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不老技術


概要

 不老技術は、生命体の老化を遅延もしくは停止させる手法の総称である。
施術の体系は、生体の分子に働きかける科学系統と、生命力の操作もしくは認識の書き換えに拠る魔法系統に分かれており、両者を組み合わせた複合的な施術も各地の文明圏で発達している。

科学系統

 世代の区分は技術の到達度を基準に設けられており、隣り合う世代の間には、新旧の技術が併用される移行の期間を挟む。

技術用語

遺伝子制御系
 老化の進行を遺伝子の働き方の変化として捉える見方から、発現の状態を外から切り替えて身体の衰えに介入する技術群が生まれ、一つの系統にまとめられた。操作の対象は、どの遺伝子がどの程度働くかを定める発現の状態に向けられており、処置を受けた細胞は分裂を経た後も切り替えられた状態を引き継ぐ。系統の歩みは老化を促す遺伝子の抑制に始まり、若年期の遺伝子を呼び戻す段階を経て、発現の型を固定する段階から初期化の段階に進んだ。若さの回復が達成された後、同じ技法は能力の最適化に転用され、集団内の役割に応じた特化にまで応用の幅を広げている。各世代の処置は前世代の処置を土台に積み上げられ、新しい技術の導入後も、古い処置で整えた発現の状態は細胞の中に残る。発現の状態を読み取る測定の技法も系統とともに発達しており、処置の前後で細胞の働き方を見比べる手順が、各世代の施術に組み込まれている。

サイレノーム(Silenome)
 第1世代の遺伝子制御の中核に据えられたのは、加齢とともに働きを強める遺伝子群を見定め、発現の経路を塞いで働きを抑え込む処置である。抑え込みの対象には細胞の老化を早める遺伝子群が選ばれ、加齢に伴って起こる異常な活性化は、処置の段階で先回りして止められる。処置を受けた細胞は抑制の状態を保ったまま分裂を重ねており、新しく生まれた細胞にも同じ抑制が受け継がれていく。効果の向きは老化の進みを遅らせる側に限られ、老化を終えた細胞は処置の前と同じ状態で残る。対象とする遺伝子群は研究の進展に合わせて追加され、抑制の範囲は同じ世代の内でも段階的に広げられた。後続の技術が現れた移行の期間には、抑制の処置が基礎として並べて用いられた。抑制を施す範囲は受け手の年齢と体質に応じて選ばれ、処置の効き目は細胞の入れ替わりが一巡した頃に確かめられる。

ウェイクバック(Wakeback)
 若年期に働いていた遺伝子群の多くは加齢とともに働きを止めるが、第2世代の遺伝子技術は、止まった遺伝子群を再び働かせる操作を抑制の処置に上乗せした。呼び戻しの対象には細胞の更新を支える遺伝子群が選ばれており、働きの戻った細胞は若い時期に近い速さで入れ替わりを始める。効果は細胞の入れ替わりが速い組織ほど早く現れ、皮膚の表層では処置から程なく外見の変化が確かめられた。入れ替わりの遅い組織では呼び戻した遺伝子の働きが細胞の更新に結び付くまでに時間を要し、効果の現れ方には組織ごとの差が大きく開く。呼び戻しと抑制を同じ細胞に並べて施す手順が組まれ、老化を促す側と若さを支える側の釣り合いが処置の設計で調えられた。呼び戻しの効果は細胞の入れ替わりに合わせて段階的に積み上がり、処置を重ねるごとに若返りの及ぶ組織が徐々に増えた。

ロックストランド(Lockstrand)
 第3世代に入ると、加齢に伴って徐々に移ろう遺伝子の発現パターンを、若年期の型のまま固める手法が確立された。発現の型を読み取る工程が処置の前に置かれ、受け手の細胞で働く遺伝子の組み合わせを記録したうえで、若い時期の型に合わせて固定が施される。固定を受けた細胞は分裂を繰り返しても同じ発現の型を保っており、時の経過による移ろいは細胞の側で打ち消される。抑制に呼び戻しを個別に重ねた前世代までの処置に代わり、発現の型そのものを一括で扱う設計によって、遺伝子ごとの調整に要した手間が省かれた。固定は現状の型を留め置く操作であるため、すでに移ろった型を若い時期の型に引き戻す働きは、後の世代の技術に委ねられている。固定の処置は一度施せば長く効き目を保つため、施術の後は発現の型の保たれ方を定期的に確かめる経過観察が主となった。

バックスプール(Backspool)
 老化によって働きを失った遺伝子の再起動と、細胞の分化状態の部分的な初期化を、第4世代の施術は一続きの工程として組み上げた。幹細胞を操作する技法とエピジェネティック・リプログラミングが処置の土台にあり、初期化の度合いは細胞が本来の役割を保てる範囲で細かく調整される。再起動の対象は臓器の機能を支える遺伝子群に広げられており、代謝の中心となる臓器では、衰えた細胞の役割そのものが若い時期の水準に戻る。初期化の度合いを誤れば細胞が本来の役割を手放す恐れがあるため、処置の前には細胞ごとに分化の状態を測る工程が組まれた。固定の処置で老化の進行を止めた細胞に初期化を重ねる順序が標準となり、停止と若返りの二段で処置が進む。初期化を受けた細胞は若い時期の働き方を取り戻した後、固定の処置によって新しい状態で安定させられる。

パリンジェノム(Palingenome)
 全遺伝子の発現パターンの再設定にまで踏み込んだ第5世代の操作によって、細胞は若年期の状態に戻されるようになった。再設定の基準には受け手の若い時期の発現パターンが据えられ、細胞のエピジェネティック年齢は処置の後に初期の値に戻る。部分的な初期化に留めた前世代の手法に代わり、発現の全体を一度に書き換える設計が採られており、分化を終えて入れ替わりを止めた細胞にも若返りの処置が届く。再設定の度合いは受け手の望む年齢に合わせて選べるため、身体の各組織を任意の年齢の状態に揃える施術が可能となった。処置の後の細胞は若い時期の発現パターンから再び老化の道筋をたどり始めるが、固定の処置を併せた身体では、若返った状態が長く保たれる。全身の組織を同じ年齢に揃える施術のほか、部位ごとに年齢を選び分ける施術も行われ、受け手の望みに合わせた身体の設計が可能となった。

エイペックスコード(Apexcode)
 身体能力と知能に関わる遺伝子群を最適化する試みは第6世代で実用の段階に入り、老化の制御で培われた発現の操作が強化の目的に振り向けられた。最適化の基準は受け手が望む能力の水準に置かれ、発現の型は水準から逆算して組み立てられる。筋繊維の組成を決める遺伝子群の操作によって筋力と持久力の上限が引き上げられ、神経細胞どうしの接続に関わる遺伝子群の操作は、認知処理の速度と記憶の容量を押し広げた。能力の引き上げは身体の各組織の均衡を崩しやすく、処置の設計には、強化した組織を支える周辺の組織の調整が組み込まれている。最適化の度合いは段階を刻んで引き上げられ、各段階の後に身体の適応を確かめる期間が設けられた。強化の処置を受けた身体は平常の身体を上回る負荷の下で働いており、処置の後には強化された組織に合わせた生活の組み立てが求められる。

ギルドウィーヴ(Guildweave)
 能力の特化を集団の役割分担に結び付けた設計が、第9世代で導入された遺伝子技術を特徴づける。前世代の最適化が個体の能力の底上げを目指したのに続き、処置の設計は集団全体の働きから逆算され、構成員ごとに伸ばす能力の組み合わせが割り振られる。特化の方向は役割の変更に合わせて組み替えることができ、処置を重ねた個体は、別の役割に移る際にも発現の型を新たに組み直す。特化を深めた個体は、伸ばす対象から外れた能力を集団の他の構成員に補われる関係に置かれており、相互に接続された意識の網が、個体の間で不足する技能を補う。集団の規模と構成に応じて特化の配分が見直され、処置の計画は個体の単位を離れ、集団の単位で立てられる。特化の割り振りは集団の意思決定に委ねられており、個体の希望を集団の必要と突き合わせたうえで、処置の順番が定められる。

