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児次郎吹雪

最終更新:2019年12月15日 20:28

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児次郎吹雪
山本周五郎


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)椙山児次郎《すぎやまこじろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山|重兵衛《じゅうべえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定]
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1-8-78]


[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

「今年は雪が遅いなあ」
 椙山児次郎《すぎやまこじろう》は国境に見える伯耆の山々を見やりながら呟いた。
「――ねえ、児次郎さま」
 慎ましく一緒に歩いていたお冬《ふゆ》は、さも胸に包みかねたことでもあるように、
「わたくし今まで一度も伺わずにいましたけれど、松太郎《まつたろう》さまと貴方とは本当の御兄弟なのでしょうか」
「どうしてそんなことを訊くんです」
「なぜって……」
 お冬は遠慮勝ちに言った。「この夏のことですけれど、貴方の小父さまが家へおみえになって、わたくしの父と秘かに話しておいでのことを隣の部屋でちらと耳にしましたの。その時小父さまは、――これが児次郎の身分を証す大切な品です、と仰しゃって、何かわたくしの父へお見せになっていたようでしたわ」
「それは何か別の話のことでしょう」
 児次郎は美しい前髪立の頭を振った。「父は元松江藩で徒士頭を勤めたことがあるそうですから、家柄のことでも話していたに違いありません」
 椙山|重兵衛《じゅうべえ》が、松太郎、児次郎の二子と共に、この瀬村郷へ住むようになってから十余年、父子三人むつまじい暮しにいささかの曇もなく育ってきた。弟の児次郎は十七歳、絵に描いたような美少年であるのに、一つ年上の松太郎は、高頬に痣があって気性もやや粗暴に近かったが、兄弟仲のよさはひとも羨むくらいであった。――お冬は隣邸に住む郷士、並木藤右衛門《なみきとうえもん》の娘で、特に児次郎とは幼い頃から、兄妹も及ばぬ仲の良い相手だった。
「陽が傾きはじめた、早く帰ろう」
「本当に……風の寒いこと」
 伴れだって道を急ごうとした時である。左手に続いている松林の中から、
「そこへ行く少年待て、――」
 と声をかけて、見馴れぬ武士が七、八名、ばらばらと現れるなり二人の行手に立塞がった。突然のことで児次郎は驚きながらもお冬を背に庇いながら、
「貴公らは何だ」
 と油断なく身構えた。
「椙山児次郎というはそともとか」
 先頭にいた五十歳余の武士が訊いた。
「児次郎は拙者だが……」
「少し談合したいことがある。そこまで我々と一緒に来てもらいたい」
「貴公らは何者だ、何の用があるのか」
「ここでは何も申す訳にゆかぬのだ。おとなしく一緒に参れば分かる」
「もし厭だと云ったら、――?」
 児次郎の言葉が終らぬうち、前に並んだ三、四人がぎらりと大剣を抜いた。脅しだけではない、厭だと云ったらその場を去らせず斬って捨てようと、いずれも偽りならぬ殺気を見せている、――児次郎は一歩ひらいて、
「こ奴ら、乱暴するか」
 と刀の柄へ手を掛けた。慄えながら見ていたお冬は、びっくりして、
「いけません、いけません児次郎さま」
 と夢中で縋りついた。「相手は大勢、幾ら貴方がお強くても怪我なしには済みませぬ。ここは黙ってあちらがたの言うようになさいませ。お冬がお願いいたします」
「と云って訳も分からぬのに……」
「御一緒にいらっしゃれば訳は話すと仰しゃっていられますもの。また――わたくしはすぐにお家へ帰って、このことを小父さまへお知らせ申します」
 児次郎の身に怪我をさせまいと、必死に縋りつくお冬のいじらしい眼を、じっと見た児次郎は――やがて頷いて云った。
「貴女に心配させるのは心苦しい。では何もいたさずこの者たちと一緒に行ってみよう」
「そう遊ばせ。お冬はすぐお家へ、――」
「いや待ってください」
 児次郎は微笑して、「知らせては父や兄に心配をかけるばかり、もし夜になっても帰らなかったら、その時こそ仔細をお話しください」
「でももし……」
「いや気遣い無用、児次郎にもいささか心得はあります」
 にっこと笑う大胆な顔を、お冬は顫えるような眼でじっと見つめるのだった。
「決心がついたら参るぞ」
 武士たちの一人が促した。
「心得た、――ではお冬どの」
「児次郎さま、御無事で」
 悲しげなお冬の声を背に、児次郎は武士たちに取巻かれて歩きだした。

