Persecution of the masses(1172)/上陸

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Persecution of the masses(1172)/上陸 - (2017/06/29 (木) 01:18:17) のソース

&font(#6495ED){登録日}:2017/06/29 (木) 00:29:51
&font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red)
&font(#6495ED){所要時間}:約 7 分で読めます

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#center(){
&font(b,17px){「早く!」「逃げて!」}

&font(b,17px){「撮ってないで早く!」}

&font(b,17px){「はやくにげて!」}
}


「Persecution of the masses (1172)/上陸」は、特撮映画『[[シン・ゴジラ]]』で使用された音楽(劇伴)。作・編曲は鷺巣詩郎。
並びに、映像ソフト盤『シン・ゴジラ』におけるトラックチャプター6番のサブタイトルでもある。
本項では双方について記述する。

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**楽曲
恐らく、『シン・ゴジラ』の劇伴では&bold(){「Who will know (24_bigslow)/悲劇」}と並んで有名な曲。
「予告編1」でも使用されたことから、ファンからは事実上のメインテーマとして認識されている節がある。

「Persecution of the masses」を直訳すると&bold(){「大衆の迫害」}。
本編の描写と照らし合わせれば&bold(){「大衆を追いたてる存在」}と意訳できるだろうか。勿論、それはまぎれもなくゴジラのことだ。

不吉なピアノの旋律から始まり、弦楽器が不協和音のループを奏でていく。
やがて厳かな男性歌唱により、贖罪の讃美歌を思わせるコーラスが入る。
弦楽器が盛り上がると共にコーラスが再開し、クライマックスに向けてさらに盛り上がっていく。
不安と恐怖をかきたてる曲調で、観客を物語にぐいぐい引き込んでいく。……が、本編の描写と相まって、日本で度重なる災害を経験した人は、かなり重苦しい気持ちになってしまうのではないだろうか。

また、中旋律には初代『[[ゴジラ>ゴジラ(1954)]]』のラストシーン劇伴「海底下のゴジラ」で使われた旋律が盛り込まれている。
(ドシラ、ドシラのゴジラのテーマを引き延ばしたミレド、ミレドの音階)

サウンドトラック『シン・ゴジラ音楽集』収録版はフルテイク。トラックの出だしに、タイトルロールで流されたゴジラの足音・咆哮も録音されている。
ハイレゾ音源配信されている劇中使用版では、映画と同じ尺にカットされている。効果音も未収録。


***コーラス
歌詞は非掲載(の筈)だが、公開直後から懸命なリスニングが行われた。

 Persecution of the masses
 Sacred blessings count for nothing
 Oh God give us your protection
 Let no blame lie at the innocents
 Who have prayed
 If your high praise is all we have
 Let us not be without you


読み解くにはかなり大胆な意訳が必要かもしれない。様々な人が考察しているので検索検索ぅ!
ざっと訳するなら「迫害された民衆が主にすがる唄」と考えられる。


 42 : ななしのよっしん :2016/11/19(土) 21:48:41 ID: 427Rrld26v
 震災の夜の星空から「見上げてごらん夜の星を」が小さなリバイバルになって、
 そのあと「花が咲く」という新たな希望の歌が生まれたわけだけど、
 それは震災後に絶望を口にすると死にそうだったから。
 
 実際にはこの歌詞のような、悲痛の叫びが、あの時にもあった。
 何一つ罪も犯さず、真摯にまじめに生きた人も、そうでない人も区別なく、すべて押し流されていってしまった。
 何もなければ明日も日常があったはずなのに、神の大いなる迫害がすべて壊してしまった。
 
 この曲の歌詞は、あの時に叫べなかったセリフだ。
 
 (ニコニコ大百科 『Persecution of the massesについて語るスレ』 より)


ちなみにニコニコ動画では、東日本大震災の報道映像を切り貼りし、この曲を合わせた[[MADムービー]]が投稿されていたりする。
割とシャレにならないくらいにマッチしているので、余り当時を思い出したくない人は観ない方がいい。



