ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

THE GAMEM@STER SP(Ⅲ)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

THE GAMEM@STER SP(Ⅲ) ◆LxH6hCs9JU



 高槻やよいがその異変に気づくまで、三十秒ほどの時間を要した。
 プッチャンダイナミックの衝撃で、体が乗り物酔いのような嘔吐感を訴え、意識も朦朧としていた、というのがまず一つ。
 あまりに長い時間そうしていたので、体の一部とも錯覚してしまったそれの喪失を、頭が認知できなかったというのが一つ。
 右手の爪先、指と指との間、手首や手の甲に感じていた温もりが、急激に外気に冷やされて、ようやく。

「……プッチャン!?」

 やよいは伏せっていた顔を上げ、自分の右手にパペット人形が嵌められていないことを確認した。
 確認して、すぐさま愕然とする。
 掌をグー、パー、チョキと変形させてみても、やはりその事実は変わらない。

「まったく……ホントよくわかんない能力だよねぇ。神宮司の力ってのも」

 依然、体は起こせぬまま、やよいは視線だけを上に向ける。
 そこには、ワイシャツをボロボロにした炎凪が、煤のような臭いを纏わせ屹立していた。
 左手には、宿主を失い物言わぬ人形と化したプッチャンを握っている。

「人間だったら全治一ヶ月はくだらないだろうけど、あいにく僕は特殊でね」

 目に映る光景に魔性の色を感じ、やよいの視界全体が歪む。
 吐き気すら鮮明になり、凪が放る悪魔のような言霊も、より確かなものとして耳に響いてきた。

「生半可なやり方じゃあ、僕は倒すことはできないよ。それこそ、殺す気でかかってこなきゃね」

 凪は血の混じった痰を吐き出し、負ったダメージをその顔に物語る。
 まったくの無意味だったわけではない、しかしだ。
 現実、やよいの手からプッチャンが奪われ、見下ろす者と見上げる者の構図が完成してしまっている。
 やよいはこれを、絶望、と受け取った。

「……どうしたのさ。やよいちゃん。君はそんなに無口な子じゃあないだろう?」

 やよいは虚しさを覚える右手を握り、開き、また握って、上の空。
 起き上がる気力さえ、湧いてこない。

「紛い物とはいえ、君もHiMEの一人なんだ。ちょっとは自分で戦おうって気になったらどうだい?」

 高槻やよいは一介の女子中学生だ。
 履歴書の職業欄にアイドルプロダクション所属と書き込める以外、他人との差などない。
 ましてや、殺し合いのゲームに立ち向かえる技量も、度胸も、勇気とて、持ち合わせていなかった。
 高槻やよい、一人では。

「ちょっぴり失望したよ。やっぱり、今回の儀式は選出からして失敗だったのかもしれない」

 今までは、一人ではなかった。
 プッチャンという伴侶がいたからこそ、頑張れた。
 やよい一人では、初めてツヴァイと相対したときにあっさり殺されていた。

 共に語り合い、共に励まし合い、共に頑張ってきた男の子の、喪失。
 やよいにとっての元気の素とも言える存在が、今は外敵の手中にある。
 無力を自覚しているやよいに、彼を取り戻せるだけの気概はなかった。

(なにも、できない)

 伊藤誠菊地真との離別を回避できなかったのも、
 葛木宗一郎を死なせてしまったのも、
 神宮司奏の選択を否定し切れなかったのも、

(わたしじゃ、なにも)

 やよいに、力がなかったから。
 努力だけでは覆すことのできない、才覚と境遇による運命の違いが、やよいの痩身に圧し掛かる。
 アイドル業界などとは比すのも馬鹿馬鹿しい世知辛さを、噛み締めて挫折する。
 いつしか、やよいの瞳は自分でも気づかぬうちに――色を失った。

「……がっかりだよ」

 凪の凍てついた声が、やよいの心を舐るようにして、投げ落とされる。
 示すべき反応は見当たらず、湧き上がってくる感情も、虚無に消えた。
 凪の左手が、ぽとり、とプッチャンの身を地面に落としても、変わらない。

