『ゆっくりに花を咲かせましょう』








鉄筋二階建ての新築アパート。
その一階一番奥の扉の前には鮮やかな花々が咲き乱れている。
僕の趣味で育てている可愛らしい花だ。
仕事の都合で引っ越すことになったが迷わず一緒に連れてきた。
何代にも渡って育ててきたこいつらはもはや家族さ。

今日もお水を上げてたっぷり愛でるとしよう。
僕は水の入ったジョウロを片手に外へ出る。
だがそこで見たものは衝撃的で凄惨な光景だった。


「ゆゆ~、ゆっくりしてる~、ゆんゆん♪」

ゆっくりれいむがいた。
大きめの植木鉢の上で上機嫌に歌っている。
その周りには散らばった土。
踏みにじられるはゴールデンマリーのサリー(僕の付けた名前)
今まさに喰われているのは同じくゴールデンマリーのエリー。
他の皆の姿は見えない。
メアリーもリリーもミリーもムリーも皆。

他の植木鉢もほぼ全滅だった。
僕の大事な子達は引越し翌日に食い尽くされた。

「オオオオオォォォッ!!!
 サリー! エリー! メアリー!! カレン!! エイドリアン!!!
 く、くく、くうぅぅぅぅ……!!」

こんなにも悔しくて惨めで悲しい気持ちになったのは初めてだった。
一輪ごとに名前を付けてまで愛した僕の花が!
こんな不思議生物に殺されるなんて!!

「ゆゆっ!?
 ゆっくりしていってね!! なかないでね!! ゆっくりしようね!!!」

僕に気が付いたれいむは足元まで飛び跳ねると、僕を見上げて声をかけてきた。
何がゆっくりしていってね、だ。
ゆっくりして欲しいなら何故殺した。
どうして。どうして。

「どうじでぞんなごとじだのぉぉぉぉ!!!」
「ゆゆっ!?」

僕の怒りは有頂天。
涙を流しながら怒るなんてのも初めてだった。
この鬼畜れいむめ。
いったいどうしてやろうか。
捕まえてゆっくり保健所に突き出すか?

いや駄目だ。
僕が直々に制裁を加えなければ意味が無い。
そうでなければ死んだ花も報われない。
復讐だ。復讐してやる。

「ゆっくりしようよー。
 ゆゆ、これ!! いっしょにたべてゆっくりしようね!!」

この鬼畜れいむはあろうことか僕のエリーを、食べかけのエリーを差し出してきた。
体のあちこちを食い千切られた可憐な娘を嬉々として親である僕に見せつけたのだ。
信じられないゲスだ。
噂に聞いていただけだったが、ゆっくりがここまでゲスいとは。

全身をわなわなと震わせて怒りのボルテージを溜める僕にれいむは更なる追い討ちをかける。

「とってもおいしかったよ!!
 だからにんげんさんもたべようね!!」

「…それは僕の花だ。
 僕が大事に育てた花だ。それをお前は…「ゆゆ! そうだったの!!」

「ゆっくりごめんね!!
 でもがんばってまたそだててね!!」

僕絶句。
こいつは花は全て一緒だと思ってるのだろう。
だがな。違うんだ。違うんだよ。
花弁の微妙な形や茎の傾き具合まで全部違う。
お前に食われた愛らしい花達は二度と帰ってこない。

「つぎはかってにたべないよ!!
 でもちょっとゆっくりわけてね!!」

れいむは楽しそうに僕の足元を跳ね回った。
きっと頭の中では花畑が咲いているのだろう。色んな意味で。

「フ、フフフ」
「おはなさんたべるのたのしみ!!」
「フォォォォォォッ!!!」

僕、いや俺の怒りは限界突破。
もう謙虚な僕ではいられない。
俺はれいむの頭をわしっと握り締めて持ち上げる。

「ゆ!? なにするの?
 こわいよ! ゆっくりしようよー!」

この場で制裁しては近所の目が怖い。
まだ理性が片隅に残ってたことに自分で驚きながられいむを部屋へと運ぶ。
どうしてくれよう。
潰すだけじゃ物足りない。苦しめてやる。