分子修復系
 微小な修復体を体内に送り込み、傷んだ分子の構造を直接繕う取り組みは、分子修復の系統として一つにまとめられている。遺伝子の働きを通じて細胞に修復を促す手法に並び、損傷の箇所に修復体が出向いて物理的に手を入れる手法として、系統の技術は発達してきた。修復体の形態は機械の装置から出発し、生体に馴染む有機的な構造体を経て、自ら数を増やす群体に移り変わっている。形態の変化に伴って修復体が体内で働ける期間は延び、処置を定期的に繰り返す運用から、体内に常駐させて修復を任せる運用に切り替わった。老化の克服が果たされた後は、修復の技法が組織の強化と環境に適応する力の付与に向けられ、修復体の働きは身体の性能を押し上げる方向に広がりを見せた。修復体の導入は血流を通じて行われており、導入された修復体は全身の組織に行き渡った後、損傷の多い部位に集まって働く。

スティッチマイト(Stitchmite)
 血流に乗って全身を巡る微小な機械装置が、第1世代の分子修復を受け持った。装置は血管の内側から組織に入り込み、損傷した細胞膜の裂け目を塞ぎながら、形の崩れたタンパク質を組み直していく。修復の対象は装置が識別できる損傷の型に限られており、型に合う傷を見つけるたびに、装置は同じ手順で繕いを繰り返す。機械の装置は体内の環境で少しずつ摩耗し、働きを終えた装置が体外に排出されるため、修復の効果を保つには装置を定期的に補充する必要があった。装置の数と投入の間隔は受け手の損傷の程度に合わせて決められ、補充の周期が施術の計画の骨組みとなる。繕いの対象は細胞の外形を保つ構造に集中し、細胞の内側の働きに手を入れる段階は、後の世代の修復体に引き継がれた。装置の働きを確かめる検査は補充のたびに行われ、摩耗の進み具合から次の補充の時期が見積もられた。

グラフトリング(Graftling)
 第2世代で現れたのは、前世代の機械装置を生体親和性の高い有機的な構造体に作り替えた修復の仕組みである。構造体は体内の環境に溶け込んで周囲の組織と穏やかに共存し、摩耗による働きの低下も緩やかに進むため、長い期間にわたって体内で修復を続ける。有機的な素材で組まれた構造体は細胞の間を通り抜けて臓器の奥まで入り込み、個々の細胞の繕いを積み重ねて、臓器の単位で働きを取り戻させる。補充の間隔が大きく延びたことで、施術の計画は補充の周期から経過の観察に重心を移した。構造体は役目を終えると体内で分解され、分解された素材は周囲の細胞の営みに取り込まれていく。修復の技法そのものは前世代の手順を受け継いでおり、繕いの対象となる損傷の型も、機械の装置が扱った型を引き継いで広げられた。構造体の働きは体外からの測定で見守られており、修復の進み具合は、臓器ごとの働きの回復として確かめられた。

スカヴェナイト(Scavenite)
 第3世代の分子修復では、損傷した細胞の修復に続けて細胞の内側に溜まった老廃物を分解し、体外に排出する機構が加わった。老廃物の蓄積は細胞の働きを内側から衰えさせる要因と見なされ、修復体は細胞の中に入り込んで不要な物質を細かく砕き、排出の経路に送り出す。細胞のエネルギーを生み出すミトコンドリアも修復体の手入れの対象に含まれており、傷んだ部分を取り除いて働きを最適な状態に保つ。外形の繕いから内側の清掃に修復の重心が移ったことで、老化の停止を支える細胞の状態が、分子の水準で整えられる。修復体は細胞ごとの汚れの程度を測りながら処置の量を加減し、清掃の終わった細胞から次の細胞に移る。細胞の内側の清掃は細胞の寿命を延ばす効果も持っており、老化の停止を支える処置の一つとして、他の系統の技術と並べて施された。

トレースライト(Tracewright)
 損傷した部位を元の設計に沿って再建する作業は、組織の微細構造を読み取る機能を得た第4世代の修復体によって可能となった。修復体は健全な周囲の組織から構造の並びを写し取り、写し取った並びを手本にして欠けた部分を組み上げていく。個々の細胞の繕いを積み重ねた前世代までの手法から進み、組織全体の形を基準に据えた再建が可能となって、臓器の若返りを構造の面から支える。再建の精度は写し取る手本の質に左右され、健全な組織がわずかに残るだけの部位では、同じ臓器の別の部位から手本が求められる。組織の設計を読み取る工程には時間がかかるため、修復体は読み取りと組み上げを交互に進め、部位ごとに再建を仕上げていった。再建を終えた部位は周囲の組織と同じ働きを取り戻しており、臓器全体の機能の回復は、部位ごとの再建の積み重ねとして進む。

エヴァースウォーム(Everswarm)
 自ら数を増やす能力を得た第5世代のナノマシン群により、体内に常駐したまま細胞の恒常性を絶え間なく保つ運用が始まった。群体は体内の素材を取り込んで自らの数を増やし、働きを終えた個体の減った分を自前の複製で埋め合わせていく。補充の処置を外から施す必要が消えたことで、分子修復は一度の導入で永続する仕組みに移り、定期の補充に頼った前世代までの運用は終わりを迎えた。複製の速さは体内の損傷の量に応じて上下し、損傷が増えた部位では群体の密度が高まって、修復の手数が自ずと増す。増殖が行き過ぎて周囲の組織を圧迫する事態に備え、群体には数の上限を保つ制御が組み込まれた。群体の働きは体外からの信号で調整できるようになっており、施術者は受け手の状態に合わせて複製の速さや修復の優先順位を改められる。導入の後の受け手は補充のための通院から解き放たれ、経過の確認だけが定期の予定に残った。

フォージモート(Forgemote)
 組織を元の状態より高性能な構造に組み直す触媒の働きを、第6世代の修復の技術は、遺伝子の最適化と歩調を合わせて新たに獲得した。前世代までの修復体が若い時期の構造を手本にしたのに続き、触媒の働きを持つ群体は、遺伝子の最適化で設計された新しい構造を手本に据える。筋繊維の組み替えでは太さと並びを整えて出力を高め、神経の組織では接続の経路を増やして信号の通りを速め、反応の遅れを縮める。組み直しは段階を刻んで施されており、各段階の間に身体が新しい構造に慣れる期間が挟まれる。強化された組織は元の組織と別の形で負荷を受けるため、群体は組み直しの後も組織の状態を見守り、崩れの兆しが現れた箇所を補強していく。組み直しの手本は受け手ごとに設計され、同じ強化を望む受け手の間でも、体格と体質に合わせて構造の細部が一人ずつ変えられる。

ウェザーキン(Weatherkin)
 極限の環境下でも生命活動を続けられる耐性は、第9世代で導入された適応の群体によって身体に付された。群体は受け手が置かれた環境の変化を細胞の側で捉え、温度や圧力の変化に応じて組織の性質を組み替える。適応の対象には呼吸と代謝の経路も含まれ、外気の組成が変わった環境でも、細胞の営みに要る物質を体内で確保する仕組みが整えられる。組み替えた性質は環境が元に戻れば解かれ、身体は平常の構造に復帰するため、受け手は環境を移るたびに耐性を切り替えられる。集団の内部で危険な環境に赴く役割を受け持つ構成員ほど、群体による適応の幅が広く設定されており、役割の特化を支える手段の一つとなった。耐性の切り替えには短い準備の期間が要り、急な環境の変化に備える構成員は、移動の前に群体の設定を目的の環境に合わせて改めておく。