「あっ」

 やよいの見る目の前で、凪は足元のプッチャンを踏み潰した。
 そのままぐりぐりと、プッチャンの柔らかな体を硬い土に擦りつける。
 フェルトのチョッキが茶色に汚れ、本来の色が薄れていく。
 誰かの右手に嵌っていないとき、プッチャンに痛覚はあるのだろうか。
 どうだったっけな、とやよいは考え込むが、すぐには答えを思い出せない。

「プッチャン」

 声だけを、搾り出す。
 声だけは、自然に出た。

「やめて、ください。プッチャン、きっと痛がってます」
「やめないよ」

 凪には悲痛な宣告で返され、やよいはたまらず、上半身だけを起こした。
 膝立ちの状態になり、凪の足元からプッチャンを掠め取ろうとするが、足のつま先で適当に払われる。

「やめっ、てぅ。プッチャン、返して……」

 涙腺が決壊し、音も涙声になるが、それで凪の仕打ちが緩和するはずもなかった。
 やよいの想いを嘲笑うかのように、十数センチのプッチャンの体は、凪の靴底に蹂躙される。
 直視に耐え難い光景からやよいは目を離さず、むしろ凝視することで、下半身をたたき起こすための原動力とした。

 完全に立ち上がって、だから事態が好転するというものでもない。
 せいぜい、凪の蔑みの視線が上方に傾く程度のこと。
 土埃に塗れたやよいの全姿は、アイドルの魅力を完全に殺してしまっている。
 そんな些事には、気を取られない。
 眼差しは凪の足元、プッチャンに向いたまま、激情だけが燃える。

 憤怒が滾り、憎悪が込み上がってくる。
 これが人間の内に潜む負の感情なのだということは、子供のやよいにもわかった。
 ポジティブが売りのアイドルでも、気持ちが沈んだり、誰かに嫉妬したりは日常茶飯事らしい。
 内心、仕事仲間から聞いた瑣末な情報を思い出し、納得する。

(ああ、そう、なんだ)

 ふと、やよいの視線が己の腰に行く。
 豪奢な鞘に収められたそれを、思い出したかのように凝視する。
 プッチャンが携帯していた――実際にはやよいが腰に下げていた――短剣だった。

「抜けば」

 やよいの視線に気づいた凪が、挑発するように抜刀を勧めてきた。
 やよいは言われるがまま、震える手でその短剣を鞘から抜いた。
 果物ナイフよりもだいぶ大きい、刃のギラギラした短剣だ。
 短くても、剣。人を殺傷できる凶器なのだと、改めて認識する。

「力なんて備わっていなくても……昔から、人はそうやって道具を使って戦ってきたんだ」

 鏡のような刀身に目を奪われて数秒、狂気の宿る視線を、突き立てるべき胸元に転じる。
 凪は、両手を広げそれを歓迎するような体勢を取った。

「極めて根本的なことだよ。刃は人の皮膚を裂き、傷を作り、神経を絶ち、血を流させ、死へと導く」

 それらしい単語を見繕い、やよいに死を連想させる。
 殺人のイメージは既に、鮮明な映像となって脳裏を埋め尽くしていた。

「――わたしは」

 凪の懐にではなく、凪の足元へと、血走った視線を転じる。
 踏まれたままのプッチャンが、助けを求めるようにこちらを見た。
 応じるべきか、応じざるべきか。
 二択の答えは、既に出ている。

「……っ」

 キュッ、と下唇を噛む。
 ギュッ、と瞼を閉ざす。

 声はなく、音もなく、言葉も用いず、足だけが前に進んだ。
 プッチャンの代わりとなった短剣が、矛としてやよいの前に出る。
 明確な殺意を宿す凶刃は、吸い込まれるように凪の胸へと突き刺さった。