「わぁい! おそらをとんでるみたい!!」

俺が怒り猛るその一方でれいむは暢気に歓喜の声を上げていた。



俺の部屋。
昨日引っ越してきたばかりなのでダンボールが多く、空きスペースも広い。
れいむを部屋に投げ捨てて玄関の扉に鍵をかける。
これで誰にも邪魔されない。
思わず笑みが漏れる。

これから憎きれいむを制裁してやれるのかと思うとニヤけが止まらなかった。
が、それも一瞬だった。
リビングから楽しげな声が聞こえてきたからだ。

「ゆわーい!」


リビングに戻るとれいむはダンボールの山をアスレチックにして楽しんでいた。
ダンボールから他のダンボールに飛び乗り、また別のダンボールへと飛び乗っていく。
幸いこいつにダンボールの山を崩すほどの重量や力は無く、部屋は荒れずに済んでいた。
だが仇であるれいむが楽しそうに遊んでいる様子を見るだけでも不快だった。

「ゆ! おにーさん!!
 いっしょにゆっくりあそぼうよ!! たのしーよ!!」

今度は枕の上に飛び乗ってそこに収まると俺を遊びに誘ってきやがった。
ああ、いいともれいむ。
存分に遊ぼうじゃないか。

俺は早歩きでれいむに近寄ると両手で持ち上げた。

「ゆ! おそらをとんでるみたい!!
 もっととばしてね!!」
「ああ! そのつもりだ!!
 まずは…サリーの分!!」

れいむの望み通り飛ばしてやる。
ただし床に向かって一直線にな!

「ゆびぃっ!?」

平たく硬いフローリングの床に顔面から叩きつける。
れいむはプルプル震えていた。

「ゆひ、ゆぅぅぅっ!!
 いたいよぉぉ!! ゆっくりできないぃぃ!!」

一瞬の静寂の後れいむは泣き喚いた。
面を上げたれいむは粒の涙をボロボロ流している。

「おい。
 泣くにはまだ早いぞ。
 俺の大事な花を食い殺した罪。
 まだ一割も、いや一分も、いいや違う!
 一厘も償えて無いんだよ!!」
「ゆぎっ!? ゆぶ、ぶ…!」

今度は蹴り飛ばす。
軽いトスで浮かせた程度の蹴りだ。
だが飛んだ先がダンボールの角だったせいで痛そうだ。

「ゆっ! ゆぐっ!!
 ひどいよぉ! どうしていたいことするの!!
 ゆっくりしていってよー!!」
「どうしてだと?
 何度も言ってるだろう?
 俺の可愛い花を食ったからだよ。
 お前にとってはただの花かも知れないが、俺にとっては大事な娘だ」
「ゆぎゅ!!」

さらに蹴飛ばす。
おっと、これはエリーの分だ。

蹴飛ばされたれいむは白い壁にぶつかった。
床に落ちると体をじたばたさせて痛がりだす。
流石は弱小不思議生物として定評のあるゆっくりだ。
二度の軽い蹴りでもかなりへばっている様子だった。
だが容赦はしない。
この鬼畜なれいむは無抵抗の娘を食い殺したのだ。

「おら、起きろよ」
「もうやだぁぁ!!
 ゆっくりできないよぉぉ!!
 もう おうち かえるぅぅぅぅ!!!」
「帰らせるかよ! お前が帰ってもあいつらは帰ってこないんだよ!!」
「ゆぶ」

完全に潰さない程度に踏み潰す。
これはメアリーの分だ。
ぐっぐっぐとリズムに乗せて踏みにじる。
圧力をかける毎にれいむは「ゆ"っ、ゆ"っ」と声を漏らした。

「花の怒りを! そして俺の怒りを思い知れ!!」
「ゆひ!?」

れいむの揉み上げを握ってぶら下げる。
恐怖を浮かべた間抜け面。
今になって自分が宙に浮くことの恐怖を覚えたらしい。

が、ゆっくりは物忘れのひどい生物だと聞く。
だったら高所恐怖症にさせてやろう。

「おらぁ! リリーの分だ!!」
「おぞらをどんでるみだい"っ!!」

俺はれいむに高い高いをしてあげた。
ただし天井に一直線コースのハードモードだ。
天井に鈍い音が響き、れいむが天井に叩きつけられた。

「ゆ"、いだ…い"」

重力に引っ張られて落ちてくる。
床へは落とさせない。華麗にれいむをキャッチする。
そして再び垂直にぶん投げて天井にキスさせた。

「ぐゅ!!」

再びれいむは天井にぶつかり、それから落ちてくる。
それを再度キャッチしてまた投げる。
俺は天井を使った一人キャッチれいむでしばらく遊んだ。
二階の住人さんに大迷惑な技だが、俺はこのコンボを途切れさせる気は無かった。



