【火を含む石】

石の仲間(岩石や金属)は中に火の霊を含んでいる。そのために打ち合わせると火花を発し、火に熱せられて熔けることはあっても生物のように失われることはない。

これは伊邪那岐が火之迦具土(火の神)を斬った際に、飛び散った血が岩石となり、またその血を磐群草木(多くの岩石や草木)が浴びて、火の霊を含んだためである。

草木が火を起こすことや保つことに適しているのも、炭として用いることが出来るのも、同様の理由からだと説かれている。


【清火(きよび)】

汚火に対して、太陽や太一に由来する火を清火と称する。妖怪や禍神たちはこれを非常に苦手とする。

切火(きりび)

火打から直接で打ち出した火を切火と呼ぶ。清めや災難よけのまじないとして用いられて来た。火打石・火打金から火を得る動作を「燧出」(きりだす)という。

祭祀に臨む際には、切火からおこした清火(忌火)を調理のたびにつくって潔斎*1をした。体を清めるために浴びる湯なども、清火で沸かす。

祭主や巫女をはじめ特に重要な役割を果たす者は、穢体を清いままに保つため、常に清火を用い、他人と火を共有しないことが大切なことだと言い伝えられていた。

【汚火(けがれび)】

火之迦具土から流れた血のうち、濁ったものが黄泉国に達して汚火になったとされる。

火の穢

食品には少なからず「火の穢」が含まれるとされる*2。そのため、特に調理に用いる火についての清濁については強く注意が払われて来た。
塩についても、製塩の際に使われる竃に「火の穢」が用いられてしまうこともあるため、神事に用いるのは、塩をさらに清火で沸かした湯に入れて清めた「塩湯」を用いるとされていた*3

【枯悩】

金属を火で熱して湯にすることや、鍛錬することを「枯悩」という。金属を「かね」と称するのは「かれなやます」(枯れ悩ます)*4という言葉が詰まったものだという。

刃物と竃

包丁などの刃物を竃の上に置くと怪我を負うと言われ忌まれている*5。これは刃物として造られた金属が再び枯悩まされることを嫌うのと、火之迦具土が父に斬られたことを思い起こすからだという。

最終更新:2023年12月17日 17:29

*1 潔斎は、衣食住をすべて清いものにするためのことが行われていた。

*2 岡熊臣『学本論』

*3 伴信友『獣肉塩湯考』

*4 平田篤胤『霊能真柱』

*5 平田篤胤『玉襷』