて投げ込まなければならない。
と、室内から鼻を摘むような声が、微かだが確かに聞こえた。
狙いを定め、調理場から拝借したライターで火炎瓶に音を立てぬよう点火。

(いまだっ!)

ガスを充満させた室内目掛けて、即席の火炎瓶を投げ込む。
軽快に繊維が砕ける音の直後、室内から炎と共にに爆発音が鳴り響く。
中がどうなったかまでは確認できなかったが、いちいち見に行く余裕は無い。
道を挟んだ隣の別荘のドアを開け転がり込むと、一目散に隠れられそうな場所に潜む。
爆発音が耳に残っているのか、周囲の音が上手く拾えない。
何度も床を転がりながら、別荘の中を突き進む。
すぐ後を追ってきているかもしれないが、その時はまた奇策を用いて逃げるしかない。
ようやく客室と思われる部屋を見つけると、躊躇う事無く飛び込む。
そして壁に備えられたクローゼットに身体を押し込み、ようやく一息つく。
身体は鉛を詰め込まれたように重く、先程から焼けるように脇腹が熱い。
疲労が血液とともに全身に駆け巡り、意識が徐々に白く塗りつぶされていく。
心は拒んでいるのに、身体は休息とう名の快楽を貪り始める。

(さく……ら。かな、らず……)

薄れていく意識の中で、士郎は桜が無事である事を願い続けた。
そんな士郎が気絶した別荘の反対側で、九鬼は首を鳴らし身体をほぐしていた。
爆発に巻き込まれはしたが、幸いな事に被害にあったのは聴覚だけで、他は無事だ。
だが、もう少し無用心に歩いていたら、大火傷をおっていたかも知れないだろう。
他に異常が無いのを確かめると、九鬼は辺りに動くものが無いか気配を辿る。
しかし、幾ら無音の中に意識を集中させても、逃げる足音は聞こえてこない。
と言う事は、この近くで身を潜めていると言う事だろうか。
上手く探し出せば、放送までに見つけられるかもしれない。
だが、下手に深追いしすぎたために、双七と入れ違いになっては困る。
戦いの最中であったため、色々と聞きそびれた事もあるのだ。

「さて、双七を探しに行くか、それともあの男を探すか。もしくは、あの場に戻るかだな」

顎に手を当てながら、九鬼は空を見つめた。そろそろ太陽が海から別離する。
主催者が放送とやらを流すのであれば、時間的にも間もなくなのだろう。
色々頭の中で整理した結果、九鬼は次にどうするべきか結論付けた。




【H-4 別荘の玄関/1日目 早朝】
【九鬼耀鋼@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3、日本酒数本
【状態】:健康、少しだけ耳が痛い
【思考・行動】
 基本:このゲームを二度と開催させない。
0:さて、どうするか……
1:以下の目的のため、駅へと向かう。電車が走っていない、または待ち時間が長ければ別荘地やボート乗り場を探索
2:首輪を無効化する方法と、それが可能な人間を探す。
3:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。
4:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。
6:如月双七に自身の事を聞く。
7:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。
【備考】
※すずルート終了後から参戦です。
 双七も同様だと思っていますが、仮説にもとづき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。
※今のところ、悪鬼は消滅しています。
※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。
その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。
※黒須太一、支倉曜子の話を聞きました。が、それほど気にしてはいません。
※別荘の一角で爆発音がありました。




【H-4 別荘の一階客間/1日目 早朝】
【衛宮士郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:維斗@アカイイト
【所持品】:支給品一式×2、ゲーム用のメダル(500枚)、火炎瓶×6、リセの不明支給品(0~1)※確認済み
【状態】:強い決意(サクラノミカタ)、肉体&精神疲労(大)、脇腹に激痛。
【思考・行動】
 基本方針:サクラノミカタとして行動し、桜を優勝(生存)させる
0:気絶
1:この周囲に居るかもしれない桜を探す
2:桜を捜索し、発見すれば保護。安全な場所へと避難させる
3:支倉曜子の『同行者』として行動し、最大限に利用し合う
4:桜以外の全員を殺害し終えたら、自害して彼女を優勝させる
5:脱出の可能性があるのならば、それも一考してみる
6:機会があれば、カジノに出向きメダルの使い道を確認しておく
【備考】
※登場時期は、桜ルートの途中。アーチャーの腕を移植した時から、桜が影とイコールであると告げられる前までの間。
※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布をまとったままです。投影の類は使えません。





曜子を追いかけ林の中まで辿り着いた双七だったが、林の中に足を踏み入れた途端見失った。
路上にいた時は確かに視認していたのにである。
慎重に土を踏み潰し、周囲に動きが無いか目を凝らす。
空気ですら音を奏でる林の中で、双七とボタンの呼吸音だけが聞こえる。

