harukaze_lab @ ウィキ
鼻
最終更新:
Bot(ページ名リンク)
-
view
鼻
徳田秋声
徳田秋声
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)割《さ》
(例)割《さ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]
(例)[#地付き]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)にや/\
(例)にや/\
濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
小木が佐久間に逢ふのは、彼此十五六年振であつた。と言つても、十五六年前の佐久間は漸く五つか六つの幼年であつたから、今でもさう年を取つてゐる訳ではなかつた。小木はその頃妻の友人であつた彼の母、それから其の良人と暫らく往来したことがあつたが、彼等が田舎へ引込んでから、当座年始状が来たくらゐで、しかし其も何時の間にか途絶えて……偶々噂をするくらゐで、多分このまゝ生死も分らなくなつて、永久に交渉が切れてしまふのだらうと思はれた。
その子息の佐久間が、思ひがけなくひよつこり遣つて来たのであつたが、小木も妻も別に驚きはしなかつた。
「おゝ、邦雄さんですか。まあ大きくなつて」妻は玄関で言つてゐたが、茶の間へ通してみると実際彼は大きくなつてもゐたが、立派にもなつてゐた。彼は少し荒目な絣の着物を着てゐたので、どこかの新劇団にでもゐさうな、色白で目の涼しい、鼻の高い、大体母親に似たその顔や、づかりとした体躯などが、一層派手々々しくも見えるのであつた。
物持の一人子息であつた彼の父佐久間は、幕臣から零落れて、骨董品なぞ売買ひしてゐた父親と弟妹二人と、其頃煙草の店を出してゐた彼の母を恋して、多くの競争者を出しぬいで、到頭自分の所有にしてしまつた話を、小木は妻から聞いてゐたが、小木が彼等を知つた頃には、もう二人の子供があつた。佐久間は卒業後判検事か弁護士の試験を取らうとしてゐたが、その結婚が田舎にゐる佐久間の母に悦ばれなかつたところから、彼は当然生活費を稼がなければならなかつた。終ひに彼は、妹や弟から引放して妻を引連れて田舎へ引込んでしまつた。
中頃妹が死んだとき、彼女は一人の幼児をつれて上京した。そして一両日小木の家に泊つて身の上話に夜をふかしながら、田舎ものになつたことを嘆いて行つた。
その二番目の子供が今の佐久間であつた。長男は父佐久間の母が田舎へ引取つて育てゝゐたので、小木は見たことがなかつた。父佐久間がその長男と一緒に、愛人から割《さ》かれて田舎へ連れて行かれたり、それから又た遠い西の果から一人でやつて来て、隠れてゐた愛人を捜出して同棲したり……彼の老親たちも、その恋愛の甘い果実を味はうまでには、人並以上の苦労を嘗めさせられた訳であつたが、長いあひだの彼等の結婚生活が何んな風に続いて、愛憎が何んな風に闘はれたかは、小木たちもまるきり知らない訳ではなかつた。
佐久間は茶の間の入口のところに、膝に手をおいてちやんと坐つてゐた。
「私《わたくし》は幼少のをりから、こちらのことは屡ば母から聞かされてをりました。父母が東京にをりました時分、こちらのお世話になつたことも存じてをります。母は始終皆さんのお噂をしてをりました。」
「皆さん何うしていらつしやるんです。私たちも時々お噂をしてゐたんですよ。玉枝さんも随分お婆さんになつたんでせうね。」
小木の妻は絶えず幾分の可笑味《をかしみ》をたゞへてゐるやうな表情をして訊いた。それは青年佐久間の顔が、立派に調つた輪郭をもつてゐながら、どこかに真面目を欠いたやうな、何か知ら一種の可笑味に似たやうな表情をもつてゐたからであつた。が、それが又た隆いといふよりか、大きいと言つた方が適当に思はれる其の鼻が、五六歳の昔し彼女が其を気にしてゐたなりに大きいのが、ちよつとヱロチツクにも思はれる表情の中心点であつた。しかしそれは小木には少しも気にならない程度のものであつた。
「いや、もうすつかり更けてしまひました。」佐久間は擽つたいやうな表情をして、「私は年が行かなくて判りませんでしたが、あれでも母は若い時分は美しかつたさうですから、今お逢ひになつたら、殆んどその時分の面影もありませんから、きつとお判りにならないだろうと思ひます。あれでも東京にゐたら、さうでもなかつたでせうが、何しろ甚い田舎ですから。」
「さうですつてね。郵便を出すのに一里も行くんですつて。玉枝さんがお姑御さんに隠れて、東京の妹さんに手紙を出すのに、そんな遠くまで持つて行くんだつて、そんなお話でしたよ。」