俺は満足するまでれいむでキャッチボールを楽しんだ後、
天井から落ちてくるれいむをスルーして床にぶつけさせた。
床に落ちたれいむは体を僅かに捩じらせて泣いていた。
じだばたしない辺り動く気力も尽きたのだろう。

「ひっぐ、ゆっぐ…いだい。
 ゆっ、ゆっ…ゆっぐりじだいのに"」

ズリズリと体を床に這わせて俺から逃げようとするれいむ。

次はどうしてやろうか。
また殴るか?
いや、でも…

俺はもう暴力を振るうことに飽きていた。
俺が求めているのはあくまで花達の復讐をすること。
だが実際にやったことと言えば「花の分だ」と称して暴力を振るっていただけ。
怒りの熱が冷めつつある俺は空しさを感じ始めていたのだ。

しかしだからと言って許しはしない。
愛する花を殺された恨みは山より高く海より深い。
出来るなら花に復讐させたい。

でもどうやって?
花は喋らないし動かない。
イバラで巻きつける? 花を突き刺す?

待てよ。そう言えば良い手があるじゃないか。
ここで俺は思い出した。
ゆっくりを使って試したいことがあったのだ。
ただ今まではちっぽけな良心がそれをさせなかった。

だがこいつならいいだろう。良心が痛むことは無い。
俺はれいむに背を向け、その道具の入ったダンボールを探り始めた。

「もうやだよ。ゆっぐり、じようよ」

背中越しにそんな声が聞こえた。




俺の求めた道具は植木鉢(透明)に剣山、そして花の種だ。すぐに見つかった。
この種はゆっくりの餡子で育つ「ゆっくりの花」の種だ。

ゆっくりは交尾すると茎を生やして子を実らせる。
そしてまた、寿命で死んだときに茎を生やして花を咲かせるケースがある。
理由は不明だ。研究者がその辺は研究中らしい。
何はともあれこの花は同種のゆっくりの中身を養分として育つ。
ゆっくり毎に違った色の綺麗な花で、ゆっくりが元なだけに甘いのでお菓子か何かの原料として一部の農園では栽培されていたりもする。

死んだゆっくりに咲く花の種だが、生きているゆっくりに植えても栄養を食らって発芽する。
それは植えられたゆっくりに喪失感を与え、根が体内を荒らすことで多大な痛みを与えるのだ。
寄生に近いため宿主を殺すことはない。
だが間違いなく植えられたゆっくりはゆっくり出来なくなる。

というわけで俺はれいむに花を咲かせることにした。
さっきの場所から数cmも動いていない床の上でれいむはへばっていた。
もちろん死んでいない。
不思議生物のこいつらは栄養の残った中身さえあれば死なないと言っても過言じゃない。

俺が近付くとれいむはビクッと体を跳ねさせて振り返った。
涙で揺れる瞳で俺を見上げ、振るえる唇を何とか動かして喋る。

「も、もう、おはなさんだべないよ。
 だからやめでね。これいじょうひどいことやめてね」

必死な懇願。
助かりたい、ゆっくりしたいという意思が伝わってくる。
でも全てはお前が俺の花を食った時点で終わってるんだよ。

「なあ、れいむ」

俺はれいむの前にそっと座る。

「ゆ…?」
「お花、咲かせようか?」
「ゆっぐり、ゆっぐりじでいってね…!!」

れいむは滝のような涙を流して何度も頷いた。
心なしか喜んでいるように見える。
ん? 何だその反応は。

「おはなさん、そだてようね。
 れいむがんばってそだてるよ! おにーさんにおはなさんをかえすよ!!」

あー、そう受け取ったか。
どうも俺の言葉を「許してあげるからお詫びとしてお花を咲かせてね」と曲解したらしい。
ふざけやがって。何がお花さんを返すだ。もう同じあいつらは帰ってこないのに。

