※投稿者は作者とは別人です
531 :外パラサイト:2010/07/09(金) 22:02:36 ID:6LiHdjEo0
1484年(1944年)11月18日 トハスタ領コルザミ
ト ハスタ領主イロノグ・スレンラド侯爵から行政官に指名され、コルザミ地方の治安責任者となっているアロンゾ・ダムホイス卿の館では、現地の守備隊と協力し て住民の救出を行うために派遣されたアメリカ陸軍第81機甲砲兵大隊本部中隊の兵士たちが、ダムホイス邸の庭先の芝生の上にテントを張って臨時の野戦司令 部を設置し、無線器を使って各方面と連絡をとったりジープに分乗した偵察隊を送り出したりと忙しく働いている。
「どうにか全員無事に避難できそうですな」
「あなた方の協力のおかげですよ」
ダムホイス卿と第81機甲砲兵大隊の指揮官であるボイド・スライデル中佐は、どちらからともなく歩み寄るとがっちりと力強い握手を交わした。
最初はぎこちなさが目立った共同作戦だったが、ゾンビという共通の敵を相手に無力な一般市民を守るため一致協力して戦ううちに、わだかまりはすっかり無くなっていた。
そしてコルザミ地方の住民が完全に避難する目処が立ち、一瞬ホッとした空気が流れたところで、無線士が緊急連絡を告げた。
「オポルト砦に逃げ遅れた住民がいるだと!」
「なんですそれは?」
「オ ポルト砦はクリヌネルズ街道を見下ろす丘の上に建てられた大昔の城塞です。現在は老朽化が激しく防衛拠点としの機能はないので長らく無人となっていたので すが、おそらくアメリカ軍の接近に怯えた近隣の村人が自主的に避難していたのでしょう…今の今まで気付かなかった私のミスです」
苦渋に満ちた顔をするダムホイスとスライデル。
救出に赴こうにもダムホイスもスライデルも手持ちの戦力のほとんど全てを米軍占領区域に向けて出発した避難民のグループに貼り付けてしまっている。
「なんとか救援を…」
「だがすぐに使える手駒がない…」
「わたくしが参りますわ!」
館のドアを蹴り開けて、燃えるような赤毛の巨乳美少女が現れた。
「ヘールトロイド、出すぎた真似をするなとあれほど…」
「今は礼儀作法がどうこう言っている場合ではありませんことよお父様」
ズンズンとダムホイスの前にやって来た少女はあっけに取られたスライデルに向き直ると、大きく胸元の開いたドレスのスカートを持ち上げ、優雅に一礼してみせる。
「はじめましてアメリカの御方。ダムホイス家の長女、ヘールトロイドでございます」
我に帰ったスライデルは慌てて勇敢な少女を思いとどまらせようとする。
「さっき自分が行くとおっしゃいましたがお嬢さん、あなたのようなレディが進んで命を投げ出すような行為を許すわけには…」
ヘールトロイドは右手を突き出し、素早く呪文を唱える。
開いた手のひらに生まれた火の玉が矢のように飛んで、庭木の一本を真ん中からへし折った。
「ご心配なく、これでも魔法士官学校で主席を争った腕前ですの」
ついでに良家の子息と浮名を流しまくって放校処分になっているのだが。
532 :外パラサイト:2010/07/09(金) 22:03:47 ID:6LiHdjEo0
「だが娘よ、報告によれば砦を包囲している生ける死者は二千人を越えているのだぞ、いくらお前でもたった一人では…」
「ご心配なく、フレイムを連れていきますわ」
「おお、その手があったか!」
ダムホイス卿はポンと手を打った。
フレイムというのはダムホイス家で飼育されているサラマンダーの名前である。
サラマンダーはワイバーンと同じ魔法生物で、ワイバーンがどちらかというとドラゴン寄りなのに対し、サラマンダーは純然たるトカゲに近い。
炎 のブレスと並の剣ではキズひとつ付かない丈夫な皮膚を持ち、陸戦の花形として活躍した時代もあったが、より使い勝手がよく高性能の大砲やゴーレムが登場す ると主力の座を追われ、現在では辺境の火山地帯に生息する野生種のほかは、少数の好事家が稀少なコレクターズアイテムとして飼育するのみとなっている。
