腕時計

登録日:2024/04/25 Thu 13:56:04
更新日:2025/02/05 Wed 09:04:01
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腕時計(英:watch,wristwatch*1)とは文字通り主に腕に巻き付ける形で装着する携帯式時計の総称。
なお、本項目では時計機能が主機能のもののみを解説する。
タッチスクリーンを備え、各種アプリを実行可能なウェアラブルなデバイスはスマートウォッチの項目を参照のこと。


◆概要

現代社会において我々人類と時間の概念は切っても切れない関係にある。
今やタイムスケジュールは秒単位で緻密に組まれ、数秒、数分の遅れは玉突き事故のように連鎖的にトラブルを引き起こし、それだけでも社会に大きな混乱をもたらす。
故に意識をしていなくても、我々は日常生活の様々な場所において「時計」を目にしている。
それは掛け時計かもしれない。あるいは置時計、スマホの時間表示機能、テレビに表示される時報、モニュメントのような大時計かもしれない。
時間の概念を「可視化」する時計の登場をもって、初めて我々は「時間」を操る術を手に入れ、それは人類社会の発展に絶大な影響を齎した。
そんな時計を少しでもコンパクトに、そして便利に扱えるように改良することは、発展する社会をさらに便利にしてゆくうえで必然だったといえる。
そうした流れの中で機構の洗練を重ねて作り上げられた、小型化の極みこそが腕時計なのである。
とはいえ登場初期の頃は懐中時計こそがフォーマルで腕時計は社交の場に付けるのは略式とみなされる時代はしばらく続いたが。

◆歴史

「時計」といってもその定義はだいぶ曖昧で、単純に1日の時間を「日の出」と「日没」で区切りそこに一定間隔のタイムテーブルを当てはめただけの単純な日時計ならば紀元前1500年ごろには発明されていたとされる。

そこから時計は発展を重ね、水時計や香時計などといったものが編み出されてゆく過程で後の機械式時計の基礎となる機械技術が作り出されてゆくのだが、時計といわれて我々がイメージするような機械式時計は今から約900年ほど前のヨーロッパで発明されたもの。

といってもこのころの機械式時計は機構の小型化が困難であったため、置時計や大掛かりな時計塔などといった大型かつきわめて高価なものであり、そこからさらに家庭用時計として洗練されるにはなお数百年の時間を要することとなる。

15世紀頃からガリレオの研究に端を発した革新的な振り子機構の発明により時計は急激に小型化、かつ正確化されてゆくこととなる。そうした流れの中で宝飾品や金細工などを扱っていたギルドがその技術力を生かして部品の小型化に着手。懐中時計が開発されてゆく。*2中でもスイスの時計師ブレゲの貢献は目覚ましく、時計の歴史を200年早めたとまで言われ、彼の開発した様々なデザイン、機構は現代の腕時計にも受け継がれているほどである。*3

とはいえこの懐中時計もまだまだ我々の知る腕時計に比べれば大型であり、何より時刻を確認するためにいちいちポケットから取り出して見る必要があった。19世紀頃に一部の好事家や王侯貴族のような金持ちが「時計のついたごついブレスレット」のようなものを作らせていた記録があり、これが腕時計の端緒と言えなくもないが、やはり実用品と呼ぶには程遠く現代的な腕時計に直接繋がることはなかった。

現代的な実用腕時計が発明されたのは、意外なことにとある男の要望がきっかけだった。

20世紀、フランスはパリ。1903年に人類初の有人動力飛行を成し遂げたライト兄弟に続き、ある男が大空へと挑もうとしていた。
アルベルト・サントス・デュモンというその男は航空機械の発明家であると同時に、自身の発明した飛行船を乗り回す最初期のパイロットでもあった。
航空機械を使っていかに速く飛べるかは当時の至上命題であり、また高空にあって時間を知るすべに乏しいパイロットにとって時間を測るための懐中時計は必須アイテムだった。しかし先述の通り懐中時計は見るためにいちいちポケットから取り出す必要がある道具であり、操縦桿を握っているパイロットには非常に扱いづらいものだったのである。

1904年、デュモンは航空機の操縦中にも視認しやすいよう、腕に巻いて固定できる時計の制作を親友であるルイ・カルティエに依頼する。これに応える形で作られた、四角いケースが特徴の腕時計こそが「サントス・ドゥ・カルティエ」。現代式の腕時計の元祖である。
当時最先端のファッションを着こなす伊達男だったデュモンのこの腕時計は瞬く間に社交界で話題となり、様々な時計メーカーも開発製造に乗り出した。
第一次世界大戦では軍人からも評判を集め、特に砲兵や将校からは戦場で素早く時刻の確認ができる腕時計が非常に重宝され、おりしも戦場で猛威を振るい始めた航空機のパイロットからも愛用されるようになった。*4

中でもユグノー戦争でフランスから逃れてきた時計職人を多数擁するスイスの技術力は飛びぬけており、後々世界を席巻する高級時計メーカーの多くを輩出したことでそうした富裕層の太客を抱え、一大時計生産地としての名声を確固たるものとしていた。*5

そうした中、1960年代に入り、日本の時計メーカーが開発したある時計が腕時計業界に激震を齎すこととなる。
SEIKOが開発した「アストロン」。世界初の実用クォーツ式腕時計である。
それまでの機械式腕時計は、部品の精度や置かれた環境によって針の進みに狂いが生じやすく、それを防ぐために非常に緻密で高精度の細工と、定期的なメンテナンスが求められる代物だった。だからこそそれを実現できる職人は限られ、大量生産もできず、品質の高い腕時計はやはり裕福な資産家の特権といえるものであった。

アストロンはその常識を打ち砕いた。発達した工業技術により開発された集積回路に、クォーツ振動子を利用した調速機を組み合わせることにより、信じられないほど小型で、機械式時計などよりはるかに正確で頑丈で、おまけにゼンマイを巻かずとも電池を変えるだけで半永久的に動き続ける時計が、工場で安価に大量生産できるようになってしまったのだ。*6

クォーツショックの発生である。

この一撃により、それまでの機械式腕時計はもはや実用品としての価値を失ってしまった。既存の時計産業は壊滅的な打撃を受け、ブランパン、ユニバーサル・ジュネーブ、エニカ、ミネルバ、IWC、ゼニスなど老舗の高級時計ブランドもバタバタと倒産していった。(スイスには1970年代時点で1618社あった時計メーカーが1980年代には632社にまで減少してしまった。)
その一方、安価な実用時計の登場により腕時計は広く一般市民にも広まってゆく結果となり、今や誰しもが「自分で時間を管理する」社会となったのだった。

