自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

214 外伝37

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86 :外伝:2009/04/29(水) 09:08:58 ID:p7nj.31.0
1484年(1944年)7月19日 午後7時 カレアント公国クズツォネフ
北大陸にむけて進発する輸送船への乗船をいよいよ明日に控えたカレアント第一機械化騎兵旅団のキャン
プでは、部隊を挙げての焼肉パーティーが開かれていた。
カレアント軍では伝統的に大きな作戦の前には士気高揚と戦友意識の強化を目的として大規模な宴会が敢
行される。
そしてカレアント軍で宴会といえば何がなくとも焼肉であった。
野営地のあちこちで石を積み重ねた竃が組まれ、木炭で熱した鉄板の上に肉や野菜や魚やチーズ、その他
諸々の食材がてんこ盛りに乗せられる。
キャンプの中央には工兵中隊が架橋資材を流用して作ったステージが組まれ、大鎌を生やした車輪の中にア
ラビア数字の1をあしらった第一機械化騎兵旅団のシンボルマークが描かれた大パネルをバックに、隊員有
志で結成された「ホイール・オブ・デスサイズ・バンド」が「ワン・オクロック・ジャンプ」や「ムーンラ
イト・セレナーデ」といったアメリカ発のヒットナンバーを演奏している。
ファメル・ヴォルベルク准将は野営地内を散策し、陽気に騒ぐ部下達に気さくに話しかけていた。
「これは旅団長閣下!」
グルアロス・ファルマント伍長がおどけた調子で敬礼する。
普段なら命が惜しくないかのような行動だが、今夜は無礼講だ。
「やあグルアロス、親指はもう大丈夫かい?」
ファメルの軽口に周囲はどっと沸き、伍長はかなり酒が入っている顔をさらに赤くした。
三日前の射撃訓練でグルアロスは右手の親指を負傷していたのだ。
M1ライフルは手動でボルトを引いて薬室を開放し、八発一組のクリップを指で押し込んで給弾するのだが、
時として不注意な兵士が復座するボルトに指を挟まれてしまう。
これが俗に言う「M1親指」で猛烈に痛いだけでなく、内出血で指先が紫色に腫れ上がるのでみっともない
ことこの上ない。
「あれは俺に恥をかかせようとするアメリカ人の陰謀ですよ!」
グルアロスはむきになって言った。
「俺がハリウッドに乗り込んだら、エロール・フリンもクラーク・ゲイブルも失業しちまうってんで、連中
今のうちに俺を潰そうと企んでるんです」
「じゃあ明日の朝、目がさめたら同じベッドでジェーン・ラッセルが裸で寝てた。なんてことがないように、
君にはたった今から部隊がここを引き払うまで簡易便所の埋め戻しをしてもらおうかな?」
「スミマセン俺が調子こいてました…」
土下座するグルアロス。
「盛り上がってるわね~」
背後からかけられた声を聞いたファメルが凍りつく。
ギイイイ~、とどこぞのデスメタルバンドのドラマーのような擬音とともに振り向くと、そこにいたのは―
「げえ、関羽!…じゃなくって女王陛下!?!」
そう、我らのお騒がせ姫レミナ・カンレアクその人であった。

87 :外伝:2009/04/29(水) 09:10:56 ID:p7nj.31.0
「な、何故ここに…」
ダラダラと脂汗を流すファメル。
緻密な計算と腹の読み合いに長けたファメルも、裏表が無くノリと直感で行動するくせに運命の女神にえこ
贔屓されているとしか思えないレミナは苦手だった。
「陣中見舞いに来たのよもちろん」
満面の笑みを浮かべてレミナが言う。
楽しい玩具を手に入れた子供の笑みだった。
「そ、そうだ。ファルマント曹長!」
ファメルは厄介な来訪者を幼馴染に押し付けようとしたのだが――
「エリラならさっき救護班に運ばれてったわよ」
「なんですと!?」
「ちょっと驚かせてやろうと思って後ろから忍び寄って、首筋に手刀を入れたら一発で気絶しちゃうんだも
の。訓練が足りないんじゃない?」
「無茶言わんでください」
レミナの格闘術は「鉄人」カラマンボ元帥直伝なのだ、カレアント全軍でも対等に渡り合える者はそうはい
ない。
そんなレミナと幼少の頃より肉体言語で絆を深めてきたエリラ。
何かもう強敵と書いて「とも」と呼ぶ世界である。
「それはともかくまずは一杯」
レミナはアルコール度数ではウォトカすら上回るカレアントの地酒の大瓶を魔法のように取り出すと、グラ
スになみなみと注いでファメルに突きつける。
「せっかくですが本官には部隊を纏める責務がありますので酒は…」
顔を引き攣らせて辞退しようとするファメルだったが、他人を肴に遊ぶときのレミナの押しの強さはこの時
期アメリカ軍が試作していた重突撃砲T-95以上だった。
「私の酒が飲めないとでも言うのかな?かな?」

