概要

エィディスの戦いとは、アルファ692年、シャリアル国、バルド国連合軍とベルザフィリス国軍の間に起きた戦いである。
これより、長きに渡りベルザフィリス国は、ルーディア包囲網に悩まされることとなる。


戦闘に至るまでの背景


▲692年11月における勢力図

アル国を継いだザグルスの暴政は、日増しに増加していった。
この時アル国は新造艦隊「ルッダリザ艦隊」を建造中であったにも関わらず、首都の城を改築する為に膨大な金を消費し、国庫が底をつくと民衆に更なる重税をかけ、歴代国主の陵墓を荒らしてその財宝にすら手を出した。
これに忠臣エリィンが真正面から諫言するが、その場でザグルスに殺害された。

レディナスフェザリアードフィッツといった名将たちはザグルスから離れて地方へ赴き、首都に残るのは彼の顔色を伺う佞臣だけになり、アル国は急速に内部から腐敗していった。

それとは対照的に、アル国と正面から戦い続けたベルザフィリス国は、まさに日の出の勢いがあった。
国境を接したアル国の城や街は、戦わずしてベルザフィリス国に投降するものも多く、また人材においても、先王ディアル独眼竜ルーディア旧知の者であるシーザルス国の猛将ヴィルガスが、単身シーザルス国からベルザフィリス国に渡り、その旗下に馳せ参じるなど、更に陣営は強化されていた。

しかし、そんなベルザフィリス国にも悩みの種はあった。
急速に力をつけたこの国に警戒を持ったシャリアル国のメスローが、ルーディア包囲網を完成させ、アル国、バルド国と連合軍を組み、ベルザフィリス国への侵攻を開始したのである。

なお、この時合流地点に向かって行軍を進めるシャリアル国軍は、エクレナ山地に差し掛かったが、濃霧によって足止めを受けてしまう。
このままではバルド国軍との合流予定日に遅れると考えたメスローは、麓の村に火をつけて見通しをよくさせた。
国主として、というより人としてもはや常軌を逸した行動ではあるが、生まれた時から権力者であったメスローには、自らの領土の民の苦しみなど目に留まらなかった。


両軍の戦力

攻撃側 守備側

シャリアルバルド連合軍
軍勢
ベルザフィリス国軍
総兵力152100 兵力 総兵力60600
メスローボルゾック 総指揮 ルーディア
ケリスデスレーダ 軍師 レニィラ
主要参戦者

シャリアル

メスロー

ケリス

フォール


ルーディア

レニィラ

ベヌロゥズ

ガイヴェルド

ザガ

バルド

ボルゾック

デスレーダ

ケーズ

デイル

ヴィルガス

ヒサヴェヌア

ガズド


戦闘経緯


全軍はエィディス平原付近に布陣した。
ベルザフィリス国は、山賊上がりで山岳戦のプロであるベヌロゥズを密かにボルス山地へと向かわせて、奇襲を仕掛けるべくその気配を消した。
この時、ルーディアは、腹心であったレニィラが普段と違う進言をすることに微妙な違和感を感じ、レニィラエィディス平原への偵察を命じる。

11月24日、ボルス山地に到着したベヌロゥズ部隊は、そこに待ち構えていたシャリアル国軍のフォール部隊に包囲される。
ベヌロゥズは奮戦するものの、元々少数部隊だったこともあり、武運尽きて戦死を遂げ、シャリアルバルド連合軍はボルス山地、ニィロゥ山に軍勢を進めて布陣し、メスローボルゾックも合流、ベルザフィリス国軍を威圧する。


これに対してルーディアは、本陣をエィディス平原に進めると宣言。
ベヌロゥズの件もあった為、慎重な行動をとるべきだとヴィルガスガイヴェルドは進言するが、これをレニィラが制し、エィディス平原は偵察の結果敵の気配はなく、全軍を進めるべきだと発言。
この一言が決定打となり、ルーディアレニィラの反乱を看破する。
そこに、密かに偵察を命じていた別の将から、「エィディス平原に既に敵が布陣している」という報告が届く。

かつてレイディックの才能をいち早く察知していたデスレーダは、ルーディアにも警戒心を持ち、まだ脅威になる前のベルザフィリス国にレニィラを潜り込ませていた。
そして、数年の間ベルザフィリス国の将として何食わぬ顔でここまで仕えながら、内情をバルド国に漏らし続け、更に戦場でルーディアを直接倒せる最高の機会を待ち続け、この戦いこそがその時だとデスレーダと連絡を取り合う。
ベヌロゥズの動きが筒抜けだったことも、レニィラの密告があった為であった。
策を見抜かれたレニィラは、自ら剣を抜きルーディアに斬りかかるが間一髪のところで弾かれると、そのまま闇夜に乗じて姿をくらまし、バルド国軍の陣へと向かった。

レニィラの策を見破ったとはいえ、状況が不利なことは何も変わっていなかった。
連合軍は二倍以上の兵力をもって高地を奪っていた為、ベルザフィリス国軍は、ルーディアの指揮の元、一か八かの勝負に出た。
誰もがベルザフィリス国軍は慎重になり、守りを固めると思ったこの状況下において、ベルザフィリス国軍が連合軍に対して夜襲を仕掛けたのである。


まずはヴィルガス部隊が一直線にニィロゥ山のボルゾック本陣に突撃。
これをデイル部隊が妨害するが、ヴィルガスの突撃によって崩壊、さすがのヴィルガスも、短時間で敵陣を突破することは難しかったが、デイルを挑発して自分に挑ませると一太刀で討ち取り、敵軍を一時的に混乱させる。

