540 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:41 [ imAIk9NE ]
「ま、まさか・・・。」
この男の登場に一番のショックを受けたのはイルマヤ候だっただろう。
様々な策略の上、大金をかけた策が全く無意味だったのだから。
「・・・僅かにマナの干渉波がすると思ったら・・・一体、どうしたのだ?
できれば、マナを引き付ける状態を維持するのは疲れるので早く止めて貰いたいのだが。」
イルマヤ候はまだ震える声で叫んだ。
「これは、決闘だ!騎士の誇りにかけて邪魔しないでもらいたい!」
しかし、イルマヤ候が言う言葉を聞いていたのか、居ないのか、ファンナがアルクアイに駆け寄った。
「アルクアイーっ!良かった、良かったよー。ふえぇぇ・・・。」
そしてファンナはそのままアルクアイにしがみつき、泣き出した。
アルクアイは魔道兵器をそっと懐にしまい、ファンナを抱きしめた。
しかし、その目は非常に穏やかに 見えた。
「この様子を見る限り、双方が望んだ決闘には見えないが・・・。」
「なっ・・・無礼な!」
「何が無礼か!!」
イルマヤ候が言いかけた言葉をアルヴァールは広間を揺らすほどの声でかき消した。
「そもそもここは神聖なる王城!血で濡れることなどあってはならない!候は忘れたか!」
「ぐっ・・・っ!」
イルマヤ候は剣を降ろし、アルヴァールを睨んだ。
確かに戦争をやってきたのだろう、あちこちが砂や泥で汚れている、
しかし奇妙な点が一つあった、それは手袋についたまだ黒ずんでもいない真新しい血だった。
541 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:42 [ imAIk9NE ]
イルマヤ候は最後の悪あがきをした。
「魔術大臣、この王城を血で濡らしてはいけないと言うのならばその手は何なのか!明らかにここ僅かの間に人を殺めた証拠ではないのか!?」
ここでアルクアイを殺しておかねばこの会議では全てが終わる。彼はそうわかっていた。
しかしその悪あがきは更なる絶望を持って返された。
アルヴァールが何かボソボソと呟き何かの印を描くと、2つの黒い塊が扉から広間の真ん中へと飛び込んできたのである。
「な、なんだこれは!?」
「よく見てもらいたい。」
アルヴァールの言葉に従い、その場に居る全員がその塊を見た。そして、声が上がった。
「ひっ、死体だ!」
「いや、こいつは見覚えがある!」
「王城に殺気を漲らせた者が二名ほどいたのでね・・・処理をしておいた。」
二つの塊の内一つは身体が半分に千切れかかってはいるものの、紛れも無く狂犬の一人だった。
一瞬で風穴を空けられたのだろう、驚きに目を見開いたまま、死んでいた。
恐らくもう一人も狂犬には変わりは無いだろう。
しかし驚くべきは投げ出された二人の死体からは血が一滴も出ていないことであった。
「これ以上ここを血で汚そうというのなら、私がお相手させてもらうが。」
イルマヤ候の頬が引きつった。
542 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:43 [ imAIk9NE ]
それから二日後。
その後の後継者決めは淡々と進められた。
狂犬を使った脅しが破られた以上、もうイルマヤ候に味方しようと言う者は僅かしか居なかった。
そしてアルヴァールの推しによって正統継承者であるアシェリーナ姫が
次代の王と決定したのであった。
そしてアルヴァールに次ぎアシェリーナを推したアルクアイ(正確にはウェルズ)がその補佐に選ばれるだろう、
というのが大方の意見であった。
ここまでは完全に、アルクアイの思い通りであった。
そう、ここまでは。
543 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:44 [ imAIk9NE ]
「我々は貴殿らと通商関係を結びたいと考えています。」
日本側のこの一言は相手の興味を引き出すのに十分であった。
貿易で欲しい物資、それがそのままこのニホンの弱点なのだから。
「ほう・・・では、何がお望みですか?」
「食料です。」
米は足りている、ならばニホンが必要なのは主食以外の食料品であった。
主食ではないからと言って侮ってはならない、これを欠けば国民の不満は溜り、
