グッドモーニング, ナイトメア

まるで取り付く島がない、と慧音は思った。
露伴がジョースター邸の周りをゆっくりと歩きながら、その家を詳細にスケッチしている間、
慧音は幾度となく声をかけたのだが、そのいずれもが一顧だにしない無視で終わっていたのだ。
そうこうしている内に露伴は再びジョースター邸に近づき、窓やドアが開いているがどうかをチェックし始めた。
岸辺露伴は吉良吉影の暗殺を画策しているのかもしれない。そんなことを思った慧音は「やれやれ」と溜息をこぼすと、
いよいよ一つの決断を実行に移すことにした。


「そういえば、露伴先生は随分と躊躇いなく自分の能力を他人に行使するなぁ」


前を行く露伴に必死に縋ろうとしていた足をピタリと止め、慧音は実に気安く声を放った。
先程まで切羽詰ったような悲哀に満ちた声をしていた彼女の急激な変化に、露伴もたまらず足を止めて訝しげな顔を作る。
だが、そこで振り返らないのは彼の意地か。どうやら、ここで振り返って会話をするのは、露伴にとって負けを意味するらしい。
勿論、彼には敗北を甘受するだけの度量を持ち合わせていない。自分の発言を簡単に翻し、相手のご機嫌を窺うなど、
それこそ敵の靴の裏を舐めるが如き屈辱的な行為だ。しかしそれにも関わらず、露伴はこれから負けを受け入れることになってしまうのだった。


「……今回は露伴先生を見習わせてもらうよ。私も自分の能力を使おう」


未だ呑気に背中を見せる露伴に向かって、慧音は誰よりも不敵に微笑んだ。



      ――

   ――――

     ――――――――



(疲れた)


と、地子は心の中で独りごちた。この異変が始まって以来、彼女はずっと動きっぱなし、戦いっぱなしである。
それでも以前の天人の身体であるのなら、その程度で疲弊など感じるはずもないのだが、生憎と今は人間の身体。
休むことのない酷使には、否応にも身体は悲鳴を上げてしまう。


(っていうか、眠い。お腹空いた。汗がベトベトする。身体を洗いたい。服を着替えたい。下着を履き替えたい。
靴下も新しいのがいい。あ~何が食べたい。喉も渇いた。家の布団でゴロゴロしたい。とにかく横になって休みたい)


世俗的な考えが地子の頭を支配する。それと共に如何に自分が変容を受けきれていないかを、彼女は痛感した。
人間であることを喜ぶのなら、こういった艱難辛苦も受け入れて然るべきなのだ。
それなのに彼女の中にあるのは、みっともない拒絶感だけ。
しかも、これから先ずっと、そういった煩悩に苛まれ続けていかなければならないのだ。
それは控えめに言っても、地獄と形容するのに十分なものであろう。


仗助と敵に立ち向かった時には、確かに輝かしい気持ちがあった。
比那名居地子は人間として、新たに飛翔できる座を得たという感慨があった。
だが、疲労が積み重なり、変容が現実として自らの身体に圧し掛かってくるのを感じると、
途端に地子の中にあった黄金のような精神の輝きは色褪せていくのだった。


(結局の所、私は後悔しているのだろうか?)


心の奥底から湧き出てきた疑問に、地子は躊躇いなく首を振ってみせた。
そこに迷いはない。過去の行いと選択は、誇りにこそ思える。
だけど、人間の身体の不便さと現実を知った今では、どうしても不安が生じてしまうのも、また確かなことであった。


彼女が感じたように人間とは脆く、弱いのだ。その上、寿命も短い。
怪我や病、そして老いで衰えていくことを考慮に入れれば、人間が動ける時間は更に短くなる。
それが変容の結果で得た、天人とは比べることもできない、儚き人間の生なのだ。


