『レオン・モンタナにあこがれて』
(キャラ)三星太陽、桜樹八重花、霧島透
【♪日曜日の太陽】
『三星太陽』。
……なんて立派で、贅沢で、吐き気のする名前なんだろう。
昔は好きだった。なにせ『太陽』だからね。
テレビのヒーローみたいに、明るくて、みんなを照らして、汚れひとつない世界で笑っていられる。
少なくとも、小さい頃の僕は、本気でそんな人間になれると信じて疑わなかったんだ。
……だけど人生は、いつも取り返しのつかない瞬間に、取り返しのつかないコンプレックスが目を覚ます。
僕は『あの日』以来、鏡に映る自分の顔も、親から貰ったこの名前すらも、恥じて恥じて死にたかった。
「……っ、や、やめて…………。……はなして…………っ」
「ぁ……あっ……ご、ごめん、ごめんね……っ、八重花ちゃん……っ!!」
弾かれたように離した指先が、無様に、醜く震えている。
その震えすら愛おしいと思ってしまう自分を、今すぐこの手で絞め殺してやりたかった。
「…………ごめん……」
「……ぅ……っ…………」
真っ暗な住宅街。
街灯に集まる虫が、ジジッ、と焼ける音だけが、頭蓋骨に直接響くみたいにうるさい。
この錆びついた電柱を見た瞬間、記憶の底から『あの張り紙』が、血のついた爪で僕をひっかきにきた。
“神戸しおを探しています”。
あの日、僕を絶望の淵から救い、そして地獄へ突き落とした、あの無垢な天使の笑顔を。
…………僕は、その子と同じくらい小さな女の子を前にして、いま何をしてる?
最低だ。
本当に。
死ぬべきだ。
死んで、塵にでもなって消えてしまえ。
何ひとつとして、僕は僕の名を体現できていない。
『三星』というからには、光なんてこれっぽっちも宿っていない虚ろな瞳で、……ただ、この子の震える足ばかりを、凝視して。
『太陽』というからには、墓場同然の陰気さの中、僕はその体温から、奪い取るように救いを摂取しようとしている。
八重花ちゃんの細い腕。
ふんわりと漂う、お風呂あがりみたいな匂い。
小さくて華奢な肩。ランドセル。──……そのすべてが、僕の脳内で歪な『加点要素』としてカウントされていく。
視界に入るだけで、脳がドロドロに溶けて、理性なんて言葉はゴミ箱に捨てたくなる。
…………苦しくて、気持ちよくて、死にたかった。
「…………ごめん、……ごめんね、八重花ちゃん……。勘違いしないで……僕は、ただ……ただ、君を…………まもり、たく……てぇっ…………」
「…………っ、」
みっともなかった。
アスファルトに這いつくばって。泣きすぎて鼻が詰まって、うまく呼吸ができなくなりながら。
自分よりずっと小さな女の子に、言葉にならない弁解を垂れ流している男。
深夜ドラマでさえ倫理規定でカットされるレベルの、救いようのない醜態だ。
──それでも、桜樹八重花ちゃんは、一歩も下がらなかった。
「……くるしいの? …………おにいさん」
「……ぅううっ、ぁぁ…………」
理解できなかった。
本当に、心底、意味が分からなかった。
僕みたいな人間は、『優しさ』ってものをもっと打算的なものだと思っていたから。
クラスメイトの愛想笑いとか。店員の営業スマイルとか。SNSで炎上しないためだけのやさしい言葉とか。
そういう、安全圏から石を投げるような偽物の『善』しか、僕は知らなかったんだ。
だから、八重花ちゃんの向けてくる『それ』が、怖いくらいに理解できない。
僕は彼女の知り合いでもない。
親戚でもない。
ましてや、信頼される理由なんて、この汚れきった体の中に一個だって残っていない。
あるのはせいぜい、支給された端末に並んでいた無機質な文字情報。
“名家の娘”。“心優しい少女”。たったそれだけだ。
……それを見た瞬間、僕の脳が弾き出した答えは、「守らなきゃ」なんていう高潔な使命感じゃなくて。
「かわいい」だった。
「ちっちゃい」だった。
「僕の好きにしていい、やわらかい生き物」だった。
そんな、ヘドロのような欲望から始まってしまったんだ。
……それなのに、彼女は。
「…………………ねえ?」
「……やえ、か……ちゃ…………っ、ぅぅ……」
そっと、本当にそっと。
僕の肩を撫でた。
子供の、小さくて未完成な手。
軽い。羽毛みたいに、頼りないくらいに軽い。
なのに、その掌から伝わる温度だけが、僕の腐った皮膚を焼き切るみたいに異常に熱かった。
……やめてくれ。
そんなふうに触られたら、僕はまた。
また、どうしようもない勘違いをしてしまう。
「……っ、ぁ……ぅ、ぅぅ……ひっ、ふ……っ」
「……いたいの? …………それなら、いま……よんでくるから──」
「『いたいのいたいの、とんでけ』…………っ」
「え?」
また、また……。
“僕はまだ、人間の側にいてもいいんだ”って。
