喫茶ルーモアのマスターが死んだ。
その葬式も捌けてきた夕刻、普通には出席しづらいモノ達がマスターに別れを告げに来ていた。
「どういうことだよ」
マスターはその体も残らずに消滅してしまったらしい。一応棺を用意してはいるがその中身は空だ。組織の人間が葬式を運営でもしているのか何人か黒いスーツの男をみかける。
「なんで死んじまったんだよ……マスタぁー……」
男の契約者は泣いている。男もその死を悼んでいる。そして、男にはマスターを殺した男への怒りも渦巻いていた。
どうしようもないと、手遅れだと分かっているのだがな。
男の契約者も昨晩何度も言っていた。なぜその時に現場に居合わせることが出来なかったのかと、おそらく、ここにいる人間の多くは似たようなことを思っているのだろう。
最後の挨拶も済み、立ち上がり、帰ろうとして会場を出たところで弔問客の応対をしていた少年――輪がやってきた。
「ねえ、≪寺生まれで霊感の強いTさん≫」
「……なんだ?」
振り向いた男を見て、彼の契約者の少女は思う、昨日の自分を見ているようだと。
改まってTさんを長ったらしく呼ぶのはおそらく、彼の能力に縋りたいから……
「父さんを、マスターを生き返らせてはくれないかな?」
輪君の悲痛な声、しかし、
「無理だ」
男は――Tさんはにべもない返答をする。それでも輪君は食いついていく。
「どうしてさ、君なら、人から死ぬ直前に都市伝説になった、無茶苦茶な能力がある君になら父さんを生き返らせることも――」
「少年」
Tさんは断ち切るように言う。
「以前にも言ったが俺は、俺にはそんなご大層な力なんか与えられていないんだ」
その口調は諭すように静かなのに、己の無力を嘆いているように聞こえて、
いつもスゴイTさんが今日はなぜだか小さく見える気がした。
「俺にはマスター、きみの父さんの冥福を祈ることしかできない」
それだけ言うとTさんは歩いていく。俺も付いていく。輪君はそれでも俺たちを追い抜き、
「これでも?」
果物ナイフを突き出してきた。
「そんなものを出されても出来ないことはできないよ」
「……」
「お……おいっ」
それはやばいって。
思わず動こうとすると、
「いい」
Tさんは軽く腕を広げて制止するような言葉を放つ。
輪君はTさんに向けていたナイフを俺に向ける。
「やるか? 一応死んでさえなければこちらも治すことは出来る」
それぐらいには有能だ、とTさんは語る。
あっれー? それって俺が死なない範囲で刺されてもいいってことですかー!?
俺の驚愕を他所に、輪君は無言、うつむいたまま手は震え、やがてナイフは落ちる。
カラン
という軽い金属音の後、輪君は息を全て吐き出すかのようにして、それから大きく一度吸い、
爆発するように言う。
「分かってたさ、ああ! 分かってる! 父さんはもう戻ってはこない! 分かってるさ!」
輪君は何度も分かってる分かってると言い、
「でも……、っぐ……も、もし、もし次がっ! チャンスが与えられるなら今度は……ぁっ、今度はその命を、落とさないようにしたいって! 父さんは死なせないって!」
普段おとなしい輪君が泣いている。以前聞いた話では輪君はその見た目以上に年をとっているらしい。それでも、今目の前に見える輪君は見た目の年相応の、子供のようだった。
「そうか」
ポン、と輪君の髪に手を置くTさん。輪君はTさんの胸に顔を押し付ける。
よしよしと輪君の頭を撫でつつ、Tさんがあっち行けとでも言うように手をシッシッ、と振る。
まあ、泣くところはあまり見られたくないか~、特に男の子は。
俺は手をあいよ、と挙げて背を向ける。Tさんはしばらく居残りですか。よかったよかった。
これで、もう少し泣けるかな。
そう、袖で涙を拭いながら思った。
その葬式も捌けてきた夕刻、普通には出席しづらいモノ達がマスターに別れを告げに来ていた。
