創造主たちはかく語りき

 何も考えないで、普通に遊んだところで、『真・女神転生2』の面白さに変わりがあるわけじゃない。しかし、ひとつひとつのイベントを吟味しつつ、その裏に隠されたテーマ性を読み解きつつ進めれば、他のゲームにはない知的興奮を味わえるのも『真・女神転生2』というゲームの特徴である。
 3人の大天使たちはどうして神を裏切るような行為をしでかしてしまったのか。主人公は一体いかなる意図で誕生したのか。謎の男スティーブンの正体は?
 数多の謎を解き明かすべく、『真・女神転生2』開発スタッフ3人に、徹底した質問をぶつけてみた。そして衝撃的な事実の数々。今だからこそ明らかになる真実に、あなたは驚きを隠すことができないだろう。そしてもう一度戻ってゆく……。
(インタビュー/成沢大輔    構成/塩田信之)

岡田耕始
『真・女神転生2』チーフプログラマ。『真・女神転生2』プロジェクトリーダーでもある。
金子一馬
ご存知電脳悪魔絵師。今回も悪魔グラフィック全般を担当した。前作を凌ぐデザインはさすがの一言。
伊藤龍太郎
『真・女神転生2』のシナリオ、イベント設定担当。メッセージのセリフ回しに独特の感性が光る。

はじめに

成沢:スタッフの皆さんに『真・女神転生2』のバックグラウンドに関して伺おうという企画ですので、なるべく合いの手をつっこまずに、色々なお話を伺いたいと思います。

岡田:まず、今回『2』に関してはユーザーの方に迷惑をかけてしまった部分も多いので、その辺の謝罪をさせていただきます。『真・女神転生』のバックグラウンドに関してですが、ゲームの中に入った、入らなかったはともかく、色々お話できると思います。

『真・女神転生』との関連

成沢:中でもみんなが一番気になるのは、前作との関わりだと思うんですよ。イメージとして主人公はヒーロー、おそらくベスがヒロインで、というようなつながりを考えたと思うんですが、ただあの3人、ダレス、ザイン、ギメルが誰に当たるのか、またメシアプロジェクトとは一体何だったのか、などといった点がもっとも気になっていると思うんですが。

岡田:とにかくLAWをテーマにしたストーリー展開をしたいということで、前作を作ったときに暖めていた伏線が、メシアプロジェクトとして関わってくるんです。まあ、かと言って『1』のLAWのエンディングからそのまま続くというわけでもないんですけどね。ただ、ゲーム内では表現していなかった中で最大のキーポイントなのは、LAWのエンディングの中で登場した、俗に言うロウヒーローです。あの存在が、メシアプロジェクトの発端であったわけです。今回主人公をはじめ5人の人間がいる中で、開発の段階ではアレフとかそういう名前ではなくて、はじめからメシアプロジェクトを意識してたのでプロトタイプ1~5号と呼んでいたんですよ。

金子:絵的なものでも、ベスは前作のヒロインのイメージに似せて描いているし、ダレスは前作のヒーローのイメージそのままに描いています。カラーイメージが同じグリーンですから、そういうふうに取ってくれたら楽しいなと。ベスは逆にメシア教の前作のヒロインですから、ブルーが基調です。アレフに対してもそういう影響はあると思います。

岡田:極論ではありますが、プロトタイプの0号として前作のロウヒーローがいたわけで。失敗というわけではないんですが…。

金子:誰かにぶっ壊されちゃったもんね。

岡田:アレを踏み台にして、アレフからのメシアプロジェクトが明確に築き上げられてきたんです。年表にあるように、年代もかなり経っているので、メシア教の世界が確立されたところから話を始めたかったんです。そこで完成されたTOKYOミレニアムというところからやりましたけれども、伏線というか実際はオープニングでもあるようにトールマンの押したICBMから始まっていると言えるわけです。