しかしここで時計業界も黙っていたわけではなく、スウォッチを旗印にロンジンやオメガなどといった有名メーカーを束ねたスウォッチグループ、カルティエを中心にブランド宝飾品メーカーなどを集めたリシュモングループ、ルイ・ヴィトンを盟主に据えたLVMHといったコングロマリットを結成。
安価な実用品ではいずれ工業生産能力の劣る国は価格競争に負けて埋没してしまう。そうなってしまえば中国のような人海戦術で大量生産を行える国に対して勝ち目がない。*7
そのため厳密な品質管理のもと実用品としての価値ではなく、贅を凝らした工芸品としての立場から新たな価値を構築することで巻き返しを図った。
これが功を奏し、一時期は絶滅の瀬戸際にまで立たされていた機械式時計は、現在でもロレックスなどをはじめとした高級なブランド品としての立場を維持し続けることに成功している。

今やスマホでいつでも時間が見られる時代、もう時を司る道具としての役割はほぼ終えてしまった腕時計だが、必要でないからこそ、『必需品でないものに金を掛けられる贅沢』を嚙み締められる、そんな存在になったのだと言えよう。

◆種類

歴史の項でも触れたが、腕時計はムーブメント(動力機構)によって機械式クォーツ式の2種類に大別できる。

  • 機械式
    • 伝統的な歯車とゼンマイの機構によって動作する。繊細な細工を要する金細工職人の手で洗練され続けてきたその構造はまさに芸術品と言っていいほどの出来栄えであり、品質の高い機械式というだけで付加価値と見なされる。
      基本的には内蔵されたゼンマイを動力とするわけだが、ここに脱進機と呼ばれる機構を組み込むことによってゼンマイの解けようとする力を周期的な振り子運動に変換して歯車に返す。
      より具体的にはゼンマイに連結された歯車*8の終端に「ガンギ車」と呼ばれる歯車が連結されており、これに「アンクル」と呼ばれる爪の付いた振り子を噛み合わせることで「ヒゲゼンマイ」と呼ばれる部品に動力を伝える。このヒゲゼンマイが力を受けて収縮→力を開放してほどける、を繰り返すことでアンクルを左右に振れさせる。振り子の等時性*9により時間あたりの振幅回数は一定になるため、これを利用して歯車全体の回転速度を一定に保ち、時計の針を正確に動かすのだ。
      とにもかくにも非常に細かい部品を精緻に仕上げる技術力が必要であるため、機械式ムーブメントを自社開発できるメーカーはかなり限られており、有名どころのメーカーもムーブメントは他社製の物を搭載していることがある。
      欠点としてはやはり高度な工作技術がなければ作ることができない以上大量生産に向かず、高額になりがちな点、非常に精密な機械であるため定期的な分解整備は必須になるなど維持が難しく、操作を誤ったり衝撃が加わったりすると内部機構が破損しかねない繊細さも弱点。クォーツ式に比べると手作業で作る分個体差もあり、精度を確保するのにも限界がある。
      機械式腕時計は1日10秒以内のズレで済めばいい方で、製品によっては1日30秒程度ズレても仕様の範囲なので初めて持つ人は驚かないように。このため正確な時刻を知るためには毎日時報や電波時計を見て調整する必要がある。それを面倒がって、腕時計はアクセサリーと割り切り時刻の確認にはスマホを使うなんて人も・・・
      最近は大量生産された工業製品のムーブメントも出回っており、お手頃価格の品も登場している。…のだが、このせいで後述する偽造品も出回るようになってしまってもいる。
      また、この機械式の中には竜頭(後述)を手で回してゼンマイを巻き取る「手巻き」と、腕時計内に仕込んだウェイトを利用し、腕の動きを利用してこのウェイトを回し、それでゼンマイを巻き取る「自動巻」の2種類が存在する。自動巻きは着用して動けば勝手にゼンマイが巻かれるため、毎日つけていればほとんどゼンマイを意識する必要はなくなる。
      機械式及び下記のクォーツ式の一部の時計の性能表記に『石数』という表示が見られることがあるが、これは時計の指針や歯車の軸に『受け』として埋め込まれている宝石のルビーの数を表している。
      このルビーが絶妙な耐圧・耐磨耗性を発揮しており、より長期間に渡って針や歯車の稼働を支え、正確な時刻を刻ませている。
      ちなみにルビーはコスト的に現在は人工ルビーであるが、発明当時は天然物が用いられていた。また一時期は人工ダイヤモンドを用いて試験していたが、硬すぎて石より軸の方が削れてしまった為、ルビーに統一されている。

  • クォーツ式
    • ゼンマイと脱進機の代わりに水晶振動子と制御用の基板とICチップ、動力源の電池を搭載した物。水晶の「電圧をかけると周期的な振動を発する」性質を調速機として利用することで機械式ではありえないような頑丈さと精度、量産性を実現した文明の利器。特に精度は機械式を圧倒しており、安価なものでも誤差は1ヶ月で15秒以内くらいに収まる。
      構造が非常に単純なので機械式のように定期的なオーバーホールはほぼ不要で2、3年に一度程度電池を変えるだけで半永久的に使い続けることができ、ソーラー式のものはその電池交換さえ不要。
      時刻を針で示すのではなく文字として表示するデジタル時計もこちらに分類される。こちらは物理的に動く部品がほぼないためクォーツ式アナログ時計にも輪をかけて丈夫になりやすく、頑丈さに定評のあるG-SHOCKもデジタルの製品が先に登場している。
      いわゆる電波時計も基本的にはクォーツ時計として動作しており、定期的に電波を受信して誤差を修正する仕組み。
      弱点としてはやはり電子機器であるため電池が消耗してくると狂いが大きくなってきてしまう点や、電池が切れたまま放置すると経年劣化による電池からの液漏れで破損する可能性がある事があげられる。
      また機械式ほど複雑な機構を要さず、歴史が浅いことも相まって高級路線の製品は少なく、持ち主のステータスを誇示するアクセサリーとして着用するのには向かない。

◆主な部品


  • ベゼル
    • ベゼル(額縁)の名の通り時計の文字盤を防護するための風防ガラスをぐるりと縁取る部品。本来は風防を時計のケース(外装)に固定するための部品なのだが、ここに様々な機構を搭載することで時計の用途に応じた追加機能を実装することができる。
+ 様々なベゼル
  • タキメーターベゼル
    • レーシングウォッチなどに搭載される、自身の移動速度を計測する目盛りが付いたベゼル。
      同時に搭載されているクロノグラフ針(60秒単位のストップウォッチのような機能)を利用し、1kmを走り終えた後に針がベゼルのどこを指しているかを確認することで平均時速を割り出すというもの。

  • 逆回転防止ベゼル
    • こちらはダイバーウォッチに搭載されるベゼル。
      ベゼル部分には分刻みの目盛りが描かれており、潜水開始時に時計の長針に目盛りの始点を合わせることで自身が何分間潜水しているかを計測できる。
      飽和潜水など長時間潜水するダイバーにとっては無くてはならない機能であり、逆回転によって目盛り位置がずれると潜水時間を間違えて死に直結するため逆回転防止機能が搭載されている。