「どういうことだよ」
マスターはその体も残らずに消滅してしまったらしい。一応棺を用意してはいるがその中身は空だ。組織の人間が葬式を運営でもしているのか何人か黒いスーツの男をみかける。
「なんで死んじまったんだよ……マスタぁー……」
男の契約者は泣いている。男もその死を悼んでいる。そして、男にはマスターを殺した男への怒りも渦巻いていた。
どうしようもないと、手遅れだと分かっているのだがな。
男の契約者も昨晩何度も言っていた。なぜその時に現場に居合わせることが出来なかったのかと、おそらく、ここにいる人間の多くは似たようなことを思っているのだろう。
最後の挨拶も済み、立ち上がり、帰ろうとして会場を出たところで弔問客の応対をしていた少年――輪がやってきた。
「ねえ、≪寺生まれで霊感の強いTさん≫」
「……なんだ?」
振り向いた男を見て、彼の契約者の少女は思う、昨日の自分を見ているようだと。
改まってTさんを長ったらしく呼ぶのはおそらく、彼の能力に縋りたいから……
「父さんを、マスターを生き返らせてはくれないかな?」
輪君の悲痛な声、しかし、
「無理だ」
男は――Tさんはにべもない返答をする。それでも輪君は食いついていく。
「どうしてさ、君なら、人から死ぬ直前に都市伝説になった、無茶苦茶な能力がある君になら父さんを生き返らせることも――」
「少年」
Tさんは断ち切るように言う。
「以前にも言ったが俺は、俺にはそんなご大層な力なんか与えられていないんだ」
その口調は諭すように静かなのに、己の無力を嘆いているように聞こえて、
いつもスゴイTさんが今日はなぜだか小さく見える気がした。
「俺にはマスター、きみの父さんの冥福を祈ることしかできない」
それだけ言うとTさんは歩いていく。俺も付いていく。輪君はそれでも俺たちを追い抜き、
「これでも?」
果物ナイフを突き出してきた。
「そんなものを出されても出来ないことはできないよ」
「……」
「お……おいっ」
それはやばいって。
思わず動こうとすると、
「いい」
Tさんは軽く腕を広げて制止するような言葉を放つ。
輪君はTさんに向けていたナイフを俺に向ける。
「やるか? 一応死んでさえなければこちらも治すことは出来る」
それぐらいには有能だ、とTさんは語る。
あっれー? それって俺が死なない範囲で刺されてもいいってことですかー!?
俺の驚愕を他所に、輪君は無言、うつむいたまま手は震え、やがてナイフは落ちる。
カラン
という軽い金属音の後、輪君は息を全て吐き出すかのようにして、それから大きく一度吸い、
爆発するように言う。
「分かってたさ、ああ! 分かってる! 父さんはもう戻ってはこない! 分かってるさ!」
輪君は何度も分かってる分かってると言い、
「でも……、っぐ……も、もし、もし次がっ! チャンスが与えられるなら今度は……ぁっ、今度はその命を、落とさないようにしたいって! 父さんは死なせないって!」
普段おとなしい輪君が泣いている。以前聞いた話では輪君はその見た目以上に年をとっているらしい。それでも、今目の前に見える輪君は見た目の年相応の、子供のようだった。
「そうか」
ポン、と輪君の髪に手を置くTさん。輪君はTさんの胸に顔を押し付ける。
よしよしと輪君の頭を撫でつつ、Tさんがあっち行けとでも言うように手をシッシッ、と振る。
まあ、泣くところはあまり見られたくないか~、特に男の子は。
俺は手をあいよ、と挙げて背を向ける。Tさんはしばらく居残りですか。よかったよかった。
これで、もう少し泣けるかな。
そう、袖で涙を拭いながら思った。
●
少年はしばし泣いた後、取り繕うようにそっぽを向きつつ、
「ごめん」
と言った。
「気にしなくて言いさ」
そう男は言い、
「鼻」
彼の言葉に応じて懐から人形がポケットティッシュを持って現れた。
「っ!」