内分泌系
 ホルモンの分泌と合成の仕組みに働きかける系統の目的は、加齢で崩れる体内の均衡を保つことにある。ホルモンは全身の組織の働きを遠隔から調える信号であり、信号の乱れを正せば多くの組織の衰えを同時に和らげられることから、系統は老化対策の初期から重視されてきた。系統の手法は、分泌の量を較正する段階に始まり、内分泌腺そのものを若返らせる段階を経て、合成の経路を人工的に制御する段階に進んでいる。若さの維持が達成された後には、分泌の配分を目的に合わせて切り替える制御が加わり、制御の範囲は個体の内側から集団の単位にまで広げられた。各段階の技術は前の段階の測定手法を受け継ぎ、受け手のホルモン環境を読み取る精度も世代ごとに引き上げられた。測定の技法は採血による検査から始まっており、後の世代では、体内に置いた感知の仕組みが分泌の変化を絶えず捉えるようになった。

チューンマーク(Tunemark)
 成長ホルモンと性ホルモンの分泌量を精密に較正する方法が、第1世代の内分泌制御を構成した。加齢とともに減っていく分泌量を定期的に測り、若い時期の水準との差を補うように分泌を促す刺激が加えられる。較正の基準は受け手ごとの若い時期の記録から求められ、記録を欠く受け手には、同じ年代の標準的な値が当てはめられた。分泌の促しは内分泌腺の残った力に頼るため、腺そのものの衰えが進んだ受け手では、較正で届く水準が年を追って下がっていく。測定と調整の周期を短く保つほど均衡の揺れは小さく抑えられ、施術の計画は測定の頻度を軸に組み立てられた。較正の刺激は内分泌腺の働きを引き出す薬剤の投与で行われており、投与の量は測定の結果に合わせて細かく刻まれた。分泌の揺れが大きい受け手には測定の間隔が詰められ、季節の変化に伴う揺れも記録に書き留められた。

グランドスプリング(Glandspring)
 第2世代の内分泌制御では、減ったホルモンを外から補う処置に、内分泌腺を刺激して若い状態に近づける療法が重ねられた。補充は不足した分を直ちに埋める即効の手段として働き、刺激療法は腺の細胞を活性化させて、分泌の力そのものを時間をかけて取り戻させる。二つの手段を並べる設計によって、補充の量は腺の回復に合わせて少しずつ減らされ、最終的には腺の自前の分泌でホルモンの均衡が保たれる状態が目指された。刺激に対する腺の反応は受け手ごとに開きがあり、回復の遅い受け手には補充の期間が長く取られる。療法の成果は補充を外した後の分泌量で確かめられ、自律した分泌に届いた受け手から順に、施術の計画は維持の段階に移った。刺激療法を受けた腺では細胞の働きが段階を追って戻っており、腺の大きさと形にも、若い時期の姿に近づく変化が現れた。

シンスウェル(Synthwell)
 ホルモンが合成される経路そのものを人工的に制御する方式は、第3世代の内分泌制御の中心に置かれた。合成の各工程に関わる酵素と材料の供給が調整の対象となり、経路の途中で滞りが生じた工程には、制御の手が直接入る。分泌腺の外側から量を合わせた前世代までの手法に代わり、合成の源で量と質を決める設計が採られたことで、ホルモン環境は加齢の影響を受ける前の段階で整えられる。制御の指令は受け手の身体の状態を読み取った結果に基づいて出され、日々の活動に伴う需要の変化にも合成の速さが追従する。合成の経路を押さえた制御は老化の停止に歩調を合わせ、内分泌系の衰退を根本から抑える手段となった。合成の制御は体内に置いた調整の仕組みが受け持っており、仕組みの働きは外からの測定で定期的に点検される。制御の範囲は合成の経路ごとに段階的に広げられ、主要なホルモンから順に人工の制御に切り替えられた。

リメイソン(Remason)
 内分泌腺の細胞構造を若い状態に組み直す処理によって、ホルモンを分泌する能力そのものの回復が第4世代で実現した。腺を構成する細胞の並びと形が作り直しの対象となり、刺激で働きを引き出した前世代の療法から、処置は構造の水準にまで踏み込んだ。組み直しの前には腺の組織の設計を読み取る工程が置かれ、分泌を受け持つ細胞の配置が若い時期の構造に合わせて整えられる。構造の回復した腺は腺の自前の力で分泌を続けており、外からの補充と刺激はいずれも施術の後に外された。腺の大きさと組織の込み入り方によって組み直しに要する期間は開き、複数の腺を抱える受け手では、腺ごとに順を追って処置が進められる。組み直しを終えた腺は外からの処置を要する機会が減り、施術の後の点検は腺の構造を確かめる検査が中心となった。構造の組み直しは腺の細胞を読み取る技法の進歩に支えられ、読み取りの精度が組み直しの出来を左右した。

スティルミア(Stillmere)
 第5世代に至り、内分泌系の全体を一つの仕組みとして統合的に制御する体制が完成し、若年期のホルモン環境は恒常的に維持されるようになった。個々の腺と合成の経路を別々に扱った前世代までの制御に代わり、全身のホルモンの流れが一つの制御の下にまとめられる。ある腺の分泌が揺れた場合も、他の腺と合成の経路が即座に補い合い、全体の環境は若い時期の状態に保たれ続ける。制御の基準となる若年期の環境は受け手ごとに記録されており、若返りの処置で身体の年齢を選び直した場合には、基準も選んだ年齢の環境に合わせて改められる。統合の制御は日々の活動の変化にも追従し、眠りと目覚めの周期に伴う分泌の波も若い時期の形で再現された。統合の制御を受けた受け手は日々の測定から解き放たれ、制御の記録は定期の点検の際に、医療の専門家の手でまとめて確かめられる。

タイドワイズ(Tidewise)
 目的に応じて最適化した分泌の配分に切り替える制御は、若年期の分泌パターンを基準に据えたうえで、第6世代に実現を見た。若さの維持を目標とした前世代の制御から一歩進み、受け手が求める身体の働きに合わせてホルモンの配分が組み立てられる。持久力を求める場面では代謝を支えるホルモンの比重が高められ、集中を要する場面では神経の働きに関わるホルモンが前面に出る。配分の切り替えは受け手の予定に合わせて前もって組まれるほか、身体の状態を読み取った結果に応じてその場で改めることもできる。最適化した配分を長く続けた後は若年期の基準に戻す期間が挟まれており、偏った配分が身体に残す負担は戻しの期間で解消される。配分の設計には遺伝子の最適化で高められた組織の需要が反映され、強化の度合いに見合うホルモンの量が割り当てられる。

コーラスフロー(Chorusflow)
 集団全体のホルモン環境の同期は、第9世代で導入された制御の仕組みにより、構成員どうしの協調行動の効率を高める手段となった。個々の身体の制御を集団の単位に広げた技術であり、相互に接続された意識の網を通じて、構成員の身体の状態が一つの制御の下で読み取られる。共同で作業に当たる構成員の間では、緊張と休息の周期が揃えられ、集団の動きに合わせて全員の身体が同じ調子で働く。同期の範囲と深さは作業の内容に応じて選ばれ、個々の構成員の役割に特化した配分は、同期の枠の内側で保たれる。同期を外した後も個体のホルモン環境は若い時期の状態に戻り、集団の作業から離れた構成員は、平常の均衡のもとで過ごす。同期の指令は意識の網から各構成員の制御に配られており、指令の届く速さが集団の動きの揃い方を決める。同期の深さを増すほど構成員の疲労の周期も揃い、休息の時間は集団の単位で一斉に取られる。

防護場系
 身体の外に張るエネルギー場で細胞を守る発想が系統の出発点にあり、体表を包む場の作用は外側から全身の細胞に及ぶ。場は身体の外に張られるため、体内に処置を施す他の系統の技術と並べて用いやすく、処置を受けた部位の周りを場で包む組み合わせが早くから試みられた。系統の手法は外部の有害因子を遮る防護から始まり、場に細胞を活性化させる作用が加わった後、活性酸素の中和や再生の促進にまで作用の種類を増やしてきた。作用の向きも身体の外から内側に広がり、体内の恒常性を調える働きを場が受け持つ段階に至っている。場を生み出す装置は受け手の身体に合わせて調整され、場の強さと作用の配合は、受け手の状態を読み取った結果に応じて日々改められる。系統の技術は身体の外に装置を置く形で運用されており、装置の出力を上げるほど、場の作用は身体の奥まで届く。

