アポルオンにより、
八紘市の闘争に潜む
何者かの意図に勘付いた(近づき過ぎた)イヴァンの末路が決定されるシーン。
であると同時に、表面的には動じぬ歯車として振舞うアレクサンドルの
過去に対する葛藤を(十中八九
機械神は全て見通した上で)突こうとしている場面。
(なお最終ルートでも彼の行く末を見届けた上で、機械神は「歯車として灰色の生を過ごすままでは、真理に生涯至れはしまい」と評している事からも、
アレクサンドルという男の過去と現在を見抜き、どのような人間か判りながらもあえてこのような言葉選びをしていると考えられるだから友達いないんだよ)
以上の事実を述べた上で、
「あの鉄屑は気に入らない」とあえて
私見を付け加えるイヴァン。
それに対し、アレクサンドルは淡々と情報をまとめ、現状損害の程度から見て、反抗勢力は現状の戦力でも
殲滅可能と判断を下す。
そんな変わらない上官に対しイヴァンは妙だと、無名体の不可解な行動には
何らかの秩序が背後にある事は間違いなく……これは
貧乏クジなのではないかと告げる。
彼の言葉は続く――自分達は
獲物を狩る存在としてこの戦場に投入されたというのが建前だが、
実際は、
自分達もまた狩られる側だったのではないか。この国でいう蠱毒のような選別の闘争に放りこまれたのではないか、と。
それは、帰還しろという意見具申か?……そう問いかける指揮官に、それこそあり得ないと。
如何なる命令にも従うのが軍人だと、十分に理解しているイヴァンは返し、
その掟を認識した上で、自分達はほんの少しだけ賢く動いてもいいだろう、と言う。……この先の見えない危険を減ずべきとの意図を込めて。
『ああ、なかなか悪くない推論だ』
そんな彼の発言に、それまで鋼鉄の柩の中で沈黙していた機構権力の代弁者が反応する。
未だ腹の底の見えない
上官の上官の言葉に、意識を僅かに張りつめさせてイヴァンは問う。
「お褒めにあずかって光栄だけどよ、あんたは知ってるのかい?……この戦場について、何か」
『いや、皆目だ。ご期待に沿えず申し訳ない。ただ、ネイムレスに特殊な命令が仕込まれていることは間違いないだろう。
あれは今や不条理の塊だ、そしてこちら側もこれ以上貴重な戦力の喪失は避けたい……』
『よって──次は当躯体、アポルオンを投入することをここに誓おう。可及的速やかに、事態を解決するために』
仮面に取り付けられた義眼を煌かせ、告げられた言葉に虚偽の色は伺えず。
また、機構の意思が、代行者を使用すると約した以上、一組織人としては異を唱える訳にもいかず。
「あんまり出資者の絡む戦場ってのはなァ、泥沼化する気がしないでもないが……今回はしゃあないかね――」
話に一応の着地点をつけて、イヴァンはそのまま退室する。
その後ろ姿から、生粋の戦士である彼は、今も油断なくあらゆる訪れうる事態の可能性を想定し
この先の戦場でも生き残り続けるべく、幾重も思考を重ねているだろうことを見て取って……
『彼は優秀だな』
仮面の代行者は心の底からの賛辞の念と、惜しむような響きとを込めて、その上官に告げる。
『先程出てきた蠱毒だが、意外と的を得ているよ。
一つの真理を生み出すために、幾人もの未到達者を捧げる行い……まさしくそれだ。
君にもそう先日説明したように。さて、私を止めはしないのかな?』
返ってくる返答が判っていながら、どこか満足気に続ける声。
そこにアレクサンドルは決まりきった言葉を返す。
「それが機構の意思ならば」
己も彼も、歯車の一つでいいと。一字一句、予想を外れない返答。
まるで薄笑いを浮かべているかのような口調で、アポルオンは指揮官に言葉を贈る
『さて、それでは次の指令へ移ろうか』
『喜ぶがいい、アレクサンドル・ラスコーリニコフ。我々が死後行き着く果ては、紛れもなく地獄の底だよ。
部下も自分も切る者が、天の国には行けなどしまい。私は、宗教など欠片も信じていないがね』
その歪な『諧謔』に、アレクサンドルは鉄面皮のまま瞑目した。
揶揄は不吉を孕んで、そして当人には届かない。
だが確実にこの瞬間、一人の男の命運が決定したのだ。
最終更新:2025年09月25日 15:14