少年は顔を赤くしつつポケットティッシュを奪って行った。
「あれなら大丈夫だろうな」
男は満足そうに頷く。
「我らが契約者も変なところで強情で、俺たちがいると泣いてくれないしな」
懐の人形に語りかける。
うんうんと言っていた人形だが、
「お兄ちゃん」
そう、注意を促すように呼びかけた。
「ああ、分かってる」
男はそう答え、振り向く。と、
「すまなかったな、青年」
すっかり日が暮れて電灯の明るい光が照らす下、いつの間にか桜の花びらが舞っており、そこに片腕の袖を風に揺らした、隻腕の軍服姿の男がいた。
「いや」
気にするな、と男は言い、
「こっちの制止に気づいてくれて良かったよ。アレは、何度かスッキリ吐き出させたほうが良い類のストレスだ」
男はいきなり現れた軍服姿の男と特に問題なく会話を始めた。
確かに。と頷く軍服の男を見ながら彼は問う、
「少年は、これからどうなるんだ?」
「黒服の方が後見人になって下さるようだ」
「黒服が?」
男の表情が多少険しくなる。が、
「いや、あの御仁はおそらく信用できる。今日見ただけでも他の黒服とは雰囲気が違った」
「……ああ」
合点がいく黒服が一人いた。まあ、あの黒服なら大丈夫、か。
「おじさん、だれ?」
懐のリカちゃんが軍服の男を指して言う。
「……む、私の名はカシマ、同胞には隻腕のカシマと呼ばれている」
人形の発言に顔をしかめながらも自己紹介する軍服の男、
「人形の嬢ちゃん、彼は俺と大して変わらない年齢だよ」
男がフォローを入れる。
「そして、」
目を見据える。
「やっと対面できた。貴方にお願いがある。英霊さん」
軍服の男、カシマはその言葉に反応した。
「ワタシに感づいていたのか?」
「まあ、ね。この嬢ちゃん、≪ひとりかくれんぼ≫で命を吹き込まれた都市伝説でね、かくれんぼの才能があるんだ。多少隠れてようと捕捉できる」
男が懐から頭だけを出した状態の人形を撫でる。人形は猫のようにのどを鳴らす音を立てている。
「なるほど、得心した。それで、ワタシに願いとは?」
カシマの言葉に男は頷き、
「英霊さん、近い内に――」
「あーすまない、英霊というのはやめてもらえないか」
カシマが男の言葉を遮った。
「サチ殿の大切な知人の命をみすみす奪われてしまったワタシにそれは重くてな」
そう言うカシマに男はただ頷き、
「軍人さん」
「カシマと名乗ったのだがな」
「代名詞で呼ぶのは癖だ。軍人さんだって俺を青年と呼ぶじゃないか。それに」
男はなんと言ったらいいのか、と言いつつ髪をかきむしり、
「あー……なんというか、日本兵を名前で呼ばわるのはなんとなく恐れ多くてな」
カシマは一瞬虚を突かれた顔をすると、
「くっくく……っ」
愉快そうに笑い始めた。
「笑ってくれるなよ」
「いや、すまない。そうか。恐れ多いか」
カシマの笑いは続く。
「一応俺もちょっと前まで健全な日本男児だったんだからな。多少人間っぽいところが残っていてもいいだろう」
少し不機嫌そうにしながら男は言った。
「ああ、そうだな。うむ、……して、」
カシマは気を取り直したように顔を真剣なものとし、
「願いとは?」
カシマは男に問うた。
カシマの問いに男は一息、鋭く息を吸い込む。そして、
「近い内に≪夢の国≫を相手取り戦おうと思う」
一息に言った。カシマは驚いた顔をし、
「アレか。話によれば青年、君は、」
カシマの言葉を引き継ぐように男は言う。
「以前、アレに挑んで敗れたよ」
「勝算はあるのか?」
鋭い目、それは軍人の、血と銃弾が飛び交う戦場を経験した男の冷徹なもので、しかし、
「まあ、なんとかいけるだろうくらいには」
男は飄々と答える。
「青年」
男の目はごまかしを許さない目だ。
「大丈夫だ、一応以前のようにあっさりやられはしないようにいろいろと対策は打ってある」
ただ、詳細はもう少し固まってから話したい。という男。
「…………」