「それに、御存じかどうか知りませんが、父は酒呑みでして、気むづかしやなもんですから、絶えず母を虐待するやうな始末でして……。」
「佐久間さんちよつと変窟人でしたわ。」
「異つてをりますな。父のことを悪く言つちや済まないですが、まあちよつと狂気じみたところもあるやうでございます。」
「嫉妬でもやくのかね。」
「さういふ事も間々あるやうです。私にも多少父の性質の遺伝があるかと思ひます。」
「政治運動で大分財産を摺つたやうなことを耳にしたが……。」
「もう殆んど何もありませんでせう。」
「村一番の旧家ださうですね。佐久間さん今でも村長さんですか。」
「村ではまあ父が東京の法律学校も出てをりますし、左に右門閥がいゝものですから。」
「貴方の兄さんは何うなさいました。」
「いや、これも今は満洲を放浪してゐます。」
「すると君も……。」
「私は二三年前までは、真面目でした。中学を出てから、裁判所へ勤まてをりまして、成績が可成好い方でしたから、その調子で行けば今頃は相当のところへ昇れたのですが、ふと道楽を覚えまして、ぐれ出してしまひました。それがために少し嘘を吐きまして……。」
「それから何うしてゐたのかね。」
「それから色々のことを遣りました。家を飛出しまして、友人をたよつて満洲へも渡りました。九州の炭坑へも行きました。工場にも働きました。これでも筋肉労働の経験がありますのです。」
「社会主義ぢやないね。」
「いや、そんな事は毫頭……。」
「ぢや軟派か。」
「さう見えますか。」
小木の妻はにや/\笑つた。
「さうですね。余り堅気ぢやないでせう。」
「私は芸事は好きです。新派でも旧派でも、芝居の真似事くらゐは遣ります。」
小木もにや/\笑つた。
しかし佐久間は父や母に似て、どこか几帳面で、律義らしいところがあつた。暗い影や萎《いぢ》けたやうな気分が、何処にも見出されなかつた。そして段々話してゐるうちに、彼が上京して来た意図が、苦学であることが明らかになつた。
「幸ひに体だけは頑健ですから、どこぞ弁護士の家に住みこんで、夜学へ通つて法律を勉強したいのですが、何かさういふ手蔓《てづる》がございますなら、お世話を願はうと思ひまして……何んな苦しみをしても、今度は一つ真面目に勉強するつもりでをります。」
その子息の佐久間が、思ひがけなくひよつこり遣つて来たのであつたが、小木も妻も別に驚きはしなかつた。
「おゝ、邦雄さんですか。まあ大きくなつて」妻は玄関で言つてゐたが、茶の間へ通してみると実際彼は大きくなつてもゐたが、立派にもなつてゐた。彼は少し荒目な絣の着物を着てゐたので、どこかの新劇団にでもゐさうな、色白で目の涼しい、鼻の高い、大体母親に似たその顔や、づかりとした体躯などが、一層派手々々しくも見えるのであつた。
物持の一人子息であつた彼の父佐久間は、幕臣から零落れて、骨董品なぞ売買ひしてゐた父親と弟妹二人と、其頃煙草の店を出してゐた彼の母を恋して、多くの競争者を出しぬいで、到頭自分の所有にしてしまつた話を、小木は妻から聞いてゐたが、小木が彼等を知つた頃には、もう二人の子供があつた。佐久間は卒業後判検事か弁護士の試験を取らうとしてゐたが、その結婚が田舎にゐる佐久間の母に悦ばれなかつたところから、彼は当然生活費を稼がなければならなかつた。終ひに彼は、妹や弟から引放して妻を引連れて田舎へ引込んでしまつた。
中頃妹が死んだとき、彼女は一人の幼児をつれて上京した。そして一両日小木の家に泊つて身の上話に夜をふかしながら、田舎ものになつたことを嘆いて行つた。
その二番目の子供が今の佐久間であつた。長男は父佐久間の母が田舎へ引取つて育てゝゐたので、小木は見たことがなかつた。父佐久間がその長男と一緒に、愛人から割《さ》かれて田舎へ連れて行かれたり、それから又た遠い西の果から一人でやつて来て、隠れてゐた愛人を捜出して同棲したり……彼の老親たちも、その恋愛の甘い果実を味はうまでには、人並以上の苦労を嘗めさせられた訳であつたが、長いあひだの彼等の結婚生活が何んな風に続いて、愛憎が何んな風に闘はれたかは、小木たちもまるきり知らない訳ではなかつた。
佐久間は茶の間の入口のところに、膝に手をおいてちやんと坐つてゐた。
「私《わたくし》は幼少のをりから、こちらのことは屡ば母から聞かされてをりました。父母が東京にをりました時分、こちらのお世話になつたことも存じてをります。母は始終皆さんのお噂をしてをりました。」
「皆さん何うしていらつしやるんです。私たちも時々お噂をしてゐたんですよ。玉枝さんも随分お婆さんになつたんでせうね。」