**チャプター
なお、この曲が『シン・ゴジラ』劇中で初めて流れる劇伴である。
それまで14分間にわたって延々状況報告と対応会議を見せられてきたこともあり、劇場で観た人の中には、ようやく何かが始まるのではとワクワクした人も多いのではないだろうか。そのワクワクは10秒後に打ち砕かれるのだが……。


&font(#ff0000){以下、本編ダイジェストと捕捉解説。ネタバレ満載なので注意されたし。}

















#center(){
&font(b,White,#000000){11月3日 11時32分}

&font(b,White,#000000,15px){東京都大田区 蒲田}
}

JR蒲田駅前大通りを、無数の人々が走っていく。皆口々に「&bold(){逃げろ}」「&bold(){逃げて}」と叫んでいる。&font(#0000ff,u){&font(#ffffff){このとき映るバスの運転手は実は庵野監督である。}}
乗り捨てられた車の間を必死にかけていく人々。転倒する人もいる。一体何事か?
一方、我々スクリーンの前の観客は期待に胸を躍らせる。遂に、遂にゴジラの雄姿が再び銀幕で見られるのだ。
なんか人々のパニック描写を見ると、[[いつぞやの白目ゴジラ>ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃]]や[[戦略自衛隊の攻撃>Air(THE END OF EVANGELION)]]の様な凄惨な描写になるのかもしれないが、とにもかくにも再びゴジラが見られるのだ。さぁ画面が変わった――


&bold(){――お前は誰だ?}
茶色い。這いずっている。長い首の先には死んだ魚の目。よく見ると前足がない。背びれだけはゴジラっぽい……?
&bold(){本当にコイツはゴジラか? ゴジラに潰される雑魚怪獣なのか? いや、確か東宝は「今回はゴジラ以外の敵怪獣は出ない」とアナウンスしていたのでは?}
公開当時、恐らく全ての観客が絶句したに違いない。この後、この深海魚と芋虫が合体したような謎の生物こそがゴジラだったと明らかになるのだが、何せ公開当時はこの「第二形態」について一切の情報公開が行われていなかったのだ。
ここで既存のゴジラ像、ゴジラ映画のセオリーを打ち砕かれた観客は、この&bold(){「巨大不明生物」}が何をするのか、得体の知れない感情をもって見守ることになる。作劇のアイデアの勝利と言えよう。



舞台は首相官邸に戻る。急遽会見が中止された会見室では、新人の新聞記者がスマートフォンを片手に立ちすくんでいた。記者ー! 仕事仕事ー!


#center(){
&font(b,White,#000000,15px){首相官邸 地下通路}
}

大河内総理大臣らは官邸地下の危機管理センターへ歩く。報道官の原稿をアドリブで改変し、「巨大不明生物は上陸しない」と断言した直後の蒲田上陸。
全国民の前でとんでもない恥をかき、ふて腐れる大河内。しかし済んだ事はもういいと怒鳴り、現状を把握しようとする。


そうこうしている内にも、巨大不明生物は蒲田駅前から更に移動を始める。重みで舗装がボコボコになっていく。
時折、エラからは赤い体液がドバドバと溢れだしている。どこか痛々しいが非常にキモい。
ちなみにこの体液は非常に高温(という設定)。撮影初期にはこの体液で自動車のタイヤが次々にパンクしていくシーンも検討されていたが、予算と尺の関係でカットされている。


危機管理センターに戻った大河内に、郡山内閣危機管理監は「緊急災害対策本部の設置」を上申。きりっとした顔で了承する大河内。
さて、これでいよいよ自衛隊出動かと思いきや――

#center(){
&font(b,White,#000000,15px){巨大不明生物に対する}
&font(b,White,#000000,15px){緊急災害対策本部の設置に関する閣僚会議(第一回)}
}

「&font(#008000){――設置に関する閣僚会議を終了します。では皆さん、これで}」(一同起立)
この期に及んで4階の大会議室まで全閣僚がいちいち戻り、意味があるのか疑わしい会議を開いている。
しかも自衛隊の「じ」の字も出ない。最早、たちの悪いブラックジョークに思えてくる。