「――がふっ!?」

 何の抵抗も感じなかった。
 肉を裂く感触もなかった。
 骨を砕く感覚もなかった。
 命を奪う感傷もなかった。

「がっ……はっ……!」

 白い閃光が、迸る。
 瞼を微かに開け、眩さを体感する。
 あまりの眩さに、苦痛に歪む凪の表情が隠れた。

 胸元に突き刺さった短剣から手を離し、やよいはその場に尻餅をつく。
 なにが起きているのか、わからない。
 凪の体が眩く発光しているということ、血が噴き出していないということだけが、見て取れた。

「がぁぁぁぁぁぁ――!!」

 唖然とするやよい。絶叫する凪。
 発光が収まり、断末魔の悲鳴もやんで、やよいにさらなる混乱が齎される。

「……へ?」

 凪は、少年だった姿を完全に失い、代わりにただ一枚の白い紙切れとなっていた。
 人型に切り抜かれたその古紙は、真っ二つに裂け、青白い炎となって中空に消える。

「なにが、どうなって……」

 次の瞬間、紙切れが焼失したその場所に、青白い光が集まりだした。
 そして、徐々に光が収まっていき……人の形を成す。

「ごめんね……そして、ありがとう」
「ふぇ――」

 凝縮した光が人型を形成するよりも先に、凪の優しげな声が響いてきた。
 謝罪と感謝の言葉は、しかしやよいの混乱を増長させる意味しか持たない。
 理解が追いつかないうちに、光は消え、代わりにその存在が顕現した。

 一言で印象を告げるならば、そう――不思議な少年。

 刈安色の着物を上下で揃え、腰には帯を巻いている。
 混じり気のない見事な黒髪は、おさげのように耳元で短く結われていた。
 首に下げられたネックレスにはいくつかの勾玉が連なっており、アクセサリーと称すにもどこか古風だった。

 率直な感想として湧き上がってきたのは、社会の教科書で見たことがある、というものだった。

ルールブレイカー……異世界の産物ではあるけれど、草薙の持つ開封の力と同等のものがあると睨んでいた。
 自分の使命を賭した壮大な博打だったわけだけど、どうにか勝ちは拾えたのかな? なんにせよ、礼を言うよ」

 置いてけぼりを食らうやよいに対し、突如現れた少年は礼節を弁えた行動を見せた。
 深々と頭を下げ、感謝の意を述べる。その声は、たったいま紙と化し、燃えて消えた凪のものと同じだった。

「ありがとう、高槻やよいちゃん。そしてごめんなさい。君たちには、ずいぶんと酷いことをしてしまった」

 感謝に続いて謝罪の意を述べ、凪と同じ声を持つ少年はプッチャンを拾い上げた。
 手で土埃を払い、半ば放心状態のやよいの腕を取ると、その手にプッチャンを嵌めてやる。
 少年は凪と瓜二つの表情でシニカルに微笑み、やよいの手にはプッチャンが舞い戻った。

 なにがなんだか、わからない。

「プッチャンパーンチ!」
「ふごっ!?」

 プッチャンはやよいの手に戻って早々、少年の横っ腹の辺りに思い切りフックを食らわせた。
 これには少年も予想外だったようで、両膝をついて悶絶する。
 プッチャンは、その様を鼻で嘲笑った。

「へっ、いい気味だぜ。さっきはやよいによくも酷い真似してくれたなぁ。
 素直に謝って許すほどぉ! 今日のプッチャン様は寛大じゃないぜ!!」

 凪に散々踏みにじられたプッチャンだが、やよいの手に戻ってみればなんてことはない、元の調子でシャドーボクシングなどに興じている。
 悶絶していた少年は苦笑いで距離を取り、平謝りを重ねた。

「てけり・り」

 破砕した壁の残骸を這い、マッチョスーツ型防弾チョッキを失ったダンセイニが寄って来る。
 意識も回復したのか、浮かべる単眼に淀みはなかった。

「やっぱり、裏がありましたか」

 ダンセイニに続いて、今度はトーニャの声が背後から。
 やよいはぜんまいの切れたからくりのように緩慢な所作で首を動かし、その姿を確認する。
 多少土埃に汚れてはいたが、目だった外傷はない。
 彼女の能力であるキキーモラはどういうわけかウェストの体を巻きつけており、本人は頭でも打ったのか、たんこぶを作って気絶していた。
 とりあえず、オーファンは無事に退けられたようである。