光陰矢の如し。まさしく閃光のように、あっという間に人間の時間は過ぎ去り、消えてなくなってしまう。
諸行無常。比那名居天子が人間となって、ようやく手に入れたものも、また同じようにすぐに消えてなくなってしまう。
それが否定のできない人の理だ。だとしたら、地子が天人の座を捨て、仗助と一緒の地に立って得たものに、本当に価値などあったのだろうか。


人間へと変容した比那名居地子。そして身体が聖人の遺体に置き換わっていく比那名居地子。
元にあった自分が失われていくにつれて、彼女は自分のアイデンティティをも失いかけた。
だけど、そんな虚ろな彼女の心の内にあって消えなかったのは、絶対に手放したくないと思った宝物――人との絆だ。
それが地子が人へと到達した理由であり、目的でもある。そしてそこにこそ、彼女の同一性と存在意義は確立される。


比那名居地子は、ようやく変容を受け入れ、自らの足で地に立つことができた。
しかし、そう思った矢先、彼女は祇園精舎の鐘の声を聞いてしまったのだ。
地子は何だか目の前が真っ暗になっていくような気がした。


「あの、地子さん、大丈夫ッスか?」


地子が木刀を杖代わりにして、額に汗を流し、息をゼェゼェと喘がせながら歩いているのを見た仗助は心配げに声をかけてきた。
それを耳にした地子はクワッと目を見開き、疲労なぞ知らんと気炎を上げて答える。


「大丈夫に決まっているでしょ!」


勿論、大丈夫ではない。彼女は今も一杯一杯だ。しかし、男女の違いはあれど、仗助は地子と同じ人間なのである。
その仗助が平気の平左で歩いている横で無様に弱音を吐くなど、彼女のプライドが許せることではない。
とはいえ、疲労は明らかに地子の中に蔓延し、その力を奪っていた。だからであろうか、疲れによって緩んだ彼女の自制心は、
ついついこんなことを口走らせてしまったのだった。


「ねぇ、ジョジョ、貴方にはやり直したいことってある?」


言った瞬間、地子は「しまった」と思った。こんな質問は、悩みを抱えていると自白しているようなものだ。
しかし、今更後悔するのも面倒くさいし、何よりも疲れるので、彼女は言葉を撤回などせずに、
そのまま黙って仗助の答えを待つことにした。


「はあ? 何すか、地子さん、いきなりその質問は?」

「……別に答えたくないなら、それでいいわよ」


ふてくされた顔をして、地子はそっぽを向いた。
そんな子供じみた怒りに仗助は「やれやれ」と頭をかき、大人しく、素直に質問に答え始める。


「そりゃあ、色々とありますよ。お、美味そうだなって思って、ちょっと洒落たレストランに入ってみりゃあ、
値段は高いばかりで味は極普通。そういう時は、他の店にしとけば良かったな~って心の底から思いますね。
それに学校のテストで、あんま良い点が取れなかったら、もっとちゃんと勉強しときゃあな~って後悔したりもします。
まぁ、オレの人生はやり直したいことだらけですね」

「いや、そういうんじゃなくって……」

「あ~、真面目な話っすか? そりゃあ康一や億泰ににとりちゃん、それにこの殺し合いで死んでいった人達のことを思うと
やりきれなさというのは感じますよ。こんな所で、荒木と太田の勝手な我儘で無意味に死んでいく。すげー辛いっす。
出来ることなら、無かったことにしたい。だけど、それで死んだ人間を生き返らせて、やり直そうっていうのは、何か違うと思います。
答えとしては陳腐なものですけれど、命の価値が下がるっていうんですかね。簡単に生産できるような命になったら
やり直しが効く分、その人との関係がおざなりになるような気がするんす。それって、結局の所、相手のことをどうでもいいやって思うことですよね。
オレは康一や億泰に対して、そんな思いは抱きたくないんすよ」

「あっそう」


と、地子は切り捨てた。何か期待していた返答と違っていたのだ。
地子のために、わざわざ長口上を並べ立てた仗助は「こ、このクサレアマァ」と拳をワナワナと震わせる。
そこに前を歩いていたお燐が突如として振り返り、こんなことを言ってきた。


