『魔術師の芽吹き』
(キャラ)川合麻依、高遠遥一、金田一二三、ヤン・ウェンリー
……人はよく、『動機』という言葉を安売りしすぎる。
金、嫉妬、痴情のもつれ。
朝のワイドショーで司会者が眉をひそめ、「痛ましい事件ですねぇ」などと薄く伸ばした声を出すたび、私は落胆せざるを得ないのですよ。
──なんと凡庸で、美意識の欠片もない、無様な幕引きだろう、と。
私の名は高遠遥一。魔術師を志す者です。
ええ、『殺人鬼』ではなく。そこは訂正していただきたい。
いいですか? 人の息の根を止めるだけなら、獣にだってできる。
しかし、そこに『美』を宿らせる演出(トリック)は違う。
構図、心理、恐怖、静寂、そして余韻。
その全てを完璧に支配してこそ、初めて犯罪という名の舞台は完成するのです。
例えば、朝。コーヒーを淹れ、まだ眠たい頭でニュースを流す。
すると聞こえてくるわけですよ。
『元交際相手とのトラブルによる、衝動的な犯行と見られており──』
……ああ、なんと退屈で、創造性に欠けた国なのでしょう。
カップの中で揺れる水面を眺めながら、私はいつも哀れみに満ちた溜息を漏らすのです。
彼らは自らの人生の、最後の最後を飾る大一番(チェックメイト)すら、美しく飾る知恵を持たなかったのだな、と。
平和、秩序、倫理。……実に結構。
ですがね、緻密な計算のない死、歪んだ欲望が剥き出しになっただけの死体ほど、芸術から程遠いゴミはない。
そう、声を大にしてそう申し上げたいわけです。
──だからこそ。
──今、この冷たい暗闇で、私が手を染めた『婦警殺し』、も……本来なら、美学において極めてイレギュラーなことなのですよ。
「…………っ、あ、う、ゲホッ……つ、……っ」
「……」
ええ。
本来なら、ですがね。
「…………はぁ、はぁ……っ…………。……ぇ、ど、……どうして──」
「“どうして”。それはこちらの台詞ですよ、川合さん」
「…………は………………?」
「あなたは一端の警察官なのでしょう? それが、これほど容易く誘導され、ここまで無様に終幕を迎えるとは……。──」
「──……おっと失礼。観客もいない舞台で、少々お喋りが過ぎましたね」
「……ゎ、……わた、し……まだ今日……報告書も……終わってな……っ」
「そしてまた、あなたともこれ以上のお喋りは無用。──Good Ngiht。哀れな子羊さん(おまわりさん)」
──グチュリッ…………
お世辞にも上等とは言えない、場末のビジネスホテルの一室。
そのうえ、電灯すら諦めた、湿った暗闇のような物置にて。
私は彼女の背へ深々沈めたドライバーを静かに引き抜き、そして、返り血を盛大に浴びる──ことなく全てを終えました。
ええ、この部屋は実に便利ですよ。
備え付けの安価な雨合羽に、簡素な清掃道具。私のような表現者に対して、実に親切な設計と言ってもいい。
ジタバタ。
ビクン、ビクン。
まるで背中のゼンマイを抜かれた、出来の悪いからくり人形──川合さん。
下の名前は知りません。
彼女がどんな人生を歩み、どんな青春を過ごし、どのような男に焦がれていたのか。
あるいは、五十音をどこまで正確に発音できる程度の知性を備えていたのかすら、私は微塵も興味がない。
ただ一つ確かなのは。
彼女は、チンケな洋画ホラーの脇役のように、雑に、唐突に、そして誰にも惜しまれぬまま始末された。
……その滑稽な結果だけです。
「…………さて、行きますか」
殉職された警察官殿に、せめてもの名誉を。──Amen。
これにて、彼女との泥臭い邂逅は、完全な幕引きとさせていただきます。
──……ガチャンッ
………
……
…
害虫ほどよく明かりを目指すものです。
暗がりを抜け、安っぽく照らされた廊下へ出た瞬間、私は思わず、伊達眼鏡のレンズを拭いてしまいました。
……ええ、鬱屈ですよ。
実に、実に不愉快だ。
かつてこれほどまでに、私自身の美意識が、泥を塗られたかのようにざわついたことがあったでしょうか。
