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『友よ。』


(キャラ)玉城真一郎、井上直美、山田リョウ、ほくろの巡査





「おれぁ玉城真一郎! で、こっちが井上だ!! おれと井上はなァ、あの【黒の騎士団】で一緒に戦ってきた仲間なんだよ!! 同じ釜の飯を食ってきたおれらに……心配はいらねぇぜ!!」

「……うん、私は山田リョウ。冷静なのが取り柄かな。逆にそこが欠点でもあるけど」

「おう! いいじゃねぇか!! 組織にゃそういうクールな参謀役が必要なんだよ! つまりおれとの相性もバッチリ、相思相愛ってワケだ!! な、井上!!」

「いや別にそこは知らないけど……」

「……」


「っしゃあ!! なんか知らねぇけど、これなら今回の『ゲーム』も楽勝で生き残れる気がしてきたぜぇ!!!」



 ──こんな会話してから、まだ十数分も経ってないってのが何より腹立たしいぜ……。

ッたくよォ……。
ッたくよォ…………!!



「(モグモグ……)うん、ルーが攻撃してこない。これ食べると、普段食べてたカレーがカレー風の何かだった気がしてくる」

「…………。あ! ちょ、ちょっと玉城!!」

「うっせぇ井上!! ……おい山田ァ……てめぇなぁ……」

「言うなら──舌が全然《疲れない》……流石は一杯五千円のプレミアム・マハラジャカレー。素材の『格』が違うね。(ゴク、プハァ)──」

「──……すいませーん、チャイゼリーとマンゴーラッシー。ラッシーはタピオカトッピングで追加お願──」

「ふっざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!てめー山田ァ!!!」

「……わ」 「ちょっと玉城!!!」


「古着だの!! ワケわかんねぇ楽器だの!! 変なお土産だの!! カレー!! カレー!! カレーブレークファストォ!!! どんだけおれに奢らせる気だよっ!!? いい加減限界だゴルァァァァァ!!!!」

「……怒られるとは心外だね。冷静なのが取り柄の私だよ。殺し合いなんかで揺らぐ私じゃ──」

「そういう話してねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!! いい加減にしろコラアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」



コラアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 コラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


  コラァァァアァア…………ァァァァァ──────


「……(スラスラ)」

「ってェ!! 何メモってんだテメェ!!? 『いい加減にしろコラァカウンター』ってなんだよォ!!?」

「これで二十四回目だから。それと暴言記録は後々賠償金請求に役立つ」

「ぁああああ??! ……て、てんめえッ!! よくも……よくも……ッ」

「ちょっと玉城ってば!!」 「あ(察し&ペン準備)」


「いい加減にしろっ!!! コラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」



  ァァァァ、ァァァァ────。


    ────二十五回目──ぇぇぇぇ──────。


………
……





 ……今に始まったわけ話じゃねぇ
おれぁガキの頃から、カッとなるとすぐ手が出ちまう荒くれだった。
おふくろに何度も耳にタコができるほど言われたっけな。
「真一郎、イラついたときは一回立ち止まって考えなさい」って。──だけどよ、その言葉を思い出し終えた頃には、もう殴り合いが始まってんだよな、おれ。
しかも毎回毎回、喧嘩売る相手の『格』ってやつを間違えちまうから、そりゃあ損ばっかりの人生にもなったもんだぜ。
身体はボロボロ。財布はスッカラカン。
おまけに近所じゃ、『玉城さん家の息子さん、また……』……おれぁ、自分みてぇな人間が一番大嫌いだった。

バカで、短気で、勢いだけで、肝心なトコでいつも大ポカやらかす。
……そんな、どうしようもねぇおれを。──ナオトは『仲間』だって言ってくれて、
──そして今、ナオトのソウルを引き継いだ『ゼロ』。
…………おれの大親友は、いつもいつもおれを心から気にかけてくれるんだ。


なあ、ゼロ……。
運命って奴は、ほんと運命みてぇな冗談だよな。
今ならもう、お前に何兆億回、何回でも頭下げて、アドバイスを求めてぇ気分だぜ。


仲間の井上直美と、
──底なしの金食い虫・山田リョウ。
……このイカれた殺し合いで、二人を守り抜くとしたら。

おれの大親友なら──どうするんだ──────?



