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名人伝

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名人伝

Civilization4初心者ニコニコスレ part19
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/game/1260104513/377

「名人伝」 中島敦
青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/621_14498.html)より

本文

お菓子の小屋に住むとある開拓者が、シド星第一の覇者になろうと志を立てた。
己の師と頼むべき人物を物色するに、当今シド星に国を作っては「国王」に及ぶものがあろうとは思われぬ。
100タイルを隔てて戦争をするに百戦百勝するという達人だそうである。
開拓者は遥々国王を訪ねてその門に入った。

国王は新入の門人に、まず奴隷制を学べと命じた。
開拓者は川べりに行き、灌漑に立って、そこで鍬を振り続けた。
生かさず殺さずで凝っとハンマーを出そうという工夫である。
理由を知らない市民は大いに驚いた。第一、延々といたぶられるのは困るという。
厭がる市民を開拓者は無視して、無理に鍬を振り続けた。
来る日も来る日も彼は農場に立ち、緊急生産しながら斧スタックを重ねる。
30ターンの後には蛮族戦士に出くわしても絶えて慌てることが無くなった。
彼はようやく隣国に挑戦する。
もはや、弓兵が出てきても動じぬようになっていた。
敵国首都に突入しても、丘の上に都市防衛持ちが居ても決してスタックが足りないことはない。
生産都市の生産必要ターンはもはや本来の役目を忘れ果て、
(3)と表示されている時でも次のターンには生産が完了されている。
ついに隣国のルーズヴェルトを平らげるに及んで、彼はようやく自信を得て、師の国王にこれを告げた。

それを聞いて国王が言う。
奴隷制のみではまだ制覇には足りぬ。次には、小屋を建てよ。
小屋経済に熟して、さて、アップグレードすること昇進の如く、
宝石を見ること石材のごとくなったならば、来たって我に告げるがよいと。

開拓者は再び都市に戻り、その中から市民を選び出して、これを小屋に配置せしめた。
そうして、それを絶やさないように、終日成長させ続けることにした。
毎ターン毎ターン彼は小屋に配置し続ける。
始め、もちろんそれらはコインの2枚しか生産しない。
2,3ターンたっても、依然として2枚である。
ところが10ターン余り過ぎると、気のせいか、
どうやらそれがほんの少しながら3枚のコインを生産してくるように思われる。
40ターン目の終わりには、明らかに5枚入りの袋が混じるようになってきた。
都市の外の風物は次第に移り変わる。
茂っていた森林の木々はいつしか+30ハンマーに変わり、
相互通商を結んだ大商人が国境を渡って行ったかと思うと、
はや、宗教創始国家が別の宗教創始国家との関係を悪化させる。
開拓者は根気よく、小屋の中でコインを生産し続けた。
そのコインも何千と生産されていくうちに早くも100ターンの月日が流れた。
ある日ふと気が付くと、コイン+の都市改善が全て揃っていた。
占めたと、開拓者は膝を打ち、表へ出る。彼はわが目を疑った。
斧兵は歩兵であった。弓兵は機関銃兵の如く、航空ユニットは爆撃機と見える。
雀躍して都市にとって返した開拓者は、再び国境に立ち向かい、
長距離砲を山積みして都市防衛を破壊すれば、
歩兵は見事に都市を奪取して、しかもユニットは1つも消耗しない。

開拓者は早速師の許に赴いてこれを報ずる。国王は胸を打ち、
初めて「でかしたぞ」と褒めた。そうして、直ちにCivの定石経済を余すところなく開拓者に授け始めた。

内政に200ターンもかけた甲斐があって、開拓者の国力の上昇は、驚くほど速い

奥儀伝授が始まってから、10ターンの後、試みに開拓者がモンテに挑戦するに、すでに百戦百勝である。
20ターンの後、いっぱいにライフルを積んだスタックに爆撃を入れてから殴りかからせるに、
防衛ユニットは消耗せず、しかも都市防衛の昇進さえも必要としない。
30ターンの後、防御80%の都市攻略を試みたところ、
海軍の砲撃により1ターン目に0%になり、続いて爆撃した空軍は過たず副次損害を与え、
さらに間髪入れず陸軍が占領する。
陸海空軍相属し、陸海空軍相及んで、都市攻略は必ず成功するが故に、
絶えて反撃をくらうことがない。
瞬く間に、百体のユニットは一体の如くに相連なり、
首都から一直線に続いた進行のその最後の都市は屑立地が如くに見える。
傍で見ていた師の国王も思わず「善し!」と言った。