  • GMTベゼル
    • 逆回転防止ベゼルと異なり、右にも左にも回転できるベゼル。こちらはベゼル上にも時刻表示があり、ベゼルを回転させることで今いる地点とは時差のある別の国の現地時間を知ることができる。
      仕事の都合上世界中を飛び回る必要のある航空機パイロット用の腕時計に搭載される。

  • パルスメーターベゼル
    • タキメーターベゼルのように数値の記載されたベゼル。パルスメーターの名前の通り心拍数を計ることができる機能が付加されており、基本的な使い方もタキメーターベゼルと同様、一定回数の拍動を数えた時点でクロノグラフ針が指している場所の数値が心拍数となる。現代ではもっと正確で手軽な脈拍計が存在するのでほぼ見かけない。

  • リューズ(竜頭)
    • 時計のケース側面に飛び出しているネジ状の部品。クォーツ時計では単に時刻合わせを行うだけのものだが、機械式時計ではゼンマイの巻き上げにも使用する。
      物によってはカレンダー機能の調節などに使われることも。音の響きから勘違いされがちだが歴とした日本語であり、漢字では「竜頭」と書く。ちなみに英語では「Crown」、ドイツ語では「Krone」と冠を指す語で呼ばれがち。なぜこう呼ばれるようになったのかは結構複雑な経緯があったりする。
+ 竜頭の由来
元々「竜頭」は時計の用語ではなく、釣鐘の上部、縄を引っ掛ける部分の事を指した。
…というのもここは単なるわっかではなく「蒲牢(ほろう)」という竜の子の装飾があったから。
時代が下って明治初頭、懐中時計が西洋から輸入されてくるが、この時点で竜頭には時計を巻き上げる機能は無かったため、「本体を鎖で釣る部分」のことを釣鐘同様に竜頭と呼ぶようになった。他言語で冠と呼ばれるのは、円形である時計の上下を区別するパーツでもあったから…という説がある。
更に時代が下って19世紀、竜頭巻き上げ機構の発明により単なる吊り輪から竜頭は時計のパーツになり、腕時計が発明され吊り輪の機能を失っても竜頭と呼ばれ続けることになったのである。

  • 文字盤
    • 時刻などを表示するための時計において最も基本的な部分。それだけに時計で最も人目に触れる部位であり、視認性に気を配ったりデザイン性を追求したりなどで様々な工夫が施される個所でもある。
      例えば文字盤の照り返しを抑えることで昼間でも視認性を高めるように工夫された「ギョーシェ彫」など。*10

+ 様々な追加機能
  • インダイヤル
    • 一般的なダイヤルとは別にインダイヤルと呼ばれる小さい文字盤のようなものを組み込んで追加機能を実装しているケースがある。
      例えばクロノグラフ機能搭載モデルは一般的な時計における秒針が存在せず、代わりにインダイヤルによって秒を表示するケースがある。
      それ以外にも12時間計、24時間計、10分計など求められる役割に応じた様々なインダイヤルが存在する。

  • デイト機構
    • いわゆるカレンダー機構。今日の日付を確認できるようになっているのだが、加えて曜日の表示もできるようになっているものもありこちらは「デイデイト」と呼ばれる。

  • ケース
    • ムーブメント(内部機構)を収めて保護するための外装。チタンや硬質ステンレスなど耐食性に優れた頑丈な素材で作られるケースが多いが、金属アレルギーに配慮した木製ケースなども。
      一般的な丸型以外にも長方形(レクタンギュラー)、正方形(カレ)、樽型(トノー)など様々な形状があり、中にはフランク・ミュラーのように特定の形状のケースをトレードマークとしているブランドもある。

◆複雑機構

機械式時計は時代を経るにつれて様々な情報を把握するための便利ツールとしての側面を深めて行き、その過程で使いやすくするための様々な機能が追加されていった。
その中でも実装のために特に高度な技術を要し、搭載するだけでも困難が伴う複雑な機構が存在し、それらを「七大複雑機構」と呼ぶ。
これらの機能は情報化社会の現代においてはもはや不要ではあるものの、その機構の複雑さと精緻さは見ているだけでも楽しい、高級時計の醍醐味ともいえる存在である。

  • トゥールビヨン
    • その昔懐中時計がまだ実用品だった頃、携帯式の時計には一つの問題があった。置時計と違い、懐中時計は持ち運ぶ関係上常に一定の姿勢下で使われるわけではない。
      姿勢が変わると脱進機にかかる重力の向きが変わり、針の進むスピードにムラが発生して精度が落ちてしまう。*11
      そこでゼンマイバネごと脱進機全体を回転させてしまうことで負荷のかかり具合を分散させ平均化するという発想が生まれた。これがトゥールビヨン機構である。*12
      腕時計は懐中時計以上に小型に作らねばならず、しかも姿勢差も懐中時計よりはるかに大きいため、搭載するのは困難を極める。ましてやほかの複雑機構も同時に搭載しようなどと考えた暁には…

  • ミニッツリピーター
    • 作動させるとムーブメントを取り巻くように内蔵されたゴングが音を鳴らして時刻を教えてくれる機構。明かりが乏しく文字盤が見えない時でも時刻を知るために編み出された。*13
      基本的には高音と低音の2つの音を使い、1時間単位を低音、高音と低音のセットで15分単位、高音で1分単位を表現する。例えば低音が10回、セットが2回、高音が3回鳴ったら午前10時33分であることを表す。
      腕時計ケースの限られたスペースの中に果てしなく複雑な機構を詰め込む必要があるため、これを搭載するような腕時計は最高級の芸術品と言って差し支えない。

  • 永久カレンダー
    • 腕時計の中には日付表示機能を搭載したモデルもある事は先述したとおりだが、腕時計の日付表示は31日分あるため、このままでは30日以下の月は手動でカレンダーを修正しなければならなくなる。
      永久カレンダーはユリウス暦に完全対応し、なんと日付のズレを自動修正してくれる機能がついている。*14親切なことにちゃんと閏年も計算に入れて自動修正してくれるので着けっぱなしにしてもいちいち日付を修正する必要がない。*15
      こちらも小型化して搭載するためには果てしなく高い技術力を要する代物であり、上記2つと合わせて「世界三大複雑機構」とも呼ばれる。

  • スプリットセコンドクロノグラフ
    • クロノグラフとは要するにストップウォッチ機能のことなのだが、スプリットセコンドクロノグラフでは1つの軸に2つの針が搭載されており、ボタンを押すと片方の針が停止してラップタイムを記録することが可能。再度ボタンを押すと先行するもう一つの針に追いつくように針が回転し、再度ラップタイムを計測できるようになる。
      気付いたかもしれないが、これらの機構はすべて時計を動かすゼンマイから供給される動力のみで制御されている。特にクロノグラフに関してはただでさえ小さい力をさらに細分化して動かしているため、それをさらに2分割して針2本を動かすというのは果てしなく難しい。