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

 その武士たちが何者で、何の為に自分を伴れてゆくのか、児次郎にはまるで謎のようだった。しかしそんな大事件に発展しようとは考えられず、すぐそこらまで行けば済むことだろうと軽く思っていた、――ところが事実は意外な方へ展開したのである。
 瀬村郷を出ると、武士たちはかねて手配のしてあったらしい駕籠へ児次郎を乗せて、街道を西へ西へと進みはじめた。
「どこまで行くのか」
 呶鳴っても返事がない。外へ出ようとすると駕籠の戸は固く閉ざされている。叩いても押してもうごかぬ厳重な警護だった。
「よし、どうなるか行く処まで行ってみろ」
 児次郎は胆を据えた。
 乗物はその夜を徹して西行、護衛の武士たちも不眠不休で、明くる日も終日旅を続け、やがて日暮近く、――どことも知れぬ大きな邸の中へ下された。
 着くとすぐ武士の一人は、児次郎を邸の内へ案内して、奥まった部屋へ導き、
「静かにしておれ。そこもとの為に決して悪いことではない。しかし騒ぐと容赦なく斬捨てるぞ」
 そう言って去った。
 まるで狐につままれたような気持である。ここはどこか、誰の邸か、これからどうなるのか、思えば不思議の連続である、――しかしまた一方には、早くこの秘密の謎を解いてみたいという欲望もあったから、大剣を膝許へ引付けたまま、油断なく児次郎は待っていた。
 間もなく侍女らしいのが食事を運んできた。それが済むと後はまた独り、およそ一刻(二時間)あまり待つ、――とやがて、五十歳ばかりの老武士が入ってきた。
「椙山児次郎だな――?」
 むずと坐りながら云う、眼の鋭い、眉の太い一癖あり気な老人だ。
「さよう――」
「いい面魂じゃ」
 老人は児次郎のいささかも臆せぬ態度を見て、にやりと笑いながら言った。
「人品も良し、度胸もあるようだ、――それなら十五万石の世継として立派に通るであろう」
「え?――何と言われる!」
 児次郎は解せぬ顔で相手を見た。
「驚くことはない、その方は松江十五万石|松平出雲守《まつだいらいずものかみ》のお世継じゃ。嘘でない証拠はこれにある、検めて見ろ」
 そう云って、持ってきた袱紗包の中から取出したのは、黄金造の短刀、三葉葵の高蒔絵を散らした印籠、それに一枚の墨付である。