60ターンの後、たまたま発見したばかりの小島に行って蛮族といさかいをした開拓者が
これを威そうとて長距離砲に歩兵を添えて蛮族都市に送り出した。
スタックは蛮族槍兵の脇を横切って都市を落としたが、
槍兵は一向に気づかず、降伏もしないで槍を掲げ続けた。
けだし、彼の至芸による進軍の速度と戦術の精妙さとは、実にこの域にまで達していたのである。

もはや師から学びとるべき何物もなくなった開拓者は、ある日、ふとよからぬ考えを起こした。

彼がその時独りつくづくと考えるには、
今やCivをもって己に敵すべきものは、師の国王をおいて外にない。
シド星第一の覇者になる為にはどうあっても国王を除かねばならぬと。
秘かにその機会をうかがっている中に、一日偶々ジャングルにおいて、
向こうからただ一人歩み寄る国王に出会った。
とっさに意を決した開拓者が干してパスを知らせれば、
その気配を察して国王もまたマウスを執って相応ずる。
二人互いにRをかければ、スタックはその度に野戦となり、ともに丘陵森林に陣取った。
国王のスタックが尽きた時、開拓者の方はなお歩兵の1体を余していた。
得たりと勢込んで開拓者がその歩兵で前進すれば、国王はとっさに、
生産都市で歩兵を徴兵し、空輸でもって発止と防御体制に移行した。
竟に非望の遂げられないことを悟った開拓者の胸に、
成功したならば決して生じなかったに違いない道義的慙愧の念が、このとき忽焉として沸き起こった。
国王の方ではまた、危機を脱しえた安堵と己が技量についての満足とが、
異教信仰、国交断絶、開戦宣言、スパイ容疑等に対する諸々の憎しみをすっきり忘れさせた。
二人は互いに駆け寄ると、核でできた砂漠の真ん中に相抱いて、暫し美しい師弟愛の涙にかきくれた。
(こうした事を今日の道義観をもって見るのは当らない。
宗教気違いのスペインのイザベラがいまだ国教のないプレイヤーに改宗を求めた時、
言われたプレイヤーは全方位土下座の勢いでこれを受け入れた。
16ターンめに隣国を見つけたインカのカパックはそのターンに、
隣国の都市を三度襲うた。すべてそのような時代の話である。)

涙にくれて相擁しながらも、
再び弟子がかかる企みを抱くようなことがあっては国土が甚だ危いと思った国王は、
開拓者に新たな目標を与えてその気を転ずるにしくはないと考えた。
彼はこの危険な弟子に向って言った。
最早、伝うべき程のことは悉く伝えた。
なんじがもしこれ以上この道の蘊奥を極めたいと望むならば、
ゆいて西方の新大陸に渡り、とある都市を訪れよ。
そこには天帝老師とて古今を曠しゅうする斯道の大家がおられるはず。
老師の技に比べれば、我々のプレイの如きは殆ど児戯に類する。
なんじの師と頼むべきは、今は天帝師の外にあるまいと。

開拓者はすぐに西に向って旅立つ。
その人の前に出ては我々の技の如き児戯に等しいと言った師の言葉が、彼の自尊心に堪えた。
もしそれが本当だとすれば、シド星第一を目指す彼の望も、まだまだ前途程遠いわけである。
己が技が児戯に類するかどうか、
とにもかくにも早くその人に会って腕を比べたいとあせりつつ、彼はひたすらに道を急ぐ。
4ターンの後に彼は漸く目指す新大陸に辿りつく。

気負いたつ開拓者を迎えたのは、資源が羊や米など食料しかない、
しかも1都市のみの小国であった。兵力は己が2割をも超えていまい。
資源が貧しいせいもあって、国境は隣国に押されそうになっている。