「って、ボタン!?」

忘れていたが、ボタンは双七の背中にぴったりと張り付いていた。
あの戦いの最中、どうにも背中が重かった理由に納得する。
足元の草陰そっと降ろし、ふさふさする毛並みを優しく頭を撫でた。

「とりあえずお前は隠れてろ」
「ぷひ?」
「ああ。ここは危ないんだ。ボタンが狙われたら大変だか――」
「ぷひー!」

突如、鳴き出したボタンが弾丸の様な速さで双七の太腿に飛び掛る。
驚いた双七がボタンを引き剥がした時、僅か一瞬だけボタンの身体に赤いランプが走る。
その刹那、双七は危機を感じ取り、迷う事無くボタンを抱え横に飛ぶ。
直後、双七の左膝を音も無く掠める熱。次に見たのは、飛び散っていく自身の紅い血だった。
眼球の奥に走る激痛に耐え、勢いのまま倒れた体ごと地面を転がり、その場から懸命に離れる。
抱きかかえていたボタンを茂みに隠し、優しく背中を撫でて安心させる。

「ひょっとして、危ないって教えてくれたのか?」
「ぷひッ!」

怯えた様子ながらも、ボタンは懸命に頷いた。

「なら、今度は俺がお前を守る番だな」
「ぷひぃ~」
「仲間なんだから当然だろ。さ、ここでジッとしてろよ」

小刻みに震えていが、駆け出してしまう心配は無いようだ。
そして、忘れてはいけない事を思い出す。曜子の持っていた銃は、発砲音が上手く聞き取れないのだ。
もし仮に、あのままでいたなら、ボタンはおろか双七自身も撃ち貫かれていたかもしれない。
あの瞬間、微かにボタンの身体を赤い光が通り抜けたのを確認出来て逆に助かった。
油断した訳ではないが、攻撃された以上隙があったのは確かなのだろう。
大木に身を預けつつ、動くものがいないか再度確認する。

(近くにいるッ。けど、どこだ!?)

すぐに気付く。あの場で冷静に撃たれた角度を見れば、多少の目安が付けられたのだ。
それなのに、双七は回避する事だけを優先して判断を見誤った。

「せめて、相手がいる場所がわかれば……いや」

焦っていた心を静める。神経を尖らせるにしても、これではかえって隙を生む。
心に水を注ぎ、九鬼の教えを一つ一つ噛み締める。

「すぅ……」

呼吸を正す。混乱していては相手の思う壺だ。
双七は瞳に映る景色全てに、細心の注意を振り分けていく。
たった一つの見落としが命取りだ。木々の隙間も、不恰好な石も見逃さない。

「ぐッ」

だが、懸命に曜子の姿を探す双七が得たのは、無音の攻撃による左肩の痛み。
またも狙撃された。回避できたのは弾が当たる直前もいいところだ。
ただ、一つだけ解かった事がある。相手はボタンを狙っている様子はない。
それだけは双七の精神を安心させ、僅かに心の余裕を取り戻させた。
だが油断する訳にはいかない。このままではいつか銃弾が心臓を捉えるだろう。
木々のざわめきの中から、双七は曜子の場所を探り続ける。
何かきっかけがあれば、いつでも打って出られる様に。
的を絞られないよう、双七は林の中を駆ける。時には木々に石を投げ、警戒心を煽るように。
その度に木々がざわめき、その雑音の合間を縫って鋭い弾丸が双七の周囲に散らされる。
双七の一人相撲とも呼べる行為が何度か続く中、意外な所から歯車が動き出す。

「ぷひ!」
「!」
「ッ!」

音が聞こえたと同時に、双七は足と肩から広がる痛みを堪え、横に飛ぶ。
一瞬遅れてから、双七のいた場所に銃弾が叩きつけられる。

「ボタン!? どこにいるんだ!」
「ぷひひ!」

双七の後方から聞こえてくる声。それは間違いなくボタンだった。
振り返って音の発信源を見れると、そこには曜子に絡みつくボタンの姿。
いつの間に動いていたのか、ボタンは勇敢にも彼女を捉えていたのだ。
恐らく、曜子の意識が完全にボタンから外れ、双七に集中しだした瞬間を狙ったのだろう。
曜子がボタンを剥がそうとするが、そうはさせまいと双七は地を駆ける。
今度こそ見誤らない。自分のために行動したボタンに報いるために。
曜子が逃げるのも反撃するのも許さぬ速度で、双七は腕を冷静に伸ばす。
今までの戦いを見る限り、身体能力で言えば相手の方が優れている。
けれども、一撃においては双七の方に分があるだろう。
相手が女でも、今だけは容赦しない。一気に距離を詰めた相手の胸目掛けて、双七は腕を弾く。