ヘイズワード(Hazeward)
 体表にエネルギー場を張って外部の有害な環境因子を遮る技術が、第1世代の防護場として実用化された。場は身体の輪郭に沿って層を成し、外から届く有害な因子を層の表面で受け止めて、細胞に届く前に散らす。遮られる因子には細胞を傷める放射と化学的な刺激が含まれており、場の内側の細胞は外部からの負荷を減らした状態で営みを続ける。場の働きは外から来る害を防ぐ向きに限られ、体内で生じる老化の要因は、他の系統の処置に委ねられた。場を生み出す装置は身体に密着させる形で装着され、受け手は日常の活動を続けながら場の内側で過ごす。装置の出力は受け手が置かれた環境の厳しさに合わせて上下し、有害な因子の多い場所ほど層は厚く張られる。装置の装着と取り外しは受け手自身の手で行え、施術のために通院を要する機会は小さく抑えられた。

クイックマントル(Quickmantle)
 第2世代のエネルギー場では、防護の作用に細胞の活性化が重ねられた。外からの害を遮る層を保ったまま、場の内側に向けて細胞の営みを後押しする働きが加えられ、身体を包む場全体が代謝を底上げする装置として働く。活性化の作用は場の接する全身の細胞に等しく届き、部位を選んで処置を施す他の系統の技術と組み合わせると、処置の効果が全身で揃いやすくなる。活性化の強さは受け手の体力に合わせて段階的に調整され、強い活性化を続けた後には、細胞を休ませるために作用を弱める期間が置かれた。防護と活性化の配分は受け手の生活の場に応じて改められ、有害な因子のまばらな環境では、場の力の多くが活性化の側に回される。活性化の作用は場の出力を細胞の働きに合わせて波打たせる形で加えられており、細胞の疲れが溜まる速さを緩やかにする。

ラストベイン(Rustbane)
 活性酸素種の中和を外部のストレスの防護に加えた点で、第3世代の防護場は作用の範囲を体内に広げた。細胞の営みに伴って体内で生じる活性酸素種は、細胞の構造を酸化させて損傷を積み重ねる要因であり、場の作用は体表から組織の内側にまで届くように改められた。組織の内側に及んだ場は活性酸素種を見つけ次第に中和し、酸化ストレスによる細胞の損傷を未然に防いでいる。外から来る害と内側で生じる害の双方を一つの場で扱えるようになったことで、防護場の役割は身体の内外にまたがる守りに広がった。中和の作用は細胞の営みが盛んな組織ほど強く働くよう配分され、代謝の活発な臓器では、場の出力が高めに設定される。中和の作用は場の内側で絶えず続いており、細胞の内側の清掃を受け持つ修復体と並べて用いることで、酸化の害は細胞の内外の両側から抑えられる。

エコーブルーム(Echobloom)
 細胞の再生シグナルを増幅する働きは、保護の作用と併せて第4世代の場に組み込まれた。組織が傷を受けると細胞の間で再生を促すシグナルが交わされるが、加齢とともに弱まったシグナルを場が拾い上げて強め、組織の自己修復を速める。増幅の作用は損傷の生じた部位に集中して働き、健全な部位では保護の作用が主となるよう、場の配分が部位ごとに切り替えられる。臓器の若返りを図る処置の後には再生の働きが盛んになる時期が続き、場の増幅はこの時期の組織の立て直しを後押しする。シグナルを強めすぎれば組織が過剰に増える恐れがあり、増幅の度合いは組織の再生の進み具合を読み取りながら加減された。増幅の度合いを読み取る仕組みは場の装置に組み込まれており、再生の進み具合に応じた増幅の加減は、装置の側で自動的に行われる。再生の盛んな時期を過ぎた組織では増幅が弱められ、場は保護を主とする平常の配分に戻る。

インナーヘイヴン(Innerhaven)
 外部の有害因子を遮る作用と体内の恒常性を調える作用は、第5世代に至って一つの場にまとめ上げられた。場は体内の温度と化学的な状態を絶えず読み取っており、恒常性が揺らいだ箇所を見つけると、揺れを打ち消す向きに作用を加える。前世代までに加わった作用も場の内に統合され、受け手の状態に応じて必要な作用が自動で選ばれる。外からの守りと内側の調整が一つの場で閉じた結果、防護場系の技術は身体の環境そのものを保つ仕組みとして一つの到達点を迎えた。場の制御は他の系統の技術と連携して働き、若返りの処置で整えた身体の状態は、場の内側で長く保たれる。読み取りと調整の周期は細胞の営みの速さに合わせて刻まれ、恒常性の揺らぎは受け手が気づく前に収まる。統合された場は他の系統の処置の効果を損なう作用を避けるよう設計され、複数の処置を並べる施術の土台に据えられた。

サージクローク(Surgecloak)
 強化された身体の性能を引き出すため、第6世代の場は保護の作用に活性化の作用を重ねる構成を採った。遺伝子の最適化と構造の組み直しで高められた組織は、平常の身体を上回る負荷の下で働くことになり、場は組織の働きを後押ししながら、高い負荷から細胞を守る。筋肉が大きな力を出す場面では場の作用が代謝の補助に回り、神経が速い処理を続ける場面では、信号の通り道を安定させる側に作用が振り向けられる。作用の配分は受け手の活動に合わせて瞬時に切り替わり、休息に入った身体では、強化された組織の回復を促す作用が主となる。場の出力は身体の強化の度合いに見合う水準まで引き上げられ、強化の段階が進むごとに装置の調整も改められた。場の装置は強化された身体の動きに追従する形で作られており、激しい動作の最中にも、場の層は身体の輪郭に沿って張られ続ける。

キンシュラウド(Kinshroud)
 集団内での生体情報の共有が、第9世代の防護場で個体の健康維持に重ねられた。場は受け手の身体の状態を読み取る働きを持っており、読み取った生体情報は相互に接続された意識の網を通じて、集団の構成員の間で共有される。共有された情報をもとに、構成員の不調は本人が気づく前に周囲に伝わり、集団の側で作業の割り振りを組み替える対応が取られる。場の作用そのものは個体ごとに働き、防護と恒常性の調整は受け手の身体の内側で完結する。生体情報の共有範囲は集団の取り決めに沿って定められ、構成員は共有の深さを自らの意思で選ぶことができる。読み取りの対象は心拍と体温の揺れに始まり、細胞の営みの変化にまで及ぶ。共有された生体情報は集団の健康の記録として積み上げられ、同じ役割を受け持つ構成員の間で、身体の変化の傾向を照らし合わせる手掛かりとなる。

意識保全系
 第7世代で第五の系統として加わった保全の系統は、意識と記憶を量子情報として記録し、肉体の損傷や寿命から切り離して保つ。肉体の老化を扱う四つの系統が身体の側から不老を支えたのに続き、保全の系統は精神の側に永続性を与える。系統の手法は神経活動の記録と転写に始まり、肉体から切り離した意識の稼働を経て、複数の意識を一つの網で結ぶ段階に進んだ。各段階の手法は量子ビルド・ネットワークの世代交代と歩調を合わせており、網の処理の力が上がるたびに、保全できる意識の量と扱いの幅が広がった。肉体の側の技術との連携も段階を追って深まり、身体の状態の監視と意識の保全が一つの基盤で扱われるに至っている。保全された意識の記録は肉体の側の技術で若返った身体に移すこともでき、身体と精神の両面の不老が、一つの施術の中で組み合わされる。