小木の妻は絶えず幾分の可笑味《をかしみ》をたゞへてゐるやうな表情をして訊いた。それは青年佐久間の顔が、立派に調つた輪郭をもつてゐながら、どこかに真面目を欠いたやうな、何か知ら一種の可笑味に似たやうな表情をもつてゐたからであつた。が、それが又た隆いといふよりか、大きいと言つた方が適当に思はれる其の鼻が、五六歳の昔し彼女が其を気にしてゐたなりに大きいのが、ちよつとヱロチツクにも思はれる表情の中心点であつた。しかしそれは小木には少しも気にならない程度のものであつた。
「いや、もうすつかり更けてしまひました。」佐久間は擽つたいやうな表情をして、「私は年が行かなくて判りませんでしたが、あれでも母は若い時分は美しかつたさうですから、今お逢ひになつたら、殆んどその時分の面影もありませんから、きつとお判りにならないだろうと思ひます。あれでも東京にゐたら、さうでもなかつたでせうが、何しろ甚い田舎ですから。」
「さうですつてね。郵便を出すのに一里も行くんですつて。玉枝さんがお姑御さんに隠れて、東京の妹さんに手紙を出すのに、そんな遠くまで持つて行くんだつて、そんなお話でしたよ。」
「それに、御存じかどうか知りませんが、父は酒呑みでして、気むづかしやなもんですから、絶えず母を虐待するやうな始末でして……。」
「佐久間さんちよつと変窟人でしたわ。」
「異つてをりますな。父のことを悪く言つちや済まないですが、まあちよつと狂気じみたところもあるやうでございます。」
「嫉妬でもやくのかね。」
「さういふ事も間々あるやうです。私にも多少父の性質の遺伝があるかと思ひます。」
「政治運動で大分財産を摺つたやうなことを耳にしたが……。」
「もう殆んど何もありませんでせう。」
「村一番の旧家ださうですね。佐久間さん今でも村長さんですか。」
「村ではまあ父が東京の法律学校も出てをりますし、左に右門閥がいゝものですから。」
「貴方の兄さんは何うなさいました。」
「いや、これも今は満洲を放浪してゐます。」
「すると君も……。」
「私は二三年前までは、真面目でした。中学を出てから、裁判所へ勤まてをりまして、成績が可成好い方でしたから、その調子で行けば今頃は相当のところへ昇れたのですが、ふと道楽を覚えまして、ぐれ出してしまひました。それがために少し嘘を吐きまして……。」
「それから何うしてゐたのかね。」
「それから色々のことを遣りました。家を飛出しまして、友人をたよつて満洲へも渡りました。九州の炭坑へも行きました。工場にも働きました。これでも筋肉労働の経験がありますのです。」
「社会主義ぢやないね。」
「いや、そんな事は毫頭……。」
「ぢや軟派か。」
「さう見えますか。」
小木の妻はにや/\笑つた。
「さうですね。余り堅気ぢやないでせう。」
「私は芸事は好きです。新派でも旧派でも、芝居の真似事くらゐは遣ります。」
小木もにや/\笑つた。
しかし佐久間は父や母に似て、どこか几帳面で、律義らしいところがあつた。暗い影や萎《いぢ》けたやうな気分が、何処にも見出されなかつた。そして段々話してゐるうちに、彼が上京して来た意図が、苦学であることが明らかになつた。
「幸ひに体だけは頑健ですから、どこぞ弁護士の家に住みこんで、夜学へ通つて法律を勉強したいのですが、何かさういふ手蔓《てづる》がございますなら、お世話を願はうと思ひまして……何んな苦しみをしても、今度は一つ真面目に勉強するつもりでをります。」
佐久間はそれからちよい/\遣つて来たが、思ひどほりもう弁護士の家に住みこんでゐた。小木は彼の頼みで、郷里へ手紙を出したりした。
或る日も夜になつて遣つて来た。
「相変らずやつてゐますかね。」
「は。やつちやをりますが、何うも異つた家でして……。」
「何ういふ風です。」
「主人は病気で年中寝てをりますが、奥さんが豪いやうです。」
「病気では法廷へ出られないぢやないか。」
「まあ大抵用事は私が足してをりますか、弁論にだけは偶に担荷に乗つて出ますので。それから、内部はずゐぶん苦しいやうです。まあ何か色んな仕事をして……園芸や牧畜の智識でもあるのですか、さういふ事の通信教授みたいなことをやつて、地方から会費を集めてゐるやうです。私はその方には交渉はありませんが、別に人を使つてゐるやうにも見えません。奥さんが重に働いてをられます。」
「山師ぢやないか。」
「さうでせうか。」
「病気は何だらう。」
「肝臓とか心臓とか、とにかく不断は床に就いてをります。えらい苦学をした人ださうで、四十三で免状を取つたんださうでございます。奥さんが教師をして助けられたのださうでして……。」