成沢:では、金子さんがおっしゃったようにイメージとしての誰かというのはあっても、誰が前作の誰ということはないんですね。

岡田:ええ、そうですね。

金子:ただ、メシア教会側としては多分それをイメージしてたんだろうなっていう部分はありますね。市民に対するデモンストレーションとして。彼らは以前存在していたヒーローたちの存在を知っているだろうと。

成沢:新宿のメッセンジャーじゃないけれど……。

金子:伝説になっているはずですし、その中でダレスが出てくれば昔いたあの人みたいとかベスを見ても同様に……。わざと似せている部分もあるのかなと思います。

成沢:なるほど。ではそれをやったのっていうのは誰なんでしょうね。メシアプロジェクトの実行を直接的におこなったのは。

金子:4天使のうちガブリエルを除く3天使。

伊藤:ガブリエルも最初は神の意志だと思って協力していたのだけど、これはどうも違うと……。

ガブリエルとミレニアム

成沢:どうしてガブリエルはこういうスタンスになったんですか?

金子:どうやらガブリエルは唯一、神に許された存在としてあるらしいんですよ。唯一女であるし。いうなれば、神の声をひとりだけ聞いたというか。

成沢:ミカエルにせよウリエルにせよラファエルにせよ、唯一神の手先ではありますよね。

金子:手先ではないですよ。唯一神の教えを間違って進めちゃった者たちですね。ゆえに見捨てられていくし、破滅に進んでいっちゃうんですよ。

岡田:宣教師みたいなものですね。

金子:バイブルに書かれているように実行しようとしたんだけれど、それは冒涜にしかならなかったというところですかね。

伊藤:忠実にやっているから黙認していたんだけれど、だんだん違っていっちゃってるからガブリエルにちょっと違うぞと。ちょっと戻そうかという意味で……。主人公の存在も、もしかしたらその流れの中なのかもしれないですね。

成沢:ミレニアムをどうすべきだったのでしょう?

金子:あれは唯一神の意志ではなくて純粋に4天使の意志なんですよ。ようするにバイブルでの千年王国の完成形なんです。それを目指すためにバイオテクノロジーでメシアを造り出し、エセキリストを作り上げることで形から入ろうとしたんです。だからあれは本来のミレニアムではないんです。

成沢:それがあの「待てなかった」というゲーム中の言葉に凝縮されていると。

金子:本当の千年王国が待てなかったから自分たちで作ってしまった。

伊藤:そうそう。神は待てと言うけれど、我々は待てない。神の意志を早く実現するのに何の異論があろうと、神もそうすればお喜びであろうといって暴走してしまったというところですね。

岡田:待てないというのも意識的なものではなくて、それが正しい道だと勘違いしてしまった。

金子:聖書通りに進めなくてはならない。マスメディアに対しても一種の政治的な部分も含めて。

伊藤:メギドアークについてはちょっと書き方が足りなかったと思います。あれは本当はガブリエルがひとりでせっせと作っているんです。なんでかって言うと、間違った方向にいってしまっているミレニアムをメギドアークで壊してしまおうというわけで、そしてエージェントとしてサタンと結託したというか……。

金子:あれも一種、ザインっていうのはイレギュラーな存在ですね。自分らが造り出した人工生命がああなってしまうという。

伊藤:本来、ザインというのは失敗作なんですよ。能力を強めすぎちゃったという。それでエージェントとして使おうという発想だったんです。ガブリエルがそれを利用して唯一神~ガブリエル~サタンというラインが元老院とは別のラインとして作動してしまっているということですね。

岡田:唯一神は置いておくとしても、ガブリエルにしてもザイン本人にしても、サタンという存在もそうだし、まして自分がなるとは知り得なかったところで成り立っていると言えますね。