  • レトログラード
    • フランス語で「逆行」を意味する言葉だが、こちらは扇状の目盛りの上を針が行ったり来たりしながら時間や曜日を表示する機能である。目盛りの端まで針が移動すると瞬時に反対側まで針が巻き戻り、再度同じ動作を繰り返すのでこの名前で呼ばれる。巻き戻りが遅いと時間表示にズレが生じてしまうため、実装するのは至難の業。

  • パワーリザーブインジケータ
    • 機械式腕時計のゼンマイの残り動力を表示してくれる機能。要するに電子機器でいうところのバッテリー残量表示機能のようなもの。

  • ムーンフェイズ
    • 月相盤とも。文字通り月の満ち欠けの状態を教えてくれる機能。

◆有名な時計メーカー

  • パテック・フィリップ
    • 1839年にスイスで創業した時計工房を前身とする老舗時計メーカー。現在の社名は共同創業者の一人、アントニ・パテックと同社の中興の祖ともいえる時計職人、ジャン・フィリップ*16に由来する。後述する2メーカーと合わせて世界3大ブランドを成す時計メーカーの一角であり、その中でも筆頭とされる名実ともに世界最高峰の時計メーカーである。懐中時計用の機構だったパーペチュアルカレンダーを世界で初めて腕時計に搭載したのも同社。
      ミニッツリピータートゥールビヨン永久カレンダーの3大複雑機構を贅沢にも3つすべて搭載してのけた「グランド・コンプリケーション」はパテック・フィリップのマスターピースと言える逸品。特にミニッツリピーターの音色は他のメーカーの製品と比べても明らかに違いが分かるほど美しい。*17
      それ以外にもシンプル過ぎるほど簡素な見た目に技術の粋が詰まった異次元の極薄ムーブメントを搭載する「カラトラバ」、潜水艦の舷窓をイメージした八角形のベゼルが目を引く「ノーチラス」といったモデルが良く知られている。
      品質管理にも余念がなく、ジュネーヴ・シールは当然としてそれよりもさらに厳しい自社基準の「パテック・フィリップ・シール」を設けてそれに適合した商品のみを販売する徹底ぶり。
      歴代顧客にもヴィクトリア女王、ウォルト・ディズニー、チャイコフスキー、アインシュタインなど誰もが聞いたことのあるであろう名だたる名士がずらりと並んでいる。
      それだけにお値段も数百万~数千万円と破格。成金などではない本物のセレブでなければ一生お目にかかることはないだろう。

  • オーデマ・ピゲ
    • 1875年にスイスで設立された高級腕時計メーカーで、3大時計ブランドの一角。社名は創業者のジュール・オーデマとエドワード・オーギュスト・ピゲから。
      製品にはミニッツリピーターやムーンフェイズといった複雑機構も搭載されており、その品質、技術力の高さはパテックフィリップに引けを取らないほど。
      世界初の腕時計用ミニッツリピーターは同社の創業者の一人、ジュール・オーデマの発明品。そのためか複雑機構の中でもミニッツリピーターには特に強いこだわりがあり、作品の一つスーパーソヌリは、ローザンヌ工科大学と共同で8年もの歳月をかけてミニッツリピーターの音色の響きを追求し続けた末に完成した逸品となっている。
      スポーツウォッチ界にパラダイムシフトをもたらしたとされる傑作「ロイヤルオーク」シリーズが有名。

  • ヴァシュロン・コンスタンタン
    • 1755年にスイスのジュネーブでジャン=マルク・ヴァシュロンにより設立された時計工房を前身とする時計メーカー。マルタ十字がトレードマークの3大ブランドの一角で、業界でもブレゲやブランパンに比肩するほどの老舗。現在の名前は三代目のジャック・バルテルミー・ヴァシュロンが同郷の商人フランソワ・コンスタンタンを共同経営者としたことに由来する。
      上述の2社と同じく高度な技術力で複雑機構を複数搭載した製品を製造しており、オーヴァーシーズ、パトリモニー、フィフティー・シックスなどが代表作。
      ちなみに3大ブランドはいずれも製品の永久サポートを実施しており、自社の製品ならどれほど昔の、それこそ懐中時計時代のような骨董品でも依頼すれば修理してくれる*18
      以上3ブランドは時計業界の中でも異次元の雲上ブランドと言われ、中古品ですらも数百万円という高額で売り買いされている。

  • ブレゲ
    • 本項でもたびたび言及される時計師ブレゲが1775年に興した時計工房が前身の時計メーカー。
      3大ブランドほどではないがそれに次ぐほどの格式と優れた技術力を有した老舗の一流メーカーで、フランスの王侯貴族からも絶大な人気を誇った。マリーアントワネット、ナポレオンなども顧客として名を連ねている。
      前述の通りブレゲは天才的な時計師で、丸く穴の開いた「ブレゲ針」、当時としては破格の精度を実現して見せた「ブレゲひげゼンマイ」、文字盤の照り返しを抑えて視認性を高める「ギョーシェ彫り」などなど現代の時計にも連なる数々の発明を世に残したほか、1800年代にナポリ王妃の依頼で世界初となる腕時計を作ったという記録も残っている。
      クラシック、マリーン、タイプXXなどが代表作。

  • ブランパン
    • 名前を検索するとブラン入りのパンが出てくるので紛らわしい1735年創業の老舗時計メーカー。
      厳密にはクォーツショックの時期に一度倒産しており創業当時の企業体制がそのまま続いているわけではないのだが、一応現存する時計メーカーとしては世界最古である。
      複雑機構を搭載したヴィルレ、ダイバーズウォッチ仕様のフィフティ・ファゾムスは同社の看板商品。
      モータースポーツ好きの人々には「名前は知ってるけど何の会社だか知らない」という人が非常に多かった会社でもある*19

  • カルティエ
    • わずかでもジュエリーやブランドに知識のある人ならば知らぬ人はいない、「王の宝石商」と称えられたフランスの超一流宝飾品ブランド。前述の通り、現代に連なる実用腕時計の発明を担ったのがこの会社である。*20時計業界へのカルティエの参入はのちの宝飾時計業界の嚆矢となった。
      元が時計専門ではなかったため長らくムーブメントは外注品だったが、2010年に自社開発に成功し、念願のマニファクチュール化を達成した。
      代表作は現代にも残るサントス・ドゥ・カルティエ、自社開発のムーブメントを搭載した第一作のカリブル・ドゥ・カルティエなど。

  • ロレックス
    • 日本でお高い外国製の時計と言われれば多くの人が真っ先に想像するであろう超有名メーカー。もともとはロンドンで1905年に創業した輸入時計商社だったが、イギリスがスイス製の時計に高額な輸入関税をかけたため本社をスイスに移し、その過程で技術者を雇い入れて時計を自社製造するようになった。
      同社の売りはなんといってもデザイン性と機能性を高い次元で融合させた設計で、高磁場や高水圧、低気圧に晒されるような環境下で使用することを想定したモデルの開発も行っている。
      その技術の粋が詰まったモデルがダイバーズウォッチシリーズであり、その一つであるディープシーチャレンジはなんと水深10000m、マリアナ海溝の底の水圧にも耐えられるとか。*21
      また同社はロレックス3大発明と称される自動巻き機構(パーペチュアル)*22、デイトジャスト機構*23、オイスターケース*24を発明したことでも知られる。
      代表作はシードゥエラー、GMTマスター、オイスターパーペチュアルデイトジャストなど。

