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ルサルカ・シュヴェーゲリンの受難

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二百年は優に超える生涯の中で。
ここまで最悪な巡り合わせの日はそうはなかった。
白昼の中、二人の殺人者(マーダー)に狙われた魔女は心中でそう吐き捨てた。


「それもっ!これもッ!全部乃亜が悪いんだわッ!」


逃げる幼女の姿をした女──ルサルカが憤りながら人喰影を敵に向けて伸ばす。
倒せるとは元より思っていない足止めの為だ。
背後に迫る、雷を放つ白銀の髪の少年から逃れるための迎撃手段だった。
常人を遥かに超えたルサルカの脚力を持ってしても降り切れない速度。
獲物を追い詰める獰猛さがヴィルヘルムを彷彿とさせる子供。
会敵の際名前を尋ねると、彼はゼオンと名乗った。


「フン」


ルサルカの抵抗を鼻で笑い、修羅の雷帝がその手の大刀を振るう。
突風が吹き抜けた様な音が響き、ルサルカの放った食人影が薙ぎ払われる。
否、それだけではない。魂で作った食人影達は、振るわれる刀に“食われて”いた。
恐らく、あの大刀は相手の魂を斬り結ぶだけで吸収できる聖遺物なのだろう。
それの意味する所は即ち、ルサルカは能力を使えば使う程消耗していくが。
逆に敵は、ルサルカから吸収したエネルギーをそのまま継戦に扱えるということだ。
シュライバーやメリュジーヌ程ではないにせよ、難敵と言う他なかった。


「ザケル!!」
(……っ!こんな、時に………ッ!)


反撃として飛んでくる雷を必死に躱して、思考を巡らせる。
状況は頗る付きで悪い。
損傷こそ仙豆で治癒したが、ルサルカの身体には未だ鋭い痛みが走っている。
恐らくメリュジーヌの攻撃が、自身の聖遺物に僅かに被弾していたのだろう。
未だ肉体が崩壊する気配が無い為僅かに掠った程度の損傷だろうが、痛みは一向に引かず。
そんな劣悪なコンディションで、二人の手練れを相手にしなければならない。
運が無さ過ぎて乾いた笑いすら出てくる始末だった。


「このォッ!!」


再び食人影がゼオンに向けて殺到する。
真正面から勝負した所で、一瞬で剣に打ち払われてお終いだ。
変幻自在の食人影の波状攻撃だからこそ、目の前の少年の足止めとして機能している。
とは言え、本当に足を止めるための障害物以上の約張りは果たせていないが。


「下らん」


だがやはり、彼女が操る魔術と鎬を削る大刀鮫肌の相性は芳しくなかった。
食人影を形作る魂が削り取られ、強度を保てないのだ。
加えて、剣の担い手の少年の技量も年齢を考えれば驚異的と言える水準の物。
多大なる才能の持ち主でも、血反吐を吐くほどの修練を積んで至れる領域だ。
ルサルカは少年の技巧を見てある人物を想起する。
聖槍十三騎士団黒円卓第五位、ベアトリス・キルヒアイゼンを。
黒円卓の中でも最高峰の剣技を誇った彼女に比べればまだ技巧的には幼い。
時折放つ雷撃も、存在を雷そのものに変える事ができるベアトリスには劣る。


(でも───今の私が勝てるかって言うと別問題なのよねぇ……!)


そう、彼に目の前の少年がベアトリスには劣っても。
それでルサルカが勝てるかと言えば別の話だ。
彼女の本領はあくまで権謀術数を用い、罠を張り巡らせた状態で行う戦争なのだから。
劣悪なコンディションで行う遭遇戦など、彼女が最も避けたい条件下だった。



(この子だけでも厄介なのに───)


ルサルカの劣勢を加速させている要因は、それだけではない。
放たれる雷を転がる様に躱し、間髪入れずバッと半身になりながら起き上がった瞬間。
雷の合間を縫い、ルサルカの身体を貫かんと殺意が飛来する。


「クソッ!」


超人たる黒円卓の反射神経と身体能力をフルに発揮し。
顔面に突き刺さる筈だった魔力の込められたナイフを躱していくものの。
完璧には避けきれず、避けきれなかった紅い長髪が斬り落とされてしまう。
パラパラと地面に落ちていく女の命を目にして、思わず毒を吐いた。


「毎日トリートメントしてるのよ!?」


子供には分からない苦労でしょうけどね!と、吐き捨てる暇すらない。
兎に角走らなければ、次は本当に命を失うのだから。
人を遥かに超えた身体能力で疾走するが、背後の殺戮者達は平然と追従してくる。
このままではジリ貧だ。


(どうする……!?)