「ふんふふ~~ん♪」

「……それ、そんな違うの? リョウちゃん」

「全然違うよ。これはジャズベース」

「ジャズ……? あぁ、サッチモとかの、大人っぽい音楽?」

「ううん、音楽ジャンルじゃなくて、正式にはフェンダー系統の定番モデルのこと。プレベに比べて音がちょっと暴れる。だけど輪郭がはっきりしてて、中音域が太くて……そう、『歌う低音』って感じかな」

「歌う低音……?」

「うん。ベースって、普通は目立たない楽器なんだけど──」


 ボボボンッ──♪


「────これは“後ろで目立つ”」

「これは後ろで目立つ……(キリッ──じゃねーよ!! あぁ?! いくらだ!? そいつに何円だしゃテメェは満足だ!? この一般民間人さんよぉ!!!」

「……私は玉城さん、結構好きだよ。なんだかんだ財布開いてくれる。包容力の塊だね」


 チャリンッ──♪

「……玉城。あなたの財布ダム、どれだけ決壊してるの?」

「ったく、うっせぇぇぇッ!!! こりゃ先行投資の生殺しってヤツだ!」

「……なによそれ……(絶対“先行投資”も“生殺し”も意味わかってないわねコイツ……)」



 ……クソ、クソクソ、クソッ…………。
どこもかしこも無人販売、飯は頼めば無から出てくるこの亜空間で、組織の金は律儀に消えていきやがる。
『ARIZONA SPORTS CLUB』とか書かれた意味不明ジャージは、いつの間にかカレーのシミだらけ。
買ったばっかのベースの裏ァ、もう訳わかんねぇステッカーでベッタベタ。
汗水垂らして、同じ釜の飯食って稼いできた黒の騎士団の金に、この山田ってガキはあまりにも冒涜的だった。

……で、一番腹立つのは、井上の反応だ。
そもそもおれァ、この保護話、最初から完全賛成ってワケじゃなかったんだ。
──いや、厳密には別に反対でもなかった。でも今反対って気持ちになってるから、もう反対でいいだろ。
おれがさんざん「こいつは嫌な予感がする」つった気がするのに、井上の野郎は黒の騎士団ソウル半端ねぇから山田に甘くてよ。
「まだ高校生なんだから」とか、「ゼロが言ってた『弱者を救う』ための保護対象でしょ」とか、もっともらしいこと抜かしやがって。
……ったく。
そんなに世話好きなら、もう保母でもなんでもやれってんだ。チクショウッ!!


「…………え? ……玉城、え、あなた……まさかさっきから、組織のお金使ってるんじゃないでしょうね?」

「ァァあ?! 経費だから仕方ねぇだろ!」

「あぁもう絶対“経費”の意味わかってないやつ!!! な、なにしてるのよ!? ゼロが用意したプール金よ!? おかしいんじゃないの!!?」

「おかしくねぇ!! 金なんて持ってても仕方ねぇだろうが!!」

「仕方なくない!!!」


 ……ぁ? ァあああ!?
ンだ井上……!? 急に説教モード入りやがって……。
それも保母さんの何かなのか!?


「どうすんの?! 五十万!! 五十万よっ!!!! あなた自分の給料考えなさいよ!! 月いくらもらってるの!!?」

「……ンな大事な話かよ」

「大事よ!! スポンサーが無限にいるわけじゃないの!! 黒の騎士団だって慈善事業じゃないのよ!?」

「ァァァァァァ!! ワケわかんねぇ話すんじゃねぇよ!! 文句ならリョウに言えよ!!! リョウに!!」

「…………っ、あなたにも責任はあるからねっ!!! 責任!!!!」


クソッ、何が責任だ……!
おれァなァ、長年黒の騎士団の会計係として!!
新入り共に飯食わせて!! 酒飲ませて!! 焼肉連れてって!! 時には女にモテる服まで見繕ってやった男なんだよ!!今更の話じゃねぇか!!
大体金なんて1+1。それの無限バージョンみたいなもんだろうが。
ンな義務教育レベルの算数の話を、いちいち学校の教師みてぇに上から目線で言いやがって……。
だからおれァ、正論ってヤツが大嫌いなんだよ!!


