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或る牾かしさ

最終更新:2020年01月09日 20:16

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或る牾かしさ
徳田秋声


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)啓太郎《けいたろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|番《ばん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「づぼら」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)たび/\

濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」



 啓太郎《けいたろう》が弟《おとうと》たちにも配《くば》るつもりで持《も》つて来《き》た土産《みやげ》のなかに、長《なが》くもたないものもあつたので、おしげは彼《かれ》がついた翌日《よくじつ》の朝《あさ》、先《ま》づ一|番《ばん》手近《てぢか》なところへ彼《かれ》を案内《あんない》することにした。遠《とほ》いところへは、取《と》りにくるやうな案内《あんない》の葉書《はがき》を出《だ》したところもあつた。
 その一|番《ばん》手近《てちか》な啓太郎《けいたろう》の弟《おとうと》の一人《ひとり》である修《しう》三の家《うち》だつて、さう近《ちか》くはなかつたし、今《いま》までおしげは一|度《ど》も行《い》つて見《み》たことはなかつたのであつたが、それを汐《しほ》にちよつと店《みせ》の様子《やうす》を見《み》に行《ゆ》きたいとも思《おも》つた。その弟《おとうと》は学校《がくこう》を出《で》てから勤《つと》めてゐた或大会社《あるだいくわいしや》が不況《ふけう》に陥《おちい》つたころに罷《や》められて、東京《とうけう》へ来《き》て職《しよく》を求《もと》めてゐるうちに、ふと其《そ》の会社《くわいしや》に勤《つと》めてゐる時分《じぶん》、赴任地《ふにんち》で知《し》つてゐた女《おんな》と恋《こひ》なかになつて、少《すこ》しばかりの金《かね》を工面《くめん》して、その新開地《しんかいち》に売薬店《ばいやくてん》を初《はじ》めたのであつた。そして其《そ》の資金《しきん》の幾分《いくぶん》を、おしげは良人《おつと》に頼《たの》んで、その時《とき》彼《かれ》に融通《ゆうづう》してやつたのであつた。
 おしげの良人《おつと》の宮北《みやきた》は、啓太郎兄弟《けいたろうけうだい》には、叔父甥《をぢおひ》の関係《くわんけい》になつてゐたが、しかしさういふやうな事《こと》は、むしろおしげの方《ほう》へ持《も》ちこんだ方《ほう》が、解《わか》りが早《はや》いと思《おも》はれてゐた。修《しう》三も直接《ちよくせつ》叔父《をぢ》へ当《あた》つてみる代《かは》りに、おしげに申込《まをしこ》んだ。そしておしげは大体《だいたい》自分《じぶん》で引受《ひきう》けてから、宮北《みやきた》の承諾《せうだく》を求《もと》めたわけであつた。
「困《こま》るな。」宮北《みやきた》は余《あま》り好《い》い顔《かほ》をしなかつた。
「でもあの人《ひと》きつと返《かへ》すと言《い》つてますよ。」
「返《かへ》すか返《かへ》さないか、そんなことは己《おれ》にはわからない。けれど僕《ぼく》としてはちよつと纏《まと》まつた金《かね》だからね。出《だ》すのが惜《を》しいんだ。」
「それあさうですけれど、あの人《ひと》初《はじ》めですからね。一|度《ど》は応《おう》じない訳《わけ》に行《い》かないでせう。」