国民の不満は国家を揺るがすに至るのだから。
「食料・・・そちらの国では飢餓が発生しているのですか?」
アルマンは悩んだ、飢餓が発生しているような国ならば、食料を求めて攻め入ってくる可能性が高い、
強い軍事力を持っているのならば尚更それは恐怖であった。
しかし日本側の次の一言は彼を安心させ、そして驚愕させた。
「いえ、それはありません。我々の主食・・・米というのですが、は十分に足りています。
国民が一日三食食べるだけの量は確保してありますよ。」
米はアジェントにもある、しかしこの手のかかる生産物をアジェントは主食と言い切れなかった。
たしかに貴族レベルになれば一日三回米を食べることができる。
だが、貧農では一日二回、麦で作ったパンなどがせいぜいなのだ。
しかし、このニホンとやらは国民一人ひとりが一日三回米を食べている。
つまり国民全てがこちらの貴族並の生活を送っているともいえるのだ。
そしてそれだけの輸出食料をラーヴィナ領だけでまかなえるかどうかは疑問だった。
ニホンの外交官は言葉を続けた。
544 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:45 [ imAIk9NE ]
「そして、次に我々が欲しいのは、鉄・・・及び銅などの資源です。」
燃料・・・石油のような即戦争に繋がることを聞くのは相手を刺激しかねない、
次に日本側が聞いたのは現在日照りにあっている工業を復活させるための資源確保であった。
そしてアルマンは遂にこの質問が来た、と思った。
アルクアイはアルマンに言っていた、
「相手が鉄のことを口に出したときが本当の外交の始まりだ。」と、
そしてアルマンはアルクアイの言葉通りの言葉を言った。
「鉄ならば、貴国の前に召還された島の一つに大規模な鉄山が存在します。しかし、これは王家領ですが。」
「つまり・・・輸入できない、ということですか?」
「はい、“輸入”はできません。ですがここの鉄を手に入れることは出来ます。」
日本側の外交官は眉をひそめた、何を言いたいのかが薄々分かってしまったのが恐ろしい。
「今こそ言います。我らの主、ラーヴィナ候は召還された島々の人々が奴隷として
虐待を受けるのに、常々、気の毒だと心を痛めていらっしゃいました。
だからこそ、貴国にはこれらの島々をアジェント王家の奴隷支配から開放して欲しいのです。」
545 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:46 [ imAIk9NE ]
会議では王位継承者が滞りなく決まり、後はその補佐役を決めるのみとなった。
そして、アルヴァールは大臣であるために、補佐役にラーヴィナ候ウェルズが任命される。
誰もがそう思っていた。
しかし、アルヴァールはここで誰もが耳を疑うような一言を発した。
「では、アシェリーナ様の補佐役は由緒正しい家柄であり、その権威も高いイルマヤ候にやって頂きたいのですが、よろしいですね。」
「なっ!」
アルクアイを含め誰もがそう言った、イルマヤ候本人ですらだった。
アシェリーナ姫が王位継承者となるのに一番反対していたのが彼だったのだから。
「それがアシェリーナ様の所存ですが、お受け頂けないか?」
「なっ、い、いや、願っても無い。微力を尽くす所存でございます。」
イルマヤ候は誰も座っていない王の椅子に向かい、平伏した。
だが、彼はアシェリーナの元ではアルヴァールが居る限りその権力はほとんど無に等しいことは、
誰の目にも明白であった。
そして自然に目が向くのはアルクアイであった。
見た目には微笑を保っているものの、その精神が動揺しているのはまた、誰の目にも明白だった。
そしてその彼に共振通信が繋がれた。
今、ここで彼に共振を繋げる人間は二人しか居ない。
すぐ隣に居るファンナと、全ての魔術師に共振を繋げるアルヴァールだけであった。
そして彼に今共振を繋いでいるのは、彼が今最も憎々しく思っている男であった。
―――アルクアイ・・・全てが自分の思い通りになると思うな―――
そして共振は切られた。
負けた。アルクアイは生涯で初めてそう思った。
「ま、まさか・・・。」
この男の登場に一番のショックを受けたのはイルマヤ候だっただろう。
様々な策略の上、大金をかけた策が全く無意味だったのだから。
「・・・僅かにマナの干渉波がすると思ったら・・・一体、どうしたのだ?