「あたいも、やり直そうっていうのは違うと思うなぁ。それって荒木が最初に言っていた優勝者の願いを叶えるってやつだろう?
優勝するってことはさ、さとり様を殺すってことだ。幾らこいし様やお空に生き返って欲しいからって、
さとり様の死を望んだり、ましてや殺したりするのは、あたいは間違っていると思うよ」

「へーそう」


と、地子は切り捨てた。さとりが死んだら貴方はどうするのよ、とツッコムのが面倒くさかったのだ。
そんな溜息と共に奏でられる地子のぞんざいな対応に、お燐は思わず頬を膨らませる。
と、そこに今度は地子の後ろを歩いていたヴァレンタインが急遽話に参加してきた。


「そのやり直すというのは、死者を復活させることかな? だとしたら、私も反対だな」


自分に辛酸を舐めさせてくれた男の考えに興味を引かれた地子は、さっきとは打って変わって真面目に言葉を返す。


「別にそういう意味で言ったわけじゃないんだけどね。でも、一応訊いとくわ。何で?」

「私が考えるのは、仗助君の言うところの死者の魂の尊厳ではない。その逆の生者としての覚悟だよ。
死とは人間にとっては必然なことだが、この盤上にあっては自然の摂理のことではない。
それはまさしく誰かの悪意によって為されることだ。その悪がまかり通る中で、死ぬことは無意味か?
私は答えよう。決して無意味ではない、と。人の死とは教訓であり、糧なのだ。
無論、死は悼むべき事柄ではあるが、そこからは学ぶべき大切なものが詰まっている。
死というものに忌避を感じるのなら、単なるミスという言葉に置き換えてもいい。
ミスをすることで、自分の至らなさを自覚することができるだろう。
そんな風にして、人は成長していくのだ」

「死は単なるミスだってわけ?」

「それは誤解だ。あくまで分かりやすいように例えを用いただけだ。
それに単なるミスと死とは決定的に違うものがある。それはメッセージの重さだよ。
私の父は敵軍に捕まり、ひどい拷問を受けた末に死んだ。だが、父は最後の最後まで仲間の情報を敵に喋らなかった。
そのおかげで父の味方は敵に勝つことができ、今という世を迎えることができたのだ。
私は父と、その死を誇りに思う。父がいたからこそ、我が祖国アメリカがあるのだとね。
そしてその死を私は決して無駄にしない。私は必ず祖国を繁栄させてみせる。
祖国のために、より良き未来を、必ずこの手に掴んでみせる。それこそが、死によってもたらされる生者の覚悟だ。
だから、死を無かったことにするべきではない。死を覆しては、教訓も何も残らない。
死のない世界では、生者は漫然と生きるだけになるだろうからね」


ふむ、と地子は頷いた。それも彼女が期待していた答えとは違うのだが、足元くらいは照らされるような光を得た感触はあったのだ。
だが、地子の淡白な反応はヴァレンタインには不服だったらしく、彼は続けざまにこんな事を言ってきた。


「国という話は幻想郷に住まう者にとっては理解しづらかったかな。それならば、お燐君の話を例として持ち出そう。
私は家族の幸せにする決意と子孫を繁栄させる覚悟を、父の死によって得たのだよ。これならば、少しは分かりやすいかね?」


ヴァレンタインの発言を耳に入れた瞬間、地子は頭を抱えて煩悶としだした。
そのいきなりな反応にヴァレンタインが年甲斐もなくギョッとする。
大変珍しい光景だが、今の地子はそれに目もくれずに心の中で盛大に叫びだした。


(ウワーーーーーッ!! 忘れていたわ!! 人間って結婚して、子供を生むのよね!!)


