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『みいちゃんのアトリエ』


(キャラ)山田マミ、メアリー



【♪追憶の絵】


 乾いた風が吹いていた。
昔のパソコンの排熱みたいな匂いだった。
苦虫噛んだみたいな色の空を見上げた時、私は反射的に『自殺』を思い浮かべていた。
それでもって、これまでの人生──「……ていうか私、一回も『屋上』に行ったことなくない?」って独り言が、そのままフェンスの向こうへ落ちていく。

漫画とかだとさ、告白、サボリ、黄昏、あとちょっと哲学っぽい会話みたいな?
そういうのが、いかにも「青春のテンプレです」みたいな顔して置いてあるけども。
でも現実って、そもそも屋上に行く階段が存在しない。一段たりともない。
これは別に学校だけじゃなくて。ショッピングモール。雑居ビル。市役所。古い病院。
中学の頃よりずっと自由になったはずなのに、私は結局、一度も『そこ』へ辿り着けなかった。どこも屋上だけ綺麗に消えている。
まるで最初から、『そこへ辿り着く人間』なんて想定されてないみたいに。
……なんか、それが少し怖かった。
トゥルーマン症候群じゃないけど、屋上って、実はフィクション用の空間なんじゃないかなと時々思う。

カーテン閉め切った昼とか、雨降る前の白い空の日とか。
そういう日に限って、私はぼんやりそんなことを考えてしまう。



 だから逆にさ、初めて行くと妙に非現実感あるっていうか。
室外機の音だけ響いてたり、フェンス高かったり。
街がドット絵みたいに遠く見えたりして、「あ、ここって『物語の場所』なんだな」って。
そんな感覚だけが、やけにはっきりしていた。


「……まぁ私、飛び降りないけど。(みぃちゃんなら、札束ビンタで普通に飛び降りるんだろなぁ……)」

「え? …………山田のお姉ちゃん、そういうのあんまり言わないほうがいいと思う」

「あっ。あーいや、違っ、えっと……! 今のはその、 うん、関係ないから! 関係ない!」

「……ふーん…………。──」


「──……絵、上手いね」

「……そう? そこそこだよ。そこそこ」

「そこそこでも今はいいよ。そこそこでも……」


「……」


 『立入禁止』の看板。手元のタブレット、握りしめたペン、ibisPaintの明るい画面。
背中越しに聞こえる無垢な声が、それら全部を薄く、非現実的に反射していく。
出会い頭、いつもの癖で『山田マミ』なんて偽名を名乗って、「……いや、子供相手に偽名使う意味なくない?」と一人ツッコミして以降、たぶん十五分くらい。
私は今、少し夜空に近いこの場所で、知らない女の子と並んで、ただ延々と絵を描いていた。

知らない女の子。
──名前はまだ聞いてない。
……というか、聞くタイミングを完全にロスしたまま、なんとなくここまでズルズルと来てしまった。

金髪。
手に握られた黄色い薔薇と、育ちが良い意味で現れすぎているクラシカルなワンピース。
なんかもう、存在そのものが絵本の中って感じで。
こっちはコンビニの蛍光灯みたいな人生してるのに、この子だけ最初から違うレイヤーにいるみたいっていう。
そんな子だった。

私は今、その子のためだけに液晶の上でペンを動かしている。
名前も知らない少女と、その友達らしい『イヴ』とかいう、これまたおとぎ話みたいな名前の子の似顔絵を。
写真も資料も何一つない。ただ、彼女の曖昧な証言だけを頼りにして、延々と。


「……(やってることがFBIのモンタージュ捜査官なんだよなぁ、ってツッコミは野暮だよね~……)」

「いいね、お姉ちゃん上手いよ! あ、でもね……もっと髪長いの。ここ、もうちょっとこう……ふわってしてるの」

「あー……はいはい。レイヤーの不透明度下げて、この辺のニュアンスを~っと」

「あとね、目。もっと優しい感じ」

「優しい感じ……一番困る注文きたなぁ……。まぁ、こう?」


……あぁ、なんか、バグる。
『絵を描く』って、本当に不思議で狂った作業だ。
フェンスも、濁った夜空も、遠くの街も。
全部、描くことに集中してたら夢の背景みたいに薄く感じる。


「……」

「……ふふ!」


 ……勘違いしないでほしいんだけど、別に私もさ。
この子から頼まれて、路上似顔絵屋さんごっこやってるわけじゃない。
それで私の方から自主的に、コミュニティの輪を広げるために絡みに行って、こんなバトル・ロワイヤルに似つかわしくないアットホームなことしてるんじゃない。……うん、実質。これ実質はただの思考停止。