「あんな中途半端な強さの怪物をあてがって、私たちを足止めしておいた意図が見えませんでしたがそうですか。
 本命はやよいさんだったというわけですね、はいはい……このロリコン野郎ッ!!」

 トーニャは少年を罵倒するとともに、キキーモラで拘束してたウェストを乱暴に放る。
 少年はウェストによる人間弾丸を華麗に回避し、ぎゃふん、という悲鳴を背にしながらまた苦笑した。

「ごめん! 本当にごめん! 君たちには悪いことをしたってば! 謝りたいからさ、とりあえず話し合いの場を持たせてくれないかな?」

 少年が何者なのか、依然として判然としないやよいにとっては、この提案自体が異なものだった。
 しかしプッチャンやトーニャはそうでもないようで、少年に敵意を向けてはいるものの、申し出を拒否する気配はない。

「な、なにがいったいぜんたいどうしてどういうことなの~?」

 頭の上に疑問符を並べるやよいに、見かねた少年が説明を開始する。

「改めまして。僕の名前は那岐。さっきまでは炎凪だった存在さ。同一人物と受け取ってもらって構わない。
 あ、でも苗字の炎は一番地の封印を受ける際に盛り込まれた言霊だから、できれば名前で呼んで欲しいな」

 やよい以外は大体のあたりをつけていたらしい少年の正体が、本人の口から告げられた。
 それでも、やよいにはさっぱり理解できなかった。


 ◇ ◇ ◇


 山辺美希ファルシータ・フォーセットの小柄な背を追いながら、どうするべきか思案した。
 無防備な背中は警戒の色に乏しく、ナイフでも投擲すればあっさりと肉を抉り、致死に至る出血を齎すだろう。
 そうなれば、美希の狙う一人勝ちへの障害が一つ減る。
 やるときにやっておく、という考え方は確かに効率的で、しかしそれが無意味という可能性を考慮すると、やはり懊悩せざるをえない。

「……むぅ~」

 美希は今、ファル(彼女がそう呼ぶよう指定した)によって教会裏に建つ寄宿舎の中を案内されていた。
 それというのも、目下の大敵であった怪物――オーファンが、トーニャとの戦闘の内に消滅したためである。
 元々、美希は仲間を求めて教会を目指していた。
 しかもドクター・ウェストがかつて知己としていた九鬼耀鋼とも関係を持つため、紹介されるだけの口実としては十分だった。

 怪物も退治され、目論んでいた集団への潜入も間近に控え、美希はしめしめといった心持に……ならない。
 物事は万事順調に進んでいるとは言いがたく、それどころか、一抹を通り越した大きすぎる不安要素を抱えるまでに至ってしまった。
 その不安要素というのが、いち早く美希の存在を察知し、声をかけてきた――ファルシータ・フォーセットである。

 彼女とトーニャ、ウェストの三人は同盟を結ぶ間柄であるらしく、しかしファル自身に戦闘能力は皆無。
 先の怪物は突如として襲い掛かってきた主催者グループの一人……第三回、第四回放送を担当した炎凪が従えるもので、トーニャとウェストはその撃退に当たったのだという。
 戦闘面においては足手まといにしかならないファルは、遠く離れた場所で戦況を見守り……その途中で、同じように隠れ潜む美希を発見したのだと主張する。

 はたしてそれはどうだろうか、と美希は思う。
 話の辻褄や信憑性はともかくとして、事実を語ろうとするファルの様子に、どこか違和感のようなものを覚えたのが正直な感想だった。

(どことなく、ですけど……ファルさんからは、うそつきの香りが漂っているんですよねぇ)

 ファルの場慣れしたような面持ち、実年齢以上に風格のある物腰、それら外見的印象一つとっても、美希にとっては異質だった。
 ファルの言葉を借りるわけではないが、彼女自身、自分を偽っているような……拠り所を探す『同類』であるような気さえする。
 だとしたら美希に手を差し伸べる理由とて不明瞭になるわけだが、気になることは他にもあった。