創造さえ決まれば、目の前の少年には勝てるだろう。
しかしそれにあたって問題が二つある。
一つは相手が二人の為、一度の発動で両方を仕留められるか分からないこと。
補足できている状態ならルサルカの創造は二人纏めて術中に嵌める事ができるが。
目の前の少年とは違うもう一人───ナイフ使いの方が問題だった。
此方の方は戦闘を開始してからロクにルサルカの前に姿を現していないのだ。
今も少年の後方、白いマントの影に隠れて常に補足されない様に立ち回っている。
それでいてルサルカの反撃は正確に回避してのけており。
間違いなく素人ではない。こと殺しの腕に関してはプロだ。
創造を使ったとしても補足しきれず、相打ちになる可能性がある。

もう一つは相手が間髪入れずに攻め立ててくるため、創造の詠唱の時間が取れない事だ。
単純な事ではあるが、逃走と応戦をしつつ詠唱を行うのは不可能。
ある程度纏まった隙を作らなければ話にならない。


(と、なると……後残る選択肢は……!)


自身の能力の他に斬れるカードはもう一つある。
ブックオブ・ジ・エンドだ。
空間に罠を仕掛けた過去を挟む戦法は、あまり期待できない。
ゼオンもまた、メリュジーヌの様にマントで飛翔する術を備えているし、
振るわれる大刀の効果で、仕掛けた罠ごとエネルギーにされてしまう。
だが直接斬った効果はメリュジーヌにも通じた。一撃入れればまず間違いなく隙は作れる。
今振り返ればメリュジーヌに効果を発揮した時に創造を使っていれば。
もしかすれば、勝利していたのは自分だったかもしれない。
今更言っても仕方ない事だし、今考えるべきは現在進行形の苦境を切り抜ける方法だけど。


(──形成で攻撃しつつ反転して、距離を詰めてからこの刀を使う。
そして相手が混乱したところを創造で一気にカタを着ける!)


瞬きの間に作戦を組み上げる。
選択肢が少ない為どうしても単純な方法にならざるを得ないが、通す自信はあった。
何しろ、ここまでずっと逃げの一手を撃って来たのだ。
既に相手はルサルカを敵ではなく狩りの獲物として見ている筈。
となれば、敵手は既に此方の戦意を完全に奪った物として展開しているだろう。
その隙を突く。大規模な形成の攻勢で気を引いてから、一気に進行方向を反転。
フェイントで一気に距離を詰めた後、本命であるブック・オブ・ジ・エンドを使用する。
毛先の一本でも触れればいいのだ。条件はそう難しくない。
ブック・オブ・ジ・エンドを何方か一方に発動すれば同士討ちすら狙える。
そうでなくても混乱に乗じて創造を発動するのは十分可能だろう。



(一番いいのは刀を使った後にそのまま逃げられることだけど……!)


依然としてシュライバーやメリュジーヌの脅威は健在だが。
かといって出し惜しんでそのまま抱え死んでは間抜けすぎる。
そんな愚行を真なる魔女たる自分が犯す筈もない。
真の強者は、カードの切り時を見誤らない。


「ザケルガ!!」


槍の様に迫ってくる雷撃を、屈んで躱す。
今迄の雷撃より威力は強力そうだが、軌道が直線的過ぎる。
これならば、先ほどの雷撃の方が余程厄介だった。
だが、チャンスだ。ここで一気に身を翻す!!


「喰らいなさい!」


わざと大仰に叫び、これから行うのは強い攻撃だと印象付ける。
事実逃走にリソースを割いていた先ほどまでより強い攻撃なのは間違いなく。
それ故に、本命を隠す良い目くらましとなる。
向こうは立ち止まった此方に構わず突っ込んでくる、好都合だ。
彼我の距離は二十メートル程、瞬きの間に詰まる距離。勝負をかける。



「形成(Yetzirah───イェツラー)血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)!」


ルサルカにとって唯一幸運と言えたのは、形成が連続使用可能だった事だろう。
もしシュライバーの様に形成すら数時間のインターバルを必要としていれば…
勝敗はとっくに決していたのは間違いなく。
巨大な鉄の乙女と夥しい数の量の鎖が現れ、少年へと殺到する。
常人であれば恐怖を通り越して絶望する血と殺意の波濤も。
修羅の雷帝には歩みを止める理由にはならない。