「おいお前。何を勘違いしてやがるんだ」
「ゆぅ?」
「お前が花を咲かすんじゃなくてだな。
 お前に花を咲かせるんだよ。
 あ、ちなみに俺はお前を許しません」
「ゆゆゆゆ??」

れいむはポカーンとした顔でフリーズした。
訳が分かりませんといった様子だ。
だがそれも仕方ない。俺だって突然「お前に花を咲かせる」と言われても「ハァ?」である。

「いいからこっち来い」
「ゆ"! はなしてね!! こわいよ! ゆっくりできない!!」

さっきまでの暴力への恐怖が染み付いているのだろう。
れいむは俺の腕の中で暴れた。残念ながら無力無意味だ。
逃げようともがくれいむを部屋の隅に用意してあった立方体の植木鉢の中に収める。

うむ、ぴったしだ。
引越しの際に捨てようと思っていたが持ってきて良かった。

「ゆぎゅぅぅえ!! いだい!! いだいよぉぉぉ!!!」

れいむが突然大声で泣き始めた。
ああ、痛いだろうね。
何せ植木鉢の底には針の長い剣山が置いてあるのだから。
それが深々とれいむの底部に突き刺さっていた。
用途は言うまでも無くれいむが暴れないための固定用。
跳ねるしか能の無いゆっくりは底部さえどうにかすれば動けなくなる。

「ゆあ"っ!! ここやだ!! ゆっくりできないよ!! いぎゅぅぅ!!」
「五月蝿い」

無駄だと思うが一応注意しておいて種の準備を行う。
とりあえず種の入った袋の裏にある説明文を読む。

えーと、袋から種を取り出して…
ゆっくりの餡子を植木鉢に詰めてそこに植える、と。
ってこれは通常のやり方だ。
俺がやりたいのは今生きているゆっくりに花を咲かせることだ。
いつかインターネットで見たあの花は綺麗だった。
アップ主によるとこの花は生きているゆっくりに咲かせるのが一番美しいとのことだ。
だから俺もいつかは育てようとこの種を今まで大事に持っていた。

生きてるゆっくりにはどう植えればいいのかな。
ネットで調べてもいいが…まあいいか。
適当に頭に穴を開けて埋めよう。

俺はちょうど床に転がっていたドライバーを手に取って逆手に構える。
それから植木鉢から少しはみ出るれいむの頭にドライバーを突き立てた。

「ゆひゅぅ、ゆひぅ…」

目を見開いて微かにブルブル震えるれいむ。
きっとこれから何をされるのか分かっていない。
痛みでそんな余裕もないのだろう。
ま、更なる痛みで教えてあげるとしよう。
俺はゆっくりとドライバーを持つ手を降ろしていく。
ずぶりと不快な感触と共に+ドライバーの先がずぶずぶと沈んでいく。
力を入れ過ぎると根元まで突き入れてしまいそうなので加減しながらゆっくりと突き進める。

「ゆぎ!! んぶぶ…ん"ーっ!!!」」

れいむはあらん限りの力を使って体を揺らす。
だがそれも微々たるもので気にもならない程度の抵抗だった。
俺は数cm刺し込んだ所でグリグリとドライバーを動かして傷口を広げる。
これで種を入れる穴が1つ出来た。
でも種はたくさんある。
流石にこれを全部植えようとするとれいむが穴だらけになってしまう。
とりあえず5つにしよう。
だから穴を2,3,4,5っと。
ゆっくりの柔らかさを覚えたので残りの穴は手早く開けられた。
れいむはドライバーを刺し、傷口を広げる作業の間ずっと悲鳴を上げ続けた。

さて、れいむの頭上に五つの空洞が出来た。
後は種を植えるだけだ。

「…!! ……!!!」

言葉も出ないほど痛いらしい。
ま、当たり前か。
さっさと作業を終わらせよう。

人差し指の先に種を付け、ずぶずぶと頭上の穴へ指を侵入させる。

「ゆ"んっ!!?」

異物が侵入した痛みと不快感に襲われているのだろう。
人差し指にれいむの震えを直に感じられる。
ぐにゅぐにゅと気持ち悪い感触だったので種を奥に埋め込むとさっさと指を抜いた。