相手が目指す国の属国かも知れぬと、大声に遽だしく開拓者は来意を告げる。
己が技の程を見て貰いたい旨を述べると、
あせり立った彼はいきなり背に控える輸送艦に号令を出して蛮族都市に向かわせた。
そうして、蛮族都市に横付けすると、
折から都市を守備しているマスケットの群に向って狙いを定める。
指示に応じて、海兵隊が上陸し忽ち人口5の都市が鮮やかに落とされた。
「一通り出来るようじゃな」と、天帝が穏かな微笑を含んで言う。
「だが、それは所詮、戦之戦というもの、好漢未だ不戦之戦を知らぬと見える」。

ムッとした開拓者を導いて、天帝は、其処から5タイルばかり離れた隣国との国境まで連れて来る。
相手は文字通りの戦争狂い、凶犬の如きギリシャの帝王、
遥か遠方に豆のような小ささに見える現代戦車の巨大スタックを一寸覗いただけで
忽ち眩暈を感ずる程の戦力である。
その国境から半ば向こう側に乗出した丘の上につかつかと天帝は駈上り、振返って開拓者に言う。
「どうじゃ。この丘の上で先刻の業を今一度見せてくれぬか」今更引込もならぬ。
天帝と入代りに開拓者がその丘を履んだ時、現代戦車は微かにこちらを向いた。
強いて気を励まして都市に向けて右クリックしようとすると、
ちょうど逆の国境から機械化歩兵が攻め入って行った。
その行方を目で追うた時、覚えず開拓者は丘上に伏した。
脚はワナワナと顫え、汗は流れて踵にまで至った。
天帝が笑いながら手を差し伸べて彼を丘から下し、自ら代ってこれに乗ると、
「では戦というものを御目にかけようかな」と言った。
まだ動悸がおさまらず蒼ざめた顔をしてはいたが、開拓者は直ぐに気が付いて言った。
「しかし、兵はどうなさる? 兵は?」天帝は守備隊を残せば空手だったのである。
「兵?」と天帝は笑う。
「兵や砦の要る中はまだ戦之戦じゃ。不戦之戦には、兵も砦もいらぬ」。

ちょうど彼等の真横、国境の極めて近い所に1つの都市が国王感謝祭を開いていた。
その胡麻粒ほどに小さく見える花火を暫く見上げていた天帝が、
やがて、外交画面を開き、都市委譲を俎上に載せれば、
見よ、ギリシャは対案も乗せず都市を石材の如くに割譲するではないか。

開拓者は慄然とした。今にして始めてCivの深淵を覗き得た心地であった。

150ターンの間、開拓者はこの老名人の許に留まった。
その問如何なる修業を積んだものやらそれは誰にも判らぬ。

150ターンたって海を渡り戻って来た時、人々は開拓者の顔付の変ったのに驚いた。
以前の負けず嫌いな精悍な面魂は何処かに影をひそめ、何の表情も無い、
木偶の如く愚者の如き容貌に変っている。
久しぶりに旧師の国王を訪ねた時、しかし、国王はこの顔付を一見すると感嘆して叫んだ。
「これでこそ初めてシド星の覇者だ。我儕の如き、足下にも及ぶものでない」と。

お菓子の小屋は、天下統一の名人となって戻って来た開拓者を迎えて、
やがて眼前に示されるに違いないその妙技への期待に湧返った。

ところが開拓者は一向にその要望に応えようとしない。
いや、BtSのDVD-ROMさえ絶えて手に取ろうとしない。
海を渡る時に携えて行ったマウスも何処かへ棄てて来た様子である。
そのわけを訊ねた一人に答えて、開拓者は懶げに言った。
「至為は為す無く、至言は言を去り、至制は制することなし」と。
成程と、至極物分りのいいお菓子の小屋の人士は直ぐに合点した。
Civを執らざるCivの名人は彼等の誇となった。

様々な噂が人々の口から口へと伝わる。
毎夜三更を過ぎる頃、
開拓者の家の屋上で何者の立てるとも知れぬパパパパパウワードドンとの音がする。
名人の内に宿る政道の神が主人公の睡っている間に体内を脱け出し、
蛮族を払うべく徹宵守護に当っているのだという。