男の目を見据えるカシマ。
「まあ、いいだろう」
ため息とともに言い、
「それで、ワタシに戦え、と?」
男の願いについて問う。男は、
「ああ、そうだ」
頷き。いや、少し違うか。とつぶやき、
「貴方には契約者たちを護ってもらいたい」
男の言葉にカシマは首をかしげる。
「護る? 攻めるのではなく?」
「ああ」
再び頷き、
「≪夢の国≫と戦うのに、多少道を外れる方法を使うことになりそうなんだ」
危険が伴うわけだな。と自嘲気味に男は言い、それでも、と彼は続け、
「安全圏に回せる人間は出来るだけ回しておきたくなって……な」
男がそう思うのは彼が少し前に戦闘中、近くに契約者がいて連れ去られたこともあるし、
「契約者が死ぬようなことはできるだけ避けたい」
今回のように。
都市伝説との契約も種類がある。契約者自身がその能力を持つモノ。そして、都市伝説と契約し、しかし本人には能力が宿らないモノ。
能力を持たないそんな彼らは、
「戦場に連れて行くべきではないだろう?」
突発的に遭遇するのならともかく、こちらから能動的に攻め入る場合、彼らは何も同伴することはないのだ。
「ふむ」
カシマは頷く。
「外道なことを行おうというモノが安全圏に回せる人間だけは護ろうなどと言うのはやはり偽善かな?」
訊ねる男にカシマは答える。
「その外道の中身を知らないのではなんとも言えんな」
しかし、とつなげ、
「そんな風に訊ねてくるのならそれは小心というものだろう」
男は面食らった顔になる。ややあって笑い出し、
「小心モノか、はは、そりゃいい」
敵わないなぁ、と言う男を見つつカシマは、
「願いの件、承知した。と、そういうことにしておこうか」
言った。
「感謝するよ、軍人さん」
男がそう言うと、カシマは苦笑し、どこからか現れた大量の鳩に紛れて、消えた。
「ごめん」
と言った。
「気にしなくて言いさ」
そう男は言い、
「鼻」
彼の言葉に応じて懐から人形がポケットティッシュを持って現れた。
「っ!」
少年は顔を赤くしつつポケットティッシュを奪って行った。
「あれなら大丈夫だろうな」
男は満足そうに頷く。
「我らが契約者も変なところで強情で、俺たちがいると泣いてくれないしな」
懐の人形に語りかける。
うんうんと言っていた人形だが、
「お兄ちゃん」
そう、注意を促すように呼びかけた。
「ああ、分かってる」
男はそう答え、振り向く。と、
「すまなかったな、青年」
すっかり日が暮れて電灯の明るい光が照らす下、いつの間にか桜の花びらが舞っており、そこに片腕の袖を風に揺らした、隻腕の軍服姿の男がいた。
「いや」
気にするな、と男は言い、
「こっちの制止に気づいてくれて良かったよ。アレは、何度かスッキリ吐き出させたほうが良い類のストレスだ」
男はいきなり現れた軍服姿の男と特に問題なく会話を始めた。
確かに。と頷く軍服の男を見ながら彼は問う、
「少年は、これからどうなるんだ?」
「黒服の方が後見人になって下さるようだ」
「黒服が?」
男の表情が多少険しくなる。が、
「いや、あの御仁はおそらく信用できる。今日見ただけでも他の黒服とは雰囲気が違った」
「……ああ」
合点がいく黒服が一人いた。まあ、あの黒服なら大丈夫、か。
「おじさん、だれ?」
懐のリカちゃんが軍服の男を指して言う。
「……む、私の名はカシマ、同胞には隻腕のカシマと呼ばれている」
人形の発言に顔をしかめながらも自己紹介する軍服の男、
「人形の嬢ちゃん、彼は俺と大して変わらない年齢だよ」
男がフォローを入れる。
「そして、」
目を見据える。
「やっと対面できた。貴方にお願いがある。英霊さん」
軍服の男、カシマはその言葉に反応した。
「ワタシに感づいていたのか?」
「まあ、ね。この嬢ちゃん、≪ひとりかくれんぼ≫で命を吹き込まれた都市伝説でね、かくれんぼの才能があるんだ。多少隠れてようと捕捉できる」
