レイコ変身の巻(こち亀)

登録日:2023/03/25 Sat 11:56:00
更新日:2023/05/11 Thu 11:19:08
所要時間:約 10 分で読めます




レイコ変身の巻」は、漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のエピソードである。単行本第185巻に収録。




◆概要

ある事情により特殊メイクでマツコ・デラックスのような外見に変身した麗子
お馴染みのスレンダーな美形から太った醜い姿へと変貌した彼女は、普段浴びることのなかった周囲の冷たい視線にショックを受ける。
そんな中、唯一人親切に手を差し伸べる男がいた…。

連載後期に掲載されたこの回は、「美しさと醜さ」「外見と中身」という少々難しいテーマを、両津ならではの人情に溢れた言動や女性観とともに描いている。作中で両津が語る「女性にとって大切な事」についても注目。




◆ストーリー

「美人」と「そうでない人」なら、どちらを選ぶか?
いつもの公園前派出所にて、両津達はそんな議論を交わしていた。

両津と本田が断然美人と即答する一方で、麗子と中川は「そうでない人の方が性格が良さそう」と答えた。
その理由は見た目より内面が好印象ないわゆる「性格美人」の方がいいからとの事だが、これに両津は猛反論。
そもそもモデルをこなすほどの美形コンビが「性格を重視」などと言っても説得力がないからだ。


たとえばモデルの仕事で…
彼女は性格美人だからと言って!
通ると思うのか!!

差別はよくないわ

お前らが差別しているんだろ!

内面はもとよりルックスにおいても非の打ち所のない麗子達の持論は、顔のせいで悲惨な境遇にある両津率いる「不細工組」の神経を逆撫でするのだった。本田には菜々がいるからいいだろ!


両津がヒートアップする中、この日お芝居の出演を控えていた麗子は迎えの車に乗り込み、派出所を後にした。
ファッションモデルから経営者まであらゆる顔を持つ才色兼備の麗子は、舞台女優としても活躍。やはり美人という特権は多方面において強いようだ。




「池袋小劇場」にて稽古に励む麗子や劇団員達。
ところが出演者の一人である「ビッグママ」役の中原がカゼで欠席なのだという。
そこで急遽、麗子が代役に抜擢される。ビッグママの分のセリフも覚えていたため彼女は快く引き受けた。

衣装合わせにかかるが、20キロもあるウエイトベストを装着させられる。肥満体であるビッグママの動きをリアルに表現するためらしい。さらに顔面から全身に至るまで特殊メイクを施される。

こうして、小顔で細身の麗子は、ずんぐりとした大きく太った体型の女性へと変身。とてもあの麗子には見えないほどの別人ぶりに団員達も驚く。

リハーサルにおいても迫真の怒り演技を披露。
幼少期から習っていたバレエの経験や、普段ジムでバーベルを上げて鍛えていた体力が大いに役立った。まあ、本気でキレると両津でもワンパンでブッ飛ばすぐらいだし…。
20キロも重りが付いている中、軽快なアクションをこなし周囲からも拍手喝采を浴びる。

そんな中、観客の小学生達が遅れるらしく、開演時間が一時間延長されることに。仕方なくメンバー達も一時間休憩を取る。
麗子は一同のためにコーヒーの買い出しに出掛けた。



どうかしたのかしら?
みんなの見る眼がいつもと違うわね?

…それも無理はないだろう。今の麗子は、あのモデル体型の美女ではなく「ビッグママ」なのだから。
特殊メイクに身を包んだまま街を闊歩する姿を、道行く人達とすれ違う度に怪訝な目で見られるのだった。本人も重さに慣れてしまったばかりにこの姿のままで外へ出てしまった事に気が付かなかったらしい。

普段から周囲の人から熱い視線を浴びるのには慣れっこな麗子だが、この時は明らかに「違う眼(・・・)」で見られてしまっている事に気付き始める。
申し訳程度に購入したサングラスで「変装」を試みるが余計怪しげな風貌に…。

そんな調子で行きつけのコーヒーショップに到着した麗子。
顔馴染みの店員にカフェラテ10人分を注文するが…やたら冷たく投げやりな態度で商品を渡されてしまった。

普段ならとても愛想良く接してくれる店員でも、外見が違うだけで180度異なる態度を取る事実に、さすがの麗子も困惑してしまう。


私の友人もみんな同じかも…


「見た目で差別するのはよくない」と考えてきた彼女に一抹の不安が…。

と、ここで段差に引っ掛かり躓いた麗子は勢い良く転倒。運んでいたコーヒーも全てこぼしてしまう。自重には慣れても、体型のせいで足下がよく見えていなかったのだ。
おまけにうつ伏せのまま、うまく起き上がることができない。周りにも客や店員がいるはずだが、誰一人助けてくれず、麗子は困り果ててしまう。

その時だった。



おい
大丈夫か

(あっ 両ちゃん!!)