 それでも宮北《みやきた》は余《あま》り進《すゝ》まなかつた。勿論《もちろん》おしげからいへば、宮北《みやきた》の田舎《ゐなか》の人達《ひとだち》に悪《わる》く思《おも》はれたくはなかつた。さういふ点《てん》では、彼女《かのぢよ》はずゐぶん弱《よわ》かつた。それにおしげの弟《おとうと》なぞを、宮北《みやきた》が相当《そうとう》面倒《めんだふ》を見《み》てやつてゐるので、宮北《みやきた》の身《み》うちにも、義理《ぎり》があると思《おも》つてゐた。彼女《かのぢよ》は総《すべ》てさう云《い》ふ風《ふう》に自分《じぶん》の良心《れうしん》を働《はたら》かせる女《おんな》であつた。宮北《みやきた》から言《い》へば、金《かね》の問題《もんだい》にも感興《かんけふ》の伴《ともな》はないのは厭《いや》だつた。年《とし》とつて勤労《きんろう》の苦《くる》しみを感《かん》じるに従《したが》つて、打算的《ださんてき》にはなつて来《き》たけれど、でも一|方《ぽう》へはずゐぶんづぼら[#「づぼら」に傍点]で、一|方《ほう》へはずゐぶんはづむといふやうな、気分《きぶん》まかせの事《こと》が多《おほ》かつた。むしろ気分《きぶん》まかせにすることのできなくなつて来《き》た自分《じぶん》の生活《せいくわつ》を呪《のろ》はしく思《おも》つた。
「しかし己《おれ》の気持《きもち》から言《い》へば、それどころぢやないのでね。出《だ》してしまへば返《かへ》さないからと言《い》つて、強《し》ひて取《と》りたいとも思《おも》はないかはりに、出《だ》すのがたゞ惜《を》しいんだ。だから貸《か》すよりか寧《むし》ろ幾分《いくぶん》をやつて、断《ことは》つた方《ほう》がいゝ。」
「でも、あの人《ひと》きつと返《かへ》します。何《なに》も上《あ》げる必要《ひつゑう》もないでせう。」おしげは宮北《みやきた》が少《すご》し変《へん》だと思《おも》ふくらゐ、熱心《ねつしん》に主張《しゆてう》した。
 で、その金《かね》を貸《か》すことになつたのであつたが、それきりであつた。それ以来《いらい》二|年《ねん》くらゐになるけれど、修《しう》三は一|度《ど》も顔出《かほだ》しをしなかつた。地震《ぢしん》のときすらも来《こ》なかつた。宮北《みやきた》は別《べつ》に腹《はら》もたゝなかつたが、おしげもさまで絶望《ぜつぼう》もしなかつた。宮北《みやきた》は何《ど》うかすると、それを言《い》ひだしたけれど、それは其《そ》の時々《とき/″\》のおしげの見《み》かけによらない意気地《いくぢ》のない臆病《おくべう》なところや、浅果敢《あさはか》なところに打《ぶ》つつかつたとき、彼女《かのぢよ》を責《せ》めたり戒《いま》しめたりするやうな場合《ばあひ》に、一《ひと》つの例《れい》として引合《ひきあ》ひに出《だ》すくらゐのもので、ほんたうにおしげがせつせと催促《さいそく》にでも行《い》きだしたとしたら、それも余《あま》り感《かん》じのいゝことではなかつた。彼《かれ》は修《しう》三が他《ほか》の兄弟《けうだい》たちとちがつて、いつでも自分《じぶん》だけの用意《ようい》を怠《おこた》らないで、普通《ふつう》以上《いぜう》に打算的《ださんてき》だといふ話《はなし》を度々《たび/\》聞《き》きもし、直接《ちよくせつ》感《かん》じもしてゐたけれど、その打算《ださん》も正直《せうぢき》すぎる彼《かれ》の狭《せま》い利己主義《りこしゆぎ》から割出《わりだ》されてゐるので、全体《ぜんたい》からは余《あま》り得《とく》な生《い》き方《かた》をしてゐないことを知《し》つてゐた。情誼的《ぜうぎてき》に借《か》りた金《かね》を几帳面《きてうめん》に返《かへ》すなどは、世間《せけん》普通《ふつう》の道徳《どうとく》のやうに思《おも》はれてゐながら、実際《じつさい》は余程《よほど》の離《はな》れ業《わざ》だといふこともわかつてゐた。
 おしげはしかし修《しう》三の店《みせ》が、土地《とち》の発展《はつてん》と共《とも》に、可也《かなり》盛《さか》つてゐることを、修《しう》三の弟《おとうと》などから聞《き》いてゐたので、折《をり》かあつたら一|度《ど》行《い》つて見《み》ようと思《おも》つてゐたが、臆病《おくべう》な修《しう》三の神経《しんけい》が避《さ》けてゐるであらうと同《おな》じ程度《ていど》で、異《ちが》つた意味《いみ》の臆病《おくべう》さから、何《なん》となし回避《くわいひ》するやうな形《かたち》になつてゐた。それに店《みせ》をもつたとき修《しう》三が同棲《どうせい》することになつた女《おんな》が、或《あ》る時《とき》突然《とつぜん》やつて来《き》て、夫婦別《ふうふわか》れをするから、宮北《みやきた》に立合《たちあ》つてくれるやうにと、出《だ》しぬけに言《い》つて来《き》たことがあつた。おしげはその時《とき》初《はじ》めて其《そ》の女《おんな》に逢《あ》つたのであつたが、不思議《ふしぎ》な廻《まは》り合《あは》せで、それが同《おな》じ郷里《けうり》の産《うま》れであることや、身分《みぶん》の好《よ》い人《ひと》の娘《むすめ》で、その姉《あね》か叔母《をば》かにあたる女《おんな》の片《かた》づいてゐる東京《とうけう》の家《いへ》も知《し》つてゐた。それはおしげが若《わか》いをりに住《す》まつてゐた近所《きんじよ》で、有福《ゆうふく》な暮《くら》しをしてゐた。