「レードディラス・ザケルガ!!」


巧みに操られる雷撃のヨーヨーが、拷問器具の群れを迎え撃つ。
爆発音めいた轟音が響き、大気を揺らす。
さしものゼオンの雷でもその全てを相殺する事は出来ず、生き残りの鎖が彼の首を狙う。
だが、これで討ち取れるならとっくにルサルカは勝利を掴んでいる。
その想定の確かさを示すように、迫る攻撃に対しゼオンは即座にヨーヨーを放棄。
大刀を片手で軽々振るい、残存の拷問器具全てを薙ぎ払った。
ここまで先ほどまでの焼き直し。重要なのは、これからだ。


「───ここッ!」


雷撃を掻い潜り、その手の栞を刃に変えて。
ルサルカは刀の間合いに入る事に成功した。
いけると思った。掠るだけでも此方の目的は達成できるのだから。
ここまで懐に入り籠めれば当てるには十分。
躱せるとしたらそれはシュライバーやメリュジーヌくらいだろう。
更にナイフ使いの方も完全に射線が重なっているため手出しできない。
同士討ちになる可能性が非常に高い、射線が重なった状況だからだ。
もしナイフを投げたとしても、ゼオンの背が盾となり自分には当たらない。


(フフ……親友になるか恋人になるかお姉ちゃんになるか……貴方は何がいい?)


栞にしていたブック・オブ・ジ・エンドを戦闘態勢に移行。
ここまで空間に罠も張らず、温存しておいた成果を今こそ見せよう。
過去を挟み同士討ちを誘発すれば、ナイフ使いはどれだけ狼狽するだろうか。
敵手の狼狽えた顔を想像して、思わず笑みが零れる。
その瞬間の事だった。卓抜した技巧とタイミングでまたしてもナイフが飛来したのは。



「……チッ!」


飛んできたナイフを剣で打ち払う。
折角の好機。この程度でおじゃんにするわけにはいかない。
その意志の元遂に刃の切っ先を突き出す。
ナイフに対処した一瞬を突き、ゼオンはルサルカに空いている片方の手を向けるが。
最早手遅れだ、例え雷撃を受けてもこのまま押し切る。
ベアトリス程では無いとは言え、黒円卓の魔人でも受ければダメージは免れない雷だが。
それでもこれが決まれば殆ど勝利のため、一発なら割り切って耐えてやろう。
そんな覚悟を胸に放たれたルサルカの刃が、敵手へと迫る────


「えっ」


ここで計算違いが起きた。
幻影のような霧が、ゼオンの五体を包んだのだ。
距離感が狂い、霧を吸い込んだ途端立ち眩みの様な眩暈を覚える。
間違いなく魔術による攻撃。
それも魔道に精通した自分でも即座に対処するのは難しい水準の物だ。


(───それでも、この距離なら!)


だがそれでも既に自分は刀の間合いに入っている。
ほんの一秒感覚を狂わされたところで誤差の範囲内だ。
軌道を修正するまでもない。何も問題はない。
一秒の誤差に食い込む様に少年がこちらに手を向ける。
また電撃が来る。だが、この距離なら大技を放つには近すぎる。
今までの威力であれば心の準備はすでに済ませた。重ねて問題はなく。
来る痛みに備え、歯を食いしばりながら最後の一歩を踏み込む!


「ジケルド」

ルサルカが踏み込んだのと、少年が言霊を放ったのはほぼ同時だった。
そして、切っ先が触れる前の刹那。コンマ数秒の差で。
少年の掌から発生した球場の力場が、先んじて刃に着弾し。
着弾の瞬間、ゼオンに届くはずだった刃の進行方法がグリンッ!と明後日の方角を向く。
刀が向いた方向は、巨大な鉄製の看板がある方向だ。
メリュジーヌとは違い、ゼオンの髪が短かったことが災いした。
加えて突進という攻撃そのものが、前方からの干渉には強いが、横からの力には弱い。
故に超人の身体能力を有するルサルカでも、軌道を即時修正するのは不可能だった。
結果、無防備な横腹を雷帝ゼオンの前に晒すことになる。