「事務所は何んな家なんだらう。やはり貸事務所か何かで……。」
「さうです。有楽町の、通りからちよつと入つたところですが、狭いには狭いですが、そんなに酷くもありません。」
「君だけ?」
「は、下女もをりません。随分経済が苦しさうで、私の待遇がとかく約束どほりに行きませんので……小使を殆んどくれません。これでは夜学どころか、本を読むこともできません。」
「細君にでも言つてみたら……。」
「言つても駄目でございませう。やはり食客なんかは思ふやうに行きませんから、どこか俸給の口に有りついて、時間的に働いて自炊でもしながら、学校へ通ふやうにしない以上、勉強はできませんでせう。」
小木は頷けた。
「しかし口のあるまで、そこにゐた方がいゝ?」
「私もさう思つてをります。しかし如何でございませう。」佐久間は四角張つた態度で言ふのであつた。
「私は何でも好きな方ですが、活俳なんか可けないでせうか。」
小木は笑ひだした。
「どこか口でもあるのかね。」
「実は××映画作製会社で、募集してをることを知つたものですから、物は試めしと思つて、行つてみましたのです。そして社主の××伯に逢つて話してみました。私のやうな風采でもかまいませんかと訊いてみましたところ、××伯の言ふには風采は何うだつて介意はない、そんなものは寧ろ無視していゝと言ふんですが、そんなものですかな。」
「で、やることにした訳かね。」
「そこまで決心がつきません。」
「好きなことなら、何でもかまはないぢやないか。活動俳優でも、弁士でも、乃至は浪花節だつて可い。豪くなりさへすれば。」小木は何かさう言つたものが彼の地《ぢ》にあるやうな感じだつたし、今から法律の勉強は、無駄だと思つたので、彼を試みてみようと考へたところで、
「何かさう言つた才があるなら、それも可いぢやないか。」
「さうですか」佐久間は嬉れしさうに膝を乗りだして来た。
「実は私は少しづゝ何でも噛つてをりますので……俳優の仮声なら、まさか見たこともありもしない左団次や吉右衛門は駄目ですが、地役者でしたら誰のでもやります。」
小木は少し弱つたなと思つたが、佐久間は調子づいて、不思議な俳優の名を半ダースばかり並べ立てた。
「いや、沢山だよ。」
「それぢや甚だ失礼ですが、浪花節は先生お好きですか。」
「僕は御免だね。」
「しかし私は浪花節でしたら、十分自信がございます。浪花節は何といつても、雲右衛門がいゝと思ひます。その他は気品がありません。」佐久間はすつかり憑かれたやうになつて来た。
「一つやつて見たまへ。」
「やつて可うございますか。先生の前で唸つても可うございますか。叱られやしませんでせうか。」
佐久間は幾度も/\念を推して躊躇したのち、居住ひを直したり衣紋を繕つたりした。
「本当にやつても可いでせうか。大きな声を出しても介意《かま》いませんでせうか。こいつは腹のどん底から全力的に絞り出す声でないと可けませんので……。何をやりませう。」
やがて佐久間は「では一つ南部坂を唸りませう」と言つて、朗々とした声で唸り出すのであつた。
「いかゞです、このくらゐの声では……。」
「巧いな。成程堂々としてゐる。」小木は讚めた。
「巧いですか。」佐久間は興奮して来た。そして凝つて来た。
「実にうまい。」
茶の室で酒を飲んでゐた、小木の妻の弟も感嘆した。
或る日も夜になつて遣つて来た。
「相変らずやつてゐますかね。」
「は。やつちやをりますが、何うも異つた家でして……。」
「何ういふ風です。」
「主人は病気で年中寝てをりますが、奥さんが豪いやうです。」
「病気では法廷へ出られないぢやないか。」
「まあ大抵用事は私が足してをりますか、弁論にだけは偶に担荷に乗つて出ますので。それから、内部はずゐぶん苦しいやうです。まあ何か色んな仕事をして……園芸や牧畜の智識でもあるのですか、さういふ事の通信教授みたいなことをやつて、地方から会費を集めてゐるやうです。私はその方には交渉はありませんが、別に人を使つてゐるやうにも見えません。奥さんが重に働いてをられます。」
「山師ぢやないか。」
「さうでせうか。」
「病気は何だらう。」
「肝臓とか心臓とか、とにかく不断は床に就いてをります。えらい苦学をした人ださうで、四十三で免状を取つたんださうでございます。奥さんが教師をして助けられたのださうでして……。」
「事務所は何んな家なんだらう。やはり貸事務所か何かで……。」
「さうです。有楽町の、通りからちよつと入つたところですが、狭いには狭いですが、そんなに酷くもありません。」
「君だけ?」