勿論、天人にも結婚や出産というものはある。だが、天人と人間とのそれには、明確な違いがあった。
それは適齢期である。もし天人のような時間間隔で日々を過ごしていれば、人間などあっという間に老人だ。
それでは結婚も出産も間に合わない。今の地子の肉体年齢が人間のに換算すると、どれくらいになるかは分からないが、
天人の時の余裕は見せれるはずもない。つまりは、地子はすぐに結婚相手と子供のことを真剣に考えなければならないということだ。


(ある意味、これが一番怖いわ。まるで想像がつかない。っていうか、何をどうすればいいのよ)


人間への変容の受け入れづらさを改めて味わう地子。
だけど幸か不幸か、その悩める時間は終わりを迎えることになった。
苦悶の表情を浮かべている彼女に、仗助が声をかけてきたのだ。


「あの、地子さん、ジョースター邸が見えてきましたよ」


その言葉にハッと我に返った地子は、慌てて仗助が指差す方向に目を向ける。
どうやら、いつの間にか目的地のすぐそこまで来ていたようだ。もう他の皆は到着しているのだろうか。
遠くおぼろげに見える人影を、地子は目を凝らして観察する。


「あれは慧音かしら? 何か緑だし、そうよね。あとは、誰だろう……あ~、前ならもっと良く見え……。
いや、っていうか、あの背格好はそうはいないわよね。あれって吸血鬼じゃないかしら」

「吸血鬼ぃ~?」


不穏当な響きを持った言葉に仗助は拒否反応を示した。
地子も、それを咎めるわけでもなく、逆に深く頷いて危機感を煽る。


「そうね。私もあんまり良い予感がしないわ。先を急ぎましょう」


その場にいた四人は気を引き締めると、急いでジョースター邸へ向かっていった。



      ――

   ――――

     ――――――――



「いやー、実は僕、パチュリー・ノーレッジに会うのが楽しみなんですよ」


岸辺露伴は屈託のない笑みで顔を飾り、慧音に朗らかに話しかけた。
見てみれば、先程まであった彼の刺々しい態度は無くなり、まるでこれから遠足にでも行く小学生のような
るんるん気分でいる。慧音も、それには思わず相好を崩して晴れやかに返事をしてしまう。


「いやー、露伴先生がそう言ってくれて、私も嬉しいよ」


今にも肩を組んでスキップをしそうな二人だが、その急変には然るべき理由があった。
露伴は絶対に態度を軟化させないと見た慧音は、彼のジョースター邸内での歴史と吉良に関する歴史を食べたのだ。
つまり、今の彼にはパチュリーと最悪の出会いをしたこと、そして吉良吉影という人間の記憶がないのである。


言うまでもなく、歴史を食べる程度の能力は慧音が人間の時にのみ持つものだ。
しかし、それにも関わらず、不思議と彼女はワーハクタクの状態で、その能力を行使している。
奇怪な現象ではあるが、当の慧音はそんなことを気にする素振りを見せず、心安らかにいた。
何故なら、露伴は吉良に関心を払うこともなく、これからの出会いを期待して笑っていたのだから。


「いやー、魔法使いっての興味も引きますが、レミリアと夢美先生、
その癖のある二人を引き付ける魅力ってのが何よりも気になりますねえ。
もしかしたら、僕も彼女に惚れてしまうかもしれませんよ? その時はすみませんねえ、慧音先生」


自分の歴史が消失したことなど露知らずに呑気に話を続けていく露伴。
それを聞いていた慧音は安堵した。これで争いの火種は無くなってくれたのだ。
あとはパチュリーと吉良に、この事を言い含めて、出会いを一からやり直してやれば良い。
理性的な彼らのことだ。きっと、どっかの誰かさんと違って、波が立つようなことは控えてくれるだろう。
これで万々歳というやつだ。


「そういえば、夢美先生はどこに行ったんですか?」


慧音がうんうんと一人頷いていると、露伴が辺りを見回しながら訊ねてきた。
彼の記憶では、まだジョースター邸に入っていないのだから、もっともな疑問だ。
だが、慧音は慌てることなく、事前に用意していた答えを述べる。