「テオザケル」


雷光が轟き、魔女の思考と肉体を容赦なく灼き。
ブック・オブ・ジ・エンドも付近に取り落としてしまった
この瞬間ルサルカは、己の敗北を認識した。



▽▲▽▲


劣悪な肉体的コンディション。不得手な遭遇戦。
武装特性の相性の悪さに、数の不利。
様々な要因から敗北を喫し、アスファルトの上にへたり込んだ上で。
それでもルサルカは底を感じさせない、不敵な表情を作り。
堂々と、自身を下した少年に話を持ち掛けた。


「───ねぇ、坊や?どう?私と組まない?」


艶めかしく泰然とした態度で、魔女は自信を下した二人組に共闘の打診を行う。
その様は幼児に敗北したとはとても思えない程自信に満ちたもので。
百年を超える生涯の中で培った老獪さが発揮されていた。



「私は皆でお手て繋いで脱出何てキャラじゃないしぃ。自分が助かればそれでいいのよね。
だから私が助かるためなら、君たちと一緒にマーダーをやっても全然オッケーってわけ☆」


語るその言葉には本心と虚偽が織り交ぜられていた。
まず自分さえ助かれば後はどうなっても良い、というのは彼女の偽らざる本心だ。
だが、彼女は現時点でマーダーをやるつもりがなかった。
何故なら、マーダーとして優勝を目指すという事は、つまり。
あの狂人ウォルフガング・シュライバーを下して優勝を目指すという事に他ならないから。
目の前の少年は強い。如何に雷を扱っても、ベアトリスを想起するのは尋常ではない。
だがそれでもシュライバーには敵わない。それがルサルカの見立てだった。
故にこれはこの場を切り抜けるための方便。
少し隙さえ作ってしまえば、簡単に手玉にとれる。彼女はそう確信していた。


「私もこの島に来てからかなり溜まってるしぃ、見逃してくれるなら役に立つわよ?」


色々とね?
そう囁く声は思春期の少年なら思わず胸が高鳴る妖艶さ、艶めかしさを秘めていて。
更に、総身に巡らせた魔力は魔女が実力者である事を如実に示す。
目の前の少年は、此方の力量も測れない愚鈍な凡夫と違う。
少なくとも、組んで損はない。そう思わせる事ができるはずだ。
ルサルカはそう考えていて、事実その予測は正しかった。
醸す色気は幼いゼオンにとってどうでも良かったが、実力については疑っていない。
絶望王などの自分に迫る強者がいる以上、戦力は多いに越したことはなかった。


「フッ、話が早いな。いいだろう」


ニィ…とサメのように並んだ歯を覗かせて。
笑みを浮かべながら、ゼオンはルサルカの申し出を快諾。
了承の言葉を聞いた瞬間、ルサルカは心中でほくそ笑んだ。
これで一瞬でも警戒が緩めば、付け入るスキは十分ある。
一時的に敗北を喫しても、所詮少年とは年季が違う。
そう、立ち回り次第では。
逆にシュライバーやメリュジーヌにぶつける削りとして利用してやることも──



「────丁度、試したい術があったところだ」



は?
そんな惚けた声をルサルカが発するのと同じタイミングで。
ゼオンは現状に最も適した呪文を唱えた。


「バルギルド・ザケルガ」
「───っ!?」


殆ど零距離の間合いで、雷光が煌めく。
咄嗟に躱そうとルサルカは身を翻すものの、距離が近すぎた。
当然の如く、放たれた呪文は直撃する事となる。



「きゃああああああああああぁあああああ゛あ゛あ゛ッ!!!」



直撃した電撃は、容赦なくルサルカの瑞々しい肌を灼いた。
じゅうじゅうと肉が焦げ、喉が張り裂ける勢いで悲鳴が周囲に木霊する。
五秒…十秒…二十秒……雷の勢いは一向に落ちない。
それどころか、時間が経つごとに勢いが増してすらいた。



「この雷はお前の身体がボロボロになるまで電撃の苦痛を与え続ける」
(かっ…解呪!解呪、しなきゃ………!)