成沢:そうなるとサタンってある意味ではニュートラルな部分があるのかなって思いますけどね。

伊藤:そうかもしれませんね。

成沢:最後の方は結局目覚めて最終的にはセトと合体するわけですが、アレが意外というか…、考えてみればセトってアラビアの完全なる悪神ですよね。

金子:あれも、セトの元はサタンの前身だったりするわけです。セト、サト、サトン、サタンって。そういった意味で少し遊べたらなって考えがあったんです。また魔界に封印されている悪魔、どうも魔界を滅ぼすものじゃないかってルシファーも恐れています。

成沢:それは、言ってみればヘブライ神族の企みですよね。そこに国津神と天津神が絡んでくるからまた深いんですが。ひとつ疑問に感じたんですが、あそこでわざわざヘブライ神族と大和神族って地域的な分け方をして良かったのかな、と思います。妙に生臭くなってしまったような気がしますが。

金子:僕の理解だとあの辺はヘブライ神族と地元神っていう表現のしやすさっていう面でやった部分があるんですよ。地元神対侵入者っていう言い方もできるし。

岡田:根本的には、地下世界においてはモンスターとして日本的なものを出したかったっていうのがあるんですけどね。

地下世界とミュータント

成沢:地霊エリア、妖精エリア、ミュータントエリアっていうふうに分かれていますが、その意図するものは何でしょうか?

岡田:実際にはあれを全部ひとくくりで地下世界としたわけなんですが、あそこも前作が伏線ですね。洪水があり、水が引いたあと今度は地盤沈下して、最後にTOKYOミレニアムで蓋をされてしまったと。人間もいたでしょうが、それ以外にもモンスターたちも独自の存在意識っていうのを作ってきたという設定があるんです。地霊の世界では武器を作って、生計を立てるっていうか。

成沢:妖精は薬を売って生計を立てると……。

岡田:前作からの伏線の話ばかりしてもどうかと思いますが、年表にあるミレニアム世界の確立の一方で、別の世界が存在していたんだよってことを表現したかったんです。表の世界ではガイア教が迫害を受けて小さくなっていったけれど、地下世界ではそういった影響は受けていない。

成沢:つまり、完全に制圧したわけではないんですね。上の方ではメシア教がメインになっているけど別にそいつらが東京や日本を制圧したわけではなくて……。

金子:裏の世界も存在すると。

岡田:だからニュートラルエンディングとして、ミュータントの部分というのを表現したんです。

成沢:ミュータントって結局何々でしょう?

伊藤:奇形とか異端とか外見的に違うものは生理的な嫌悪感があるのと、管理社会を作っていくなら、何か安全弁を作らなければならないということ。被差別者という。ナチスドイツで言えばユダヤ人がそのターゲットだったし、江戸幕府で言えば士農工商の下に非人というのを無理矢理作っちゃって、「お前らより下のやつらがいるぞ」と差別の対象としちゃうみたいに。管理社会を維持するための役割があると思うんですよ。で、押さえつけられれば暴動起こすじゃないですか。それが罠なんですよね。こんな暴動を起こすような危ないヤツだから追放してしまえというわけで、最終的には地下世界に追いやられた。そういう人たちじゃないかなと思うんです。

岡田:だからヴァルハラってエリア自体も、あのときすでに不要のエリアだったんですね。もしアバドンに飲まれなければ、近い将来地下世界同様の存在になっていくはずの地域なんです。メシア教のフォーマットにあった人々だけがチョイスされて、整理してちょっと他と違う人は外されると。

成沢:ただ、それをあまりに性急にやりすぎた元老院たちは、ヴァーチャルリアリティで管理しちまおうとかそういうことを考えてたんですね。あれもインパクトがあるところでしたけどね。真のアルカディアですか。