できれば、マナを引き付ける状態を維持するのは疲れるので早く止めて貰いたいのだが。」
イルマヤ候はまだ震える声で叫んだ。
「これは、決闘だ!騎士の誇りにかけて邪魔しないでもらいたい!」
しかし、イルマヤ候が言う言葉を聞いていたのか、居ないのか、ファンナがアルクアイに駆け寄った。
「アルクアイーっ!良かった、良かったよー。ふえぇぇ・・・。」
そしてファンナはそのままアルクアイにしがみつき、泣き出した。
アルクアイは魔道兵器をそっと懐にしまい、ファンナを抱きしめた。
しかし、その目は非常に穏やかに 見えた。
「この様子を見る限り、双方が望んだ決闘には見えないが・・・。」
「なっ・・・無礼な!」
「何が無礼か!!」
イルマヤ候が言いかけた言葉をアルヴァールは広間を揺らすほどの声でかき消した。
「そもそもここは神聖なる王城!血で濡れることなどあってはならない!候は忘れたか!」
「ぐっ・・・っ!」
イルマヤ候は剣を降ろし、アルヴァールを睨んだ。
確かに戦争をやってきたのだろう、あちこちが砂や泥で汚れている、
しかし奇妙な点が一つあった、それは手袋についたまだ黒ずんでもいない真新しい血だった。
541 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:42 [ imAIk9NE ]
イルマヤ候は最後の悪あがきをした。
「魔術大臣、この王城を血で濡らしてはいけないと言うのならばその手は何なのか!明らかにここ僅かの間に人を殺めた証拠ではないのか!?」
ここでアルクアイを殺しておかねばこの会議では全てが終わる。彼はそうわかっていた。
しかしその悪あがきは更なる絶望を持って返された。
アルヴァールが何かボソボソと呟き何かの印を描くと、2つの黒い塊が扉から広間の真ん中へと飛び込んできたのである。
「な、なんだこれは!?」
「よく見てもらいたい。」
アルヴァールの言葉に従い、その場に居る全員がその塊を見た。そして、声が上がった。
「ひっ、死体だ!」
「いや、こいつは見覚えがある!」
「王城に殺気を漲らせた者が二名ほどいたのでね・・・処理をしておいた。」
二つの塊の内一つは身体が半分に千切れかかってはいるものの、紛れも無く狂犬の一人だった。
一瞬で風穴を空けられたのだろう、驚きに目を見開いたまま、死んでいた。
恐らくもう一人も狂犬には変わりは無いだろう。
しかし驚くべきは投げ出された二人の死体からは血が一滴も出ていないことであった。
「これ以上ここを血で汚そうというのなら、私がお相手させてもらうが。」
イルマヤ候の頬が引きつった。
542 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:43 [ imAIk9NE ]
それから二日後。
その後の後継者決めは淡々と進められた。
狂犬を使った脅しが破られた以上、もうイルマヤ候に味方しようと言う者は僅かしか居なかった。
そしてアルヴァールの推しによって正統継承者であるアシェリーナ姫が
次代の王と決定したのであった。
そしてアルヴァールに次ぎアシェリーナを推したアルクアイ(正確にはウェルズ)がその補佐に選ばれるだろう、
というのが大方の意見であった。
ここまでは完全に、アルクアイの思い通りであった。
そう、ここまでは。
543 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:44 [ imAIk9NE ]
「我々は貴殿らと通商関係を結びたいと考えています。」
日本側のこの一言は相手の興味を引き出すのに十分であった。
貿易で欲しい物資、それがそのままこのニホンの弱点なのだから。
「ほう・・・では、何がお望みですか?」
「食料です。」
米は足りている、ならばニホンが必要なのは主食以外の食料品であった。
主食ではないからと言って侮ってはならない、これを欠けば国民の不満は溜り、
国民の不満は国家を揺るがすに至るのだから。
「食料・・・そちらの国では飢餓が発生しているのですか?」