しかし、所詮は一部隊の特攻、冷静になった連合軍が三方からヴィルガスを包囲しようとするが、そこまで計算の上で突撃したヴィルガスは、ボルゾック本陣に目もくれずそのまま北東方向へと駆け抜けていく。
ヴィルガスを包囲するため、一瞬とはいえボルス山地に隙を見せた連合軍、そこに間髪をいれずザガ部隊が現れ、ボルス山の陣地を奪う。


陣を奪われたことで焦ったシャリアル国の部隊が、山岳の陣を奪い返そうと攻めあがるが、二重に伏せていたガイヴェルド部隊によって挟撃されてケーズ部隊が壊滅する。
しかも、全軍の目がボルス山に向かった隙に、ニィロゥ山では、駆け抜けたと思っていたヴィルガス部隊がそのまま反転、再突撃を仕掛けてくる。
この突撃を食い止めるべく、ガズドが勝負を挑むが、ヴィルガスはこれを難なく討ち取り、かつてゼノスとも互角に渡り合ったその武勇がまったく衰えていない事を証明させた。

続いてヴィルガスの前に立ちはだかるのは、バルド国本陣への撤退に成功したレニィラであった。
ルーディアを策にかけることには失敗したものの、レニィラルーディアの軍師を務めた程の器であり、一軍の将としても有能であった。
さすがにガズドデイルとは違い、猛将ヴィルガスとも互角に渡り合うものの、ヴィルガスレニィラとの勝負を避けて、今度は西方向へ部隊を移動させる。


ベルザフィリス国軍の、緻密に計算され連動した動きに完全に浮き足立った連合軍本陣は、部隊を集結させるべく一旦後退する。
その瞬間、再び伏兵となっていたザガ部隊が姿を現し、今度はニィロゥ山を占拠する。
実際は少数の部隊であり、攻撃されればひとたまりもないが、山頂の旗を塗り替えた事実は連合軍の将兵に心理的衝撃を与えた。
なお、後にザガは「まるで空き巣泥棒だった」とこの戦いを振り返ったという。

更にルーディア自らも本陣をエィディス平原へ移動させ、僅か一夜にしてボルス山地、ニィロゥ山、エィディス平原は連合軍のものからベルザフィリス国軍の旗に切り替わってしまう。


ところが11月26日、ベルザフィリス国軍は、せっかく奪ったニィロゥ山、ボルス山地の軍勢を全て退かせて、エィディス平原に全軍を集結させる。
苦労して奪った敵陣を簡単に放棄した事に、連合軍はベルザフィリス国軍の罠を警戒して、陣の奪還は行わなかった。

更に翌日の27日、ベルザフィリス国は、利害で手を結んだバルド国、シャリアル国の間に信頼関係など存在しないことから、両国の離間にとりかかった。
既に山地を巡っての戦いに敗れた事から、メスローボルゾックは互いに責任を擦り付け合い、本陣をそれぞれ別々の場所に配備した。
そんな情勢で、ルーディアからボルゾックへの書状を携えた密偵が送られるが、これがシャリアル国軍の網にかかって囚われる。
発見された書状は、特別かわったことのない季節の挨拶文であったが、わざわざ交戦相手にこの様な書状を送る不自然さから、何らかの合図ではないかとメスローは勘ぐり始める。

同時刻、バルド国軍にもルーディアからメスロー宛の書状が発見されていた。
バルド国軍師デスレーダは、これをルーディアの離間の策と看破するものの、メスローを信じきれない部分もあり、シャリアル国が突如裏切っても対処できる様に軍勢の布陣を移動させた。
この移動が逆にメスローに不信感を抱かせ、結局二国は疑心暗鬼の渦に飲み込まれていった。
もはや互いに連携をとれず、それどころかいつ相手が背後を襲ってくるか不安になった二国に、ベルザフィリス国軍は真正面から突撃を仕掛ける。


数では未だ連合軍が倍の兵力を誇っていたが、だからこそこの無謀ともとれる正面からの突撃に、バルド国もシャリアル国も、「相手国がこのタイミングで裏切るのでは?そうなればベルザフィリス国と挟撃される」という疑問も生じ、いつお互いが後背を襲ってくるのかと警戒する。

デスレーダケリスの様な冷静な軍師もいたが、もともと優柔不断で用心深いボルゾックと、人を裏切ることに躊躇がないからこそ、自身も裏切られるのではと疑心暗鬼に陥ったメスローを説得するには至らなかった。
その結果、兵力の差を生かすことができずにベルザフィリス国の猛攻撃を受け、連合軍は撤退していく。

ルーディアは、この戦いでは完全勝利をおさめたものの、元来の兵力差は覆せるものでもなく、撤退する両国の軍勢を追撃するほどの余力はなかった。


戦いの結末

この戦いは防衛戦だったこともあり、追撃のできないベルザフィリス国軍が得るものは少なかった。
だが、倍以上の連合軍を完膚なきまでに叩いたルーディアの勇名は、独眼竜という異名と共に大陸中に鳴り響き、これ以後の対外関係に大きな影響を与えることとなる。

なお、エィディスの戦いを終えて帰還する最中、盗賊団がメード村を襲っているという報告を受けたルーディアは、ヴィルガスを派遣して盗賊団の撃退を命じる。
しかし、彼が目にしたのはメード村の農民ラゴベザスデイロードの二人が、鬼神の如き戦いを見せて盗賊団を撃退している姿であった。
二人はルーディアの説得により、そのままベルザフィリス国の将軍として仕える事となり、やがて五舞将としてベルザフィリス国の中心を担う将へと育っていく。


最終更新:2024年07月21日 19:31