「読んでみい」
 云われて、その墨付を披いてみると、
[#ここから1字下げ]
    一札覚の事
松太郎こと余の世子に相違なく、時節到るまで椙山重兵衛へ預け遣わす証拠のため、印籠及び短刀に添えて一札如件。
[#地から1字上げ]松平信太郎《まつだいらしんたろう》
[#ここで字下げ終わり]
「や、これは――兄上の御身分……?」
 児次郎は仰天した。今日まで夢にも知らなかった兄松太郎は、なんと松江十五万石、松平出雲守の御曹司であったのだ。――呆れて茫然といすくむ児次郎のさまを、冷やかに見やりながら、
「如何にも、真はその方の兄じゃ」
 と老人が云った。「しかし我々がお世継に護立てるのはその方なのだ。今宵ただ今から児次郎改め松太郎となるのだ、――分かるか」
「分からぬ!」
 児次郎は強く頭を振った。「松太郎という真のお世継があるのに、拙者がお世継を名乗るとは恐しい罪を犯すことになるではないか」
「今更なんと申しても無駄なことじゃ。膳拵えはすっかりできている。黙ってわしの云う通りにしていれば十五万石の領主になれるし、もしまた不服なら不服でよい、――証拠の品を盗み出し、お世継を僭称した悪徒として目付役へ引渡すばかりだ。すれば大逆の罪科で逆さ磔刑になるは必定だぞ」
「しかし拙者の知らぬことではないか」
「そんなことを目付役が信ずると思うかよ」
 児次郎ははじめて、抜差ならぬ恐しい罠にかかったことを知った。――気は勝っていてもまだ十七歳の少年である。ことの重大さにとっさの思案もなく、色を失った児次郎を、老人はじろりと見やって云った。
「どうじゃ、不承知か――?」
「さあ……」
「覚悟を決めろ。その方はただ黙ってわしの云う通りになっていればよい。すれば万に一つの間違いもなく、十五万石の領主になれるのだ」
「…………」
「わしは松江藩の国家老、新宮甚右衛門《あらみやじんえもん》と申す者じゃ。横目付|倉田宗九郎《くらたそうくろう》、勘定奉行|林右近《はやしうこん》、物頭|畠島忠左衛門《はたしまちゅうざえもん》、同じく和田六郎兵衛《わだろくろべえ》、みなわしの腹心じゃ。――よく考えて返事をせい、二、三日のあいだ待ってやる」
 そう云って甚右衛門は立去った。