第1世代量子ビルド・ネットワーク(F.B.N.S.)
 宇宙新暦1300年に導入された網であり、脳内の神経活動パターンを量子情報として記録し、他の生体もしくは人工的なホスト体に転写する処理を可能にした。記録は受け手の意識の状態を丸ごと写し取る形で行われ、肉体が損傷を負った場合も、保全された記録を新たな身体に移すことで人格の連続性が保たれる。長い生涯のうちに積み重なる認知の負荷は記憶を損なう要因となっていたが、網に残した記録から失われた記憶を補う手段が講じられた。記録の更新は定期的に行われ、最後の更新から損傷までの間に生じた記憶は、転写の後の身体では欠けた記憶として残る。網の容量は当時の処理の力に見合う範囲に収まり、保全の対象は個々の意識を記録する用途が中心となった。記録と転写の処理は網の拠点で行われており、受け手は拠点に接続して記録を更新する手順を定期的に踏んだ。

第2世代量子ビルド・ネットワーク(S.B.N.S.)
 肉体から切り離した意識を網の内側で稼働させる処理は、共立公暦300年の実装とともに可能となり、大規模な意識の共有と転送も同じ網で扱えるようになった。意識は仮想空間で情報存在として暮らす道を得ており、仮想空間での環境は意識の側が自由に構築できる。物理世界に戻る場合には、生体のホスト体もしくは機械の身体に意識を転送し、具現化の手順を踏む。網の保全は長期にわたって仮想の存在を続けた意識にも及び、意識の情報は元の状態を保って劣化の進みを抑えられる。前世代の網が記録と転写を主な用途としたのに続き、第2世代の網は意識が網の内側で生き続ける場そのものとなった。仮想空間と物理世界を行き来する生き方も選べるようになり、意識は目的に応じて存在の形を選び分ける。網の容量は前世代の網を大きく上回り、多数の意識が同じ仮想空間に並び立って情報を交わす運用が現れた。

第3世代量子ビルド・ネットワーク(T.B.N.S.)
 ライフサイクル・システムと連携して意識情報の処理量と処理効率を大きく引き上げた網が、共立公暦804年に実装された。肉体の状態の常時監視と意識の保全が一つの基盤で扱われ、身体の異常を捉えた網は、修復の処置と意識の保全を同じ流れの中で進める。処理の力の向上によって複数の意識を相互に接続する運用が可能となり、接続された意識は個々の独立性を保ったまま、他者の記憶と技能を参照できる。網の上での知識の受け渡しは同意を経た範囲で行われ、集団の単位で知識と経験を積み上げる基盤が整った。肉体の側の技術と意識の網の連携が一つの基盤に収まったことで、不老の維持は身体と精神の双方を同じ網の上で見守る形に移った。身体を保つ用途と意識を保つ用途は網の上で並行して動いており、運用の目的に応じて、一方の用途に限った使い方も選べる。

用語名の由来(科学系統)

 当記事における用語の名称は便宜上、すべて共立英語を用いる。以下に、各用語の命名由来を記す。

【用語名】 【由来】 【備考】
サイレノーム(Silenome) silence(黙らせる)とgenome(ゲノム)の混成語 遺伝子制御系・第1世代。老化を促す遺伝子の発現を黙らせる抑制の処置を示す
ウェイクバック(Wakeback) wake(目覚めさせる)とback(元に)の複合語 遺伝子制御系・第2世代。働きを止めた若年期の遺伝子を呼び戻す動きを示す
ロックストランド(Lockstrand) lock(固定する)とstrand(DNAの鎖)の複合語 遺伝子制御系・第3世代。発現の型を若年期のまま固める処置を示す
バックスプール(Backspool) back(逆向きに)とspool(糸巻き)の複合語 遺伝子制御系・第4世代。分化の状態の部分的な初期化を、糸の巻き戻しに重ねる
パリンジェノム(Palingenome) palingenesis(再生、転生)とgenome(ゲノム)の混成語 遺伝子制御系・第5世代。palingenesisはギリシャ語系の学術語で、全発現の再設定による生まれ直しを示す
エイペックスコード(Apexcode) apex(頂点)とcode(遺伝暗号)の複合語 遺伝子制御系・第6世代。能力の頂点に合わせて書かれた遺伝暗号を示す
ギルドウィーヴ(Guildweave) guild(職能の集団)とweave(織る)の複合語 遺伝子制御系・第9世代。役割分担に応じた能力の特化で集団を織り上げる様を示す
スティッチマイト(Stitchmite) stitch(縫う)とmite(微小なもの)の複合語 分子修復系・第1世代。細胞膜の裂け目を縫い塞ぐ微小な機械装置を示す
グラフトリング(Graftling) graft(接ぎ木、移植)に接尾辞-ling(小さなもの)を付けた派生語 分子修復系・第2世代。組織に接ぎ木されるように溶け込む有機の構造体を示す
スカヴェナイト(Scavenite) scavenge(清掃する)に接尾辞-ite(〜に属するもの)を付けた派生語 分子修復系・第3世代。-iteはギリシャ語系の接尾辞で、細胞内の老廃物を片付ける働きを示す
トレースライト(Tracewright) trace(写し取る)とwright(職人)の複合語 分子修復系・第4世代。健全な組織の構造を写し取って再建する職人を示す
エヴァースウォーム(Everswarm) ever(永続的に)とswarm(群れ)の複合語 分子修復系・第5世代。自己複製で体内に常駐し続ける群体を示す
フォージモート(Forgemote) forge(鍛える)とmote(微粒)の複合語 分子修復系・第6世代。組織を高性能な構造に鍛え直す微粒の触媒を示す
ウェザーキン(Weatherkin) weather(風雨に耐え抜く)とkin(一族、同類)の複合語 分子修復系・第9世代。weatherの「耐え抜く」の意を掛け、極限環境への適応を示す
チューンマーク(Tunemark) tune(調律する)とmark(目盛り)の複合語 内分泌系・第1世代。分泌量を基準値に合わせる較正を、調律の目盛りに重ねる
グランドスプリング(Glandspring) gland(腺)とspring(泉、湧き出る)の複合語 内分泌系・第2世代。腺が分泌の力を取り戻して再び湧き出す状態を示す
シンスウェル(Synthwell) synthesis(合成)とwell(井戸、源)の混成語 内分泌系・第3世代。ホルモンの合成経路を源で押さえる制御を示す
リメイソン(Remason) 接頭辞re-(再び)をmason(石工、組み積む)に付けた派生語 内分泌系・第4世代。腺の細胞構造を積み直すように組み直す処理を示す
スティルミア(Stillmere) still(静止した)とmere(湖)の複合語 内分泌系・第5世代。mereは古語で、波立たない湖面にホルモン環境の恒常を重ねる
タイドワイズ(Tidewise) tide(潮の満ち引き)に接尾辞-wise(〜に長けた)を付けた派生語 内分泌系・第6世代。潮を読むように分泌の配分を目的ごとに切り替える制御を示す
コーラスフロー(Chorusflow) chorus(合唱)とflow(流れ)の複合語 内分泌系・第9世代。集団のホルモン環境を合唱のように同じ調子に揃える同期を示す
ヘイズワード(Hazeward) haze(もや)とward(守り)の複合語 防護場系・第1世代。体表を覆うもやのような守りの層を示す
クイックマントル(Quickmantle) quick(生きている)とmantle(外套)の複合語 防護場系・第2世代。quickは古い語義を用い、生気を与える外套として活性化の作用を示す
ラストベイン(Rustbane) rust(錆)とbane(〜を滅ぼすもの)の複合語 防護場系・第3世代。細胞の酸化を錆に見立て、活性酸素種の中和を示す
エコーブルーム(Echobloom) echo(反響)とbloom(開花)の複合語 防護場系・第4世代。増幅された再生シグナルが響き返し、組織が咲き直す様を示す
インナーヘイヴン(Innerhaven) inner(内なる)とhaven(避難所)の複合語 防護場系・第5世代。外の遮断と体内の恒常性の調整を一つにまとめた内なる避難所を示す
サージクローク(Surgecloak) surge(出力の高まり)とcloak(外套)の複合語 防護場系・第6世代。強化された身体の高い出力を支えて纏う外套を示す
キンシュラウド(Kinshroud) kin(同胞)とshroud(覆い)の複合語 防護場系・第9世代。生体情報の共有で同胞を一つの覆いに包む様を示す