「……ふぅ…………」
「あ、高遠先生! えーと、じゃあ終わったの? お話!」
「…………。──」
「──……………………フゥ……」
先程、森口と名乗る女教師は言っていました。
『人は命に感謝しない』『だからこそ、この《殺し合い》は“命の授業”なんです』。……大層なご高説だ。
最後の一人になるまで殺し合わせ、制限時間が来れば全員の首を爆破する。
仕組みは実に単純、そして実に俗悪。
参加者全員へ、最低限の“殺意の言い訳”だけを植え付けるには十分な仕組みでした。
ですがね、『言われたから殺しました』では、コピー機の前で縮こまる無能な新入社員と変わらない。
私とて、当初は考えていたのですよ。
『地獄の傀儡師』などという大層な仮面は外し、ただの『マジシャン』としてこの悪趣味なゲームそのものをハッキングしてやる方が、よほど芸術的(エレガント)ではないか──と。
……ええ。
認めましょう、森口さん。
この舞台。少なくとも開幕時点では、あなたの方が一枚上手だった。
「……あれ、先生?──」
「──ねえ、まいのお姉ちゃんは? ……まさか、女の子を暗がりに置いてきぼりしたんじゃないでしょうねっ?」
「……(『まい』……。あぁ、あの婦警さんは、そういうお名前で……)」
「ちょっと、聞いてる!? なんでシカトすんのよ、ほら、返事してってば!! もーう、これだから大人は!!」
「…………。──」
「──しーっ……静かに、『二三さん』」
「え?」
耳障りな幼い声。
生意気に頬を膨らませる、打算的な無邪気さ。
憎たらしくも忌々しい、従妹。
──まさか、こんな泥溜めのような場所で。
──こんな小娘の口から。
──『あの名探偵の血を引く血族』との、自己紹介が出るとは。
────『金田一 二三』。
「そっとしてあげてください。深くは言えませんが……人には、一人で涙を流すべき時間もあるのですよ」
「一人で涙を流す……? ふぅーん、お姉ちゃん泣いちゃったんだ。先生、いじわるしたでしょー?」
「ハハ、冗談は感心しませんよ。……どうです? また一時間後にでも。とびきり甘いサーティワンのアイスでも買って、一緒に慰めに行ってあげませんか?」
「えっ!? サーティワン!? ホントに!? やったぁーー!! フミ、チョップドチョコレートとポッピングシャワーね! 絶対だよ、約束破ったらはじめに言いつけちゃうんだから!!」
「………………ハァ」
小さな手を握り、『先生』という仮面越しに、台上のぬいぐるみを一瞥する。
……よく聞く話です。こういう安宿のぬいぐるみや調度品には、あらかじめチープな隠しカメラが仕込まれているものだ。
理由は単純。防犯カメラのシステムを組むより、遥かに安上がりで、獲物の油断を誘えるからですよ。
……さて、鬱屈とした私の独白は、この辺りで終わりにしましょう。
どうせ今頃、貴方は思っているのでしょう?
──“俄然、面白くなってきた”と。
ですよね?
金田一一。
【高遠遥一@金田一少年の事件簿】
[状態]:剥き出しの殺意
[装備]:マイナスドライバー
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:二三の『保護』をする。
1:……さて。ここからが、私の知恵の見せ所ですね。
2:金田一くん。貴方は毎度毎度、無能な警察機構を出し抜き、脱獄を繰り返すこちらの苦労など露ほども理解していないのでしょう。
3:そうそう、貴方は“人を自殺へ追い込む”ことがお得意でしたね。……復讐には、丁寧な伏線が必要ですから。ハハハ……。
【金田一二三@金田一少年の事件簿】
[状態]:わくわく
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:このゲームから脱出する。一ちゃんと、そのおじいちゃんと、この世の全名探偵の名にかけて!