男が懐から頭だけを出した状態の人形を撫でる。人形は猫のようにのどを鳴らす音を立てている。
「なるほど、得心した。それで、ワタシに願いとは?」
カシマの言葉に男は頷き、
「英霊さん、近い内に――」
「あーすまない、英霊というのはやめてもらえないか」
カシマが男の言葉を遮った。
「サチ殿の大切な知人の命をみすみす奪われてしまったワタシにそれは重くてな」
そう言うカシマに男はただ頷き、
「軍人さん」
「カシマと名乗ったのだがな」
「代名詞で呼ぶのは癖だ。軍人さんだって俺を青年と呼ぶじゃないか。それに」
男はなんと言ったらいいのか、と言いつつ髪をかきむしり、
「あー……なんというか、日本兵を名前で呼ばわるのはなんとなく恐れ多くてな」
カシマは一瞬虚を突かれた顔をすると、
「くっくく……っ」
愉快そうに笑い始めた。
「笑ってくれるなよ」
「いや、すまない。そうか。恐れ多いか」
カシマの笑いは続く。
「一応俺もちょっと前まで健全な日本男児だったんだからな。多少人間っぽいところが残っていてもいいだろう」
少し不機嫌そうにしながら男は言った。
「ああ、そうだな。うむ、……して、」
カシマは気を取り直したように顔を真剣なものとし、
「願いとは?」
カシマは男に問うた。
カシマの問いに男は一息、鋭く息を吸い込む。そして、
「近い内に≪夢の国≫を相手取り戦おうと思う」
一息に言った。カシマは驚いた顔をし、
「アレか。話によれば青年、君は、」
カシマの言葉を引き継ぐように男は言う。
「以前、アレに挑んで敗れたよ」
「勝算はあるのか?」
鋭い目、それは軍人の、血と銃弾が飛び交う戦場を経験した男の冷徹なもので、しかし、
「まあ、なんとかいけるだろうくらいには」
男は飄々と答える。
「青年」
男の目はごまかしを許さない目だ。
「大丈夫だ、一応以前のようにあっさりやられはしないようにいろいろと対策は打ってある」
ただ、詳細はもう少し固まってから話したい。という男。
「…………」
男の目を見据えるカシマ。
「まあ、いいだろう」
ため息とともに言い、
「それで、ワタシに戦え、と?」
男の願いについて問う。男は、
「ああ、そうだ」
頷き。いや、少し違うか。とつぶやき、
「貴方には契約者たちを護ってもらいたい」
男の言葉にカシマは首をかしげる。
「護る? 攻めるのではなく?」
「ああ」
再び頷き、
「≪夢の国≫と戦うのに、多少道を外れる方法を使うことになりそうなんだ」
危険が伴うわけだな。と自嘲気味に男は言い、それでも、と彼は続け、
「安全圏に回せる人間は出来るだけ回しておきたくなって……な」
男がそう思うのは彼が少し前に戦闘中、近くに契約者がいて連れ去られたこともあるし、
「契約者が死ぬようなことはできるだけ避けたい」
今回のように。
都市伝説との契約も種類がある。契約者自身がその能力を持つモノ。そして、都市伝説と契約し、しかし本人には能力が宿らないモノ。
能力を持たないそんな彼らは、
「戦場に連れて行くべきではないだろう?」
突発的に遭遇するのならともかく、こちらから能動的に攻め入る場合、彼らは何も同伴することはないのだ。
「ふむ」
カシマは頷く。
「外道なことを行おうというモノが安全圏に回せる人間だけは護ろうなどと言うのはやはり偽善かな?」
訊ねる男にカシマは答える。
「その外道の中身を知らないのではなんとも言えんな」
しかし、とつなげ、
「そんな風に訊ねてくるのならそれは小心というものだろう」
男は面食らった顔になる。ややあって笑い出し、
「小心モノか、はは、そりゃいい」
敵わないなぁ、と言う男を見つつカシマは、
「願いの件、承知した。と、そういうことにしておこうか」
言った。
「感謝するよ、軍人さん」
男がそう言うと、カシマは苦笑し、どこからか現れた大量の鳩に紛れて、消えた。