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

 どうしようもなかった。
 横目付はじめ多くの一味がある以上、厭だと云って済むことではない。むしろここは甚右衛門の言葉に従って、しばらく時期を待つ方がよいかも知れぬ、――そう思ったから、ともかくも児次郎は承知したように装っていた。
 それにしても不審なのは、証拠の品々がどうして甚右衛門の手にあるかということだ。本来なれば当然父の手許になくてならぬ品である、それを甚右衛門が持っているというのはおかしい。
「いったいどうしたのだろう?」
 児次郎には見当がつかなかった。
 こうして二十日余たった。ある日のことである。児次郎が庭を歩いていると、横手の生垣の陰から、
「――児次郎さま」
 と呼ぶ声がした。驚いて振返るとたんに、――ぽんと足下へ小さな物が飛んできた。拾ってみると紙片を丸めたものである。
「誰だ――」
 と声をかけたが、既に生垣の向こうには人の姿は見えなかった。児次郎があたりを見廻しながら、素早く紙片を披いてみると、
[#ここから2字下げ]
今宵亥の刻、ここへおいでくださいませ、大事のお知らせを持って参りました。必ず必ずお忘れなく――
[#地から1字上げ]お冬
[#ここで字下げ終わり]
「あっ、お冬どの」
 児次郎は思わず叫んだが、すぐ口を噤んで紙片を裂き捨て、そっと部屋へ戻って夜になるのを待った。
 朝から曇っていた空が、夕方からとうとう雪になった。さらさらと降る粉雪の音を聞きながら、時のたつのを待兼ねている、――やがて亥の刻となった。そっと部屋を忍び出た児次郎が、昼の場所へ行ってみると、
「児次郎さま、ここでございます」
 と生垣の陰からお冬が手招きをした。
「おお、お冬どの」
「児次郎さま、よう御無事で」
 お冬はひしと児次郎の手を握り寄せると、乙女心の懐かしさに堪らず、
「会いとうございました」
 と咽びながら縋りついた。
「拙者も会いたかった。だが――よくここにいることが分かったな」
「はい。これには深い仔細がございます」
 お冬は気を取直して、「何よりも先に申し上げなければなりませんが、貴方のお父上さまと松太郎さま、――お二人ともあの日に、非業の御最期をお遂げなされました」
「え※[#感嘆符疑問符、1-8-78] そ、それはまことか」
 仰反《のけぞ》るばかりに驚く児次郎へ、お冬は更に更に意外な事実を伝えたのである、――その始終を簡単に記すとこうだ。
 松江城主、松平信太郎義綱がまだ部屋住の頃、おもよ[#「もよ」に傍点]という側女があって一子松太郎を産んだ。しかしそれから間もなく、義綱へ徳川家から千代姫《ちよひめ》というのが興入することになったので、幕府に憚るため松太郎を椙山重兵衛に預けた。――重兵衛は主君の世子を預かったので、城下にいてはなにかと面倒に思ったから、瀬村郷へ隠退して養育に専念努めていたのである。
 その頃、松江藩の国家老は河口壱岐《かわぐちいき》と、新宮甚石衛門の二人であったが、元来新宮甚右衛門は腹黒い男で、藩の勢力を自分の手に握るべく、絶えず機会の来るのを待っていた。――折も折、輿入してきた千代姫は千代松君《ちよまつぎみ》という一子を産んで間もなく死去、その千代松君も多病で、無事に松江藩の世継に成れるかどうか分からぬという有様である。
「よし、この機会に」
 と甚右衛門一味は起った。
 彼等はまず椙山重兵衛の住居を捜して、無法にも重兵衛と松太郎を斬り、義綱から与えられた証拠の品を盗んだうえ、児次郎を掠って松江へ引揚げたのである。――彼等がなぜ松太郎を斬って児次郎の偽の世継にしたかというと、本当のお世継では自分たちの思うままにならない、しかし偽者なら否でも応でも自分の言う通りにすることができる。つまり自分の手で偽者を領主にして松江藩の権力を握ろうという魂胆なのであった。
「児次郎さま、――」
 お冬は言葉を継いで云った。「そういう訳で甚右衛門の一味は、松太郎さま迄斬ったのです、――けれど、けれど……」
「どうしたのです」
「甚右衛門たちは騙されました」
「なに、騙されたとは?」
「斬られて死んだ松太郎さまは、――実は児次郎と仰しゃるのです。御領主さまのお血筋、松平家の本当の御嫡男松太郎さまは……貴方さまなのです」
 児次郎はおのれの耳を疑った。
「そんな、そんな馬鹿なことが――」
「いいえ本当でござります」
 お冬は遮って云った。「それをお知らせ申すためにはるばる参ったのでござります。お聞きくださいませ」

