概要
令咏術(タクトアーツ)は、
イドゥニア星域諸国をはじめ、
セトルラーム共立連邦、
ユミル・イドゥアム連合帝国、
ユピトル学園主権連合体を中心に普及し、その他の文明圏においても利用される、人工異能技術の一種。通称、アーツと呼ばれる局所的な自然操作を可能とし、様々な分野に広く応用される。例えば、その場の条件に応じて火を起こしたり、水流を形成する。風を巻き起こし、雷光を轟かせ、物を作り出すなどの汎用性から古くから一種の生活手段として発展を重ねた。今日では巨大な物体を動かす動力源としても活用され、兵器開発など様々な分野で普及している。開発の趣旨から、然るべき施術を受ければ誰でも発動できるよう設計されており、訓練次第で更なる上位術式を習得することも可能となった。反面、
現象魔法などと比べると発動効率や威力において劣る。しかし、それを補って余りある利便性の良さは多くの国民から支持されており、一定のシェアを維持する大きな強みとして発展を続けている。なお、関連技術の発達が著しい近年は、道具を用いる発動術式も普及した。
施術のプロセスと発動の条件
術を会得するにあたって、まず必要となるのは
遺伝子工学に基づく施術である。施術の第一フェーズとして、
DNA配列を組み換え、徐々に馴染ませていく。施術の第二フェーズとして
科学反応を可能とする人工細胞を全身に行き渡らせ、経過を観察する。特に拒絶反応などなく、健康上、問題なしとされた場合に施術の第三フェーズを迎え、
発動に要する液状半導体の注入を行う。然る後に神経接続などのテストを行い、発動の感覚を馴染ませていくのである。術者は自分の周囲に
シート状のホログラム(ホログラムシート)が流れていく様を見ることになるだろう。
単に施術を受けただけでは術を発動させることは出来ない。そのため、術の内容に応じた相応の知識と訓練を積む必要がある。被施術者から生まれた子供は自然にアーツを使える。また、片親のみが施術を受けていた場合も同様で、生まれてきた子供はアーツを使用することができる。
発動の具体的な手順
現象を発動させるタイミングは、当人のスキルに依存し、その術式も様々である。基本的な発動手順としては、まず体内の人工細胞から
液状半導体を活性化させ、その後に伝達される脳信号によって
ホログラムシートを発現させる。術者は実行時、自らの周囲に纏わりつくホログラムシート上において
書き込みの操作を行う。また、別のシートを繋げるなどして発動のタイミングを調整しなければならない。
書き込みは口頭による詠唱にて行うことも可能。また、その場の状況が許すのであれば
書き込んだ内容をキャンセルすることも可能である。
シートを切った瞬間に条件に見合うだけの物理現象を発生させることができる。上位の術者はこの間に次の詠唱を行い、完成させることも可能。以上の過程が作曲の感覚に似ていることから、一部では
コンポジションアーツ、時代が進むにつれて便宜上、
タクトアーツ(一般略称、アーツ)の名称が定着した。電気系統の知識を持つ者は雷を操ることも可能で、組成に関する知識を持つ者はその場の条件に応じてモノを作り出すことが出来る。特別な知識はなくとも火を起こして調理を行ったり、その場で水流を形成し沸騰させることは可能である。
媒介エネルギー
媒介エネルギーとは、その場の発動条件に応じて必要とされる資源のことを指す。
具体的には大気中に含まれる物質や、その他の成分など、現象を発動させるにあたって必ず必要となることから術者は条件に見合う場所を選ばなければならない。
火を起こすには熱と酸素、燃えるものが必要で何もない場所から現象を発動させることは不可能である。
同じように水を作る際にも媒介エネルギーを要することから、術者として相応の知識を要する。
令咏術の種類
令咏術には使用する言語コードによって異なる技術があり、一般的にはこれを属性と呼ぶ。
異なる言語コードを同時に扱う事はできず、別途ホログラムシートを構築するなどして切り替えの手順を踏まなければならない。