「は、下女もをりません。随分経済が苦しさうで、私の待遇がとかく約束どほりに行きませんので……小使を殆んどくれません。これでは夜学どころか、本を読むこともできません。」
「細君にでも言つてみたら……。」
「言つても駄目でございませう。やはり食客なんかは思ふやうに行きませんから、どこか俸給の口に有りついて、時間的に働いて自炊でもしながら、学校へ通ふやうにしない以上、勉強はできませんでせう。」
小木は頷けた。
「しかし口のあるまで、そこにゐた方がいゝ?」
「私もさう思つてをります。しかし如何でございませう。」佐久間は四角張つた態度で言ふのであつた。
「私は何でも好きな方ですが、活俳なんか可けないでせうか。」
小木は笑ひだした。
「どこか口でもあるのかね。」
「実は××映画作製会社で、募集してをることを知つたものですから、物は試めしと思つて、行つてみましたのです。そして社主の××伯に逢つて話してみました。私のやうな風采でもかまいませんかと訊いてみましたところ、××伯の言ふには風采は何うだつて介意はない、そんなものは寧ろ無視していゝと言ふんですが、そんなものですかな。」
「で、やることにした訳かね。」
「そこまで決心がつきません。」
「好きなことなら、何でもかまはないぢやないか。活動俳優でも、弁士でも、乃至は浪花節だつて可い。豪くなりさへすれば。」小木は何かさう言つたものが彼の地《ぢ》にあるやうな感じだつたし、今から法律の勉強は、無駄だと思つたので、彼を試みてみようと考へたところで、
「何かさう言つた才があるなら、それも可いぢやないか。」
「さうですか」佐久間は嬉れしさうに膝を乗りだして来た。
「実は私は少しづゝ何でも噛つてをりますので……俳優の仮声なら、まさか見たこともありもしない左団次や吉右衛門は駄目ですが、地役者でしたら誰のでもやります。」
小木は少し弱つたなと思つたが、佐久間は調子づいて、不思議な俳優の名を半ダースばかり並べ立てた。
「いや、沢山だよ。」
「それぢや甚だ失礼ですが、浪花節は先生お好きですか。」
「僕は御免だね。」
「しかし私は浪花節でしたら、十分自信がございます。浪花節は何といつても、雲右衛門がいゝと思ひます。その他は気品がありません。」佐久間はすつかり憑かれたやうになつて来た。
「一つやつて見たまへ。」
「やつて可うございますか。先生の前で唸つても可うございますか。叱られやしませんでせうか。」
佐久間は幾度も/\念を推して躊躇したのち、居住ひを直したり衣紋を繕つたりした。
「本当にやつても可いでせうか。大きな声を出しても介意《かま》いませんでせうか。こいつは腹のどん底から全力的に絞り出す声でないと可けませんので……。何をやりませう。」
やがて佐久間は「では一つ南部坂を唸りませう」と言つて、朗々とした声で唸り出すのであつた。
「いかゞです、このくらゐの声では……。」
「巧いな。成程堂々としてゐる。」小木は讚めた。
「巧いですか。」佐久間は興奮して来た。そして凝つて来た。
「実にうまい。」
茶の室で酒を飲んでゐた、小木の妻の弟も感嘆した。
しかし何と言つても、佐久間は矢張り官吏が好きだとみえて、その後小木の勤めてゐる郡部の税務署へ勤めることになつた。彼は毎日袴をはいて出勤したが、仕事のうへでは思つたより役に立つことが、小木にも確かまつて来た。ちやうど徴税事務の忙しい時だつたし、区域が広くなつてゐたところから、小木はその時傭入れた二人の署員の一人に佐久間を入れた。
小木は役所の帰りなどに、何うかすると彼と一緒になつた。
「どうかね。学校は行くやうになつたかね。」
「は。学校はまだ決めてをりません。いづれそのうち少し仕事に馴れましたら、行くことにしようと思ひます。」佐久間は答へた。
彼の口吻では、今のところ日給が安いので、下宿料を払ふと、小使がいくらも残らないし、事務を執るには、古着の洋服の一著も買はなければならない。学校の方は少し遅れても、まだそんなに年を取りすぎてゐる訳でもないから、ゆつくり遣つても遅くはない――そんな風に考へてゐた。
「まあせい/″\勉強するさ。三月もしたら日給を少し上げよう。」
「しかし私は署へ採用していたゞいただけでも、十分だと思つてをります。全く助かりました。この失業者の多いなかで、とにかく税務署へ御採用願へたのですから。」
「まあ君の経歴として好い方さ。」
佐久間はその時一緒に入つた奥村の口利きで、奥村の居る家に下宿してゐた。佐久間の話ではそれは素人屋であつた。最近地方から稼ぎに出て来た大工の家で、その大工は震災後各所のバラツクなぞの下請けをやつて、少しは余裕がつきかけたところで、最近急病で死んでしまつた。そして残された女房が、賄つきで部屋を貸してゐるのであつた。