(優勝……しても、生きて帰れるわけじゃない、か)

 トーニャがオーファンを退治し終えるのを待つ間、ファルが美希に説いたある可能性。
 この催しは享楽趣味の殺し合いではなく、一方では重大な目的を孕んだ儀式、一方ではストーリー性を重視したエンターテイメントであり、主催各人によって思惑が違うのだという。
 優勝した一人は生きて帰れるという前提で考えていたが、儀式としての側面を読むならまずそれはありえず、十中八九モルモットにされて人生終了だとか。
 この仮説を提唱したのがあのドクター・ウェストだというから、また判断に困るところだった。

(生き残れない……帰れない……っていうんなら、美希の運命は結局、どこに向かうんだろう)

 この島で死んでしまった黒須太一支倉曜子佐倉霧は、どこに逝ったんだろうか……という話を思い出す。
 死の先にたどり着く場所、と考えて万人が思いつくのは、まず天国が地獄のどちらかだろう。
 しかし、美希を含む群青学園の面々は違う。死んでも、戻るだけ。
 固有の存在である美希以外は――あの、繰り返しの一週間に。

 それも、あの一週間の中でだけ適応される法則ではあるが。
 そもそもが初めて、そもそもがイレギュラーなこの殺し合いに対して考察を広げてみても、解は得られない。

 ひょっとしたら、これが初めてというわけではないのじゃなかろうか。
 ひょっとしたら、この殺し合いも繰り返しで、固有の存在となる方法がなにかあるんじゃなかろうか。
 ひょっとしたら、ここにいない桐原先輩やみみ先輩は、なんらかの方法で繰り返しを脱したんじゃなかろうか――と結局、考察してしまう。

 ……考えても霧がない。じゃなくて、キリがない。うん。
 と、美希は考察を打ち切る。そうこうしている内に、ファルが立ち止まった。美希も立ち止まる。

 一階の廊下。左前方の壁に、食堂へと繋がる入り口がある。
 なにやら木の破片のようなものや、鍋蓋、割れた食器などが入り口付近に散乱していた。
 中からは、明かりと一緒に人の声も複数、漏れてくる。
 美希は耳を欹て、会話の内容を聞き取ろうとした。

(……あれ? なんか、やけに声の種類が多いような)

 食堂から漏れてくる声は、聞き及んでいた人数よりも多いような気がした。
 女の子の声が二種、男の子の声が二種、レッドデータアニマルのような鳴き声(?)が一種。
 おかしい。中で待っているのは、トーニャとドクター・ウェストの二人だけではないのだろうか。
 怪訝に思う美希は熟考を重ねる暇もないまま、


「あとは、山辺美希ちゃん。彼女は積極的に殺し回っているわけじゃないけれど、優勝狙いで動いている危険人物だ。
 正体を隠し、他人を盾にして、上手くここまで生き延びている。こんな殺し合い、律儀に順応したって破滅が待つだけなのにね」


 わお、と。
 美希の耳は、とんでもない暴露トークを捉えてしまった。
 もちろん、それは美希の前に立つファルの耳に届いていることも……明白だった。


 ◇ ◇ ◇


 高槻やよいが事態をのみこむには、トーニャとプッチャンと那岐による三人がかりでの懇切丁寧な説明が必要となった。
 概要を一言で言い表すとなると、此度の主催者介入、教会襲撃の真意は――『炎凪の造反』だったらしい。

「つまり、あなたは神崎黎人に無理やりパシられていた式神で……その正体は星詠みの舞の管理者であると。
 姉はかの有名な卑弥呼で、この殺し合いは弥生時代から続く神聖な儀式で、決して失敗してはならないと。
 しかし今回は若干イレギュラーな要素が盛り込まれており、ナイアなんて存在がいるために失敗必至だと。
 こうなったら裏切るっきゃない、そのためにはまず自由だ、やよいさんの持っていた短剣が成功の鍵だと。
 炎凪は晴れて炎の言霊を滅却し、卑弥呼の弟たる那岐として、久方ぶりに顕現を果たしたってわけですか。
 えー、正直言いまして意味不明です。信憑性皆無です。まったくもって苦しい。一から説明し直しなさい」