ただし、何らかの魔導法具を用いる場合は例外で、代償を伴う場合もあるが、2つ以上の言語コードを同時に扱うことができる。
4つの基本属性
【春】スプリング・スクリプト
転移者通称にて、
プリマヴェーラ(イタリア語 "primavera")という単語の属性名も定着した。
術式が極めてシンプルかつシートの流れも穏やかである。春の名のもとに
四大元素(風、土、火、水)を操る。
基本的には媒介エネルギーを用いて発動させるが、その他、自らの体機能を消費し、必要に応じて代替させる手法もある。
主な用途は火を起こし、風を操り、水を錬成。または土から特定の物質を形成し、壁に用いたりなど色々ある。
反面、
現象魔法などの抽象的な高位技術に対しては無力であることが多く、戦闘局面では牽制に用いる場合が殆どである。
また、一定以上に強力な効果を発動させることは、よほどの求道者でもない限り不可能とされる。
【夏】サマー・スクリプト
転移者通称にて、
エスターテ(イタリア語 "estate")という単語の属性名も定着した。
基本術式を上回る地獄の業火を生み出せる。一般人の体機能を遥かに超える術式であるため、媒介エネルギーの注入は必須。
シートの流れも比較的早く、熱を頼らぬ他の現象に用いることは出来ない。
使用すればするほど術者の負担も大きくなるため、一部の学会においては事実上の上位言語コードとして扱われる。
戦闘局面においては専ら火力の増加に用いられるが、火の壁を展開することもできるため一部の術者の間で重用された。
これに対し、水による攻撃が有効かどうかは戦う術者の力量次第である。
【秋】オータム・スクリプト
転移者通称にて、
ヴェシュタ(アルバニア語 "vjeshtë")という単語の属性名も定着した。
主に回復系統の術式が豊富にある。医療系の術式に優れており、その種の知識に明るい専門家の間で重用されている。
また、一時的な身体能力の強化を可能とし、肉体労働などあらゆる局面において導入された。
反面、繊細なシート構造を必要とするため、習得難易度が高い。しかし、パーティーに一人は欲しい属性として一定の需要を保つ。
【冬】ウィンター・スクリプト
転移者通称にて、
インヴェルノ(イタリア語 "inverno")という単語の属性名も定着した。
基本術式を上回る激しい水流、または極寒の環境を再現できる。一般人の体機能を遥かに超える術式で、媒介エネルギーの注入を必要とする。
夏属性と対比されがちであるが、こちらは防御に特化しており、様々な種類のシールドを形成することができる。
ベクトル操作に秀でた術者であれば氷柱を形成し攻撃に転じることも不可能ではない。尤も、その程度の術式であれば春スクリプトでも発動可能であるが。
これに対して火や雷など、弱点術式による攻撃が有効かどうかは戦う術者の力量次第とされる。
3つの上位属性
【雷】ライトニング・スクリプト
転移者通称にて、
ブリッツ(ドイツ語 "Der Blitz")という単語の属性名も定着した。
電気を操ることにより、様々な工学的効果を発動できる。一般人の体機能を遥かに超える術式で、媒介エネルギーの注入を必要とする。
通常の術者である場合、唱えた瞬間に感電してしまうことから取り扱いに関する相当の知識をもって臨まなければならない。
この術式が上位属性に指定される最大の理由は、特定物質の転送など量子力学に基づく技のバリエーションが豊富なところにある。
自らの周囲にデフレクトを張ることが出来るために攻守のバランスにおいて人気を博した。
【心】マインド・スクリプト
転移者通称にて、
プシュケー(ギリシャ語 "ψυχή")という単語の属性名も定着した。
音を操ることによって心理系に大きな影響を及ぼせる。上位術式でありながら多くの媒介エネルギーを必要としない。
混乱、安定、認識のベクトル調整など精神作用のある術式が豊富にあり、抽象的な戦闘技術に対して対抗でき得る。