#center(){
&font(b,White,#000000,15px){首相官邸4階 廊下}
}

大量の資料でパンパンのカバンと、分厚いキングジムのバインダーを下げた首相秘書官と内閣広報官達も、猛烈な早歩きをしながら口々に愚痴っている。
「&font(#0000ff){効率が悪いがそれが文書主義だ。民主主義の根幹だよ}」



00時14分。東官房長官の記者会見が行われる。この時点で&bold(){40分}ほど、現在進行形で無駄にしていることになる。
都内の人々は一斉にスマホにかじりつく。大田区の人々は一斉に見物に乗り出す。
ドワンゴ本社(ロケ地)の人々も屋上に上り、遠くで上がる一直線の噴煙を撮影しはじめる。

「&font(#008000){――安全に対して万全の対策を講じ、速やかな避難活動を実行するため、都庁及び関係省庁との――}」
どこか空虚で、現実味のないアナウンス。しかし、巨大不明生物は黙々と歩き続け、木造家屋を粉砕していく。
&font(#dc143c){ペシャンコになった自動車の下から、人間の足が突き出ている――}


大臣たちは官邸地下危機管理センター・幹部会議室で空撮映像を食い入るように見ている。巨大不明生物は時速13kmで品川区へ向かう。
&bold(){「意外と遅い」}と漏らす菊川環境相に、矢口官房副長官は&bold(){「3時間あれば首都圏を縦断する」}と答える。
関口文科相はぽつりと一言&bold(){「東京は意外と狭いし脆いからなぁ」}。この映画において、基本的に関口大臣はどこまでも他人事の人である。

皆、動揺を隠せない。被害に狼狽える河野総務大臣。早急な駆除を主張する金井防災担当大臣に、避難優先を訴える花森防衛大臣。郡山管理監は避難・搬送先の確保指示を出す。


#center(){
&font(b,White,#000000,15px){東京都新宿区 東京都庁第一本庁舎}
&font(b,White,#000000,15px){同・9階 災害対策本部}
}

「&font(#ff7f50){官邸より、当庁に対するシャドウ・エバキュエーションを考えた避難処置の指示を受理しました!}」
混乱する災害本部にアナウンスが響く。果たして「シャドウ・エバキュエーション」なる用語が使われた映画が今まであっただろうか。
黙々と職務を果たす職員たちだが、小塚都知事と川又副知事が入室すると一斉に起立し、一礼する。ザ・日本人。
当の小塚知事は避難指示の遅さを愚痴るが、巨大生物が動き回る災害という想定外の状況では避難区域も指定できず住民の自主避難に任せるしかない。歯がゆい表情でモニターを見る。


#center(){
&font(b,White,#000000,15px){東京都品川区 国道15号 第一京浜}
}

「&font(#ff7f50){この信号は止まっています。ただちに降車して、警察官の指示に従って行動して下さい}」
信号停止によってグリッドロック状態になった幹線道路。人々は愛車を捨て、誘導に従って避難していく。
「&font(#ff7f50){区内全域に、避難指示が、発令されました。住民の方は、直ちに避難してください}」
警察官が懸命に避難誘導を始める。消防団員が路地裏の老人を迎えに行き、歩道橋を渡る人々を誘導する。
その頃、遂に国道15号にやってきた巨大不明生物は、放棄された自動車を長い頭で押しのけかき分けはね飛ばし、のたうつ様に前進していく。
&font(#dc143c){まるで津波のように。}


あるマンションの一室が映る。避難指示に気付くのが遅れたのだろうか、父親が子供の身づくろいをしつつ、母親を急かしている。
その時、巨大不明生物がマンションに衝突。ただひたすらに前進する巨大不明生物は迂回もせず、マンションをよじ登っていく。
屋上に達し、乗り越えようとした瞬間、マンションの支柱は重みに耐えきれず圧潰。震災で倒壊した高速道路の様にボッキリと折れ、傾いていく。
&font(#dc143c){一家は室内を滑り落ち、押し寄せる家具に飲みこまれていく。母親の悲鳴は轟音にかき消され、凄まじい噴煙が全てを覆い尽くす――}