  • オメガ
    • こちらも日本でお高い外国製の時計と言われれば多くの人が真っ先に想像するであろう超有名メーカーの一つ。現在はスウォッチグループの傘下企業。時計としての精密さでその名を知られたメーカーで、自社開発したムーブメントを搭載した「コンステレーション」はCOSC*25の検定に合格し、同社製の時計は1932年のロサンゼルス大会以来オリンピックの公式時計として採用されている。
      また人類初の月面着陸となったアポロ11号のミッションの際に宇宙飛行士が身に着けていたのも同社の「スピードマスター」で、以来オメガの時計はNASAの公式装備品として採用されているなど数々の華々しい実績を持つ。
      同社の編み出した「コーアクシャル脱進機」は部品の摩耗を極限まで減らし、一般的な時計の倍以上の期間のメンテナンスフリーを実現する夢のシステムで、オメガの時計にはほぼすべて搭載されている。
      意外にも(あくまで他の数百万~数千万円もするような超高級品と比してではあるが)お手頃価格の商品もあるので、気になった方は一生ものの時計として1つ買ってみてはいかがだろうか。
      代表作はスピードマスターシリーズ、シーマスターシリーズなど。

  • フランク・ミュラー
    • フランク三浦*261992年という比較的最近に設立された腕時計メーカー。創業者は現在も存命中のフランク・ミュラー。
      ミュラーは「ブレゲの再来」とまで言われた天才時計師で、ジュネーブの時計工学校3年過程を飛び級して1年で卒業、卒業制作の材料として与えられた時計部品を改造してパーペチュアルカレンダー機構搭載時計を作るなどその技術力は卓越していたという。
      同社の時計はトレードマークのトノー型ケースとユニークなデザインのビザン数字インデックス*27を採用したクラシカルで優美なデザインが特徴的で、搭載された複雑機構が織りなすムーブメントの美しさを堪能できるスケルトンケースの製品も製造している。
      また多数の傘下ブランドを抱えており、中でもミュラーの直弟子が立ち上げたピエール・クンツは「レトログラードの魔術師」と呼ばれる超絶技巧が売り。なんとあのパテック・フィリップにも納品していた実績もある。
      トノウカーベックス、ロングアイランドなどが同社の定番モデル。

  • ルイ・ヴィトン
    • LVMHグループのトップであるルイ・ヴィトンも、実は時計メーカーの一角。もともとLVMH傘下にはゼニスがいたので同社製のムーブメントを搭載した腕時計を製造販売していたのだが、2014年にジュネーブに自前の時計工場を設立してムーブメントの自社開発に取り組み始めた。
      同社はもどもと旅行用品を製造していた会社であるため、トラベルウォッチという観点からルイヴィトン・タンブールなどの製品を製造。ジュネーブシール認証を受けた製品の開発も成功させている。

  • スウォッチ
    • スイスメイドながらクォーツ式をメイン、しかも普段使いし易いポップで安価な時計で有名なメーカー。というのもグループとしてミドルレンジにティソ、アッパーレンジにオメガ、ロンジン、ブランパン等多数ブランドを抱えているので、スウォッチ本体として作る必要が無いというのもある。
      クォーツショック後のスイスを立て直すべく設立されたという経歴があったりする。社名のスウォッチはスイスの時計ではなく、新しい時計を指す「Second Watch」の略とのこと。
      以前ベンツと共同でスマートを作って大赤字になったのは黒歴史。

  • SEIKO
    • ご存じ我らが日本の時計のトップブランド。日常生活のあらゆる場面でもはや同社製の時計を目にしない日はないと言っていいほど。
      1881年に服部金太郎が設立した「服部時計店」を前身とする会社で、1913年の日本初の国産腕時計開発、1969年のクォーツ腕時計発明など日本の時計産業の発展にはその名を欠かすことができない存在である。
      日本企業らしく堅実かつ高品質な実用品の時計を多く作っており、著名人にもコレクション用の高級時計とは別に普段使い用としてSEIKOの時計を愛用しているという人が少なくない。
      安価な普及品を大量生産する一方で、「グランドセイコー」や「クレドール」といった高級モデルも生産している。特に創業当初の高級時計路線を受け継ぐ「グランドセイコーシリーズ」は、同社の発明した「スプリングドライブ機構」*28を搭載し、複雑機構も搭載したこだわりの逸品。

  • CITIZEN
    • 国産時計ブランドとしてSEIKOと双璧をなす時計メーカー。1918に実業家の山﨑亀吉が設立した「尚工舎時計研究所」を前身とする。ミヨタを傘下とする同企業製のムーブメントは工業生産品として絶大なシェア率を誇り、かつては世界シェア1位に輝くほどだった。現在でも世界シェアの約3割を占め、安い中国製の腕時計でも中身はミヨタのムーブメント、というケースもある。ちなみに世界初の多局受信型電波腕時計はCITIZENが1993年に発明したもの。*29
      こちらも安価な普及品を大量製造している会社だが、同社製の「カンパノラ」シリーズはクォーツ式ながらミニッツリピーターやムーンフェイズなど複雑機構を再現した製品で、星空をイメージした神秘的なデザインが美しい芸術品。また「アテッサ・エコドライブ」シリーズもお手頃価格ながら高級感あふれるデザインとソーラー式による長期間のメンテナンスフリーを両立した製品となっている。

  • CASIO
    • 時計に詳しくない人はどちらかと言うと電卓を作っている会社のイメージが強い、日本の精密計算機メーカー。1946年設立の樫尾製作所を前身とする。時計メーカーとしてはとにかく壊れないことで有名な「G-SHOCK」で有名で、新発売当時に「アイスホッケーのパックの代わりに使い、キーパーがシュートをキャッチしたところで普通に動いていた」というセンセーションなCMで一大ブームを巻き起こした*30
      映画「スピード」でキアヌ・リーブスが着用していたことから日本でもブームが広がり、限定モデルはアホみたいなプレミアが付いたことも。
      ノーマルモデルは20気圧防水を謳っているが、ガチの潜水用として「FROGMAN」や更に劣悪な環境を想定した「MUDMAN」等『Master of G』というスペシャルモデルも存在する。
      G-Shockの他にも山での使用を想定し、電子コンパスや気圧計を装備した「Pro Trek」シリーズが有名。一応普通の時計もラインナップされているが、エクストリームウォッチといえるこの2種が有名過ぎて影が薄い。
      またいわゆるチープカシオ系の時計は1500円〜という激安価格ながら実用時計としては十分すぎるほどの機能性・頑丈性を備え、海外の著名人にも愛用者が多い。
      ちなみに「G-SHOCK」の商標登録は1992年に行われたが、1998年に類似品の出回りへの対策として、A-SHOCKからZ-SHOCKまでの全アルファベットでの商標登録が行われている。