「せぇあッ! 焔ッ螺子!」

突き出された腕が、曜子の胸を激痛で抉る。
厚い脂肪に防がれ衝撃波は届かなかったかもしれないが、曜子の顔は確かに苦痛の様子を示す。
攻撃を受けた曜子の決断は早く、双七が追撃する間を与えず離脱を開始した。
しかも地面を走るのではなく、手近にあった大木の枝に飛び乗っての逃走だ。
だが、双七も彼女を逃すわけには行かない。
なぜなら曜子の腹部には、未だしっかり張り付いたままのボタンがいるからだ。
このまま離れ続ければ、その足の爆弾が発動してしまう。

「待て! もう離れていいんだボタン!」

追いかけようとするが、隠れ潜んでいた足の痛みが一斉に動き始めた。
思うように走れない双七だが、それでも必死で曜子を追いかける。
だが、曜子の方も追撃を恐れてか、銃を構えたまま双七から距離を保つ。
そして遂に、カウントダウン開始。電子音が響き渡る。
タイムリミットは30秒。それまでにボタンを取り戻さなければならない。

(ぬいぐるみにするか? いや、あの体勢でそれはマズい)

見れば、ブレザーの腰にあるベルトらしき部分に両腕を通しながら、しっかりと肉を摘んでいる。
あの状態でぬいぐるみにしては、逆に取り返すのか困難になるだろう。 と、ここで最悪の状況が完成する。
腹部にボタンを抱えた曜子が、遂に電子音の意味を悟ってしまったのだ。
ブレザーを脱ぎ捨てようとするが、ボタンの腕がしっかりと肉に食い込んで離れない。
ならば足の部分を刺激しないように、それでも躊躇う事無く、ボタンの頭上に銃弾を叩き込む。
今まで聞いた事の無いような甲高い悲鳴が、ボタンの口元から垂れ落ちる。
だが、撃たれてもなおボタンは腕を離そうとしない。ブルブルと震えるだけだ。
曜子は再び、ボタンの身体の中に銃弾を二発送り込む。
一発目で腹部が横に貫通し、両方の穴から血や肉が零れ落ちていく。
二発目は骨に当たったのか、ボタンは激しい痙攣を起こし、口からも血が逆流させ始める。

「くそぉ! ボタン! 手を離せ!」
「ぷ……ぃ」

下からでは手も足も出ない。既に危険な状態は逸している。
せめて金属か何かあれば良かったのだが、周囲は自然だらけだ。
金属の類など、何処を探しても見当たらない。
無力な双七が出来る事は、必死で呼びかけることだけ。

「ボタン! 聞こえていないのかボタン!」

必死に呼びかけるが、ボタンは一向に離す気配を見せない。
それどころか、息をしているのかも定かではないくらい、危険な状態だ。
同じように、無表情だった曜子の額にも、焦りの様子がハッキリと浮び始める。
と、何かを思い出したように、曜子は急ぎデイパックに手を伸ばす。
やがて、デイパックから姿を現したそれは、大振りな斧。
双七が止める間もなく、曜子はギロチンのように刃を落とす。
その瞬間、ボタンは二枚にスライスされ、額から尻尾までと、切断面が露になる。
綺麗だった毛並みが一瞬で血に染まり、切り落とされたもう半分が地面で砕けた。
だが、それでもなお、ボタンの腕は曜子に喰らいつき、離れない。
時間が無い。ここで爆発してしまえば元も子もないと、曜子は開き直る。
自分の肉を切り落とす可能性にも躊躇せず、曜子は斧を縦に構え、皮膚ギリギリに振り落とす。
曜子のブレザーに蹄を喰い込ませたまま、ボタンの身体はゆっくりと曜子から剥がれていく。
その直後、ボタンの腕から電子音が止まり、辺り一面が光に包まれ爆風が巻き起こる。
決して大きくないその体が発火し、辺り一面に粉々に飛び散っていく。




爆風に飛ばされた曜子は、少し離れた場所に打ち付けられていた。
立ち上がろうとするも、上手く力が入らず、仕方なく地面を這いながらゆっくりと前に進む。
失態だった。もっと早く足の爆弾に気付けていれば、こんな無様な逃走をせずに済んだはず。
焼け爛れた皮膚が痒い。骨は疼き、右肩は完全に皮も肉も炭化してしまっている。
自身の肩の肉を抉り取り、骨を掻き毟りたい衝動を我慢して唇を噛み潰す。
まずは応急処置と、太一の捜索の続き。それから生きていれば士郎の回収だ。
そもそも、双七と呼ばれた男ならば殺せると判断したのが不味かったのかもしれない。
加えてもう一つ、ボタンと呼ばれた猪の存在の危険性を切り捨てた事も。
まさかあの小さな猪が、あんな奮闘を見せるなどと予定に入っていなかった。
どちらにせよ、このままでは太一を探すのに大きく不利だ。
可能ならば、どこかで身を休めるか、平和ボケしている集団に紛れたい。
蜂の巣のようになった皮膚と血管の穴から、蒸れた血液がじわじわと漏れ出す。
時間が無い。自分を危険だと吹聴する人間と、危険である事を知る人間が併せて四人。
行動が遅ければ参加者全員に広まってしまう。その前に、どうにかして味方を作らなければなるまい。
やがて丈夫そうな大木まで這い寄った所で、木に体を押し付けながら立ち上がる。
木々の間から射し込む光が、曜子の右目を痛く刺激するが、気にしない。
これぐらいの痛みで止まっている暇など、曜子には無いのだから。