「ねえ、リョウちゃん……? さすがに、その……少しは遠慮というか……──」

「いや、言わなくていい。流石に私も申し訳ないとは思ってるから」

「え?」


クッ……、思えばよぉ。
カレンのヤツも、井上も、母ちゃんも。女ってヤツァ、どうしてこう正論を綺麗に使いやがるんだ。
山田のガキもそうだ。
おれがどれだけ血流して、どれだけ殴られて、どれだけ泥すすって生きてきたかも知らねぇクセに、容易く正論で殺しにかかる。
……違ぇだろ。人間ってのは、そんな冷てぇ計算式じゃねぇだろ。
ただ正しいことばっかり言ってりゃいいなら、それァ銀行員かブリタニアのデカブツロボットだ。
もっとこう……魂の付き合いってモンがあるだろ。


「たださ、失ったものを追いかけることはロッカーの流儀に反する。過去の犠牲を数えるよりも、未来へのセッションだけを見るべきかなって」

「……えぇ、つまり……どういうこと?」

「うん。つまり」


そうだ。
おれが言いてぇのは、こういうことなんだよ。
人間ってのはな、正論とか。理屈とか。……んなモンじゃねぇ。

もっとこう……泥臭くて。
バカで。
意味わかんなくて。
だから、忘れられねぇモンがある。

──例えるならな、
──おれとゼロが、まだ何者でもなかった頃、河川敷で並んで食った、あの泥臭ぇコロッケの味。
──ソースもべちゃべちゃで、衣も湿気ってて、でも、妙に世界で一番うまかった。

──あの、言葉にできねぇエモい感じみてぇな────、


「……玉城」

「あァ?」

「ベースケース持って」

「…………ァあ?」

「重いからさ。値段も、物理的にも」

「あ、あの、リョウちゃん!!」



──プッツーン。
……コロッケにケチャップマヨネーズブチ撒けられた気分だった。


「ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイいいいい加減にしろッッッ!!!!」

「玉城!?」

「コラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


おれは心のコロッケをゴミ箱に捨てて、バカ二人を置いて店から飛び出した。
ざまぁみろ、誰が荷物持ちなんかするか!!
……ケッ!





 ……あれから、数分が何度も何度も経ったもんだぜ。
経費の金で、チャーシューメン大盛り。それを肴にキンキンに冷えたビールまで胃袋に流し込んでやったってのによ。
……おれの心の虫は、全然収まりがつかねぇ。

一杯、二杯、三杯。飲んでも飲んでも、こういう時に限って全然酔えねぇ。
店のテレビは無機質なバラエティ垂れ流してやがるし、支給品は訳わかんねぇ覆面マスクと冷たい銃だけ。
夢もロマンもありゃしねぇ。
……結局よォ、本当に苦しい時ってのは、何も助けちゃくれねぇんだ。


「クソッ…………。くっ…………、──」

「──…………井上、山田、…………こんなおれで、すまねェ……ッ」


 …………くっ。
……すまねぇ、──ゼロ……。

……さっきまで、井上相手に色々理屈をごねたおれだが……間違ってる。
間違ってることくらい、このおれにだって本当は分かってんだ。
自分を守る為だけの、プライドを保つためだけの、しょうもねぇ言い訳に過ぎねぇってのは、痛いほど分かってんだよ。
これがゼロなら、こんなところで現実逃避の酒逃げなんかしねぇ。くだらねぇ愚痴を巻いて終わりにすることも絶対にしねぇ。
アイツなら今頃きっと、なんとかして二人をまとめて、義理を通して、──感情を抑えたはずなんだ。
例えば、山田のガキにはよ。

“いまは殺し合い中だぜ。だからやめろ。おい”

……とか、冷静に言ったんだろうな。
クッ……アイツらしいぜ。どこまでも青臭ぇっていうか、正義の味方の優等生っていうかよ。
だからみんな、あの仮面の背中についていったんだろうな……。


……それに比べて、おれはどうだ?