麗子に声をかけたのは、両津だった。

麗子の体をゆっくりと起こしてやる両津。散乱したコーヒーカップも回収してくれた。

その様子を見て麗子は気が付いた。
どうやら彼もまた、自分の正体に気付いていないようだ。


両津はさらに新しいコーヒーをサービスしてくれるよう店員への交渉まで引き受けてくれるのだった。



意外だわ
この姿なのに親切ね

先ほどまでこの外見のために冷たい態度を取られショックを受けていた麗子。あの時、「美人がいい」と断固主張していた両津の意外な行動に唖然とする。


新しく10人分ができるまで、2人はサービスのミニコーヒーを飲みながら待機することに。
まるでちょっとしたデートのようで麗子は不思議な感覚に。

聞くところによると、アニメファンの友人(本田)と待ち合わせの最中、フラフラした足取りでコーヒーを運ぶ光景が目に入り、見るに見かねて助けたのだと言う。

そう経緯を話す両津に麗子は問い掛けた。


でも本当は美人の方がいいんでしょ?


突拍子もなくこのように訊かれ、思わずコーヒーをむせ返る両津。


変な事聞くなよ

そりゃ美人の方がいいけどよ!

あくまで女は美人が一番である点は譲れない様子。
(やっぱり……)とむっとする麗子だったが、両津は続けた。


外見は別として
女は愛嬌だと思うよ


男は度胸!女は愛嬌って
昔から言うだろ!

なんたって笑顔が宝だよ!


自身の母・よねも、見た目こそ難有りだが愛嬌が取り柄であり、父・銀次はそんな彼女の魅力に惚れて結婚したと語る。

両津の女性に対する価値観を知り、麗子ははっとする。

さらに両津は、同じ署で勤めている、美人だが高ビー、金持ちで知的でどこかイヤミな婦警の事を「本人」の前で言い募る。
さすがに言い過ぎだと顔をしかめる麗子だったが…。


…でも時々考えるんだよ

あいつが下町生まれだったらなって…

パリに生を享け、大手貿易商の父と世界的ファッションデザイナーの母の下、神戸で育った麗子。
そんな彼女がもし両津と同じ浅草で生まれ育ち、お互い幼馴染みとして幼少期を謳歌していれば、気風のいい上品な下町娘に育っていたのではないかと以前から想像していたのだという。

今まで決して語る事のなかった、両津の意外な本音を知った麗子。

そんな会話を交わしているうちに新しいコーヒーが出来上がる。両津は麗子の代わりに運んでやることに。
現場へ向かう中、彼女との会話で盛り上がる両津。
店の前で両津とすれ違った本田には「デブ専」と誤解されてしまうのだった。


翌日、池袋で「ある舞台女優」と知り合ったと語る両津。


外見はマツコDX系なんだけどさー
妙に気が合って性格美人(・・・・)なんだよ!

昨日あれほど「水と油を混ぜた言葉」とまで否定していた「性格美人」と仲良くなったと語る両津。
「麗子と同じ劇団にいる」と知った両津は、「彼女と3人で食事に行こう」と麗子に話を持ちかける。


あの子(・・・)忙しいのよ
なかなか会えないと思うわよ

最後まで彼女の正体が麗子である事に気付いていない両津に真相を告げるべきか戸惑う麗子。
中川は「美人がいい」と強く主張していた両津が「マツコ似の女」を気に入ることを珍しがるのだった。



◆余談

  • 度々言及されていた両津の女性観、そして麗子に対するちょっとした本音を窺い知ることのできる回。困っている人を外見で判断せずに率先して助け、初対面でも親身になって話し相手となってくれる両津のさり気ない人情が濃厚に描かれたエピソードでもある。破天荒で金が絡むと暴走しがち、そして敵に回せば恐ろしい存在だが、基本的には「誰にでも公平」な両津の人柄が表れている。

  • 両津は「シンデレラは美人だから幸せになれた」発言で知られる、第85巻「新説桃太郎!の巻」においても、美醜の違いから生じるルッキズムを批判している。「シンデレラ」の「王子」のように男はとかく外見で判断しがちという真理を突いたように、両津本人もまた男として「美人」というステータスを捨て置くわけにはいかない主義であると認めている。だが、外見だけが全てではないことも同時に理解しており、何より本人も「不細工」の自覚があり引く手数多な美男美女の後輩を2人も身近に擁する立場にあるからこそ、外見がもたらす格差について人一倍強く思う所があるのだと見て取れる。
    もっともこの2人は美形以前にスペック諸々が異次元だが。




見た目の美しさだけにとらわれない愛嬌たっぷりな追記・修正をよろしくお願いします。



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最終更新:2023年05月11日 11:19