バケルくん

登録日:2024/04/25 Thu 10:58:12
更新日:2025/03/10 Mon 17:12:37
所要時間:約 7 分で読めます






不思議な人形で思いのままに

変身、変身、また変身!!




【概要】

バケルくん』は藤子・F・不二雄が小学館の学年誌で連載したSF(すこし・ふしぎ)日常ギャグ漫画。

ある日、宇宙人から鼻のスイッチを押すとその姿に変身できる不思議な人形を貰った少年の日常を描く。
連載は「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」の二誌同時連載*1で、さらに『ドラえもん』と並行連載していた。
1974年〜1976年まで連載され、「小学三年生」と「小学四年生」の1976年3月号をもって連載終了したが、特に最終回らしい話は描かれなかった*2

その後、1984年に突如「別冊コロコロコミック」で短期間連載され、これの「二人が同時に生きられたら」をもって正式に完結した*3
このコロコロ版はタイトルロゴが変更されていることから大全集では『(新)バケルくん』と区別されている。

コミックスはてんとう虫コミックスで全2巻、藤子不二雄ランドで全3巻、ぴっかぴかコミックスで全5巻、藤子・F・不二雄大全集で全1巻が発売されている。
大全集以外は掲載順とバラバラに収録されており、未収録回も多い。大全集はもちろん全話収録である。
てんこみ版の2巻は後半に『ジャングル黒べえ』が収録されていたが、別冊コロコロでの連載終了後にコロコロ版4話のうち3話に差し替えられた。


1987年にはフジテレビ系列の『月曜ドラマランド』で放送された「藤子不二雄名作シリーズ」の第4弾『藤子不二雄のバケルくん』のタイトルでSPドラマ化されている。
ただし、カワルの性別と年齢変更(女子高生になっている)やバケルが超能力を使えるようになっているなど、改変要素も多い。
冒頭やサブタイトル表示時にオリジナルのアニメーションが用意されていた。本作はアニメ版が制作されてないのでアニメ映像はここでしか見られない*4
このアニメを制作したのはスタジオぎゃろっぷ在籍時の渡部高志監督(代表作『スレイヤーズ』『灼眼のシャナ』他)とのこと。自身のX(旧Twitter)にて言及している。



【ドラとバケルともうひとつ】

前述の通り、ドラえもんと並行連載されていたため、セルフコラボとして「小学四年生」で掲載されていた企画ページ。
パズルや間違い探しといったゲームや『世界名作童話』と言ったオリジナル漫画など毎号異なる内容が収録されたお楽しみ企画となっていた。

あの「ドラえもん大辞典」やドラえもん側で映画にもなった「ぼく、桃太郎のなんなのさ」はここから生まれたものである。

雑誌企画なので大部分はコミック化されておらず、『ドラえもん』のコミックスなどに一部収録されている状態だったが、現在は大全集で読むことが可能。
扱い上は『ドラえもん』側の作品になっているらしく、大全集版『バケルくん』では紹介のみだが、大全集版『ドラえもん』の20巻(「ぼく、桃太郎のなんなのさ」は5巻、一部は少年SF短編の3巻)に全て収録されている。


【登場人物】

  • 須方(すがた)カワル
演:畠田理恵
本作の主人公。藤子作品ではよくある凡庸な少年。
野球が好きで、よく試合に出たがるが下手っぴなため大事な試合の時などは仲間外れにされることが多い。
ある日、お化け屋敷と噂されていたバケ田家に飛び込んだラジコンを拾いに行った際に宇宙人と出会い、鼻を押すと変身できる不思議な人形とバケ田家を譲り受ける。
それ以来、バケル達に変身しながらの二重生活を送るようになる。なお、藤子Fの連載作品には珍しく「すこしふしぎ」的な要素を自分だけ知っている主人公*5のため
屋敷の維持も一人でやっていて掃除には苦労している。