「……ゼロは、ここにはいねぇ。……代行──代行・ゼロは……おれになる。──」

「──……おれがアイツの代わりにやらなきゃいけねぇってのに……おれは……、──」

『ピザハット! オッサンカマンベ~~~ル♪』

「──ッ!!! あぁああうっせぇんだよCM!! スポンサー誰だこの野郎!!」

『濃厚チーズがとろ~り♪』

「ケッ!!!!」



「──……おれは、たった二人すら、まとめられねェ……」



……ビールだけが、クソほどぬるくなっていた。
炭酸は相変わらず、上へ上へと気泡飛ばしてるっつうのによっ……。


「くっ…………。──」


 ──ゴクリッ……


「──ウジウジ悩んでても仕方ねぇよな。……な、ゼロ!」


 ……はは、んだそれ。
今、自分で口にしたクセに、おれ自身が一番ビックリしちまったぜ。
おれの口からだって、ちゃんと吐けるんじゃねぇか。
──『正論』ってヤツをよ。


そうだ、思い返してみりゃ、ゼロだって最初から全部が全部うまくいってたワケじゃねぇ。
扇だって、吉田だって。最初ァ突然現れて、意味わかんねぇことばっか言うアイツを疑ってた。
そりゃそうだろ。顔を怪しい仮面で隠して、口を開けば命令ばっかりでよ。普通の人間なら「なんだコイツ、頭おかしいんじゃねぇのか」で終わりだ。
……でも、アイツは、黒の騎士団ソウルと、訳わかんねぇくらいの知略で。
気づけば、おれらのアニキ分みてぇになってたじゃねぇか。

──なら、おれも、親友に倣うまでだぜ。


「(ゴクゴク……)ぷはっ、旨くねぇ!! ンでもいいぜ!──」

「──悪いな、病みモードのおれで……! おれがゼロとして、テメェらにいつまでも付き添ってやるんだからな!!」


……ただし、経費までゼロいっちまうのはゴメンだけどよ。
ヘヘヘ……!


「うっし! やっぱり酒ってのは不思議な魔法だぜ……! 苦しい時にはこうしておれの背中をドンと押しやがるんだからよ!!──」

「──よっしゃあ、いくか!!」


がははは、とおれは誰もいない店内で一人で豪快に笑った。
おれの心の中にはいつでもゼロがいる。
辛ぇ時、苦しい時には、“アイツなら何て言うか”を考えりゃいい。
それだけで、おれァどこまでだって前に進める無敵の男になれるんだ。