それから三月ばかりの日が、訳もなく経過して夏が、郊外に訪れて来た。そして其の間に、奥村と佐久間との執務振に、いくらかの差等のあることが、課長や周囲の人達に明かになつて来た。勿論署長の小木は、二人とも本官に直すつもりでゐたが、佐久間の仕事ぶりが、何うも余り融通の利く方ではないといふのであつた。とは言へ事務のうへでは、佐久間に失策がある訳ではなかつた。仕事は叮嚀で確実であつた。
しかし困つたことには、佐久間の挙動に、ちよつと可笑なところが出て来た。それは些細なことではあつたが、大きく言へば官吏の体面――それほどのことではないにしても、ちよつと顰蹙すべき事柄であつた。
或る日食後に、若い連中が腹ごなしに打球をやつてゐた。役所の裏の空地で、彼等はワイシヤツ一枚になつて、騒いでゐた。しかし佐久間はその中にはゐなかつた。事務室にもゐなかつた。
小木は煙草をふかしながら、ポプラの木陰を、あちこち動いてゐた。
「奴さん、また追かけて行つたぜ。」
青い草原に休んでゐる年取つた一人が、さう言つたやうであつた。
「又か。愈よをかしいな。おい、誰か行つて見てこい。」又一人が言つた。
小木は初め何のことか判らなかつたが、皆なでくす/\笑つてゐるので、少し気になり出した。聞いてみると、それはかうであつた。
つひ税務署の前を通つてゐる広い新道路をこえて、狭い旧道の通つてゐる町筋のところに、仕出屋があつた。そこへ佐久間がよく出かけて行つた。それは其の仕出屋から鮨や、親子や、天丼や弁当を運んでくる十六七の女が、ちよつと丸ぽちやの可愛い顔をしてゐるので、佐久間がその尻を追つかけるのであつた。
「何あに……まさか署長さんの御親類《ごしんるゐ》でもありますまいから、お話したつて可いですが、あの男は何うも少し変ですぜ。あんな立派な風采をしてゐて、弁当屋の娘を追つかけまはすんですからね。」
小木はさう不自然にも感じなかつた。
「そいつは可笑しいね。本当かい。」
「この間もあの娘が裏口にゐるところを、佐久間がいきなり側へ寄つて行つたと思ふと、ぎゆつと手を握つたものですよ。それは恐ろしい力ださうで。娘はそれから気味わるがつて、あの男の顔を見ると逃げ出してしまふんです。するとあの男が目の色をかへて追つかけて行くと云ふ騒ぎで……兎に角何うかしてゐますよ。」
小木はそれをも不自然に感じなかつた。
「はゝ。――そいつは困りものだ。」
つまり其が署内の問題になつてゐることが、小木にも解つた。
ちやうど其翌月、奥村は本官に拝命された。
或時またこんな事が、小木の耳へ伝はつた。それはかうである――
佐久間は或るとき、署からの帰りに、ちよつと話したいことがあると言つて、署から少し奥へ行つたところの、森のなかにある氷川神社の境内へ奥村を誘つて行つた。そしていきなり佐久間を侮辱したと言つて責めた。勿論それは同時に採用された二人が、奥村一人だけが本官の辞令を受けて、彼は相変らず、日給七十幾銭かの雇員でおかれることを恥ぢたからであつた。
奥村の話では、佐久間はその時奥村を殺すと言つて、懐から短刀を覗かせて無気味な表情で、彼を脅迫した。
奥村は真蒼になつてしまつた。そして木の間をくゞつて、笹叢のなかを夢中で駈けだした。崖を転がつたり、流を飛びこえたりして、一散に宿へ帰つた。奥村はその頃、もう宿を替へてゐた。
それから奥村は、署へ出るのを可恐《こわ》がつた。しかし出ない訳に行かなかつた。彼は可恐喫驚《おつかなびつくり》で事務を執つてゐた。
恐れたのは奥村ばかりではなかつた。署員の誰も彼もが、挙つて佐久間を警戒した。何時何んなことがあるか知れなかつた。
「何んとかしなけあならない。」
皆んなはさう考へてゐた。
しかし迂闊なことは言へなかつた。不安か署の到るところに漲つた。
仕方なし小木は或る日佐久間を呼びつけて、解雇を命じたが、佐久間は素直に引退つた。彼は恥を感じてゐるだけであつた。
小木は役所の帰りなどに、何うかすると彼と一緒になつた。
「どうかね。学校は行くやうになつたかね。」
「は。学校はまだ決めてをりません。いづれそのうち少し仕事に馴れましたら、行くことにしようと思ひます。」佐久間は答へた。
彼の口吻では、今のところ日給が安いので、下宿料を払ふと、小使がいくらも残らないし、事務を執るには、古着の洋服の一著も買はなければならない。学校の方は少し遅れても、まだそんなに年を取りすぎてゐる訳でもないから、ゆつくり遣つても遅くはない――そんな風に考へてゐた。
「まあせい/″\勉強するさ。三月もしたら日給を少し上げよう。」