1:高遠先生の言うことをちゃんと聞く!
2:事件ならフミにお任せあれっ!
3:……まいお姉ちゃん、あずきバーとか好きそうだったなぁ。
【川合麻依@ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 死亡確認】
………
……
…
◆
【♪Maurice Ravel - Bolero】
……コラ、検死官仕事しろ!!
「はぁ、は、っ、げほっ……う、ぅ……」
…………これさぁ、奇跡か不幸かでいえば、……まぁ、100対0で大不幸だよね~~…………。
いや、まぁ、確かに? 背中を思いっきりドスッてやられて、そのあと床の上でビクンビクン痙攣してたから、あのサイコパス眼鏡が「はい死亡、クローズド〜」って浸ってたのはわかるけどさ……。
普通、もうちょい確認するでしょ!?
呼吸とか! 頸動脈の脈拍とか!! 被疑者としての最低限の人権とか!!!(←ここ一番重要ね!! テストに出るから!!)
……それなのに絶妙に生き延びちゃってるし、私。
痛い。
超痛い。
なんかもう、痛いっていうか、背中に熱した鉄パイプぶっ刺さってる感じ。
しかも顔。今の私の顔面、絶対最悪。
床の埃と、自分の血と、冷や汗と、なんかよく分からない生理的な汁が混ざり合ってベッタベタだし。
前髪はおでこにピッタリ張り付いてるし。化粧崩れどころか、生命体として終わってる顔してる自信がある。
うわぁ……。
警察学校に入校したての頃の、あのまだギリギリ目が死んでなかった警察手帳の顔写真の私にジャンピング土下座して謝りたい……。
あの頃のお前、まだ肌にハリもあったし、何より五体満足で健康だったぞ……って~~~。
「……まぁ、…………どうせ、あと数分で……死ぬんだけどさ…………、私ぃ……」
……息を吸うたび、肺の奥がヒュウヒュウ鳴る。
……寒い。なのに汗だけ止まらない。血も止まらない。
なにこれ。人体ってそんな粘る……わけ?
内臓とかさ、絶対どっかクリティカルヒットしてイッたよね。さっき「グチュリ」って音したもん。
人間からしちゃいけない、マズいタイプの音が物置に響いてたもん、あれ。
……なのに、神様はなんでこんな無駄に苦しむためだけの執行猶予を与えてくるのさ……。
「“Good Night”じゃねぇんだよバカヤロー……こっちは昨日の当直から一睡もできてねぇんだわ、ボケが~~…………」
……最悪な気持ちだ。
せめて最後くらい、美味しいもの食べたかった。
叙々苑の焼肉とか。天下一品のラーメンとか。
あとできれば、死ぬ前にまるっと一ヶ月分の有給。
それでいて死に際に思い出す走馬灯に、藤部長の般若みたいな怒鳴り顔がノミネートされるのはできれば全力でNGにしたい。
こうなると知ってたら私、あの松田優作のドラマ見てそれっぽい『名刑事の最期』履修してたっていうのに……。
現実の私は、血まみれで床転がって「レッドブルほしい」。……終わってますな、ハコ長。
「あぁ、……もう、なんでも……いいや………………」
でも。でもさ。
……せめて、人生の最期くらいは、ちょっとくらい警察官っぽく、まともな仕事しなきゃ。
別に、崇高な正義感に燃えて警察に入ったわけじゃないし。むしろ他に受かるところがなくて、流されるまま気づいたらこんなダサい制服着る羽目になって。
毎日毎日、信じられない理不尽で怒鳴られて。
必死に書いた報告書は10回以上赤ペン入れられて。パワハラ・セクハラ・モラハラのフルコンボだドン、みたいなブラック環境オンパレードだよ。
それでも。
……あんな変態野郎、放っといたら絶対また誰か殺す。
──指に血つけて、床にちょんちょん。
「……あー、……視界が、グルグル……する…………。バカ、サイコパス……眼鏡……っ」
──なんかもう、コンタクト十枚くらい重ねたみたいに視界バグってるけど、どうにかそれでも警察学校の時より、ペン……じゃない、指は動いた。
「…………二日酔い………………ウコン……ほしぃ……」
──途中からもう、自分で何言ってるかわかんない。
──けれど、最後に。最期に、身体の底に残った最後の力を、雑巾を絞るみたいに全部振り絞って。
「…………は、ぁ、ゲホッ、……っ!」
──完成。
────『金田一二三』っていう、まだあどけない少女の拙い似顔絵と。
────震えた文字で書かれた、たった一言だけの伝言。
“この子だけは、たすけてください”
「……んじゃそら。全然……私らしく……ない…………のかな」
……ていうか、これだけ血でベタベタ文字書けるガッツがあるなら、普通に応急処置で止血できた説、あるんじゃない?