【G-4 林の中/1日目 早朝】
【支倉曜子@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:H&K_MARK23(拳銃/弾数9/12発/予備12×1発)、斧、バカップル反対腕章@CROSS†CHANNEL
【所持品】:支給品一式、首輪(リセ)
【状態】:健康、肉体疲労(大)、右半身大火傷、胸部に激痛、痒い痛み。
【思考・行動】
 基本方針1:黒須太一の捜索・保護、この世界からの脱出
 基本方針2:『同行者』を増やし、利用して生き残る可能性を増やす。
1:ひとまず士郎と別れた駅の裏【G-4】まで戻る
2:人を発見したら、『同行者』となりうるか判断し、そうであれば勧誘。でなければ殺害する
3:手が出せそうにない相手からは遠ざかる
4:首輪の解除に必要な器具・情報を探す(首輪のサンプル入手も含む)
5:状況が整えば、入手した首輪で実験し解除方法を探ってみる
6:この世界からの脱出に必要な方法を探す
7:機会があれば、カジノに出向きメダルの使い道を確認しておく
【備考】
※登場時期は、いつかの週末。固定状態ではありません。
※佐倉霧、山辺美希のいずれかが自分の噂を広めていると確信。
※『H&K MARK23』にはサイレンサーと、レーザーサイトが装着されています。
※『同行者』とは、理で動き殺人に厭いが無い者のことを指します。





双七の頬を小さな粒がリズミカルに叩く。だが、この粒は自然の雨などではない。
頬から顎まで垂れ落ちていくのは、木の枝にこびり付いたボタンの欠片だ。
爆発で火が通ったのか、血と肉が焦げる独特の臭みを放っている。
あの時、双七は確かにボタンに離れるよう叫んだ。
だから離れなかったのは、決して双七の責任だけではない。
そもそも、ボタンを傷付けたのは曜子であって、双七は救おうとした側だ。
けれども、今の双七に「お前に責任は無い」と声を掛けてくれる存在は無い。
僅か数時間。それでもボタンは、双七が最初に出会った仲間であり相棒だった。
孤独から救ってくれた希望と、胸を張っていえる友達だった。
そしてその希望の光を、双七は救うことも出来ずに眺めていただけ。
ボタンの自分に気を許してくれた時の鳴き声と、最後の断末魔が重なる。
一緒に走り回った暖かな記憶は、切り刻まれた死骸へと塗り替えられ。
幸せそうに胸の中で眠る姿が、中から破裂して霧散する姿に上書きされていく。
自分に抱きついていた温もりは、地に落ちた断面の欠片で冷まされ。
涙を流しそうになるが、それを懸命に堪える。
今ここで涙を流せば、頬に張り付き助けを求めるボタンを振り落とす事になる。
だから泣けない。一滴たりとも、洗い流すわけにはいかないのだ。
どんな綺麗な心を持っていても、一度こびりついた根深い汚れは落とせない。
虚脱感に打ちのめされ、斑模様に広がったボタンだった欠片の中、双七は膝から崩れ落ちた。


【ボタン@CLANNAD】死亡


【G-4 林の中/1日目 早朝】
【如月双七@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品(0~2)
【状態】:後悔、肉体疲労(小)、精神疲労(大)、右膝と右肩に貫通射創。
【思考・行動】
基本方針:仲間の確保と保護
0:ボタン……
1:九鬼先生と合流する?
2:向かってくる敵は迎撃。殺さなければまた誰かが死ぬ?
【備考】
※双七の能力の制限は不明。少なくとも金属を集める事ならば出来ます。


064:ときめきシンパシー 投下順に読む 066:夜明け前
064:ときめきシンパシー 時系列順に読む 066:夜明け前
039:死を超えた鬼と少女 九鬼耀鋼 082:サクラノミカタ
035:HEART UNDER BLADE 衛宮士郎 082:サクラノミカタ
035:HEART UNDER BLADE 支倉曜子 076:KILLER MACHIN
054:花がくれたおやすみ 如月双七 093:これより先怪人領域(前編)

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