秋祭り3日目~昼頃
昨日のことだ。方向性の全く違う二つの戦いを、こっちは体験した。
双方とも理由は違えど、同じく負けるわけにはいかない戦い。
しかし、今こっちがしているのもその二つに負けず劣らず、自分自身の数少ない誇りにかけてでも負けられない戦いだった。
その、戦いの名は。
双方とも理由は違えど、同じく負けるわけにはいかない戦い。
しかし、今こっちがしているのもその二つに負けず劣らず、自分自身の数少ない誇りにかけてでも負けられない戦いだった。
その、戦いの名は。
“スーパーボール掬い”。
「ようくお似合いですよ、少年?」
「…可愛い。とっても」
「……やめて、お願い。誉められてるんだろうけど、それはわかってるんだけど、なんか心が折れそうになってくる…」
「…可愛い。とっても」
「……やめて、お願い。誉められてるんだろうけど、それはわかってるんだけど、なんか心が折れそうになってくる…」
いかに幸せだとはいっても、不幸は潜んでいるわけで。
なにが不幸かって、なによりも服装が不幸である。死にたい。
なんてったって、浴衣である。死にたい。
あれ、普通じゃんと思うなかれ。死にたい。
浴衣は浴衣でも"女物"なのだ。死にたい。
一応いっておくが、断じて“そういう趣味”はない。マジで死にたい。
・・・じゃあなぜ至って平凡な高校生であるこっちが、そんなファンキーな格好をしているのか。
それは、昨晩の母さんとの約束・・・というか、むしろ罰ゲームによるものだ。
なんてったって、浴衣である。死にたい。
あれ、普通じゃんと思うなかれ。死にたい。
浴衣は浴衣でも"女物"なのだ。死にたい。
一応いっておくが、断じて“そういう趣味”はない。マジで死にたい。
・・・じゃあなぜ至って平凡な高校生であるこっちが、そんなファンキーな格好をしているのか。
それは、昨晩の母さんとの約束・・・というか、むしろ罰ゲームによるものだ。
すっぽかそうとするこっちに対して、「私の都市伝説としての全存在を賭け、少年の監視を行います!」と
宣言してくれやがった同居人一号ことトバさん。
いやいくらなんでも冗談だろうこっちの社会的な生き死にとかも関わってくるし、と高をくくっていたのだが・・・・・・馬鹿げたことに、有言実行しやがった。
今朝起きるとなぜか体が洗面所の鏡の前に固定されており、既に服装は浴衣という状況。
そのとんでもない衝撃にしばし固まり・・・しかし文句を言うその前に、クイちゃんによって脳震盪を引き起こされ、ハッと気付いたときには化粧も終わり完全にお出かけ準備オーケー。
もちろん抵抗はしたものの、最後はトバさんの「では仕方ありません。お母様にこのことをご報告するしか・・・」という言葉によって、勝負は決した。
ちなみにこの罰ゲームを実行しないと仕送りがゼロになる。
多少の持ち合わせはあるとはいえ、そんな「自分たちが宿無し飯無し無一文となってでも、あなたを女装させてみせるッ!」
といわんばかりの(本当に)無駄な覚悟を見せつけられては、こちらも腹をくくるしかあるまい。
宣言してくれやがった同居人一号ことトバさん。
いやいくらなんでも冗談だろうこっちの社会的な生き死にとかも関わってくるし、と高をくくっていたのだが・・・・・・馬鹿げたことに、有言実行しやがった。
今朝起きるとなぜか体が洗面所の鏡の前に固定されており、既に服装は浴衣という状況。
そのとんでもない衝撃にしばし固まり・・・しかし文句を言うその前に、クイちゃんによって脳震盪を引き起こされ、ハッと気付いたときには化粧も終わり完全にお出かけ準備オーケー。
もちろん抵抗はしたものの、最後はトバさんの「では仕方ありません。お母様にこのことをご報告するしか・・・」という言葉によって、勝負は決した。
ちなみにこの罰ゲームを実行しないと仕送りがゼロになる。
多少の持ち合わせはあるとはいえ、そんな「自分たちが宿無し飯無し無一文となってでも、あなたを女装させてみせるッ!」
といわんばかりの(本当に)無駄な覚悟を見せつけられては、こちらも腹をくくるしかあるまい。
というわけで、今のこっちたち三人は、実に不本意ながらも"仲良し三人娘"に見えている、らしい。
・・・もしクラスメイトに遭遇した挙げ句女装を見破られでもしたら社会的に抹殺されるという密かどころかドでかい問題点は、ご機嫌な同居人たちからしたら比較的どうでもいいようである。
まあでも祭りは楽しまにゃ損だ、と自分に言い聞かせて歩くこと数十分。
「女装がバレたらどうしよう」という不安を「まあきっと大丈夫! ・・・多分」という楽観的な希望で相殺することに慣れてきた頃。
こっちは“それ”を見つけてしまった。
・・・もしクラスメイトに遭遇した挙げ句女装を見破られでもしたら社会的に抹殺されるという密かどころかドでかい問題点は、ご機嫌な同居人たちからしたら比較的どうでもいいようである。