◆余談

  • コピー品
    • そもそも高級腕時計はそのムーブメントを製造すること自体に非常に高い技術力を要するものであったため、それが一種のコピープロテクトとして働く側面があった。しかし近代における工業技術の発展により、機械式の腕時計でも安価に工業生産品として量産できるようになってきたため、その弊害としてガワだけ真似た偽造品まで出回るようになってしまった。
      高級時計ブランドはブランドイメージを崩さないよう各社細心の注意を払っており、細かい部分に至るまで決して手を抜かないため、偽物はそういった「細部の雑さ」が見極めのポイントとなってくる。例えば

      〇リューズやベルト固定用のバネ棒を通す穴、ケースの縁、内部の針などのバリ取りが適切にされているか。*31
      〇塗装がいい加減でないか。*32
      〇シリアル番号と製品型番の法則が一致しているか。*33

      といった特徴を見分けることで、大半の粗悪な偽物は弾けると言っていい。
      バナー広告で見かける異様に安いロレックスなどは100%偽物なので絶対に手を出さないこと。
      特に中国広州市に所在するNOOB工場は俗にN級品と呼ばれる恐ろしく精巧な偽造品を製造することで悪名高く、時に熟練鑑定士ですら騙されるほどのスーパーコピーが出回ることもあるという。

  • 素材について
    • 精密な機械を搭載する関係上頑丈性を求めてステンレスが使われた物が多いのだが、金属アレルギーの人は錆止めのためのニッケルメッキやステンレスの割金に使われるクロムによって肌荒れなどのアレルギー反応を引き起こすことがある。
      アレルギー対策にニッケルフリーのチタンケースや金のケースが使われていることもあるが、竹をはじめとして黒檀、ウォルナットといった木材を使ったユニークなデザインの物もある。
      それぞれの素材ごとに違った風合いを楽しめるので、気に入った素材の時計を探してコレクションしてみるのも一興だろう。

  • 資産
    • 前述の通り高級な有名メーカーの製品ともなれば数十万、時に数千万というような高額品になることも多く、腕時計は単なるコレクションや実用品としての枠にとどまらず、高価な芸術品として資産運用の側面も持つ。
      それだけに様々な犯罪の汚い収益源として利用されてしまうケースも多く、2023年には銀座で闇バイトに応募した未成年4人による強盗事件が発生*34し、2024年1月のトケマッチ事件ではオーナーがシェアサービスのために預けていた時計を社員が売り捌いた挙句蒸発する巨額詐欺*35に発展。それだけでなく関税逃れのための密輸事件、前述の偽造品による詐欺事件などが発生し大きな被害を生んでいる。

  • マニファクチュール
    • 前述のとおり機械式ムーブメントは製造開発に極めて高度な技術力を要するため、そもそも自前で作れる会社自体が非常に限られている。自社で機械式ムーブメントの開発、製造、組み立てを完結できる体制を「マニファクチュール」と言い、これを実現することが一流ブランドの第一歩となる。
      そのマニファクチュールでも、ムーブメントの部品まで自社で製造できるメーカーはほんの一握りしかなく、その中でも構成部品全てを自社製造できる技術を持ったメーカーは本当に数少ない。*36。今でこそ自社製のムーブメントを搭載しているロレックスやウブロ、オメガなども、かつては外注品のムーブメントを搭載する製品を製造していた。*37
      逆にそうした技術のないメーカー向けに汎用ムーブメントを製造するメーカーもある。*38前述のCITIZEN傘下のミヨタ製ムーブメントはその代表例で、一時期はなんとスイス全土で作られるムーブメントの総数を上回る数の製品を1社で供給する化け物じみたシェア率を誇っていた。それ以外にもスウォッチ系列の時計で用いられているETA製ムーブメント、セリタ製、SEIKO製、天津シーガル製などが挙げられる。
      こうした汎用ムーブメントは製造数の多さから部品の供給が豊富かつ修理も簡単なため非常に安価に供給でき、品質も安定しているというメリットがある。逆にデメリットとしては同じムーブメントを搭載する関係上採用機種はいずれも似たり寄ったりな出来になりがちで、自社で製造できない以上供給メーカーの方針の如何によって納品状況が左右されてしまう点がある。*39

◆フィクション作品に登場する腕時計

単純に時間を見るシーンが圧倒的だが、形見の品やプレゼントなど人情エピソードのアイテムとして登場することも。
持ち主の利き手、富者、待ち合わせ中など人間観察の材料としても登場する。
ミステリー作品では強盗殺人(に見える)のに被害者の高級腕時計が盗られてないのは不自然、普段着用している腕時計をなぜか着けていないなど時間と関係ない要素で関わってくることもある。

性別年齢を問わず身に付けられる、華美過ぎない限り身に着けていても全く怪しくない、フォーマルな場ならむしろ身に着けていて当然な装身具なため、何らかのギミックが仕込まれた腕時計は創作のみならず実在さえする。
ましてやフィクションであれば、武器からサポート用品まで実に多種多様。

また、腕時計自体が手首に固定して簡単に外れないことを求められることから、相手の自由を奪って意のままに操ることを目的とした拘束具として用いるといった側面もある。
例えばガンアクション系作品において、どこへ逃げても居場所がわかるよう発信機が内蔵されていたり、タイマーや衝撃、あるいは遠隔操作によって爆発するので従わざるを得ないようにさせるなどが代表例か。


阿笠博士の発明品の一つにして代表。
江戸川コナンが主に毛利小五郎に麻酔針を発射して眠らせ、眠った彼を使い推理ショー行う……という流れは最早日本人なら知らぬ者は居ないだろう。
詳細は項目にて。

MI6の諜報員、007ことジェームズ・ボンドの秘密アイテムといえば多彩な装備が詰め込まれた車「ボンドカー」が有名だが秘密機能付き腕時計もまた定番。
初期はロレックスだったが、セイコーを経て1995年の第17作『ゴールデンアイ』(ピアース・ブロスナン時代)からはオメガで統一されている。
秘密機能は作品にもよるがカッターだったりレーザーだったりと非常に多種多様。

これまた作品によって多彩な腕時計を使用している。
カリオストロの城』やPART4ではワイヤーが仕込まれた腕時計を着けていたが、他にも作品により様々。
『ヘミングウェイ・ペーパーの謎』ではご都合と言われればそれまでだがガイガーカウンターとしての機能を持った腕時計を着用しており、それがお宝の正体を暴く事に。

地下労働者は一日外出券を購入した枚数分の日数だけ地上への外出が許されるが、その際腕時計を着用させられ、かつ施錠される。
この腕時計は外出者が逃亡できないよう発信機を内蔵しており、地上にいられる残り時間も表示される。
なお残り時間のカウントダウンは外出者が公園などで目覚めたことを監視役の黒服が確認次第、遠隔操作にて開始する。