開拓者の都市に忍び入ろうとしたところ、
国境に足を掛けた途端に一基のICBMが都市の中から奔り出てまともに自国の首都を打ったので、
覚えず降伏したと白状したスパイもある。
爾来、邪心を抱く者共は彼の都市の3タイル四方は避けて廻り道をし、
賢い野生動物共は彼の国境からの視界内を通らなくなった。

名人開拓者は次第に老いて行く。
既に早くCivを離れた彼の心は、益々枯淡虚静の域にはいって行ったようである。
木偶の如き顔は更に表情を失い、PCを起動することも稀となり、
ついにメッセ仲間では生死さえ疑われるに至った。
「既に、自国と他国との別、満足と不満との分を知らぬ。
戦士は弓兵の如く、弓兵はチャリオットの如く、チャリオットはスパイの如く思われる。」
というのが、老名人晩年の述懐である。

天帝師の許を辞してから160ターンの後、開拓者は静かに、誠に煙の如く静かに宇宙へ脱出した。
その160ターンの間、彼は絶えて戦争に口を挟むことが無かった。

口を挟みさえしなかった位だから、兵士を執っての活動などあろう筈が無い。
勿論、寓話作者としてはここで老名人に掉尾の大活躍をさせて、
名人の真に名人たる所以を明らかにしたいのは山々ながら、
次のような妙な話の外には何一つ伝わっていない。

その話というのは、彼の脱出する12ターン前のことらしい。
或日老いたる開拓者が知人の許に招かれて行ったところ、その都市で1人のユニットを見た。
確かに見憶えのある格好だが、どうしてもその名前が思出せぬし、その用途も思い当らない。
老人はその都市の主人に尋ねた。
それは何と呼ぶユニットで、又、何に用いるのかと。
主人は、客が冗談を言っているとのみ思って、ニヤリととぼけた笑い方をした。
老開拓者は真剣になって再び尋ねる。
それでも相手は曖昧な笑を浮べて、客の心をはかりかねた様子である。
三度開拓者が真面目な顔をして同じ問を繰返した時、始めて主人の顔に驚愕の色が現れた。
彼は客の眼を凝乎と見詰める。
柏手が冗談を言っているのでもなく、気が狂っているのでもなく、
又自分が聞き違えをしているのでもないことを確かめると、
彼は殆ど恐怖に近い狼狽を示して、吃りながら叫んだ。
「ああ、夫子が、――古今無双のCivの名人たる夫子が、
労働者を忘れ果てられたとや? ああ、労働者という名も、その使い途も!」

その後当分の間、シド星では、大芸術家は絵筆を隠し、
大商人は財布の紐を断ち、大技術者は規矩を手にするのを恥じたということである。

コメント

  • なにこれ --
    - 俺はこういうの好き --
    - 偉大な芸術家が沸いたのか。 どういう経緯があったのか知りたいな --
    - 恥じたということである。まで読んだ --
    - おもしろいけど中島敦の古風な --
    - ↑中島敦の古典節とあいまってちょっと読みづらい --
    - 中島敦、懐かしいな。良くこの分量パロったねw --
    - さすがに適切な改行をして欲しい --
    - 上手い。けど改行がしんでるのが惜しい --
    - これは素晴らしい完成度。書いた人乙。 --
    - このwiki全体に言える事だけど、1024x768できちんと見えるようにして欲しいなあ --
    - この民族叙事詩のおかげでこのwikiにも偉人が沸くレートも2倍だな! --
    - スパ帝老子の下に赴かなくて良かった。 --
    - 一行目で読むのを諦めた。改行くらいきちんとしてくれ。 --
    - 改行しつつ若干文節を修正してみました。これで多少読みやすくなったかな? --
    - 居ても立ってもいられず改行しまくってみた。これで文句はあるまいて --
    - ようやく読めた。ありがとう。 --
  • スパ帝が朗読してニコ動に上げやがった --
  • スパ帝なにしてるんだw --
  • スパ帝から --
  • 中島敦コピペとか初めて見たわww --
  • どうやって勝ったんだww --
  • まぁ確かに労働者が最強のユニットだよな --
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