&font(#6495ED){登録日}:2019/03/31 (日曜日) 22:49:03 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約5分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- &bold(){&italic(){『よく来てくれた』}} #right(){&bold(){&italic(){『迷える子羊よ』}}} #center(){&bold(){&italic(){『衝動のあるところに、自我をあらしめよ』}}} 本項目における&bold(){ALTER EGO}とは、カラメルカラムより配信されたスマートフォン用無料アプリゲームである。 Android版は2018年12月28日に、iOS版は翌年1月3日にそれぞれ配信が開始した。 キャラクターデザインはいとう階氏が、ピアノを中心とした音楽はamiko氏がそれぞれ手がけた。 ***【1 概要 自分探しの幕開け】 [[心理学を題材とした>心的構造]]ゲームそのものの内容はごく単純で、モノクロの画面に次々と表示される吹き出し上のパネルをクリックして「EGO」と呼ばれるポイントを集めてストーリーを進めていく。 ストーリーではエスという少女との会話を通してプレイヤー自身の性格診断を行う。 この[[心理テスト]]を作成した大野真樹氏は大学で心理学を専攻していた上6つの角度からプレイヤーの内面を描く何十もの質問により、かなり本格的な診断結果を聞くことができる。 課金制度自体は存在するものの2019年3月時点ではアイテムが3種類しか存在せず、そもそもアイテムを購入せずともクリアは難しくないため実質無料で遊ぶことが可能である。 なお本作に先駆けてゲームブックがネット上に公開されており、ゲームをダウンロードする前でも作品の雰囲気を味わうことができる。こちらでしか語られていない設定も存在するため、ゲームをクリアしてから読むのも趣がある。 ***【2 存在 衝女と壁王】 このゲームには登場人物は三人しか存在しない。 しかしながら物語の結末を決めるのは他ならぬプレイヤー自身である。 &bold(){●プレイヤー} この物語の主人公である&bold(){”旅人”}。 先の見えない暗い通路の中で自問自答を繰り返し、エスやエゴ王と会話していく。 &bold(){●[[エス>エス(ALTER EGO)]]} #center(){&bold(){&italic(){「あなたの解釈が、あなたの物語になるの」}}} 軍服を思わせるワンピースに身を包んだ、怜悧な少女。 壁一面が本棚になった名もなき空間で、数えきれないほどの本を読みながら一人で過ごしている。 プレイヤーの答えをもとに的確な診断をしてくれる反面[[普段の態度はやや辛辣>ツンデレ]]。 &bold(){&italic(){「自分にしか興味がない」}}と語る彼女は抑え難い衝動を秘めているようだが……。 &bold(){●エゴ王} &bold(){&italic(){『私とはなにか』}} #right(){&bold(){&italic(){『見つけるのは』}}} &bold(){&italic(){『お前自身だ』}} #right(){&bold(){&italic(){『あなた自身』}}} 物語の節目でプレイヤーの前に現れる奇怪な“壁”で、自らを&bold(){“規範を司る者”}と称する。 [[厳めしい老人の顔をした右半分のプレートと、慈悲溢れる女性の顔をした左半分のプレートの二枚からなる存在>あしゅら男爵]]で、その目的こそ二枚とも一致しているが口調が異なる。 エスからは自由を奪う存在として&bold(){&italic(){「クソ壁野郎」}}と敵視されているが、エゴ王もエスを危険な存在とみなしておりプレイヤーにエスに靡かないよう忠告している。 ***【3 探求 物語るということ】 このゲームで行う行動は主に4つ。以下に各モードの特徴を記す。 &bold(){●探求} #center(){&bold(){&italic(){「私ってなに?」}}} 暗闇から次々と現れる台詞入りの吹き出しをタップしてEGOポイントを入手するモード。 吹き出しにはゲームの進行に合わせて性格診断の内容や実在の文学作品 (詳細は後述) の文章が反映され、プレイしながらあたかも本当に自己の探求をしているような印象をもたらす。 また吹き出しのタップとは別に毎秒加算されるEGOポイントがあり、タップによって加算されるポイントともどもゲームを進めるうちにその加算される数値が増加していく。 