百年以上魔道に手を染めてきたルサルカだ。
威力を増していく電撃に苛まれながらも、何とか呪文の解析と解除を試みようとする。
だが、できなかった。雷は、彼女の意識をも灼いていた。
もしこれが、他者にかけられた物であれば彼女は問題なく解除できただろう。
しかし例え遍く問いに、瞬時に解を導く答えを出す者(アンサートーカー)であっても。
ゼオンの雷はその思考力を容赦なく灼き、雷を受けている間は証明不能となった。
ルサルカもまた、未来でゼオンの雷を受けた答えを出す者の少年と同じ状態に陥っており。
思考できれば対抗策も用意できただろう。だが対抗策を用意する為に考える事ができない。
しかもその状態がもう一分以上続いているのだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「痛みで気絶する事も許されない。
体が壊れる前に限りなく増していく雷の激痛で心の方がぶっ壊れる」


つまり、この痛みを味わいたくないならお前は俺に従うしかないわけだ。
そう言って、ゼオンは凶悪な笑みでルサルカに告げた。


「が…あ゛……あ………っ゛」


三分経ってようやく、ぐしゃりとルサルカの身体が崩れ落ちた。
評価を訂正。このガキ、ベアトリスよりよっぽどタチが悪い。
そう考えた余裕は、直ぐに再び押し寄せた電撃の痛みの波濤に飲み込まれた。



「この痛みを味わいたくなければ…そうだな、二人殺して首輪を持ってこい。
そうすれば奴隷じゃなく下僕として扱ってやるさ」



前提として、ゼオンは目の前の雌猫の事をまるで信用していない。
それどころか戦闘を開始してから、ルサルカの思考は彼に筒抜けだった。
マーダーとして手伝う、という言葉が方便であることも。
シュライバーやメリュジーヌなる強者と自分をつぶし合わせようとしていることも。
ブック・オブ・ジ・エンドという刀が彼女の切り札ということも、全て把握していた。
頭に被った、さとりヘルメットという支給品で。
短時間の間ではあるが、装着すれば相手の心を読み取れると説明書に書いてあった道具。
ゼオンも記憶の読み取りや消去はできるが、相手が無抵抗でなければできない。
しかしさとりヘルメットは装着するだけで相手の思考を読み取れる。
それは策謀をこそ武器とするルサルカに敵面の効果を発揮していた。
だからこそ、バルギルド・ザケルガの使用に躊躇なく踏み切ったのだ。


「ジャック」
「はーい。なに?」


既に効果の切れたヘルメットをランドセルに戻し、ゼオンはもう一人の下僕に声をかける。
「おー、コゲコゲ」と意識の朦朧としたルサルカを枝で突いていた幼女。
ジャック・ザ・リッパーは呼びかけられてキョトンとした顔で向き直る。
その表情にはルサルカの拷問に加担した後ろめたさは全く宿っていなかった。
そんな彼女に、ゼオンは無言であるものを手渡す。


「俺の雷の力を籠めた結晶だ。念じるだけで雷の激痛を呼び起こすことができる」
「へぇ……ねぇねぇ!使ってみてもいい?」
「あぁ」
「ありがと……えいっ!」

「っ!?が…!があああああああッ!があああああああッ!!」


まるで玩具を妹に買い与える年の離れた兄妹のようなやりとりと共に。
ルサルカの身体を、再び発狂しそうな超激痛が襲う。
雷から解放されたばかりの身体に塩を擦り込む所業に、ルサルカは悲鳴を上げた。



「あはははははっ!面白~い!!」
(こ、のクソガキども……)


のたうち回るルサルカの様が面白かったのか、ジャックは無邪気に、酷薄に笑う。
対するルサルカはプスプスとモノが焦げる音を響かせ、屈辱の極みにあった。
黒円卓に名を連ねる私が、シュライバーなんて狂人の同僚と殺し合いをさせられ。
メリュジーヌにさんざんボコられた傷を癒して早々に。
こんな精通もしてない様なクソガキ共にいいようにされているなんて!
その事実だけで狂い死にしそうな屈辱だった。
だが、当然彼女をそんな状態に追いやった元凶二人がルサルカの心境を慮るハズもなく。
冷酷に、下僕が置かれた最悪の現状と、そこから解放されるための命令を繰り返す。


「いいか、お前の身体に常に雷の激痛を流し続ける。もし命令に背くことがあれば……
このジャックが、一瞬でお前を廃人にするレベルまで痛みの強さを引き上げる。
そんなことになりたくなければ、お前は俺の言うことを聞くしかない、分かるな?」


ゼオンは読心を行った際にルサルカが魔道に長けている事も把握していた。
故に、呪文を勝手に解呪されるリスクを下げるために痛みは常に行動ができる閾値付近に。
余計なことに思考を割けない状態にまで常に追いやる。
そして、その気になればお前など一瞬で廃人にできると脅しをかけ。
それが嫌ならお前は生存者の首輪を持ってくるしかないと突きつけた。