無論、物理的な事象に干渉することはできないが、ある認識を持続させるために用いることは可能。つまり、個々人の能力を始め、その場の状況によるが、現実改変にあたる現象を「ある程度は」認知することができる。
現実連続性認識能力の強化を前提とし、反撃の突破口とすることで有効な対処法に繋げることが期待された。
【召】コール・スクリプト
転移者通称にて、
インヴィーターレ(ラテン語 "invītāre")という単語の属性名も定着した。
自然界に存在する上位存在を呼び出し、あらゆる奇跡を行使する。発動には大きな代償を伴うことから法によって規制された。
現実改変事象に対する唯一の対抗手段として有力視されているが、術者個々人の能力や場の状況によって成否が分かれる。
この段階に至ると、シート構造も狂気を帯びてくるために術者は五感を研ぎ澄ませなければならず、必然的に詠唱速度を早めなければならない。
交信に必要な言語知識を始め、然るべき作法を要することから常人には途轍もなく耐え難い苦痛に思えることだろう。
実際の効果としては、キラー<魔王>と呼ばれる上位存在を呼び寄せたり、それに匹敵する集合知性<神>の力を行使することが出来る。
異世界から精霊を招いたりと何でも出来てしまいそうだが、相当の契約を迫られるのが殆どで、大抵の場合は死に至るという。
重要補足事項
- 基本スクリプト(下位4属性)を大幅に強化したり同時使用するような想定では、通常、相応のデメリットが伴うものであり、安易な行使は避けるべきである。
- 上位スクリプトの同時使用は不可能とされる。この原則から著しく逸脱する想定では相応の実力と情報を示さなければならない。
属性ごとの言語の多様性の理由
共立英語は転移者によってもたらされた独自の変化を遂げた言語であり、イドゥニア星域諸国をはじめとする様々な文明圏で広く使用されている。この共立英語は、多くの異なる文化や言語が融合した結果、非常に柔軟で多様な表現力を持つようになった。この特性が、令咏術(タクトアーツ)の各属性に対する言語選択にも影響を及ぼしている。春属性(プリマヴェーラ)と夏属性(エスターテ)、冬属性(インヴェルノ)のイタリア語は、自然の要素や季節の変化に深く関連しており、それぞれの属性名にはイタリア語が使用されている。イタリア語は、その美しい響きと豊かな文化的背景から、自然や芸術を象徴する言語として選ばれた。特に、春の「プリマヴェーラ」、夏の「エスターテ」、冬の「インヴェルノ」は、四季の変化を象徴する言葉として適している。また、イタリア語は共立英語の発展においても重要な役割を果たしており、これらの属性名が広く受け入れられる要因となった。
秋属性(ヴェシュタ)のアルバニア語は、その独特の発音と古代からの歴史を持つ言語であり、特に医療系の術式においてその知識の豊かさを表現するために選ばれた。アルバニア語は、共立英語の初期段階で取り込まれ、その医学的な用語や概念が令咏術の発展に大きく貢献した。アルバニア語は古代からの伝統医学や薬草学の知識を豊富に持つ言語であり、そのため医療系の術式において非常に重要な役割を果たしている。秋は収穫や癒しの季節であり、自然の恵みを活かした治療法が発展してきた。このため、医療系の術式が豊富な秋属性にアルバニア語が適していると考えられた。アルバニア語は、その音韻や語彙の多様性から、細やかな治療技術や複雑な医療処置を表現するのに適しており、秋属性の術式が精密で効果的な治療を行うための言語として選ばれたのである。
雷属性(ブリッツ)のドイツ語は、その科学技術や工学に強い結びつきを持つ言語として知られており、電気を操る雷属性においてその特性が活かされている。ドイツ語は共立英語の技術的側面を強化するために重要な要素として取り入れられ、特に「ブリッツ」という単語は、雷光や電光石火を表現するのに適している。ドイツ語は、その厳密で論理的な構造から、精密な技術や工学的な術式を表現するのに適しており、雷属性の力強さと瞬発力を象徴している。ドイツ語圏では、科学技術の発展が非常に進んでおり、電気やエネルギーの制御に関する技術が高く評価されている。このため、雷属性の術式は、ドイツ語を使ってその高度な技術と知識を表現することができ、電気を操る術者にとって非常に重要な言語となっている。
