ある日ランスランド出身のキレイハナの女性から依頼を頂きました。
「家出したうちの娘を見つけてください!」
深々と頭を下げる依頼人。思いっきり机に頭をぶつけていますが大丈夫でしょうか。
私は彼女にハンカチを渡しながら続きを促します。
「いなくなったのはいつ頃ですか?」
「数ヶ月前……ですね。最初は思春期にありがちな中二病かとおもっていたんだけど……胸騒ぎがするのよ」
「ふむ」
なかなかオーバーリアクションな方のようで演劇のような身振り手振りを交えて事情を説明していきます。
おそらく彼女の能力が演劇にまつわるものなのでしょう。
「これ、完全に母親の勘だけど。どうもあの子が危険な目にあっている気がしてならないんですよ」
ずいっと顔を近づける依頼人。近すぎて前が見えません、さすがの私もついたじろいでしまいます。
「な、なるほど。娘さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい。ユテナ・アストラという名前のクサイハナです」
「ユテナ・アストラさんですね。了解致しました。その依頼、私が必ず解決しましょう」
私は受けた依頼は必ず引き受けます。
しかし、その依頼にどうも引っかかるものを感じていたのです。
と、いうのも最近不自然な失踪事件をよく耳にしていたのです。
それもとんでもなく厄介な……
そしてその勘は的中。色々と端降りますが、調べてみると意外なくらいあっさりと彼女の居場所がわかりました。
しかし……
「予想はしていたとはいえ……最悪ですね」
ある厄介な組織。
命を使い捨ての道具としてみていないその組織。
急がないと彼女が彼女でなくなってしまう。
そしておそらく関わってしまったら私や家族も……。
妻には数年前先立たれていましたが私には一人の息子がいました。
彼は私に憧れて探偵を志しています。ただまだ一人前とは程遠く、独立させるには少々心もとないのですが……。
「
エンリル、一人前になるためには一度私の下を離れたほうが良いでしょう。
グラーディア辺りはどうでしょう。あそこはいいところですよ」
「え? 親父、あまりにも唐突すぎないか? あ、もしかして俺、一人前として認められたのか!?」
エンリルは瞳をキラキラと輝かせガッツポーズを取りました。
「いいえ、まだまだ半人前にもなっていません」
「ですよねー」
先程とうってかわってガックリと肩を落とすエンリル。
今回の依頼人顔負けのリアクションです。
残念ながら真実を示すのが探偵というものなのです。
「いつまでも自立をしていないようではいつまでたっても一人前になるのは無理です」
「確かに、俺はいつも親父についてまわってばかりだったからな」
「もういい歳なんですから、この機会にもっと別の国のことを知るべきでしょう」
「そうだよな。親父は俺よりも若いときからずっと一人で探偵だったもんな……。
わかった、俺は行くぜ! そして一人前の探偵になってやる!」
あの組織の情報量は半端ではありません。
焼け石に水かもしれませんが、多少の時間稼ぎにもなりましょう。
それにいつかは彼も私の手を離れなければならないのです。良い機会でしょう。
私は彼のグラーディア行きを見届けた後、彼女の救出の準備にかかりました。
鳴り響く警報。
呆然とする少女。
駆け抜ける私達。
そして周囲を取り囲むポリゴンの被り物を被った集団。
鋭い音と共に右腕に広がる痛み。撃たれましたね。
しかし大丈夫。まだ動くことはできそうです。
彼女も無事です。私よりも彼女を優先的に守らなければ。
追っ手をまきながらも命からがら建物からの脱出に成功しました。
生憎私はたいした戦闘能力は持ち合わせていないのです。
奇跡的に依頼の少女も無事です。
私は……少し意識が朦朧としていました。銃弾に毒でも仕込まれていたのでしょう。
これでも運が良かった方だとは思いますが。
「名探偵シックル。貴方のことは知っています。どうしてこんなことを……」
少女が困ったような表情で私に問いかけます。
