【妖怪と幽霊】

「妖怪」は様々な自然物や生物、精霊などが現象を起こしたり、姿を見せて来たりするものであり、「幽霊」*1は人間のタマシイ(魂魄)に由来するものであると分けることが出来る。

幽霊は仏教説話などの上で多く採り上げられ、語られる事によって時代と共に存在感を増して行き、死後の苦しみからの解放を求める霊や、怨みを晴らすために出現する霊などが広く語られるようになった。

しかし、いっぽうで都市部などでは、妖怪と幽霊は大して区別されておらず混同されがち*2であるという。これは、物語になっているような特定の人物へ怨みを晴らすために出る「幽霊」のうちに、無関係な人間一般に対しても広く行動を起こす大多数の普通の「魂魄」たちを混同しているからで、このような「魂魄」たちは「妖怪」の範囲に入れて考えると「出現場所」や「対象」についての区別はつきやすい。

分類 対象 出現場所 存在 主な例
妖怪  人間一般   ほぼ固定   自然物、生物、精霊  河童、山姥
幽霊 関係者 不定 人間の魂魄 怨霊
(魂魄)  人間一般   やや固定   人間の魂魄   餓鬼、ミサキ 

古い時代の妖怪に関する例には、霊であることを介在していない事も多いが、真済が死後に鬼となったり、頼豪が憤死して鉄鼠となった事などは、この分類で言えば「対象」も含めて「幽霊」に適当する部分が濃厚であり、「幽霊」の執る姿が妖怪的であるという例であるとも言える。


【出現場所】

妖怪と幽霊の大きな違いは、「妖怪」は特定の出現場所を持っている*3という点である。川に出る「河童」が山奥の森で人間に何かをするという話や、山に出る「山姥」が海を行く船を襲うといった話は、よほどの特殊例では無い限り不特定多数に言い伝えられているという事は無い。

いっぽう「幽霊」は、特に怨みを晴らすために出現したといったような話の場合は、その怨みの対象者の「心」のうちが出現場所の核になっているのであって、「場所」では無く人間(生者)と人間(死者)の「関係」に重きが置かれる。このあたりが、大きな違いであると言えよう。「妖怪」は大多数の人間を相手取っているが、「幽霊」は相互的に関係のある人間にしか大部分は行動しないものである。

【能力の差異】

「幽霊」たちよりも「妖怪」たちの方が、基本的に能力は豊富であると言える。「妖怪」たちは特殊な力で封じられたり、それぞれの決まった弱点を突かれたりしない限り、基本的には行動範囲や能力の制約というものは余り見る事は無い。「幽霊」に到っては、かなり強大な怨みの力を何かの要因で持つことが出来ない限り、場所から動くことも出来ない(自縛霊など)という事もある。

最終更新:2024年04月05日 23:20

*1 細分すれば、亡霊、怨霊、死霊、生霊などとも称する

*2 柳田國男「妖怪談義」

*3 柳田國男「妖怪談義」