 女《おんな》はその時《とき》興奮《こうふん》した調子《てうし》で、修《しう》三と別《わか》れる理由《りゆう》を述《の》べて、自分《じぶん》の立場《たちば》について、おしげに訴《うつた》へた。わざと玄関先《げんくわんさ》きで、おしげはそれに応対《おうたい》してゐたが、同棲《どうせい》した当時《たうじ》の予期《よき》を裏切《うらぎ》つて、二人《ふたり》の生活《せいくわつ》は可也《かなり》紛糾《ふんきう》してゐるらしかつた。しかしおしげは彼女《かのぢよ》を宮北《みやきた》に逢《あ》はせることを好《この》まなかつた。
「宅《たく》もなか/\頭脳《あたま》の忙《せわ》しい人《ひと》ですから、さういふお話《はなし》は余《あま》り耳《みゝ》へ入《い》れたくないんですよ。」おしげは断《ことは》つた。
 女《おんな》は自分《じぶん》の潔白《けつぱく》を信《しん》じてゐるらしかつた。そしてそれを第《だい》三|者《しや》の宮北《みやきた》に知《し》つておいて貰《もら》ひたいと思《おも》つた。その話《はなし》の調子《てうし》では、修《しう》三の方《ほう》が悪《わる》いやうに思《おも》へた。けれど、女《おんな》の妹《いもうと》が同棲《どうせい》してゐるなどの事実《じじつ》から判断《はんだん》すると、修《しう》三も経済的《けいぎいてき》には余《あま》り割《わり》の好《い》い立場《たちば》には立《た》つてゐないらしく思《おも》へた。
 しかしおしげは奥《おく》へ来《き》て、一|応《おう》宮北《みやきた》に話《ばな》して見《み》た。
「けれど一|緒《しよ》になつた最初《さいしよ》のことを少《すこ》しも知《し》らないんだからな。二人《ふたり》で勝手《かつて》にやつたことでね。」宮北《みやきた》は言《い》つた。
「さうですとも。来《き》たこともないのに、いきなり別《わか》れ話《ばなし》を持込《もちこ》んで来《く》るなんて、ずゐぶん変《へん》ですわ。」おしげも言《い》つた。
 結局《けつきよく》女《おんな》は断《ことは》られて帰《かへ》つて行《い》つた。
「やつぱり店《みせ》が思《おも》はしく行《ゆ》かないんでせうかね。修《しう》ちやんもずゐぶん勝手《かつて》のやうですけれど、あの人《ひと》は何《ど》うして、修《しう》ちやんなんかの手《て》ごちに行《ゆ》く人《ひと》ぢやありませんよ。女振《をんなふ》りもいゝし、なか/\しつかりしてもゐるやうですよ。何《なに》しろ満洲《まんしう》くんだりまで渡《わた》りあるいたんですもの。」
 後《あと》でおしげは言《い》つてゐた。
 女《をんな》はそれきり来《こ》なかつたが、大分《だいぶん》たつてから聞《き》くと、やつぱり同棲《どうせい》してゐるといふことであつた。
 おしげは其事《そのこと》もあるので、修《しう》三よりも其《そ》の女《おんな》に逢《あ》ふのが臆劫《おくゝふ》になつてゐた。迚《とて》も敵《かな》ひさうに思《おも》へなかつた。勿論《もちろん》おしげは人
臆《ひとおく》せの強《つよ》い方《ほう》であつた。
 しかし啓太郎《けいたろう》を案内《あんない》して行《ゆ》けば、きつかけ[#「きつかけ」に傍点]はつくやうに思《おも》へた。修《しう》三が最近《さいきん》気《き》がさすとみゑて、おしげの長男《てうなん》の入学試験《にうがくしけん》がよかつたことを、或日《あるひ》電報《でんぽう》で知《し》らして、突然《とつぜん》好意《こうい》を示《しめ》してくれたと云《い》ふやうなこともあつて、その礼《れい》を言《い》ひたいと思《おも》つてゐた。修《しう》三はこの頃《ころ》丸《まる》の内の或《あ》る会社《くわいしや》に勤《つと》めてゐて、出先《でさ》きで試験《しけん》の結果《けつくわ》を偶然知《ぐうぜんし》つて、ふと電報《でんぽう》を打《う》つたものらしかつた。何《なん》でも震災後《しんさいご》景気《けいき》が好《い》いといふ話《はなし》を、おしげは耳《みゝ》にしてゐた。