「彼女なら、朝のお通じがまだだったわ、と言って急いで中に入っていったよ」

「そんなことを、わざわざ口に出して言ったんですか? 全く、夢美先生は品のない人だ。
そこらへんは素直にレミリアを見習って欲しいですね。彼女なら、そんな下品なことは言わない」


ハハハ、と慧音は明るく笑う。何とも愉快な一時だ。
だが、その次の瞬間、彼女の顔は恐怖で青ざめることになった。
露伴が慧音の肩越しにのぞいて、こんなことを言ってきたのである。


「なあ、そうだろう、レミリア?」


その質問の答えが出るよりも早く、慧音は急いで背後に振り返った。
そこには何と傘を差したレミリアが静かに佇み、慧音を冷たく見据えていたのだ。


「レ、レミリア、いつからそこにいたんだ?」


慧音は額に冷や汗が伝うのを感じながら、恐る恐る訊ねた。
人の歴史を食べる行為は、他人の目にどう映るにせよ、慧音にはパチュリーと吉良になら、良き事だと説得できる自信があった。
事態の危急性に比べれば、たった一人の人間の一部の記憶喪失など大したはないと、彼らなら判断してくれるという
確信にも似た期待があったのだ。だが、レミリアの場合は、どうなのであろうか。
異変を起こすような妖怪が、誰彼と構うことはないと思う。しかし、岸部露伴はレミリアの友人なのである。
そのことを考えると、途端に彼女の行動は読めなくなってくる。果たして、レミリアの天秤は今、何を秤に乗せているのであろうか。


「ところで、貴方は私の能力を知っているかしら?」


必死に顔色を窺う慧音を無視して、レミリアは何の脈絡もなく訊ねてきた。
意図が全く読めない質問に、慧音の眉間には皺が寄る。


「な、何だ? いきなり何を言っている?」


懸命にレミリアの答えを推察する慧音の身体は、緊張によってか強張っていく。
彼女の目は据わり、肩肘も張り、何とも危なっかしい構えだ。
すると、そこに誰かが慧音を助けようと思ったのか、突然と彼女の頬にヒヤリと冷たいものが落ちた。
疑問に思った慧音が空を見上げてみると、冷たい雨に混ざって、曇天の空から白い雪が降ってきているではないか。


気がつけば、随分と冷え込みが増してきている。この分だと、夜には雪が降り積もるだろう。
慧音は深呼吸をして、自分の吐息が白くなったのを確認してから、肩の力を抜いてみた。
そうして改めてレミリアに目を移してみると、彼女は自分の手の平に乗せた一片の雪を物珍しげに眺めてから、
フッと息を吹きかけて、それが空で踊る姿を一人楽しんでいる。
どうやら先にレミリアの質問に答えないと、話は前に進まないらしい。


「……確かレミリアの能力は運命を操るとかだったな」


慧音の答えを耳にしたレミリアは雪をはらうと、人をからかうような無邪気な笑みを向けてきた


「フフ、貴方はそれを信じる?」

「さて、な。幻想郷に住む輩は、やたらと大仰なものを好む。
それなのに、肩書き通りの実力者も多数いるときている。私としては何とも言えないよ」


そこでレミリアはくるりと回って、慧音に背中を向けた。
紫色の悪趣味な唐傘が目に入り、レミリアの表情は途端に窺えなくなる。
彼女は喜んでいるのだろうか、怒っているのだろうか、それともどうでもいいと思っているのだろうか。
未だ明確な回答を示さないレミリアに、慧音はやきもきさせられる。
そしてそんな彼女の様子を楽しむように、レミリアは声を明るく弾ませてきた。


「一つ、貴方に良いことを教えてあげるわ」

「何だ?」

「これから貴方が何を言っても、私は何も否定しない。寧ろ、喜んでそれを肯定してあげる」

「だから、お前はさっきから何を言っている?」

「ああ、それとな……」


ゾワリと慧音は総毛立った。雪のせいで、寒さがより厳しくなったのだろうか。
いや、そうではない。その答えは、実に分かりやすく慧音の目の前に置いてあった。
いつの間にかレミリアは振り返っており、氷のような冷たい、酷薄な笑みを傘の下から覗かせていたのだ。