残りの4つも同じ要領で種を植え付けていく。
最後に傷口をぎゅっと摘んで閉じた。
すると周りの餡子が空洞に雪崩れ込んで種を埋めさせた。
これで種植え完了だ。

後は花が咲くのを待つだけ。
暴力を散々振るっても大してすっきり出来なかった。
だが種を植えてみると俺の心は非常に晴れ晴れしい気分に包まれた。

そうさ。俺が俺の手で恨みを晴らしても駄目だったんだ。
花の恨みは花に返させないと。
本当はこのれいむが喰ったのと同じ花を植えてやりたいが、餡子で育たないからそこは仕方あるまい。

「それじゃあれいむ。ゆっくりお花を咲かせてね!」
「ゆ"ぃ"…ゆっぐ、り…ゆっくりざせで……」
「もう一生無理だよ」

俺、いや怒りの収まってきた僕は満面の笑顔をれいむに向けた。
対してれいむは痛みに顔を歪めつつ縋るような表情で僕を見つめていた。





いたいよ。
痛くないところがないよ。
ゆっくりできないよ。
なんでゆっくりできないの?
れいむが人間さんの育てたお花さんを食べたから?
でも、れいむちゃんとあやまったよ。

どうして? どうして?

いたいよ。
足と頭がゆっくりできないよ。

痛くって 熱くって 苦しくて 気持ちが悪い。

ゆっくりしたい。ゆっくりさせてよ。
おねがい。



いたいよ。
頭が痛いよ。頭だけが痛いよ。
変なのがれいむに入ってくるよ。
怖いよ。
どんどん入ってくるよ。
たすけて。





さて、二時間が経過した。
荷物の片付けを中断してれいむの様子を見てみると頭に芽が見えていた。
流石に早いな。交尾→出産に比べれば遅いが。
れいむの様子を見ると数秒ごとに苦しそうな呻き声をあげていた。

「はいって、ごないでぇ!
 いだいよぉ! ぎもぢわるい"!! にんげんさんだずけでえぇ!!」

伸びるのは芽だけでは無い。
根が徐々に伸びてれいむの体内を掘り進んでいるようだった。
その異物感と体内を突き進まれる痛みは想像を絶する痛みのはずだ。
あれだけ酷いことをした僕に助けを求めるとは余程辛いのだろう。

「ゆ"ぅあ"あ"あ"あ"っ!!
 だずげで!! いだい! いだい!! いだぁぁいいいぃぃ!!!
 ごめんなざい! ゆぎっ! だずげで! ごめんなざぁぁいい!!!」

それもいつまで続くかな。
インターネットで見た花を咲かされたゆっくりは生気を完全に失っていた。
こいつもいずれそうなるのだろう。楽しみだ。





いたくないよ。
へんなのがもうはいってこないよ。
だからもういたくないの。

それになんだかゆっくりできるよ。
ここはゆっくりできるね。
あれ? どうしてれいむはここにいるんだっけ。

ゆ? ゆゆ??

なにも おもいだせないよ。





さらに二時間経過。
れいむの頭には5本の茎が伸び始め、それぞれ葉っぱも数枚付いていた。

「ゆ"っ……ゆ"………」

喋る言葉はすでに「いたい」「たすけて」「ゆっくりしたい」から「ゆ"」と呻くだけになっていた。
それにれいむは痩せてきていた。
下膨れの顔が徐々にすっきりし始めて絶賛ダイエット中だ。
しかし酷い表情だ。
いわゆるアヘ顔とでもいうのだろうか。
白目を半剥きにし、顔をやや紅潮させて口は開きっ放しで涎も止まらない。

見るに耐えない顔だ。
数時間前まで元気にダンボールの上を飛び跳ねてた奴と一緒とは思えないぐらい。
…もう精神が壊れたのかな?
それは苦痛が限度を超えたせいかな。
それとも養分を奪われたせい?