空になった財布を握り締め、おれァ、中華屋の暖簾をくぐった。




──そして、おれは一歩も動けなくなった。


………
……




 さっきまで通り、あの店には、井上と山田のガキがいた。


「はぁ……はぁ、うぅっ……! っ、く……!」

「い、井上さん……」

「……っ、大丈夫……大丈夫だから、リョウちゃん……動かないで、後ろにいて……っ!」


──一つ違うのは、……井上の脚は、見るに耐えねぇ弾痕で染まってたことだ……ッ。



「……フゥ~~~~~~」

「ィイッ……!──」



 そんで、……さっきまで通り、井上は必死に山田を庇っていた。


「──バカじゃないの……。バカじゃないのっ!!! こんな……『殺し合いしろ』って言われて……バカ正直にそれに従って…………あなた、一体何考えてるのよ……っ」

「ん? どうかしましたか、お嬢さん。随分と手厳しい」

「おかしいんじゃないのって言ってるのよ!!! ……上から言われたからやりました、命令だから従いましただなんて……まさしく最低の『権力の犬』……!──」

「──『警察』のくせに……こんな狂ったことしていいと思ってるのッ?!!! ねえッ、答えなさいよ!!!」


──一つ違うのは、……二人の目の前に、ニコやかで不気味なおまわりが壁のように立ちふさがってたってことだ……ッ。



「……いいと思ってるか、ですか。答えはノーですね」

「は、……ハァ……ッ!?」

「計画性のない殺人は必ず証拠が残ります。ただでさえ、上のヤマさんに始末書書かされるのは勘弁でしてね。私も、本来なら市民の安全を守る職務に忠実であるべきでした」

「な、なによ……それ……」

「ですが」


 最後に、……さっきまで通り、井上の目には黒の騎士団ソウルが灯ったままだった。
……脚にゃドス黒い血だまりができて、頬にゃ硝煙の傷がついて、息も絶え絶えで全身ガタガタ震えてて。
護身用の武器っぽいやつも遠くの床へ無残に弾き飛ばされて、
……目の前のおまわりが、片手で変なノートみたいなやつを、ぶるっちまうくらい不気味にペラペラ捲って、
──黒いチャカを突き付けられてもなお、井上の目は死んでいなかった。


「『さんかしゃが しんだとき 【きゅうせいしゅ】が あらわれるだろう』──」

「え……?」

「『よげんのしょ』に、このような記載がありました。……ええ、これが本物か贋作かは判断できません。ただ~、そうとなるとですよ?──」


「──よげん通りに行えば、真贋の判別ができる。──」

「──というわけであなた方には、少々その確認作業の『検体』付き合っていただこうかと思っている次第でして──」

「……ッ、意味わかんない意味わかんないわよッ!! ふざけないでよッ!!!!」



──さっきまでと決定的に違うのは、……そんな絶体絶命の二人を前にして、このおれは。

──「幹部サマだぞ」と威張って飛び出すこともできず。
──「いい加減にしろコラァ!」と怒鳴り散らすこともできず。
──ただ店の外の影で、情けなく息を殺して。


────ビビってるだけだったってことだ。

…………正直、逃げようとしているのが、このおれだった。



「…………ッ、……っぅ、……な、ならせめて…………リョウちゃん」

「……え?」

「リョウちゃんだけでも……見逃してもいいんじゃないの。……あの冷酷非道なブリタニアの鬼畜どもでさえ……武器を持たない子供だけは、進んで殺したりはしないわよっ……!」

「『ばんぱく、ばんざい』」

「……は? ……ちょっと、ねえ聞いてるの!?」

「『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』」

「……聞いてるのって言ってるでしょ……何回同じことを言えば気が済むのよ…………ッ」

「『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』『ばんぱく、ばんざい』」

「……ッ……、……!」


 ……なぁ、玉城真一郎ってクソッタレのバカ野郎……。
なんでてめぇの手は、さっきから情けなくガタガタ震えてやがんだよ……ッ?
なんでこんな極限状態で、頭の片隅じゃ『あ~……チャーハンも一緒に頼んどけば、もっと腹にたまったかな』とか、現実逃避の後悔をしてんだ……ッ?
なに、『酔ってきて動けない』とか、自分に言い訳してんだよ……ッ?

なんで、……井上の、見ずとも分かる表情から、……顔を逸らしてんだ…………ッ。


あんなザコそうなおまわり、……これまで潜ってきた修羅場に比べりゃ、なんも怖くねぇじゃねえか。
……そりゃ、今までと違ってこっちは素手同然だ。
ナイトメアも、防弾装備も、仲間の援護もねぇ。
でも、そうじゃねぇッ──。
おもちゃみたいな錆びついた銃しか手元になかった時だって……、防弾チョッキすら着ねぇで必死こいて、それでもお前は叫びながら前に突っ込んでいったじゃねぇかよ……。

それだというのに、なんだ?
この、喉の奥がカラカラに干からびるような汗は、一体なんなんだってんだ…………?


「会話も……通じないわけッ!!? ねぇ、ねえったら──」

「『ばんぱく、ばんざい』────お疲れさまでした。お二人さん」

「……ッ!!」 「…………」


 ……あぁ、そうかよ。よく分かったぜ。
おれァ今、安全な『対岸』にいるんだ。
あいつらの命がけの地獄を、おれは強化ガラスの向こう側から安全に眺めてるだけだ。
『まだ自分は安全だ』とか思っちまってる。
コロッセオの観客みてぇに、“自分は舞台の外側だ”って、どこかで思ってやがる。