カワルに限らずこの人形を使用して変身すると変身前の姿が逆に小さくなって人形になるため、入れ替わりといった方が正しい。
また、応用で「実在人物(ゴン太や両親など)に人形をうまく押させ(この時変身しても相手には自覚はない)、人形化した実在人物の鼻を自分で押す。」とやるとセットにない実在人物に変身することも可能。
人形はそれぞれに身体能力や頭脳、性格、趣味嗜好が異なり、思考以外は文字通り別人になりきれる。バケルに変身すれば野球で大活躍でき、ユメ代に変身すると木陰で読書をするのを好むようになるといった具合。
また、複数の指を使って複数の人形にいっぺんに変身することもできる。精神はひとつなので当初は同じ動きしかできなかったが、厳しい訓練の末に少なくとも2人までなら別々に動かせるようになっていった。
ちなみにあくまで人形なので壊れてもノリでくっつけたりするだけで修理できる*6が、時々風呂に入らないと臭くなる(「人形にほこりなどがついて汚れる」とは異なり人形形態で洗っても無効)という妙な仕様がある。

また、これらの人形はパーマンのコピー人形と違って基本的に自動操縦ではない(別コロ最終回で実験的にやったのみ)ので、必然的に「バケルなどが活動する=カワルがその間居なくなる」ということで、
どうしてもバケ田家の事をこなすとカワルの帰宅が遅れて親に怒られるというのがお約束になっている。

ドラマ版では性別が変更されており、女の子の「かわり」となっている。


  • バケ田バケル
演:畠田理恵
本作のもう一人の主人公。バケ田家の長男でユメ代の弟。
ハートマークがついた帽子が特徴で入浴や水泳場面でも取らないが、これは帽子が体の一部で外れるがその下の頭頂部は造形されてないため(「びっくりプール*7」の回で一瞬外れた際にもみあげから上がないのが確認できる)。
カワルより背は低いが運動神経は抜群で野球もうまいため、野球をする時はバケルに変身することも多い。
ユミ子に好かれているため、カワルとしては釈然としなかったりも。

彼の家ということになっているバケ田家は第1話の時点で謎のお化け屋敷扱いを受けており、その後もカワルが一日数時間程度しか訪れないため、
空き家としばしば誤認(間違っているわけではないが)されて、お尋ね者が隠れ家にしたり、浮浪者が泊まりこんでしまったりするなどの事態が起きたり、
バケ田一家の存在が近所に認知された後もカワルの都合でしばらく行かないと「バケ田さん一家を見かけない→引っ越したのか?」と思われるのはいい方で、
「ガス中毒や食中毒で一家が倒れたのでは?」「強盗に一家皆殺しにされたのではないか?」と心配されたこともある。

なお、バケルに限らずこのセットの人間の人形達は耳の形が本物の人間と微妙に違う(丸くて耳孔が確認できない)。


  • バケ田ユメ代
演:鳥越マリ
バケ田家の長女で、バケルのお姉さん。才色兼備でおしとやかな女の子で、ゴン太の憧れの的。
頭が良いため宿題をする時に変身している(表向きは「カワルがユメ代に勉強を教わりに行っている」ということになっている)他、
困ったときの知恵袋で「ユメちゃんの言うことに間違いはない」と頼りにされており、地味にバケルより活躍が多い。
なお、変身中脱ぐ場面まであるのにカワルの好みではないのか、「あそこが本物と同じかどうか見てやるッ!」的な行為はされてない。*8

  • バケ田バケ左衛門
演:荒井注
バケル達のパパ。おおらかな性格で、人が好い。
いくらでも札束が出てくる四次元サイフ*9を所持しているため何でも金で解決しようとするクセがある。おかげでカワルが小遣いに困る事は全く無い。
教習所に通って免許も取得しているが、買ったばかりの車をいきなり電柱にぶつけるほど運転は下手。


  • バケルのママ(バケ田オボロ)
演:松金よね子
文字通りバケル達のママ。家事万能だが、活躍は少ない。
作中では名前が出てこないが、コロコロ版のキャラ紹介で「オボロ」という名前が付けられた。
ドラマ版では「星子」という名前になっている。

  • 犬(トロン)
バケ田家の飼い犬。
バケルのママ同様作中では名前が出ず「犬」とだけ呼ばれている、コロコロ版のキャラ紹介で「トロン」という名前が付けられた。
犬であることを利用して探索や追跡で活用される。ちなみにノミがいる。
はじめてカワルが変身した人形で、たまに変身しているらしい。


  • カワルの父
普通の会社員で係長をしている。本名不明。


  • カワルの母
普通の専業主婦。やはり本名不明。
初期の頃はスマートだったが、回が進むにつれて小太りになっていった。
原作最終回のオチ担当。


  • ユミ子
カワルの同級生で、いわばしずちゃんポジションのクラスのマドンナ。ユメ代がいるため出番は少ない。
カワルから好かれているが、本人はバケルのことが好きという複雑な関係を形成している。


  • ゴン太
ジャイアンポジションのガキ大将。
乱暴者ではあるが、映画でなくとも自分のやったことを反省したり、悪者に立ち向かう漢気もある。
野球が大好きで少年チームの球団の監督になっている他、
ジャイアンツ全選手のサインボールを所持しており、二番目の宝物らしい。
ユメ代にぞっこんで、その想いは一途で将来は結婚したいとまで思っている。
このためユメ代の言うことには逆らえないが、野球に対する熱意も本物のため
カワルがユメ代で頼み込んで野球の試合に出場しようとした際、徹底的に鍛えるのを条件にしたり、こればかりはダメと拒否もした。

  • その他の遊び仲間
本作はスネ夫ポジの子供が安定して登場せず、第1話から登場する「ホー助」*10という小柄で唇を突き出した少年が、
しばらくゴン太の取り巻きだったがいつのまにか出番が減少し、後述のオバQのキザ夫に似た少年がそのポジを引き継いでいる。
気取り屋キャラとしては、どちらもスネ夫やトンガリによく似たそばかすのある女子と木島という少年が出てくるが、どちらも出番は2話づつのみ*11で、
中盤付近から『オバケのQ太郎』のキザ夫に似た、眼鏡をかけて口のとがった少年*12がゴン太とコンビで別コロ最終回まで登場するようになるが最後まで名前は不明。

  • 宇宙人
カワルに人形と屋敷をくれた宇宙人。
身体を持たず、魂だけの存在のため人形に乗り移って行動している。
地球について研究するためバケ田一家や様々な人形を使っていたが、偶然出会ったカワルに全てプレゼントして地球を去っていった。
その後もたびたび、宇宙旅行用の(カワルに渡した人形内にもある)UFO人形(?)に宿って地球を訪れてはカワルの様子を見に来ている。



【「ゴン太のガールフレンド」回について】


藤子不二雄ランド版とぴっかぴかコミックス版にて追加収録された「ゴン太のガールフレンド」という回があるが、やや中途半端な形で終わっている。

内容としては、ユメ代に夢中なゴン太に迷惑するカワルが、ゴン太を別の女の子に夢中にさせるべく「河合伊奈」という別の少女人形に変身して…という話。
終盤で河合伊奈が有名な作曲家の恩知先生にスカウトされ、テレビ番組に出ることになり「やってみよう」と言うのだが、この後オチ(変身の事を知らないゴン太が見失って考え込む)があり、
作曲家の話していた「星(スター)への階段」という番組に出場しようと伊奈が心に決めた事がどうなったのか?についての件が掲載されていない。

実際にコミックスを読んで不思議に思った人もいると思うが、実はこの話、上記の「ドラとバケルともうひとつ」の企画で描かれた『ドラえもん』とのクロスオーバー回なのである。
このコラボ企画は雑誌風に「天才少女歌手 円奈ひとみのなぞをさぐる!」というページから始まり、
『ドラえもん』の「ジ〜ンマイク(てんコミ9巻「ジーンと感動する話」)」、本作「ゴン太のガールフレンド」(雑誌掲載時は無題)とつづき、
その後にクロスオーバー小説「感動伝記物語 スターたん生」でオチがつくという形だった。