「貴方のお母様からの依頼です」
「依頼遂行のためなら手段を選ばないわけですか」
「これでも選んだ方なんですよ。さぁ、これを使ってください」
話しかける彼女に私はリーフの石を渡しました。
今はゆっくりと話している時間はありません。手早く依頼を全うさせなければ。
彼女はそれを受け取るとみるみるうちに姿を変化させていきます。
そのままの姿でいるよりは安全でしょう。
「さて名探偵。その持っているものを出していただけますか? 」
「おや、ばれていましたか」
インフィ候補としてあげられるだけあって彼女はなかなか鋭いようです。
私は懐に持っていたものを取り出します。
「貴方ほどの探偵が私の能力を知らないわけがないでしょう。そして脱出に使えそうな能力だとしたら尚更」
「ふふふ、なかなかやりますねぇ」
彼女に大ぶりの巻物を手渡しました。多少破けていたりしますが問題はないでしょう。
この巻物は白紙です。肝心なのは紙ですから。
「私の能力は切り紙です。切り紙には鋏がなければ。
それから私は家出をした身。果たして素直に帰るでしょうか。さてどうします名探偵?」
「貴女は帰ります。絶対に。そうですね鋏を渡さなければ。失敬失敬」
私は笑いながら答えると――自分の右腕を切り落としました。
地面に血液が滴り落ちているのが見えます。
痛覚は毒のせいなのか痛みが強すぎて麻痺をしているのかわかりませんがあまり感じませんでした。
「……!」
さすがの彼女も驚いたようです。あの右腕はもう腕としては使い物にはなりません。いえ、右腕だけでなく私自身もですかね。
ここに突入する時点でもう命は捨てたようなものですから。
最期を飾る仕事としてはもってこいでしょう。
右腕を受け取った彼女は紙を切って鳥のようなものを作りはじめました。
紙は全て使い切ってしまいましたがどうにか形にはなったようです。
「私の能力を知った上でこんなに大きな紙まで持ってきておいて何故鋏を持ってこなかったんですか。無茶すぎます」
「ふふ、それは単純。貴女に私の言うことを聞かせるため……ですよ……。こうすれば貴女は家に帰らざるを得ないでしょう」
「本当に貴方は名探偵なのですか。愚か過ぎます、命を粗末にするなんて」
彼女は溜息をつくと、私の右腕でドレスを切り裂き、それで私の身体を包み込みました。
そのドレスもたちまち鳥の形に。なかなかの職人芸です。
「私は自分のせいで死にそうになっているような人を見過ごして一人で逃げるほど鬼じゃありません。
そもそも私はここから帰る気はなかったんですよ。
今鳥を作ったのは貴方を病院に運ぶため。
それに名探偵を見殺しにしたらもっと世間は私に冷たくなるでしょうしね」
彼女が鳥に乗り込むと同時に私は空を飛んでいました。
私の意識がだんだんとかすんでいくのがわかります。
ふとある考えが浮かび、最後の力を振り絞って私は言いました。
もしかしたらうめき声にしかなっていなかったかもしれません。
「
ユテナさん……、貴女は一度故郷に帰り、親に自分の無事をしらせた後、もしもまだあの国に嫌悪感があるのであれば、
グラーディアにいる私の息子、エンリルのところに行くと良いでしょう……きっと……」
私は大きな賭けをしました。
彼女が聞いていたのかもわからない。
聞いていたとしても実行にうつすかもわからない。
それが正しい行動なのかすらもわからない。
ただ危険なのはわかっています。
エンリルにも彼女にも危害が及ぶ危険性さえある。
――けれども彼女は私のもう一人の跡取りになってくれるかもしれない。探偵としての私の勘がそう告げていたのです。
危険の度合いがそう変わらないのであれば可能性に賭けてみたい。
私は逃げる際に責任感というものを置き忘れてしまったようです。
その代わりに倍以上の好奇心を得ましたけれど。
そして彼女に最後まで伝えきる前に、私の意識は闇へとおちていきました。
さて、もしも運よく私が目覚めたら彼らは一体どうなっているのでしょう。
最終更新:2012年06月26日 00:07