「ゆ"…ゆ"、ゆ"」
ビクンビクン

ま、順調だな。






……ゅ
…ゆっくり…ってね!
ゆっくりしていってね!!!





さらに3時間経過すると状況は変わっていた。
れいむが元気になっていた。
何もゆっくりの花が枯れたとかそういう訳ではない。
しっかり蕾が出来ていた。そう遠くないうちに咲くだろう。

が、問題はれいむだ。

「ゆっくりしていってね!!!」

さっきからこれしか言わなくなった。
僕と目が合うと眉毛をシャキーンと吊り上げて鳴く。
物音を立てるとまた鳴く。
何もしなくたって定期的に鳴く。

全ての苦痛を超えた先にあるものでも見たのだろうか。
完全に原初のゆっくり、いやそれよりも退化している。
外部刺激に対して「ゆっくりしていってね!!」と返すだけの機械になってしまった。

試しに透明の植木鉢を軽くデコピンしてみる。
れいむは目の前でコツっと音がするとすぐに反応した。

「ゆっくりしていってね!!」

連続で叩いてみる。

「ゆっくりしていってゆっくりしゆっくりしていってゆっくゆっくりしていってね!!!」

カオスなことになった。
「ゆっくりしていってね」を言い終わる前に次の「ゆっくりしていってね」を言い始める。

予想外の狂い具合だ。
このゆっくりの花はどれだけ深くまで根を張ったのだろう。
ゆっくりの体の中央には中枢餡という人間で言えば脳のような餡子があると聞く。
根はそこを目指して伸びていたのかも知れない。
もしそうなら、れいむの記憶や知能は全て栄養として溶けて花の養分にされたという事か。

ざまぁみろだ。
食べ物にしていた花にお前自身が食われてしまった訳だ。
それも死なない限りずっと吸われ続けるんだ。

もうじき花が咲く。
そうなったられいむはどうなってしまうのか楽しみだ。





それから一時間もしないうちに花は咲いた。
れいむに咲いたその花はマーガレットにもよく似た白い花弁の綺麗な花だった。
その白は新雪の如く透き通るような純白。
中央の黄色い部分は見る者引き付ける鮮やかな真っ黄色。

本当に美しい花だった。
種の入っていた袋の写真よりもHPで見た画像よりもずっと。

あぁ、殺された皆の分も大事に育てよう。
名前もちゃんと付けてあげないとね。

僕とゆっくりの花と、そしてれいむとの生活はこれから始まるのだ。。
ただしれいむに関しては二度とゆっくり出来ない。
もっとも「ゆっくりしていってね」と鳴くだけの機械と化したあの状態ではそれを感じることすら無いだろう。















半年後

時の流れとは早いものだ。
何代目かのゆっくりの花は今もあのれいむを苗床に咲き続けていた。
れいむも生き続けている。
元気とは言えないがそれでもちゃんと生きていた。

「さあれいむ。餌の時間だよ」

憎いはずのれいむだったが、今の僕はれいむを大事にしていた。
可愛い花たちの栄養源なのだから当然だ。
餌さえ与えれば半永久的な肥料になってくれる。

なので餌を与え、時には体を拭いてやったりと死なぬようにケアしていた。
形式は異なれどれいむは僕のペットと言えた。
ある種の愛着すら持っている。

植木鉢も改造し、れいむの面前の壁は取り払っている。
そこから栄養不足で死なないように餌を与える。
れいむは動けないので与えるのはスティック状のゆっくり用お菓子だ。
閉じた唇に押し付けるとれいむは口を開いてぱくっと咥える。
あとはモグモグとゆっくり食べていく。

これはあの後知った事だが花は宿主を殺さぬように最低限の機能は残す。
それは「食べる」「食べ物を探して動く」の2つ。
僕のれいむに関して言えば磔にしているので前者しか出来ない。
それは一年前から変わらない。
ただ一年前と違うのは10輪もの花を咲かせていること。
そのせいで「ゆっくりしていってね」と鳴くことすら出来なくなったこと。
瞳から光が消えうせてからも久しく、口に入った異物を食べて消化する以外は何もしない。