あの日……あの時。しおちゃんに触れた時と同じ、破滅的な希望を抱いてしまうんだ……──っ。
「『いたいのいたいの、とんでけ』って……っ。僕に……して、くだ、さ……い…………っ、お、お願い……っ」
「……え?──」
「──……それでいいの?」
「ふぁ……い………………」
「…………うん」
小さな掌が、頭に乗る。
その瞬間、背筋がぞわっと震えた。
……熱い。あぁ、やわらかい。あまりに軽い……。
あぁ、懐かしい。懐かしくて、今すぐ舌を噛んで死にたくなる。
母親に撫でられた記憶なんて、もうほとんど残ってないのに、脳の奥底だけが、この感触を覚えていた。
「……いたいのー、」
たどたどしい声。
下手くそで。幼くて。
それなのに、僕の胸の奥底でヘドロのように溜まっていた黒い泥が、一瞬だけ、本当に一瞬だけ、淡い光に薄まっていくのが分かった。
「……いたいのー、」
八重花ちゃんは嫌そうな顔ひとつせず、僕の頭をまた一撫でする。
その光景があまりにも現実離れしていて、僕はふと、変なことを考えてしまった。
──“この一撫でが、日本国の司法のどこにも違反していないことこそ、最大のバグなんじゃないかって”。
こんなの、劇物だ。
人生を諦め、地獄の底を這いずる人間に、絶対に与えてはいけない特効薬だ。
だって、こんなものを知ってしまったら。
また一瞬で、“僕はまだ生きていていい”なんて、取り返しのつかない錯覚をしてしまうから。
「……ぅ、ぁ……あ、ぁぁ…………っ」
「……とんで──」
……最後の言葉。「とんでけー」。
八重花ちゃんが、どんな顔でそれを言うのか。
どれくらい笑ってくれるのか。ちゃんと、僕のことを見てくれるのか。
……そんなことばっかり気になって。
気づけば僕は、情けないくらい必死に顔を上げていた────。
「はい、痛いの痛いの飛んでけ~~~(物理)」
「「あ」」
……その瞬間だった。
僕はサングラスは嫌いだ。
だってあれ、嫌でも自分の顔が映るから。
八重花ちゃんではない──本物の暴力を纏った男に青ざめる暇さえ与えられず、僕は『魔法の言葉(拳)』をサービスされるのだった。
──ゴシュッ。
【霧島透@組長娘と世話係】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:お嬢を守る
1:あぁ~~すまねぇ。カタギの方でしたか。俺ァてっきり、なんか不審者かと……。
2:んで、事務所で『治療費』の話をじっくりしてェんで、……まぁ面貸せよ、カタギさんよぉ。
3:お嬢の情操教育に悪い参加者を排除。他はどうでもいいわ、めんどくせぇ。
【桜樹八重花@組長娘と世話係】
[状態]:困惑
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:…………こわい。
1:……もう、いいから。……その人……ないてる、から……。
………
……
…
◆
『人生はチョコレートの箱のようなもの』
『開けてみれば、そこにはキラキラと輝く甘い欠片が詰まっている』
……名言だよね。多分、フォレストガンプかショーシャンク。
「…………はは、……なんだ、これ」
……映画の『レオン』でさ。
まぁ、今さらネタバレなんて無粋だけど、主人公のレオン・モンタナは最後に死ぬ。
あの瞬間、彼は一体何を思ったんだろうなって、たまに考えるんだ。
きっと、相棒の女の子……マチルダちゃんの未来を願って、彼女を愛した証として、彼は死んでいった。
僕はそう信じたい。
だって、あれ、ジャンルはロマンス映画のはずだから。
「…………待っててね、しおちゃん。今行くから。っていうか今から死ぬから。──」
「──めちゃくちゃに死にたい僕を……、どうかつなぎとめてくれ…………っ……」
夜空の星たちが、僕を無様に照らし出している。
あの暴力の化身が、ゴミ屑を捨てるみたいに投げ渡してきた『治療費』の五万円。それが今の僕にとって、唯一の冷たい毛布代わりだ。
ブランコさえ取り上げられた、公園にて。
僕は、折れかけの奥歯を舌先でなぞって、そこに小さな虫歯があることを知った。
「……僕、……糖分不足、なのになぁ…………」
【三星太陽@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:鼻骨折、前歯数本喪失、顎骨ヒビ、軽度構音障害
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:しおちゃん(八重花ちゃん)のような温もりが恋しい。
1:よし、自殺しよう。
2:……でも、僕が死んだら、誰がしおちゃんを不潔な大人から守るの?
3:そうだ、死んじゃダメだ。僕はまだ、しおちゃんの太陽でいなきゃいけないんだ……!
最終更新:2026年05月27日 20:04