ダムホイス家のワイバーンは曽祖父の代から飼われてきた軍用モデルの最終進化形態で、その年齢は二百歳を越え、ボリュウムはシャーマン戦車に匹敵する。
ヘールトロイドに連れ添われ庭先までやって来たフレイムの威容に驚くスライデルだったが、いかにも爬虫類然としたスローモーな動きを見て顔を顰める。
「これではとても間に合わないのでは?」
「確かに自力で行軍させるにはいささか歩みが遅すぎるでしょうが、アレに乗せれば問題ありませんわ」
ヘールトロイドが指差した先には一台のM39装甲車が駐車してあった。
M39はM18戦車駆逐車の砲塔を外し、オープントップの兵員室を設けた多用途装甲車で、兵員輸送や重砲の牽引に使われている。
ヘールトロイドの指示を受けたフレイムがM39によじ登ると、見物していた兵士の一人が叫んだ。
「き、恐竜戦車!?!」
「何だそりゃ?」
「いや…電波を受信したというか、そう言わなきゃいけないような気がして…」
こうしてM39に跨ったフレイムとその背中に乗ったヘールトロイド、護衛のジープとハーフトラックで編成された救出隊がオポルト砦に到着すると、砦を包囲したゾンビの群れが今にも城門をこじ開けようとしていた。
「薙ぎ払え!」
ヘールトロイドの命令を受け、フレイムの口から紅蓮の炎が迸る。
たかが火といっても二百年を生きたサラマンダーのブレスである、その火力は歩兵用の火炎放射器の比ではない。
ひと吹きで五十体近いゾンビが消し炭と化した光景に、砦の中から歓声があがった。
フレイムのブレスとヘールトロイドの魔法、ジープとハーフトラックに搭載された重機関銃の火力によって、二千のゾンビが駆逐されるのに要した時間は十分足らずだった。
その後もヘールトロイドとフレイムはアメリカ軍への協力を続け、トハスタ領内でのゾンビ掃討作戦に貢献することによって、ダムホイス家の名声を大いに高めることになる。
531 :外パラサイト:2010/07/09(金) 22:02:36 ID:6LiHdjEo0
1484年(1944年)11月18日 トハスタ領コルザミ
ト ハスタ領主イロノグ・スレンラド侯爵から行政官に指名され、コルザミ地方の治安責任者となっているアロンゾ・ダムホイス卿の館では、現地の守備隊と協力し て住民の救出を行うために派遣されたアメリカ陸軍第81機甲砲兵大隊本部中隊の兵士たちが、ダムホイス邸の庭先の芝生の上にテントを張って臨時の野戦司令 部を設置し、無線器を使って各方面と連絡をとったりジープに分乗した偵察隊を送り出したりと忙しく働いている。
「どうにか全員無事に避難できそうですな」
「あなた方の協力のおかげですよ」
ダムホイス卿と第81機甲砲兵大隊の指揮官であるボイド・スライデル中佐は、どちらからともなく歩み寄るとがっちりと力強い握手を交わした。
最初はぎこちなさが目立った共同作戦だったが、ゾンビという共通の敵を相手に無力な一般市民を守るため一致協力して戦ううちに、わだかまりはすっかり無くなっていた。
そしてコルザミ地方の住民が完全に避難する目処が立ち、一瞬ホッとした空気が流れたところで、無線士が緊急連絡を告げた。
「オポルト砦に逃げ遅れた住民がいるだと!」
「なんですそれは?」
「オ ポルト砦はクリヌネルズ街道を見下ろす丘の上に建てられた大昔の城塞です。現在は老朽化が激しく防衛拠点としの機能はないので長らく無人となっていたので すが、おそらくアメリカ軍の接近に怯えた近隣の村人が自主的に避難していたのでしょう…今の今まで気付かなかった私のミスです」
苦渋に満ちた顔をするダムホイスとスライデル。
救出に赴こうにもダムホイスもスライデルも手持ちの戦力のほとんど全てを米軍占領区域に向けて出発した避難民のグループに貼り付けてしまっている。
「なんとか救援を…」
「だがすぐに使える手駒がない…」