時間を止めてエッチなことをする作品やビデオでも腕時計は良く出てくるが、大体がやたらデカくて「STOP」としか表示されていないため時間を見れない時計になっている
半径20mだけしか止められないとか3回使うと自分が止まったりなどの欠陥品もあるが、概ね人間の動きを止めてエッチするだけの時計である。
ちなみに最初の方は「特捜戦隊デカレンジャー」の変身アイテムの「正拳変身ブレスロットル」が使われてたことで有名。

20世紀戦隊における定番の変身アイテムはブレスレットだったが、これは当時の子供達の憧れのアイテムが腕時計だったことに由来する。
そのため、初期の変身ブレスの玩具の多くは実際にデジタル腕時計としての機能も備えていた。
因みに、『未来戦隊タイムレンジャー』は番組そのもののデザインモチーフに時計が採用され、変身アイテムのクロノチェンジャーもブレス型だが、残念ながら玩具は12個のLEDを円形に配置して時計に見立てているのみで、腕時計機能はない。

一時期子ども人気がポケモンを超えていたレベルファイブのメディアミックス作品。
アイテムとしての妖怪ウォッチは名前通り腕時計で、メダルを挿入することでそのメダルに対応した妖怪を呼び出すことが出来る。作中で時計としての要素はかなり薄いが、ゲーム版では妖怪ウォッチの強化を時計屋が担当している。

探偵を題材とした第二期平成ライダーシリーズ第1作。
腕時計型のメモリガジェット スパイダーショック が登場し、前述のルパン三世同様、ワイヤー射出機能を持つ。
クモをモチーフにすることでワイヤー射出に一定の説得力を持たせている。

「時計」「時間」を題材とした第二期平成ライダーシリーズ最終作。
主人公の仮面ライダージオウを始めとした多くのライダーやフォームのデザインモチーフがズバリ機械式アナログ腕時計*40であり、針や文字盤だけでなくバンドの意匠も各部に盛り込まれている。
ジオウが仮面ライダーゲイツ及びウォズと合体変身して仮面ライダージオウトリニティになる際には、ゲイツ、ウォズ両名が腕時計状に変化してジオウの体側面に装着されるという、なんともシュールな演出が挟まれる。
なお、変身に使うアイテム、ライドウォッチは手持ちの懐中時計型だが、収納するためのライドウォッチホルダーは腕に装着されており、ここにライドウォッチを取り付けることで腕時計に見立てるデザインが秀逸。

1981年にSEIKOが発売した実在のデジタル腕時計「デジボーグ」を着用している*41*42
ムービー中でチラチラ映るだけでなく「ファントムシガー」でウォーホー……時間を進めるとタイマーとして文字盤が画面に表示される。

後にSEIKOのブランドWIREDとのコラボ企画として新川洋司氏のデザイン監修の下2500本限定で刻印・シリアルナンバー入り・新川氏描き下しイラスト付きボックスとセットで製造・販売された。
デジボーグ自体古く人気の高いモデルな上に希少性が合わさり、中古市場価格は途轍もない事になっている。

一部作品では腕時計型のデバイスによって呼び出し、操縦を行うものが存在する。
ビッグオー、ジャイアントロボなどが該当。
また、メダロットは上記の妖怪ウォッチのようにメダルを用いて機体の転送、指示を行う事ができる。
ファイバードには腕時計自体がロボットに変形するブレスレット型ロボ「リスター」も登場した。

主人公の夜神月は父・総一郎から貰った腕時計を常に身に付けている一方、その習慣を利用して腕時計にデスノートの切れ端を仕込む細工を施している。
普段の月は総一郎と共に大量殺人犯キラを追う捜査員だが、裏ではキラ本人として父からの信頼や情報を利用していることを踏まえると、腕時計は彼の二面性を象徴するアイテムと言える。

アメリカの時計技師「ジョエル・ギア」が、石器時代にまで後退した世界で即興で腕時計を作り上げた
彼の発明はその後も主人公たちを幾度も救うこととなる。

DDS生徒の装備品の一つ。
犯罪者に拉致された際の対策用に蝶の好むフェロモンを放つ追跡マーカーが仕込まれている。GPS機能とかじゃないのは作成者・鬼首独郎の拘りによるもの。
犯罪者との格闘の際に手首を守るという役割もあり、DDS講師の本郷巽は歴戦の証として傷だらけの腕時計を着けている。

  • B-SHOCK!
大学教授・桂深の開発した腕時計B-SHOCKは2個一組で一定以上離れると爆発する仕掛けがある。
学生からの人気が無い桂深が将来のゼミ生兼助手を確保するためB-SHOCKを無理矢理装着させられた学生・新と初音は1m以上離れられない不便な生活を強いられることになる。

  • 脱出アドベンチャーシリーズ
ニンテンドー3DSのダウンロード専用ソフト(現在は購入不可)・脱出アドベンチャーシリーズの主人公・時野若留は、万能腕時計クロノテクトを身に着けている。
これにはドライバーやナイフ、ルーペ等の時計修理用の工具が内蔵されており、フレームを捻る事で工具が出てくる。


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最終更新:2025年02月05日 09:04

*1 wristは手首、watchは懐中電灯も含めた携帯式時計

*2 カルティエやショパール、ショーメなどの老舗宝飾品店が時計も販売しているのはこのため。繊細な細工といえば金細工師の腕前は欠かせないものだったのだ。

*3 彼の名を関する時計メーカー「ブレゲ」も老舗の高級時計店としてその名を知られている。

*4 皮肉なことに自身の発明した航空機械が戦争に使われたことに絶望したデュモンは精神を病んでしまい、後に自ら命を絶ってしまう。

*5 特にジュネーブは時計の町と言われるほどの一大生産地として今日でも知られており、独自に設ける「ジュネーブシール」の基準に合格した時計は世界最高峰の逸品と称される。

*6 さすがに第一号となるアストロンの当初の価格は45万円(当時の軽乗用車並みの価格)と非常に高価であったものの、クォーツムーブメントの量産体制が整うにつれて急激に価格が下がっていった。

*7 ここが日本の非常に痛いところで、中国のような価格競争力もなければ、スイスのような歴史や格式高さもないという、何とも中途半端な立ち位置に追い込まれている。

*8 動力源となるゼンマイが収められた香箱車という歯車に近い順に2~4番車という。

*9 同じ長さの振り子ならウェイトの重さ、振れ幅に関係なく振れる周期は一定になるという性質。上述したガリレオの研究とはこれの発見のことである。

*10 ちなみにこれは先述した時計師ブレゲの発明品の一つ。

*11 これを姿勢差という

*12 ちなみにこれを開発したのもブレゲ。後述するが7大機構のうち特に高度とされる3大機構を開発したのがブレゲだったりする。

*13 現在一般に知られる懐中時計用の物を開発したのはやっぱりブレゲだったりする。それまで音で時刻を知らせる機構といえば大掛かりなからくり仕掛けが普通で、鐘楼時計のようなモニュメントや置時計に使われるものだった。当然懐中時計用ゼンマイはそれらよりも動力が弱く、また懐中時計の薄さではベルのような立体物を仕込むのも困難であったが、ブレゲは円形のゴングをムーブメントを取り囲むように配置することで解決した。腕時計に史上初めて搭載したのは後述するオメガ。