 問答無用で苦言を呈するトーニャの横で、やよいも苦笑を浮かべる。
 トーニャも、オーファンと戦闘を繰り広げる内に『凪が本気ではない』というのは察していたらしいが、さすがにその目的までは掴みきれていない様子だった。

「そりゃそうだよ。長い話になるからね……星詠みの舞とはなにか、という点から腰を据えて話さなきゃならない」
「その情報に嘘が含まれているとも限りませんがね。私としては、手っ取り早く有益な情報を提示していただきたいものです。他の主催者たちを裏切った、という確たる証明を」

 ちなみに、オーファンとの戦闘でハッスルしすぎたドクター・ウェストは、自分で転んで自分で頭を打った挙句、勝手に気絶してしまったらしい。
 プッチャンダイナミックによって崩壊した食堂の中、ウェストの身は適当な瓦礫の上に寝かされていた。目覚めはまだ先のようである。

「証明って、たとえばなにさ? 裏事情ならとことん暴露しちゃうけど?」

 やよいとプッチャン、ダンセイニ、トーニャの四人に詰問される形となったのは、先ほど那岐と名乗った少年だった。
 一同が瓦礫を椅子代わりとする中、彼だけは体をキキーモラで拘束され、自由を奪われていた。
 それも仕方がない。この那岐という少年、やよいやプッチャンに襲い掛かったあの炎凪と、同一人物であるというのだから。

「そうですねえ。とりあえず現時点で殺し合いに意欲的な生存者の名前から吐いてもらいましょうか」

 凪、いや那岐に敵意は初めからなかったらしく、言ってしまえば今回の一件は全て、那岐の仕組んだ茶番のようなものだったのである。
 全ては那岐としての体を取り戻し、自由を得るため――そのためには、やよいの持つルールブレイカーがどうしても必要だったのだとか。
 しかし那岐は身は神崎黎人によって常に監視されているらしく、参加者との接触も迂闊には行えないらしい。
 だからこそ、こういったシナリオを組み、なるべく自然な形で、自身にルールブレイカーを向けさせることを望んだのだという。

「今はそうだね……来ヶ谷唯湖ちゃんと、ユメイ……いや、羽藤柚明ちゃん。この二人が目下の危険人物かな」

 トーニャに従い、問われた内容に該当する者の名を口にする那岐。
 来ヶ谷唯湖、というのは直枝理樹井ノ原真人の話にもあったリトルバスターズの一員だ。
 ユメイ、というのはドクター・ウェストが出会った千羽烏月の知り合いだ。羽藤柚明とはフルネームだろうか。

「直前まで意欲的だった、っていうんなら深優ちゃんと玲二くんもかな。でもあの二人は、僕がここに来る直前で反抗表明を示した。
 今頃は立場を変えて、僕の元マスターである神崎黎人を殺す算段でも考えていると思う。他のみんなと一緒にね」

 玲二、というのはツヴァイのコードネームを持つ暗殺者であり、ゲーム序盤にやよいを襲った人物だ。
 あのとき味わった恐怖を思い出せば今でも身が凍るような寒気を覚えるが、立場を変えたと聞いてやよいは少し安堵する。

「あとは、山辺美希ちゃん。彼女は積極的に殺し回っているわけじゃないけれど、優勝狙いで動いている危険人物だ。
 正体を隠し、他人を盾にして、上手くここまで生き延びている。こんな殺し合い、律儀に順応したって破滅が待つだけなのにね」

 嘲るように言ってみせた那岐に反感を抱いたのか、トーニャはキキーモラの締めつけを強くした。那岐が苦しそうに喘ぐ。

「ほ、他のみんなは心配ないよ。桂ちゃんもアルちゃんも碧ちゃんも、クリスくんや九郎くんになつきちゃん、千華留ちゃんだって信頼に足る」

 那岐は次々に生存者の名を口にしていき、とりあえずゲームの情勢を知悉していることを実証する。
 しかし、それならば――と、やよいは喉の奥からこみ上げてきた衝動に抗い切れず、

