笑ってないのに歯が先に笑った。手が拍手してるのに音が出ない、音が先に逃げた。部屋の角が増えて、四つじゃ足りないって泣いてる。昨日の私がドアをノックして、今日の私が中に入れてあげない。順番がぐちゃぐちゃ、時計が舌を出して、秒針を噛んでる。うるさいから静かにしてって言ったのに、静けさだけが返事をした。目を閉じたら天井がまぶしくて、開けたら目がいなくなってた。誰の視界？どこから見てる？壁の裏で誰かが私の呼吸を数えてる。数が合わない。呼吸が多い。私がひとり多い。影が足りない。足音が先に曲がる。笑い声が後ろを歩く。ああ、思い出した。ここ、部屋じゃない。中身のない皮の中。あの靴の音、私のじゃない。ほら、また笑ってる。まだ歯が。
