「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 三面鏡の少女-52

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

三面鏡の少女 52


「しっかし暑いな、やる気しねー」
「つーかあの講師遅過ぎじゃね? マジで大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、前もパシリやってっから。頼まれると嫌とは言えないタイプってやつ?」
学園祭の準備で散らかった教室でへらへらと笑いあう生徒達
そんな緩い空気の中に、嵐は突然やってきた
「オラァ屑ども! お待ちかねのアイスが到着だ!」
「ゲェッ! 宮定!?」
この学校で少々行動がアレな生徒は、繰の存在を概ね把握していた
理由は簡単、佳奈美がそういった輩に片っ端から絡まれて、繰がそれを蹴散らしていたからである
「さぁ頼んだのは誰かなぁ、さっさと名乗り上げて持っていきなさいよ。溶けちゃうから早くね?」
ぎちぎちと空気が軋むような殺気を纏い、笑顔で告げる繰
「あらあら、誰もいないの? おかしいわねぇ、あんた誰に頼まれたかちゃんと覚えてるの?」
「え、その、えーと」
視線を巡らせるディランに、それを言うなと懇願するような視線を向ける一部生徒
ディランはそれを察してつい黙ってしまうのだが、繰もまたそれを見逃さなかった
「金田ァ! 銀河ァ! 銅島ァ! 前ぇ出ろッ!」
「「「はははははひっ!!!」」」
「お前らが首謀者ね?」
「そ、それは、その」
「俺は止めとこうって言ったんだけど金田がさ」
「おい待て裏切んのか!?」
「すんませんしたぁッ!」
「土下座だと銅島っ!? 一人だけ先に謝って心象良くするつもりかっ!?」
前に出た三人の男子生徒が喚きあう様に、繰は即座に一喝する
「言い訳は後で聞いてやるわよ! それよりアイス溶けるでしょ、このクラスはいくつ!?」
「へ? あ、ああ、えっと……10個……だよな?」
「あ、うん……」
毒気を抜かれたように顔を見合わせ、言われるままに答える男子生徒
「先生の奢りだってーからありがたくいただいときなさい。つーか次から先生にタカんじゃないわよ、みっともない」
わざわざドライアイスを入れてある、アイス専門店の箱をぽんと教壇に置いていく
「はい次のクラス行くわよ! ちんたらしてたら溶けるって言ってんでしょうが!」
「ま、待って待って、引っ張ったら危な」
びしゃんと教室のドアが閉められ、足音と怒声が遠ざかっていく
何が起こったのか把握し切れない生徒達の心情のように、教壇の上に残されたアイスの入った箱が、ただひんやりとした空気を漂わせていた

―――

こうしてパシリを陣中見舞いに差し替える事数回
「まったく……4クラスからもパシらされてるんじゃないわよ」
「うん、でもこの暑さだとね」
「まだ初夏もいいとこでしょうが。第一、真面目に頑張ってる連中には何も当たってないのよ? 本来労われるのはそういう連中でしょ」
「それじゃあ、他の皆の分も……」
「あんたは暑い日に全校生徒分のアイス買ってくるわけ!? 私は、不公平になるから甘やかすなっつってんの!」
「でも身体の弱い子とかもいるかもしれないし」
「そういうのをきちんと把握して相応に対処をするのが教師の仕事! ガキにこんな事言われててどーすんの!」
そう言うと繰は、財布から一万円札を取り出してディランのポケットに押し込む
「勢いで押し込むのに奢りって事にしちゃったから、回収できなかった分は私が払う。コンビニで済ませりゃいいのに無駄に良いアイス買ってきてんじゃないわよ」
「え、ダメだよ、生徒に金銭的負担を強いるような事は」
「私の過失をきちんと精算してんの! 私はバイトできっちり稼いでるから気にしないの! それとも何、私の弱みでも握っておきたいの!?」
「そ、そんなつもりじゃないけれど、その」
「だったら次からこういう事が無いように、ちゃんと今回の事を教訓として頭に叩き込んでおきなさい! つけあがる奴を甘やかすのは優しさじゃないの! わかった!?」
「う、うん、わかった」
「わかれば良し。それじゃ私はクラスの仕事あるから」
まだ何か言いたそうなディランを振り切って、繰はずかずかと大股で自分の教室へ向かって歩き出す
歩きながら、自分が過去に佳奈美にやってきた仕打ちを思い出し、吐き気をもよおすほどの自己嫌悪が胸の中で渦を巻く
敵でもないが味方でもない、自分の神経を逆撫でする要注意人物として、繰はディランの存在を記憶に焼き付けていた


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー