半分の月がのぼる空

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半分の月がのぼる空 - (2014/05/30 (金) 11:40:10) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2010/02/27 (土) 01:11:33
更新日:2024/01/10 Wed 00:39:19
所要時間:約 6 分で読めます




僕たちの両手は何かをつかむために存在するんだ――


電撃文庫から発売されているライトノベル。

著 橋本紡
イラスト 山本ケイジ


全8巻完結だが、メインストーリーは6巻までで7、8巻は1~6巻に記されなかった余談話。


作者の生まれ故郷である三重県伊勢を中心に繰り広げられていくハートフルストーリー。
ライトノベルと言えば、ファンタジーやSFといった空想性の強いジャンルが定番だが、
本作は現代日本における少年少女たちのヒューマンドラマであり、刊行当初は異彩を放っていた。

完結した今でも高い人気を誇り、様々な場所で評価されている。

その人気から、ハードカバーで上下二冊にまとめられた完全版も発売された。
完全版では登場人物の台詞が伊勢の方言になるなど、いくつかの加筆修正が行われている。
なお、完全版は原作五巻までの内容となっている。
完全版ベースの文庫版が文藝春秋から刊行される予定。
え?何故電撃からじゃないだって?
お察しください。

その一方で、メディアミックスにとことん恵まれないことでも有名。
コミック化、アニメ化、実写ドラマ化、映画化されているが、そのほとんどが黒歴史として認定されている。
(余談だがアニメOP、特にEDは非常に良い出来)
ただし、ラジオドラマ・CDドラマは良作。

アニメ版も全6話と短い話数ながらも巧くまとめられている。
しかし原作を先に読んでしまっていると、やはり不完全燃焼が否めないので、アニメを観るのであればアニメを観てから原作を読むことを推奨する。


■あらすじ

いきなり入院した。僕にとってはちょっと早い冬休みみたいなもんだ。
病院には同い年の里香って子がいた。
彼女はわがままだった。まるで王女さまのようだった。でも、そんな里香のわがままは必然だったんだ……
里香は時々黙り込む。
砲台山ををじっと見つめていたりする。
僕がそばにいても完全無視だ。
いつの日か僕の手は彼女に届くんだろうか? 彼女を望む場所につれていってあげられるんだろうか――?

(1巻より)


■登場人物

  • 戎崎(えざき)裕一
CV:鈴村健一
主人公。高校二年生。
軽い肝炎で近所の若葉病院に入院することになり、里香と出会う。
彼女に振り回される生活を送るうち、徐々に惹かれていく。
しょっちゅう病院を抜け出しては友人である司のところへ遊びに行っている。
隠れプロレスマニア。

  • 秋庭里香
CV:高橋美佳子
重い心臓病をわずらい、各地の病院を転々としている少女。
静養のため、裕一の病院の重篤病棟(東病棟)に入院していた。
超のつくツンデレにしてわがまま娘であり、裕一をパシリとしてこき使う。
長い入院生活で病院から出られないせいか、髪をまったく切っておらず化粧もしていない。

  • 谷崎亜希子
CV:小平有希
若葉病院の看護師。
美人ではあるが元不良で、怒ると非常に恐ろしく、ときおり病院を抜け出す裕一を叩きのめしたりしている。

  • 夏目吾郎
CV:平田広明
里香が別の病院にいた頃の主治医で、彼女を追うように転院してきた。
腕は確かだが性格が悪く、裕一に挑発的な態度で接する。
4巻では彼の過去の話がメインとなる。

  • 世古口司
CV:小伏伸之
裕一の友人の一人で、温厚な少年。
体は大きいが料理が上手。
病院を抜け出してきた裕一を家に迎えてはゲームに興じている。
隠れプロレスマニア。

  • 水谷みゆき
CV:松岡由貴
裕一の幼なじみで同級生。
快活な性格で世話を焼いたり見舞いに来たりしていたが、
別に好きとかそういうわけではなかったぜ!

  • 多田吉蔵
CV:矢田耕司
80歳の入院患者。
はげ上がった頭と白い髭が特徴の老人。
亜希子を始めとする看護士たちにしょっちゅうセクハラを仕掛けるスケベジジイ。
「多田コレクション」と呼ばれる数千冊のエロ本を所持していたが……。


  • 夏目小夜子
CV:松来未祐
旧姓は樋口。名字から分かる通り夏目吾郎の嫁。
吾郎とは高校生時代に付き合い始め、大学卒業と同時に結婚。
普段はぽわぽわしている「猫力」の持ち主。
里香とは違う心臓病を患っている。いや、患っていた。
彼女と夏目先生の話は作中屈指の涙腺崩壊エピソードになっている。


■以下後半の話の流れ(ネタバレ注意)
















急変した里香の手術が終わり無事結果は成功するが後日、里香に二度と会うなという通告が出される。
それは医師としての判断でなく里香の母親が決定したため覆すことは出来なかった。

やるせない思いは高くなる一方で何も出来ず裕一は諦めようとする。
しかし裕一は夏目からもらった意味深なアドバイス、
そして夢で里香が死んだ先のifの世界を見てまだ生きている今この瞬間に出来ることはあると覚悟を決める。

同時進行で夏目は谷崎に昔の話をする。それは今は亡き妻との出会いと別れの話で、愛する者が亡くなるという現実の重さを伝えるもの。
しかし谷崎に、女性は最期の瞬間に笑っていればその人生は幸せだ、と諭される。

場所は戻り無事仲間の力を借りて屋上から別の棟にある里香の病室にたどり着き、そこで二人は互いの感情を再確認する。

また後日、夏目から急に呼び出され夏目が昔住んでいた町へ遠出する。
そこで、重病患者と共に過ごす為の覚悟の重さを以前夏目が治療した患者を見させ伝える。

そして少しずつ、裕一はこれらの経験をして大人になっていく。
経験を胸に裕一は里香の母親へ説得を行う、そこで母親も昔裕一と同じ状況だったと話を聞き、
そして手術前に里香に渡された本に書き換えてあった本の中で恋人同士の名前のイニシャルが誰なのかを知る。

時は経ち、裕一達はこの先のことを考える。皆それぞれの理由で将来を選びだした。子供も大人も新たに。
裕一は里香がいるためにこの町からは出れない、それは都会へ出たいと考えてた裕一には感慨深かった。
が、里香がいるこの町、この町が世界で一番だと確信する。

それが子供だけど、子供なりの決めた覚悟だった。










この話は少女の闘病物語ではなく、少年の闘病を通じて命の重さを感じ、成長していく物語だと思う。
事実、多くは主人公と病院の大人から視点描かれており、少女の視点はほとんど無い。

後日談「花冠」では、裕一と里香が、彼らの子供と共に居る様子が描かれている。そうした生活が何時まで続けられるのか、想像の余地があるところだろう。

この作品は個人的には感動や考えさせられるといったジャンルではラノベトップクラスだと思われる作品で、是非読んでほしい。
彼らの生き様を是非心の糧にしてほしい。

余談だが、作者はもうライトノベルのジャンルは書かないらしい。
というか、杉井光や桜庭一樹などのラノベ関係者に盛大に喧嘩を売っており、「作品だけはいいのに……」と嘆かれている。


追記修正お願いします。

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