【手長足長(てながあしなが)】

各地に言い絶えられている巨人。大きな山に住んでいるとされ、非常に手の長い「手長」と、非常に足の長い「足長」とが存在している。

鳥海山や磐梯山などをはじめ、東北地方の大きな山に言い伝えが多く残っており、人々にも危害を加えていたが弘法大師や慈覚大師といった高僧によって退治されたという内容が多く残っている。

ダイダラボッチから、大地形成の要素が失われていった姿が手長足長であると言える。ダイダラボッチにも手長足長にも、山に居ながらにして大海原の魚介類*1を食べたという話が語られており、実在する古代の貝塚をその残骸であるとしている*2

内裏の手長足長

内裏の「荒海の障子」は手長足長の図が配置されており、手長と足長が魚介類を海で捕っている姿が描かれている。これは、邪霊の入るのを防ぐ異形であるとされていた。荒海の障子の事は、清少納言の『枕草子』にも描写されている。*3

この手長足長は『山海経』に記されている「長臂」と「長脚」が題材になっているが、その採用理由は明確では無い。テナヅチ・アシナヅチを示しており、山海の産物の豊作を意味している*4とも考えられている。

【古代の手長足長】

古代には、数万の手長足長がいたとされる。手長足長という名称は、後に「内裏の手長足長」の影響から「長臂」と「長脚」のような姿が想像されがちであるが、意味するところはダイダラボッチや長髄彦(ナガスネヒコ)のような「大きな男」であったり、土蜘蛛のような背や腕の長い様子を示していたと言える。

強い大力を持った「鬼」のような存在を「手長足長」とも呼んだようで、『善光寺如来縁起』などにも大力の持主として「手長」と「足長」という名前が見られる。

【山岳と手長足長】

手長足長が高僧によって退治される言い伝えは、密教僧や修験者によって山岳が拓かれ、その地に存在していた鬼神や妖魔を結界で退転させた事を意味している。

【天手長(あまのてなが)】

手長神社としてまつられている神社では、天手長命という神名*5がみられる。

最終更新:2021年06月16日 14:07

*1 ハマグリをはじめとした二枚貝が挙げられる事が多い

*2 戸沢充則『縄文人と貝塚』六興出版、1989年

*3 『清少納言旁註図式』

*4 喜田貞吉『喜田貞吉著作集12』平凡社、1980年

*5 埼玉県神職会大里郡支会『大里郡神社誌』1930年