心属性(プシュケー)のギリシャ語は、古代から哲学や心理学の発展に深く関与してきた言語であり、心理系の術式においてその知識と表現力が活かされている。ギリシャ語は共立英語の文化的および知的側面を豊かにし、特に「プシュケー」という単語は、魂や精神を意味し、心属性の術式が精神に影響を与えることを象徴している。ギリシャ語は、その豊かな語彙と深遠な哲学的背景から、心理的な状態や精神的な現象を表現するのに適しており、心属性の術式が人々の心に働きかけるための言語として選ばれた。古代ギリシャでは、哲学や心理学が高度に発展しており、その知識が現代の心理療法や精神医学にも多大な影響を与えている。このため、ギリシャ語は心属性の術式において、その深い知識と洞察力を活かして効果的な術式を展開するのに適しているのである。
召属性(インヴィーターレ)のラテン語は、古代からの学術言語であり、多くの知識や神話に基づく技術を持つ言語として選ばれた。ラテン語は共立英語の学術的な基盤を形成し、召属性の術式においてその厳格さと神秘性が活かされている。召属性の術式は、自然界の上位存在を呼び出し、奇跡を行使するものであり、ラテン語の厳格さと神秘性がその特性を表現するのに適している。ラテン語は、古代ローマの時代から学問や宗教の言語として広く使用されており、その厳密で厳格な構造が高度な術式を表現するのに適している。召属性の術式は、自然界の精霊や神々を呼び出し、その力を借りて様々な現象を引き起こすものであり、ラテン語はその厳格さと神秘性を持ってこれを表現するのに最適な言語とされた。ラテン語は、その豊かな神話や伝説に基づく語彙を持ち、召属性の術式においてその力を最大限に発揮することができる。
主な魔導法具
操作発動・増幅系
純正ケルツ
ユミル・イドゥアム連合帝国.ルーリアス重工製の魔導法具。棒状の操作基盤を操ることによって2つ以上の異なるスクリプトを同時に実行することができる。
反面、非常に高額、かつエネルギー変換効率の面で多くの消費を強いられることから、一般的には全く普及していない。通常、上位属性の同時実行は不可能とされる。
批判
令咏術(タクトアーツ)の技術は、その革新性と利便性から広く普及しているが、多くの批判が存在する。遺伝子工学に基づく施術や人工細胞の導入が倫理的に問題視され、自然界の摂理を無視した人為的な操作は許されるべきではないという意見がある。
液状半導体の注入による身体への影響や、ホログラムシートを介した操作が人体に及ぼす長期的なリスクについても懸念が示されている。宗教指導者や倫理学者たちは、令咏術が人間の本来の姿を歪めるものであり、生命の本質を侵害すると非難している。技術の進化が人間の道徳的価値観を損なう可能性があると警鐘を鳴らし、このような技術が広く普及することで社会全体が危険にさらされると警告している。さらに、令咏術の使用が社会的格差を助長する可能性についても問題視されている。施術を受けられる経済力を持つ者と持たない者の間で技術格差が生じ、公平性が損なわれる懸念がある。また、技術の悪用による犯罪や軍事利用のリスクも高まると考えられており、これに対する適切な規制と監視が求められている。一部の倫理学者や科学者たちも、令咏術の長期的な影響についての十分な研究が行われていないことを指摘している。技術の利便性が強調される一方で、その潜在的なリスクや副作用については未解明な部分が多いとし、慎重な姿勢を求めている。これらの批判を受け、各国政府や国際機関は令咏術の倫理的側面と社会的影響を検討し、適切な規制を設けるべきだとの声が高まっている。
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最終更新:2024年12月23日 21:57