まあでも祭りは楽しまにゃ損だ、と自分に言い聞かせて歩くこと数十分。
「女装がバレたらどうしよう」という不安を「まあきっと大丈夫! ・・・多分」という楽観的な希望で相殺することに慣れてきた頃。
こっちは“それ”を見つけてしまった。
“それ”は数ある出店の一つで、特に目立っているわけではない。
しかしこっちにとっては、他のどんな出店よりも、その出店は輝いて見えた。
たっぷり一分は固まって、「……少年?」という怪訝そうなトバさんの言葉を耳に素通りさせ、ふらふらとその出店に近づいていく。
その出店には大きな水槽がおいてあり、水が渦を巻いて流れるその中には、大小様々色とりどりの球体が浮かんでいる。
店先に「取り放題! 掬えた分だけ持ってけドロボー!」という貼り紙があるその店は。
しかしこっちにとっては、他のどんな出店よりも、その出店は輝いて見えた。
たっぷり一分は固まって、「……少年?」という怪訝そうなトバさんの言葉を耳に素通りさせ、ふらふらとその出店に近づいていく。
その出店には大きな水槽がおいてあり、水が渦を巻いて流れるその中には、大小様々色とりどりの球体が浮かんでいる。
店先に「取り放題! 掬えた分だけ持ってけドロボー!」という貼り紙があるその店は。
「スーパーボール掬い…だと……?」
スーパーボール掬い屋だった。
街中の一角に、多くのギャラリーを集めている出店があった。
好奇心を煽られた通行人が「なんだなんだ? ショーでもやってんのか?」とその店を見に行っては、その名称を見て怪訝そうに眉をひそめる。
が、すぐさま“あるもの”を発見し、納得するのだ。
その“あるもの”とはなにか。
それは。
好奇心を煽られた通行人が「なんだなんだ? ショーでもやってんのか?」とその店を見に行っては、その名称を見て怪訝そうに眉をひそめる。
が、すぐさま“あるもの”を発見し、納得するのだ。
その“あるもの”とはなにか。
それは。
“浴衣姿の女の子が一心不乱にボールを掬っているその傍らに、巨大なスーパーボールの山ができている”という、ある種異様な光景だった。
・・・周りがガヤガヤとうるさいが、そんなものは気にはならない。
今の自分にとっては、目の前をくるくると渦巻くボール以外のものなどどうでもいいのだ。
水槽の中の最後のボールを軽々と掬うと、気合いを入れ直すために軽く伸びをする。
ふと気付くと同居人たちはいなくなっていた。
・・・そういえば、「・・・私たちは適当に回ってますからね」という呆れたような声が聞こえたような気もする。
まあいっか、と懐からポン酢を取りだし、ゴクゴクと飲んで喉を潤す。
なぜかまた周囲がどよめいているが気にせずに、顔を青くしている出店のおっちゃんに向かって呟く。
今の自分にとっては、目の前をくるくると渦巻くボール以外のものなどどうでもいいのだ。
水槽の中の最後のボールを軽々と掬うと、気合いを入れ直すために軽く伸びをする。
ふと気付くと同居人たちはいなくなっていた。
・・・そういえば、「・・・私たちは適当に回ってますからね」という呆れたような声が聞こえたような気もする。
まあいっか、と懐からポン酢を取りだし、ゴクゴクと飲んで喉を潤す。
なぜかまた周囲がどよめいているが気にせずに、顔を青くしている出店のおっちゃんに向かって呟く。
「・・・・・・この、程度ですか?」
その呟きを聞いたおっちゃんの顔つきが、変わった。
赤字を恐れる商売人の顔から、意地を貫く漢の顔へと。
赤字を恐れる商売人の顔から、意地を貫く漢の顔へと。
「・・・ほぉ。小娘が、でけぇクチ叩くじゃねぇか」
その漢は一旦店の裏へと消えると、複数の段ボール箱を抱えて戻って来た。
その段ボール箱の中には、様々な種類のスーパーボールが満載されている。
その段ボール箱の中には、様々な種類のスーパーボールが満載されている。
「これがウチにある全てだ。掬えるもんなら掬ってみなァ、嬢ちゃん!!」
漢の咆哮を前にして、しかしこっちは怯まない。
小さな声で、しかし漢への敬意を込めて、呟く。
小さな声で、しかし漢への敬意を込めて、呟く。
「・・・相手にとって、不足なし」
懐の財布から一枚の五百円玉を取りだし、「これで十分だ」と言わんばかりに漢へと手渡す。
二人の視線は交錯し、しかしそれは一瞬だけ。
すぐにこっちの目は目の前で渦巻くスーパーボールを追い始め、漢の目はその手つきに向けられる。
ギャラリーからの「おぉあのおっちゃんすげぇ漢だ!」「いやいや真正面から受けて立ったあの女の子もなかなかやるぜ!」
なんていう歓声をバックに、二つの意地が激突した。
二人の視線は交錯し、しかしそれは一瞬だけ。
すぐにこっちの目は目の前で渦巻くスーパーボールを追い始め、漢の目はその手つきに向けられる。
ギャラリーからの「おぉあのおっちゃんすげぇ漢だ!」「いやいや真正面から受けて立ったあの女の子もなかなかやるぜ!」
なんていう歓声をバックに、二つの意地が激突した。