「しかし私は署へ採用していたゞいただけでも、十分だと思つてをります。全く助かりました。この失業者の多いなかで、とにかく税務署へ御採用願へたのですから。」
「まあ君の経歴として好い方さ。」
佐久間はその時一緒に入つた奥村の口利きで、奥村の居る家に下宿してゐた。佐久間の話ではそれは素人屋であつた。最近地方から稼ぎに出て来た大工の家で、その大工は震災後各所のバラツクなぞの下請けをやつて、少しは余裕がつきかけたところで、最近急病で死んでしまつた。そして残された女房が、賄つきで部屋を貸してゐるのであつた。
それから三月ばかりの日が、訳もなく経過して夏が、郊外に訪れて来た。そして其の間に、奥村と佐久間との執務振に、いくらかの差等のあることが、課長や周囲の人達に明かになつて来た。勿論署長の小木は、二人とも本官に直すつもりでゐたが、佐久間の仕事ぶりが、何うも余り融通の利く方ではないといふのであつた。とは言へ事務のうへでは、佐久間に失策がある訳ではなかつた。仕事は叮嚀で確実であつた。
しかし困つたことには、佐久間の挙動に、ちよつと可笑なところが出て来た。それは些細なことではあつたが、大きく言へば官吏の体面――それほどのことではないにしても、ちよつと顰蹙すべき事柄であつた。
或る日食後に、若い連中が腹ごなしに打球をやつてゐた。役所の裏の空地で、彼等はワイシヤツ一枚になつて、騒いでゐた。しかし佐久間はその中にはゐなかつた。事務室にもゐなかつた。
小木は煙草をふかしながら、ポプラの木陰を、あちこち動いてゐた。
「奴さん、また追かけて行つたぜ。」
青い草原に休んでゐる年取つた一人が、さう言つたやうであつた。
「又か。愈よをかしいな。おい、誰か行つて見てこい。」又一人が言つた。
小木は初め何のことか判らなかつたが、皆なでくす/\笑つてゐるので、少し気になり出した。聞いてみると、それはかうであつた。
つひ税務署の前を通つてゐる広い新道路をこえて、狭い旧道の通つてゐる町筋のところに、仕出屋があつた。そこへ佐久間がよく出かけて行つた。それは其の仕出屋から鮨や、親子や、天丼や弁当を運んでくる十六七の女が、ちよつと丸ぽちやの可愛い顔をしてゐるので、佐久間がその尻を追つかけるのであつた。
「何あに……まさか署長さんの御親類《ごしんるゐ》でもありますまいから、お話したつて可いですが、あの男は何うも少し変ですぜ。あんな立派な風采をしてゐて、弁当屋の娘を追つかけまはすんですからね。」
小木はさう不自然にも感じなかつた。
「そいつは可笑しいね。本当かい。」
「この間もあの娘が裏口にゐるところを、佐久間がいきなり側へ寄つて行つたと思ふと、ぎゆつと手を握つたものですよ。それは恐ろしい力ださうで。娘はそれから気味わるがつて、あの男の顔を見ると逃げ出してしまふんです。するとあの男が目の色をかへて追つかけて行くと云ふ騒ぎで……兎に角何うかしてゐますよ。」
小木はそれをも不自然に感じなかつた。
「はゝ。――そいつは困りものだ。」
つまり其が署内の問題になつてゐることが、小木にも解つた。
ちやうど其翌月、奥村は本官に拝命された。
或時またこんな事が、小木の耳へ伝はつた。それはかうである――
佐久間は或るとき、署からの帰りに、ちよつと話したいことがあると言つて、署から少し奥へ行つたところの、森のなかにある氷川神社の境内へ奥村を誘つて行つた。そしていきなり佐久間を侮辱したと言つて責めた。勿論それは同時に採用された二人が、奥村一人だけが本官の辞令を受けて、彼は相変らず、日給七十幾銭かの雇員でおかれることを恥ぢたからであつた。
奥村の話では、佐久間はその時奥村を殺すと言つて、懐から短刀を覗かせて無気味な表情で、彼を脅迫した。
奥村は真蒼になつてしまつた。そして木の間をくゞつて、笹叢のなかを夢中で駈けだした。崖を転がつたり、流を飛びこえたりして、一散に宿へ帰つた。奥村はその頃、もう宿を替へてゐた。
それから奥村は、署へ出るのを可恐《こわ》がつた。しかし出ない訳に行かなかつた。彼は可恐喫驚《おつかなびつくり》で事務を執つてゐた。
恐れたのは奥村ばかりではなかつた。署員の誰も彼もが、挙つて佐久間を警戒した。何時何んなことがあるか知れなかつた。
「何んとかしなけあならない。」
皆んなはさう考へてゐた。
しかし迂闊なことは言へなかつた。不安か署の到るところに漲つた。
仕方なし小木は或る日佐久間を呼びつけて、解雇を命じたが、佐久間は素直に引退つた。彼は恥を感じてゐるだけであつた。
大分たつてから、佐久間は或晩方小木を訪れた。上げてみると、彼はさほど困つてもゐないらしかつた。
「何うしてゐるのかね。やつぱり彼処にゐるのかね。」
「は。そのうち何処かへ移らうとは思つてをりますが、まあ当分……とにかく私は性格に欠陥があると思ひます。これは遺伝でせうと、自分でも思つてをります。」
佐久間はしかし其をさう悲しんでゐるのではなかつた。
「ところで今夜は少しお願ひがあつて、伺ひました。伺つては悪いと思ひましたけれど、外に行くところもありませんから恥を忍んで伺ひました。」
佐久間の用事といふのは、かうであつた。以前寄食してゐた弁護士が、到頭死んでしまつて、知らせが佐久間のところへも来た。知せがあつてみると、お弔みに行かないのも非礼だから行きたいと思ふけれど、礼服がないから、一と晩だけ借用が願へないかと言ふのであつた。
小木は暮しがさう楽ではなかつた。一著の礼服を作ればと言つて易いことではなかつた。それに生憎それは此の春新調したばかりで、一度二度しか手を通さない大事のモオニングであつたけれど、その位の心配はしてやらない訳に行かなかつた。彼は帽子まで冠らせて出してやつた。それが又ひどく佐久間の風采を引立たせるのであつた。
「何うかね、帰つてくるかね。」
「だからお止しになれば可かつたのに。」
小木は妻と二人で一と晩中心配したが、妻の言ふところでは、あの人達――佐久間の父母、それから其の又父母は、どれもこれもさう云ふことにかけては、義理堅い方なので、まさか間違はあるまいと思はれた。
しかし彼が礼服姿で帰つて来たのは、漸と三日目の夜遅くであつた。妻の想像によると、弁護士の細君と佐久間とのなかゞ怪しいのであつた。
「さうだらう。事によると其の家にゐる時分から……。」
「何うしてゐるのかね。やつぱり彼処にゐるのかね。」
「は。そのうち何処かへ移らうとは思つてをりますが、まあ当分……とにかく私は性格に欠陥があると思ひます。これは遺伝でせうと、自分でも思つてをります。」
佐久間はしかし其をさう悲しんでゐるのではなかつた。
「ところで今夜は少しお願ひがあつて、伺ひました。伺つては悪いと思ひましたけれど、外に行くところもありませんから恥を忍んで伺ひました。」
佐久間の用事といふのは、かうであつた。以前寄食してゐた弁護士が、到頭死んでしまつて、知らせが佐久間のところへも来た。知せがあつてみると、お弔みに行かないのも非礼だから行きたいと思ふけれど、礼服がないから、一と晩だけ借用が願へないかと言ふのであつた。
小木は暮しがさう楽ではなかつた。一著の礼服を作ればと言つて易いことではなかつた。それに生憎それは此の春新調したばかりで、一度二度しか手を通さない大事のモオニングであつたけれど、その位の心配はしてやらない訳に行かなかつた。彼は帽子まで冠らせて出してやつた。それが又ひどく佐久間の風采を引立たせるのであつた。
「何うかね、帰つてくるかね。」
「だからお止しになれば可かつたのに。」
小木は妻と二人で一と晩中心配したが、妻の言ふところでは、あの人達――佐久間の父母、それから其の又父母は、どれもこれもさう云ふことにかけては、義理堅い方なので、まさか間違はあるまいと思はれた。
しかし彼が礼服姿で帰つて来たのは、漸と三日目の夜遅くであつた。妻の想像によると、弁護士の細君と佐久間とのなかゞ怪しいのであつた。
「さうだらう。事によると其の家にゐる時分から……。」
それから又日数がたつてから、小木は或る時、佐久間の宿を訪ねて見た。そして其の時また新事実を発見してしまつた。勿論神さんに対する佐久間の態度と小木に対する神さんの慇懃振りが、それを証明してゐた。
その夏小木はその辺を通つた時、炎天の下で、いきり深い大道を、村の子供たちにわい/\囃されながら、真の裸像で大手を振つて歩いてゐる佐久間を、遠くの方から見たことがあつた。――しかし彼は佐久間の鼻に妻が感ずるやうな可笑味すら感ずることができなかつた。
とにかく彼もさう邪魔にはならぬ男であつた。[#地付き](大正15[#「15」は縦中横]年1月「新潮」)
とにかく彼もさう邪魔にはならぬ男であつた。[#地付き](大正15[#「15」は縦中横]年1月「新潮」)
底本:「徳田秋聲全集第15巻」八木書店
1999(平成11)年3月18日初版発行
底本の親本:「新潮」
1926(大正15)年1月
初出:「新潮」
1926(大正15)年1月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
1999(平成11)年3月18日初版発行
底本の親本:「新潮」
1926(大正15)年1月
初出:「新潮」
1926(大正15)年1月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