「あの、それじゃあ……」

 訥々と口を開き、途中一拍の間を置くが、続けて喋り通す。

「……千早さんや真さんが、この島でどんな風に生きて、どんな風に死んじゃったのかも……知ってるん、ですよね?」

 知るべきは、教えてもらうべき情報は、それではないとわかってもいた。
 衝動的に、思わず尋ねてしまっただけにすぎない。
 やよいはすぐさま質問を撤回しようとしたが、

「ああ、知ってる」

 縛りつけにされている那岐は顔だけを深刻な色に染め、語る。

「やよいちゃん。君さえ望むなら、監視映像を通して見た一部始終を、そのまま伝えてあげてもいい。
 生き様はもちろん、その死に様、最期の言葉まで。それは君にとって、ちょっぴり辛いことかもしれないけれど」

 嘘を混ぜようなどという気配は、とても感じられなかった。
 躊躇するやよいをそのままに、那岐はプッチャンやトーニャにも言葉を放る。

「なんなら、蘭堂りのちゃんや如月双七くんのことだって教えてあげることができるんだよ?
 それが信頼を勝ち取ることに繋がるっていうんなら、僕はなんだって教えてあげる。選ぶのは君たちだ」

 那岐は、神埼黎人を裏切ろうとしている。
 それも全ては、星詠みの舞を無事完遂させるため――その星詠みの舞というのも、まだ詳しいを説明を受けてはいない。
 ここで親しき友人たちが辿った人生を知ることは、後の足枷にすらなってしまうのではないだろうか。
 とはいえ、一度湧いてしまった疑問は頭に靄を作り、簡単には消えてくれない。
 誰もが悩み、すぐには答えを出せずにいた。

「彼の封印を解いたのはやよいさんです。私はあなたに委ねます」
「右に同じく。やよい、おまえが決めな」

 トーニャとプッチャンは、選択権をやよいに譲った。
 回答を求められるやよいの表情は、小刻みに震えていた。

「さあ、どうする?

 知るべきか、知らざるべきか。
 選択肢は、二択。

 高槻やよいの選択は――。


 ◇ ◇ ◇


            【THE GAMEM@STER SP】


      It is possible to meet again in the glittering stage.


           next → 【The Perfect Sun





【B-1 教会裏の寄宿舎・爆発した食堂内/二日目 午前】

【アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ@あやかしびと-幻妖異聞録-】
【装備】:ゲイボルク(異臭付き)@Fate/staynight[RealtaNua]
【所持品】:支給品一式×2、不明支給品0~2、スペツナズナイフの刃、智天使薬(濃)@あやかしびと-幻妖異聞録-、
      レトルト食品×11、スラッグ弾30、予備の水×2、SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと-幻妖異聞録-、
      大山祈の愛読書@つよきす -Mighty Heart-、餡かけ炒飯(レトルトパック)×3、制服(破れかけ) 、
      銅像、弥勒@舞-HiME 運命の系統樹、 首輪(井ノ原真人)、超高性能イヤホン型ネゴシエイター養成機@極上生徒会
【状態】:疲労(弱)
【思考・行動】
 基本方針:打倒主催。ダンセイニと共に仲間のお守りを引き受ける。
 1:那岐から情報入手。手段は問わない。
 2:やよいやファルと〝いっしょ〟に、懺悔室の奥に踏み込む時を待つ。
 3:他の参加者たちもこの地に導きたい。が、教会から離れることはしない。
 4:殺し合いの意志を持つ者が潰えれば、おそらく扉は開かれる。
 5:すずは後でぶちのめして話をする。
 6:首輪の情報を吟味する。
 8:クリスを警戒。ツヴァイも念のため警戒。
【備考】
 ※制限によりトーニャの能力『キキーモラ』は10m程度までしか伸ばせません。先端の金属錘は鉛製です。
 ※トーニャの参戦時期は、トーニャルートの時間切れの少し前です。
【トーニャの仮説】
 ※八咫烏のような大妖怪に匹敵する者(古書店の店主)が神父達の裏に居ると睨んでいます。
 ※地図に明記された各施設は、なにかしらの意味を持っている。
 ※禁止エリアには何か隠されているかもしれない。
 ※主催者たちは複数存在し、それぞれが対等な立場にあり、各々異なる目的を持っている。
 ※古書店の店主は〝ゲームマスター〟であり、誰の味方でも敵でもなく、全体の調整役を務めている。