不老化第1世代

 宇宙新暦570年頃、老化を複数の要因が重なって進む生体現象と捉える研究が実を結び、老化の進行を遅らせる最初の段階が開かれた。遺伝子制御系ではサイレノームが発現の抑制に着手し、分子修復系はスティッチマイトによって細胞の外形の繕いを始めている。内分泌系の側で分泌量の較正を受け持ったのはチューンマークであり、防護場系ではヘイズワードが外部の害を遮る役目に就いた。四つの系統は別々の研究から生まれたものの、受け手の身体には同じ時期に並べて施され、併用によって各系統の単独の効果を上回る遅延が確かめられた。施術を受けた身体では老化の進みが緩やかになり、加齢の兆しが現れる時期は施術の前の見込みより後ろにずれ込んだ。遅延の効果は処置を重ねることで保たれており、受け手は四系統の処置を周期的に受け直す暮らしを送った。老化を終えた細胞を若い状態に戻す課題は、次の世代の研究に引き継がれた。

不老化第2世代

 若返りに向けた最初の歩みは、第1世代に続いて宇宙新暦600年代後半に登場した第2世代で踏み出され、部位を選んだ若返りが老化の遅延に加わった。遺伝子の側ではウェイクバックが呼び戻しの段階を開き、修復の側はグラフトリングの登場で有機の構造体に移った。内分泌腺そのものの回復に踏み込んだグランドスプリングと並び、防護の場もクイックマントルによって活性化の作用を得ている。修復体が体内で長く働けるようになったことで、遺伝子の処置で若返った細胞を修復体が繕い続ける流れが、一つの施術の中で成り立った。受け手の外見には若返りの兆しが現れた一方、身体の奥の組織では老化の進みが続いており、外見と内臓の年齢の間に隔たりが生じた。若返りの及ぶ範囲は再生の速い組織から広がり、施術の成果は部位ごとの年齢の違いとして記録された。再生能力の低い脳と心臓では効果が小さく、全身の若返りに至る道筋は、両臓器の組織を扱う技術の完成を待つ段階にあった。

不老化第3世代

 老化の完全な停止は、宇宙新暦800年代も半ばに入った頃、テロメア研究とエピジェネティクス研究の進歩を背景に実現した。テロメラーゼ酵素の制御によってテロメアの長さを一定に保つ技術が確立され、細胞分裂に伴う短縮は止まっている。同じ時期、ロックストランドは発現の型の固定に、スカヴェナイトは細胞の内側の清掃に到達した。合成の源を押さえるシンスウェル、体内の酸化を抑えるラストベインも加わり、各系統の到達点は、身体の現状を保つ一点に揃った。施術を受けた身体は施術の時点の年齢で時を止め、以後の歳月を同じ姿のまま過ごしていく。施術を受ける時期の早さが、保たれる身体の若さを決めることになり、若いうちに施術を求める受け手が増えた。すでに老いた組織を戻す処置は部位ごとの段階に残っており、全身の若返りは未達成のまま次代に引き継がれた。

不老化第4世代

 宇宙新暦900年代後半、第3世代で得た老化の停止を土台に、若返りの効果が臓器の水準に広がった。幹細胞を操る技法の成熟が世代の前進を支え、バックスプールは細胞の初期化に、トレースライトは組織の再建に踏み込んでいる。内分泌の側ではリメイソンが腺の構造の回復を果たし、エコーブルームの場は再生の後押しを受け持った。施術の計画は臓器を単位に組まれ、一つの臓器に四系統の処置を集めて若返らせた後、次の臓器に移る順序が採られた。代謝臓器の肝臓では機能の回復が進み、慢性疾患の根治も視野に入ったことで、受け手の体力と病を退ける力は若い時期の水準に近づいた。臓器ごとの若返りの進み具合は施術の記録に書き留められており、次の臓器に移る時期は、前の臓器の回復を確かめたうえで決められた。神経系と心筋の若返りは部分的な回復に終わり、脳の老化に伴う認知機能の低下が課題として残った。

不老化第5世代

 神経細胞と心筋細胞の若返りが実現したのは、第4世代に続く宇宙新暦1100年代である。終末分化細胞にあたる両細胞の若返りによって、身体のあらゆる組織を任意の年齢の状態に戻せるようになった。パリンジェノムが全身の再設定を果たし、エヴァースウォームの群体は修復を体内で自給する段階に入った。内分泌系の統合はスティルミアで完成を見ており、防護場系の作用もインナーヘイヴンで身体の内外に及んだ。四系統の技術がいずれも体内もしくは身体の周りで働き続ける構成が揃い、施術は一度の導入を起点に効果を保ち続ける形に移った。第3世代の施術を受けて年齢を止めた受け手も、望む年齢の身体に戻る道を得ている。生物学的な寿命の撤廃が第5世代の成果であり、施術を受けた個体は事故による死を別にすれば、理論上の寿命の上限を失った。

不老化第6世代

 宇宙新暦1200年代前半、老化の克服を終えた技術の目標は、人間の能力そのものを増強する段階に移った。エイペックスコードが強化の目標を遺伝子の側で定め、フォージモートは定められた目標に沿って組織を組み直している。タイドワイズは強化された身体の需要に合わせて配分を整え、サージクロークの場が高い負荷の下で働く組織を支えた。強化の目標を遺伝子の側で一つに定め、他の三系統が目標に合わせて働きを揃える形が、世代の施術の骨組みとなった。若返りのために磨かれた四系統の技法は、新しい系統を興す段階を踏む前に能力の上乗せに振り向けられており、世代の前進は既存の技術の転用から始まった。施術の目的が衰えの回復から能力の上乗せに移ったことで、受け手の側から望む能力を申し出て施術の内容を組み立てる形が広まった。老化から解かれた身体は平常の人間の水準を上回る働きを得て、受け手は強化の度合いを選びながら長い生涯を送るようになった。

不老化第7世代

 宇宙新暦1300年、第1世代量子ビルド・ネットワーク(F.B.N.S.)の導入によって、第7世代の技術体系が成立した。生物学的な寿命を撤廃した後も、事故による肉体の喪失は人格の終わりに直結していた。残された課題に応える手段として、量子ビルド・ネットワーク・システム(B.N.S.)が精神の永続性を加えた。意識保全系が四系統に続く第五の系統として加わった。肉体の側では第6世代の肉体系技術が同じ構成で受け継がれており、肉体を保つ四系統に意識を保つ一系統を接いだ構成によって、身体と精神の双方に不老が及ぶ形が整った。強靭な肉体に不滅の精神を併せ持つ存在が現れ、数百年から数千年に及ぶ時間軸で人生を設計する道が開かれた。保全された意識は稼働の場として肉体を要する状態に置かれ、肉体から離れた存在の形は次代の網に委ねられた。

不老化第8世代

 共立公暦300年、第2世代量子ビルド・ネットワーク(S.B.N.S.)の実装により、意識は物理的な肉体から切り離して存在を続けられるようになった。肉体を前提に組まれてきた五系統の関係は世代の前進によって組み替えられ、意識保全系が存在の基盤に移る一方、肉体系の四系統は物理の身体を選んだ者のための技術に位置を変えた。物理世界に戻る意識を迎えるため、ホスト体を若い状態で整えておく用途も、肉体系の技術に加わった。不老の意味は肉体の老いを止める段階から、存在の形を選ぶ段階に広がり、施術の対象も身体の処置から存在の置き場の選択に及んだ。受け手の暮らしは肉体を伴う暮らしと仮想の暮らしに分かれ、選んだ形に応じて、受ける技術の組み合わせも変わっていった。施術の相談は受け手がどの形で存在を続けるかを定める段階から組み立てられており、身体の処置は選ばれた形に合わせて後から決まる。