伊藤:心配だったんですけどね。インパクト与えられるかどうか。結構削っちゃったところもあるんで。

岡田:あそこはもうちょっとね、表現したかったっていうのが正直なところなんですがね。ちょっと簡素化しすぎちゃったというのがありますけど(笑)。

金子:やるんなら相当のところまでいかないと。ヘヴィに。

ヒロインとヒーローの親子関係

成沢:同じヘヴィということで、今回みんな一番インパクトを受けたっていうのはヒロコママですよね。

金子:あれは一種のメシア伝説に基づいて、聖母からじゃないとメシアではないというところで擬似的にやったという設定なんです。

成沢:なるほど。自分の母親であるということよりも、処女懐胎の意味合いが強いということですね。

金子:それもあくまで、バイオテクノロジーとかHなことをしたのではなくて、一回胎内に宿して……という結果ですね。

伊藤:手術で胎内に埋め込んでっていうか。

成沢:埋め込んで、出して……。確かにそういうイメージですね。

伊藤:バイブルに書かれてある通りを今のテクノロジーで表現しようとした。

金子:メシア教会のナルシスティックな部分ですよね。形を大事にしている。

成沢:なるほどね。やっぱりくるわけですよ、ハガキで。「このケツで経産婦とは」とか、ワケわかんないやつが(爆笑)。

伊藤:形だけですから。はっきり言って出産もしてないんですよ。ようは受精卵だけ使って、受精しちゃったらそのあと取り出して試験管で育てればいい。

岡田:ま、それが思った以上に、主人公のアレフが純粋な人間の目覚めっていうか、そういう部分でプレイヤーにあなたはどうしますかって問いかけるわけですけれど。逆に言えば他の4人はそういう過程を経てないわけですよ。

成沢:そうですよね。過程を経る必要もないわけですから。

伊藤:そういう意味では女神転生の主人公っていうのはまともな家族を持っていないですね。例えば『ドラクエV』ならば父親がいて、子供というか自分がいて、さらにその子供がいるという、わりとまっとうな、言わば親子関係の理想的なものを求めているっていう部分があるのに対して、うちはそういうことは絶対にやりたくないっていうか、そういうところで話を作っていかなければならないんです。例えば前作で言えば母子家庭じゃないですか。金子説によると父親は大型船の船長だということになりますが(笑)。アッコちゃんだそうで。

金子:船長なんだよ。

伊藤:いや、あれは離婚してるんだよ。まあ、そういう意味で父性を失っているんです、主人公は。だからまともな愛情がないと。やっぱり乾いている世界なんですね、愛情ないし。

金子:悪魔に対する愛着は?

伊藤:まあ、ユーザーは持ってくれるかもしれないけども、やってることは愛着のカケラもないわけじゃないですか。役立たずになったら合体させたり捨てちゃったりとか。

金子:プレイヤーにとってどんな家庭かっていうのは分からないから。

岡田:女神転生は、主人公って部分ではプレイヤーに完全に託している部分があるからね。さっきの母子家庭っていうのも、こちらがどうのこうのっていうより、プレイヤーがどう感じるかってことなんですよ。もちろん『2』に関してもヒロコママとかありますけれど、純粋に主人公アレフだったらどう感じるか、感情を含めてどう行動に移すかってことを求めてますから。

成沢:まあそうですよね。そうでないとアレフの行動が説明つかなくなりますよね。

岡田:そういう意味でアレフの視点で3Dだし、主人公のセリフも一切ないと。すべてプレイヤーがどう感じるかに任せていると。

成沢:ただ、そういうふうにしたことが元老院のひとつの考え方だったのかもしれませんね。

岡田:ヒロコも、隔離された本来の地位にずっといられたかもしれない、しかもセンター内にいた養父母を本当の親としてずっと生活してた方が幸せだったかもしれない。

伊藤:目方博士がメシアプロジェクトに謀反を働いたのは、そういうことなんですよ。キミの優秀な頭脳の遺伝子を持った存在が欲しいから、と言われて自分の娘まで人身御供として差し出したのに、この扱いはなんだみたいな、人の親として俺は黙っていないぞと。そうは思ってなくても、そういう反発からそこまで許されるんだろうかという疑問がわいてきて、ミレニアムの中で爆発事故を起こしてアレフを脱出させるという展開になってるんですよ。

成沢:目方は自分の実験に一番固執してて、主人公に対してもそういう見方が強かったのでは。

伊藤:それもあると思います、当然。それもあるし、自分の実の娘をそんなふうに扱われたことに対する怒りも合わさって……。

成沢:そう考えると、最初に花田と目方としてひとくくりで出てきますが、まったく両方が別々の……。花田は単に狂っていただけ?