「く…そ……」


二度目の放送を迎えようとしているこの局面。
既に参加者間の顔も割れつつあるだろう、そんな時勢に。
二人も参加者を殺せば、後戻りできなくなる。
マーダーとして歩むほかなくなり、なし崩し的に少年に協力せざる得なくなる。
別にマーダーに身を落とす事については何とも思っていない。
人を殺す良心の呵責など、魔女は持ち合わせていないのだから。
だが、ゼオンは自分を使い潰すことを躊躇しないだろう。
そして、対主催からも見捨てられてしまえば、自分は完全に孤立し。
シュライバーもいる以上、生き残りの芽は完全になくなる。


(何で……私ばっかり、こんな目に………)


少なくともこの島では悪事は何一つ行っていないというのに。
自分ばかりこんな災難が降りかかるのか、乃亜を呪いたい気持ちで彼女の胸は満ちていた。
誰でもいいから助けて欲しい。あとシュライバーを何とかしてほしい。
助けてくれたら男だろうと女だろうと、この身体を抱かせてやってもいい。
だが、そんな都合のいい奇跡(ヒーロー)に助けを願うには。
彼女の魂は既に汚れ過ぎていたし、彼女自身にもその自覚があった。
だから、彼女はこう言うしかない。


「わか……った………わ………
でも、少し……時間を、ちょうだい」
「あぁ、放送までは傷を癒すがいい。
もう死んでる奴の首輪でやり過ごされてもウザいからな。
お前に働いてもらうのは死者の確認を行ってからだ。まずは偵察からだ。さぁ行け」


当初の予定通りシュライバーやメリュジーヌをけしかける選択肢は棄却する。
考えてみれば、二人はルサルカを殺してからゼオン達を襲うだろう事が予想されるから。
だから、今思いつく選択肢は二つ。
弱そうな対主催に怪我人のフリをして近づき、二人を殺して術を解かせるか。
それとも、強そうな対主催に救助を乞い、ゼオン達を打倒してもらうか。
このどちらかに命運を賭けるしかない。
近くに落ちていた刀を支えに、よろよろと立ち上がり命じられるままに歩き出す。
超人たる黒円卓の肉体だ。放送までの二時間程で戦闘可能なまでには回復するだろう。
だが、体には常に雷の痛みが第二の首輪の様に体を苛んでいる。
自力での呪文の解除はやはり困難と認識せざるを得ない。
だが、それでも。




「諦める……もんですか……この程度で………」



ルサルカの精神は未だ健在だった。絶望すらしていない。
絶対に、切り抜けて見せる。生き残って見せる。
クソガキ共を惨たらしく殺していない。
メリュジーヌを足元に跪かせていない。
ずっと追い求めていた、そしてやっと糸口を掴んだ願望の成就を成し遂げていない。
だから終わる訳にはいかない。それも、この程度の苦境で。



「───■■■■………」



苦痛に苛まれながら、うわ言の様にもう覚えていない誰かの名を呼ぶ。
彼女自身はその名が何なのか、最早認識できてはいないだろうが。それでも呼んだ。
掠れ、消えかけた所にブック・オブ・ジ・エンドの過去で塗りつぶされた愛しい記憶。
それでも、その名を追いかける事だけは諦めない。
だからこそ、かつて黒円卓の双璧たる副首領も彼女を選んだのだろう。
淀み、穢れ、大地に堕ちきってなお、星は星。
きっと命果てる時まで、その瞬きを消す事などできはしない。




▽▲▽▲



生まれたての小鹿の様な足取りで、ルサルカが歩いていく方向を眺めながら。
開口一番、ジャックが気にしたのは彼女の持っていた刀の事だった。


「よかったの?あの刀だけでも取り上げておかなくて」


ジャックから見ても、あの刀には妙な力を感じた。
ほぼ間違いなく、サーヴァントの宝具に匹敵する代物だ。
回収しておけば、きっと戦力となっただろうに。
そんな思いから口に出た問いかけだった。
ゼオンは彼女のそんな問いに対し首肯で応える。