アルマンは悩んだ、飢餓が発生しているような国ならば、食料を求めて攻め入ってくる可能性が高い、
強い軍事力を持っているのならば尚更それは恐怖であった。
しかし日本側の次の一言は彼を安心させ、そして驚愕させた。
「いえ、それはありません。我々の主食・・・米というのですが、は十分に足りています。
国民が一日三食食べるだけの量は確保してありますよ。」
米はアジェントにもある、しかしこの手のかかる生産物をアジェントは主食と言い切れなかった。
たしかに貴族レベルになれば一日三回米を食べることができる。
だが、貧農では一日二回、麦で作ったパンなどがせいぜいなのだ。
しかし、このニホンとやらは国民一人ひとりが一日三回米を食べている。
つまり国民全てがこちらの貴族並の生活を送っているともいえるのだ。
そしてそれだけの輸出食料をラーヴィナ領だけでまかなえるかどうかは疑問だった。
ニホンの外交官は言葉を続けた。
544 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:45 [ imAIk9NE ]
「そして、次に我々が欲しいのは、鉄・・・及び銅などの資源です。」
燃料・・・石油のような即戦争に繋がることを聞くのは相手を刺激しかねない、
次に日本側が聞いたのは現在日照りにあっている工業を復活させるための資源確保であった。
そしてアルマンは遂にこの質問が来た、と思った。
アルクアイはアルマンに言っていた、
「相手が鉄のことを口に出したときが本当の外交の始まりだ。」と、
そしてアルマンはアルクアイの言葉通りの言葉を言った。
「鉄ならば、貴国の前に召還された島の一つに大規模な鉄山が存在します。しかし、これは王家領ですが。」
「つまり・・・輸入できない、ということですか?」
「はい、“輸入”はできません。ですがここの鉄を手に入れることは出来ます。」
日本側の外交官は眉をひそめた、何を言いたいのかが薄々分かってしまったのが恐ろしい。
「今こそ言います。我らの主、ラーヴィナ候は召還された島々の人々が奴隷として
虐待を受けるのに、常々、気の毒だと心を痛めていらっしゃいました。
だからこそ、貴国にはこれらの島々をアジェント王家の奴隷支配から開放して欲しいのです。」
545 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/05(火) 21:46 [ imAIk9NE ]
会議では王位継承者が滞りなく決まり、後はその補佐役を決めるのみとなった。
そして、アルヴァールは大臣であるために、補佐役にラーヴィナ候ウェルズが任命される。
誰もがそう思っていた。
しかし、アルヴァールはここで誰もが耳を疑うような一言を発した。
「では、アシェリーナ様の補佐役は由緒正しい家柄であり、その権威も高いイルマヤ候にやって頂きたいのですが、よろしいですね。」
「なっ!」
アルクアイを含め誰もがそう言った、イルマヤ候本人ですらだった。
アシェリーナ姫が王位継承者となるのに一番反対していたのが彼だったのだから。
「それがアシェリーナ様の所存ですが、お受け頂けないか?」
「なっ、い、いや、願っても無い。微力を尽くす所存でございます。」
イルマヤ候は誰も座っていない王の椅子に向かい、平伏した。
だが、彼はアシェリーナの元ではアルヴァールが居る限りその権力はほとんど無に等しいことは、
誰の目にも明白であった。
そして自然に目が向くのはアルクアイであった。
見た目には微笑を保っているものの、その精神が動揺しているのはまた、誰の目にも明白だった。
そしてその彼に共振通信が繋がれた。
今、ここで彼に共振を繋げる人間は二人しか居ない。
すぐ隣に居るファンナと、全ての魔術師に共振を繋げるアルヴァールだけであった。
そして彼に今共振を繋いでいるのは、彼が今最も憎々しく思っている男であった。
―――アルクアイ・・・全てが自分の思い通りになると思うな―――
そして共振は切られた。
負けた。アルクアイは生涯で初めてそう思った。