「……お前が露伴にしたことだけど、やっぱり気に食わない」


その言葉と共に、レミリアは左腕をフワッと軽やかに横に振るった。
それを合図に、血のような赤いナイフが何十本と虚空の中に生み出されたかと思うと、
すぐにそれらは鮮やかな光の尾を引きながら、慧音と露伴に殺到してきた。


弾幕攻撃など、初心者の露伴には間違ってもかわせる代物ではない。
慧音を彼の身体を抱えて咄嗟に横に飛ぶが、当然そんな状態で、その全てをかわせるはずもなく、
幾つもの攻撃を受けて、二人は後ろへと吹っ飛んでいった。


露伴をかばった慧音は、彼を自らの背後へやってから、慌てて怪我を確認する。
しかし、身体のどこにもダメージはない。派手な弾幕ではあったが、その実、威力はスカスカのものであったらしい。
いよいよ、レミリアの行動が理解しかねる。そして慧音が立ち上がって、再びレミリアに事の真意を問おうとした、その時だった。
慧音とレミリアの間に、勢い良く人影が割って入って来たのである。


「吸血鬼ィィ!! あんた、やっぱり殺し合いに乗っていたのね!!」


比那名居天子の服を身に纏った小汚い少女が剣を構え、敵意に満ちた声でレミリアに向かって吼えたのだ。
その少女の蒼い髪は短く、天人のような清らかさも窺えないが、そこにある面影は慧音には確かに見覚えがあった。


「お前、ひょっとして天子か?」

「地子よ!!」

「ちん……? おお前は、いきなり何を言っているんだ? 気でも狂ったのか?」

「地子よ!! 莫迦!!」


少女の怒声に慧音が首を傾げていると、今度は東方仗助が背後から颯爽と現れ、少女の横に並び立った。
そして続けざまに、火焔猫燐ファニー・ヴァレンタインが慧音の前に立ち、その各々が戦闘態勢に入る。
それを見た慧音は恐怖によって、再び顔が青ざめていくのを感じた。


勿論、戦いを止めることは簡単だ。自らが露伴の歴史を勝手に食べて、レミリアの不興を買ったことを告げれば良い。
だがそうすると、今度はレミリアに代わって新たな四人の闖入者の反感を招くことになるかもしれない。
それに加えて、露伴の歴史を元に戻せば、彼の怒り買うことは必至。
それでは慧音が危惧していた以上の争いの種が、ここで芽吹くことにもなってしまう。
しかし、レミリアは敵だと今の戦いを肯定してしまっては、荒木と太田に反旗を翻す者同士での無意味な潰し合いとなってしまう。


慧音は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。大体、今回のことはレミリアは見て見ぬ振りをしてくれていれば
全ては丸く収まっていたのである。それが何故、最悪と最悪のどちらかを選ばなければならないという状況になっているのだろうか。
まるで悪夢のような出来事に、慧音はレミリアに向かって憎々しげに言葉を吐き捨てずにはいられなかった。


