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『あそび、しましょう。』


(キャラ)メンコ男、野村香純、本田華子




 右手には、削れば人生が変わるかもしれない『スクラッチくじ』。
左手には、今この瞬間の空腹を満たしてくれる『パン』。

……さて、あなたなら、どちらを選びますか?


ああ、そんなに身構える必要はありませんよ。
お腹が空いているならパンを、一発逆転の運を試したいなら、くじを。
ただのシンプルな、二者択一です。
……ええもちろん、どちらを選んでもあなたの自由です。
大切なのは、あなたが今、『自分の意志でそれを選んだ』という、その事実だけですから。


おや。
“お前なら、どちらを選ぶんだ”……ですか。
……申し訳ありません。


──私は、選ぶ側ではありませんので。






☨━━━━━━━━━━━━━━☨

『놀이, 합시다.』
── “Shall We Play?” ──

【Guest】
Kasumi Nomura、Hanako Honda

☨━━━━━━━━━━━━━━☨



………
……


「コロシアイ(笑)ぷふっ、ダッサ!! ねえ香純ぃ、これ絶対オリヴィア黒幕説あるってぇ! 自由の国ってこういうの好きそうじゃ~~~ん!!」

「偏見の塊すぎません? 国際問題ですよそれ」

「でもさでもさ、オリヴィアって首輪見ても危機感ゼロで『わぁ~、ドーナツみた~い♡』とか言いそうじゃない? で、そのあと“穴のないドーナツってドーナツなのかな……”とか一人で始まっちゃうの。めんどくさ~~~~」

「……そこまで解像度高いと、普通に心配してる人なんですよもう」

「えぇ~~~~? それは解釈違いですなァ~~~~! ……さてさて……ほい~~~っと!!」


 月明かりが乏しい体育館にて。
バスケットゴールへ投げられたボール──ガンッ、ぽん、ぽーーん、「グヘッ!!」……。
間抜けな声とは対照的に、見事なスリーポイントシュートを決めた私の友達・本田華子さん。
私からすれば、彼女こそ今のんきに「エンゼルフレンチとシュークリーム、味似すぎじゃね?」とか愚考してそうだけど、……人が何を考えようがそれは個人の自由。
わざわざその脳内を暴いてツッコむほど、私はお節介でも、暇人でもない。

……それと同様に、──と言えば少し違うのかもしれないけど。

さっきから私の頭の中には、ある一つの『英単語』が延々と浮かび続けていた。
そして、その『英単語』を柄にもなく叫びたい次第でもいる。
消えてなくなってほしいのに、聞いてはほしいっていうか。

ボールが床を叩く不快な音でも。
華子さんの濁った悲鳴でも。
曇ったメガネを拭く仕草でも。
──自分のジャージに書かれた『野村香純』って名前を見て、謎の自己嫌悪をしても。
全然、消えてくれない──その『英単語』。
呪詛に近いそれが、夜の帳の静寂の中で、冷たい雨粒のように私の心を打ち続けていた。


「あ、そうだ香純ぃ! 今から“遊び”しようよ、“遊び”♡」

「……『遊び』、ですか…………」


──その単語は、────【Penalty Game】。

……はいはい。
出ましたよ。出ました。

────【罰ゲーム】。


もうほんと、なんなんだろ、これ。

殺し合い。バトル・ロワイヤル。略してBR。
……いやだから何なの、その物騒なアルファベット二文字。
おまけにBLと一文字違い。脳が勝手に反応するからやめてほしい。
中学の頃にALTが見たら泣くレベルだよ、こんなの。
今の私、たぶん人生で一番『英語』が嫌いになってると思った。

……まあ、とんでもない八つ当たりなのは、自分が一番よく分かっているんだけども。
分かってるから余計、虚しかった。



「……それで、その“遊び”ってのは、一体なんなんですか?」

「うぇ~~? よくぞ聞いてくれましたな香純クゥ~~~ン!! 聞いて驚け見て笑え~~~~っ!!」

「うわ懐かし。おじゃる丸以外で初めて聞きましたそのセリフ」

「ズバリ!! 『四人対戦オセロ』ってのどう?! 退屈な旧時代のボドゲ文化に革命を起こす、超未来型ハイパーインテリジェンスバトルなんだけど~~~~~っ!!」

「……四人対戦オセロ……?」

「うんっ!! 質より量!!! 人類は人数が増えると楽しくなる生き物なんだから!! つまり正月の親戚理論!!!」

「いや、華子さん……」

「だってさぁ、オセロって白と黒しかないじゃん?! 今どきモノクロ限定とか時代遅れ感エグくな~~~い?? 多様性ゼロじゃ~~~ん???」

「……」

「だから昨日、前多に徹夜で考えさせたの!! “白vs赤vs黒vs青のバトロワにしたら絶対神ゲーになる”って!!! マジこれノーベルモン案件っしょ~~~~♪ おばさんが『なめたらあかん~~♪』つってのど飴くれるやつじゃん~~~!! ノーベルッ♪ ダワッハハハハハハハハハ~~~~!!!!」