「今日《けふ》は案内《あんない》だけで、お金《かね》の話《はなし》はしませんよ。」おしげはさう言《い》つて、少許《すこし》の土産《みやげ》をもつて、啓太郎《けいたろう》と一|緒《しよ》に出《で》て行《い》つた。
 ほゞ見当《けんとう》のついてゐた修《しう》三の店《みせ》を捜《さが》すのは、造作《ぞうさ》はなかつた。小《ちい》さい間口《まぐち》ではあつたけれど、その場所《ばしよ》では目《め》に立《た》つて気《き》のきいた店《みせ》つきで、おしげも何《なに》か商売《せうばい》をしてみたいやうな気《き》が始終《しじう》してゐたので、何《なん》となく興味《けうみ》を感《かん》じた。
「この辺《へん》にも芸者屋《げいしやや》ができるんださうですけれど、ずゐぶん開《ひら》けて来《き》ましたわ。」おしげは宮北《みやきた》の甥《おひ》のなかでは、一|番《ばん》おつとりした、人《ひと》の好《い》い啓太郎《けいたろう》に話しながら、宮北《みやきた》に教《をし》へられたとほりに、方向《ほうこう》を取《と》つたのであつたが、売薬店《ばいやくてん》は外《ほか》にも一|軒《けん》あつたけれど、何《なん》となく明《あかる》い感《かん》じを与《あた》へる、そのちよつと先《さ》きの店《みせ》の前《まへ》へ来《く》ると、そこに店先《みせさ》きに出《で》てゐる彼女《かのぢよ》の姿《すがた》が目《め》についた。
 女《おんな》は何時《いつ》かの晩《ばん》に来《き》たときは、取乱《とりみだ》してゐたけれど、さうやつて店《みせ》にすわつてゐるところを見《み》ると、この辺《へん》では余《あま》り見かけられないやうな、渋《しぶ》の取《と》れた風《ふう》をしてゐた。おしげはちよつと怯《おぢ》けたやうな気持《きもち》で、躊躇《ちうちよ》しながら入《はい》つて行《い》つた。
 女《をんな》はおしげに気《き》がつくと、ちよつとまごついた。
「今日《けふ》は兄《にい》さんを御案内《ごあんない》して来《き》たんですよ。」おしげは狭《せま》い店先《みせさ》きへ出《だ》してくれた座蒲団《ざぶとん》を敷《し》きながら言《い》つた。
「ようこそお出《い》で下《くだ》さいました、こんな狭苦《せまくる》しいところで失礼《しつれい》ですけれど。」
「結構《けつこう》ですわ。私《わたし》すぐお暇《いとま》しますから。」おしげは言《い》つたが、何《なん》となく親《した》しめない感《かん》じであつた。それにこんな場末《ばずゑ》の店《みせ》のお神《かみ》さんとしては、女《おんな》の身装《みなり》が好《よ》すぎた。女《おんな》は柄合《がらあひ》の酒落《しやれ》たセルに栗皮色《くりかはいろ》の棒縞《ばうじま》の羽織《はおり》を着流《きなが》して、おしげ自身《じしん》が一|番《ばん》気《き》にする半襟《はんえり》も、好《よ》い色気《いろけ》の無地《むじ》ものをかけてゐるのが、顔《かほ》によくうつるのであつた。
「二|階《かい》へおあげすれば可《い》いんですけれど、手《て》がございませんので、店《みせ》があいてしまふんですよ。」彼女《かのぢよ》はさう言《い》つて、お茶《ちや》をいれてゐた。
 お互《たがひ》に何時《いつ》かの晩《ばん》のことには、触《ふ》れないやうにしてゐた。
 するうち客《きやく》が二人《ふたり》も来《き》た。
「なか/\繁昌《はんぜう》するぢやありませんか。店《みせ》の飾附《かざりつけ》がお上手《ぜうず》ですね。」おしげは半分《はんぶん》啓太郎《けいたろう》に向《む》いて言《い》つた。
「さうです、店《みせ》は小《ちひ》さい方《はう》が却《かへ》つて引立《ひきた》ちますから。」啓太郎《けいたろう》は答《こた》へた。
「いゝえ。ぽつ/\お客《きゃく》はありますけれど、何分《なにぶん》細《こまか》うございますからね。それに調剤《てうざい》がまるきりないんですから、この頃《ごろ》は詰《つま》らない会社《くわいしや》ですけれど、勤《つと》めてをりますの。」
「結構《けつこう》ですわ。お二人《ふたり》でお稼《かせ》ぎになれば。何《なに》といつても商売《せうばい》ほど強《つよ》いものはございませんからね。」