「はあ、すっかり出遅れちゃった…」
野営地に向うジープの助手席で、ココ・カリメル中尉は猫耳をヒクつかせた。
第一機械化騎兵旅団で司令部付き連絡将校を務めるココは、船団指揮官とタイムスケジュールの最終確認を
行うため、護送部隊陸上本部の置かれたエスピリットゥ・サントに出張していたのだが、帰隊のため足とし
て使っているL-4B連絡機に乗り込みエンジンを始動した途端、シリンダーヘッドの一つがカウリングを
ブチ抜き、迫撃砲弾のように飛んで行ってしまった。
グラスホッパーをエスピリットゥ・サントに残しクズツォネフに飛ぶC-46の定期便に便乗、旅団の野営
地から20マイル離れた飛行場で迎えのジープと落ち合ったときには、すでにパーティーが始まってから二
時間が経過していた。
「みんな盛り上がってるだろうなあ」

88 :外伝:2009/04/29(水) 09:13:32 ID:p7nj.31.0
「ええ、蝶・サイコー!ってなもんですよ」
ハンドルを握るバラコ・バレンコール一等兵が笑いながら答える。
「なんたって女王陛下の飛び入り参加なんてサプライスもありましたしね」
「来てるんだ…」
お祭騒ぎのあるところ、必ずどこからともなく現れるレミナの神出鬼没ぶりに、つい自分たちの国家元首で
あるにもかかわらず呆れてしまうココ。
「ほんと残念でしたね、陛下に無理矢理飲まされる旅団長なんて滅多にない見世物を見逃すなんて」
「なんですって!」
突然の切羽詰った声に隣りを見ると、ココの顔は空中に飛び出してから落下傘を着け忘れていたことに気付
いたパラトルーパーのように強張っていた。
「旅団長は陛下にお酒を飲まされたの?」
「え、ええ。それが何か…?」
返事は切羽詰った絶叫だった。
「全速前進!フルスピード!!」
「な、何事っスか!?」
「早く止めないと大変なことになるのよ!」
「だから何なんです!?」
「ファメル准将はどうして酒を断ってると思う?」
「知りませんよ!」
質問を質問で返されついバラコの声も大きくなる。
「准将はね、酒乱なの」
押し殺した声は苦渋に満ち満ちていた。
「はい…?」
間の抜けた顔でココを凝視するバラコ。
彼の中では常に沈着冷静で自信に満ちた普段のファメルと、酒乱という言葉の意味するものが、どうにも結
びつかなかった。
「でもそんな話、噂にも聞いてないっスよ?」
「当然よ、准将が前に『アレ』をやらかしたのはまだ少尉だった頃だし、当時の部下で生き残ってるのはも
う私だけだもの」
童顔で背の低いココは実年齢より若く見られがちだが、ファメルが新米将校の頃から共に前線勤務を続けて
きたエクスペルテン(古強者)である。
などと話している間にもジープは野原とキャンプを仕切る金網のフェンスに接近していく。
ココの耳に、悲鳴混じりのどよめきが聞こえる。
「遅かった…」
宴会場に突っ込み、急ブレーキをかけたジープのボンネットを飛び越えて、前方宙返りで着地を決めたココ
が目にしたのは、乱心した指揮官を取り押さえようとステージに上がる第一機械化騎兵旅団の将兵達を、踊
るような体捌きで蹴散らしながら服を脱いでいくファメルの姿だった。
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