「…………。──」


「──……後攻の二人、最初の一手で詰みません?」

「…………うぇ?」

「四方向から挟めるゲームでプレイヤー四人に増やしたら、初手即死ですよ。というか盤面が戦国時代です」

「……。──」


「──……リア充って白黒のチノパン大好きだよね。マジ無理。マジ消えればいいと思う。オリヴィアも顔だけリア充だから、負けるたび私amazonでチェンソーの価格帯調べてたし」

「どんだけオリヴィアさんのこと好きなんですか……」


 ……結局。
どれだけくだらない会話してても、頭の奥でずっと鳴ってる。
──【Penalty Game】。

 ぺなるてぃ。
  ぺなるてぃ。
   ぺなるてぃ。

……もう呪いだよ、これ。
どれだけ華子さんが騒いでも。どれだけオリヴィアさんの実質香水みたいな匂いを想像しても、全然消えてくれない。

……はぁ。
……でも、ちょっとだけ思う。
こんな状況でも通常運転を貫ける華子さん、ある意味すごいのかもしれない説。
我の強さというか、リア充への殺意というか。なんかもう、生物として図太いって結論ていうか。
少なくとも今の私には、ああいう人の方が生き残りそうに見えた。


「じゃ、ということでさぁ香純っ!!」

「だから何に着地しての“ということで”なんですか……。リア充狩りするんですか?」

「前多が考えた、クッソおっっっもんな~~~~いゲーム、それを改良した二人対戦専用オセロってゲームをやろうかな~~~~~~~ってさ!!!」

「折り畳み式ニンテンドーDSみたいな言い方やめてくださいよ、もう……」


「──今、この全く知らないセールスマンに言ってみたら、あそ研の誇りってやつ、ちょっとは見せられるんじゃね!?!? って、言い終えた次第でありますっ!!!」

「……はい?」


  ……。
…………。
…………いや待って。
図太いとかそういう次元じゃないんだけど???
気づいたら華子さん、近くにいたスーツの男に話しかけてるんだけど。

……なに、ナニシテルンデスカ???

えっ、昼休み寝たふり選手権全国大会優勝者みたいな顔してた人が、なんで急に営業職の才能開花させてるの?
通常運転どこいったの???
AT限定だった人が急に大型特殊免許取得してるくらい意味が分からないんだけど???
男の人も、「え、何この子……怖いんだけど……」ってドン引いてるし。ドン困惑なんだけど。


……私、言ったよね?
男の人苦手って…………。
……聞いてたのかな…………?


「どもども~~~~っ☆ “聞いて驚け見て笑え”って、やっぱ小鬼トリオくらいしか使いませんかね~~~??」

「……? ええと、どういったお話で?」

「はいっ!! あそ研所属・本田華子ちゃんでありま~~~~すっ♪」

「いや、私は別に自己紹介を求めてはなくてですね……」

「えッ。……あ、待って。これ、もしかして次にそっちの名前を聞く流れです、コレ???」

「はい?」

「ヤバ~~~~っ!!! それって実質、令和最新版のナンパじゃないですかァ~~~~!!! いやぁ~~~~んもう、お兄さん初対面なのに積極的すぎぃ~~~~~っ♡」

「…………」


……月がきれいですね──Kill You Fu……って、もうほんとうるさい。
青白い月光が、私の薄っぺらいジャージを照らしてくれる虚無の舞台。
私は爪いじりながら現実逃避みたいにBLのこと考えてるし、
華子さんは、「これでリア充デビュー☆☆」「援〇? ンなもん大人の経済回してるだけだし関係ないわボゲェ~~~!!」とか終わってるテンションで、知らない男に距離詰めてるし。
なのに、そのスーツの男だけは、全然ペース崩さないし。
困ったみたいに笑いながら、静かにカバン探ってて。なんかもう、会社帰りの営業マンみたいな空気で。
それが逆に怖かった。


「……二人対戦オセロ、ですか? ……フフ。そんな、裏面つきメンコみたいな……」

「私は腐ってもあそび研究部だからね!! グーチャカバトロワごっこするより、こっちの方が性に合うってワケっ!! ねえ~~~おっさんもそう思うっしょ~~~~~~????」