*14 例によって発明者はブレゲ。マリー・アントワネットからのオーダーで開発されたブレゲNo.160に搭載されたものが史上初とされる。

*15 厳密には現代で使われているグレゴリオ暦では100年に1回、閏日のない閏年が来るため、その日のみ修正が必要になる。もっとも100年に1度では生きているうちに目にすることはほぼないだろうが。現代ではさらにこのグレゴリオ暦に完全対応した究極のカレンダー機構も発明されている。

*16 ブレゲの名前に隠れがちだがこの人も大概な天才。何を隠そうリューズによる時刻合わせとゼンマイ巻き上げの機構を発明したのはこの時計師である。

*17 YouTubeでも試聴できるので是非一度お聞きいただきたい。

*18 さすがに生産終了した製品の部品など現存していないものの場合は代替品を使うか、そうでなければオーダーメイド制作になるため高額になる。

*19 長年GTワールドカップの冠スポンサーとなっていて「ブランパンGTシリーズ」という名称が、2024年になってもGTワールドカップという現名称より有名なため。

*20 正確にはこれまた老舗の超一流メーカーであるジャガー・ルクルトの時計技師と契約を結んでムーブメントを作ってもらい、カルティエはそれを収めるケースと装飾品としてのデザインを行った。後述するが当時の時計製造は部品ごとに分業化が徹底されており、それぞれ専門の職人に注文して製造してもらうのが一般的だった。

*21 もともとこのモデルは映画監督のジェームズ・キャメロンが潜水艇「ディープシー・チャレンジャー号」による潜水を行った際に制作された試作品で、製品名もそれに由来する。

*22 腕を動かしたり振ったりするときの慣性力を使ってローターと呼ばれる錘を回転させることで自動的にゼンマイを巻き上げる機構。

*23 日付が変わると同時に瞬時にデイト表示が切り替わるシステム

*24 腕時計用防水ケース。それまで腕時計は構造上完全防水を実現するのは不可能に近かったが、強固なねじ込み式裏ブタを採用することで実現した。

*25 スイスクロノメーター認定の略。ケースやムーブメントをスイス国内で全て製造すること、15日間の平均日差が-4秒~+6秒以内であることなど非常に厳しい条件を課され、これをクリアした時計は精度において世界最高峰の証であるクロノメーター認定を受けることができる。

*26 大阪府大阪市に本社が所在するファッションブランド。あからさまにフランク・ミュラーをパk…パロディしたデザインの時計を発表し、商標も取得したためマジギレしたフランク・ミュラー側に商標取り消しの訴えを起こされるも勝訴するという事件で話題になった。。

*27 文字盤に記された時間表示のこと

*28 平たく言うとクォーツ式と機械式のハイブリッド機構。動力はゼンマイだが調速機にクォーツを採用し、ゼンマイの力でコイルを動かして電磁誘導で発電してクォーツを振動させる。これによりクォーツ式のトルク(歯車を動かす力)の弱さを改善しつつ、その正確性だけを利用することができる。

*29 電波腕時計自体は1990にドイツで発明されたものが世界初。ただしこちらはドイツ国内の電波局にしか対応していなかった。

*30 誇大広告を疑われ、実際にNHLのプロ選手が同じように扱う検証が行われたとか、なお余裕で耐えた。

*31 当然だが本物と同じクオリティで作ってしまえば偽造品である意味がなくなり本末転倒なので、こういった一見して目につきにくい部分の処理を怠っていることが多い。

*32 針やインデックスバーの塗装などは高い技術力が無ければ適切に塗ること自体が難しい。塗料がはみ出している、逆にはみ出しを警戒しすぎて塗料を塗る範囲が狭い、塗り過ぎで針が太くなっているなどの特徴があった場合十中八九偽造品である。

*33 例えばロレックスのシリアルナンバーは一定の法則を知っていれば製造年代を割り出すことが可能となっている。また型番も新型旧型、文字盤カラーで異なっており、シリアルから割り出される製造年代と型番から推定される製造年代が矛盾している場合偽造品である可能性が高い。また同社のシリアルナンバーは旧型と新型とで刻印位置が違うといった特徴もある。

*34 重さや体積の問題から隠したまま長距離を逃げることが難しい上にいざ使おうとしても足が付きやすい金塊や札束に対し、隠し持ちやすく簡単に盗める上に売り捌いても足が付きにくい腕時計は窃盗事件の際真っ先に狙われる。

*35 シェアサービスとしての展開がそもそも虚偽で、最初から騙し取る目的で集めていた。

*36 特に時計の精度の決め手となる脱進機、とりわけその構成部品の中でも心臓部にあたるヒゲゼンマイを自社で開発できる企業ともなれば、3大ブランドやブレゲ、Aランゲ&ゾーネといった超一流メーカーくらいなものである。逆に言えばそれができる技術力があるからこそ理想を体現したオンリーワンの時計を作ることができるのであり、彼らを「超」一流の存在たらしめているのだ。ちなみにSEIKOもヒゲゼンマイを自社製造できる数少ない完全マニファクチュールメーカーの一つだったりする。

*37 他社製造の出来合い品のムーブメントを「エボーシュ」といい、自社製造を行わずにエボーシュを組み込んで製造するメーカーを「エタブリスール」という。

*38 カルティエの項でも触れたジャガー・ルクルトだが、実はムーブメントの製造供給メーカーとしての側面も持っていた。また、そもそも近代になってクォーツ式の時計が出現するまで時計と言えば機械式であり、部品もそれぞれ専門の職人が作って供給する分業体制が、一般的だった。その流れからすると、ムーブメントを自社開発できる企業が他社に供給する商売をするのは半ば当然のことだったと言える。

*39 いわゆるETA2010年問題では供給元のETAが「2010年を目途にスウォッチグループ以外の会社へのエボーシュの供給を漸減させ最終的に完全に停止する」と発表したことで大騒ぎになった。ETA製はエボーシュのトップシェアと言ってもいいほどの普及率で、自社製品がETA製ムーブメント頼みという中小零細メーカーは星の数ほどあったため、これらが大量絶滅の危機に瀕することになったのだ。

*40 デジタル腕時計がモチーフの仮面ライダーゲイツ、スマートウォッチがモチーフの仮面ライダーウォズ、時計塔がモチーフの仮面ライダーグランドジオウ等、一部例外もいる

*41 1984年が舞台のMGSV:TPPではこれを始めとして当時の時代に合わせたアイテムがいくつか登場している。

*42 ちなみに『007 オクトパシー』でもジェームズ・ボンドの腕時計として登場している。