不老化第9世代

 共立公暦804年に第3世代量子ビルド・ネットワーク(T.B.N.S.)が実装され、世代の焦点は個人の不老から集団としての意識の統合に移った。肉体系の四系統でも、ギルドウィーヴとウェザーキンが集団内の役割に合わせた身体づくりに進んでいる。内分泌系のコーラスフローは構成員の身体の調子を揃え、防護場系のキンシュラウドが集団の中で生体情報を巡らせた。五つの系統の技術がいずれも集団の単位を前提に設計された点で、世代の施術は個体を束ねた集団そのものを受け手に据えている。集団知性としての処理能力は構成員の能力の総和を上回り、個人の手に余る規模の課題にも、集団の単位で取り組む道が開かれた。集団に加わるかどうかは個体の選択に委ねられており、個人としての不老を保ったまま集団の外で暮らす道も残された。

令咏術

 遺伝子工学に基づく施術を受けた身体で起動する令咏術は、人工の細胞と液状半導体を体内に備えた術者が、ホログラムシート上の書き込みを通じて自然現象を操る人工異能技術である。老化に向けた働きかけでは、回復系の術式を豊富に持つ秋属性の術式が中心となり、衰えた組織の回復と一時的な身体機能の強化に用いられる。秋属性の術式は繊細なシート構造を要するため、施術に携わる術者には医療系の知識を備えた専門家が多く、術者の数は習得の段階で選り分けられてきた。術式の発動には場に応じた媒介エネルギーを要しており、施術の場所は資源の得られる環境に合わせて選ばれる。体内に注入された液状半導体は微細な損傷を自ら復元する性質を持ち、加齢に伴う組織の変形を受けた後も、発動の経路は連続を保つ。遺伝子の組換えは子の世代に引き継がれるため、被施術者の子は生まれながらに術を扱える身体を持ち、回復系の術式を修める道も親の代から開かれている。

魔法系統

 魔法系統の各方法論は、老化を生命力の減衰もしくは認識上の現象として捉えており、施術の成否は術者の資質と修練に左右される。

現象魔法

 主体が受け取る現象の一つとして老いを捉え、その現れ方に介入する手法が、現象魔法による不老の施術にあたる。意味系の術式では、時間の経過にあたる表象を衰えにあたる本質に繋ぐ意味が組み替えられ、歳月を重ねても老いが身体に現れる結び付きが緩められる。意味系の術式は歪みの発生を三大属性のうちで最も抑えており、言葉外装との相性の良さから呪文と詠唱を用いる施術が主流となった。老いの表象そのものに直接働きかける表象系では、効果が即座に明瞭な形で現れる反面、術者の精神にかかる負荷が大きく、施術の機会は選ばれる。生命の本質に触れる本質系の術式に関しては、世界に及ぶ影響を見積もる手掛かりを欠き、禁呪に指定された術式も多い。素朴な認識を書き換える施術は周囲の人間の精神を蝕み、長く維持された介入の歪みは、意思を持った災害であるアポリアに転じる恐れを抱える。

聖道巫術

 精気が身体から散じていく速さに老いの進みを重ねて測る聖道巫術の理論のもとで、不老の施術は精気の散逸を抑える方向に組まれる。術者自身に向けた永生の術は、体内を巡る精気を外界の気脈の流れから切り離しており、巡りを身体の内側で閉じる形をとる。永生の術を保つ間も術者は自身の精気の残量を符の反応から読み取り、蓄えの減り方に応じて練り直しを重ねていく。他者の身体に向けた施術では、伝播の様式を持つ木行の振動が損なわれた組織の再生を早め、精気の巡りに勢いを与える。浸透の様式を持つ水行の振動は患部を包んで気脈の通りを整え、施術の間も受け手の意識は保たれた状態で進む。精気の制御に求められる水準は高く、永生の術に届く術者は霊格の段階を上り詰めた者に限られてきた。散逸の抑制は生と死の境そのものに触れる行為であり、術の理論は精気が身体の内に保たれた状態を生の側に置く。

固有術式

 固有術式の六種は、特定の方法論に拠らず個別に伝わる魔法系統の術式であり、生命力と身体情報のいずれかを作用の対象に据える。

リベレーション(Liberation)
 体内を巡る生命力の流れに働きかけ、身体の側に備わる自然治癒力を引き上げる術式である。老いの進んだ身体では生命力の循環が滞りやすく、滞りの生じた部位ほど損傷の治りが遅れていく傾向を示す。術者は受け手の身体に手を添えて循環の経路をたどり、流れの淀んだ箇所を探り当てたうえで、生命力を押し出して巡りを取り戻させる。滞りが長く続いた部位では経路そのものが細っており、押し出す力の加減を誤れば周囲の組織に負担が及ぶため、巡りは少しずつ通される。循環の戻った組織では、修復の働きが再び動き出し、傷病からの回復が早まる。巡りが再び淀むまでの期間は受け手の身体の状態に左右され、施術の間隔も同じ見立てに沿って組まれる。術式が動かすのは流れの速さであり、生命力の総量は施術の前と同じ水準を保つことから、蓄えの減った身体には量の側を補う術式と組み合わせた運用が選ばれてきた。複合施術では防護場系の技術が張る場の内側で巡りを通す手順が組まれ、場の作用で速まった自己修復に、身体の治癒力の引き上げが重なる。

エルディアンス(Eldiance)
 量の側から老化に働きかける術式で、生命の源泉となるエネルギーを凝縮し、細胞に活力として注ぎ込む。術者の手元で練り集められたエネルギーは密度を高めた塊に整えられ、受け手の組織に向けて送り込まれており、凝縮の度合いが上がるほど一度に届く活力は増えていく。衰えた細胞の代謝は施術の場で勢いを取り戻し、注ぎ込まれた活力は細胞の営みに使われて少しずつ減るため、効果の持続は注入した量に応じて決まる。活力を使い切った細胞は施術の前の状態に向かって戻っていき、老化の抑制を続けるには施術を重ねる必要がある。凝縮を強めた塊は制御の難度も上がり、送り込む量の加減は術者の技量で差が開く。活力の使われ方は組織の衰えの程度で変わり、衰えの深い細胞ほど、注がれた活力の多くが代謝の立て直しに費やされる。循環の速さを扱う術式と併せて施した身体では、送り込まれた活力が全身の組織に行き渡る。防護場系の場で全身の代謝を底上げした身体に活力を注ぐ組み合わせも発達しており、場が細胞の営みを支える間、注いだ活力の減り方は緩やかになる。

サンクタリア(Sanctaria)
 体内の調和を魔法で保つ術式のもとで、加齢によって崩れた諸機能の釣り合いが、全身の均衡に引き戻される。術者は受け手の体内に魔力の場を広げ、偏りの生じた部位を場の歪みとして捉えながら、歪みの大きさから偏りの程度を読み取る。働きの突出した器官は穏やかに抑えられ、衰えた器官には働きを持ち上げる作用が加わって、全体の釣り合いが整う。整えられた均衡は場が保たれている間続いており、場の維持には術者の魔力が注がれ続ける。場を保つ魔力の量は偏りの大きさに比例し、偏りの深い身体では、術者が交代しながら場を引き継ぐ形も取られる。老化の過程を部位ごとの偏りの積み重なりと捉える見方が術式の土台にあり、一つの器官を若返らせる処置は術式の範囲の外側に置かれる。施術の成果は個々の臓器の状態に現れ、全身の働きが同じ拍子で噛み合う形で確かめられる。内分泌系の技術と併せた施術においては、ホルモンの均衡を技術の側が保ち、器官どうしの釣り合いを術式の場が受け持つ形に役目が分かれる。

アークセンス(Archsense)
 肉体の設計図にあたる遺伝情報が、魔力による干渉の対象として術式の中心に据えられる。細胞の内側に魔力を浸透させた術者は遺伝情報の並びを読み取り、老化に伴って乱れた箇所を若い時期の並びに書き直す。読み取りの段階では受け手の若い時期の並びを推し量る作業が要り、老化の進んだ身体ほど、手掛かりの限られた状態から書き直しの目標を定める。書き直された情報は細胞の分裂を通じて新しい細胞に受け継がれており、組織が入れ替わるにつれて若返りの範囲が広がっていく。効果の現れ方は緩やかで、施術の直後に身体の外見が変わる場面は稀である。干渉の精度は術者の技量に直結し、書き直しの誤りも分裂とともに組織の中に広がることから、施術の前には読み取りを幾度も重ねる手順が置かれる。一度の施術で書き換えられる範囲は細胞の一群に及ぶ程度で、全身の若返りには長い期間にわたる施術の積み重ねを要する。遺伝子制御系の技術で発現の状態を固めた細胞に書き直しを施す手順を取れば、書き直した箇所は技術の制御のもとに置かれ、分裂を重ねた後も若い時期の並びを保つ。