「……それはそれは。お若いのに、大した熱量だ──」

「──ただ、二人対戦となると、ソチラのお嬢さんが蚊帳の外で、少々気の毒ではありませんか?」

「……っ」

「うぇ??? じゃあなによ? なにして遊ぶって言うのよォ~~~~???」


ふと、先ほど華子さんが顔面で跳ね返したバスケットボールが、ポン、……ポン、……ポン、と。
誰の手も借りず、人知れず跳ねだす無意味な怪奇現象。
そんな演出が、あまりにもさりげなく溶け込んでいた夜。


「ええ。代替といっては、あなた方の言う二人オセロには到底敵わない、他愛のないものですがね……。──」


ふと。
男の人の口元が薄く、静かに。
まるで三日月のように歪んだかと思ったら、



「────お二人にはぜひとも、私の考えた『ゲーム』を遊んでいただきたい」




それが、
──私たちの『地獄のあそび』の始まりだった。





 ────ゴシュッ……




 ……意味が、

イミが、

まったく、わからない。



「ぁ……ぁ、っ……ぃ、ぃぃ……っ……」

「は……? は? は? なにこれ……なにこれなにこれなにこれっ!!???」


気が付いたら──ランプひとつだけが灯る、薄暗い体育倉庫内。
世界そのものが、内側からじわじわと腐り果てていくみたいな暗さの中。
頭がズキズキして、手足もうまく動かなくて、『座る』以外の行動全部他人事みたく遠い。

……脳細胞はとっくに『これから起こりうる最悪の状況』を理解しきっているというのに、現実逃避するみたいにふと正面の華子さんを見たら、
──彼女の額には、乾きかけた血がついていて。

鼻血の跡。乱れた髪。パイプ椅子に無慈悲に固定された、その身体。
……顔色も、今の私とたぶん同じくらい、血の気の引いた真っ白さで。


「いや、これ……なに!? なんなのこれ!?? え、ちょ、待っ──」

「おはようございます、本田華子さんに野村香純さん」

「────ヒッ」


……『男性恐怖症』とか、そんなレベルじゃない。
日曜日の夕方をバラバラに解体して、焦げるまで煮込んだみたいな、──耳元で囁かれた声に、肩が大きく跳ねた時。

──暗がりに佇む、あのセールスマンの男。

あの男は『銃』を片手に、古びた蓄音機へ指を伸ばして。
まるで、ホームパーティのBGMでも選ぶみたいな気軽さで呟いた。


「……うん。今はこの曲がいい。──」



 ──カチッ

Symphony No. 9
──『♪ Ode to Joy』。



「──お二人には、『NGワードゲーム』を行っていただきます」




「………………は?」



 ……この時になってようやく、──私は、自分の唇から血が滲んでいることに気づいた。

歯がガチガチ鳴ってた。
止まらない。うるさい。気持ち悪い。
無意識に、思いっきり唇噛んでいても、まだ鳴りやまない。
……絶望だった。
もう、びっくりするくらいシンプルに身体全てが闇に沈んでいた。

本能が勝手に理解してた。“あ、これ終わるやつだ”、って。
だからこの時はちょっとだけ、華子さんが羨ましく思う。
強がってるだけなのか、本当に状況理解してないのか知らないけど。
でも少なくとも、あの男へ唾飛ばしながら叫べるくらいには、壊れていなかった。
「いやこれヤバいやつじゃないの!!?」「警察!! 警察ゥウウ!! 犯罪でしょコレ!!?」「援〇レベルじゃないんですけど!!!? 人道的にアウトォオオオオオ!!!」