「この悪魔めッ!」


その実に心地よい台詞を耳にしたレミリアは、赤い唇を妖しく舐めると、慧音を挑発するかのように艶かしく口角を吊り上げた。






【C-3 ジョースター邸の横/真昼】

レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:妖怪『からかさ小僧』風の傘@現地調達
[道具]:「ピンクダークの少年」1部~3部全巻(サイン入り)@ジョジョ第4部、ウォークマン@現実、 鉄筋(残量90%)、マカロフ(4/8)@現実、予備弾倉×3、 聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、鉄パイプ@現実、 香霖堂や命蓮寺で回収した食糧品や物資(ブチャラティのものも回収)、基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1:ぎゃおー! 私は悪魔だぞー!
2:さて、慧音はどんな運命をみせてくれるのかしら。
3:慧音と露伴をパチュリーの所に引っ張っていく。ま、出来たらでいいや。
4:温かい紅茶を飲みながら、パチェと話をする。
5:咲夜と美鈴の敵を絶対にとる。
6:ジョナサンと再会の約束。
7:サンタナを倒す。エシディシにも借りは返す。
8:ジョルノに会い、ブチャラティの死を伝える。
9:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
10:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
11:億泰との誓いを果たす。
12:ジョナサン、ディオ、ジョルノに興味。
13:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼と東方輝針城の間です。
※時間軸のズレについて気付きました。


上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。『幻想郷の全ての知識』を以て可能な限り争いを未然に防ぐ。
1:この悪魔め! 
2:私はどうすればいいんだ?
3:他のメンバーとの合流。
4:殺し合いに乗っている人物は止める。
5:出来れば早く妹紅と合流したい。
6:姫海棠はたての『教育』は露伴に任せる。
[備考]
※参戦時期は少なくとも弾幕アマノジャク10日目以降です。
※ワーハクタク化しています。
※能力の制限に関しては不明です。
※時間軸のズレについて気付きました。


【岸辺露伴@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:背中に唾液での溶解痕あり、プライドに傷
[装備]:マジックポーション×1、高性能タブレットPC、マンガ道具一式、モバイルスキャナー
[道具]:基本支給品、東方幻想賛歌@現地調達(第1話原稿)
[思考・状況]
基本行動方針:色々な参加者を見てマンガを完成させ、ついでに主催者を打倒する。
1:何がどうなっているんだ?
2:『東方幻想賛歌』第2話のネームはどうしようか。
3:仗助は一発殴ってやらなければ気が済まない。
4:主催者(特に荒木)に警戒。
5:霍青娥を探しだして倒し、蓮子を救出する。
6:射命丸に奇妙な共感。
7:ウェス・ブルーマリンを警戒。
[備考]
※参戦時期は吉良吉影を一度取り逃がした後です。
※ヘブンズ・ドアーは相手を本にしている時の持続力が低下し、命令の書き込みにより多くのスタンドパワーを使用するようになっています。
※文、ジョニィから呼び出された場所と時代、および参加者の情報を得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
射命丸文の洗脳が解けている事にはまだ気付いていません。しかしいつ違和感を覚えてもおかしくない状況ではあります。
※参加者は幻想郷の者とジョースター家に縁のある者で構成されていると考えています。
※ヘブンズ・ドアーでゲーム開始後のはたての記憶や、幻想郷にまつわる歴史、幻想郷の住民の容姿と特徴を読みました。
※主催者によってマンガをメールで発信出来る支給品を与えられました。操作は簡単に聞いています。
※ヘブンズ・ドアーは再生能力者相手には、数秒しか効果が持続しません。
※時間軸のズレについて気付きました。
※歴史を食べられたため、156話と162話の記憶がありません。
※歴史を食べられたため、吉良吉影に関する記憶がありません。
※パチュリーが大嫌い? うそうそ。彼女に興味津々です。


【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康、濡れている
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、聖人の遺体・両耳、胴体、脊椎、両脚@ジョジョ第7部(同化中)、紅魔館のワイン@東方紅魔郷、暗視スコープ@現実、拳銃(0/6)
[道具]:文の不明支給品(0~1)、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、基本支給品×5、予備弾6発、壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を集めつつ生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:遺体を全て集め、アメリカへ持ち帰る。邪魔する者は容赦しないが、霊夢、承太郎、FFの三者の知り合いには正当防衛以外で手出しはしない。
2:遺体が集まるまでは天子らと同行。
3:今後はお燐も一緒に行動する。
4:形見のハンカチを探し出す。
5:火焔猫燐の家族は見つけたら保護して燐の元へ送る。
6:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かし、消滅させる!
7:ジャイロ・ツェペリは必ず始末する。
[備考]
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
※最優先事項は遺体ですので、さとり達を探すのはついで程度。しかし、彼は約束を守る男ではあります。
※霊夢、承太郎、FFと情報を交換しました。彼らの敵の情報は詳しく得られましたが、彼らの味方については姿形とスタンド使いである、というだけで、詳細は知りません。