うん、可愛い奴だ。
喧しくしないし物を荒らすこともしない。
花と同じだ。
僕にとっての理想的な存在。

だからこれからも末永くよろしくな、れいむ。
僕の可愛い花のために生き続けてね。











by 赤福

6/20は私が初SSを書いてからちょうど一周年です。わーわー
という訳で記念SSでした。

本当はれいまりペアを出して片方だけ咲かせて狂わせようかと思っていたけどモチベ的に無理でしたとさ。



一周年記念なので以下に今まで書いた作品を羅列
個人的に黒歴史も多かったりしますorz

ゆっくりいじめ系43 ゆっくり家族の引っ越し
ゆっくりいじめ系49 ゆっくりとのワンダフルライフ
ゆっくりいじめ系105 加工所職員のストレス解消法
ゆっくりいじめ系116 懐かし玩具とゆっくり
ゆっくりいじめ系119 ギロチンとゆっくり
ゆっくりいじめ系120 マッサージチェアとゆっくり
ゆっくりいじめ系169 Ten little Yukkuri
ゆっくりいじめ系173 Ten little Yukkuri後日談
ゆっくりいじめ系186 犯人は子れいむ
萃香×ゆっくり系1 子鬼とゆっくり
衣玖×ゆっくり系1 衣玖さんとゆっくり
その他 ゆっくり草原観察
その他 ごみ箱ゆっくり
ゆっくりいじめ系217 整地ゆっくり
ゆっくりれみりゃ系いじめ19 れみりゃと亀さん
ゆっくりいじめ系267 愛の劇場 -背徳の饅頭-
ゆっくりいじめ系275 妖怪とゆっくり
ゆっくりいじめ系313 ゆっくり家族とエターナルフォースブリザード
ゆっくりいじめ系329 都会派と甘い罠
衣玖×ゆっくり系2 ゆっくりてんこ大虐殺
ゆっくりいじめ系374 親の心子知らず、子の心親知らず
ゆっくりいじめ系380 公衆便所ゆっくり
ゆっくりいじめ系418 大乱交!ゆっくりファミリー
ゆっくりいじめ系424 ゆっくりの歌
ゆっくりいじめ系459 色つきゆっくりの結末
ゆっくりいじめ系493 ゆっくりペットショップ
ゆっくりいじめ系515 強姦まりさの敗北
ゆっくりいじめ系542 赤ちゃんゆっくりの冒険-前-
ゆっくりいじめ系543 赤ちゃんゆっくりの冒険-後-
ゆっくりいじめ系618 ゆっくり家族のある夏の日
ゆっくりいじめ系729 灰色の檻の中で
ゆっくりいじめ系794 野生のれみりゃ家族
ゆっくりいじめ系929 甘やかした結果
ゆっくりいじめ系974 0歳の母
ゆっくりいじめ系975 0歳の母2
ゆっくりいじめ系1030 ドキッ☆ゆっくりだらけの運動会
ゆっくりいじめ系1031 ドキッ☆ゆっくりだらけの運動会2
ゆっくりいじめ系1072 ドキッ☆ゆっくりだらけの運動会3
ゆっくりいじめ系1126 れいむの転落人生
ゆっくりいじめ系1195 ゆっくり釣っていってね!!!
ゆっくりいじめ系1196 ゆっくり釣らないでね!!!
ゆっくりいじめ系1277 生き別れのれいむ姉妹
ゆっくりいじめ系1299 幻想と現実の境界
ゆっくりいじめ系1361 駅前ベンチ上のれいむ
ゆっくりいじめ系1440 伝わらない声
ゆっくりいじめ系1792 子育て物語 前編
ゆっくりいじめ系1793 子育て物語 後編
ゆっくりいじめ系1936 敏感まりさの失敗 -やめて赤ちゃんすっきりだけは-
ゆっくりいじめ系1945 元気な家畜
ゆっくりいじめ系1955 鉄の檻
ゆっくりいじめ系2020 一緒にゆっくり遊ぼうね
ゆっくりいじめ系2203 れいむだって生きてるんだよ。
ゆっくりいじめ系2356 偽りの愛情
ゆっくりいじめ系2449 ゆっくりお花見しようよ
ゆっくりいじめ系2648 運が悪かったんだよ

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最終更新:2022年05月21日 21:53