……なんだよ、それ。

なんなんだよ、それッ……。

おれらは、黒の騎士団ってやつは、そういう高いところから世界を見下ろして高みの見物キメ込んでる特権階級の奴らが、反吐が出るほど大嫌いだったんじゃねぇのかよ。
いつだって世界から笑われる側。
理不尽に踏みにじられる側。
力のある奴らから、理不尽なルールを一方的に押し付けられる側。

そんな持たざる奴らと同じ釜の飯を食って、泥水をすすって、血を流して。
理不尽に泣く弱者を“救う”ために、おれたちは命を賭けて戦ってきたんじゃねぇのかよ……。



「……まぁ、おそらくこの『よげんのしょ』は偽物……ですがね」


 ──カチャリッ



「…………ッ!!! リョウちゃんッ…………!」

「…………。──」


「──うん、偽物だよ。言ってしまえば、おまわりさんの妄信してる『本物のよげんしょ』っていうのも、私にはチープで、真実には見えない」


「…………はい?」



……それなのに、俺は……。
あの時、店を飛び出したことを心のどこかで「運命の幸運」だなんて思っちまって、
その温い甘い泥沼に足を引きずり込まれて、ただ固まって動けなくなっちまって──、



「『The savior doesn’t live in heaven, man.He hides somewhere inside the feedback of a loud guitar.』──救世主はロックにのみ宿る。ジミ・ヘンドリックスの有名な言葉」

「………………はい? 『ともだち』を、否定すると?」

「リョ、リョウちゃん……ッ」

「否定はしない。それは個人の価値観の自由。私はあくまで、孤高のベーシストとしての見解を述べただけ」

「………………もう一度言います。……はい? 『ともだち』を、否定すると?」

「……何回も繰り返されたらキリがないね。じゃあハッキリ言うよ。おまわりさんの真実、その全て、否定するから」

「リョウちゃんッ……!!」


「……もう一度言います。……はい? 『ともだち』を、否定す──」

「ごめんなさい、井上さん。私は常に冷静さがモットーだから。銃口で言論を封じられるようじゃ、結束バンドの名に申し訳が立たないよ。──」

「──……証明するね。──」



「────救世主は、音楽を鳴らせばいつだってステージにやってくる」



──────ッッ♪。



──あの山田の、生意気で、空気が読めなくて、図々しいハズのガキは、
──…………おれが買ってやったベースの四本の弦へ指を、真っ直ぐに滑らせやがったッ…………。



「ぅう……、ぐっ……」


────ッッ♪。

 知らねぇメロディだった。
今までおれがナイトロのクラブだので聴いてきたどんな音楽とも違う。
まったく聞いたこともねぇ、そもそも世間で言うエモい曲でもなけりゃ、この最悪な絶望の状況を爽快に吹き飛ばすような、ヒーローものの輝かしい曲でも決してなかった。
暗くて、ジメジメしてて、お化け屋敷の楽屋裏で流れてそうな、……あまりにもナンセンスで、変拍子すぎる、泥臭い歪んだメロディ。


「うぅうっ……ィイイイッ……」


────ッッ♪。

それでも、……おれのソウルの奥底が揺れて仕方ねぇ。
昔、学校の教師や厳しかったオヤジに怒鳴られた時よりも、リアルに地面がグラグラ揺れて真っ直ぐ立っていられそうにない。
周りの木々も、無機質な中華屋の建物も、クソおまわりも、……井上も、全部まとめてごちゃまぜのカオスな渦の中に叩き落としちまうような、圧倒的な音の暴力。


「……ィイイイイイイイ……ぁぁぁあああああああ……ッッ!!!!!!」


────────ッッ♪。

……あぁ、ディートハルトが口々いう『カオス』の意味が、ようやく理解できた気がしたぜ。
おれは山田の発言が、アインシュタインやニュートンの名言よりも『正論』に感じちまって、
鼓膜が、心臓の鼓動が、俺の眼差しがッ、身体の細胞全てがッ!
ベースという地味な楽器の、一番太い咆哮を受け止めたその瞬間……ッ!!


「イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!!」



──聞いたこともないこの曲が、『あの思い出』で流れてたことに、おれは気づいちまったんだ。



【♪日が暮れてどこからか、】


……
………

『へっ……おいおい、世界を変える救世主様が、こんな薄汚い路地裏で地べたに座るなよ。格好がつかねえだろ』

“世界だの救世主だの、そんなものは表の顔さ。ここには『仮面の男』も『皇子』もいない。お前と俺……ただのダチだぜ”

『ゼロ……お前……っ』

“玉城。お前はよく『俺はゼロの親友だ』と周りに言い触らしているらしいな”

『あ、いや……それはその、悪気はなくてよ……』

“バカ野郎。言い触らすな。……『心の中』だけで通じ合っていれば、それでいいことだろ?”

『…………!! ゼロ……、ゼロ……っ! ぐっ……!!』


“……ほらよ、お前の大好きなワンカップ大関と、ファミチキだ”


………
……


 おっと、大事なことを言い忘れてたぜ。
このイカれた殺し合いでおれに与えられた支給品はよ、──『ともだちのマスク』っつうんだ。
……こっぎたねぇし気持ち悪いデザインのモンだが、今の状況じゃ贅沢なんか言ってられねぇ。


「いい加減にしろォォォォォッ!!!! クソおまわりィィィィィィィ!!!! コラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」


「!!」


おれはマスクを、本物の『代替』として乱暴に被り、銃口を突きつける野郎の目の前へと、堂々と立ちふさがってやった。
ゼロとの青春はおれの青春だ。おれの、黒の騎士団の絶対的な誇りだ。
“親友”って言葉ァ、ハッタリなんかじゃねぇッ!!


「……た、玉城!?」

「…………ふふ!──」


「──これで『二十六回目』だね。……玉城さん」



同じ釜の飯を食って。
同じ日本の美味ぇ米を食って。
同じ釜の風呂入って。
同じ、バカみたいにデカい夢を見た。

そんなおれらに──ッ!!!



「黒の騎士団・ゼロ緊急代行が命じるッ……!!──」

「──このおれの仲間に手を出してみろッ!! ぶっとばしてやるからなァァァァァァァァ!!!! ゴルァァァァァァ!!!!!!」



負けるモンなんざ、ねぇんだよッッッ!!!!!!



【玉城真一郎@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:ゼロソウル覚醒
[装備]:拳銃、ともだちのマスク@20世紀少年
[道具]:基本支給品一式、財布(経費残高激減)
[思考]:この玉城真一郎、一度逃げた相手からは絶対に逃げねぇ!!!
1:井上と山田のガキを守り抜く。
2:ゼロ緊急代行として仲間を導く。
3:ホクロの巡査をぶっ飛ばす!!!
4:ゼロ、見てろよ! おれだってやればできる男なんだよ!!

【井上直美@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:右脚銃創・疲労大
[装備]:なし(武器喪失)
[道具]:基本支給品一式、止血に使った布、空の救急キット
[思考]:このイカれた殺し合いから生きて脱出する。
1:……命じてないじゃん。
2:リョウちゃんを守る。他、一般市民の参加者を保護。

【山田リョウ@ぼっち・ざ・ろっく!】
[状態]:冷静
[装備]:ベース、アンプ、小型エフェクター
[道具]:基本支給品一式、『ARIZONA SPORTS CLUB』ジャージ、チャイゼリー、大量のレシート
[思考]:この理不尽な世界に、ロックの偉大さをこれでもかと知らしめる。
1:……『そんなおれらに負けるモノはない』って、勝てないってことじゃん。
2:ベースの重低音とカオスなグルーヴで、この場の戦況をひっくり返す。
3:……玉城さん、ピンチになればなるほど面白い。観察対象としてはこれ以上にないね。rock 'n' roll……。

【ほくろの巡査@20世紀少年】
[状態]:精神錯乱気味
[装備]:拳銃、『よげんのしょ』
[道具]:基本支給品一式、警察手帳、予備弾倉、意味不明なメモ群
[思考]:『よげんのしょ』に書かれた通りの記述を淡々と実行する。
1:……一度逃げたら終わりでは?
2:……『救世主』…………?



最終更新:2026年06月01日 01:32