一定時間ごとに現れる青い蝶をタップすると数十秒間の動画広告が表示され、これを見終わるたびに十分間上記の行動によって加算されるポイントが3倍になる。 &bold(){●エス} #center(){&bold(){&italic(){「はあ……ようやく来たのね、待ちくたびれたわ」}}} エスの部屋で彼女と話をするモード。 所定のEGOポイントを集めることでストーリーが進んでいく。 画面上のエスをタップすると台詞で反応を示してくれるが、調子に乗って一度に十回前後タップすると罵倒を繰り返すようになる。&bold(){&italic(){盛りのついた猿かよ……。}} こちらのモードにも青い蝶が現れる場合があり、タップ後に表示される動画広告を見終わると莫大なEGOポイントを入手できる。 &bold(){●目標達成} 6項目があり、いずれも満たすごとに報酬としてEGOポイントが入手できる。 目標を達成するたびに次なる目標数が更新されるため定期的に確認することが求められる。 &bold(){●記録室} “読書の記録”と“診断の記録”の二項目に細分化される。 &bold(){▶読書の記録} 作中で入手できる本のあらすじが見られる。以下は2019年3月時点でのもの。 |[[太宰治]][[『人間失格』>人間失格]]|2006年、新潮社| |[[ヘルマン・ヘッセ>少年の日の思い出]]『デミアン』|1951年、高橋健二訳、新潮社| |[[中島敦]]『山月記』|2003年、『李陵・山月記』新潮社| |フランツ・カフカ[[『変身』>変身(フランツ・カフカの小説)]]|1952年、高橋義孝訳、新潮社| |アンドレ・ジッド『狭き門』|1954年、山内義雄訳、新潮社| |イワン・ツルゲーネフ『はつ恋』|1952年、神西清訳、新潮社| |種田山頭火『草木塔』|2000年、日本図書センター| |[[夏目漱石>こころ(小説)]]『坑夫』|2004年、新潮社| |フォードル・ドストエフスキー『地下室の手記』|1970年、江川卓訳、新潮社| |アルベール・カミュ『シーシュポスの神話』|1969年、清水徹訳、新潮社| |メアリー・シェリー[[『フランケンシュタイン』>フランケンシュタイン(1931年の映画)]]|1984年、森下弓子訳、東京創元社| |[[ルイス・キャロル]]『不思議の国のアリス』|1994年、矢川澄子訳、新潮社| |サン=テグジュペリ『星の王子さま』|2006年、河野万里子訳、新潮社| |[[エドガー・>黒猫(小説)]][[アラン・>早すぎた埋葬(小説)]][[ポー>黄金虫(小説)]]『ポー詩集』|1956年、阿部保訳、新潮社| |夢野久作[[『ドグラ・マグラ』>ドグラ・マグラ]]|1976年、角川書店| &bold(){▶診断の記録} 以下の7種類に大別されるが、具体的な内容は各プレイヤーに委ねられている。 #center(){ 防衛機制の傾向 秘められし反抗 顕在的な葛藤 潜在的な葛藤 自我理想の傾向 秘められし主題 あなた (プレイヤー) が選んだ道のり } 一人の時間は追記・修正をして過ごす。 ---- &link_up(△)メニュー &link_edit(text=項目変更)&link_copy(text=項目コピー) &link_diff(text=項目変更点)&link_backup()&link_upload(text=アップロードページ) ---- #include(テンプレ3) #center(){&color(red){&bold(){この先ネタバレ注意!!}}} このゲームはプレイヤーの選択によってエンディングが複数種類に分岐する。 #region(1.end of ID) #center(){&color(red,black){&bold(){&italic(){「選択は衝動に捧げよ」}}}} &bold(){“ID” (独我)} とはフロイトが提唱した&bold(){[[本能的な衝動>欲動理論]]}のことで、またの名を&bold(){エス}という。 イドは快感原則に従って快を求め不快を避ける機能を有するとされている。 そのルート名からも察することができる通り、エスの欲求を肯定する選択を続けるとこのエンディングに辿り着く。 &bold(){だが、このルートは[[バッドエンド]]である。} このルートに入ると、それまで自己の不確かさに悩んでいたエスが&bold(){この世界には私一人しかいないと語るようになる}。彼女は壁男エゴ王のことはおろかプレイヤーさえも自身の妄想だと認識するようになってしまったのだ。