「駄目《だめ》ですわ。相変《あひかは》らずお金《かね》がないんですよ。」
 おしげは何《なん》だか予防線《よぼうせん》を張《は》られたやうに感《かん》じたが、金《かね》のことを、やつぱり女《おんな》も知《し》つてゐるんだと思《おも》つた。
 行《ゆ》きがゝりで親《した》しめない感《かん》じではあつたけれど、何《なん》だか好《す》いたやうな気《き》がした。しかし女《おんな》の気持《きもち》はよく解《わか》らなかつた。おしげは或《あ》る悟《もど》かしさを感《かん》じた。
 そこへ修三《しうざう》が満洲《まんしう》で別《わか》れた前妻《ぜんさい》の子供《こども》が、外《そと》から帰《かへ》つて来《き》て、勝手口《かつてぐち》の方《ほう》に小《ちひ》さくなつてゐるのが目《め》についた。子供《こども》は五《いつ》つ位《ぐらゐ》であつたが、その子供《こども》がこの夫婦《ふうふ》に余《あま》り愛《あい》されてゐないことを、啓太郎《けいたろう》もおしげも、兼々《かね/″\》耳《みゝ》にしてゐた。
「汚《きたな》い足《あし》で上《あが》るんぢやありませんよ。」女《おんな》は子供《こども》に声《こゑ》かけたが、子供《こども》は「はい」と言《い》つて、まるで老人《としより》のやうな几帳面《きてうめん》さで、足《あし》を拭《ふ》いてゐた。そして上《あが》つて来《き》て挨拶《あいさつ》をすると、直《ぢ》きに隅《すみ》の方《ほう》へ入《はい》つて行《い》つた。やがて女《おんな》はそつと立《た》つて行《い》つて、何《なに》か吩咐《いひつ》けてゐた。
 子供《こども》は萎縮《ゐしゆく》しきつてゐるやうに見えた。
「急《いそ》いで行《い》くんですよ。」女《おんな》は出《で》て行《い》く後《うしろ》から声《こゑ》かけた。
「はい。」
 その「はい」が啓太郎《けいたろう》の耳《みゝ》にも、おしげの耳《みゝ》にも、何《ど》うしても五《いつ》つの子供《こども》とは受取《うけと》れない、厭《いや》にひねこびれた卑下《ひげ》したものであつた。
 暫《しば》らく話《はな》してゐると、子供《こども》は包《つゝ》みをかゝへて帰《かへ》つて来《き》た。女《おんな》は蔭《かけ》でそれを受取《うけと》つて、菓子器《くわしき》に盛《も》つてゐたが、子供《こども》はまた其《そ》の風呂敷《ふろしき》を、きちんと坐《すわ》つた小《ちひ》さい膝《ひざ》のうへで、莫迦々々《ばか/\》しいほど叮嚀《ていねい》に畳《たゝ》みはじめた。
 おしげはそれを見《み》てゐる啓太郎《けいたろう》の目《め》に、涙《なみだ》が一|杯《ぱい》になつてゐるのを気《き》づいた。
 おしげも見《み》て見《み》ない振《ふ》をしてゐた。修三《しうざう》がよくこの子供《こども》を打《ぶ》つさうであつた。勿論《もちろん》女《おんな》も打《ぶ》つのであつた。
 おしげはちやうど其《そ》の近《ちか》くにゐる、宮北《みやきた》の友人《ゆうじん》の細君《さいくん》に用事《ようじ》があつたので、啓太郎《けいたろう》はそこに待《ま》たせておいて、やがて店《みせ》を出《で》た。そして一|時間《じかん》ばかりたつてから帰《かへ》つて来《く》ると、お昼《ひる》の用意《ようい》などしてあつた。
 滅入《めい》つた気持《きもち》でやがて二人《ふたり》はそこを辞《じ》した。おしげは再《ふたゝ》びその店《みせ》へ寄《よ》るやうなことがあらうとは思《おも》へなかつた。
「今度《こんど》会社《くわいしや》の方《ほう》へ行《ゆ》きますわ。」
 おしげは帰《かへ》つてから宮北《みやきた》に言《い》つた。[#地付き](大正13[#「13」は縦中横]年7月「女性」)



底本:「徳田秋聲全集第14巻」八木書店
   2000(平成12)年7月18日初版発行
底本の親本:「女性」
   1924(大正13)年7月
初出:「女性」
   1924(大正13)年7月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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徳田秋声
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