「あぁ、あの刀はこのままこの女に使わせる」


ゼオンも、ルサルカの振るっていた刀がただならぬ一刀である事は承知していた。
彼女のランドセルから奪った説明書と、読心によって得た情報。
その二つと照らし合わせると、この刀は非常に強力な精神操作…
否、過去の改竄の効果がある事は分かっていた。
同時に、ゼオン自身はこの刀を使うつもりは無かった。
右天と言う道化が用いて居た、失意の庭と同じ厄物の気配を感じ取ったからだ。
恐らく、開示されていないリスクが存在する。迂闊に使うわけにはいかない。
何しろ結果的に精神に作用するのだ。精神汚染など受ければ深刻な影響を受けかねない。
女の能力は把握した。刀の間合いに入らず、このまま使わせ続けるのが最も適当な扱いだろう。


「不服そうだな、何か文句があるのか?」
「なんでもなーい……あのビリビリ、私たちに使わないでね」
「それはお前の働き次第だ」


本来であれば折角手に入れた戦利品だし、自分の物にしたくてジャックは不満げだった。
だから気安い態度を取っていたが、口答えはしない。
彼の機嫌を損なえば魔女を灼いた呪文が、自分に向けられることになるかもしれない。


そんなのは御免だ。
あっさりと引き下がり、話題を方向転換する。


「それで、これからどうするの?」
「今はあの雌猫が獲物を見つけるまで待ちだな。それまでは…腹ごしらえでも」
「ごはん!」


主の言葉を食い気味に、ジャックは声を上げた。
食い意地の張った奴だと思いながらも、彼女の前にゼオンは掌を水平に開く。
その手には、ある植物の種があった。
灰原哀から奪い取った支給品にあった、畑のレストランと言う名の種だ。


「何が喰いたい。この種を植えておけば、食いたい物が中に入った大根になるんだそうだ。
今から植えておけば、飯時には実ができると説明書には書いてあった」
「へぇー…!凄いね!じゃあじゃあ、ハンバーグ!ハンバーグ食べたい!」
「いいだろう。じゃあこれを丁度いい場所に撒いてこい」


その命令にはーい!と元気よく返事をして、ジャックはシュタタタと駆けて行く。
王たるもの、飴と鞭だ。いずれ殺しあう事が約束された間柄ではある物の。
最初から指示に従う気のない雌猫と違って、ジャックはある程度重用してもよかった。
バルギルド・ザケルガを見せたのだ。叛意を挫く鞭としては十分だろう。
そしてこれが飴となるなら、安いモノだ。


(比較的従順ではあるが、奴も俺の首を狙っている事に変わりはない)


ルサルカとジャックの相違点は、マーダーのスタンスを取っているかどうかでしかない。
懐いている風に見えても、彼女がついて来ているのは自分に利用価値があるからだ。
もし無くなれば、彼女は一切の呵責なく自分を切り捨てるだろう。


(もっとも、それは俺の方も同じだがな)


ジャックを雷で脅さずそれなりに重用しているのは、彼女が優秀だからだ。
お荷物になったり、マーダー行為に消極的になればルサルカの様に使い潰すつもりでいる。
だから、彼女が此方の寝首を狙っているとしても、それはお互い様。
その時に至るまでは、これまで通り従順であるなら、雷で従わせたりはしない。
恐怖政治は手っ取り早いが、必要以上に反感を買う。
ジャック以上の手駒を見つけたりをしない限りは、今の同盟に近い関係を維持。
それが彼の決定だった。



「さて………」



ルサルカの身体にはゼオンの髪の毛で作った分身を取り付けてある。
これであの女の居場所は把握可能だ。簡単な命令なら下せるようにもプログラムした。
勝手に取り外せば、即座に最大の苦痛を与えられる事になるのはあの雌猫も分かるだろう。
後は、雌猫の斥候の成果を食事でもしながら待てばよい。
だが、その前にもう一つ。



「───お前はどうかな」




ヒュッ、と。風を斬って。
投擲された刀を、鮫肌で事も無げに弾く。
すると弾かれた刀はくるくると宙を舞って。
まるで示し合わせた様に、投擲した少年の手へと舞い戻った。



「真実(マジ)ィ?気づいてるとか思わなかったわ~!」


きゃっきゃっと道化の様な所作で。
いつの間にか、ゼオンの背後に少年が立っていた。
気づいたのは、ついさっきだ。
まずジャックが気づき、その時の表情の変化からゼオンも遅れて気づいた。
単独であっても気づいていただろうが、タイミングはもっと遅れただろう。
目の前の少年は一見ただの馬鹿のようであるが。
ただの馬鹿にそんな芸当ができる筈がない。
確信と共に、ゼオンは問いかけた。