再び、都庁9階・災害対策本部。小塚都知事の堪忍袋の緒が切れた。
「&font(#ff7f50){公安委員会に連絡を取ってくれ。政府が動かないなら、都から有害鳥獣駆除として、自衛隊の治安出動要請を出すしかない}」


同時刻、官邸地下危機管理センター・オペレーションセンターの片隅。各省庁のリエゾン(仲介・連絡要員)が調整用会議卓に集まっている。
このシーン、画面全体にびっしりと黒字テロップが表示される。初見では必死に目で追ってしまった観客も多いのではないだろうか。
映されていたのは自衛隊法の条文であった。

&bold(){防衛省リエゾン}「&font(#0000ff){遂に治安出動か}」
 第六章 自衛隊の行動(要請による治安出動)第八十一条
 都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には、
 当該都道府県の都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる。
 2 内閣総理大臣は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等の出動を命ずることができる。
 3 都道府県知事は、事態が収まり、部隊等の出動の必要がなくなつたと認める場合には、
   内閣総理大臣に対し、すみやかに、部隊等の撤収を要請しなければならない。
 4 内閣総理大臣は、前項の要請があつた場合又は部隊等の出動の必要がなくなつたと認める場合には、
   すみやかに、部隊等の撤収を命じなければならない。
 5 都道府県知事は、第一項に規定する要請をした場合には、事態が収つた後すみやかに、その旨を当該都道府県の議会に報告しなければならない。
 6 第一項及び第三項に規定する要請の手続は、政令で定める。
&bold(){内閣府リエゾン}「&font(#0000ff){それより、第七十六条の武力攻撃と解釈して防衛出動の方が武器使用に対応し易いんじゃないか}」
&bold(){内閣官房リエゾン}「&font(#0000ff){武力攻撃と解釈するのは難しい。七十六条では武力攻撃を加えてくる主体を、国、または国に準ずるものと想定している。防衛出動は出せない}」
 (防衛出動)第七十六条
 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態
 又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、
 我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
 この場合においては、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律
 (平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。 
  一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は
    我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態
  二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、
    国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
 2  内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
&bold(){経産省リエゾン}「&font(#0000ff){今はそんなことを議論している時じゃないだろう。どうみても自衛隊しか事態に対処できない}」
 (命令による治安出動)
 第七十八条
 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、
 治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
 2 内閣総理大臣は、前項の規定による出動を命じた場合には、出動を命じた日から二十日以内に国会に付議して、
   その承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、
   その後最初に召集される国会において、すみやかに、その承認を求めなければならない。
 3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があつたとき、又は出動の必要がなくなつたときは、
   すみやかに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
&bold(){防衛省リエゾン}「&font(#0000ff){だがそれは、市街地で自衛隊が戦闘を始めることになる}」
&bold(){警察庁リエゾン}「&font(#0000ff){恐らく、総理は渋るよな}」


一体何をしているのかと思えば、それぞれの法知識を総動員して&bold(){「どうすれば現政権が合法的に自衛隊を動かせるか」}を議論していたのだ。
……これまでのゴジラ映画や、思い切りのいいハリウッド映画を観ていると「この期に及んでこいつらは何をしているのだ」と思えてくる。特に海外のゴジラファン達は何を思うのだろう?
&font(l){ちなみに、映画を鑑賞した石破茂・元防衛大臣は「別に防衛出動扱いにせずとも有害鳥獣駆除でドンパチして全く問題ない」と言い切っていたりする(あくまで石破氏個人の見解である)。}


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音楽はここで終わる。はたして総理の決断は? 巨大不明生物はどうなるのか?
チャプターはこの後も続くが、この後は実際に本編を観賞するなり、メイキング本『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』の付録台本でチェックするなりしてほしい。






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