ゲームが始まってから、「……なんか濃い系の飲みたい。豆乳とか」って、現実逃避で頭がぼんやりしてたら、彼女がいた。
それだけ。
それだけの、本来なら一秒で切って捨てるべき関係。
普通なら、何のリスクも背負わずにブロックして終わる関係。
言っちゃえばさ、無視したって私の生存レートに何のデメリットもないっていうか。
本当ならこんな呑気にお絵かきごっこ、してる暇なんか一秒もないのは、論理的に考えなくても分かってるんだけど。

……分かってるんだけどもさ。


「…………うん。できた」

「……! わぁぁ……!!」


──さっきまで、
──フェンスの向こうを、あんな顔で見てたあの子が、妙に昔の自分と重なって。

──小さい頃。隅で消しゴムかじりながら。
──(誰でもいいから、ここじゃない場所に連れてってくれないかな)とか、思ってた頃の。

──カーテン閉め切った部屋の匂いまで、一瞬だけ蘇ったから。



「すごい……! お姉ちゃん、絶対なれるよ。本物の漫画家さん!」

「……なにその適当な……」

「適当じゃないもん」

「いや絶対いまのノリだったくない? ……まぁ、別に何でもいいけどさ~……」

「でも、ほんとにそう思ったんだよ。──」


「──わたしが見たかった夢と、すごい似ててさ……。うん、いいなぁ……。すごく、いい…………」

「……もう、やめてよーこれ以上は。……ハハ!」


そんな、どうしようもないセンチメンタルが原因で。
私は結局、『金髪の少女とイヴの花畑』なんて絵を、描き上げてしまった。


「…………」


ふと、疑問が浮かぶ。


「あー、でさ、……君──」

「これ、印刷とかできるの? ほら、コピー機とかでさ。お部屋に飾りたいな」

「え? あ~~、ごめん。流石にそれは今は無理かなぁ。……というか我慢できる? 普通にヤバいゲームの最中だし、コンビニまで歩くの……普通に怖いじゃん?」

「……ん~~~、まぁ……だよね~……。うん、わかった……」

「ところでさ、……ひとつ聞いていい? いや、すごい今さらなんだけどさ」

「え? うん、なぁに?」


うん。その疑問は勿論、この子の名前とかがまず筆頭にくるんだけど。
それよりもなによりも、──あの時の、初めて出会った瞬間の、あの表情。
──胸元の黄色い薔薇をじっと見つめていた、あの吸い込まれそうなほどの目。


「……名前」

「え?」

「なんて呼べばいい? いつまでも『君』じゃ不便だし」

「え、……名前? …………えっと、うん。──」


「──『メアリー』! ……嫌いなものは、ひとりぼっち」

「……じゃあ、なおさら一緒にいないとだね(メアリー……偽名返しってやつ? まぁお互い様か)」

「うん!──」


メアリーの場合は、──『ママ』って、どうなんだろうって。
そんな考えが、ふと頭をよぎった。
……聞かないけども。


私は完成したイラストを.png保存してから、タブレットの電源を一旦落とした。


「──……よろしく! お姉ちゃ──」






   .


 .


【山田マミ@みいちゃんと山田さん】
[状態]:軽度疲労、睡眠不足、メアリーへの軽度感情移入
[装備]:タブレット端末、タッチペン
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×2
[思考]:世界が少し夢っぽい。
1:メアリーと一緒に行動。
2:みぃちゃん、勝手に冷蔵庫漁ってないかなぁ……。あと、ハムカツも地味に心配。
3:もし薄汚い大人がメアリーに触れたりしたら、その時は普通に許さない。
4:……ママのことを考えたくない。

【メアリー@Ib】
[状態]:黄色い薔薇6/6、山田への軽度依存、微かな安心感
[装備]:パレットナイフ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1
[思考]:独リボッチハ嫌。
1:山田サント一緒ニ居タイ。
2:イヴニ又会イタイ。
3:コノ絵ヲ大事ニシタイ。
4:ギャリーヲ殺シタイ。
5:誰カニ「大丈夫」ッテ言ワレタイ。
6:モウ嫌ナ夢ヲ見タクナイ。
7:皆ワタシダケ見テホシイ。
8:消エルノハ怖イ。
9:ズット此処ニ居タイ。
10:モット綺麗ナ世界ニシタイ。
11:イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ。
12:イナイ。



最終更新:2026年05月18日 13:18