「……それで、何の用だ?」
「ン~☆そんなんお前も勿論(モチ)で分かってんだろォ?」


ニっと欠けた歯を覗かせて。
顔中にガムテープを巻き付けた怪人。
殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)は王として。
次の瞬間には自らを雷で灼きかねない修羅の雷帝に相対し、不敵に微笑んだ。


「ボクチン、オメーと友達(ダチ)になりたくてさァ。会いに来ちった☆
先ずは今のマガジンに載ってる連載で好きなの教えてよ~ォ」


ぎらぎらと淀んだ輝きを放つその瞳は。
支給品など使うまでも無く、殺す側の存在である事を示していた。




【E-2 /1日目/午前】

【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、ジャックと契約、魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、ランダム支給品5~7(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
0:さて、こいつは使えるか…
1:ジャックを上手く使って殺しまわる。
2:雌猫(ルサルカ)で釣りをする。用済みになれば雷で精神崩壊させる。
3:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
4:ジャックの反逆には注意しておく。
5:ふざけたものを見せやがって……
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。

【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、探偵バッジ×5@名探偵コナン、ランダム支給品1~2、マルフォイの心臓。
[思考・状況]基本方針:優勝して、おかーさんのお腹の中へ還る
1:お兄ちゃんと一緒に殺しまわる。
2:ん~まだおやつ食べたい……
3:つり、上手く行くかなぁ?
[備考]
現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。カルデア所属ではありません。
ゼオンと仮契約を結び魔力供給を受けています。
※『暗黒霧都(ザ・ミスト)』の効果は認識阻害を除いた副次的ダメージは一般人の子供であっても軽い頭痛、吐き気、眩暈程度に制限されています。

【輝村照(ガムテ)@忍者と極道
[状態]:全身にダメージ(中、腹部に大きなダメージ再生中)、疲労(中)
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×10@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:さァて、生存(イキ)るか死滅(くたば)るか。
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
5:じゃあな、ヘンゼル。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。



【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】
[状態]:全身に鋭い痛み (中)、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)、バルギルド・ザケルガのスリップダメージ(大)、メリュジーヌに対する妄執(大)、ブック・オブ・ジ・エンドによる記憶汚染
[装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae、ブック・オブ・ジ・エンド@BLEACH
[道具]:基本支給品、仙豆×1@ドラゴンボールZ
[思考・状況]基本方針:今は様子見。
0:ゼオンの言葉に従い二人の参加者を殺す…又は誰かに助けを乞う。
1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。
2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。
3:メリュジーヌは絶対に手に入れて、足元に跪かせる。叶わないなら殺す。
4:ガムテからも逃げる。
5:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
6:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。
7:どんな方法でもわたしが願いを叶えて───。
[備考]
※少なくともマリィルート以外からの参戦です。
※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。
 形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。
※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。
※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。
※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。
※ブック・オブ・オブ・ジ・エンドの記憶干渉とルサルカ自身の自壊衝動の相互作用により、ブック・オブ・ジ・エンドを使った相手に対する記憶汚染と、強い執着が現れます。
※ブック・オブ・ジ・エンドの効果はブック・オブ・ジ・エンドを手放せば、斬られた対象と同じく数分間で解除されます。


【さとりヘルメット@ドラえもん】
絶望王に支給。
頭に被れば三十メートル以内にいる人間の心の声を聞く事ができる。
ただし乃亜の調整を受けており、心を聞く事ができる対象は一人だけ。
また対象が三十メートル以上距離を取るか、使用開始から一定時間経過で使用不能となる。
一度使用すれば六時間は連続不能。


【畑のレストラン@ドラえもん】
右天に支給。
食料品生産系のひみつ道具で、地面に植えると桜島大根のような巨大な大根になり。
大根の中にはそれぞれの食べ物が最適な状態で完成している。
付属の栄養剤を使用すれば、一時間から二時間程で食べられるまで成長する。
また、大根自体も結構美味しい。


109:束の間の休息 投下順に読む 111:竜虎相討つ!
103:割り切れないのなら、括弧で括って俺を足せ 時系列順に読む 104:僕は真ん中 どっち向けばいい?
081:悪鬼羅刹も手を叩く ゼオン・ベル 114:死嵐注意報
ジャック・ザ・リッパー
089:その涙の理由を変える者 輝村照(ガムテ)
079:空と君のあいだには ルサルカ・シュヴェーゲリン 121:INSANE

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