この2つのエピソードをそれぞれのコミックスに収録する際、ドラえもん側は構成やオチの変更で有名な作詞家の早川先生から「星への階段」出場を勧められるという展開に繋がらないように修正されたのだが、
本作の修正のほうは最後のページの左下に描かれたバケルが次のページに続くことを知らせるフキダシのみを消すという雑な修正の結果、本作のみ伏線が残ってしまったのである。


この小説にてドラえもん達とバケルが邂逅しており、それぞれの能力についても知っていたため「ぼく、桃太郎のなんなのさ」での共演に繋がっている。
大全集では『バケルくん』側はコミックス収録時と同じ内容を、『ドラえもん』20巻では雑誌掲載版がそれぞれ収録されている。



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最終更新:2025年03月10日 17:12

*1 まず小学二&三年生で連載し、1年後に三&四年生にスライドした。ちなみに『バケルくん』の全話数は、「小学二年生」前年度の2・3月号で先行して第1話の前後編を掲載、その2学年で2年ずつで計48話、「別冊コロコロコミック」で計4話だが、このうち小学四年生の1975年9月号「ぼく、桃太郎のなんなのさ」は同時に連載されてた『バケルくん』と『ドラえもん』の枠を両方使用したクロスオーバー(このためこれだけページ数が異様に多い)のため、現在では『ドラえもん』側の作品にされ全52話となっている。

*2 本作は連載時『二年生→三年生2年目』か『三年生1年目→四年生』と読む流れになるが、三年生2年目ラストの「カワルついに正選手に」では下手の横好きだった野球がうまくなってタイトル通りレギュラー入り(あくまで子供たちの球団でだが)という一応締めらしい内容なものの、四年生ラストの「コピー人形」はカワルが以前使ったコピー人形を再度見つけ、ユミ子(片思いの女の子)や自分の母親をコピーして優しくしてもらおうとする内容でオチが過保護なコピー母に困るというもの。

*3 ただし、この話もカワルが親に「(いつも向こうに行くと帰りが遅くなるから)バケ田家に二度と行ってはいけない」と怒られるオチで、確かにこのまま二度と行かなかったとしてもおかしくはないがこれで終わりかというと微妙な所である。

*4 厳密には『藤子不二雄ランド』のCMでモブに映っているが流石に宣伝はノーカンだろう。

*5 読み切りでは主人公だけしか知らないのも多いが、連載されたものは『ドラえもん』のように居候キャラがいる作品はそいつが知っている、『パーマン』などヒーローものは仲間が同能力・装備を保有、『キテレツ』のように自作する発明家キャラの場合は友人たちに知れ渡っているのが基本。

*6 バケルとバケ左衛門はこの修復で復活する描写があるが、実際の人間を人形化した場合はどうなのかは不明。

*7 全集版のサブタイトル、雑誌掲載時は「バケルくんのうちのプールは大そうどうのまき」

*8 カワルはユミ子になった際に鏡の前で脱いで裸を見ようとしたことがある(「ユミちゃんとデート」)が、この時「自分の裸を見ても何も楽しくない」と今更のように気がついているので、ユメ代やバケ田ママではそもそもそういう事を考えもしていない。

*9 偽札ではなく、人形と屋敷をくれた宇宙人が研究資金のために自分の星で採掘した大量のダイヤモンドを地球で換金した、正真正銘の真札である。

*10 名前は「透明人形」の回で判明

*11 そばかす女子は「パンダをかいたい」と「魔法でチンカラプイ」登場、木島は「バケタ屋開店」と「宇宙旅行」の回に登場。

*12 「ユメ代さんけっこんして」が初出