【火焔猫燐@東方地霊殿】
[状態]:人間形態、こいし・お空を失った悲しみ、濡れている
[装備]:毒塗りハンターナイフ@現実
[道具]:基本支給品、リヤカー@現実、古明地こいしの遺体
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を探しだし、古明地さとりと合流する。
1:大統領と一緒に行動する。守ってもらえる安心感。
2:射命丸は自業自得だが、少し可哀想。罪悪感。でもまた会うのは怖い。
3:結局嘘をつきっぱなしで別れてしまったホル・ホースにも若干の罪悪感。
4:地霊殿のメンバーと合流する。
5:ディエゴとの接触は避ける。
6:DIOとの接触は控える…?
7:こいし様……お空……
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼以降です。
※大統領を信頼しており、彼のために遺体を集めたい。とはいえ彼によって無関係の命が失われる事は我慢なりません。
※死体と会話することが出来ないことに疑問を持ってます。


【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:黄金の精神、右腕外側に削られ痕、腹部に銃弾貫通(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、龍魚の羽衣@東方緋想天、ゲーム用ノートパソコン@現実 、不明支給品×2(ジョジョ・東方の物品・確認済み。康一の物含む)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:吸血鬼? 俺自身に恨みつらみねえが、あんま良い感じがしねえな。
2:地子さんと一緒に戦う。
3:吉良のヤローのことを会場の皆に伝えて、警戒を促す。
4:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
5:あっさりと決まったけど…この男と同行して大丈夫なのか?吉良のヤローについても言えなかったし……
6:億泰のヤロー……
[備考]
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレ、平行世界、記憶の消失の可能性について気付きました。
※デイパックの中身もびしょびしょです。


【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:人間、ショートヘアー、霊力消費(大)、疲労困憊、空元気、濡れている、汗でベトベト、煩悩まみれ
[装備]:木刀、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、聖人の遺体・左腕、右腕@ジョジョ第7部(天子と同化してます)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:レミリアをブチのめす。疲労? そんなのは気合でカバーよ!
2:眠い、お腹減った、喉が渇いた、身体を洗いたい、服を着替えたい、横になって休みたい。
3:人の心は花にぞありける。そんな簡単に散りいくものに価値はあったのだろうか。よく分かんなくなってきたわ。
4:これから出会う人全員に吉良の悪行や正体を言いふらす。
5:殺し合いに乗っている参加者は容赦なく叩きのめす。
6:吉良のことは認めてない。調子こいたら、即ぶちのめす。
7:紫の奴が人殺し? 信じられないわね。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※デイパックの中身もびしょびしょです。
※人間へと戻り、天人としての身体的スペック・強度が失われました。弾幕やスペルカード自体は使用できます。




164:路男 投下順 166:生まれついての悪
164:路男 時系列順 166:生まれついての悪
163:船、うつろわざるもの、わたし。 ファニー・ヴァレンタイン 196:COUNT DOWN “ONE”
163:船、うつろわざるもの、わたし。 火焔猫燐 196:COUNT DOWN “ONE”
163:船、うつろわざるもの、わたし。 比那名居天子 196:COUNT DOWN “ONE”
163:船、うつろわざるもの、わたし。 東方仗助 196:COUNT DOWN “ONE”
162:信頼は儚き者の為に 上白沢慧音 196:COUNT DOWN “ONE”
162:信頼は儚き者の為に 岸辺露伴 196:COUNT DOWN “ONE”
162:信頼は儚き者の為に レミリア・スカーレット 196:COUNT DOWN “ONE”

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最終更新:2020年07月22日 01:18