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

「いつか重兵衛さまが家へ見えて、貴方さまの御身分を証す品はこれだと――わたくしの父に語っていたこと、お話し申しましたでしょう?」
「うん、たしかあの日に聞いた」
「父はその時、重兵衛さまからその品をお預かり申したのです――御覧くださいませ」
 お冬が大切に持っていた包を、開いてみると一通の書類が出た。謎の筐をあける最後の鍵だ。児次郎は「厳秘」とある上書の封を披いて、雪明にすかしながら読んだ。
 それには、国家老たちの勢力争いを知った重兵衛が、万一松太郎君をその道具に使われてはならぬと案じ、自分の子児次郎と松太郎君と名を取換えて育てた、という事実が細々と認めてあった。
「ああ知らなかった」
 児次郎……否、松平松太郎は呻くように叫んだ。
「今日まで実の兄と思っていたのに、それでは生さぬ仲であったのか、しかも――拙者の為に身代り同様の最期を遂げられたのだ、……兄上、この敵は必ず討ちまするぞ」
「――若さま」
「お冬どの」
 児次郎はお冬の手を握って、「貴女は瀬村へ帰ってはいけない。いまどこにいる?」
「城下の信濃屋という宿におります」
「拙者から知らせのあるまでそこにいるのだ。どんなことがあっても動いてはならぬ。分かりましたか」
「はい――」
「では今宵はこれで別れる。雪まみれだ――冷えぬように帰るがよい」
 そう云うと、児次郎はお冬を見送ってから、自分の部屋へ戻った。
 今こそ児次郎は奮起した。甚右衛門一味の悪計は根こそぎ判明した。――今日まで四方を取巻いていた密雲は裂け、なすべき途がはっきりと現れたのだ。
「今までの児次郎とは違うぞ。この体には松江十五万石、松平出雲守の血が流れているのだ、――甚右衛門はじめ一味の奴等、一人も逃さぬからそう思え!」
 児次郎は戞《かつ》と大剣の柄を叩いた。
 その夜から数えて三日めの夜。――新宮甚右衛門の邸には、横目付倉田宗九郎、勘定奉行林右近、物頭和田六郎兵衛、同じく畠島忠左衛門、御側用人|鈴木伝造《すずきでんぞう》の五名が集っていた。いずれも悪事加担の一味である。――彼等にとってはこれが最後の密議で、奥のひと間に一刻あまりも謀議を凝らした。
「これで手筈は整った。そこでいよいよ千代松君を毒殺する段取じゃが、――これは我々の死命に関わる大事、迂濶な者には任されぬが――」
「拙者がお引受け申そう」
 御側用人鈴木伝造が乗出した。「拙者なら奥への手掛りもあるし、月が変れば御出府ゆえ、江戸邸へお供を申して早速仕る」
「御一同に異存はないのか」
「適任と存じます。鈴木氏にお願い申すがよろしゅうござりましょう」
 児次郎を世継に直す為、千代松君を毒殺しようとする悪計である、――それから尚、細々と打合せを交わした後、酒宴になって、五名の者が甚右衛門邸を辞したのは子の刻(夜の十二時)に近い頃だった。
「さらば、――」
 と別れを告げて出ると、外は息もつけぬような吹雪であった。
「おおよく降りおるのう」
「この分では朝までに三尺は積るぞ」
「酔の醒めぬうちに帰らぬと、この寒さで凍え死ぬかも知れぬ」
「天下を取らぬうちに死んで堪るか」
 冗談口をききながら、柳小路の方へ、――雪に足駄を取られまいと、拾い拾い戻っていった。と――大手道へ曲る角の処まで来たときである。
「おや、何だあれは……」
 と言って、先頭にいた鈴木伝造が立ちどまった。
「どうした鈴木氏」
「……あそこに何か立っている――」
 言われて見ると、降りしきる吹雪の中に、ぼんやりと人の姿が見えている、――犬の声もせぬ深夜の巷に、亡霊の如く立っている人影、
「雪女郎かも知れぬ」
 五名はぞっと立ちすくんだ。
 人影は朧に霞んだまま、吹雪の中を静かに、静かに近寄ってきた。そして立ちすくんでいる五名の前まで来ると、――うなだれている首をそーっとあげた。それは十六、七の少年であった。白い着物の肩から胸へぐっしょり血が滴れている死人のように蒼ざめた顔には、ありありと痣が見える。
「きゃーっ」
 和田六郎兵衛が悲鳴をあげた。
「幽霊だ、松太郎の幽霊だ、――赦してくれ。拙者は甚右衛門に頼まれて斬ったのだ。怨むなら甚右衛門を怨んでくれ……」
 六郎兵衛は狂ったように喚きたてた。――亡霊のような少年は、すさまじい冷笑をうかべながら、静かに静かに近寄ってきた。

[#8字下げ]五[#「五」は中見出し]

