『第一回放送』 ◆gry038wOvE
「ピンポンパンポ~ン♪」
放送を鳴らすうえで、最もベターとも言える、あの軽快な音が鳴る。
音にせずとも、既に多くの人には文字でも伝わるほど単調だったが、少なくとも喪に服すべきこの場には似つかわしくなかった。
いや、似つかわしくないからこそ、余計に恐怖を煽るものとなったのかもしれない。
まあ、何にせよ、これを読んでいる人間の多くは────この他いくつものバトルロワイアルを見届けた者たちは────、この音を知っているだろうし、既に恐怖の音と認識するくらいに感覚が麻痺しているかもしれない。
このバトルロワイアル、最初の放送が響く──────
【】
「皆さん、おはようございます。最初に申しあげたとおり、六時間ごとに当局から放送を行います。
お忘れだった方のために、一分間だけメモの準備を行うための時間を取るので、既に準備を行っている方は少しだけ待ってください」
【】
……音に方角もないような放送であった。しかし、その肉声とは程遠い言葉やエリア中に響く大きな音の感じから、
加頭順はマイクを使っているのだろうとわかる。どこかにスピーカーがあるのだろうか。
スピーカーから漏れる加頭の声は淡々としていた。────が、その一分の間、彼も多少の動揺はしていたのだろう。
これから読み上げる名前の一つに、彼にとっても無視できないものがあったのだ。
とはいえ、まあここで「彼女」が亡くなったのもまだ仕方のないことといえる。
大局的に見れば、この戦いはおおよそ元締めの計画とおり進んでいる。だから、計画の一端に過ぎない彼は、黙っているしかない。
第一、彼一人が歯向かったところでどうにもならないこともある。
無論、彼の冴子に対する執着は、それで割り切れるものではないのだが、まだ彼は彼女の命を諦めきってはいない。彼女は死んだが、それでも生還の可能性はゼロではないと思っていた。
それでも、一分間だけ深呼吸をした。
その音は、スピーカー越しには聞こえず、参加者の誰も、彼の想いなど知ることもなかっただろう。
【】
まずは、残念ながらこの六時間で退場となってしまった死亡者の発表です。五十音順に発表するので、名簿の上から見て行ってください。
人数も多いので、発表は一度だけとなります。準備はよろしいですか?
…………それでは、発表します。
以上18名、残り生存者の人数は48名です」
【】
それから、何人かの参加者は時が止まるような感覚を覚えただろう。あるいは、加頭自身もそうだったのかもしれない。
だが、死んだ人間のために時間を割いていては、この先とても大事なことを聞き逃してしまうこととなる。
だから、ここで現実を受け入れきれなかった人間は、後で自分にそれが跳ね返ってくることになる。
【】
「次に、禁止エリアの発表です。これを聞き逃すと皆さんの命にも関わるので、聞き逃すことのないようお気をつけください。
それでは、今後6時間で禁止エリアとなる区域の発表です。
7時にE10エリア、9時にG3エリア、11時にB5エリア
以上3エリアとなります。
まだ時間も経っていないので、今回はまだ皆さんが自由に行動できるようソフトに選びましたが、次回以降はどうなるかわかりません。
──────さて、以上が第一回放送となります。
おおよその流れは掴めましたか?
万が一、大事な人の名前が呼ばれたとしても、まだ勝機はありますので、安心してください。
それでは、6時間後に皆さんが再びこの放送を聞くことが出来るよう……」
「ピンポンパンポ~ン♪」
【】
万が一、大事な人の名前が呼ばれたとしても…………。
そうだ、彼は今、その人の名前を呼んだ。
そして、その人の魂が再び現世に現れることを、彼自身も十二分に望んでいる。
園咲冴子さん。
……こんなに早く心がぶれてしまうとは。────彼女が死ぬのは、もっと後だと思っていた。
何にせよ、彼はショックだった。心の底よりショックだったのだ。
今頃気づいたが、随分と美しい名前である。他の17人の名前を呼ぶときは何も感じなかったのに、この名前だけは特別だった。
いや、まだきっと大丈夫だ。
死者18名の魂はまだ何処かに存在している。進行役に過ぎない彼は詳しくは知らないが、この戦いで死んだ人間の魂はどこかに現存するらしい。
例えば、ソウルジェムを砕かれたほむらやマミの場合でも、確かにそうである。
むしろ、彼女たちは奇跡と魔法のある世界の住人なのだから、まあ生き返ることができるのは当然といえば当然かもしれない。
とにかく、冴子はまだ、完全には死んでいない。
加頭はそう信じていた。
実際のところ、100パーセント本当に信じていいのかどうかはわからないが、それは加頭にそう信じさせるほどの力の持主が加頭の上に立っているということなのである。
それに、加頭だって、一度死んでいるのだ。────この名簿の中にもある、
大道克己という男の手によって。
だから、疑う余地もないし、やがて「彼女も自分と同じ、死んだ人間になれる」────彼女が加頭に近付いていく、そんな期待と高揚さえ感じ始めていた。
既に、放送を聞いた各々がなんらかの反応を起こしている。
その様子を見に行くため、彼は放送室を出た。────
園咲霧彦や、井坂深紅朗の様子が気になったのだ。
本来、大道克己や
バラゴの様子も気になるのだが、それは霧彦や井坂が冴子の死をどう受け止めたかを確認してからでいい。
【】
以下は参加者に聞こえた放送内容まとめ。
(放送開始)
「ピンポンパンポ~ン♪」(高音)
「皆さん、おはようございます。最初に申しあげたとおり、六時間ごとに当局から放送を行います。
お忘れだった方のために、一分間だけメモの準備を行うための時間を取るので、既に準備を行っている方は少しだけ待ってください」
(1分間の休憩)
「──────それでは、第一回放送を始めます。
まずは、残念ながらこの六時間で退場となってしまった死亡者の発表です。五十音順に発表するので、名簿の上から見て行ってください。
人数も多いので、発表は一度だけとなります。準備はよろしいですか?
…………それでは、発表します。
相羽ミユキさん、暁美ほむらさん、池波流之介さん、鹿目まどかさん、来海えりかさん
シャンプーさん、ズ・ゴオマ・グさん、園咲冴子さん、高町なのはさん、照井竜さん
巴マミさん、ノーザさん、速水克彦さん、フェイト・テスタロッサさん、腑破十臓さん
本郷猛さん、三影英介さん、ユーノ・スクライアさん
以上18名、残り生存者の人数は48名です」
(10秒間の休憩)
「次に、禁止エリアの発表です。これを聞き逃すと皆さんの命にも関わるので、聞き逃すことのないようお気をつけください。
それでは、今後6時間で禁止エリアとなる区域の発表です。
7時にE10エリア、9時にG3エリア、11時にB5エリア
以上3エリアとなります。
まだ時間も経っていないので、今回はまだ皆さんが自由に行動できるようソフトに選びましたが、次回以降はどうなるかわかりません。
──────さて、以上が第一回放送となります。
おおよその流れは掴めましたか?
万が一、大事な人の名前が呼ばれたとしても、まだ勝機はありますので、安心してください。
それでは、6時間後に皆さんが再びこの放送を聞くことが出来るよう……」
「ピンポンパンポ~ン」(低音)
(放送終了)
最終更新:2012年07月01日 20:54