……華子さんだ。
こんな状況でも語彙だけはいつも通りなんだから。


──その言葉も、空を裂いた一発の銃声でピタリと凍りついたのだけども。


 シュゥゥ……


「…………え、」

「お静かに。まだ、ルールの説明が終わっておりません」


 ……男は営業スマイルのままそう言った。



この時の私は、何度でも同じことを繰り返して叫びたかった。
喉が潰れてもいい。口が裂けてもいい。
その程度の代償で済むなら、何回だって声を大にしたかった。


『イミが』──、──『わからない。』



その“意味わからなさ”は──、
──男の口から滑り出てくる狂った『ルール』のことも。



「……まあ、ルールと言っても難しいものではありません。退屈な放課後によくやるでしょう?──」

「────ほら。ペタって」

「ヒッ!!! ぃいいいい!!」

「互いの額に貼られた単語を、相手に言わせる。それだけです」


この、額に貼られた感触で、骨折したというぐらい跳ね上がった自分の肩も──、
──視界の先、華子さんのおでこに無慈悲に貼り付けられた──『リア充』という文字も。



「その単語を相手に言わせたら勝利。互いの心理を読み、誘導し、出し抜き、誘惑する……。これぞ現代社会における、最高にエキサイティングな『おあそび』なのです」

「い、いや……チョー意味わかんないんだけどっ!!!? ナニコレ?! なにっ!!?? これ水ダウ??!! 演出がガチすぎて説明が全然説明になってないんですけ──」

「ええ、では単刀直入に申します。……私も時間が限られているのでね」

「……え」


あの、裸電球の細い光に群がる、無数のどうでもいい羽虫の羽ばたきも──。
──鼻の奥をツンと刺す、濃厚な硝煙の匂いも。



「負けた方には、死んでいただきます。──」

「──会話は十ターン以内。決着がつかなかった場合……つまり引き分けですね。その場合はルール上、お二人はこの部屋から生きて退場していただきます。──」

「──……ただし、勝者には敬意を込めて、このスクラッチくじを差し上げましょう」


「……は?」


男が細長い指先でヒラヒラと揺れる、紙切れのことも──。



「──あぁ、そうそう。お二人は随分と仲がよろしいようで」

「え……」 「……ぁ、ぁ……」

「そこで私からも『強制NGワード』を追加させていただきました」

「え」


「『言っちゃダメ』──これを口にした時点で、射殺します。……ハハ、案外この追加ルールが、勝負の決め手となるのかもしれませんね」


「え」

「……え?」




「──命令です。勝ってください。──」


「──それでは。おあそび、スタート」



「え……え…………」



──パンッ、って。
私たち二人の心臓を綺麗に爆破させた、スタート合図の乾いた銃声も。
何もかも 全部が、変に鮮明で。
そのくせ理解なんて息苦しさに負けていて。


────ただ頭の中、“勝つ”とか“負ける”とか、そんな言葉だけがぐちゃぐちゃ回っているだけだった。






………
……



“右手には、削れば人生が変わるかもしれない『スクラッチくじ』。”
“左手には、今この瞬間の空腹を満たしてくれる『パン』。”

“……お前なら、どちらを選ぶのか?”



 ……ふふ。こんなに月がきれいな夜です。
せっかくの機会ですから、私の、個人的な答えもお教えしましょう。


──『差し出した人間を射殺して、両方奪う』。ただ、それだけですよ。



 ……それにしても、今回の参加者の皆さんには少々驚かされました。
最初に、あれほど丁寧な“ゲーム説明”があったでしょう?
あの時の主催者は、実に無防備だった。大勢で一斉に飛びかかれば、あるいは制圧できたかもしれない。
それなのに、誰一人として動こうとしなかった。

……ああ、いえ。別に皆さんを責めているわけではありませんよ?
むしろ、生き物としては極めて自然な反応だ。
人間というのは悲しいかな、あらかじめ「選択肢」を与えられてしまうと、その枠組み自体を疑えなくなる生き物ですから。


パンか、くじか。
生きるか、死ぬか。
そうやって、“二択”を差し出された瞬間、人は、その外側を考えなくなるものです。



──二択への最適解とは、常に『真ん中』という理不尽を、自らの力でもぎ取ること。
……これこそが、私が長年この組織の営業として学んだ、唯一の真理なのです。



「……もっとも、その『真ん中』に立つ我々側も、それなりに命懸けの毎日ですがね。──」


「──さて、そろそろ失礼します。……これでも営業は時間厳守が鉄則ですので。──」





「──また本戦《イカゲーム》でお会いしましょう。素晴らしき勝者さん」




………
……






“……っ、言っちゃダメぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!! 香純ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい──”



 ────パンッ。



【本田華子@あそびあそばせ 死亡確認】




【野村香純@あそびあそばせ】
[状態]:
[装備]:
[道具]:宝くじ@イカゲーム、イカゲーム招待カード
[思考]:
1:

【めんこ男@イカゲーム】
[状態]:眠気(軽)
[装備]:トカレフ
[道具]:メンコ、宝くじx10@イカゲーム、パンx10@イカゲーム
[思考]:『バトル・ロワイヤル』主催側として、ゲームを円滑に進める。
1:参加者には、可能な限り公平に“遊び”を提供する。
2:……森口先生、追加業務分の報酬申請は通してくれるだろうか。




最終更新:2026年06月07日 04:32