……まぁ、今さら考えても、完全に遅いんだけど。死ぬほど、眠いし。
もう全部、どうでもいいや。
お父ちゃん、ごめん。不出来な娘で。
全国警察のみなさんも、勝手に死んでごめんなさい。……一応全部謝っとけば、藤部長の今回の報告書の枚数が、少しは減る、かなぁ……。
……それと、二三ちゃんも…………。
……助けてあげられなくて、守れなくて…………ごめん。
あとは、多分……。
──この指先に伝わる、……知らない『誰か』の温かさが…………
──助けて、くれる、はずだ……から────。
ギュッ……
◆
《宇宙暦、あるいは帝国暦がどうであれ、歴史の記述というものは大抵において不公平なものだ。》
《時は二〇XX年。》
《場所は、いかなる公式の地図にも記録されない場末のホテル。》
《その薄暗い廊下で、人類は相変わらず、何一つ進歩することなく、血で血を洗う不毛な殺し合いを始めていた。》
《もっとも、後世に『歴史の転換点』と呼ばれる事象は大抵、こういう“くだらない場所”から動き出す。》
《英雄の仰々しい演説や国家の尊大な理想ではなく、誰かの浅薄な勘違いと悪意、あるいは極上の退屈によって。》
《ひとりの、取るに足らないはずの婦警が、未来のためにその血を流し。》
《ひとりの、何も知らないはずの少女が、悪意の掌の上で無邪気に笑い。》
《そして──ひとりの、およそ戦場に最も似つかわしくない“男”が、静かに目を覚ます。》
「……やれやれ、私はどちらかといえば、責任とか使命とかいう言葉が嫌いなんだけどもね。……世の中というやつは往々にして、怠け者にまともな休暇を与えてくれないらしい。──」
「──……カワイ・マイさん。…………それに、フミちゃん、か。──」
「──安心してくれ。バトル・ロワイヤルなんて大層な名前がついているが、要するに『少人数の権力闘争』だろう?──」
「──……銀河帝国に比べれば、ずいぶん規模が小さいものさ」
《後に、人々は畏怖と敬意を込めて、彼をこう呼んだ。》
《──“不敗の魔術師”、と。》
【川合麻依@ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 殉職】
【ヤン・ウェンリー@銀河英雄伝説】
[状態]:静かなる覚悟、軽度疲労
[装備]:不明
[道具]:川合の警察手帳、不明支給品×1~3
[思考]:さて、そろそろ腰を上げるとしようか。この馬鹿げたゲームを、最も手際よく終わらせるために。
1:もっとも、“小さい争いほど陰湿になる”というのも、歴史の常なんだがね……。
2:まずはフミちゃんを探そう。子供を戦場へ放り込む連中には、最低限の倫理観すら期待できないらしい。
3:主催者は恐怖で人を支配したいのだろうが、歴史を見る限り、恐怖政治というものは大抵ろくな結末を迎えない。問題は、その『ろくでもない結末』までに大量の死人が出ることだ。
4:……カワイ・マイさん、か。最後の最後まで他人を助けようとした。警察という組織にも、まだ良心は残っているらしい。
5:紅茶があれば、もう少しマシな作戦も思い浮かぶのだろうが、贅沢を言っても始まらない。
最終更新:2026年05月26日 13:50