「わたくしが参りますわ!」
館のドアを蹴り開けて、燃えるような赤毛の巨乳美少女が現れた。
「ヘールトロイド、出すぎた真似をするなとあれほど…」
「今は礼儀作法がどうこう言っている場合ではありませんことよお父様」
ズンズンとダムホイスの前にやって来た少女はあっけに取られたスライデルに向き直ると、大きく胸元の開いたドレスのスカートを持ち上げ、優雅に一礼してみせる。
「はじめましてアメリカの御方。ダムホイス家の長女、ヘールトロイドでございます」
我に帰ったスライデルは慌てて勇敢な少女を思いとどまらせようとする。
「さっき自分が行くとおっしゃいましたがお嬢さん、あなたのようなレディが進んで命を投げ出すような行為を許すわけには…」
ヘールトロイドは右手を突き出し、素早く呪文を唱える。
開いた手のひらに生まれた火の玉が矢のように飛んで、庭木の一本を真ん中からへし折った。
「ご心配なく、これでも魔法士官学校で主席を争った腕前ですの」
ついでに良家の子息と浮名を流しまくって放校処分になっているのだが。
532 :外パラサイト:2010/07/09(金) 22:03:47 ID:6LiHdjEo0
「だが娘よ、報告によれば砦を包囲している生ける死者は二千人を越えているのだぞ、いくらお前でもたった一人では…」
「ご心配なく、フレイムを連れていきますわ」
「おお、その手があったか!」
ダムホイス卿はポンと手を打った。
フレイムというのはダムホイス家で飼育されているサラマンダーの名前である。
サラマンダーはワイバーンと同じ魔法生物で、ワイバーンがどちらかというとドラゴン寄りなのに対し、サラマンダーは純然たるトカゲに近い。
炎 のブレスと並の剣ではキズひとつ付かない丈夫な皮膚を持ち、陸戦の花形として活躍した時代もあったが、より使い勝手がよく高性能の大砲やゴーレムが登場す ると主力の座を追われ、現在では辺境の火山地帯に生息する野生種のほかは、少数の好事家が稀少なコレクターズアイテムとして飼育するのみとなっている。
ダムホイス家のワイバーンは曽祖父の代から飼われてきた軍用モデルの最終進化形態で、その年齢は二百歳を越え、ボリュウムはシャーマン戦車に匹敵する。
ヘールトロイドに連れ添われ庭先までやって来たフレイムの威容に驚くスライデルだったが、いかにも爬虫類然としたスローモーな動きを見て顔を顰める。
「これではとても間に合わないのでは?」
「確かに自力で行軍させるにはいささか歩みが遅すぎるでしょうが、アレに乗せれば問題ありませんわ」
ヘールトロイドが指差した先には一台のM39装甲車が駐車してあった。
M39はM18戦車駆逐車の砲塔を外し、オープントップの兵員室を設けた多用途装甲車で、兵員輸送や重砲の牽引に使われている。
ヘールトロイドの指示を受けたフレイムがM39によじ登ると、見物していた兵士の一人が叫んだ。
「き、恐竜戦車!?!」
「何だそりゃ?」
「いや…電波を受信したというか、そう言わなきゃいけないような気がして…」
こうしてM39に跨ったフレイムとその背中に乗ったヘールトロイド、護衛のジープとハーフトラックで編成された救出隊がオポルト砦に到着すると、砦を包囲したゾンビの群れが今にも城門をこじ開けようとしていた。
「薙ぎ払え!」
ヘールトロイドの命令を受け、フレイムの口から紅蓮の炎が迸る。
たかが火といっても二百年を生きたサラマンダーのブレスである、その火力は歩兵用の火炎放射器の比ではない。
ひと吹きで五十体近いゾンビが消し炭と化した光景に、砦の中から歓声があがった。
フレイムのブレスとヘールトロイドの魔法、ジープとハーフトラックに搭載された重機関銃の火力によって、二千のゾンビが駆逐されるのに要した時間は十分足らずだった。
その後もヘールトロイドとフレイムはアメリカ軍への協力を続け、トハスタ領内でのゾンビ掃討作戦に貢献することによって、ダムホイス家の名声を大いに高めることになる。