 割れるように門を叩く音がした。
 居間を出て、寝所へ入ろうとしていた新宮甚右衛門は、その音を聞きつけると、唯事ならずと思ったから大剣をとって自ら玄関へ出た。
「誰じゃ、――」
「六、六郎兵衛でござる。お明けください。早く。早くーっ」
 うわずった声が喚きたてる。――甚右衛門は早くも凍りついた潜戸の掛金を外して、
「更けている、騒がしいぞ」
「た、大変でござる」
 六郎兵衛は声もしどろに、「いま大手道の角で、松、松太郎の幽霊に遭いました」
「松太郎の幽霊――?」
「瀬村郷で斬った松太郎でござる。肩から胸へ血まみれになり、高頬に痣のある顔で、怨めしそうに拙者を……ああ恐しい」
「落着かぬか六郎兵衛」
 甚右衛門は大きく叱りつけた。「日頃の貴公にも似合わぬ。幽霊とは何事だ」
「嘘ではない。この目で見たのです。拙者ばかりでなく倉田氏はじめみんな見たのです」
「して他の者はどうした」
 言われて気づくと、誰もいない。
「――さあ」
「四人とも一緒ではなかったのか」
「拙者は夢中で駈戻ったゆえ、四名も一緒だと思いましたが」
 甚右衛門はぎょっとした。何か起った――と感じたのである。素早く袴の股立を取ると、慄えている。六郎兵衛に、
「気がかりだ、そこへ案内しろ」
 と言って走りだした。――恐しさに足のすくんでいる六郎兵衛を、促し促し大手道の角まで来ると、
「――や、や!」
 と言って甚右衛門は立ちどまった。
 見よ、霏々《ひひ》と降る吹雪を浴びて、倉田宗九郎はじめ四名の者が、あたりの雪を紅に染めて斃れている。――見るより六郎兵衛は、
「あっ、やられた、松太郎の怨霊だ。幽霊の崇だ、――ああ赦してくれっ」
 と絶叫しながら雪の中に崩折れてしまった。
 甚右衛門は、血で足を汚さぬように注意しながら、斃れている者を一人一人検めたが、いずれも一刀ずつ見事に急所を斬られている、――そして林右近の屍の上に一枚の紙が刺止めてあった。
「何であろう――?」
 取上げて見ると、墨痕鮮やかに、「斬奸 椙山松太郎」と記してあった。
「はてな、椙山松太郎、――まさか死んだ者が人を斬る筈はあるまい、幽霊と見せて実は……」
 じっと何か考えていたが、
「そうか、ことによると河口壱岐めが、秘密を知っての仕業かも知れぬ。とすると何とか早く策を建てなければならぬぞ」
 頷いた甚右衛門は、「六郎兵衛、これは幽霊などではない。もしやすると大事が露顕したかも知れぬ、――参ろう」
「大事露顕とは……?」
「疑わしいのは児次郎だが、彼は松太郎の死を知る筈がない。とすれば河口壱岐めが我々の企てを探り出したと思うよりほかにないではないか、――一味四名を失った以上、一時も早く応急の手段をとらねばならぬ、来い」
 まだ幽霊と信じている六郎兵衛を、引摺るようにして甚右衛門は邸へ帰った。
 荒れ狂う吹雪に、――幸い邸では誰一人起出でた者もない、屋内は寂として物音もなく寝鎮っている。甚右衛門は足を清め、慄えている六郎兵衛を励ましながら、居間へ入って燈をつけた。
「落着かぬか、いつまで慄えているのだ」
「……御家老は、御存じないのです。あの恐しい顔を――血みどろの顔をひと目見れば、とても……誰だって――」
「戯言《たわごと》は止めろ、もう沢山だ」
 甚右衛門は不機嫌に呶鳴った。――その時、どどどどと吹雪が雨戸を揺すった、行燈の灯が無気味にまたたいて、暗い部屋の壁に映っている二人の影がゆらゆらと物の怪のように動いた。
「――御、御家老……」
 六郎兵衛が襲われたようにすり寄って、「戯言などと仰せられるが、もしあの顔を御覧になったら、拙者の恐れる訳がお分かりになりましょうぞ」
「馬鹿なことを、――この甚右衛門は……」
 と言いかけたまま、石のように甚右衛門は動けなくなった。
 燈の届かぬ部屋の隅、壁と襖のあいにある薄闇の中に、朦朧と人の姿が現れてくるのだ。――白衣の肩から胸まで血にまみれ、紙のように蒼白い顔の、高頬に無気味な痣が、――そしてにったりと笑う氷のような唇。
「――おのれ、迷ったか」
 喚くなり大剣をとって、抜討に、だ! と斬りつけた。

[#8字下げ]六[#「六」は中見出し]