大好きだった本をまったく読めなくなるほどに壊れたエスはやがて自分を抑圧する壁を破壊し、己の衝動を解き放とうとする。エスは正気を失い、最終的には&bold(){&italic(){「私はこの世界のすべてだからなにをやってもいい」}}と断言したところでこのルートは終わる。 IDルート中は“探求”モードに現れる吹き出しに壊れたエスの悲痛な心境が綴られた吹き出しが出現するようになる。この吹き出しは&bold(){背景が黒い他に縁が醜く歪んでいる}ものの、通常の吹き出しに比べてタップすることで得られるEGOポイントが高い。またエンディングを迎えるとすべての吹き出しがこの黒い吹き出しに変化するが、リセットを行うとIDルート以前の状態に戻る。 なお、一周目でこのエンディングを迎えた場合のみ、&bold(){“解放者”}の称号が得られる。 #endregion #region(2.end of Super ego) #center(){&bold(){&italic(){『選択は規範に捧げよ』}}} &bold(){“Super ego” (超我)} は両親をはじめとした社会との関わりの中で形成されるとされ、&bold(){規範のもとに自らの行動を律する精神機能}のことである。 このルートはエゴ王の忠告に従ってエスの欲求を戒める選択を続けることで辿り着く。 &bold(){だが、このルートはバッドエンドである。} このルートに入ると、エスは白い壁に向かってひたすら謝り続ける夢を見るようになる。彼女は自責の念に押しつぶされて&bold(){とめどない罪悪感に苛まれるようになってしまった}のだ。頭の中が混乱して本を読むのもおぼつかなくなったエスは自己否定の言葉を繰り返すようになり、心を擦り減らした末に&bold(){プレイヤーとエゴ王の“正しさ”を称えて自身は忽然と姿を消してしまう}。 この時エスは自身を&bold(){“道化”}と嘲っており、その言動が彼女の愛読書の一つである『人間失格』の内容を彷彿とさせることがまた痛ましい。 Super egoルート中は“探求”モードに現れる吹き出しに&bold(){エゴ王の発言と思われる雲背景の吹き出し}が出現するようになる。この吹き出しは通常の吹き出しよりもタップすることで得られるEGOポイントが高く、エンディング後には&bold(){“探求”モードの背景にエゴ王の顔がペイントされた状態になる}。しかし、リセットを行うとSuper egoルート以前の状態に戻る。 なお、一周目でこのエンディングを迎えた場合のみ、&bold(){“管理者”}の称号が得られる。 #endregion #region(迷える者は、狂える者は、求める者は……) &bold(){3.end of Alter ego} #center(){&bold(){&italic(){「少女は旅人と自分探しを続ける」}}} 本作のタイトルでもある&bold(){“Alter ego” (他我)} とはその名が示すように他者の持つ我のことなのだが、その存在を証明するのはデカルトを筆頭に&bold(){数々の哲学者を悩ませてきた終わりの見えない問いの一つ}である。 このルートは先の2つのエンディングを両方見ることで解放される、&bold(){[[トゥルーエンド]]}である。 Alter Egoルートにおいてプレイヤーがエスにかけるべき言葉は、&bold(){彼女を肯定も否定もしない曖昧な答え}だった。自身の存在意義について二度の破滅の夢を経て悩み苦しむエスだが、彼女にとって本当に必要なのは&bold(){"自分のことは自分で決める"}ことだったのだ。 エスは否定することをやめて自分も世界も受け入れることを成し遂げると、プレイヤーへの素直な思いを打ち明けた。このエンディングを迎えた後も“探求”モードに変化はないが、“エス”モードでエスと雑談をしたり、過去の会話を回想して振り返ったりすることができる。 #endregion エスはこれからも悩み続けるだろう。 けれどもそれは、自己も他者も大切にしたとても幸せなことではないだろうか。 ――この追記・修正を、エスに捧ぐ―― #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\私ってなに?/ #vote3(time=600,2) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() #comment #areaedit(end) }