【高槻やよい@THEIDOLM@STER】
【装備】:プッチャン(右手)、シスターの制服
【所持品】:支給品一式(食料なし)、弾丸全種セット(100発入り、37mmスタンダード弾のみ95発)、
      かんじドリル、ナコト写本@機神咆哮デモンベイン、木彫りのヒトデ10/64、
      エクスカリバーMk2マルチショット・ライオットガン(4/5)@現実
【状態】:元気、疲労(弱)
【思考・行動】
 0:私は――。
 1:ファルやトーニャと〝いっしょ〟に、懺悔室の奥に踏み込む時を待つ。
 2:今後に関してはトーニャの意に同調。
 3:真と合流したい。
 4:古書店の店主をどうにかして味方に引きずり込む。
 5:暇ができたら漢字ドリルをやる。
【備考】
 ※博物館に展示されていた情報をうろ覚えながら覚えています。
 ※死者蘇生と平行世界について知りました。
 ※教会の地下を発見。とある古書店に訪れました。
 ※古書店の店主は黒幕、だけどそんなに悪い人じゃないと睨んでいます。

【プッチャン@極上生徒会】
【装備】:ルールブレイカー@Fate/staynight[RealtaNua]
【状態】:元気
【思考・行動】
 基本:りのの想いを受け継いで――みんなに極上な日々を。
 1:やよいと一緒に行動。
 2:古書店の店主をどうにかして味方に引きずり込む。


【ドクター・ウェスト@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:なし
【所持品】支給品一式 、首輪(岡崎朋也)、九鬼の置き手紙、スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』の鍵
【状態】:気絶、疲労(大)、左脇腹に二つの銃創(処置済み)
【思考・行動】
基本方針:我輩の科学力は宇宙一ィィィィーーーーッ!!!!
0:我輩、今回出番が少ないような気がするのである。もっと出番プリィィィズッ!
1:エルザを取り戻す。
2:トーニャの仮説に同調するべきか否か、今一度考える。
3:首輪はやはり外しておくべきであろうか? むむむ……。
4:知人(大十字九郎)やクリスたちと合流したい。
5:ついでに計算とやらも探す。
6:霊力に興味。
【備考】
※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています(エルザの姿を見たことで深まっています)。
※フォルテールはある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。
※杏とトーニャと真人と情報交換しました。参加者は異なる世界から連れてこられたと確信しました。
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚を見ていると判断。今のところ危険性はないと見てます。
※りのの伝心を聞き逃しました。第四回放送についてはトーニャから又聞きしました。

【ダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:なし
【状態】:普通
【思考・行動】
 0:てけり・り(筋肉スーツ壊れちゃった……)
 1:皆のリーダー役であろうという使命感に満ちています。
【備考】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。


【那岐@舞-HiME運命の系統樹】
【思考・行動】
 基本:星詠みの舞の完遂。媛星の回避。
 1:此度の星詠みの舞を破壊し、元の世界でオリジナルの星詠みの舞をやり直す。
 2:やよいたちに情報を提供。共に神崎やナイアへ反抗する。


 ◇ ◇ ◇


237:THE GAMEM@STER SP(Ⅱ) 投下順 237:THE GAMEM@STER SP(Ⅳ)
時系列順
那岐
高槻やよい
アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ
ドクター・ウェスト
ファルシータ・フォーセット
山辺美希
クリス・ヴェルティン
玖我なつき
大十字九郎
羽藤柚明
羽藤桂
アル・アジフ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー
急上昇Wikiランキング

急上昇中のWikiランキングです。今注目を集めている話題をチェックしてみよう!