マグニフィケイト(Magnificate)
 老化した部位を分子の単位で組み直し、元の構造に戻す働きが、組織の形を扱う術式の核にある。施術の範囲は一つの部位ごとに区切られ、術者は損なわれた構造を分子の並びから復元していく。復元の工程は部位の表層から深部に向けて進み、深部の構造まで組み直された時点で、一つの部位の処置が終わる。復元の基準には部位の若い時期の構造が据えられ、皺の刻まれた皮膚でも摩耗した関節でも、変化は施術の場で目に見える形をとる。全身に及ぶ施術では部位を順に移しながら復元を重ねており、術者の負担は処置の範囲に応じて大きくなる。形の側で完結する術式のため、細胞の内に残る遺伝情報の乱れは復元の後も同じ状態で残り、時を経て老化が再び進み出す。遺伝情報を書き直す術式と組み合わせた施術では、戻した構造が新しい細胞に受け継がれ、復元の効果が長く保たれる。分子修復系の技術を併用した身体の場合、術式で戻した構造の維持は体内を巡る修復装置に引き継がれ、術者の手を離れた後の損傷も装置の側で繕われていく。

ヴィータポーション(Vitapotion)
 服用によって細胞の健全性を保つ秘薬が、術式を薬の内に封じた形で供される。作用は調合の段階で薬に込められており、服用の場は飲む者一人の手で完結する。飲み下された薬は体内を巡って全身の細胞に行き渡り、細胞の営みを健やかな状態に保ちながら、老化に伴う衰えの進みを緩める。作用の続く期間は薬の成分が体内に残る間に限られ、健全性の維持には服用を定期的に重ねる形が取られる。調合には術式を扱える作り手の手技が求められ、出来上がった薬は持ち運びの効く形に整えられて、術者から離れた場所にも届けられる。薬の効き目は作り手の技量によって差が生じ、同じ調合であっても、作り手ごとに作用の続く期間が変わる。施術の場に通う手間を省ける利点から、術者の手の届く範囲の外側で暮らす者にとって、不老の手段を得る主な経路となっている。継続投与の薬物と並べて服用する用法も広がっており、薬物で老化の進行を遅らせた身体に、秘薬の作用が細胞の健全性を上乗せする。

用語名の由来(魔法系統)

【用語名】 【由来】 【備考】
リベレーション(Liberation) liberation(解放)をそのまま用いた語 固有術式。滞った生命力の流れを解き放ち、循環を取り戻させる働きを示す
エルディアンス(Eldiance) eld(老い、古き時)に接尾辞-iance(状態、性質)を付けた派生語 固有術式。eldは古語で、長い時を経て受け継がれる生命の源泉の力を示す
サンクタリア(Sanctaria) sanctum(聖域)に接尾辞-aria(場、集まり)を付けた派生語 固有術式。-ariaはラテン語系の接尾辞で、体内の調和が保たれる聖域を示す
アークセンス(Archsense) 接頭辞arch-(根源の、原型の)をsense(感知する)に付けた派生語 固有術式。arch-はarchetype(原型)に通じ、肉体の設計図にあたる遺伝情報を感知して書き直す働きを示す
マグニフィケイト(Magnificate) magnify(拡大する)に接尾辞-ate(〜させる)を付けた派生語 固有術式。分子の単位まで拡大して捉え、老化した部位の構造を組み直す働きを示す
ヴィータポーション(Vitapotion) vita(生命)とpotion(水薬)の複合語 固有術式。vitaはラテン語系の語で、服用によって細胞の健全性を保つ生命の秘薬を示す

施術形態

 効果の持続を何によって支えるかで施術の形態は分かれ、施術の後に続く管理の頻度も、形態ごとに変わってくる。

一括施術

 一連の課程で老化の根本原因を取り除き、細胞の老化を停止させる施術は、複数の段階を経て進められ、各段階で専門の処置が加わる。施術の後には新しい細胞の定着に時間を要し、初期の段階では適応の過程を見届ける長期の入院を伴う。経過観察の期間は検査と評価が頻繁に繰り返されており、必要に応じて追加の処置が施される。老化の停止に加えて細胞の若返りを促す作用も施術に含まれ、身体全体の健康状態が引き上げられる。施術の後の効果を保つ手段は、生命体の意識を記憶ごとデジタル化して実時間で監視するネットワークに求められ、細胞の異常は監視の網によって早い段階で捉えられる。定期の健康診断で行う血液検査は遺伝子解析を伴い、体内の細胞の状態を詳しく洗い出したうえで、体内の均衡を保つ調整に結び付く。栄養の管理に運動の計画を組み合わせたメンテナンスの課程には、ストレスの管理も加わっている。

 共立連邦の一括施術では、意識と記憶の保全が不老の効果を維持する条件に据えられており、T.B.N.S.もしくは代替のネットワークシステムとの常時接続が、施術後の生活に組み込まれている。共立連邦が共立機構とともに主導して実装したT.B.N.S.は、施術を受けた身体の維持に向けて、二つの用途を並行して受け持つ。細胞の状態を常時監視して修復を促す用途が一方にあり、生命体の意識を量子情報として保全する用途が他方に置かれる。監視の中核に立つライフサイクル・システムは、健康な肉体を保つ目的で導入された医療用の支援管理システムで、無限空間に漂う大量の意識の保全も並行して引き受けている。保全された意識は転送を経て他の肉体と共有され、損なわれた身体を再生する工程にも用いられる。T.B.N.S.の導入以降、ネットワークを通じた不老の維持は国民の生存権の内側に含められた。肉体の不老に意識の保全を重ねる二重の仕組みによって、身体の損傷が生じた場合も、施術の効果は再生した身体の側で引き継がれる。

継続投与

 細胞の老化を抑制する薬物を定期的に投与し、延命を図る施術は、投与の継続を効果の前提に置く。投与される薬物は細胞の代謝を調整して老化の進行を遅らせ、細胞の修復機能を高めており、特定の成分の働きでエネルギー効率が上がった細胞は、健康な状態を長期にわたって保つ。体内に取り込まれた成分は時間とともに代謝されていき、次の投与までの間に作用は弱まっていく。投与を怠れば不老の効果は次第に減り、止まっていた老化が再び進み始めるため、投与のスケジュールは厳密に管理される。医療の専門家は個々の身体の状態に合わせて投与の量を調整しており、薬物の効果を引き出すには管理された施術の場が要る。身体のエネルギー水準も監視の対象に含まれ、ホルモンの均衡を測定した結果に応じて、薬物の配合が個々の身体に合わせて組み替えられる。

 連合帝国における継続投与は皇帝および特定の貴族階級の特権として扱われ、投与は国の管理下で行われる。平民階級が利用するには厳しい審査を経たうえで高い対価が求められ、審査の過程では忠誠心に加えて功績も評価の対象となる。定期の健康チェックでは血液検査に遺伝子検査が組み合わされ、細胞の状態が詳しく把握されたのち、投与の調整に反映される。連合帝国のB.N.S.は軍事利用を前提とした部分提携で運用されており、民間の通信には体制維持の観点から主にソフトフリーネットワークが用いられる。ネットワークによる常時監視を前提に置く施術に代わり、投与に定期検査を組み合わせた維持の手順が、連合帝国の管理体制の内側に組み込まれた。薬物の供給から投与の記録までが国の管理のもとで一続きに運ばれ、適用と維持の双方で、高い水準の専門知識が求められている。

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技術
最終更新:2026年09月21日 21:10