金子:魔道な人なんですね。

岡田:博士としての目方も存在していたんですけど、親としての部分はちゃんと別に存在していた。ヒロコの場合はテンプルナイツとして育てるために養父母のもとに預けられている、まあそれは元老院の計画だったわけですけれどね。

伊藤:だから育ての親はいるわけですよね。実の親は知らないにしても。

魔界とカバラ

成沢:じゃあここいらで話の方向を変えましょうか。魔界とか悪魔方面に触れてみたいと思うんですが、まず魔界は今回セフィロートの配置で置かれていましたよね。その意図を読解してみようと攻略編で書いてみたんですけれど、最初からそういったことを強く出すことを考えていらしたんでしょうか。

岡田:ようはさっきTOKYOミレニアムに対して地下世界と言いましたが、今度はそれら全体に対して魔界というのがある。極端に言ってしまえばサタンに対してのルシファーでしょうね。

成沢:そう、そのルシファーがカバラっていうのは人間の秘法ですから、その配置にしたっていうのをどう解釈したらいいのかって。

伊藤:だからそれは逆なわけですよ。人間の方でフィードバックしたっていう解釈も可能だと思うんです。魔界がああいう形だっていうのを臨死体験をして見ちゃったのか、どこからか電波が送られてきて閃いちゃった人がいるのかは分かりませんが、それを表現として今の世の中に伝えられているものがカバラじゃないかっていう、まあ強引と言えば強引な解釈なんですが。

成沢:裏返しにしたわけですね。

金子:魔界って言い方が正しいのかっていうのも悩みますよね。一種の直接的な表現の場でもあるから、その意味では魔界であるかなって思うけれど、難しいですよね。

伊藤:正直なところ言って、まだ結論が出てないんですよ。

金子:出しようがないかなって気もしますね。

伊藤:ええ、だから一体どういう表現をしたら、ユーザー側に納得してもらえる形になるかってことですね。

成沢:でもむしろユーザー側より、どうやったら自分たちが納得できるかって部分もありますよね。

伊藤:ありますね。まあ、納得できないものは作れないですから、無理矢理でも納得できるように作るしかないと思うんです。納得しないままに作ってたんじゃどうしても出来上がりがスッキリしないものになりますから。どんな強引な解釈でも、その閉じたひとつの世界の中で結論づけていくというか、先が見えるようにしていかないと。すごい一般論に走ってますけど(笑)。

成沢:でも、魔界のおかげで苦労しました。あれ大変でした。カバラの文献ってメチャクチャ難しいでしょ。最後はわけ分かんなくって。ニュアンスっていうのは伝わるんだけど、概念を分かりやすい言葉にするのってすごく大変な作業で。

伊藤:だから攻略編見たときに、ああ頑張って書いてくれてるなって思いましたよ。

成沢:ありがとうございます。異常に時間かかりましたからね。あの1ページを書くだけで。

伊藤:でもそういうのって伝わってきますよ。頑張ってくれてるなって。

成沢:でも考えてなおかつゲームを進めていくと、よく考えて作られているなっていうのがあると思うんですよ。その辺はさすがだなって思いますね。

伊藤:でも現場の下っ端はそんな余裕ないですよ。本当に。どうしようかなあの連続なんですよ。ココこうするとこうなっちゃう、でもココをこうするとこうなっちゃう。どうしようって。その意味ではスケジュール的なもの、作業的なものを別としてもっと余裕を持って作れたら理想なんでしょうけど。そういう意味では自分自身がもっとレベルアップして余裕を持って作っていかなきゃいけないかな。