 甚右衛門の喚き声に、はじめて気づいた六郎兵衛が、それと見るなり夢中で部屋の外へ逃れようとする、――刹那!
「六郎兵衛、やらぬぞ――」
 と妖しく叫んで、亡霊のような少年が、大きく跳躍したかと思うと、六郎兵衛は背を強《したた》かに斬下げられて、
「わあーっ」
 悲鳴と共に、がらがらと襖もろ共のめり倒れた。甚右衛門は狂気の如く、
「誰だ、名乗れ、――わしの秘密をあばき、同志の者を斬った貴様は何者だ、顔を見せろ!」
 と嗄れた声で叫びたてた。
「騒ぐな甚右衛門」
 怪しい少年は冷やかに言った。「松太郎君を斬って偽者を守立てようとした、貴様の悪計はすっかり露顕したぞ、――今こそ教えてやる。貴様は大事なところで間違ったのだ。貴様が六郎兵衛に命じて斬らせたのは松太郎ではなかったのだ」
「な、何じゃと……?」
「本当の松太郎、松江十五万石の世継松平松太郎はここにいるぞ」
 そう言って白衣を脱ぎ、高頬をこすると、痣と見せた貼物がつるりと落ちて、あとには紛うかたなき児次郎の姿が現れた。
「ややっ、その方は児次郎」
「如何にも、仮に児次郎と名乗っているが、実はとんなこともあろうかと案じて、重兵衛が計らってくれた換名なのだ、――甚右衛門、予が松太郎じゃ、頭が高いぞっ」
 ぐわんと叫んだ一言、十五万石の世継に備わる自然の威光に、思わず甚右衛門が大剣を取落して坐る――刹那!
「この賊臣め※[#感嘆符二つ、1-8-75]」と踏込みざま斬った。
 腕も冴えている、刀も良い、――ひと堪りもなく前へ、突伏すように倒れる甚右衛門を、足下に見おろした児次郎は、「お父上、兄上……」と涙にしめる声で呟いた。「これで仇は残りなく討ちました、どうぞ御無念をお晴しください。松平家も万々代でござります」
 外は泣くような吹雪である。
 明くる朝、松江の城下は、覆るような騒ぎであった。何しろ大手の辻に藩の上士が四名、何者かに斬られていたし、国家老新宮甚右衛門の邸でも、主人甚右衛門と物頭和田六郎兵衛の二人が死んでいたのだ。前代未聞の出来事に、噂は噂を生んで、沸きかえるような騒動になった。
 城下の人々がなすところも知らず右往左往している頃、松江を東へ五里あまり行った伯耆路を、楽しそうに歩いている二人の旅人があった。
「二十日あまりのあいだに、随分いろいろのことがありましたのねぇ――」
 笠を傾けて振返ったのはお冬である。側にひき添って護るように歩いているのは、言うまでもなく児次郎であった。
「全く思いがけぬことばかりだった。しかしこれですっかり片がついた、――仔細のことは書き記して、河口壱岐の許へ送ったから、もし江戸に一味の残類がいるとしても捕らえるのに造作はあるまい」
「そして、――若さまは……」
「若さまではない」
 児次郎はお冬の言葉を遮って言った。「松平家には千代松という立派なお世継がいる。拙者は元の椙山児次郎にかえるのだ」
「けれど証拠の品がございましょう――?」
「焼捨てたよ」
「ええ?」
「もはや有って要なき品、再びかようなことの起らぬよう、焼捨ててきたのだ」
「それでは、瀬村へお戻り遊ばしますの?」
「うむ」
 児次郎は大きく頷きながら、疲れたお冬を労るように手をとって言った。
「瀬村へ帰って椙山児次郎、一生を山家の郷士として、亡き兄や父上の冥福を祈って送るつもりだ」
「――まあ」
 お冬の顔には、包みきれぬ悦びと心強さが、曙の光のように溢れてきた。
「お冬どの見られい、晴れて参ったぞ」
 児次郎の仰ぐ空、すり寄って見上げるお冬の目に、密雲を割って、目にしみるような青空がひろがってゆく――伯耆路は晴だ。



底本:「婦道小説集」実業之日本社
   1977(昭和52)年9月25日 初版発行
   1978(昭和53)年11月10日 四版発行
底本の親本:「少女倶楽部」
   1937(昭和12)年2月
初出:「少女倶楽部」
   1937(昭和12)年2月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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