金子:まあ、欲を言えばね、もっと時間があればね。あの辺はいっぱい仕掛けがあったんですよね。表現も色々カバラであればあるわけじゃないですか。ここは何を表現するとか。それにあったヤツを全部考えてあったんですけどね。そこは悲しいところで。

成沢:イェツラーでしたっけ、ヘカーテがなんたらっていうところ。

金子:あれは三面神だからね。

成沢:そういうふうに象徴的な解釈をちゃんとやっているんだなって、感心してたんですけどね。

伊藤:でもそこまで分かって理解してくれてる人って少数派ですからね。

成沢:いや、私らが気が付いたらそれを教えてあげればいいわけですから。

金子:でも魔界っていうのは色々な表現があるから、今後も色々考えていかないと。例えばあれはすごくユニバーサルな表現だし。もっと単一的な意味で言えば二面性って部分があるし、ひとりの個人に対しても存在するわけだし。人ひとりの世界にもあるわけでしょ。

成沢:もちろんそうですよね。

スティーブンの正体は……

成沢:さて、核心の方の話にいきます。質問くるんですよ、いっぱい。スティーブンの正体に関する推測が。うちにハガキ出してくる連中なんてヘヴィユーザーばっかりですから、自分なりの意見がしっかりあるみたいなんですけどね。

伊藤:どんなのが多いんですか?

成沢:神様とも思えるし、悪魔とも思えるというどちらかの両極端が多いですね。

伊藤:それって答えなきゃまずいのかな?

成沢:いえいえ、それは今答えない方がいいでしょう。お楽しみは取っとくことにしましょう。

岡田:でも、あくまで今回での存在に限定すれば、LAWをテーマにしたと言いましたが、サタンとルシファーがいるのに対して、純粋にニュートラルの立場の人物であるとは言えますね。

成沢:だから前作の“吉祥寺の老人”、あれに近づいたのかなって感じましたね。

岡田:読んでるねー(笑)。

伊藤:前作やったあとでスティーブンの存在と、老人たちの存在がちょっと分散しちゃったかなっていう反省が個人的にはあったんですけどね。

成沢:あの老人っていうのはタオの導師なんですよね。タオ自体がもとよりバランスを表しますから。

伊藤:だから、ニュートラルの象徴になるわけですよ、スティーブンも。理論物理学者で有名なホーキング博士は、神を真っ向から科学的に否定している。その点から彼の学説が始まっていますよね。何であの人が欧米でセンセーショナルな話題になったかっていうと、宇宙っていうのは神が作ったんじゃないよ、コレコレこういう物理的な原理からできているよ、っていうことを系統立てて学説として打ち出したからなんです。自分の著書の中でも宇宙は神に作られたものじゃないってことを主張したんで話題になったんだけれど、それを和訳されたものを僕ら日本人が読んでも、そんなの当たり前じゃんって思うわけです。一神教徒でない日本人ですから、その辺を面白いなと思ったんですよ。その思想を『真・女神転生』内で視覚的に表現するためにスティーブンを登場させたわけです。

成沢:なるほどね。

伊藤:で、一応、『真・女神転生』のストーリーの流れとしては、神や悪魔一方だけのストーリーではなく、そのどちらでもないところに行かなきゃいけないんだよ、っていうのが基本コンセプトとしてあるわけで、その導師になってくれるのがスティーブンにほかならないわけです。

成沢:いやあ、いい答えだなあ。すごくよく分かるし、読者はますます混乱して面白い(爆笑)。

LAWとCHAOS

成沢:こうして考えてみるとゲームそのものの流れがLAWとかCHAOSで進むのは別にして、『真・女神転生』自体が抱えているテーマ性は、明らかにCHAOSではありますよね。CHAOS的要素の集積というか……。

伊藤:まあ、それはこのゲームの宿命じゃないかなと思いますけどね。そのCHAOS的なものをどういう方向で拡散していくのかっていうのは、作っている立場ではありますけど、気になるところですね。

岡田:『2』を作るときでもLAWをテーマにしたと言いましたけど、CHAOSをテーマにするという話もあったんですよ。CHAOSを中心に話を進める方が楽と言っちゃ変だけど、表現しやすいかなっていうのはあったんです。でもあえてLAWでいこうということにしたんですが、ユーザーからの反応を見ると、元老院たちの企みが分かったときに、元老院のメンバーがCHAOSではないかっていう意見も多いですね。

成沢:それは分かります。やっている行動を、ユーザーから見た善悪で分ければCHAOSということになるんですが、そうではないですよね。

岡田:そうですね。あそこは言葉では表現しませんでしたけど、ようはDARK-LAWとして元老院たちがいて、ガブリエルとサタンはLIGHT-LAWとして存在していると表現したんです。

伊藤:LAWでもDARKだから、LAW的な目的のためにはどんな手段を使っても、それが神の御心を実現するためには正しいという発想ですね。

成沢:キリスト教異端で悪魔崇拝にいっちゃうようなものですね。

伊藤:そんな世界ですね。神の理想のためなら魔女狩りでも異教徒虐殺でもすべて正当化されるんだという。中世の魔女狩りに近いものがありますし、現在でもそういう宗教や信仰はあるんじゃないでしょうか。

成沢:そこにLIGHTとDARKという概念が挟まってくるわけですね。そう考えると善悪二元論というのは分かりやすいですよね。

伊藤:悪っていう概念そのものが、西洋的な悪と日本の伝統的な悪のイメージでは、似ているけれども全然違うんですよね。例えば南北朝時代で言えば楠木正成とかは悪党って言われるでしょ。なぜかっていうと幕府の言うことを聞かないっていうことですよね。自分たちの権利や自分たちの治める領土に住む領民の権利を認めさせるために戦っているわけで、いわゆる悪いことをしているわけじゃない。

金子:見方変わればってやつだよね。

伊藤:当時の朝廷からすれば忠臣であるにも関わらず、幕府からすれば悪党になってしまう。

岡田:もっと根本的なとこにいっちゃうと、善を存在させるために悪を作ったっていうのが根底にあるわけでしょ。まあ、あんまりいっちゃうとフロイトとかそっちにいって難しくなっちゃうけど(笑)。

成沢:いや、分かります。

岡田:こっちを存在させるために、否定するものを作り上げちゃった。

成沢:まあ、いわゆる象徴的な光と闇ですよね、それは。だからLAWとCHAOSっていうのは、秩序か秩序立ってないか、そのどちらかというようにとらえなきゃいけないわけですよね。そして、その基準にあるのは人間ではなく、神であるということも。まあ、昨今のゲームに慣れているユーザーにとっては掴みにくいかもしれないですよね。

岡田:だから単純な善悪っていうと簡単に理解できるんだけれど、『真・女神転生』に関してはそうじゃない。言わば同一線上に、上下じゃなくて横の線で並んでいるんです。

成沢:それはどっちが良い悪いよりも、単に対立の図式ではありますよね……ってことをずーっと言い続けてきた気がするんだけどなあ。

金子:そこを面白くするために色々やってるんだけど。

岡田:でも難しいですよ、やっぱり。

成沢:簡単ではないですね。

岡田:人間の理解としては白黒ハッキリしている方がね、どんなことでも。

伊藤:複雑なのは分かろうとしない面もありますし。

岡田:うちらもそれを模索している部分がありますから。今ここで急に答えを出そう、じゃなくてね。

成沢:永遠に答えは出ないですかね、その辺はね。

金子:個人のアイデンティティになってくるしね。こっちも否定できないし、それは。ただ、答えが一通りではない面白味は他に負けないと思いますよ。


出典/『真・女神転生2  悪魔大辞典』、宝島社、1994年。


最終更新:2019年02月16日 14:32